代物弁済と供託
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第4章 債権総論 #183/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
100万円の借金を山林で済ませられるか
図:冒頭の関係図
- 友人から100万円を借りた人(借りた人)が、返せない
- 相続した山林(時価60万円ほど)で払わせてほしいと言う
- 貸した人がよいと言えば、どうなるか
今日は、その問いです。先に答えを言います。貸した人がよいと言えば、できます。しかも、60万円の山林でも、100万円の債務は全部消えます。40万円は残りません。以前、債権が消える原因の地図を見ました。目的が達成されて消える群は、弁済、代物弁済、供託の3つでした。弁済は見ましたので、今日は、残りの2つです。代物弁済と供託です。
代物弁済は債権者との合意で成り立つ
図:482条の要件
- ①弁済をすることができる者(弁済者)②債権者との間の、本来の給付に代えて他の給付をすることにより債務を消滅させる旨の契約③その弁済者が他の給付をしたとき→弁済と同一の効力
- 設例=貸した人が山林で受けると合意し山林が渡されれば、時価60万円でも100万円の債権は全部消える
- 合意がなければ、借りた人は山林を押し付けられない
条文を読みます。482条です。
条文民法482条
民法第482条 弁済をすることができる者(以下「弁済者」という。)が、債権者との間で、債務者の負担した給付に代えて他の給付をすることにより債務を消滅させる旨の契約をした場合において、その弁済者が当該他の給付をしたときは、その給付は、弁済と同一の効力を有する。
3つに切って読みます。1つめ。弁済をすることができる者です。第三者による弁済の回で見たとおり、債務者本人に限りません。条文は、弁済者と呼んでいます。2つめ。債権者との間の契約です。本来の給付の代わりに、別の給付をして、債務を消す、という内容の契約です。3つめ。その弁済者が、実際にその別の給付をしたとき、です。そうすると、その給付は、弁済と同じ効力を持ちます。山林の例に当てはめます。貸した人が、山林で受けると言いました。この合意があり、山林が渡されれば、100万円の債権は、全部消えます。時価が60万円でも、40万円分の債権が残る、ということはありません。
貸した人が、納得して合意したからです。代物弁済の要件は、契約があることです。物の値段が釣り合うことは、要件ではありません。お互いが納得している、ということが、釣り合いの代わりをします。逆に、合意がなければ、成り立ちません。借りた人が、勝手に山林を渡そうとしても、貸した人は、受け取らされません。貸した人が、本来の100万円を請求し続けられます。試験では、まず、債権者との契約があるか、を確認してください。ここが、代物弁済の出発点です。
合意の時と、債務が消える時はずれる
図:時間軸
- ①合意(契約成立)→代物を給付せよという債権が生まれる・もとの債権(100万円)はまだ消えていない②代物の給付→もとの債権が消える
- 改正前=要物契約(給付して初めて契約が成立し、同時に債権が消える)/現行=諾成契約(合意だけで契約が成立し、債権が消えるのは給付の時)
- 設例=合意したが借りた人が山林を渡さないまま1か月→貸した人は山林の引渡しを請求できる・もとの100万円の請求も、特に取り決めがなければ妨げられないとされる
ここで、質問です。貸した人が、山林で受けると合意しました。合意しただけで、100万円の債権は、消えたでしょうか。合意しただけでは、100万円の債権は、消えていません。482条を、もう一度見てください。契約をした場合において、その弁済者が当該他の給付をしたときは、とあります。2段構えです。契約をしたことと、給付をしたことが、別々に書かれています。債権が消えるのは、2段目の、給付をした時です。整理します。2017年の改正前は、代物弁済は、要物契約とされていました。現実に物を渡して、はじめて契約が成立し、成立と同時に債権が消える、という考え方です。要物とは、物を渡して初めて成立する、という意味です。現行法は、諾成契約です。諾成とは、合意だけで成立する、という意味です。合意だけで契約は成立します。ただし、債権が消えるのは、代物を給付した時です。合意から給付までの間に、何が起きているか。まず、代物を給付せよ、という債権が、生まれています。そして、もとの100万円の債権も、まだ消えていません。設例です。貸した人が山林で受けると合意しました。ところが、借りた人は、山林を渡さないまま、1か月が過ぎました。貸した人は、山林の引渡しを求めることができます。もとの100万円を求めることも、特に取り決めがなければ、妨げられないと考えられています。合意しただけでは、貸した人は、まだ何も受け取っていないからです。
契約が成り立つのは合意の時、債権が消えるのは給付の時です。この2つの時点を、混ぜないでください。次は、その給付が、どこまでやれば完了なのかを見ます。
不動産の給付は登記まで終わって完了する
図:時間軸の板
- 山林の設例
- 合意の日=原則として所有権は貸した人へ移る(昭57)/引き渡しの日(鍵も渡す)=債権はまだ消えない/登記を移した日=債権が消える(昭39)
- 動産=引渡し/債権=第三者対抗要件(通知・承諾)
- 出典=最判昭39・11・26 民集18巻9号1984頁
山林で払う話に戻ります。借りた人が、山林を貸した人に引き渡しました。鍵も渡しました。ただ、登記は、まだ移していません。この時点で、100万円の債権は、消えたでしょうか。登記がまだ、という点が、決め手です。最高裁は、登記が移るまで、債権は消えていないと考えています。判決を読みます。
判例最判昭39・11・26 民集18巻9号1984頁
代物弁済が債務消滅の効力を生ずるとき 代物弁済が債務消滅の効力を生ずるには、債務者が本来の給付に代えてなす他の給付を現実に実行することを要し、単に代りの給付をなすことを債権者に約すのみでは足りず、従つて他の給付が不動産の所有権を移転することに存する場合においては、当事者がその意思表示をなすのみでは足りず、登記その他引渡行為を終了し、法律行為が当事者間のみならず、第三者に対する関係においても全く完了したときでなければ代物弁済は成立しないと解すべきである(略)。
この事件は、お金を借りる際に、返さなければ、お金の代わりに山林の所有権を移し、登記もする、と約束していた事案です。担保の形で、代物弁済の予約をしていた、ということです。その形を、担保に使う例が、仮登記担保でした。清算義務などの中身は、そちらで見たとおりです。高裁は、返済が滞った、という条件が満たされたことを確かめただけで、債務は代物弁済で消えた、としました。最高裁は、登記その他の引渡しが完了したかを確かめていない、として、判決を破棄しました。読みどころは、第三者に対する関係においても全く完了したとき、の部分です。貸した人と借りた人の間で、引渡しが済んでも、足りません。他人に対しても、自分のものだと言える状態まで、そろって、はじめて給付が完了した、と言えます。不動産なら、登記です。動産なら、引渡しです。債権が代物なら、債権譲渡の通知や承諾など、第三者への対抗要件が必要です。なぜ、そこまで求めるのか。登記が借りた人に残ったままだと、借りた人が同じ山林を別の人に売って、先に登記を移してしまうおそれがあります。そうなると、貸した人は山林を失います。それなのに100万円の債権だけが消えていたら、貸した人の手元には何も残りません。だから、他人に対しても自分のものだと言える状態になるまで、債権は消えないのです。先ほどの質問の答えです。引き渡して、鍵も渡したけれど、登記はまだ。債権は消えていません。鍵を渡しても、表札が書き換わるまでは、片づいたとは言えない、という感覚です。
この判決が答えたのは、債権がいつ消えるか、です。山林の所有権がいつ移るかは、次の判決が答えています。ここは、論文で論点になりうる部分です。
所有権が移る時は、合意の時
図:2つの時点
- 債権が消える時=登記を移した日(昭39)
- 所有権が移る時=原則として代物弁済契約の合意の日(意思主義・176条。昭57)
- ×「登記が済むまで所有権は移らない」
- 出典=最判昭57・6・4 集民136号39頁
債権が消える時と、所有権が移る時を、同じだと考えるのが、短答のひっかけです。別々の話です。物権で学んだとおり、所有権は、意思表示だけで移ります。代物弁済でも同じです。次の判決を読みます。
判例最判昭57・6・4 集民136号39頁
代物弁済による債務消滅の時期と所有権移転の時期 不動産所有権の譲渡をもつてする代物弁済による債務消滅の効果は、単に当事者がその意思表示をするだけでは足りず、登記その他引渡行為を完了し、第三者に対する対抗要件を具備したときでなければ生じないことはいうまでもないが(略)、そのことは、代物弁済による所有権移転の効果が、原則として当事者間の代物弁済契約の意思表示によつて生ずることを妨げるものではないと解するのが相当である(略)。
前半は、さっきの判決を引いて、債務が消えるのは、登記その他の引渡しを終えて、対抗要件を備えた時、と確認しています。後半が、新しい点です。代物弁済による所有権の移転は、原則として、契約の意思表示で生じる、と述べています。1つの判決で、2つの時点を、両方確認できます。山林の例で整理します。原則として、合意をした日に、山林の所有権は、貸した人に移ります。その後、引渡しと登記が終わった日に、100万円の債権が消えます。この間には、時間のずれがあります。登記が済むまで所有権は移らない、という記述は、誤りです。1つだけ、例外を押さえます。担保のための代物弁済の予約に、仮登記を付けた、仮登記担保です。仮登記担保の回で見たとおり、こちらは、清算金の見積額の通知が届いてから、2か月の清算期間が過ぎるまで、所有権は移りません。専用の法律が、そう定めているからです。所有権は合意の時、というのは、あくまで原則です。ここも、論文で論点になりうる部分です。
代物弁済の効果と、給付に問題があったとき
図:代物弁済の効果
- 弁済と同一の効力=債権の消滅・担保権の消滅
- 弁済の規定が準用・類推される(受取証書の交付486条・債権証書の返還487条)
- 代物弁済契約は有償契約=代物に欠陥があれば売買の担保責任の規定が準用される(559条)
効果を整理します。条文のとおり、給付は、弁済と同一の効力を持ちます。債権が消え、その債権のための担保も、消えます。弁済の規定が準用、あるいは類推されるので、以前、弁済の証明として見た、受取証書の交付や、債権証書の返還も問題になります。もう1点。代物弁済の契約は、お互いに対価を出し合う、有償の契約です。貸した人は、100万円の債権を手放す代わりに、この山林を受け取る、と合意しました。ところが、引き渡された山林の一部が、崖崩れで使えない土地だった、と後で分かったとします。約束どおりの山林を受け取れていません。売買で、代金を払った人が、約束どおりの物を受け取れなかった場面と、同じ形です。そこで、売買の担保責任、つまり、約束どおりの物を渡さなかった側が負う責任の規定を、代物弁済にも当てはめます。これが、準用です。
古い債務を、新しい債務に入れ替えるのは、更改という、別の制度です。債権が消える原因の地図で、名前だけ見ました。更改は、新しい債務ができた時に、古い債務が消えます。代物弁済は違います。合意しただけでは、もとの100万円の債権は残っていました。別の物を実際に渡した時に、債務そのものが消えます。
受け取ってもらえない借主はどうするか
図:供託の入口
- 借主が家賃を持参→大家が「値上げに応じないなら受け取らない」と拒む→債務は消えていない→供託所(法務局)に預ける→大家は還付請求ができる
- 借主=A・大家=B・供託所=C
ここから後半です。以前、弁済の提供の回で見た、家賃の設例を思い出してください。借主が、月末に家賃を持って行ったら、大家さんが、値上げに応じないなら受け取らない、と断りました。持って行っただけで、借主の家賃債務は、消えたでしょうか? 消えていません。持って行った家賃は、提供であって、弁済ではありませんでした。大家さんが受け取らないままだと、借主は、いつまでも、払う義務のある人のままです。そこで、家賃を供託所に預けて、債務から解放される制度があります。それが供託です。供託所は、法務局です。条文を読みます。494条です。
条文民法494条
民法第494条 弁済者は、次に掲げる場合には、債権者のために弁済の目的物を供託することができる。この場合においては、弁済者が供託をした時に、その債権は、消滅する。 一 弁済の提供をした場合において、債権者がその受領を拒んだとき。 二 債権者が弁済を受領することができないとき。 2 弁済者が債権者を確知することができないときも、前項と同様とする。ただし、弁済者に過失があるときは、この限りでない。
供託とは、弁済の目的物を、供託所に預けて、債務を消す制度です。受領を拒まれる、受領してもらえない、誰が債権者か分からない、という、弁済したくてもできない人のための、出口です。
供託できる場合は3つ
図:供託原因3つ
- その1
- ①受領拒絶(494条1項1号)=原則、先に弁済の提供が要る(提供して受領遅滞にしてから預ける)。例外=提供しても受け取らないことが明らかなら提供不要(例=賃貸借はもう終わっていると契約そのものを否定して拒む)。値上げを求めているだけではまだ明らかでない→提供が要る。
条文から、供託できる場合は3つです。順に見ます。1つめが、494条1項1号の、受領拒絶です。条文は、弁済の提供をした場合において、債権者がその受領を拒んだとき、と書いています。ここで質問です。大家さんが、値上げを求めているだけです。借主は、家賃を持って行かないまま、いきなり供託してよいでしょうか。断られていても、先に提供が要るかどうかが、分かれ目です。結論は、先に提供が要ります。1号は、弁済の提供をした場合において、と書いています。受領拒絶を理由にする供託は、原則として、先に弁済の提供が必要です。なぜか。供託されると、大家さんは、手元に届くはずだった家賃を、供託所まで請求しに行かなければなりません。しかも、値上げを求めて断っていても、目の前に家賃を差し出されたら、受け取るかもしれません。借主が、やるべきことを全部やって、それでも大家さんが受け取らなかった。そこまで来てはじめて、大家さんに、その手間を負わせてよい、と言えるのです。提供で、大家さんを受領遅滞の状態にしてから、預ける、という順序です。例外もあります。判例は、口頭の提供をしても、債権者が受け取らないことが明らかな場合には、提供をしないで、すぐに供託できる、としています。たとえば、大家さんが、賃貸借はもう終わっている、と契約そのものを否定して、受け取りを拒んでいる場合です。弁済の提供の回で、受け取らない意思が明確な場面として見た形です。ただ、今回は、値上げに応じなければ、というだけの拒み方です。まだ、気が変わる余地があります。明らかとは言えません。だから、提供してから供託します。
準備だけで足りる、というのは、遅れの責任を免れるかどうかの話でした。今の話は、供託ができるかどうかで、別の問いです。そして、ここは、論文で論点になりうる部分です。
図:供託原因3つ
- その2
- ②受領不能(494条1項2号)=文言に「弁済の提供をした場合」が無い→提供不要。例=持参債務で債権者が行方不明。③債権者不確知(494条2項)=弁済者に過失があるときは除く。例=債権が二重に譲渡され、誰が債権者か決められない
- 相続人が分からない。一部だけの供託は効力がない(不足がごくわずかなら供託は有効)。
2つめは、494条1項2号の、受領不能です。債権者が、弁済を受領できないとき、です。この場合は、提供は要りません。2号の文言には、1号のような、弁済の提供をした場合において、という言葉がないからです。持参債務なのに、債権者が行方不明で、持って行っても、誰も受け取れない、という例です。差し出す相手がいないのに、提供を求めても、意味がありません。受領遅滞の回では、受け取れない場合も、提供があってはじめて受領遅滞になる、と見ました。あれは、413条の、保存の注意が軽くなる、といった効果の話です。供託ができるかどうかは、494条の文言で決まります。3つめは、494条2項の、債権者不確知です。誰が債権者か、弁済者に分からないときです。ただし、弁済者に過失があるときは、供託できません。債権が二重に譲渡されて、誰に払うべきか決められない場面が、まさにこれでした。同時に届いた通知の回で、供託の場面を見ましたが、あれは、この3つめです。相続が起きて、相続人が誰か分からない場合も、同じです。補足です。一部だけの供託は、債務の本旨に従っていないので、効力がありません。家賃の一部だけ預けられても、大家さんは、残りを別に取り立てなければならず、債務が片づかないからです。ただし、不足がごくわずかなら、その供託は有効とされます。わずかな不足を理由に、供託を丸ごと無効にするのは、借主に酷だからです。
どこへ預け、誰に知らせるか
図:495条
- ①供託は債務の履行地の供託所でする(1項)
- 家賃=持参債務→大家の住所地の法務局②供託所について法令に特別の定めがないとき→裁判所が供託所の指定と保管者の選任(2項)③供託した者は遅滞なく債権者に供託の通知(3項)
預ける場所と、知らせる義務です。495条です。
条文民法495条
民法第495条 前条の規定による供託は、債務の履行地の供託所にしなければならない。 2 供託所について法令に特別の定めがない場合には、裁判所は、弁済者の請求により、供託所の指定及び供託物の保管者の選任をしなければならない。 3 前条の規定により供託をした者は、遅滞なく、債権者に供託の通知をしなければならない。
弁済の提供の回で見たとおり、家賃は、大家さんの住所へ持参するのが、原則でした。履行地は、大家さんの住所地です。だから、借主は、その住所地の法務局に、供託します。供託所について、特別の定めがないときは、裁判所が、供託所を指定し、保管者を選びます。そして、供託したら、遅滞なく、大家さんに通知します。預けたことを知らせなければ、大家さんは、預けられたことを知らず、供託所から受け取る請求、つまり還付の請求のしようがありません。譲渡制限特約があるときの供託を、前に見ました。あれは、466条の2という、この一般の供託の特則です。違うのは、供託できる場面です。今日の3つの場合に当たらなくても、特約付きの金銭債権が譲渡された、という事実だけで供託できます。還付を請求できるのも、譲受人に限られます。履行地の供託所、遅滞なき通知、という発想は、共通です。
預けられない物は、お金に替えて預ける
図:497条の自助売却
- 裁判所の許可を得て目的物を競売し、代金を供託できる場合=①供託に適しないとき②滅失・損傷その他の事由による価格の低落のおそれ③保存について過分の費用④前三号のほか供託が困難な事情(2017年改正で追加)
- 例=引き渡すはずの傷みやすい果物を買った人が受け取らない→そのまま預かってくれる供託所はない→競売して代金を供託
供託の目的物が、お金とは限りません。497条です。
条文民法497条
民法第497条 弁済者は、次に掲げる場合には、裁判所の許可を得て、弁済の目的物を競売に付し、その代金を供託することができる。 一 その物が供託に適しないとき。 二 その物について滅失、損傷その他の事由による価格の低落のおそれがあるとき。 三 その物の保存について過分の費用を要するとき。 四 前三号に掲げる場合のほか、その物を供託することが困難な事情があるとき。
例です。傷みやすい果物を、買った人に引き渡すはずでした。ところが、買った人が、受け取りません。果物を、そのまま預かってくれる供託所はありません。放っておけば、腐ります。そこで、裁判所の許可を得て、競売にかけ、その代金を供託します。預けられない物は、お金に替えて預ける、という発想です。弁済者が勝手に売ると、安く売り飛ばすおそれがあるからです。許可は、債権者を守る歯止めです。4号は、2017年の改正で加わりました。現行法は4つです。
供託の効果と、債権者の還付請求権
図:供託の効果
- ①供託をした時に債権は消滅する(494条1項後段)②債権者は供託物の還付を請求できる(498条1項)
- 受益の意思表示は不要③債務者が債権者の給付に対して弁済すべき場合(例=代金と引換えの引渡し)は、債権者はその給付をしなければ供託物を受け取れない(498条2項)
- 家賃の設例=借主が供託→債権消滅→大家は供託所に還付を請求
預けたら、どうなるか。まず、494条1項の後段です。弁済者が供託をした時に、その債権は、消滅します。借主の家賃債務は、供託した時に、消えます。では、大家さんは、どうなるのか。498条です。
条文民法498条
民法第498条 弁済の目的物又は前条の代金が供託された場合には、債権者は、供託物の還付を請求することができる。 2 債務者が債権者の給付に対して弁済をすべき場合には、債権者は、その給付をしなければ、供託物を受け取ることができない。
債権者は、供託所に、供託物を渡してほしい、と請求できます。還付請求権です。債権者が、受け取る、と意思表示をしなくても、請求できます。2項です。債務者が、債権者の給付と引換えに、弁済すればよい場合です。さっきの果物で言えば、売った人は、代金と引換えに果物を渡せばよい立場でした。その売った人が、果物を競売にかけて、そのお金を供託したとします。買った人は、自分の払うべき代金を払わなければ、預けられたお金を受け取れません。債権者は、反対給付をしないまま、供託物だけを取り上げることは、できないのです。
供託者の取戻しと、「供託しなかったものとみなす」
図:496条
- ①債権者が供託を受諾せず、または供託を有効と宣告した判決が確定しない間は、弁済者は供託物を取り戻せる
- 取り戻すと「供託をしなかったものとみなす」→債権は消えなかったことになり、家賃の遅れの責任も元に戻る②取戻しができない場合=債権者が受諾した/供託を有効と宣告した判決が確定した(例=債権者が起こした支払請求訴訟で、借主の供託の抗弁が認められ請求棄却が確定)/供託によって質権または抵当権が消滅した(496条2項)
質問です。借主が家賃を供託しました。債権は消えて、大家さんは還付を請求できます。ところが、借主が、やはり別の使い道がある、と言って、供託物を取り戻しました。いったん消えた債権は、どうなるでしょうか。取り戻すと、債権は、消えなかったことになります。条文を読みます。496条です。
条文民法496条
民法第496条 債権者が供託を受諾せず、又は供託を有効と宣告した判決が確定しない間は、弁済者は、供託物を取り戻すことができる。この場合においては、供託をしなかったものとみなす。 2 前項の規定は、供託によって質権又は抵当権が消滅した場合には、適用しない。
取り戻したら、供託をしなかったものとみなします。つまり、債権は、消えなかったことになります。借主は、大家さんへの家賃債務を負ったままで、遅れの責任も、元に戻ります。供託した時に債権が消える、という効力は、取り戻すことを、いわば解除条件にしている、と考えると整理できます。ただし、取り戻せるのは、債権者が受諾せず、供託を有効と宣告した判決も確定していない間です。大家さんが受諾したら、つまり、供託を受け入れると伝えたら、取り戻せません。大家さんが、支払いを求めて訴えを起こして、借主の供託の抗弁が認められ、請求が棄却されて確定した場合も、取り戻せません。なぜか。大家さんが受け入れると伝えたら、大家さんは、そのお金を受け取るつもりで動いています。判決が確定したら、供託で家賃債務は消えた、という前提で、争いに決着がついています。ここで取り戻しを許すと、受け入れた大家さんの期待も、判決の決着も、ひっくり返ってしまいます。さらに2項です。供託によって、質権や抵当権が消えていたら、取り戻せません。取り戻しを認めると、供託をしなかったことになり、消えたはずの質権や抵当権まで復活してしまいます。担保が消えたと信じて、その物を買った人や、後の順位の抵当権者がいたら、不意打ちになります。だから、取り戻しそのものを認めないのです。
冒頭の答えとまとめ
図:冒頭の答え
- 貸した人が合意すれば、価値が釣り合わなくても代物弁済は成立し、100万円の債務は、代物の給付(山林なら登記)の時に全部消える
- 合意が無ければ、借りた人は山林を押し付けられない
- まとめ=①482条=契約+他の給付②諾成契約=債権が消えるのは給付の時③不動産=登記完了の時(昭39)・所有権は合意の時(昭57)④供託原因3つ=受領拒絶(原則、提供が前提)・受領不能・債権者不確知(弁済者に過失がないとき)⑤供託=供託時に債権消滅・還付請求権・取戻しで供託しなかったものとみなす・取戻し不可は3場合
冒頭の答えです。貸した人が合意すれば、山林の時価が60万円でも、代物弁済は成立します。100万円の債務は、山林の給付が終わった時に、全部消えます。山林なら、登記が終わった時です。貸した人が合意しなければ、借りた人は、山林を押し付けられません。整理します。1つめ。代物弁済は、482条です。債権者との契約と、他の給付で、成り立ちます。2つめ。契約は、合意だけで成立します。ただし、債権が消えるのは、代物を給付した時です。3つめ。不動産なら、債務が消えるのは、登記が終わった時です。ただし、所有権は、原則として、合意の時に移ります。2つの時点は別です。4つめ。供託できる場合は3つです。受領拒絶は、原則として、先に弁済の提供が要ります。受領不能は、提供が要りません。債権者不確知は、弁済者に過失がないときです。供託は、債務の履行地の供託所にして、遅滞なく通知します。傷みやすい物などは、裁判所の許可を得て、競売して、代金を供託できます。5つめ。供託をすると、その時に、債権が消えます。債権者は、還付を請求できます。取り戻すと、供託をしなかったものとみなされます。ただし、債権者の受諾、有効と宣告した判決の確定、質権や抵当権の消滅があれば、取り戻せません。次からは、目的が達成されないまま消える群に入ります。
参照条文
- 民法482条
- 民法494条
- 民法495条
- 民法497条
- 民法498条
- 民法496条