弁済の充当と受取証書
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第4章 債権総論 #179/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
3口の借金に5万円返したら、どれが減るのか
図:冒頭の関係図
- 借り手Aさんは、同じ貸主Bさんから3口借りている
- ①20万円・無利息・返す期限は来ている
- ②30万円・年10%の利息付き(利息は払い済み)・返す期限は来ている
- ③40万円・無利息・返す期限は来月末
- AさんはBさんに5万円だけ返した
- 問い=この5万円で、どの借金が減ったのか
今日は、その問いです。借り手がAさん、貸主がBさん。①は20万円で、無利息、返す期限はもう来ています。②は30万円で、年利10%の利息が付いていて、利息は払い済み、期限は来ています。③は40万円で、無利息、期限は来月末です。ここへAさんが5万円を渡しました。5万円は、①に回るのか、②に回るのか、③に回るのか。決めるのは、渡したAさんの気持ちか、受け取ったBさんの都合か、それとも法律の順番か。この問いは、最後に、数字で答えを出します。その前に、払うことそのものの周辺を片づけます。どこで払うのか。誰の費用で払うのか。払った証拠はどう残すのか。この3つを済ませてから、払ったお金の行き先、つまり充当に進みます。
弁済の場所と時間(484条)
図:484条
- 1項(既習)=場所について別段の意思表示がなければ、特定物の引渡しは債権発生の時にその物が存在した場所、その他の弁済は債権者の現在の住所→持参債務が原則
- 2項(今回)=法令または慣習で取引時間の定めがあるときは、その取引時間内に限り、弁済をし、または弁済の請求をすることができる
- 例=銀行の窓口の営業時間内
まず場所です。これは前に見ました。合意が無ければ、特定物の引渡しは債権が発生した時にその物があった場所、それ以外は債権者の現在の住所で払う。特定物は、その物でなければならない物です。動かせば手間も危険も増えるので、その物があった場所で渡すのが、当事者の普通の考えに合います。しかも特定物は、債権が生じたとき債務者の手元にあるのが普通なので、債権者が取りに来る取立債務になることが多いです。それ以外、たとえばお金は、受け取る債権者の住所へ持っていく。つまり、お金などは、債務者が持っていく持参債務が原則になります。ここまでは、思い出すだけで足ります。今日新しく入れるのは、時間です。484条2項です。
条文民法484条2項
民法第484条第2項 法令又は慣習により取引時間の定めがあるときは、その取引時間内に限り、弁済をし、又は弁済の請求をすることができる。
条文は、弁済をすることと、弁済の請求をすることの両方が、取引時間内に限られる、と言っています。典型は銀行です。窓口の営業時間が過ぎたあとに、窓口へ来て払うと言い張っても、受け取る側は応じなくてよい。同じように、営業時間の外に、今すぐ払ってほしいと請求することもできません。条文は、定めがあるときに、その時間内に限る、と言っているだけです。定めが無ければ、この制限は働きません。場所も時間も、まず当事者の合意や慣習、次にこの原則、と覚えてください。
弁済の費用(485条)
図:485条
- 弁済の費用について別段の意思表示がなければ、債務者の負担
- ただし、債権者が住所の移転その他の行為によって弁済の費用を増加させたときは、その増加額は債権者の負担
- 設例=小売チェーンが卸会社へ売掛金を振り込む手数料=小売チェーン負担
- 卸会社が本社を遠方へ移して、持参の運送費が増えた→増えた分=卸会社負担
次は、払うのにかかった費用です。たとえば、振込手数料、運送費、といったものです。
条文民法485条
民法第485条 弁済の費用について別段の意思表示がないときは、その費用は、債務者の負担とする。ただし、債権者が住所の移転その他の行為によって弁済の費用を増加させたときは、その増加額は、債権者の負担とする。
原則は、債務者の負担です。払う義務のある人が、払うためにかかる費用を持つ。これが筋です。小売チェーンが卸会社へ売掛金を振り込むなら、振込手数料は小売チェーンが負担します。ただし書が働くのは、債権者のほうが、費用を増やしたときです。持参債務を思い出してください。卸会社の住所へ持っていくのが原則でした。ところが、卸会社が、本社を遠方へ移してしまった。持参の運送費が増えます。増えたのは、債権者が自分の都合で動いたからです。だから、増えた分、つまり増加額だけは、債権者の卸会社が負担します。もとの運送費までは、債務者の負担のままです。弁済の提供の回で見た、受領遅滞で増えた費用とは別の条文です。あちらは、債権者が受け取らなかったせいで増えた費用、こちらは、債権者が住所を移すなどして、払う費用を増やした場合です。この条文も、別段の意思表示が優先です。費用は債権者が持つ、と契約で決めておけるのです。
弁済の証明① 受取証書の交付請求(486条)
図:486条
- 弁済をする者は、弁済と引換えに、弁済を受領する者に対して受取証書(領収書)の交付を請求できる(1項)
- 弁済と受取証書の交付は同時履行→領収書を渡さないなら、債務者は払いを拒める
- 趣旨=二重払いの防止
- 一部弁済でも請求できる
- 2項=受取証書に代えて、その内容を記録した電磁的記録の提供を請求できる(受領者に不相当な負担を課すときは除く)
ここから、払った証拠の話です。前回の、受領権者以外への弁済の回でも、受取証書を持って来た人が出てきました。今日は、払う側が、その受取証書をもらう話です。条文は2本です。1本めは、受取証書、つまり領収書です。
条文民法486条
民法第486条 弁済をする者は、弁済と引換えに、弁済を受領する者に対して受取証書の交付を請求することができる。 2 弁済をする者は、前項の受取証書の交付に代えて、その内容を記録した電磁的記録の提供を請求することができる。ただし、弁済を受領する者に不相当な負担を課するものであるときは、この限りでない。
1項の核心は、弁済と引換えに、です。払う人は、お金を渡すのと引換えに、領収書をよこせと請求できます。つまり、弁済と受取証書の交付は、同時履行の関係です。履行遅滞の要件の回で見た、同時履行の抗弁権と同じ形です。債権者が領収書を渡そうとしないなら、債務者は、払うのを拒めます。その間は、払わないことを責められません。たとえ話です。レジで会計をするとき、お金を払うのと同時にレシートを受け取りますね。あとで払った払っていないの争いになったとき、払ったことを示せるのは、そのレシートだけだからです。お金だけ渡して、レシートは後で、と言われたら、払ったことの証拠が、相手の手元にしかありません。二重に払わされるおそれが残ります。領収書は、二重払いを防ぐ、払った証拠そのものです。だから、払う瞬間に、引換えで要るのです。
条文は、弁済と書いていて、全部の弁済に限っていません。一部だけ払ったときも、払った分の証明が要ります。ですから、一部弁済でも、受取証書を請求できます。冒頭の5万円のときも、5万円を受け取りました、という領収書を求められるのです。2項は、2021年の改正で入った、電磁的記録の提供の規定です。紙の領収書に代えて、その内容を記録した電子データの提供を請求できます。ただし、受け取る側に、不相当な負担を課すときは除かれます。負担が重すぎる相手に、電子データでの対応を強いることはできない、という調整です。
弁済の証明② 債権証書の返還請求(487条)
図:487条
- 債権に関する証書(借用証書など)がある場合に、弁済をした者が全部の弁済をしたときは、その証書の返還を請求できる
- 弁済が先・返還が後=同時履行ではない
- 受取証書と債権証書の比較表へ
2本めは、債権証書です。債権証書とは、債権の成立を証明する書面です。典型は、借用証書です。
条文民法487条
民法第487条 債権に関する証書がある場合において、弁済をした者が全部の弁済をしたときは、その証書の返還を請求することができる。
条文には、引換えにという言葉がありません。全部の弁済をしたとき、つまり払い終えたあとに、返せと請求できます。弁済が先、返還が後です。同時履行ではありません。問いです。領収書は、払うのと引換えなのに、借用証書は、なぜ後でいいのでしょうか?借用証書が戻ってこなくても、領収書を持っていれば、債務者は二重に払わずに済みます。それなのに、借用証書が戻るまで払わない、と言って払いを拒めるとしたら、不当です。債権者が、証書を紛失していた場合まで、払えなくなってしまいます。もう1つ、全部、という言葉も大事です。一部しか払っていなければ、債権はまだ残っています。債権が残っているなら、その成立の証拠の借用証書は、債権者が持ち続けるのが自然です。債権が全部消えて、はじめて、借用証書は用済みになり、返す番になります。
図:受取証書と債権証書の比較表
- 受取証書=払った事実の証拠(領収書)/払うとき、弁済と引換えに請求/一部弁済でも請求できる/同時履行である/理由=払った瞬間に二重払いを防ぐ証拠が要る
- 債権証書=債権の成立の証拠(借用証書など)/全部の弁済をしたあとに請求/一部弁済では請求できない(債権が残っているから)/同時履行ではない/理由=領収書があれば足り、債権が全部消えてはじめて用済み
- 軸=払った証拠が今すぐ要るか・債権がまだ残っているか
2つを、表で並べます。何の書面かが、違います。受取証書は、払ったことの証拠です。債権証書は、債権が成立したことの証拠です。いつ請求できるかも、違います。受取証書は、払うときに引換えで、一部弁済でも請求できます。債権証書は、全部払ったあとで、一部弁済では請求できません。分ける軸は、2本です。払った証拠が、今すぐ要るかどうか。債権が、まだ残っているかどうか。領収書は、払った証拠が今すぐ要るから、引換え。借用証書は、債権が全部消えるまで必要なので、全部払ったあとです。理由と一緒に言い分けられれば、短答はもちろん、論文でも、使えます。
弁済の充当とは

- 弁済の充当=給付が債務の全部を消滅させるのに足りないとき、どの債務に充てるか
- 2つの型
- (a)同じ債権者に対する数個の債務=冒頭の3口
- (b)1個の債務の元本・利息・費用=例=元本50万円・未払利息3万円・費用1万円
- なぜ問題か=どれが消えるかで、残る利息・担保・遅滞の責任が変わる
ここから、後半の本題です。弁済の充当とは、渡した給付が、債務の全部を消すのに足りないときに、どの債務へ充てるかを決める話です。場面は2つあります。1つめは、冒頭の3口のように、同じ債権者に対して、数個の債務があるとき。2つめは、1つの債務の中に、元本のほかに、利息や費用もあるときです。たとえば、元本50万円、未払いの利息が3万円、費用が1万円。払った額が、この全部に足りないなら、どこへ回すのか、という問題です。どれに回っても同じ、とはいきません。消える借金によって、あとに残るものが変わります。利息の付いた借金が消えたなら、以後、利息は増えません。無利息のほうが消えたなら、利息の付く借金が残り、利息が積み上がっていきます。担保も同じです。家に抵当権を付けた借金が消えれば、家の担保が外れます。無担保の借金が消えても、家の担保は付いたままです。返す期限が来ている借金を残せば、遅れの責任が続きます。どれが残るかで、債務者の立場は、大きく変わります。
図:充当の順序の予告
- ①合意=合意があれば、それに従う(490条)→②元本・利息・費用が数ある場合=費用→利息→元本の順(489条)→③指定=弁済者が先、受領者は後(488条1項〜3項)→④法定=弁済期・弁済の利益・弁済期の先後・按分(488条4項)
- 上から1つずつ当てる
先に、順序を見せます。上から、1つずつ当てていきます。1番上が、当事者の合意です。次に、元本・利息・費用があれば、費用、利息、元本の順。利息も費用も残っていなくて、数個の借金のどれに充てるかだけが問題なら、弁済者の指定、次に受領者の指定。指定がなければ、法律が決める基準で決まります。この順に、1つずつ見ます。
合意による充当(490条)
図:490条
- 前二条(488条・489条)の規定にかかわらず、弁済をする者と弁済を受領する者との間に弁済の充当の順序に関する合意があるときは、その順序に従う
- 合意が最優先・任意規定
- 例=「この返済は先に②へ」と貸主と借り手が決めて渡した
1番上は、合意です。
条文民法490条
民法第490条 前二条の規定にかかわらず、弁済をする者と弁済を受領する者との間に弁済の充当の順序に関する合意があるときは、その順序に従い、その弁済を充当する。
前二条、つまり488条と489条にかかわらず、と書いてあります。当事者の合意は、488条と489条のどちらよりも、先に働きます。冒頭の例なら、BさんとAさんが、この5万円は②へ回す、と決めて渡したなら、その合意どおりです。ここは任意規定、つまり、当事者が決めなければ条文が使われるだけの規定、という位置づけです。
元本・利息・費用があるとき(489条)
図:489条1項
- 債務者が1個または数個の債務について元本のほか利息・費用を支払うべき場合(数個の債務の場合は、同一の債権者に対して同種の給付を目的とする数個の債務を負担するときに限る)で、弁済者が全部を消滅させるのに足りない給付をしたときは、費用→利息→元本の順に充当しなければならない
- 488条1項は「次条第一項に規定する場合を除く」=489条が指定充当に優先する
前に見た判例を、思い出す問いです。利息制限法の上限を超えて払った分は、どこに回ったのでしょうか?超えた部分は無効なので、残っている元本の返済に回る、という判決でした。利息の上限を超えた払いは、元本に充当される。これは、金銭債務の回で見た最高裁の判例です。超えた部分は、そもそも有効な利息ではないので、利息に充てる先が無く、元本へ回る、という理屈でした。今の条文でいえば、これから見る489条の話です。さて、その充当先の決め方が、今日の本題です。
条文民法489条
民法第489条 債務者が一個又は数個の債務について元本のほか利息及び費用を支払うべき場合(債務者が数個の債務を負担する場合にあっては、同一の債権者に対して同種の給付を目的とする数個の債務を負担するときに限る。)において、弁済をする者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をしたときは、これを順次に費用、利息及び元本に充当しなければならない。 2 前条の規定は、前項の場合において、費用、利息又は元本のいずれかの全てを消滅させるのに足りない給付をしたときについて準用する。
1項の中身は、費用、利息、元本の順に充てなければならない、です。条文は、しなければならない、と書いています。弁済者が、元本のほうへ先に回したい、と言っても、できません。
図:489条の設例
- 貸金の元本50万円・未払いの利息3万円・費用1万円(収入印紙代)
- 5万円を払った→費用1万円・利息3万円・元本1万円の順に充当→元本は49万円残る
- 元本だけを先に減らす指定はできない(合意なら別=490条)
設例です。貸金の元本が50万円、未払いの利息が3万円、費用が1万円。ここへ5万円を払いました。全部で54万円なので、足りません。費用の1万円、利息の3万円、元本の1万円の順に充てます。元本は49万円残ります。元本だけを減らしたい、という指定は、通りません。元本が先に減ると、利息を生む元のお金が減ります。もし払う側が、元本だけを先に減らす指定ができたら、債権者は、本来受け取れたはずの利息を、失います。費用と利息を先に済ませれば、元本が残り、そこに利息が付き続けます。債権者の利益を守るために、条文が、費用、利息、元本の順に固定しているのです。条文の、カッコの中も大事です。数個の債務がある場合は、同一の債権者に対して、同種の給付を目的とする債務に限ります。同種の給付とは、たとえば、どれもお金を払う債務、という意味です。別々の貸主に払うなら、受け取った貸主の借金に充てるだけなので、どれに充てるかという問題が、そもそも起きません。このあと見る488条1項には、次条第一項に規定する場合を除く、というカッコ書きがあります。これも、ここにつながります。489条の場面では、488条の指定の規定を使わず、489条が優先する、という意味です。ただし、490条の合意があるなら、合意が489条にも優先します。489条の順序は、債権者を守るためのものです。その債権者自身が、別の順序でよいと合意したなら、守る理由が無いからです。
2項は、グループの中の話です。たとえば、同じ貸主の2口の借金に、それぞれ未払いの利息があります。利息が3万円と2万円です。ここに4万円を払いました。利息の全部、5万円を消すには、足りません。このとき、費用、利息、元本という順序には従いつつ、利息のグループの中で、どちらの利息に回すか、には、488条の規定を準用します。準用とは、別の場面の規定を、この場面に当てはめて使うことです。488条の決め方は、このあと順に見ます。結論だけ先に言うと、どちらも指定せず、条件がすべて等しければ、額に応じて、2万4千円と、残りの1万6千円に分けます。
指定充当(488条1項〜3項)
図:488条1項〜3項
- 同一の債権者に対して同種の給付を目的とする数個の債務を負担する場合(489条の場合を除く)で、給付が全部の債務を消滅させるのに足りないとき=1項 弁済をする者が、給付の時に、指定できる
- 2項 弁済者が指定しなければ、受領する者が、受領の時に指定できる
- 弁済者が直ちに異議を述べれば、受領者の指定は効力を失う
- 3項 指定は相手方に対する意思表示でする
合意が無く、489条の場面でもないときは、数個の債務の間で、指定充当に進みます。
条文民法488条1項〜3項
民法第488条第1項〜第3項 債務者が同一の債権者に対して同種の給付を目的とする数個の債務を負担する場合において、弁済として提供した給付が全ての債務を消滅させるのに足りないとき(次条第一項に規定する場合を除く。)は、弁済をする者は、給付の時に、その弁済を充当すべき債務を指定することができる。 2 弁済をする者が前項の規定による指定をしないときは、弁済を受領する者は、その受領の時に、その弁済を充当すべき債務を指定することができる。ただし、弁済をする者がその充当に対して直ちに異議を述べたときは、この限りでない。 3 前二項の場合における弁済の充当の指定は、相手方に対する意思表示によってする。
順序は、弁済者が先、受領者が後です。弁済者が、給付の時に指定できます。弁済者が指定しなかったときに限って、受領者が、受領の時に指定できます。ただし、弁済者が、直ちに異議を述べれば、受領者の指定は効力を失います。弁済者が先なのは、どの借金を消すかで、あとに残る利息や期限の重さを背負うのは、払う側だからです。冒頭のAさんなら、利息の付いた②を先に消したい、と考えるかもしれません。その選択を、まず払う本人に任せる。受領者が指定できるのは、弁済者が何も言わなかったときの、穴埋めです。だから、弁済者が異議を述べれば、受領者の指定は退きます。
それでも、受領者の指定には意味があります。弁済者が何も言わないまま、どの借金が減ったのか決まらないと、後で争いになります。そこで、受け取る側が決めて、その場で弁済者に伝える。弁済者が、直ちに異議を述べなければ、受領者の指定が通ります。異議が、直ちに、に限られているのも、充当先を早く確定させるためです。指定は、相手方に対する意思表示でする、と3項にあります。弁済者の指定は受領者へ、受領者の指定は弁済者へ、意思を伝えて行います。時点を、言葉で押さえます。弁済者は給付の時、受領者は受領の時、異議は直ちに、です。受領者の指定に異議が出たら、その指定は無かったことになり、指定の無い場合として、次の、法定充当へ進みます。
法定充当(488条4項)と順序のフローチャート
図:488条4項
- 弁済者も受領者も指定しないとき、次の号の順に充当する
- 1号=弁済期にあるものと弁済期にないものがあるときは、弁済期にあるものに先に
- 2号=全部が弁済期にあるとき、または全部が弁済期にないときは、債務者のために弁済の利益が多いものに先に
- 3号=弁済の利益が相等しいときは、弁済期が先に到来したもの、または先に到来すべきものに先に
- 4号=前二号に掲げる事項が相等しい債務は、各債務の額に応じて
指定が無いとき、法律が決める基準が、488条4項です。
条文民法488条4項
民法第488条第4項 弁済をする者及び弁済を受領する者がいずれも第一項又は第二項の規定による指定をしないときは、次の各号の定めるところに従い、その弁済を充当する。 一 債務の中に弁済期にあるものと弁済期にないものとがあるときは、弁済期にあるものに先に充当する。 二 全ての債務が弁済期にあるとき、又は弁済期にないときは、債務者のために弁済の利益が多いものに先に充当する。 三 債務者のために弁済の利益が相等しいときは、弁済期が先に到来したもの又は先に到来すべきものに先に充当する。 四 前二号に掲げる事項が相等しい債務の弁済は、各債務の額に応じて充当する。
上から、1号、2号、3号、4号と、順に1つずつ当てます。1号。弁済期にあるものと、ないものがあるなら、弁済期にあるものが先です。期限が来ている借金から減らす。期限が来ていない借金は、まだ払う義務が生じていません。義務のあるほうが先です。2号。全部が弁済期にある、または全部が弁済期にないときは、債務者のために、弁済の利益が多いものが先です。債務者にとって、先に消えたほうが得な借金、という意味です。たとえば、利息の付いた借金は、無利息の借金より、先に消えたほうが、利息が増えないので得です。利率が高いほうが、低いほうより、得です。担保が付いている借金は、先に消すと担保が外れるので、利益が大きいと見られることがありますが、これは事案ごとの判断で、いつもそうとは限りません。物差しは1つです。債務者が、どれを先に消せば、あとの負担が一番軽くなるか。利息の有無と利率は、この物差しで差がはっきり出るので、まずそこを見ます。3号。弁済の利益が等しいなら、弁済期が先に来たもの、または先に来るはずのものが先です。4号。それも等しければ、各債務の額に応じて、割って充てます。按分です。立ち止まります。指定も合意もなくて、期限の前の借金と、期限の後の借金があるとき、どちらに先に充てるでしょうか?
1号で、期限が来ているほうです。1号で決まれば、2号以降には進みません。上から順に、決まったところで終わりです。
図:充当の順序フローチャート
- ①合意があるか→あれば、その合意に従う(490条)
- なければ↓ ②元本のほか利息・費用があるか→あれば、費用→利息→元本(489条)
- なければ↓ ③弁済者が給付の時に指定したか→したら、その指定(488条1項)
- しなければ↓ ④受領者が受領の時に指定し、弁済者が直ちに異議を述べなかったか→そうなら、その指定(同2項)
- 異議があれば指定は効力を失う
- なければ↓ ⑤法定充当(488条4項)=1号 弁済期にあるものが先→2号 弁済の利益が多いものが先→3号 弁済期が先に到来したものが先→4号 額に応じて按分
全体を、フローチャートにします。1つめの関門は、合意があるかどうか。あれば、それです。なければ、2つめ。元本のほかに、利息や費用があるか。あれば、費用、利息、元本の順です。それにも当てはまらないとき、3つめ、弁済者が指定したか。指定したら、それです。4つめ、受領者が指定して、弁済者が直ちに異議を述べなかったか。そうなら、その指定です。どれにも当てはまらなければ、最後に、488条4項の、1号から4号です。上から順に、決まったところで終わり。この読み方が、設例を解くときの、手順そのものです。
冒頭の答えと、1個の債務の数個の給付(491条)
図:冒頭の答え
- 借り手Aさんが貸主Bさんに5万円
- ①20万円(無利息・期限到来)②30万円(年10%・期限到来)③40万円(無利息・期限は来月末)
- 【指定あり】Aさんが給付の時に「②へ」と指定→②が25万円に
- 【指定なし】Bさんが受領時に「①へ」と指定→Aさんが直ちに異議→指定は効力を失う→法定充当=1号
- ③は期限前なので後回し→2号
- ①②とも到来済みで、利息付きの②のほうが弁済の利益が多い→②が25万円
- 異議を述べなければ①が15万円
冒頭の答えを出します。数字は、同じです。①は20万円で無利息、期限が来ている。②は30万円で年利10%の利息付き、期限が来ている。③は40万円で無利息、期限は来月末。5万円を、Aさんが渡しました。合意は無かったとします。期限は今日来たところで、遅れの損害金はまだ生じていない、とします。まず、指定がある場合です。Aさんが、渡すときに、②へ、と言いました。これが1項の指定です。合意は無く、利息は払い済みで、遅れの損害金も無いので、489条の場面でもありません。ですから、Aさんの指定が通り、②が25万円になります。次に、指定が無い場合です。Aさんは何も言わずに渡しました。受け取ったBさんが、受け取るときに、①へ、と言いました。これが2項の、受領者の指定です。ここで、Aさんが、直ちに異議を述べれば、Bさんの指定は効力を失います。異議を述べなければ、Bさんの指定が通り、①が15万円になります。Aさんが異議を述べたとします。法定充当です。1号。③は期限が来月末で、まだ来ていないので、後回しです。①と②は、期限が来ています。2号。①と②は、全部が弁済期にあるので、弁済の利益が多いほうを選びます。②は利息が付いている。①は無利息です。Aさんにとって、先に消えたほうが得なのは、②です。よって、②へ回り、②が25万円になります。
Aさんの指定が通れば②、Bさんの指定が通れば①、どちらも指定しなければ、法律の基準で②です。指定が有るか無いかで、5万円の行き先が変わります。これが、指定の意味です。当事者が決めればそれが先、決めていなければ条文が決める。最初に置いた軸が、そのまま答えになりました。
図:491条
- 一個の債務の弁済として数個の給付をすべき場合に、弁済者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をしたときは、前三条(488条・489条・490条)の規定を準用する
- 例=1個の代金債務の分割払い
最後に、491条です。射程だけ見ます。
条文民法491条
民法第491条 一個の債務の弁済として数個の給付をすべき場合において、弁済をする者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をしたときは、前三条の規定を準用する。
数個の債務ではなく、1個の債務を、数回に分けて払う場面です。たとえば、30万円の代金を、毎月10万円ずつ、3回で払う約束です。利息は付いていません。遅れの損害金は、考えないことにします。1回目と2回目を払えないまま、15万円だけ払いました。1回目に充てるのか、2回目に充てるのか。ここで、488条から490条の充当の規定を準用します。合意も指定も無ければ、法定充当です。3回目は、期限前なので後回しです。1回目と2回目は、弁済の利益が同じなので、3号で、期限が先に来た1回目へ10万円、残りの5万円が2回目へ回ります。
図:まとめ
- 場所=合意がなければ持参・取引時間内(484条)
- 費用=債務者負担・債権者が増やした分は債権者(485条)
- 受取証書=弁済と引換え・一部弁済でも請求可(486条)
- 債権証書=全部弁済のあと・同時履行ではない(487条)
- 充当の順序=合意(490条)→費用・利息・元本(489条)→指定(弁済者が先・受領者は後・直ちに異議)→法定(1弁済期・2弁済の利益・3弁済期の先後・4按分)
整理します。1つめ。弁済の場所と時間は、合意や慣習が先です。なければ、原則は持参で、取引時間内に限られます。費用は、債務者の負担で、債権者が増やした分だけ、債権者の負担です。2つめ。領収書、受取証書は、弁済と引換えに請求でき、一部弁済でも請求できます。払った証拠が今すぐ要るからです。借用証書、債権証書は、全部の弁済のあとに返してもらいます。債権が残っているあいだは、債権者が持つからです。3つめ。充当は、合意が最優先です。次に、元本のほかに利息や費用があるなら、費用、利息、元本の順です。この順序は、弁済者の指定では動かせません。4つめ。指定は、弁済者が給付の時に先、受領者は受領の時に後で、弁済者が直ちに異議を述べれば、受領者の指定は効力を失います。指定が無ければ、法定充当で、弁済期があるもの、弁済の利益が多いもの、弁済期が先のもの、額に応じて、の順です。
充当の順序を、設例に当てはめて答案に書くことは、論文で論点になりうる部分です。
参照条文
- 民法484条2項
- 民法485条
- 民法486条
- 民法487条
- 民法490条
- 民法489条
- 民法488条1項〜3項
- 民法488条4項
- 民法491条