民法ゼロから民法#186

相殺禁止(509条・510条・特約)

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第4章 債権総論 #186/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

殴ってけがをさせた相手への貸金と、治療費を相殺できるか

冒頭の関係図。Aさんは、Bさんに60万円を貸している(返す日は過ぎたが返さない)。腹を立てたAさんがBさんを殴り、Bさんは治療費12万円のけがを負った。BさんがAさんに治療費12万円の賠償を請求。Aさんが相殺する側。貸金60万円=自働債権、賠償12万円=受働債権。下段=相殺できれば12万円は現金で払わず貸金は残り48万円/できなければ12万円を現金で払い貸金60万円はそのまま。 図:冒頭の関係図

  • Aさんは、Bさんに60万円を貸している(返す日は過ぎたが返さない)
  • 腹を立てたAさんがBさんを殴り、Bさんは治療費12万円のけがを負った
  • BさんがAさんに治療費12万円の賠償を請求
  • Aさんが相殺する側
  • 貸金60万円=自働債権、賠償12万円=受働債権
  • 下段=相殺できれば12万円は現金で払わず貸金は残り48万円/できなければ12万円を現金で払い貸金60万円はそのまま

Aさんは、Bさんに60万円を貸していました。返す約束の日は過ぎているのに、Bさんは返してくれません。腹を立てたAさんは、Bさんを殴ってしまい、Bさんは治療費が12万円かかるけがをしました。今日の設例です。貸した側がAさんで、殴ったので加害者でもあります。借りた側がBさんで、被害者です。Bさんは、Aさんに、治療費として12万円の賠償を求めてきました。相殺をする側はAさんです。貸金60万円が、Aさんの自働債権です。Bさんの12万円の賠償請求が、Aさんから見た受働債権です。先に答えを言います。加害者のAさんからは、相殺できません。被害者のBさんからなら、相殺できます。この向きの違いが、今日の主題です。数字で見ておきます。もしAさんが相殺できれば、12万円は現金で払わずに済み、貸金は残り48万円になります。相殺できないなら、Aさんは、12万円を現金で払い、60万円の貸金はそのまま残ります。前に見た担保的機能、つまり、相手が払えなくなっても先に回収できる働きが、ここでは使えなくなる場面です。なぜ禁じられるのか。条文を順に見ます。

相殺禁止の特約は、悪意・重過失の第三者にだけ対抗できる

505条2項。当事者は相殺を禁止・制限する意思表示(相殺禁止特約・相殺制限特約)ができる。当事者のあいだでは特約に反する相殺はできない。第三者に対抗できるのは、第三者が特約を知っていた(悪意)か、知らないことに重大な過失があったときに限る。善意・無重過失の第三者には対抗できない。対抗できる=特約を主張できる=相殺できない/対抗できない=相殺できる。 図:505条2項

  • 当事者は相殺を禁止・制限する意思表示(相殺禁止特約・相殺制限特約)ができる
  • 当事者のあいだでは特約に反する相殺はできない
  • 第三者に対抗できるのは、第三者が特約を知っていた(悪意)か、知らないことに重大な過失があったときに限る
  • 善意・無重過失の第三者には対抗できない
  • 対抗できる=特約を主張できる=相殺できない/対抗できない=相殺できる

以前、譲渡制限特約を見ました。思い出してください。特約があっても、債権の譲渡そのものは有効でした。では、債務者が履行を拒めるのは、どんな譲受人に対してだったでしょうか?特約を知っていた譲受人と、知らないことに重大な過失があった譲受人です。これと同じ形が、相殺にもあります。条文を読みます。

条文民法505条2項

民法第505条2項 2 前項の規定にかかわらず、当事者が相殺を禁止し、又は制限する旨の意思表示をした場合には、その意思表示は、第三者がこれを知り、又は重大な過失によって知らなかったときに限り、その第三者に対抗することができる。

意味を、順に言います。当事者は、相殺を禁止したり、制限したりする約束をしてよいのです。相殺禁止特約、相殺制限特約と呼びます。当事者のあいだでは、約束に反する相殺はできません。問題は、第三者です。特約を知りようがない第三者にまで、約束を押しつけると、取引の安全を損ないます。そこで、条文は、特約を持ち出せる相手を、限りました。第三者が、特約を知っていた、つまり悪意か、知らないことに重大な過失があった、つまり重過失のときに限ります。善意で、重過失もない第三者には、対抗できません。特約を、その第三者に向かって主張できる、という意味です。主張できるなら、相殺はできません。主張できないなら、相殺できます。この読み替えで、設例を見ましょう。A卸会社とB小売チェーンは、取引の基本契約で、互いの債権は、相殺には使わない、と約束しました。これが、相殺禁止特約です。A卸会社は、B小売チェーンに、貸金300万円をもっていました。A卸会社は、この貸金を、金融業者Cに売りました。債権譲渡です。ところが、Cは、B小売チェーンに、別に200万円の債務を負っています。Cは、こう言います。買った300万円の貸金を自働債権にして、自分の200万円の債務と相殺する、と。

設例の関係図。A卸会社=A・B小売チェーン=B・金融業者=C。A↔B=互いの債権は相殺に使わない(特約)。A→C=貸金300万円を売る。C→B=別の債務200万円。Cの相殺。下に2段。Cが悪意・重過失=特約をCに対抗できる→相殺×/Cが善意・無重過失=対抗できない→相殺○(対当額200万円)。 図:設例の関係図

  • A卸会社=A・B小売チェーン=B・金融業者=C
  • A↔B=互いの債権は相殺に使わない(特約)
  • A→C=貸金300万円を売る
  • C→B=別の債務200万円
  • Cの相殺
  • 下に2段
  • Cが悪意・重過失=特約をCに対抗できる→相殺×/Cが善意・無重過失=対抗できない→相殺○(対当額200万円)

Cが、特約を知っていた、または、知らないことに重大な過失があったなら、B小売チェーンは、特約をCに対抗できます。Cの相殺は、できません。Cが、特約を知らず、重大な過失もなかったなら、B小売チェーンは、特約をCに対抗できません。Cの相殺は有効で、対当額である200万円が消えます。特約を知らなかったけれど、少し注意すれば気づけた、という場合はどうなるんですか。それでも、保護されるんでしょうか。保護されます。重大な過失とは、ほとんど悪意と同じ、という意味でした。たとえば、特約の書かれた基本契約書を、債権を買うときに渡されていたのに、目を通さなかった。こうした、ほんのわずかな注意も払わなかった、と言える場合が、重大な過失にあたりえます。少し注意すれば気づけた、という程度の軽い不注意なら、善意の第三者として守られます。

466条3項と505条2項の対比。特約の中身=466条3項は譲渡を禁止・制限/505条2項は相殺を禁止・制限。持ち出される相手の要件=どちらも「知り、又は重大な過失によって知らなかった」第三者。改正前の505条2項=条文は「善意の第三者に対抗できない」だけ。2017年の改正で466条3項と同じ形に揃えた=重大な過失も条文に明記。 図:466条3項と505条2項の対比

  • 特約の中身=466条3項は譲渡を禁止・制限/505条2項は相殺を禁止・制限
  • 持ち出される相手の要件=どちらも「知り、又は重大な過失によって知らなかった」第三者
  • 改正前の505条2項=条文は「善意の第三者に対抗できない」だけ
  • 2017年の改正で466条3項と同じ形に揃えた=重大な過失も条文に明記

譲渡制限特約の条文と、並べます。特約の中身は、片方が譲渡、もう片方が相殺で違います。ただ、特約を持ち出される相手の要件は、同じです。知り、又は重大な過失によって知らなかった者です。実は、2017年の改正の前は、505条2項は、善意の第三者に対抗できない、とだけ書いていました。重大な過失をどう扱うかは、条文からは読めませんでした。改正で、重大な過失のある第三者にも対抗できる、と条文に書き込まれ、譲渡制限特約と同じ形に揃いました。線を1本引いておきます。譲渡のあとの相殺には、別の条件があります。それは別の回で見ます。今日は、特約があるときに、第三者に対抗できるか、だけを見ました。

509条——悪意の不法行為と、人身損害の賠償債務は、加害者から相殺できない

509条の構造。柱書=次に掲げる債務の債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。1号=悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務。2号=人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務(前号に掲げるものを除く)。ただし書=その債権者が債務に係る債権を他人から譲り受けたときは、この限りでない。読み方=受働債権が1号か2号なら、その債務者=加害者は相殺できない。2017年の改正=改正前は不法行為による賠償債務なら一律に不可→改正後は2類型に限定(過失で物を壊した程度なら今は相殺できる)。 図:509条の構造

  • 柱書=次に掲げる債務の債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない
  • 1号=悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務
  • 2号=人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務(前号に掲げるものを除く)
  • ただし書=その債権者が債務に係る債権を他人から譲り受けたときは、この限りでない
  • 読み方=受働債権が1号か2号なら、その債務者=加害者は相殺できない
  • 2017年の改正=改正前は不法行為による賠償債務なら一律に不可→改正後は2類型に限定(過失で物を壊した程度なら今は相殺できる)

いよいよ、冒頭の問いに関わる条文です。509条です。

条文民法509条

民法第509条 次に掲げる債務の債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。ただし、その債権者がその債務に係る債権を他人から譲り受けたときは、この限りでない。 一 悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務 二 人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務(前号に掲げるものを除く。)

読み方です。柱書は、次に掲げる債務の債務者は、相殺をもって債権者に対抗できない、と言っています。債務の債務者とは、賠償をする側、つまり加害者です。受働債権が、次の2つのどちらかなら、その債務者は、相殺できません。1号は、悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務です。2号は、人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務で、前号に掲げるものを除く、とあります。ただし書は、あとで見ます。不法行為とは、わざと、または不注意で他人に損害を与えた人が、賠償の責任を負う、という制度です。中身は別の回で扱います。今日は、その一言だけ押さえてください。2017年の改正にも触れます。改正の前は、不法行為による賠償債務であれば、一律に相殺が禁じられていました。過失で物を壊した場合も、同じです。改正で、今の2つだけに絞りました。悪意のある不法行為と、人の生命・身体の侵害です。

過失で物を壊しただけなら、今の条文では、相殺できます。悪意でもなく、人身損害でもないからです。あとで、表にして、答え合わせをします。冒頭の設例に当てはめます。Aさんは、腹立ちまぎれに殴りました。悪意による不法行為にあたる、と考えられます。そして、けがの治療費は、人の身体の侵害による賠償です。どちらにしても、受働債権の債務者であるAさんは、相殺できません。

509条の趣旨——不法行為の誘発防止と、被害者に現実の給付を得させること

509条の2つの趣旨。①不法行為の誘発防止=加害者に相殺を認めると「殴って賠償債務を負っても、貸金と差し引ける」と気軽に不法行為をするおそれ→相殺を禁じて防ぐ(1号が中心)。②被害者に現実の給付を得させる=治療費など被害者には現金が要る→加害者が相殺で済ませると被害者の手元に現金が入らない→加害者に現実に払わせる(2号が中心)。冒頭の数字=Aさんが相殺すればBさんは治療費12万円を自腹で立て替えるはめになる。 図:509条の2つの趣旨

  • ①不法行為の誘発防止=加害者に相殺を認めると「殴って賠償債務を負っても、貸金と差し引ける」と気軽に不法行為をするおそれ→相殺を禁じて防ぐ(1号が中心)
  • ②被害者に現実の給付を得させる=治療費など被害者には現金が要る→加害者が相殺で済ませると被害者の手元に現金が入らない→加害者に現実に払わせる(2号が中心)
  • 冒頭の数字=Aさんが相殺すればBさんは治療費12万円を自腹で立て替えるはめになる

なぜ、相殺が禁じられるのか。趣旨は2つあります。1つめは、不法行為の誘発を防ぐことです。もし、加害者に相殺を認めたら、どうなるでしょう。貸金をもっている人は、こう考えるかもしれません。殴って賠償を負っても、どうせ貸金と差し引ける、と。相殺で済むなら、気軽に手を出せてしまいます。相殺を禁じれば、この誘発を防げます。もし加害者側からの相殺が許されるなら、Aさんは殴っても、賠償の12万円を貸金60万円から差し引くだけで済みます。返さない相手を殴っても損をしないので、取り立ての手段として暴力が使われかねません。そこで、条文は、加害者からの相殺そのものを禁じています。2つめは、被害者に、現実の給付を得させることです。治療費は、現金で必要です。加害者が、貸金と差し引いて済ませると、被害者の手元には、現金が入りません。被害者は、自腹で治療費を立て替えなければなりません。相殺を禁じて、加害者から被害者へ、現実に払わせるのです。

貸金60万円は、Aさんの権利のままです。それを取り立てたいなら、別に請求すればよいのです。治療費の12万円は、まず現金で渡す。そのうえで、貸金は別に決着をつける。これが条文の考え方です。2つの趣旨は、号ごとに、力点が違います。1号の悪意は、相殺目当てでわざと害することを防ぐので、誘発の防止が中心です。2号の人身損害は、被害者に現実の賠償を得させる必要が特に高いので、現実の給付が中心です。ただし、どちらの号でも、両方の趣旨で説明できます。

1号の「悪意」は、積極的に害する意思——故意より狭い

1号の「悪意」。規範=509条1号の悪意とは、単なる故意(結果を認識して行うこと)を超えて、積極的に害を与える意欲(害意)をいう。466条3項・505条2項の悪意=特約を知っていた/509条1号の悪意=積極的に害する意思(条文ごとに意味が違う)。整理表=縦は加害の態様(過失/故意だが害意なし/悪意)、横は損害(物損/人身損害)。物損=過失○・故意(害意なし)○・悪意×(1号)。人身損害=過失×(2号)・故意(害意なし)×(2号)・悪意×(1号)。○=相殺できる/×=できない。 図:1号の「悪意」

  • 規範=509条1号の悪意とは、単なる故意(結果を認識して行うこと)を超えて、積極的に害を与える意欲(害意)をいう
  • 466条3項・505条2項の悪意=特約を知っていた/509条1号の悪意=積極的に害する意思(条文ごとに意味が違う)
  • 整理表=縦は加害の態様(過失/故意だが害意なし/悪意)、横は損害(物損/人身損害)
  • 物損=過失○・故意(害意なし)○・悪意×(1号)
  • 人身損害=過失×(2号)・故意(害意なし)×(2号)・悪意×(1号)
  • ○=相殺できる/×=できない

1号の悪意を、掘り下げます。ここは、論文で論点になりうる部分です。規範を言います。509条1号の悪意とは、単なる故意、つまり結果を分かっていてわざと行うことを超えて、積極的に害を与える意欲、つまり害意をいいます。通常の意味の、知っていること、という悪意とは異なります。同じ悪意という字でも、条文ごとに意味が違います。505条2項と466条3項の悪意は、特約を知っていた、という意味です。509条1号の悪意は、積極的に害する意思です。試験で、引っかけに使われる点です。なぜ、1号の悪意だけ、狭いんでしょうか。1号の目的が、誘発の防止だからです。誘発が心配なのは、相殺で済ませたいから、わざと害する、という場合です。つまり、積極的な害意がある場合だけです。うっかりは、わざとではないので、誘発のしようがありません。故意があっても、害したい意欲まではない場合に、一律に禁じると広すぎます。しかも、人身損害であれば、2号が別に拾います。3つの場合で、確かめます。AさんがBさんに腹いせをして、Bさんの大事な腕時計を、叩き割りました。物損で、わざとで、害する意欲があります。1号にあたり、相殺できません。次に、故意はあるけれど、害意がない場合です。近道のために、他人の畑を横切って、作物を踏み荒らしました。結果は分かっていましたが、害したいわけではありません。1号にあたりません。物損なので、2号も関係なく、相殺できます。

最後に、過失です。うっかり、Bさんの腕時計を踏んで壊しました。相殺できます。表にまとめます。物損なら、過失と、害意のない故意は、相殺できます。害意のある悪意だけが、1号で相殺できません。人身損害なら、過失でも、害意のない故意でも、2号で相殺できません。悪意は、1号で相殺できません。なお、1号は、不法行為だけを対象にします。債務不履行は、悪意があっても、1号にはあたりません。債務不履行で相殺が禁じられるのは、2号、つまり人身損害の場合だけです。

2号——人身損害の賠償債務は、故意・過失を問わず。債務不履行も含む

2号。条文=相手の生命・身体を傷つけたことで負う賠償の債務が受働債権なら、悪意(害意)が無くても、過失でも、相殺できない。不法行為に限らず、債務不履行(415条)による賠償債務も含む。設例1=うっかり自転車でBさんにぶつけてけがをさせたAさん(過失)。貸金60万円で治療費12万円の賠償債務を相殺→できない。設例2=A卸会社が、安全配慮義務を怠って従業員にけがをさせた。従業員に貸付金があっても、賠償債務を相殺→できない。1号と2号の使い分け=不法行為+悪意→1号(物損でも人身でも)/人身損害(不法行為でも債務不履行でも・悪意でなくても)→2号/物損+悪意なし→どちらでもない=相殺できる。 図:2号

  • 条文=相手の生命・身体を傷つけたことで負う賠償の債務が受働債権なら、悪意(害意)が無くても、過失でも、相殺できない
  • 不法行為に限らず、債務不履行(415条)による賠償債務も含む
  • 設例1=うっかり自転車でBさんにぶつけてけがをさせたAさん(過失)
  • 貸金60万円で治療費12万円の賠償債務を相殺→できない
  • 設例2=A卸会社が、安全配慮義務を怠って従業員にけがをさせた
  • 従業員に貸付金があっても、賠償債務を相殺→できない
  • 1号と2号の使い分け=不法行為+悪意→1号(物損でも人身でも)/人身損害(不法行為でも債務不履行でも・悪意でなくても)→2号/物損+悪意なし→どちらでもない=相殺できる

以前、安全配慮義務を見ました。債務不履行の1つでした。その義務に違反した場合、債務不履行の損害賠償を請求できる、という話でした。2号は、これとつながります。2号の中身です。相手の生命や身体を傷つけたことで負う賠償の債務が受働債権なら、悪意が無くても、過失でも、相殺は禁じられます。そして、不法行為に限りません。債務不履行による賠償債務も含みます。設例を2つ置きます。1つめ。Aさんが、前をよく見ずに自転車を走らせ、歩いていたBさんにぶつけて、けがをさせました。過失です。AさんはBさんに、貸金60万円をもっています。Bさんの治療費12万円の賠償債務を、貸金で相殺できるでしょうか。

1号にはあたりません。ただ、人の身体の侵害による賠償債務なので、2号にあたり、相殺できません。2つめは、債務不履行です。A卸会社が、安全配慮義務を怠って、自社の倉庫で働く従業員に、けがをさせました。A卸会社は、この従業員に、貸付金をもっています。従業員の賠償請求を、貸付金で相殺できるでしょうか。債務不履行による人身損害の賠償債務なので、2号にあたり、相殺できません。不法行為だけでなく、債務不履行も入る、という点が、2号の特徴です。なぜ、原因を問わないのか。治療費が現金で要るのは、けがの原因が、殴られたことでも、職場の安全配慮義務違反でも、同じだからです。2号は、加害の態様ではなく、生命・身体という被害の重さで、線を引いた条文なのです。賠償の中身は、治療費がその典型です。身体への侵害から生じた損害の賠償債務が、広く2号にあたります。1号と2号の関係を、条文で読みます。2号の末尾に、前号に掲げるものを除く、とあります。悪意の不法行為なら、1号が先にあたります。2号は、悪意ではない人身損害を受け止める条文です。結論は、どちらも相殺できません。ただ、条文の入口が違います。使い分けをまとめます。不法行為で、悪意なら、物損でも人身損害でも、1号です。人身損害なら、不法行為でも債務不履行でも、悪意でなくても、2号です。物損で、悪意がなければ、どちらでもなく、相殺できます。

509条ただし書——被害者から譲り受けた債権者に対してなら、加害者も相殺できる

509条ただし書。条文=その債権者が、その債務に係る債権を他人から譲り受けたときは、509条の相殺禁止は適用されない。設例=Bさんが、Aさんへの治療費の賠償債権12万円をCさん(知人)に譲渡(Bさんは対価で現金を得ている)。Cさんは、Aさんから別に25万円を借りている。Aさんは、Cさんへの貸金25万円で、Cさんが譲り受けた賠償債権12万円と相殺できる(対当額12万円)。理由=①現実の給付を受けさせる相手は被害者本人。Cさんは被害者ではない②Aさんが相殺しても不法行為の誘発の心配はない=条文の趣旨が当てはまらない。 図:509条ただし書

  • 条文=その債権者が、その債務に係る債権を他人から譲り受けたときは、509条の相殺禁止は適用されない
  • 設例=Bさんが、Aさんへの治療費の賠償債権12万円をCさん(知人)に譲渡(Bさんは対価で現金を得ている)
  • Cさんは、Aさんから別に25万円を借りている
  • Aさんは、Cさんへの貸金25万円で、Cさんが譲り受けた賠償債権12万円と相殺できる(対当額12万円)
  • 理由=①現実の給付を受けさせる相手は被害者本人
  • Cさんは被害者ではない②Aさんが相殺しても不法行為の誘発の心配はない=条文の趣旨が当てはまらない

条文のただし書です。その債権者が、その債務に係る債権を、他人から譲り受けたときは、この限りでない。つまり、譲り受けた債権者に対しては、509条の相殺禁止は、適用されません。設例です。冒頭のBさんが、Aさんに対する、治療費12万円の賠償債権を、知人のCさんに譲渡しました。Bさんは、譲渡の対価として、すでに現金を受け取っています。一方、Cさんは、Aさんから、別に25万円を借りています。Aさんは、Cさんへのこの貸金で、Cさんが譲り受けた賠償債権と相殺できるでしょうか。できます。理由は2つです。1つめ。現実の給付を受けさせる相手は、被害者本人です。賠償債権を今もっているCさんは、被害者ではありません。被害者のBさんは、譲渡の対価で、すでに現金を得ています。2つめ。賠償債権を誰かに譲るかどうかは、Bさんがあとから決めることで、Aさんには決められません。殴る時点のAさんには、貸金と差し引ける、という見込みが立たないのです。だから、ここで相殺を認めても、不法行為の誘発にはつながりません。つまり、条文の2つの趣旨が、どちらも当てはまらないのです。前回の、時効にかかった債権の譲受人と、取り違えないでください。あちらは、譲受人が、譲り受けた債権を自働債権にして、自分から相殺しようとして、許されませんでした。こちらは、譲り受けた賠償債権が受働債権の側に回り、相殺するのは加害者のAさんです。譲受人の立つ向きが逆なので、2つの結論はぶつかりません。

被害者の側からの相殺はできる

被害者の側からの相殺。509条が禁じるのは、賠償債務を受働債権とする加害者の相殺。被害者が自分の賠償債権を自働債権にして相殺するのは禁じていない。設例(冒頭の続き)=Bさんが、治療費の賠償債権12万円(自働債権)で、Aさんから借りた貸金債務60万円(受働債権)と相殺→できる(対当額12万円・Bさんの借金は残り48万円)。理由=509条は被害者を守る規定→被害者が望むなら現実の給付を放棄してよい。合意による相殺(相殺契約)なら加害者側からでもできる。 図:被害者の側からの相殺

  • 509条が禁じるのは、賠償債務を受働債権とする加害者の相殺
  • 被害者が自分の賠償債権を自働債権にして相殺するのは禁じていない
  • 設例(冒頭の続き)=Bさんが、治療費の賠償債権12万円(自働債権)で、Aさんから借りた貸金債務60万円(受働債権)と相殺→できる(対当額12万円・Bさんの借金は残り48万円)
  • 理由=509条は被害者を守る規定→被害者が望むなら現実の給付を放棄してよい
  • 合意による相殺(相殺契約)なら加害者側からでもできる

冒頭の答えのもう半分です。被害者のBさんの側から、貸金と相殺したい、と言い出したら、どうなるでしょうか。できます。509条が禁じているのは、賠償の債務を負う側、つまり加害者が、その債務を受働債権にする相殺です。被害者が、自分の賠償債権を自働債権にして相殺することは、禁じていません。設例です。Bさんは、治療費12万円の賠償債権を自働債権にして、Aさんから借りた貸金60万円の債務を、受働債権として、相殺します。対当額の12万円が消えて、Bさんの借金は、残り48万円になります。理由は、509条が被害者を守る規定だからです。守られる被害者が、自分から相殺を望むなら、現実の給付を受ける利益を、手放してよいのです。保護の対象が望むことを、禁じる理由はありません。最高裁の判決も、同じ方向です。先に断っておきます。この判決は、2017年の改正の前の、509条についての事案です。ただ、509条が禁じるのは、賠償債務を受働債権とする相殺だ、という条文の作りは、今の509条も同じです。ですから、被害者の側からの相殺はできる、という点は、今の条文でも同じです。判決の1文を読みます。

判例最判昭42・11・30 民集21巻9号2477頁

509条は、被害者が損害賠償債権を自働債権として相殺することまでは禁止しないとした判決 民法五〇九条は、不法行為の被害者をして現実の弁済により損害の填補をうけしめるとともに、不法行爲の誘発を防止することを目的とするものであるから、不法行爲に基づく損害賠償債権を自働債権とし不法行爲による損害賠償債権以外の債権を受働債権として相殺をすることまでも禁止する趣旨ではないと解するのを相当する。

読み方です。この判決は、条文の趣旨を、現実の弁済で損害を埋め合わせさせることと、誘発を防ぐこと、と見ています。さっき見た2つの趣旨と同じです。そのうえで、賠償の債権を自働債権にして、賠償以外の債権を受働債権にして相殺することまでは、禁じる趣旨ではない、と言っています。設例で言えば、Bさんが、賠償債権で、自分の借金と相殺することです。なお、加害者と被害者が、合意して相殺する場合は、別です。以前見た相殺契約、つまり合意による相殺なら、加害者の側からでもできます。被害者が納得しているからです。509条が止めるのは、加害者の一方的な意思表示による相殺です。型を、覚えておいてください。加害者の側からの相殺は禁じられ、守られる側からの相殺は禁じられません。冒頭で言った、向きの違いです。この型は、510条でも出てきます。

双方がけがをした交通事故——どちらの側からも相殺できない

双方過失の交通事故。設例=2台の自動車を運転していたDさんとEさんが、お互いの不注意で衝突し、2人ともけがをした。DさんのEさんへの賠償債権=治療費など20万円。EさんのDさんへの賠償債権=治療費など15万円(どちらも過失による人身損害)。結論=どちらの側からも相殺できない(DさんはEさんに15万円、EさんはDさんに20万円をそれぞれ現金で払う)。理由=DさんのEさんへの債務もEさんのDさんへの債務も、どちらも2号。条文は同じ事故で互いに負う場合を区別していない。反対説=相殺できるとする有力な見解(名前だけ)。物損だけなら(悪意でなければ)相殺できる=改正前は不可、2017年の改正で可。 図:双方過失の交通事故

  • 設例=2台の自動車を運転していたDさんとEさんが、お互いの不注意で衝突し、2人ともけがをした
  • DさんのEさんへの賠償債権=治療費など20万円
  • EさんのDさんへの賠償債権=治療費など15万円(どちらも過失による人身損害)
  • 結論=どちらの側からも相殺できない(DさんはEさんに15万円、EさんはDさんに20万円をそれぞれ現金で払う)
  • 理由=DさんのEさんへの債務もEさんのDさんへの債務も、どちらも2号
  • 条文は同じ事故で互いに負う場合を区別していない
  • 反対説=相殺できるとする有力な見解(名前だけ)
  • 物損だけなら(悪意でなければ)相殺できる=改正前は不可、2017年の改正で可

実際の試験で、よく問われる場面です。ここも、論文で論点になりうる部分です。設例です。2台の自動車の運転者を、DさんとEさんとします。2人が、お互いの不注意で衝突して、2人ともけがをしました。DさんはEさんに、治療費などの20万円の賠償債権をもちます。EさんはDさんに、治療費などの15万円の賠償債権をもちます。どちらも、過失による人身損害です。お互いの債務を差し引いて、差額の5万円だけ払う、という処理は、できるでしょうか?条文と通説の結論は、できない、です。DさんのEさんへの債務も、EさんのDさんへの債務も、どちらも2号、つまり人身損害の賠償債務です。それぞれの債務者に、509条がかかります。ですから、どちらの側からも、相殺できません。Dさんは、Eさんに現金で15万円を払い、Eさんは、Dさんに現金で20万円を払います。理由は、2号が、過失でも、人身損害の賠償債務を受働債権とする相殺を、禁じているからです。同じ事故で、互いに債務を負う場合でも、条文は区別していません。それぞれの被害者に、現実の給付を得させる必要があるのです。反対の見解も、あります。同時に現金を払い合うなら、差し引いても被害者は困らず、誘発のおそれもない、として、相殺できるとする有力な見解です。ただ、答案でも短答でも、条文どおり、相殺できない、と書きます。

物損だけで、悪意でもなければ、今は相殺できます。双方が、過失で、お互いの車を壊しただけなら、相殺できます。改正の前は、同じ事故の物損でも、相殺は許されませんでした。509条が、不法行為の賠償債務を、一律に禁じていたからです。2017年の改正で、物損は、悪意でなければ相殺できるようになりました。ここは、実定法の変化として、押さえてください。少し、組み合わせも見ます。Dさんはけがをして、Eさんは車の損害だけ、という事故です。EさんのDさんへの債務は、人身損害の賠償債務なので、2号にあたり、Eさんは相殺できません。一方、DさんのEさんへの債務は、物損で悪意もないので、Dさんは相殺できます。Dさんは、自分の人身損害の賠償債権を自働債権にできるからです。被害者の側からの相殺は、禁じられていません。名前が似ているので、念のため言います。賠償の額を減らす、過失相殺という制度があります。以前見ました。それは、相殺ではありません。今日の相殺は、債権どうしを差し引く話です。不法行為の過失相殺の中身は、別の回で扱います。

510条——差押えを禁じられた債権を受働債権とする相殺の禁止

510条。債権が差押えを禁じたものであるとき、その債務者は、相殺をもって債権者に対抗できない。差押禁止債権=生活に必要不可欠として法律が差押えを禁じた債権(給料の4分の3・生活保護の保護金品を受ける権利・年金など)。趣旨=生活の糧は現実に渡す(509条2号と同じ発想)。設例=A卸会社が従業員に貸金40万円。従業員の手取り月給30万円(A卸会社の債務)。給料債務を受働債権にして相殺→差押えが禁じられた部分(4分の3=22万5千円)は相殺できない。保護される側(従業員)からの相殺は禁じられない。510条(差押えを禁じた種類の債権)と511条(現に差押えを受けた債権)は別=511条は次回。 図:510条

  • 債権が差押えを禁じたものであるとき、その債務者は、相殺をもって債権者に対抗できない
  • 差押禁止債権=生活に必要不可欠として法律が差押えを禁じた債権(給料の4分の3・生活保護の保護金品を受ける権利・年金など)
  • 趣旨=生活の糧は現実に渡す(509条2号と同じ発想)
  • 設例=A卸会社が従業員に貸金40万円
  • 従業員の手取り月給30万円(A卸会社の債務)
  • 給料債務を受働債権にして相殺→差押えが禁じられた部分(4分の3=22万5千円)は相殺できない
  • 保護される側(従業員)からの相殺は禁じられない
  • 510条(差押えを禁じた種類の債権)と511条(現に差押えを受けた債権)は別=511条は次回

最後の法律の規定、510条です。

条文民法510条

民法第510条 債権が差押えを禁じたものであるときは、その債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。

差押禁止債権とは、本人の暮らしを支えるお金だから手元に残させよう、として、法律が差押えを禁じた債権です。たとえば、給料の4分の3、生活保護の保護金品を受ける権利、年金などです。給料の4分の3は、民事執行法152条1項に規定があります。

条文民事執行法152条1項

民事執行法第152条1項 次に掲げる債権については、その支払期に受けるべき給付の四分の三に相当する部分(その額が標準的な世帯の必要生計費を勘案して政令で定める額を超えるときは、政令で定める額に相当する部分)は、差し押さえてはならない。 一 債務者が国及び地方公共団体以外の者から生計を維持するために支給を受ける継続的給付に係る債権 二 給料、賃金、俸給、退職年金及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る債権

趣旨は、509条の2号と同じ発想です。生活の糧は、現実に渡す。法律は、給料の4分の3などについて、債権者が裁判所を通して取り立てることさえ禁じて、本人の手元に残るようにしました。ところが、相殺を許すと、給料を払う会社は、裁判所を通さずに、自分の貸金をその給料と差し引いて、回収できてしまいます。それでは、差押えを禁じた意味がありません。設例です。A卸会社が、従業員に、貸金40万円をもっています。従業員の手取りの月給は30万円で、これは、A卸会社が従業員に払う債務です。A卸会社が、この給料の債務を受働債権にして、貸金と相殺しようとしました。できるでしょうか?

給料の4分の3は差し押さえられないのだから、その部分は、できないはずです。30万円の4分の3は、22万5千円です。この部分を受働債権とする相殺は、510条により、できません。残りの7万5千円は、相殺の対象になりえます。なお、4分の3の額が、政令の定める上限を超える高額の給料には、別の上限がありますが、この設例の金額では関係しません。また、給料については、労働基準法にも、賃金は全額を払え、という原則があり、会社の側からの相殺は、そちらでも制限されます。ここでは、民法の510条だけを見ます。509条と同じ型も、あります。保護される側、つまり給料を受ける従業員の側が、自分の給料債権を自働債権にして相殺するのは、510条は禁じていません。最後に、取り違えやすい条文を、1つ。次の511条は、差押えを受けた債権についての条文です。510条は、そもそも差押えが禁じられている種類の債権です。511条は、現に差押えを受けた債権です。名前は似ていますが、別です。

相殺禁止の一覧表

相殺禁止の一覧表。出どころ別。①債務の性質(505条1項ただし書=実際に行わないと意味がない債務・抗弁権付きの自働債権=前回までに見た)②当事者の約束(505条2項=特約。第三者には悪意・重過失のときに限り対抗できる/相殺できないのは特約の当事者・悪意重過失の第三者/例外=善意・無重過失の第三者)③法律の規定=509条1号(悪意による不法行為の賠償債務)・509条2号(人の生命・身体の侵害による賠償債務・債務不履行を含む)→相殺できないのは加害者(賠償債務の債務者)/例外=債権を他人から譲り受けた債権者に対しては加害者も可・被害者側からの相殺は可/510条(差押禁止債権)→相殺できないのは差押禁止債権の債務者/例外=保護される側からの相殺は可。差押えを受けた債権(511条)は次回。 図:相殺禁止の一覧表

  • 出どころ別
  • ①債務の性質(505条1項ただし書=実際に行わないと意味がない債務・抗弁権付きの自働債権=前回までに見た)②当事者の約束(505条2項=特約。第三者には悪意・重過失のときに限り対抗できる/相殺できないのは特約の当事者・悪意重過失の第三者/例外=善意・無重過失の第三者)③法律の規定=509条1号(悪意による不法行為の賠償債務)・509条2号(人の生命・身体の侵害による賠償債務・債務不履行を含む)→相殺できないのは加害者(賠償債務の債務者)/例外=債権を他人から譲り受けた債権者に対しては加害者も可・被害者側からの相殺は可/510条(差押禁止債権)→相殺できないのは差押禁止債権の債務者/例外=保護される側からの相殺は可
  • 差押えを受けた債権(511条)は次回

全体を、表で整理します。出どころ別に見ます。1つめ、債務の性質です。実際に行わないと意味がない債務と、抗弁権の付いた自働債権です。前回までに見ました。2つめ、当事者の約束、505条2項です。特約の当事者のあいだでは相殺できません。第三者に対しては、悪意か重過失のときに限って、対抗できます。例外は、善意で重過失のない第三者です。3つめ、法律の規定です。509条1号は、悪意による不法行為の賠償債務、2号は、人の生命・身体の侵害による賠償債務で、債務不履行も含みます。相殺できないのは、賠償債務の債務者、つまり加害者です。例外は、賠償債権が他人に譲られたときで、その譲受人に対してなら、加害者も相殺できます。また、被害者の側からの相殺は禁じられていません。510条は、差押禁止債権です。相殺できないのは、その債務者です。保護される側からの相殺は、禁じられていません。

冒頭の答えとまとめ

まとめ。①相殺禁止の出どころ=性質・約束・法律②505条2項=特約は第三者には悪意・重過失のときに限り対抗できる(466条3項と同じ形・改正で重過失を追加)③509条=受働債権が①悪意による不法行為②人身損害(前号を除く)なら加害者から相殺できない。改正で不法行為一般から限定④趣旨=誘発防止・現実の給付。悪意=積極的害意(故意より狭い)。2号は債務不履行も含み、悪意不要⑤ただし書=譲り受けた債権者に対しては加害者も可・被害者側からの相殺は可⑥双方がけがをした事故=どちらからも不可。物損だけなら相殺可⑦510条=差押禁止債権(生活の糧)。511条とは別。 図:まとめ

  • ①相殺禁止の出どころ=性質・約束・法律②505条2項=特約は第三者には悪意・重過失のときに限り対抗できる(466条3項と同じ形・改正で重過失を追加)③509条=受働債権が①悪意による不法行為②人身損害(前号を除く)なら加害者から相殺できない
  • 改正で不法行為一般から限定④趣旨=誘発防止・現実の給付
  • 悪意=積極的害意(故意より狭い)
  • 2号は債務不履行も含み、悪意不要⑤ただし書=譲り受けた債権者に対しては加害者も可・被害者側からの相殺は可⑥双方がけがをした事故=どちらからも不可
  • 物損だけなら相殺可⑦510条=差押禁止債権(生活の糧)
  • 511条とは別

冒頭の答えです。貸したお金を返さない相手を殴って、けがをさせました。治療費の請求と貸金を、相殺できるでしょうか。加害者のAさんからは、相殺できません。Aさんが腹いせに殴ったなら、悪意による不法行為で、1号にあたります。人身損害でもありますが、2号は前号を除くので、1号が先に当たります。悪意がなくても、身体の侵害なので、2号で、結論は変わりません。Aさんは、12万円を現金で払います。一方、被害者のBさんからなら、相殺できます。借金の60万円から、12万円を差し引けます。整理します。1つめ。相殺禁止の出どころは、性質、約束、法律の3つです。2つめ。505条2項、特約は、第三者に、悪意か重過失のときに限り、対抗できます。466条3項と同じ形で、改正で重過失が加わりました。3つめ。509条は、受働債権が、悪意による不法行為の賠償債務か、人身損害の賠償債務なら、加害者から相殺できない、という規定です。改正で、不法行為一般から、この2つに限られました。4つめ。趣旨は、誘発の防止と、現実の給付です。1号の悪意は、積極的に害する意思で、故意より狭い意味です。2号は、債務不履行も含み、悪意は要りません。5つめ。ただし書で、賠償債権を譲り受けた債権者に対してなら、加害者も相殺できます。被害者の側からの相殺も、できます。6つめ。双方がけがをした事故は、どちらの側からも、相殺できません。物損だけなら、悪意でなければ、相殺できます。7つめ。510条は、差押禁止債権、つまり生活の糧です。511条とは別です。

次は、差押えと相殺を見ます。

参照条文

  • 民法505条2項
  • 民法509条
  • 民法510条
  • 民事執行法152条1項

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