種類債権の特定と選択債権
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第4章 債権総論 #153/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
箱に入れた1台が、倉庫ごと焼けたら
図:冒頭の板
- カメラ店Bが新品の1台を箱に入れ、Cに「取りに来てください」と連絡した夜、倉庫が全焼
- 問い2つ=箱に入れたあとでもBは別の1台を調達するのか/注文が「店の在庫の中から1台」だったらどうなるか
前回の続きです。中古カメラ店のBさんのところへ、Cさんが、この型番の新品を1台、と注文していました。Bさんは倉庫の在庫から1台を取り出して、Cさん宛の箱に入れ、店の入り口に置きました。そして、取りに来てください、と連絡しました。ところがその夜、倉庫と店が火事になり、箱に入れた1台も、残りの在庫もすべて焼けてしまいました。箱に入れて連絡したあとでも、Bさんはまだ調達しなければならないのか。これが、前回、答えを出さずに残した問いの1つです。もう1つあります。もしCさんの注文が、最初から、Bさんの店にある在庫の中から1台、だったら、在庫が全部焼けたときどうなるのか。
在庫の中から、という頼み方の違いで、結論が変わるんですか。変わります。今日は、この2つの問いに、はっきり答えます。手がかりは1本です。約束が、いつ、どの範囲で、1つに決まっているか。
特定の2つのルート
図:401条2項の板
- 種類債権(型番で1台)→[必要な行為の完了]または[債権者の同意を得て指定]→特定(この1台)
- 「特定物」(約束のとき個性に着目した物)と「特定」(種類債権の目的物が1個に定まること)は別のもの
最初に、言葉を分けます。前回の特定物は、約束のときに、個性に着目した物でした。今日の特定は、種類債権の目的物が、1個に定まることです。字面は似ていますが、別の言葉です。Cさんの約束は、型番で1台でした。渡す1台は、まだどれでもよい状態です。これが、どこかで、この1台、に変わる。その条件を定めたのが、401条2項です。
条文民法401条2項
民法第401条第2項 前項の場合において、債務者が物の給付をするのに必要な行為を完了し、又は債権者の同意を得てその給付すべき物を指定したときは、以後その物を債権の目的物とする。
条文には、2つのルートが書かれています。1つめは、債務者が、物の給付をするのに必要な行為を完了したとき。2つめは、債権者の同意を得て、給付すべき物を指定したときです。2つめは分かりやすいので、先に片づけます。店員が棚から選んだ1台を、お客さんが、それでいいです、と了承する。これが、債権者の同意を得た指定です。丸が付くまでは、棚のどの1台でもよかった。丸が付いたら、その1台が約束の物になります。問題は1つめです。必要な行為の完了とは、何をどこまでやれば、なのか。ここに、債権の種類の見取り図を見た回で出てきた、持参債務と取立債務の区別が効いてきます。債務者が債権者の住所まで持っていくか、債権者が債務者の住所まで取りに行くか、の違いです。
完了の中身は、債務の場所で変わる
図:3つの債務の板
前回、484条1項の原則を確かめました。何も決めていなければ、種類債権は、債務者が債権者の住所まで持っていく、持参債務です。持参債務なら、必要な行為の完了とは、債権者の住所で、現実の提供をすることです。現実の提供とは、実際に物を持って行って、はい、どうぞ、と、相手がすぐ受け取れる状態にすることです。相手が不在で受け取られなくても、それをやったなら、完了です。倉庫で、Cさん用に1台を取り分けただけでは、足りませんか。足りません。持参の約束なら、まだBさんは、Cさんの住所へ動いていないからです。約束の中身は、持って行くことまでで、倉庫での取り分けは、その手前の準備です。次に、取立債務です。債権者が、債務者のところへ取りに来る約束です。取りに来るのが約束ですから、債務者が債権者の住所まで持っていく必要はありません。取立債務の完了は、3つの段階で言います。分離、準備、通知です。分離は、その1台を、ほかの在庫と区別して取り分けること。準備は、債権者がいつでも受け取れる状態にしておくこと。通知は、それを債権者に知らせることです。
分離、準備、通知の3つが、全部そろっています。Cさんが店に取りに来る約束だったなら、箱に入れたのが分離と準備、取りに来てくださいという連絡が通知です。この時点で、特定が生じます。もう1つ、同じ見取り図の回で名前だけ出た、送付債務があります。債権者の住所でも、債務者の店でもない、別の場所へ送る債務です。その場所が、約束で決めた履行の場所なら、そこで現実の提供をして、完了です。これに対して、履行の場所は債務者の店のままで、頼まれて好意で送るだけなら、発送した時に完了します。現実の提供という言葉は使いましたが、弁済の提供そのものの話は、ここでは深入りしません。ここで押さえるのは、特定に必要な行為の中身が、債務の場所で変わる、という点です。一度、立ち止まってください。Bさんが、1台を取り分けて、箱に入れました。ただ、Cさんには、まだ連絡していません。取立債務なら、これで特定したでしょうか。
分離と準備はしたけれど、通知がまだ。だから、特定していない、ですか。取り分けて、準備した。でも、Cさんが、取りに行けることを知りません。ここで火事になれば、まだ特定前ですから、Bさんは別の1台を調達する義務を負ったままです。持参の約束なら、箱に入れて店の入り口に置いただけで、特定していません。取立の約束なら、連絡したあとで、特定しています。
傷んだ物を提供しても特定しない
図:板
- 前段・後段のどちらに当たっても、約束の品質に合わない物では特定しない
- 新品の約束に、傷みのある展示品の1台を箱に入れて提供しても、Bは別の良い1台を届ける義務を負ったまま
もう1つ、特定が起きない場面があります。約束した品質に合わない物を、提供した場合です。たとえば、Cさんは新品を注文したのに、Bさんが箱に入れたのは、傷みのある展示品の1台でした。持参して、現実に提供しても、特定は生じないと解されています。約束した種類と品質に合わない物は、約束の目的物になりえないからです。それを、これです、と決められても、約束を果たす物ではありません。Bさんは、別の良い1台を届ける義務を負ったままです。
特定の効果、特定物とほぼ同じになる
図:特定の効果の板
- ①調達義務が消え、この1台の債務になる②善管注意義務(400条)が始まる③焼ければ履行不能④特約がなければ所有権が移りうる
- 特定物との違いは変更権だけ
特定が起きると、債権の目的物は、その1台に定まります。以後は、ほぼ、前回の特定物債権と同じ扱いです。4つ並べます。1つめ。調達義務が消えます。同じ型の別の1台を、仕入れて届ける義務は、もうありません。約束の中身が、その1台になったからです。2つめ。債務者は、400条の善管注意義務を負い始めます。前回、種類物の保存義務は、特定前には無い、と確認しました。その裏側です。特定して初めて、その1台を保存する義務が生じます。決まる前は、どの1台を守るのか、約束に無いのです。3つめ。目的物が焼ければ、履行不能です。代わりの1台を仕入れ直す義務は、ありません。冒頭の1つめの問いに、この結論で答えます。取立の約束で、連絡まで済んでいたなら、Cさんは、原則として、別の1台を調達しろとは言えません。
特定した1台が焼けたことで、Cさんが失うのは、履行を請求する権利です。損害賠償や代金がどうなるかは、Bさんに落ち度があったかどうかで分かれます。それは、履行不能を扱う回に譲ります。4つめ。特約が無ければ、特定の時に、所有権が移りうることです。所有権の移転時期の回で、不特定物は、どの1台か決まるまでは所有権を移しようがない、と見ました。特定で渡す1台が決まるので、その時に移りうるのです。なお、Bさんが履行の提供をしたのに、Cさんが受け取らない、あるいは受け取れない状態を、受領遅滞と言います。このときは、Bさんの保存の注意は、自分の財産と同じ程度に軽くなります。これも、別の回で扱います。
特定物との唯一の違い、変更権
図:変更権の板
- 特定後でも、債権者に不利益がなければ、債務者は信義則上、別の同種の物に取り替えられる
- 例=Cが受け取らなかった1台を店で売り、直ちに同じ型番の別の1台を用意してCに届ける
特定物債権との違いが、1つだけあります。変更権です。特定したあとでも、債権者に不利益が無いなら、債務者は、信義則上、別の同じ種類の物に取り替えられる、と解されています。債権者は何も損をしないのに、債務者だけを、特定した1台に縛り続けるのは公平ではない、という考え方です。判例も、この変更権を認めています。特定物は、その1台でしか約束を果たせないので、取り替えは、できません。種類物の特定は、もともと、どの1台でもよい約束だったところから決まっただけです。具体例です。Cさんが受け取りに来ないので、Bさんは、箱に入れた1台を、店で他の客に売ってしまいました。すぐに、同じ型番の別の1台を用意して、Cさんに届けるなら、Cさんは、最初の1台を渡せ、とは言えません。同じ型番の新品なら、Cさんは損をしないからです。
焼けたあとで、取り替えることは、できないんですか。取り替えられます。特定した1台が焼けたあとでも、Bさんは、同じ型番の別の1台を届けて、債務を果たすことができます。変更権は、債務者の側の権利だからです。ただし、Cさんの側から、代わりの1台を調達しろ、と求めることはできません。Bさんはできるが、Cさんからは求められない、という対比で押さえてください。
制限種類債権、在庫の中から
図:板
- 制限種類債権=種類債権のうち、給付すべき物の範囲が、場所や在庫などで限られたもの
- Cの注文が「Bの店の倉庫にある新品の在庫の中から1台」
- 範囲内が全部なくなれば履行不能
- 外から調達する義務は無い
冒頭の2つめの問いに入ります。その前に、1問だけ、前回の確認です。型番で1台と頼んだCさんの新品が、Bさんの倉庫で全部焼けたら、Bさんは、どうしなければなりませんでしたか?同じ型番が世の中にある限り、仕入先のDさんから調達して、届けるんでした。では、Cさんの注文が、Bさんの店の倉庫にある新品の在庫の中から1台、だったらどうでしょう。このように、給付すべき物の範囲が、場所や在庫などで限られた種類債権を、制限種類債権と言います。約束の範囲が違います。型番で1台なら、世の中にある、その型番のどれでもよい。在庫の中から1台なら、Bさんの倉庫にある物の中から、です。ですから、倉庫が全焼して、範囲内の物が全部なくなれば、履行不能になります。Bさんは、仕入先のDさんから仕入れてまで届ける義務を負いません。範囲の外から調達する約束を、していないからです。
債務は残ります。範囲内の物が一部減っても、残りで足りる限り、Bさんは、その中から渡します。制限種類債権にも、特定はあります。範囲の中で、この1台に決めた時です。ここでの決め方は、さっきの特定と同じです。履行不能になる時は、通常の種類債権では、その型番が世の中から消えるまで、なりません。制限種類債権では、約束の範囲が尽きた時に、なります。
選択債権、甲か乙か
図:選択債権の板
- いくつかの給付のうち、どれを渡すかを選ぶことで中身が決まる債権
- Bの店の中古2台、甲か乙のどちらか1台をAに渡す約束(どちらも製造番号まで確認済み)
- 選択前は目的が不確定
- 選択で1つの給付に定まる
次は、選択債権です。設例を変えます。Bさんの店に、中古のカメラが2台あります。甲と乙とします。どちらも、製造番号まで確かめてあり、個性のある物です。Aさんは、この甲か乙のどちらか1台をください、とBさんに約束してもらいました。これが、選択債権です。いくつかの給付のうち、どれを渡すかを選ぶことで、中身が決まる債権です。似て見えますが、あとで区別します。先に、選択債権の仕組みを、条文で見ます。選ぶ前は、どちらを渡すのかが決まっていないので、目的が定まらず、履行を求めることも、強制執行もできません。選択で、1つの給付に定まります。まず、誰が選ぶのか、です。
条文民法406条
民法第406条 債権の目的が数個の給付の中から選択によって定まるときは、その選択権は、債務者に属する。
原則は、債務者が選びます。Bさんです。特約があれば、債権者のAさんが選んでもよく、第三者が選ぶ約束にもできます。
条文民法407条
民法第407条 前条の選択権は、相手方に対する意思表示によって行使する。 2 前項の意思表示は、相手方の承諾を得なければ、撤回することができない。
選択権は、相手方への意思表示で行使します。Bさんなら、Aさんに、甲にします、と伝える。そして、いったん伝えたら、Aさんの承諾がなければ、撤回できません。
条文民法408条
民法第408条 債権が弁済期にある場合において、相手方から相当の期間を定めて催告をしても、選択権を有する当事者がその期間内に選択をしないときは、その選択権は、相手方に移転する。
Bさんが選ばないまま、弁済期が来たとします。Aさんは、相当の期間を定めて、選んでください、と催告できます。その期間内に、Bさんが選ばなければ、選択権はAさんに移ります。Aさんが、甲か乙かを選べるようになります。
条文民法409条
民法第409条 第三者が選択をすべき場合には、その選択は、債権者又は債務者に対する意思表示によってする。 2 前項に規定する場合において、第三者が選択をすることができず、又は選択をする意思を有しないときは、選択権は、債務者に移転する。
第三者の選択は、債権者か債務者のどちらかへの意思表示でします。第三者が選べない、あるいは選ぶ気がないときは、選択権は債務者に移転します。Bさんに戻る、と覚えてください。最後に、選んだ効力です。
条文民法411条
民法第411条 選択は、債権の発生の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。
Bさんが甲を選んだなら、最初から、甲だけを渡す債権だったことになります。たとえば、3月1日に約束して、4月1日にBさんが甲を選んだなら、3月1日の時点から、甲を渡す債権だったと扱われます。さかのぼる、遡及効です。ただし、選ぶ前に、その物について第三者が権利を得ていたなら、その権利は害されません。
一部が不能になったとき、410条
図:410条の板
- 甲か乙かの選択債権(選択権者はB)
- Bの過失で甲が焼けた→乙に特定(債権は残存するものについて存在)
- Aの過失で甲が壊れた/誰の過失でもなく甲が焼けた→特定しない
甲か乙かの途中で、片方が使えなくなったらどうなるか。それを定めたのが、410条です。
条文民法410条
民法第410条 債権の目的である給付の中に不能のものがある場合において、その不能が選択権を有する者の過失によるものであるときは、債権は、その残存するものについて存在する。
読み方です。給付の中に不能のものがあり、その不能が、選択権を有する者の過失による場合に限って、残る給付に絞られます。選択権者はBさんとして、3つの場面を並べます。1つめ。Bさんの過失で、甲が焼けた。この場合、債権は、残る乙について存在します。Aさんは、乙をもらえます。選択権を持つ人が、自分の過失で不能にしておいて、その不能な方を選ぶことは、許されません。だから、残る乙に絞られます。2つめ。選択権を持たないAさんの過失で、甲が壊れた。この場合は、特定しません。Bさんは、乙を選んでもよいし、壊れた甲を選ぶこともできます。甲を選んだときの処理は、履行不能を扱う回で見ます。3つめ。誰の過失でもなく、甲が焼けた。これも、特定しません。
410条が絞るのは、選択権を有する者の過失による不能だけです。選ぶ権利は、選ぶ人のための権利です。選ぶ人に落ち度が無いのに、相手の過失や偶然で、選ぶ余地を取り上げる理由はありません。だから、2つめと3つめでは、Bさんは選ぶ権利を持ったままです。
制限種類債権と選択債権の区別、冒頭の答え
図:比較の板
制限種類債権と選択債権を、区別します。物差しは、前回と同じ、給付の対象の個性に着目したか、です。制限種類債権は、倉庫の在庫の中のどれでもよく、1つ1つに個性がありません。選択債権は、甲か乙か、製造番号まで確かめた、個性のある給付から選びます。個性が無ければ、在庫のどの1台も、互いの代わりになります。だから、制限種類債権は、範囲の中からどれか1台に決める、特定で足ります。個性があれば、甲と乙は、互いの代わりになりません。だから、選択債権は、どちらの給付にするかを、406条以下の選択で決めます。特定は、この型番のうちのこの1台。選択は、甲か乙か、です。履行不能の時期も違います。通常の種類債権は、原則なりません。制限種類債権は、範囲内が尽きた時です。選択債権は、全部が不能なら不能で、一部の不能は410条でした。それでは、冒頭に立てた2つの問いに、順に答えます。まず、箱に入れて連絡したあとの1台が焼けた場合です。取立の約束で、分離、準備、通知まで済んでいれば、特定しています。履行不能になり、Bさんは別の1台を調達する義務を負いません。まだ倉庫にあっただけなら、特定前です。別の1台を調達して届ける義務が、残ります。次に、注文が在庫の中から1台なら、制限種類債権です。在庫が全部焼ければ、履行不能です。Bさんは、外から調達する義務を負いません。
3つとも、約束が、いつ、どの範囲で、1つに決まっているか、で考えるんです。特定は、いつ決まるか。制限種類債権は、どの範囲で決まるか。選択債権は、個性のある給付から選んで決まる、です。この一本で、今日の内容は通ります。
参照条文
- 民法401条2項
- 民法406条
- 民法407条
- 民法408条
- 民法409条
- 民法411条
- 民法410条