代位者相互の関係(第三取得者)
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第4章 債権総論 #181/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
先に払った方が勝ちなのか
図:冒頭の関係図
- 借主は銀行から住宅ローンの残り2100万円を借りていて、借主の家(評価3000万円)には銀行の抵当権が付いている
- 借主の友人が保証人になっている
- 借主はその家を、ある人に売ってしまった
- 借主が払えなくなった
- 問い=保証人が先に銀行へ払ったら、家を買った人にいくら請求できるか
- 逆に、家を買った人が先に払ったら、保証人にいくら請求できるか
今日は、その問いです。先に答えを言います。保証人が先に払えば、家を買った人に対して、2100万円の全額を、銀行に代わって家の抵当権で取りにいけます。ところが、家を買った人が先に払った場合は、保証人には、一円も請求できません。向きが、最初から決まっているのです。前回、払った人が手にするものを見ました。そして、代位する人が複数いるときの順序は別の回、と残しておきました。今日が、その回です。なぜ向きが決まっているのか。決まっていないと、何が困るのか。そこから、ほどいていきます。
早い者勝ちになってしまう
図:問題の所在
- 設例=借主の借金2100万円・家3000万円(銀行の抵当権・他に担保なし)・家を買った人と保証人
- ①保証人が先に2100万円払う→原債権と抵当権を取得→家を競売して2100万円回収・家を買った人は家を失う(手元に戻るのは残り900万円)
- ②家を買った人が先に2100万円払う→501条1項2項だけなら保証債権も使える→保証人から2100万円回収
- 同じ設例で、払う順番だけで結論が逆
前提を、1文で思い出します。払った人は、債権者が持っていた債権と担保を、求償権の範囲内で使えます。501条の1項と2項です。この2つの項だけで、冒頭の設例を考えます。借主の借金が2100万円。家の評価は3000万円で、銀行の抵当権のほかに、担保は付いていません。まず、保証人が先に2100万円を払います。保証人は、銀行の債権と、家の抵当権を手にします。家を競売にかけて、2100万円を取れます。家を買った人は、家を失います。競売代金3000万円のうち、手元に戻るのは、残りの900万円だけです。次に、順番を逆にします。家を買った人が、家を守るために、先に2100万円を払います。この人も、払った人です。銀行の債権と担保を、手にします。担保には、保証人の保証債務も、含まれます。保証は、人を担保に取る、人的担保だからです。1項と2項だけを読めば、保証人から、2100万円を取れてしまうのです。
払う順番だけで、負担する人が入れ替わります。法律が、先に払った人に有利な早い者勝ちを、放置するのは、公平ではありません。もう1つ、予告です。担保の付いた倉庫を、2人が1つずつ買った場合も、同じです。先に払った方が、もう一方の倉庫の抵当権を全部使えば、先に払った方は損をせず、後の方だけが損をします。数字は、あとで出します。そこで、501条3項が、誰が誰に、どこまで代位できるかを、払う順番と関係なく、決めました。
第三取得者とは誰か
図:第三取得者の意義
- 501条3項1号かっこ書=債務者から担保の目的となっている財産を譲り受けた者
- 例=借主から家を買った人・B小売チェーンから倉庫を買った人→第三取得者
- 境界=物上保証人から担保付きの土地を買った人→5号により物上保証人とみなす
- 第三取得者から買った人→第三取得者とみなす
- 担保の目的は不動産に限らず財産
条文に入る前に、言葉を整えます。さっきから、家を買った人、と呼んできた人です。条文では、第三取得者と呼びます。抵当権の回では、抵当権の付いた物を買った人、として出てきました。ただ、501条3項の第三取得者は、それより狭い言葉です。1号のかっこ書が、定義しています。債務者から、担保の目的となっている財産を譲り受けた者、と書いてあります。大事なのは、債務者から、という限定です。冒頭の設例なら、借主から家を買った人は、第三取得者です。会社の設例では、B小売チェーンから倉庫を買った人です。ちなみに、条文は、財産と書いていて、不動産に限りません。動産でも同じです。
抵当権の付いた物を買った人が、みな第三取得者になるわけではありません。そこが、この条文の落とし穴です。5号を読みます。
条文民法501条3項5号
民法第501条第3項第5号 五 第三取得者から担保の目的となっている財産を譲り受けた者は、第三取得者とみなして第一号及び第二号の規定を適用し、物上保証人から担保の目的となっている財産を譲り受けた者は、物上保証人とみなして第一号、第三号及び前号の規定を適用する。
前半は、第三取得者から、さらに買った人は、やはり第三取得者として扱う、という意味です。後半が、落とし穴です。物上保証人とは、他人の借金のために、自分の物を担保に出す人です。共同抵当の2回めにも出てきました。物上保証人から担保の付いた財産を買った人は、物上保証人とみなされます。第三取得者ではありません。日常の言葉では、財産を買った人ですが、この条文の言葉では、物上保証人です。最後の前号というのは、4号のことです。保証人と物上保証人の間を決める組合せで、中身は別の回で扱います。境界のペアで、確認します。債務者のB小売チェーンから、倉庫を買った人は、第三取得者です。B以外の人が、自分の土地を担保に出していて、その土地を買った人は、物上保証人とみなされます。同じ、担保の付いた物を買った人なのに、扱いが分かれます。
軸に戻ります。最終的に借金を負担すべきなのは、債務者です。債務者から買った人は、債務者の負担を、そのまま引き継いだ立場、債務者の延長線上にいます。一方、物上保証人から買った人は、自分の物を担保に出すだけ、という物上保証人の負担を引き継いだだけで、債務者の立場にはいません。だから、物上保証人と同じに扱うのです。
第三取得者は代位しない、逆は全額
図:1号
- 第三取得者は保証人・物上保証人に対して債権者に代位しない
- 保証人・物上保証人が弁済したときは第三取得者に対して全額代位できる(条文に明文なし・1号の反対解釈)
- 設例=借主の家を買った人と保証人
- 保証人が先に払う→家を買った人に2100万円全額・買った人が先に払う→保証人に代位しない
- 理由=第三取得者は債務者と同視される・負担を知って取得・代価弁済と抵当権消滅請求の道がある
立ち止まって、抵当権の回を思い出します。抵当権の付いた家を買った人には、買った人を守る道が、いくつか用意されていました。どんな道だったでしょうか?代価弁済と、抵当権消滅請求です。抵当権者にお金を払って、抵当権を消してもらう道でした。覚えていてください。それが、これから話す結論の、理由の1つになります。では、1号です。
条文民法501条3項1号
民法第501条第3項第1号 3 第一項の場合には、前項の規定によるほか、次に掲げるところによる。 一 第三取得者(債務者から担保の目的となっている財産を譲り受けた者をいう。以下この項において同じ。)は、保証人及び物上保証人に対して債権者に代位しない。
書いてあるのは、1つの向きだけです。第三取得者は、保証人と物上保証人に対して、債権者に代位しない。第三取得者が払っても、保証人の保証債務も、物上保証人の土地の抵当権も、第三取得者には移りません。逆の向き、保証人や物上保証人が払ったときに、第三取得者に代位できるかは、条文には書いてありません。1号の反対解釈で、全額代位できる、とされています。答案では、1号の反対解釈、と書く場面です。当てはめます。保証人が先に2100万円を払えば、家を買った人に対して、全額の2100万円を、銀行の抵当権で取りにいけます。ここで、質問です。家を買った人が先に払ったら、保証人に請求できるでしょうか。理由も、言ってみてください。
家を買った人は、保証人に代位できません。理由は、2つあります。1つめ。第三取得者は、債務者と同視される立場です。債務者が自分の借金を払って、保証人に、あなたも持って、とは言えないのと同じです。2つめは、第三取得者は、家に抵当権が付いていることを、登記で知ることができた上で、買ったということです。負担を織り込んで値段を決められますし、さっきの代価弁済や抵当権消滅請求という、守りの道もありました。保証人や物上保証人は、担保の付いた物を買った人ではないので、こうした守りの道を持ちません。家を買った人が払った分は、借主との間で片づける話で、保証人や物上保証人には回せません。物上保証人でも、同じです。設例を少し変えて、借主の借金のために、自分の土地を担保に出した人もいたとします。この人が先に払えば、家を買った人に、全額代位できます。家を買った人が先に払っても、この人の土地には、代位しません。前回、付記登記、つまり登記に代位の事実を書き足す登記が要る、という改正前の規定が削られた、と見ました。だから、いまは、登記に何も書き足さなくても、保証人は、第三取得者に全額代位できます。結論に効く変更です。ここは、論文で論点になりうる部分です。
第三取得者どうしは価格で割る
図:2号の計算
- 設例=A卸会社の代金債権2100万円
- B小売チェーンの倉庫2棟(他に担保なし)に、それぞれAの抵当権
- 倉庫甲=評価3000万円(買った人1)・倉庫乙=評価1500万円(買った人2)
- 買った人1が先に2100万円払う→買った人2に700万円代位(2100×1500÷4500)・買った人1の負担1400万円
- 買った人2が先に払う→買った人1に1400万円代位(2100×3000÷4500)・買った人2の負担700万円
- 誰が先でも負担は1400万円と700万円
次は、第三取得者が複数いる場合です。2号を読みます。
条文民法501条3項2号
民法第501条第3項第2号 二 第三取得者の一人は、各財産の価格に応じて、他の第三取得者に対して債権者に代位する。
各財産の価格に応じて、割ります。自分の分も負担して、残りを、他の第三取得者に割り付ける、という意味です。全額は取れません。会社の設例で、数字を入れます。A卸会社の代金債権、2100万円。B小売チェーンの倉庫が2つあって、それぞれにAの抵当権が付いています。ほかの担保は、付いていないとします。倉庫甲は評価3000万円で、買った人1が買いました。倉庫乙は評価1500万円で、買った人2が買いました。買った人1が、先に2100万円を払いました。買った人2に代位できるのは、いくらでしょうか。2100万円を、倉庫の価格の比で割ります。
2100万円に、乙の1500万円を掛けて、両方の合計4500万円で割ると、700万円です。買った人1の負担は、1400万円で、足すと2100万円で合います。では、買った人2が、先に払ったら。買った人1に代位できる額は、2100万円に3000万円を掛けて、4500万円で割った、1400万円です。買った人2の負担は、700万円。つまり、誰が先に払っても、負担は、買った人1が1400万円、買った人2が700万円で、変わりません。501条1項と2項だけの場合と、比べます。買った人1が先に払って、乙の抵当権を全部使えば、この抵当権は2100万円を担保していたので、乙の評価額1500万円を、丸ごと持っていけます。買った人2は、全部失います。逆に、買った人2が先に払って、甲の抵当権を使えば、買った人2の負担はなく、買った人1が、2100万円を失います。負担が、払う順番で決まってしまいます。2号は、この早い者勝ちを、価格の比で消しているのです。
どちらの倉庫も、同じ借金を支える担保で、2人は同じ立場です。どちらかを前に回す理由がありません。違うのは、どれだけの価値で借金を支えているかだけです。だから、価値の大きい倉庫を買った人ほど、多く負担します。割り勘で、持ち分に応じて払うのと、同じ考え方です。この設例のように、他の担保が付いていないなら、評価額で割る、と覚えてください。
物上保証人どうしと、5号の当てはめ
図:3号と5号の当てはめ
- 3号=2号の準用
- 設例=A卸会社の債権2000万円
- 物上保証人1(土地甲・評価3000万円)と物上保証人2(土地乙・評価2000万円)が、それぞれBの債務のために抵当権を付けている(他に担保なし)
- 物上保証人1が先に2000万円払う→物上保証人2に800万円代位(2000×2000÷5000)・物上保証人1の負担1200万円
- 5号=土地乙を買った人は物上保証人とみなされる→債務者Bから倉庫を買った人(第三取得者)が先に払っても土地乙を買った人には代位しない(1号)・土地乙を買った人が先に払えば第三取得者に全額代位(反対解釈)・物上保証人1とは価格で割る(3号)
物上保証人が、複数いる場合です。3号を読みます。
条文民法501条3項3号
民法第501条第3項第3号 三 前号の規定は、物上保証人の一人が他の物上保証人に対して債権者に代位する場合について準用する。
前号の規定、つまり2号を、準用しています。物上保証人の一人が、他の物上保証人に代位するときも、各財産の価格に応じて、割ります。数字で見ます。A卸会社の債権が、2000万円です。物上保証人1が、土地甲を、評価3000万円で担保に出しています。物上保証人2が、土地乙を、評価2000万円で担保に出しています。ほかの担保は、ありません。物上保証人1が、2000万円を払いました。物上保証人2に代位できるのは、2000万円に、乙の2000万円を掛けて、合計5000万円で割った、800万円です。物上保証人1の負担は、1200万円で、足して2000万円です。物上保証人2が先に払ったとしても、物上保証人1に、1200万円、代位できます。順番で変わりません。
5号は、物上保証人どうしの場面で効いてきます。物上保証人2の土地乙を、買った人がいたとします。5号により、この人は、物上保証人とみなされます。ここで、数字の設例を少し離れて、債務者のB小売チェーンから、担保の付いた倉庫を買った人、つまり第三取得者もいたとします。すると、3つのことが言えます。1つめ。倉庫を買った人が先に払っても、土地乙を買った人には代位しません。1号です。2つめ。土地乙を買った人が先に払えば、倉庫を買った人に、全額代位できます。1号の反対解釈です。3つめ。土地乙を買った人と、物上保証人1の間は、価格に応じて割ります。3号です。
組合せの一覧
図:5つの組合せ
- ①保証人と第三取得者=保証人から第三取得者へ全額代位・第三取得者から保証人へは代位なし(1号)②物上保証人と第三取得者=同じ向き(1号)③第三取得者どうし=各財産の価格に応じて(2号)④物上保証人どうし=各財産の価格に応じて(3号)⑤保証人と物上保証人=次の回
- 軸=債務者に近い人ほど後ろに回る
ここで、組合せを、1枚にします。保証人と第三取得者。これは、保証人から第三取得者へ全額、逆はなし。1号です。物上保証人と第三取得者も、同じ向きです。第三取得者どうしは、価格に応じて、2号です。物上保証人が複数のときも、価格に応じて、3号です。5つめの、保証人と物上保証人は、次の回で扱います。債務者に近い人ほど、後ろに回ります。最終的に借金を負担するのは、債務者だからです。第三取得者は、債務者の延長線上にいるので、いちばん後ろに回る。誰が前に出るかの向きは、1本の軸で、全部説明できます。
冒頭の答えとまとめ
図:冒頭の答え
- 保証人が先に2100万円を払う→家を買った人に全額2100万円代位(1号の反対解釈)
- 家を買った人が先に払う→保証人には代位しない(1号)
- まとめ=①501条3項は早い者勝ちを防ぐ②第三取得者=債務者から譲り受けた者・物上保証人から譲り受けた者は物上保証人とみなす(5号)③第三取得者は保証人・物上保証人に代位しない・逆は全額代位④第三取得者どうし・物上保証人どうしは各財産の価格に応じて(2号・3号)
- 保証人と物上保証人の間は次の回
冒頭の答えです。保証人が先に払えば、家を買った人に、2100万円の全額を、代位できます。家を買った人が先に払っても、保証人には、代位できません。払う順番で結論が逆にならないよう、501条3項が、向きと割合を決めているのです。整理します。1つめ。501条3項は、早い者勝ちを防ぎます。向きは、最終的に借金を負担すべき債務者に、近い人ほど、後ろに回します。同じ立場の人どうしは、価格に応じて割ります。2つめ。第三取得者は、債務者から、担保の付いた財産を買った人です。物上保証人から買った人は、物上保証人とみなされます。3つめ。第三取得者は、保証人と物上保証人に、代位しません。逆に、保証人と物上保証人は、第三取得者に、全額代位できます。条文に書いてあるのは前半で、後半は、1号の反対解釈です。4つめ。第三取得者どうし、物上保証人どうしは、各財産の価格に応じて割ります。
残っている組合せは、次の回で扱います。
参照条文
- 民法501条3項5号
- 民法501条3項1号
- 民法501条3項2号
- 民法501条3項3号