代位者相互の関係(保証人と物上保証人)・担保保存義務
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第4章 債権総論 #182/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
保証人2人と物上保証人1人
図:冒頭の関係図
- 借主は銀行から1200万円を借りていて、借主の家には銀行の抵当権が付いている
- 借主の友人2人(保証人1・保証人2)が保証人になっている
- もう1人、借主のために自分の土地(評価800万円・他に担保なし)を担保に出した人(物上保証人1)がいる
- 誰かが1200万円を全額払ったとき、最終的に誰がいくら負担するか
今日は、その問いです。先に答えを言います。3人で、400万円ずつです。しかも、物上保証人の土地が800万円でも、5000万円でも、この割合は変わりません。土地の値段は、関係しないのです。前回は、代位する人どうしの組合せのうち、第三取得者が絡むものを見ました。一覧の5つめに、保証人と物上保証人の組合せが残っていました。今日は、その組合せから始めます。そのあと、代位する人を守るための仕組みとして、債権者に課される義務を見ていきます。
保証人と物上保証人は頭数で割る
図:4号本文の計算
- 設例=借主の借金1200万円・保証人1・保証人2・物上保証人1(土地の評価800万円・他に担保なし)
- 人数は3人→1200万円÷3=400万円ずつ
- 物上保証人の土地が800万円でも5000万円でも割合は同じ
- 誰が先に払っても負担は同じ
- 例=物上保証人1が1200万円払う→保証人1・2に400万円ずつ代位(自分の負担も400万円)
条文を読みます。501条3項4号です。
条文民法501条3項4号
民法第501条第3項第4号 四 保証人と物上保証人との間においては、その数に応じて、債権者に代位する。ただし、物上保証人が数人あるときは、保証人の負担部分を除いた残額について、各財産の価格に応じて、債権者に代位する。
本文は、その数に応じて、です。冒頭の設例なら、保証人2人と物上保証人1人で、3人です。1200万円を3で割って、1人400万円です。例で動かします。物上保証人が1200万円を全額払ったとします。物上保証人は、保証人1と保証人2に、400万円ずつ、代位できます。自分の負担も、400万円です。逆に、保証人1が全額払ったら、物上保証人に400万円、代位できます。保証人2との間は、求償の規定との関係があるので、あとで一言触れます。ここでは、誰が先に払っても、1人の負担は400万円で変わらない、という点を押さえてください。
物上保証人が1人だけなら、土地の値段は、割合に関係しません。理由は、2人の負担の性質が違うからです。保証人は、自分の全財産で責任を負います。物上保証人は、担保に出した、その土地の限度で責任を負います。広さの違う2つの責任を、金額で比べるのは、うまくいきません。そこで条文は、比べることをやめて、1人は1人として、等しく数えるのです。食事会の割り勘に似ています。財布の中身が違う人でも、席に座った人数で、会費を割ります。ただし、物上保証人が差し出しているのは、その土地までです。設例では、負担の400万円が、土地の800万円の中に収まっています。だから、土地が800万円でも5000万円でも、3人で400万円ずつ、です。
物上保証人が数人のとき
図:4号ただし書の計算
- 設例=借金1200万円・保証人1・物上保証人1(土地甲・評価1500万円)・物上保証人2(土地乙・評価500万円)・他に担保なし
- 手順=①人数は3人→保証人の負担部分は400万円→②残り800万円→③甲:乙=3:1で割る→物上保証人1は600万円・物上保証人2は200万円
- 合計400+600+200=1200万円
- 保証人が払う→物上保証人1に600万円・物上保証人2に200万円代位
- 物上保証人1が払う→保証人に400万円・物上保証人2に200万円代位(自己負担600万円)
次は、ただし書です。物上保証人が数人いる場合です。計算の前に、質問です。物上保証人が2人になったら、土地の値段は、割合に関係するでしょうか。物上保証人が2人になると、土地の値段が割合に関係します。ただし、全部の人を価格で割るわけではありません。順番があります。設例です。借金は1200万円。保証人が1人。物上保証人1が、土地甲を担保に出していて、評価は1500万円。物上保証人2が、土地乙で、評価は500万円。ほかの担保はありません。手順は3段です。1段目。まず頭数で、保証人の負担部分、つまり、最後に保証人が自分で持つ額を出します。人は3人なので、1200万円を、3人で等分して、400万円です。2段目。残りは800万円です。3段目。その800万円だけを、各財産の価格で割ります。甲と乙は、1500対500で、3対1です。物上保証人1の分は600万円、物上保証人2の分は200万円です。足すと、400、600、200で、1200万円です。当てはめます。保証人が全額の1200万円を払えば、物上保証人1に600万円、物上保証人2に200万円、代位できます。物上保証人1が払った場合は、保証人に400万円、物上保証人2に200万円、代位できます。物上保証人1の自分の負担は、600万円になります。
最初から全員を土地の価格で割ってしまうのが、答案での落とし穴です。保証人の分は、頭数で先に決めます。保証人の全財産と土地の値段は、比べられないからです。残りの800万円を持つのは、物上保証人どうしだけです。どちらも、差し出した土地の限度で責任を負う、同じ性質の人なので、前回の3号と同じく、価格で比べられます。だから、残りだけを価格で割ります。順番を間違えて、保証人の分を出さずに、1200万円全部を3対1で割ると、物上保証人1が900万円、物上保証人2が300万円で、保証人の負担が0になってしまいます。
割合の特約は後順位抵当権者にも主張できる
図:特約の関係図
- 設例=銀行の債権1200万円
- 物上保証人の土地(評価1500万円)に銀行の1番抵当権と、後順位抵当権者の2番抵当権
- 保証人と物上保証人は「保証人が払えば抵当権の全部に代位する」と特約している
- 4号どおり=保証人が全額払うと物上保証人の負担は600万円→土地への代位は600万円分→後順位者の取り分は900万円
- 特約=1200万円分まで代位→後順位者の取り分は300万円
- 銀行自身が実行しても後順位者の取り分は300万円
- 出典=最判昭59・5・29 民集38巻7号885頁(旧501条但書五号=現501条3項4号)
4号の割合は、当事者が自分たちで変えられるでしょうか。保証人と物上保証人が、保証人が払ったら物上保証人の土地の抵当権の全部に代位できる、と約束していた場合です。前々回、弁済による代位の仕組みを見た回で、最高裁の昭和の判決の、代位できるのは求償権の範囲内、という前半を見ました。今日はその同じ判決の、もう1つの判示です。特約を、他の人にも主張できるか、という点です。数字で見ます。銀行の債権が1200万円。物上保証人の土地は、評価が1500万円で、銀行の1番抵当権と、後順位抵当権者の2番抵当権が付いています。保証人が1200万円を払いました。4号どおりなら、物上保証人の負担は2人で割って600万円なので、保証人は、土地に600万円分しか代位できません。後順位抵当権者は、1500万円から600万円を引いた、900万円を取れます。ところが特約があると、保証人は1200万円分、代位できるので、後順位抵当権者は、300万円しか取れません。
判例最判昭59・5・29 民集38巻7号885頁
代位割合の特約と、後順位抵当権者 そして、同条但書五号は、右のような代位の効果を前提として、物上保証人及び保証人相互間において、先に代位弁済した者が不当な利益を得たり、代位弁済が際限なく循環して行われたりする事態の生ずることを避けるため、右の代位者相互間における代位の割合を定めるなど一定の制限を設けているのであるが、その窮極の趣旨・目的とするところは代位者相互間の利害を公平かつ合理的に調節することにあるものというべきであるから、物上保証人及び保証人が代位の割合について同号の定める割合と異なる特約をし、これによつてみずからその間の利害を具体的に調節している場合にまで、同号の定める割合によらなければならないものと解すべき理由はなく、同号が保証人と物上保証人の代位についてその頭数ないし担保不動産の価格の割合によつて代位するものと規定しているのは、特約その他の特別な事情がない一般的な場合について規定しているにすぎず、同号はいわゆる補充規定であると解するのが相当である。
判例最判昭59・5・29 民集38巻7号885頁
代位割合の特約と、後順位抵当権者 したがつて、物上保証人との間で同号の定める割合と異なる特約をした保証人は、後順位抵当権者等の利害関係人に対しても右特約の効力を主張することができ、その求償権の範囲内で右特約の割合に応じ抵当権等の担保権を行使することができるものというべきである。
判決文の、右のような、の右は、前に書いた、という意味の古い言い回しです。判決文の但書五号は、旧法の番号で、現行の501条3項4号に当たり、中身も変わっていません。最高裁は、特約を有効とし、後順位抵当権者などの利害関係人にも主張できる、と判断しました。理由は、おおまかに3つあります。1つめ。4号は、代位する人どうしの利害を公平に調整する規定です。当事者が自分たちで調整したなら、法律の割合に従わせる必要がありません。4号は、特約がなければ使う、補充の規定です。2つめ。後順位抵当権者は、もともと、被担保債権の全額について、先順位の抵当権者の優先弁済を、承認せざるをえない立場にいます。3つめ。特約の不利益は、他人どうしの契約の、反射にすぎません。時効の援用の回で見た反射と同じで、他人の事情が変わった結果、自分の取り分が動くだけ、という意味です。だから、特約が登記などで公開されていなくても、受け入れるしかありません。共同抵当の392条は、後順位抵当権者のために、代位の道を積極的に与えた規定でした。4号は、そうではありません。代位する人どうしの割り方を決めただけで、後順位者に取り分を約束した規定ではない、と最高裁は見ています。数字に戻ります。銀行が自分で土地を競売しても、1200万円を先に取ります。後順位者の取り分は、300万円です。特約があり、保証人が1200万円分まで代位しても、300万円です。後順位者が、もともと覚悟していた範囲を、超えていません。だから、不利益とは言えないのです。
900万円と300万円の差、つまり600万円は、保証人が600万円分しか代位しない、という他人どうしの割り方のおかげで、たまたま残っていた分です。後順位者が、2番抵当権として自分で持っていたのは、銀行が1200万円を先に取った残りの、300万円を取る権利だけです。特約は、その権利を1円も削っていません。ここは、論文で論点になりうる部分です。
保証人と物上保証人を兼ねる人
図:比較板
- 設例=債権1200万円・物上保証人1(土地A・評価1000万円)・保証人兼物上保証人(保証人で、自分の土地Bも担保に出した・評価1000万円)
- 1人と数える(判例)=2人で頭数→各600万円
- 2人と数える(保証人+物上保証人)=3人の頭数で保証人の負担部分400万円→残り800万円を土地A:B=1:1で割る→兼ねる人は400+400=800万円・物上保証人1は400万円
- 数え方で兼ねる人の負担が600万円か800万円かに分かれる
- 出典=最判昭61・11・27 民集40巻7号1205頁(旧501条但書四号・五号=現501条3項3号・4号)
保証人でもあり、物上保証人でもある人が、いたらどうでしょうか。自分で保証をして、さらに、自分の土地も担保に出した人です。保証人と物上保証人の2つの立場を持つ人は、責任の数だけ見ると、2人分と数えたくなります。ところが、最高裁は、1人と数えました。条文は、この人をどう数えるか、直接定めていないのです。設例です。借金は1200万円。物上保証人1が、土地Aを担保に出していて、評価は1000万円。もう1人は、保証人であり、自分の土地Bも担保に出していて、評価は1000万円です。この人を、兼ねる人と呼びます。1人と数えるなら、全員で2人です。頭数で、600万円ずつです。兼ねる人も、物上保証人1も、600万円です。2人と数えるなら、保証人と物上保証人が、合わせて3人です。まず頭数で、保証人の負担部分が400万円。残り800万円を、土地Aと土地Bの価格の比、1対1で割って、400万円ずつです。すると、兼ねる人は、保証の400万円と、土地の400万円で、800万円になります。物上保証人1は、400万円です。数え方だけで、兼ねる人の負担が、600万円か800万円かに、分かれます。
判例最判昭61・11・27 民集40巻7号1205頁
二重の資格をもつ者の数え方 そうすると、複数の保証人及び物上保証人の中に二重の資格をもつ者が含まれる場合における代位の割合は、民法五〇一条但書四号、五号の基本的な趣旨・目的である公平の理念に基づいて、二重の資格をもつ者も一人と扱い、全員の頭数に応じた平等の割合であると解するのが相当である。
判決文の但書四号・五号は、旧法の番号で、四号は現行の501条3項3号に、五号は3項4号に当たります。最高裁は、1人と数える、という立場を採りました。理由は、こうです。条文が割合を定めていない以上、代位する人の通常の意思や期待を探すことになります。けれども、兼ねる人を2人と数えるのが、通常の期待とは言えません。かといって、1人と数えつつ、担保物の価格も反映する、簡明な基準もありません。そこで、公平の理念に立ち返って、全員を、頭数で平等に割る、としました。立場をいくつ持っていても、数えるのは人の数です。4号の中身は、改正で変わっていないので、現行法でも使える先例です。ここも、論文で論点になりうる部分です。一つ補足します。今の判決が扱ったのは、保証人と物上保証人の間の数え方です。保証人どうしが代位する場面は、501条2項のかっこ書が、求償権の範囲内で、と定めています。代位の割合は、頭数や価格ではなく、求償の規定の側で決まります。ここでは、割り方が別の規定にある、という筋だけ押さえてください。冒頭の設例の、保証人1と保証人2の間も、この形です。清算の筋が求償の規定の側にあるだけで、冒頭の答えの、400万円ずつ、は変わりません。
債権者が代位者に渡すもの
図:503条
- 全部弁済=債権に関する証書と自己の占有する担保物を代位者に交付
- 一部弁済=債権に関する証書に代位を記入し、自己の占有する担保物の保存を代位者に監督させる
- 設例=保証人が全額払う→借用証書と預かっている質物を銀行から受け取る
- 保証人が300万円だけ払う→証書に「保証人が300万円分代位した」と記入・質物は銀行が持ち続け保存の状況を保証人が監督
- 抵当権は占有しないので、この規定の対象は質物など占有する担保物
ここからは、代位する人を守る条文です。まず、503条です。
条文民法503条1項
民法第503条第1項 代位弁済によって全部の弁済を受けた債権者は、債権に関する証書及び自己の占有する担保物を代位者に交付しなければならない。
条文民法503条2項
民法第503条第2項 債権の一部について代位弁済があった場合には、債権者は、債権に関する証書にその代位を記入し、かつ、自己の占有する担保物の保存を代位者に監督させなければならない。
具体例です。保証人が1200万円を全額払ったら、銀行は借用証書と、手元に預かっている担保物を、保証人に渡します。担保物というのは、たとえば、質入れしてもらった物です。条文は、自己の占有する担保物、と書いています。抵当権は、債権者が物を預からないので、この規定の対象は、質物のように、債権者が手に持っている物です。一部だけ払った場合です。保証人が300万円だけ払ったら、銀行は、証書に、保証人が、300万円分を代位した、と書き込みます。質物は、銀行が持ち続けますが、傷めたり、勝手に処分したりしていないか、保証人が見張れるようにします。
代位した人が、証書や担保物がなくて、権利を行使できない、では意味がありません。一部の代位を認めた502条と、同じ線の規定です。
債権者の担保保存義務
図:504条
- 1項=債権者が故意または過失で担保を喪失・減少させたら、代位権者は償還を受けられなくなる限度で責任を免れる
- 設例=銀行の貸付1200万円・借主の家(評価700万円)に抵当権・保証人1人→銀行が抵当権を放棄→保証人は700万円分の責任を免れる(残る責任は500万円)
- 2項=担保の喪失・減少に取引上の社会通念に照らして合理的な理由があるときは1項を適用しない
- 例=担保の差替え
- 2017年改正で新設
次は、504条です。共同抵当の回で、1項を見ました。弁済による代位の本来の場面では、どう働くのかを、数字で確認します。
条文民法504条1項
民法第504条第1項 弁済をするについて正当な利益を有する者(以下この項において「代位権者」という。)がある場合において、債権者が故意又は過失によってその担保を喪失し、又は減少させたときは、その代位権者は、代位をするに当たって担保の喪失又は減少によって償還を受けることができなくなる限度において、その責任を免れる。その代位権者が物上保証人である場合において、その代位権者から担保の目的となっている財産を譲り受けた第三者及びその特定承継人についても、同様とする。
前に見た判例は、共同抵当権の放棄に、この504条の考え方を当てはめたものでした。392条2項後段が、後順位抵当権者に代位の道を与え、504条が、その道を、債権者が勝手にふさぐことを許さない、という組合せです。設例です。銀行の貸付けは、1200万円です。借主の家は評価700万円で、銀行の抵当権が付いています。保証人が1人います。ところが、銀行が、都合で、この抵当権を放棄してしまいました。保証人は、あとで銀行に払ったとき、家の抵当権に代位して、700万円を取れるはずでした。それができなくなりました。そこで、保証人は、償還を受けられなくなる、その700万円の限度で、責任を免れます。銀行が保証人に請求できるのは、残りの500万円だけです。保証人は、いざ払ったとき、抵当権に代位して、回収できると当てにして、保証を引き受けています。債権者が、その当てを、勝手に壊してはならない、という趣旨です。
そこで、2項です。2017年の改正で、新しく加わりました。
条文民法504条2項
民法第504条第2項 前項の規定は、債権者が担保を喪失し、又は減少させたことについて取引上の社会通念に照らして合理的な理由があると認められるときは、適用しない。
合理的な理由があれば、1項は適用されません。つまり、免責されません。具体例を2つ、並べます。借主が、家を売って、別の土地に買い替えました。銀行は、新しい土地を、同じくらいの価値の担保に取る代わりに、元の家の抵当権を外しました。これは、担保の差替えです。形式上は、担保を失っていますが、担保の価値は保たれていて、取引上、自然な処理です。合理的な理由があるので、保証人は免責されません。対比です。見返りが何もないのに、銀行の都合だけで、抵当権を放棄したなら、合理的な理由はありません。1項どおり、免責されます。改正前は、条文に例外がありませんでした。そのため、担保の差替えのように、取引上、合理的な場合でも、形式的には免責が生じうる点が、不合理だと指摘されていました。2項は、それを明文にしたものです。
免除特約の効力
図:担保保存義務免除特約
- 設例=銀行の貸付けで、担保提供の契約書に「銀行が他の担保を放棄・変更しても、担保を出した人は免責を主張しない」との特約がある
- 判例の3点=①特約は原則有効(あらかじめ504条による免責の利益を放棄)②債権者が特約を主張することが信義則違反・権利濫用になる場合がある=締結時の事情・その後の経緯・担保を失ったときの状況を総合し、債権者の行為が金融取引上の通念から見て合理性を有し、保証人等が特約の文言にかかわらず正当に有し得る代位の期待を奪うものといえなければ、特段の事情がない限り主張できる③免責の効果が生じなかった後に物上保証人から担保物を譲り受けた第三取得者も、免責を主張できない
- 出典=最判平7・6・23 民集49巻6号1737頁
最後に、実務で、よく見る特約です。銀行の貸付けでは、担保を提供する契約書に、銀行が他の担保を放棄したり変更したりしても、免責を主張しない、という特約が入っていることが多いです。この特約は、有効でしょうか。最高裁の平成の判決は、3点を述べています。1点目。特約は、原則として有効です。あらかじめ、504条による免責の利益を、放棄しているからです。
判例最判平7・6・23 民集49巻6号1737頁
免除特約と、信義則・権利の濫用 しかしながら、当該保証等の契約及び特約が締結された時の事情、その後の債権者と債務者との取引の経緯、債権者が担保を喪失し、又は減少させる行為をした時の状況等を総合して、債権者の右行為が、金融取引上の通念から見て合理性を有し、保証人等が特約の文言にかかわらず正当に有し、又は有し得べき代位の期待を奪うものとはいえないときは、他に特段の事情がない限り、債権者が右特約の効力を主張することは、信義則に反するものではなく、また、権利の濫用に当たるものでもないというべきである。
2点目。ただし、債権者がその特約を主張することが、信義則に反する、あるいは権利の濫用に当たる場合がある、としています。判断は、特約を結んだときの事情、その後の取引の経緯、担保を失わせたときの状況を、総合して行います。債権者の行為が、金融取引上の通念から見て合理性を持ち、担保を出した人が、特約の文言にかかわらず、正当に持てる代位の期待を、奪うものとはいえないなら、特段の事情がない限り、債権者は特約を主張できます。この事件では、放棄に合理性があるとして、最高裁も、債権者の主張を認めた判断を是認しました。たとえば、さっきの担保の差替えのように、同じくらいの価値の担保に取り替えたのなら、合理性があり、特約どおり、保証人は免責されません。逆に、見返りもなく、銀行の都合だけで担保を外したのなら、保証人の代位の期待を奪うので、特約を持ち出すことが、信義則違反や権利濫用になりえます。
この判例の物差しは、504条2項の合理的な理由と、同じ向きです。合理性があって、代位の期待を不当に奪わないなら、免責されない。2項は特約のない場面での条文化で、特約の場面の物差しであるさっきの判例と、合理性を見る向きは同じです。3点目です。共同抵当の回で見た504条1項の後半は、物上保証人から担保の財産を譲り受けた人も、同じように責任を免れる、と定めていました。特約が無ければ、銀行が担保を外した時点で、物上保証人に免責が生じます。負担の軽くなったその土地を買った人、つまり第三取得者も、その免責を主張できます。では、特約があったらどうか。順番に見ます。まず、銀行が担保を外します。物上保証人には免除特約があるので、免責は生じず、土地の負担はそのまま残ります。そのあとで、第三取得者が、この土地を買います。第三取得者が買ったのは、免責の付いていない、負担の残った土地です。買ったことで、新しく免責が生まれるわけではないので、第三取得者も、免責を主張できません。整理すると、答案の道筋は3段です。特約は原則有効。例外は、信義則違反、権利濫用。その判断は、合理性と、代位の期待を見る。ここも、論文で論点になりうる部分です。
冒頭の答えとまとめ
図:冒頭の答え
- 保証人2人・物上保証人1人・1200万円=3人で頭数割り→400万円ずつ(物上保証人の土地の値段は割合に関係しない)
- まとめ=①4号は頭数→物上保証人が数人なら保証人の分を除き各財産の価格で割る②4号は補充規定=特約は後順位抵当権者にも主張できる③保証人兼物上保証人は1人と数える④503条=全部弁済は交付・一部弁済は記入と監督⑤504条=担保の喪失・減少で責任を免れる(2項=合理的な理由があれば免れない)・免除特約は原則有効で信義則違反・権利濫用が限界
冒頭の答えです。保証人2人と物上保証人1人で、3人です。1200万円を、頭数で割って、400万円ずつです。物上保証人の土地に、負担部分を超える価値があるかぎり、物上保証人が1人なら、割合は変わりません。整理します。1つめ。4号は、まず頭数で割ります。物上保証人が数人いるときは、保証人の負担部分を除いた残りを、各財産の価格で割ります。2つめ。この割合は、補充の規定です。保証人と物上保証人の特約は、後順位抵当権者にも主張できます。後順位者は、もともと被担保債権の全額の優先弁済を、覚悟している立場だからです。3つめ。保証人であり、物上保証人でもある人は、1人と数えます。4つめ。503条は、全部の弁済なら証書と担保物を渡し、一部なら、証書に記入して、担保物の保存を監督させる規定です。5つめ。504条は、債権者が担保を失わせたら、償還を受けられなくなる限度で、代位権者は責任を免れます。ただし、2項により、合理的な理由があれば、免れません。免除特約は、原則有効ですが、信義則違反や権利濫用になる場合は、債権者は主張できません。
参照条文
- 民法501条3項4号
- 民法503条1項
- 民法503条2項
- 民法504条1項
- 民法504条2項