民法ゼロから民法#190

債権譲渡と相殺(469条)・逆相殺

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第4章 債権総論 #190/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

売られた代金債権に、昔からの貸金で相殺を言えるか

冒頭の関係図。A=A卸会社、B=B小売チェーン、C=C金融業者。5月10日、AはBに春夏物の衣料を売る(代金800万円・支払期日11月30日)。BはAに、4月1日に500万円を貸している(返済期限12月20日)。7月5日、Aは資金繰りのため代金債権800万円をCに譲渡し、7月10日に通知がBに届く。Bは貸金500万円を使い「相殺するから払うのは300万円」と言えるか。 図:冒頭の関係図

  • A=A卸会社、B=B小売チェーン、C=C金融業者
  • 5月10日、AはBに春夏物の衣料を売る(代金800万円・支払期日11月30日)
  • BはAに、4月1日に500万円を貸している(返済期限12月20日)
  • 7月5日、Aは資金繰りのため代金債権800万円をCに譲渡し、7月10日に通知がBに届く
  • Bは貸金500万円を使い「相殺するから払うのは300万円」と言えるか

A卸会社が、B小売チェーンに、春夏物の衣料を売りました。5月10日の契約です。代金は800万円で、支払期日は11月30日です。ここに、もう1本、貸し借りがあります。B小売チェーンは、4月1日に、A卸会社へ500万円を貸していました。返してもらう期限は、12月20日です。つまり、B小売チェーンは、A卸会社に払う側でもあり、もらう側でもあります。そこへ、7月5日、A卸会社が資金繰りのために、この代金債権800万円を、C金融業者に譲渡します。通知は、7月10日に、B小売チェーンに届きました。問いです。B小売チェーンは、A卸会社への貸金500万円を使って、C金融業者に、相殺するから、払うのは300万円でいい、と言えるでしょうか。しかも、貸金の返済期限は12月20日で、代金の支払期日の11月30日より、後です。

小売チェーンと金融業者の間には、債権が向き合っていません。それでも相殺を認めるのか。認めるなら、いつまでに手に入れた債権なら認めるのか。今日の中心は、そこです。先に答えを言います。言えます。貸したのが、通知が届くより前だからです。向き合っていないのに、なぜ言えるのか。返済期限が後なのに、なぜ構わないのか。理由は、条文と一緒に見ていきます。最後に、債権を手に入れた側が相殺をして、債務者の相殺とぶつかる、逆相殺も見ます。

469条の全文と構造

469条の構造。1項=具備時より前に取得した譲渡人に対する債権→相殺を譲受人に対抗できる。2項柱書=具備時より後に取得した債権でも、1号(具備時より前の原因に基づいて生じた債権)か2号(譲受人の取得した債権の発生原因である契約に基づいて生じた債権)なら1項と同様。ただし書=具備時より後に他人の債権を取得したときは不可。3項=基準時の読替え。「対抗できる」=相殺したから払わない、と言えて通る。 図:469条の構造

  • 1項=具備時より前に取得した譲渡人に対する債権→相殺を譲受人に対抗できる
  • 2項柱書=具備時より後に取得した債権でも、1号(具備時より前の原因に基づいて生じた債権)か2号(譲受人の取得した債権の発生原因である契約に基づいて生じた債権)なら1項と同様
  • ただし書=具備時より後に他人の債権を取得したときは不可
  • 3項=基準時の読替え
  • 「対抗できる」=相殺したから払わない、と言えて通る

条文を読みます。債権の譲渡における相殺権を定めた、469条です。

条文民法469条

民法第469条 1 債務者は、対抗要件具備時より前に取得した譲渡人に対する債権による相殺をもって譲受人に対抗することができる。 2 債務者が対抗要件具備時より後に取得した譲渡人に対する債権であっても、その債権が次に掲げるものであるときは、前項と同様とする。ただし、債務者が対抗要件具備時より後に他人の債権を取得したときは、この限りでない。  一 対抗要件具備時より前の原因に基づいて生じた債権  二 前号に掲げるもののほか、譲受人の取得した債権の発生原因である契約に基づいて生じた債権 3 第四百六十六条第四項の場合における前二項の規定の適用については、これらの規定中「対抗要件具備時」とあるのは、「第四百六十六条第四項の相当の期間を経過した時」とし、第四百六十六条の三の場合におけるこれらの規定の適用については、これらの規定中「対抗要件具備時」とあるのは、「第四百六十六条の三の規定により同条の譲受人から供託の請求を受けた時」とする。

構造を言います。1項は、対抗要件具備時より前に取得した債権による相殺なら、譲受人に対抗できる、です。2項は、具備時より後に取得した債権でも、次の2つなら、1項と同様に対抗できる、と戻します。1号は、具備時より前の原因に基づいて生じた債権。2号は、前号のほか、譲受人の取得した債権の発生原因である契約に基づいて生じた債権です。そして、ただし書で、具備時より後に他人の債権を取得したときは、この限りでない、と、また戻します。3項は、基準時の読替えです。511条は、差押え後は対抗できない、差押え前は対抗できる、と両面を書いていました。469条は、対抗できる側の1項と、その例外の2項だけです。ただ、結論の形は同じです。具備前の取得は○。具備後は原則として×。例外を、2項が拾います。言葉を1つ確認します。対抗できる、とは、相殺したから払わない、と譲受人に言って、通る、という意味です。それと、この469条は、条文どおりの要件です。解釈で立てる基準ではないので、条文を見ながら当てはめれば足ります。解釈が出てくるのは、2か所だけです。1号の、前の原因にあたるかどうかと、2号の、同じ契約から生じたかどうかです。

1項——具備時より前に取得した債権なら、弁済期の先後を問わず対抗できる

1項の時間軸。4/1 貸金500万円を取得→7/10 通知到達(対抗要件具備時)→11/30 代金の支払期日→12/20 貸金の返済期限(相殺適状)→相殺の意思表示。取得が具備時より前=1項で○。返済期限が代金の支払期日より後でもよい(弁済期の先後を問わない)。結果=対当額500万円が消え、BがCに払うのは300万円。理由=貸した時点の「いざとなれば差し引ける」という期待の保護。 図:1項の時間軸

  • 4/1 貸金500万円を取得→7/10 通知到達(対抗要件具備時)→11/30 代金の支払期日→12/20 貸金の返済期限(相殺適状)→相殺の意思表示
  • 取得が具備時より前=1項で○
  • 返済期限が代金の支払期日より後でもよい(弁済期の先後を問わない)
  • 結果=対当額500万円が消え、BがCに払うのは300万円
  • 理由=貸した時点の「いざとなれば差し引ける」という期待の保護

先に、前の話を1つ聞きます。差押えと相殺で、弁済期の先後を問わず、差押え前に取得した債権なら対抗できる、とする考え方を、何と呼びましたか?無制限説です。弁済期の先後は、日付がたまたまそう並んだだけの偶然で、当てにする気持ちは変わらない、という考え方でした。1項は、この無制限説の発想を、債権譲渡に当てはめたものです。冒頭の設例で見ます。B小売チェーンが貸金500万円を取得した日は、4月1日。通知が届いた、対抗要件具備時は、7月10日です。貸金のほうが、具備時より前です。ただ、貸金の返済期限は12月20日で、代金の支払期日の11月30日より後です。冒頭で、言える、と答えました。では、返済期限が後、という点は、条文のどの言葉で片づくでしょうか。先に、自分で考えてください。

気になる点は、条文が答えています。1項は、取得の時期だけを見ています。弁済期の先後は、問いません。12月20日に、貸金の返済期限が来て、相殺適状に達すれば、貸金500万円を自働債権、代金債権を受働債権として、相殺できます。前に、債権が譲渡されている場合の相手方は別に扱う、と言いました。その答えです。相殺の意思表示をする相手は、いまの債権者である、C金融業者です。対当額の500万円が消えて、B小売チェーンがC金融業者に払うのは、300万円です。理由は、相殺への期待です。511条1項の後半と、同じ発想です。B小売チェーンは、貸した時点で、いざとなれば、代金と差し引ける、と当てにしています。相殺の担保的機能、つまり、相手が払えなくなっても先に回収できる働きです。自分の知らない間に、債権が売られたからといって、その期待を取り上げるのは、酷です。差押えの回で言った、帳簿に、ここから引ける、と書き込んだ時点が勝負、という線と同じです。

通知より前、というときの通知は、債務者に届いた通知のことです。ここでいう対抗要件は、債務者に対する対抗要件、つまり467条1項の、通知か承諾です。確定日付は、要りません。この基準は、譲受人と債務者の利益を調整するものです。債務者が譲渡を知った時に線を引くのが、筋だからです。確定日付があるかどうかは、同じ債権を取り合う、ほかの譲受人や差押えをした人との関係の話で、債務者が知ったかどうかとは、関係が薄いのです。466条の6第3項も、対抗要件具備時を、次の条の通知をし、または承諾をした時、と定めています。第三者に対する対抗要件、つまり確定日付のある通知や承諾のほうではありません。設例の7月10日、通知が届いた日が、具備時です。

改正前と改正後。改正前=債権譲渡と相殺に明文なし(旧468条2項「通知を受けるまでに譲渡人に対して生じた事由」の解釈)→改正前の最高裁の判決=通知前に取得した反対債権による相殺を弁済期の前後を問わず認めた(事案に限った判断・一般論は補足意見・反対意見あり)→2017年の改正=469条1項(無制限説を条文にして立法で決着)。短答の罠=①受働債権の弁済期が先なら相殺できない→誤り②具備後に取得した債権は一切対抗できない→誤り(2項)③対抗要件は確定日付のある通知→誤り。 図:改正前と改正後

  • 改正前=債権譲渡と相殺に明文なし(旧468条2項「通知を受けるまでに譲渡人に対して生じた事由」の解釈)→改正前の最高裁の判決=通知前に取得した反対債権による相殺を弁済期の前後を問わず認めた(事案に限った判断・一般論は補足意見・反対意見あり)→2017年の改正=469条1項(無制限説を条文にして立法で決着)
  • 短答の罠=①受働債権の弁済期が先なら相殺できない→誤り②具備後に取得した債権は一切対抗できない→誤り(2項)③対抗要件は確定日付のある通知→誤り

次に、改正前との関係です。2017年の改正の前は、債権譲渡と相殺について、条文に明文がありませんでした。旧法の468条2項、つまり、債務者が通知を受けるまでに譲渡人に対して生じた事由、の解釈で処理されていました。条文番号は同じでも、いまの468条2項ではありません。冒頭で思い出した、いまの468条1項にあたる規定です。改正前の最高裁の判決は、譲渡の通知を受ける前に取得した反対債権による相殺を、弁済期の前後を問わず認めました。ただし、法廷意見、つまり裁判所としての判断は、譲受人が譲渡人の会社の取締役でもあった、という確定した事実関係のもとでの判断です。弁済期の先後を問わない、と一般論で述べたのは、補足意見、つまり結論に賛成する裁判官が、理由を付け加えた意見です。しかも、反対意見もついていました。学説にも、差押えよりも制限的に考える見解が有力でした。2017年の改正は、差押えと同じく、無制限説を条文にして、立法で決着をつけました。それが、469条1項です。ここは、差押えと言い方が違います。差押えでは、改正前から、判例がすでに無制限説でしたから、判例の結論が条文になった、と言いました。債権譲渡では、改正前の最高裁の判決が、事案に限った判断でしたから、そう言い切れません。論文では、無制限説の債権譲渡版、と書けます。1項の結論です。具備時より前に取得した債権なら、弁済期の先後を問わず、相殺を対抗できます。短答の罠を3つ言います。受働債権、つまり譲渡された債権の弁済期が先に来る場合は、相殺できない、は誤りです。具備時より後に取得した債権は、一切対抗できない、も誤りです。2項があります。対抗要件は、確定日付のある通知、も誤りです。

2項1号——具備後に取得しても、原因が具備前なら対抗できる

2項1号の設例。4/1 BがAに頼まれ、AがD運送会社に負う運賃債務300万円を保証(保証委託契約)→7/10 通知到達(具備時)→9/15 AがDに払えず、BがDに300万円を弁済→Bは事後求償権300万円を取得(具備後)。1項×(取得が具備後)。1号○(原因=保証委託契約は具備前)。11/30に代金が適状→求償権300万円で相殺→CへはBが500万円払う。理由=原因が具備前にあれば、相殺への期待は保護に値する。 図:2項1号の設例

  • 4/1 BがAに頼まれ、AがD運送会社に負う運賃債務300万円を保証(保証委託契約)→7/10 通知到達(具備時)→9/15 AがDに払えず、BがDに300万円を弁済→Bは事後求償権300万円を取得(具備後)
  • 1項×(取得が具備後)
  • 1号○(原因=保証委託契約は具備前)
  • 11/30に代金が適状→求償権300万円で相殺→CへはBが500万円払う
  • 理由=原因が具備前にあれば、相殺への期待は保護に値する

ここも、論文で論点になりうる部分です。1項は、具備時より後に取得した債権を、拾えません。そこで2項です。設例を変えます。4月1日に、B小売チェーンは、A卸会社に頼まれて、A卸会社が運送会社のDに負う運賃債務300万円を保証しました。保証委託契約です。通知が届くのは、7月10日です。ところが、9月15日に、A卸会社が払えなくなり、B小売チェーンが、Dに300万円を弁済しました。すると、B小売チェーンは、A卸会社に、300万円の事後求償権を取得します。9月15日、具備時より後です。1項は、使えません。取得が、具備後だからです。でも、この求償権の原因は、4月1日の保証委託契約です。具備時より前の原因に基づいて生じた債権です。2項1号で、対抗できます。11月30日に代金債権が適状になった時点で、求償権300万円と相殺して、C金融業者に払うのは500万円です。

511条2項本文と並行です。理由も同じです。原因が具備前にある以上、相殺への期待は、保護に値します。前に見た468条でも、通知の後に解除権が生じても、具備時までに反対債務が未履行なら、解除を対抗できました。解除に至る原因が、具備時までにあったといえるからです。同じ、原因が前という線です。どの関係が前の原因にあたるのかは、511条2項本文と同じで、細かい線は、解釈に委ねられています。保証委託契約のように、後で債権が生じることが、具備前の契約で具体的に決まっている関係が、典型です。

2項2号——同じ契約から生じた債権。なぜ1項でも1号でも足りないのか

2項2号の設例の時間軸。12/1 AがBとの来春の売買契約から生じる代金債権(将来債権)をCに譲渡→12/5 通知到達(具備時)→翌年2/1 AとBが売買契約(代金700万円・支払期日4/30)→3/10 納品された衣料の一部が契約不適合→Aが応じず、Bに損害賠償債権200万円→4/30 適状。判定=1項×(取得は具備後)/1号×(原因も具備後)/2号○(代金債権も損害賠償債権も同じ2/1の売買契約から生じた)→Cへ払うのは500万円。 図:2項2号の設例の時間軸

  • 12/1 AがBとの来春の売買契約から生じる代金債権(将来債権)をCに譲渡→12/5 通知到達(具備時)→翌年2/1 AとBが売買契約(代金700万円・支払期日4/30)→3/10 納品された衣料の一部が契約不適合→Aが応じず、Bに損害賠償債権200万円→4/30 適状
  • 判定=1項×(取得は具備後)/1号×(原因も具備後)/2号○(代金債権も損害賠償債権も同じ2/1の売買契約から生じた)→Cへ払うのは500万円

ここが、今日の山場です。先に、前に見た将来債権の譲渡を思い出してください。まだ発生していない債権を譲渡するとき、対抗要件は、いつ備えられましたか?譲渡の時点で、通知か承諾によって、備えられました。債権が生まれる前に、対抗要件を備えられます。この性質が、2号の背景です。設例を置きます。12月1日に、A卸会社は、翌年の2月に、B小売チェーンと結ぶ予定の売買契約から生じる代金債権を、C金融業者に譲渡します。まだ契約もしていない、将来債権です。12月5日に通知が届き、これが具備時です。翌年の2月1日に、A卸会社とB小売チェーンは、予定どおり売買契約を結びました。代金は700万円、支払期日は4月30日です。3月10日に、納められた衣料の一部が、契約に適合していませんでした。B小売チェーンが、修理や交換を求めても、A卸会社は応じません。そこで、B小売チェーンに、損害賠償債権200万円が生じます。契約不適合の責任と債務不履行です。4月30日に代金が適状になりました。B小売チェーンは、この損害賠償債権を自働債権、代金債権を受働債権として、相殺できるでしょうか? 1項と1号が使えるかを、先に考えてください。

1項も、1号も、×です。ここで、2号の文言を見ます。譲受人の取得した債権の発生原因である契約に基づいて生じた債権。C金融業者が取得した代金債権は、2月1日の売買契約から生じました。損害賠償債権も、同じ2月1日の売買契約から生じています。同じ契約から生じた債権です。だから、2号で○です。対当額の200万円が消えて、C金融業者に払うのは500万円です。

2号の理由と輪郭。理由①同じ契約から生じた債権と債務は相殺への期待が特に強い②将来債権の譲渡では、契約より前に、債務者の関与なしに対抗要件が備わる③譲渡の後も債務者と譲渡人の取引は続く。1号との関係=契約が具備前なら1号で足りる/2号が独立に働くのは契約が具備後の場面。境界=同じ売買の損害賠償(○)/3月20日に別に貸した貸金100万円(×)。511条=2号に当たる規定なし(差押えの後に通常の取引が続くのは稀・相殺できないとは言い切らない)。 図:2号の理由と輪郭

  • 理由①同じ契約から生じた債権と債務は相殺への期待が特に強い②将来債権の譲渡では、契約より前に、債務者の関与なしに対抗要件が備わる③譲渡の後も債務者と譲渡人の取引は続く
  • 1号との関係=契約が具備前なら1号で足りる/2号が独立に働くのは契約が具備後の場面
  • 境界=同じ売買の損害賠償(○)/3月20日に別に貸した貸金100万円(×)
  • 511条=2号に当たる規定なし(差押えの後に通常の取引が続くのは稀・相殺できないとは言い切らない)

損害賠償と代金を差し引くのが自然だという点が、理由の1つめです。同じ契約から生じた債権と債務は、特に相殺への期待が強いのです。品物の不具合の損害賠償と、その代金を差し引く。これは、取引する側が、当たり前に想定している関係です。2つめは、将来債権の譲渡という仕組みです。この譲渡では、対抗要件が、債務者の関与なしに、契約が結ばれるより前に備わります。それを理由に、具備後に生じた契約上の債権との相殺を、一切認めないとします。すると、B小売チェーンは、自分が結んだ契約の代金について、契約上の不具合の損害賠償を、差し引けなくなります。契約を結んだ時には、すでに通知が済んでいるからです。3つめは、取引の継続です。債権を譲渡した後も、債務者と譲渡人の取引は、続くことが想定されます。その取引を、妨げないためにも、2号が必要と考えられました。

既に発生している債権の譲渡なら、契約は、具備前に結ばれています。その場合、同じ契約から生じた債権は、1号の、前の原因で足ります。2号が1号と別に働くのは、契約が具備時より後に結ばれる、将来債権の場面です。条文に、将来債権に限る、と書いてあるのではありません。1号で足りるので、結果として、そこでだけ独立に働きます。同じ契約かどうかは、個別の事情で判断します。境界の外も1つ見ます。同じ設例で、B小売チェーンが、3月20日に、A卸会社へ運転資金100万円を貸したとします。貸金を取得したのは、具備時の12月5日より後です。原因の貸付けも、後です。そして、貸金は、2月1日の売買契約から生じた債権ではありません。1項も、1号も、2号も使えず、相殺は対抗できません。売買の不具合の損害賠償は○で、別に貸した貸金は×です。分かれ目は、譲受人が取得した代金債権と、同じ契約から生じたかどうかです。

差押えの511条に、2号に当たる規定はありません。短答では、511条に2号に当たる規定はない、と覚えてください。理由は、こうです。債権譲渡では、2号の理由の3つめで見たとおり、譲渡のあとも取引が続きます。他方、差押えでは、差押えのあとになお通常の取引を続けて、差押えを受けた債権を新たに生じさせる事態は、稀です。規定を置く必要性に乏しいとされたのです。気をつけてください。差押えでは、同じ契約の債権で相殺できない、という意味ではありません。条文に定めがないだけで、解釈の余地は残ります。ここは、言い切らないでください。

ただし書——具備後に他人の債権を取得したら対抗できない

ただし書の設例。D運送会社はAに運賃債権400万円。6/1にBがDから買い取る→取得は具備時(7/10)より前→1項で○。8/1に買い取る→具備後に他人の債権を取得→ただし書で×。対比=保証して払った求償権(2項1号○)と買い取った債権(×)。分かれ目=具備前に、B自身の側に原因があったか。理由=具備後に他人の債権を買い集めて相殺に使えるなら、譲受人の回収の見込みをいつでも奪える(抜け駆け)。 図:ただし書の設例

  • D運送会社はAに運賃債権400万円
  • 6/1にBがDから買い取る→取得は具備時(7/10)より前→1項で○
  • 8/1に買い取る→具備後に他人の債権を取得→ただし書で×
  • 対比=保証して払った求償権(2項1号○)と買い取った債権(×)
  • 分かれ目=具備前に、B自身の側に原因があったか
  • 理由=具備後に他人の債権を買い集めて相殺に使えるなら、譲受人の回収の見込みをいつでも奪える(抜け駆け)

2項のただし書です。D運送会社は、A卸会社に、運賃債権400万円を持っています。これを、B小売チェーンが、D運送会社から買い取りました。6月1日に買い取ったなら、どうでしょうか。6月1日は、具備時の7月10日より前です。取得が前なので、1項で○だと思います。では、8月1日に買い取ったなら、どうでしょうか。具備時より後に、他人の債権を取得したことになります。ただし書で、×です。511条2項のただし書と並行です。理由は、抜け駆けを許さないことです。具備後に、他人の債権を買い集めて、相殺に使えるなら、譲受人の回収の見込みを、いつでも奪えてしまいます。譲受人が債権を取得した後に、相殺の期待を、新しく作ることは許されません。さっきの保証の求償権と並べます。同じD運送会社が出てきますが、保証して払った求償権は、具備後の取得でも○でした。買い取った債権は、×です。分かれ目は、具備前に、B小売チェーン自身の側に、原因があったかどうかです。

3項——譲渡制限の意思表示がある債権の場合、基準時が読み替えられる

3項の設例の時間軸。譲渡制限の意思表示のついた代金債権を、事情を知っているCが譲り受ける。7/10 通知到達→8/1 Cが相当の期間(8/31まで)を定めてAへの履行を催告→8/20 BがAに対する債権を取得→8/31 相当の期間の経過(基準時)。8/20は通知の後だが基準時の前→1項で○。読替え=①466条4項の場合「466条4項の相当の期間を経過した時」/②466条の3の場合「466条の3の規定により同条の譲受人から供託の請求を受けた時」。 図:3項の設例の時間軸

  • 譲渡制限の意思表示のついた代金債権を、事情を知っているCが譲り受ける
  • 7/10 通知到達→8/1 Cが相当の期間(8/31まで)を定めてAへの履行を催告→8/20 BがAに対する債権を取得→8/31 相当の期間の経過(基準時)
  • 8/20は通知の後だが基準時の前→1項で○
  • 読替え=①466条4項の場合「466条4項の相当の期間を経過した時」/②466条の3の場合「466条の3の規定により同条の譲受人から供託の請求を受けた時」

3項は、基準時の読替えです。譲渡制限の意思表示、つまり、前に見た譲渡制限特約がついた債権が譲渡された場合の、特別な扱いです。譲受人が特約を知っていたか、重大な過失で知らなかったなら、債務者は、譲受人への支払いを拒めて、譲渡人に払って済ませることもできました。読替えは2つあります。1つめは、466条4項の場合。その譲受人が、債務者に、相当の期間を定めて、譲渡人への履行を催告し、期間内に履行がなかったときです。期間が過ぎると、債務者は、もう譲受人への支払いを断れません。このときは、1項と2項の、対抗要件具備時を、466条4項の相当の期間を経過した時、と読みます。2つめは、466条の3の場合。譲渡人が破産して、譲受人が、債務者に供託を請求したときです。このときは、対抗要件具備時を、同条の譲受人から供託の請求を受けた時、と読みます。設例を1つだけ置きます。譲渡制限の意思表示のついた代金債権を、事情を知っているC金融業者が譲り受け、7月10日に通知が届きました。C金融業者が、8月1日に、B小売チェーンに、8月31日までにA卸会社へ払うように、催告します。B小売チェーンが、8月20日に、A卸会社に対する債権を取得したとします。通知の7月10日より後ですが、基準時の8月31日より前です。だから、1項で○です。

通知より後に取得した債権まで守るのは、8月31日までは、B小売チェーンが、譲渡人のA卸会社に払って済ませることも、許されうるからです。まだ譲渡人を相手にしてよいうちに生じた事情を、譲受人に対して失わされるのは、筋が通りません。だから、基準時が、譲渡人を相手にできなくなる時まで、後ろにずれます。前に見た、468条2項の読替えと、同じ線です。

判定の順番と、511条との対照

判定の順番。①自働債権を具備時より前に取得した?→○(1項)/②後に取得したが原因は具備時より前?→○(2項1号)/③原因も後だが、譲受人の取得した債権の発生原因である契約から生じた?→○(2項2号)/④それ以外→×。ただし、具備後に他人の債権を取得したなら①以外は使えない(ただし書)。どの場合も相殺適状に達していることが前提。時系列まとめ=貸金(4/1取得)1項○/求償権(原因4/1・取得9/15)2項1号○/損害賠償債権(同じ売買契約)2項2号○/運送会社の債権の買取り(8/1)ただし書×。 図:判定の順番

  • ①自働債権を具備時より前に取得した?→○(1項)
  • ②後に取得したが原因は具備時より前?→○(2項1号)
  • ③原因も後だが、譲受人の取得した債権の発生原因である契約から生じた?→○(2項2号)
  • ④それ以外→×
  • ただし、具備後に他人の債権を取得したなら①以外は使えない(ただし書)
  • どの場合も相殺適状に達していることが前提
  • 時系列まとめ=貸金(4/1取得)1項○/求償権(原因4/1・取得9/15)2項1号○/損害賠償債権(同じ売買契約)2項2号○/運送会社の債権の買取り(8/1)ただし書×

判定の順番を、板にします。自働債権について、4つを順に見ます。1つめ。具備時より前に取得したか。そうなら、1項で○です。2つめ。後に取得したが、原因は具備時より前か。そうなら、2項1号で○です。3つめ。原因も後だが、譲受人の取得した債権の発生原因である契約から生じたか。そうなら、2項2号で○です。4つめ。どれでもなければ、×です。ただし、具備後に他人の債権を取得したなら、1つめ以外は使えません。そして、どの場合も、相殺適状に達していることが前提です。今日の設例を、時系列で並べます。貸金500万円は、4月1日に取得で、1項の○。保証の求償権は、原因が4月1日で、取得が9月15日。2項1号の○。損害賠償債権は、代金債権と同じ売買契約から生じていて、2項2号の○。具備後の8月1日に、D運送会社の債権を買い取った場合は、ただし書で×です。確認です。保証の求償権の設例で、取得は具備時より後でした。それでも相殺できたのは、判定の順番の、どの段ですか?

511条と469条の対照表。基準時=差押え/対抗要件具備時(債務者対抗要件)。相手方=差押債権者/譲受人。取得が基準時の前=○(弁済期の先後を問わない)=同じ。取得が後でも原因が前=○(2項本文/2項1号)=同じ。同じ契約から生じた債権=条文なし/2項2号(債権譲渡だけ)。後に他人の債権を取得=×(ただし書)=同じ。基準時の読替え=なし/3項。違いは「基準時」と「2号」の2点。 図:511条と469条の対照表

  • 基準時=差押え/対抗要件具備時(債務者対抗要件)
  • 相手方=差押債権者/譲受人
  • 取得が基準時の前=○(弁済期の先後を問わない)=同じ
  • 取得が後でも原因が前=○(2項本文/2項1号)=同じ
  • 同じ契約から生じた債権=条文なし/2項2号(債権譲渡だけ)
  • 後に他人の債権を取得=×(ただし書)=同じ
  • 基準時の読替え=なし/3項
  • 違いは「基準時」と「2号」の2点

次に、511条と469条を、並べます。違いは、2点だけです。1つめは、基準時です。511条は差押え、469条は対抗要件具備時で、債務者に対する対抗要件のほうです。相手方も、差押債権者と譲受人で替わります。2つめは、同じ契約から生じた債権です。511条には条文が無く、469条は、2項2号で拾います。債権譲渡だけの拡張です。それ以外は、同じです。取得が基準時の前なら○で、弁済期の先後は問いません。後に取得しても、原因が前なら○です。後に他人の債権を取得したら、×です。短答の罠は、2つです。差押えにも2号に当たる規定がある、は誤りです。債権譲渡では弁済期の先後を問題にする、も誤りです。

逆相殺——相殺の意思表示が先か、相殺適状が先か

逆相殺の設例の関係図。A=A卸会社(債務者)、B=B小売チェーン(第三債務者)、C=C金融業者(転付債権者)。B→Aに貸金600万円(返済期限7/31)。A→Bに代金債権800万円(支払期日8/31)。CはAの貸主で、代金債権800万円を差し押さえて転付命令を得る(9/15確定)。CはBから備品を買い、代金800万円を9/20に払う債務がある。9/25 Cが転付債権800万円で備品代金債務800万円を相殺(逆相殺)。9/30 Bが貸金600万円で代金債権を相殺。 図:逆相殺の設例の関係図

  • A=A卸会社(債務者)、B=B小売チェーン(第三債務者)、C=C金融業者(転付債権者)
  • B→Aに貸金600万円(返済期限7/31)
  • A→Bに代金債権800万円(支払期日8/31)
  • CはAの貸主で、代金債権800万円を差し押さえて転付命令を得る(9/15確定)
  • CはBから備品を買い、代金800万円を9/20に払う債務がある
  • 9/25 Cが転付債権800万円で備品代金債務800万円を相殺(逆相殺)
  • 9/30 Bが貸金600万円で代金債権を相殺

最後に、逆相殺です。債権の移転を受けた側、たとえば譲受人や、差し押さえた債権を裁判所の命令で移してもらった債権者が、移転を受けた債権を自働債権にして、自分が元から負担していた債務を受働債権として、相殺することです。これに対して、元の債務者の側の相殺を、順相殺と呼ぶことがあります。順相殺と逆相殺が、ぶつかったとき、どちらが優先するか。これが問題です。先に断っておきます。最高裁が判断したのは、債権譲渡ではなく、差押えと転付命令の事案です。転付命令は、前に見たとおり、差し押さえた金銭債権を、支払に代えて、券面額、つまり債権の額面どおりの金額で、差押債権者に移す、裁判所の命令です。確定すると効力が生じて、債権は差押債権者のものになり、差押債権者の元の債権は、券面額で弁済されたものとみなされます。民事執行法159条と160条です。この節では、配役が少しずれます。B小売チェーンは、第三債務者、つまり、差し押さえられた債権の債務者です。A卸会社は、債務者、つまり、債権を差し押さえられた人です。C金融業者は、A卸会社の貸主で、転付命令で債権を手に入れる、転付債権者です。設例です。B小売チェーンは、A卸会社に、600万円を貸していて、返済期限は7月31日です。A卸会社は、B小売チェーンに対して、代金債権800万円を持っていて、支払期日は8月31日です。B小売チェーンの側は、8月31日に、相殺適状になります。

C金融業者は、A卸会社への貸金を回収するため、この代金債権800万円を差し押さえて、転付命令を得ました。確定したのは、9月15日です。C金融業者は、別に、B小売チェーンから店舗の備品を買っていて、代金800万円を、9月20日に払う債務があります。C金融業者の側は、9月20日に相殺適状です。9月25日に、C金融業者が、転付された代金債権800万円で、備品の代金債務800万円を、相殺すると通知しました。逆相殺です。9月30日に、B小売チェーンが、A卸会社への貸金600万円で、代金債権を相殺すると通知しました。

逆相殺の時間軸。7/31 貸金600万円の返済期限→8/31 代金800万円の支払期日=B小売チェーンの側が相殺適状→9/15 転付命令の確定→9/20 備品代金の期日=C金融業者の側が相殺適状→9/25 Cが相殺の意思表示→9/30 Bが相殺の意思表示。適状はBが先/意思表示はCが先。結論=相殺の意思表示の先後で決まる→Cの相殺が優先。Bの貸金600万円はA卸会社から取り立てる。 図:逆相殺の時間軸

  • 7/31 貸金600万円の返済期限→8/31 代金800万円の支払期日=B小売チェーンの側が相殺適状→9/15 転付命令の確定→9/20 備品代金の期日=C金融業者の側が相殺適状→9/25 Cが相殺の意思表示→9/30 Bが相殺の意思表示
  • 適状はBが先/意思表示はCが先
  • 結論=相殺の意思表示の先後で決まる→Cの相殺が優先
  • Bの貸金600万円はA卸会社から取り立てる

問いです。相殺適状は、B小売チェーンのほうが先です。相殺の意思表示は、C金融業者のほうが先です。どちらの相殺が、優先するでしょうか?迷うところです。かつては、相殺適状の先後で決める見解が有力でした。先に適状になった小売チェーンが優先する、という考えです。しかし、今日では、相殺の意思表示の先後で決めるのが、通説です。判例も、同じ結論です。設例では、先に意思表示をした、C金融業者の相殺が優先します。C金融業者の相殺で、代金債権800万円も、備品代金債務800万円も、消えます。B小売チェーンの後の相殺は、効力を生じません。B小売チェーンは、A卸会社への貸金600万円が残りますから、A卸会社から取り立てるしかありません。判決の事案を言います。転付債権者が、債務者の第三債務者に対する預金債権について、差押えと転付命令を得ました。転付債権者は、その預金債権を自働債権にして、自分が第三債務者に負う手形金債務と、相殺しました。その後に、第三債務者が、債務者への貸付金債権を自働債権、預金債権を受働債権として、相殺しました。原審は、第三債務者の側の適状が先だから、転付債権者の相殺は対抗できない、と判断しました。最高裁は、これを破棄して、差し戻しています。理由を、2枚のカードで読みます。1枚目の前に、2つ確かめます。相殺適状は、前に見たとおり、相殺に必要な、債権どうしの条件がそろった状態です。民法508条は、前に見た、時効で消えた債権でも、消える前に適状だったなら、相殺できる、という規定でした。

判例最判昭54・7・10 民集33巻5号533頁

相殺適状は、相殺の意思表示のときに現存することを要する ところで、相殺適状は、原則として、相殺の意思表示がされたときに現存することを要するのであるから、いつたん相殺適状が生じていたとしても、相殺の意思表示がされる前に一方の債権が弁済、代物弁済、更改、相殺等の事由によつて消滅していた場合には相殺は許されない(民法五〇八条はその例外規定である。)、と解するのが相当である。

読み方です。適状は、相殺の意思表示がされたときに、まだ存在していなければなりません。いったん適状になっていても、意思表示の前に、一方の債権が、弁済や相殺などで消えていたら、相殺は許されません。508条は、その例外です。設例では、C金融業者の相殺で、代金債権が消えました。B小売チェーンが9月30日に意思表示をした時には、相殺する先の債権が、もうありません。2枚目の前に、言葉を断ります。委付は、移し渡すことです。被差押債権は、差し押さえられた債権、つまり転付された債権です。第三債務者は、設例のB小売チェーンです。

判例最判昭54・7・10 民集33巻5号533頁

第三債務者の相殺の意思表示があるまで、転付債権者の相殺は妨げられない また、債権が差し押さえられた場合において第三債務者が債務者に対して反対債権を有していたときは、その債権が差押後に取得されたものでない限り、右債権及び被差押債権の弁済期の前後を問わず、両者が相殺適状になりさえすれば、第三債務者は、差押後においても右反対債権を自働債権とし被差押債権を受働債権として相殺することができるわけであるけれども、そのことによつて、第三債務者が右の相殺の意思表示をするまでは、転付債権者が転付命令によつて委付された債権を自働債権とし、第三債務者に対して負担する債務を受働債権として相殺する権能が妨げられるべきいわれはない。

読み方です。前半は、差押えと相殺の511条で見たことです。第三債務者は、差押え前に取得した反対債権なら、差押えの後でも、相殺できます。そのうえで、後半が核心です。だからといって、第三債務者が相殺の意思表示をするまでは、転付債権者が、転付された債権で相殺する権能が、妨げられるいわれはない、と言っています。

意思表示の先後で決まる理由。①相殺適状は意思表示の時に現存していなければならない=先に消えた債権は相殺できない(508条は例外)②第三債務者が意思表示をするまで、転付債権者の相殺する権能は妨げられない③相殺への期待は、他の債権者が先に済ませた回収を覆すほど強くない(学説)。遡及効=さかのぼるのは有効に成立した相殺だけ。位置づけ=判断したのは転付命令の事案/構図が同じ債権譲渡でも同じ考え方。 図:意思表示の先後で決まる理由

  • ①相殺適状は意思表示の時に現存していなければならない=先に消えた債権は相殺できない(508条は例外)②第三債務者が意思表示をするまで、転付債権者の相殺する権能は妨げられない③相殺への期待は、他の債権者が先に済ませた回収を覆すほど強くない(学説)
  • 遡及効=さかのぼるのは有効に成立した相殺だけ
  • 位置づけ=判断したのは転付命令の事案/構図が同じ債権譲渡でも同じ考え方

判例の理由は、2つです。1つめ。適状は、意思表示の時に存在していなければならない。先に消えた債権は、もう相殺できない。2つめ。第三債務者の相殺権は守られるが、意思表示をするまでは、転付債権者の相殺する権能を妨げる理由にならない。これに、学説の説明が1つ加わります。相殺への期待は大切ですが、他の債権者が先に済ませた回収を、あとから覆すほど強い期待ではありません。前に見たとおり、相殺は意思表示で効力が生じて、適状の時にさかのぼります。ただ、さかのぼるのは、有効に成立した相殺です。小売チェーンの意思表示の時には、代金債権が、もうありません。さかのぼる先が、ないのです。位置づけも言います。最高裁が判断したのは、転付命令の事案です。ただ、債権が、移転を受けた者に移り、その者が、元から相手に債務を負っている、という構図は、債権譲渡と同じです。そのため、債権譲渡でも同じ考え方で処理される、と整理されています。

冒頭の答えとまとめ

まとめ表(5行)。①1項=具備時より前に取得→○(弁済期の先後を問わない・債務者対抗要件)。②2項1号=後に取得でも原因が前→○。③2項2号=同じ契約から生じた債権→○(将来債権の譲渡の場面・差押えには条文なし)。④ただし書=具備後に他人の債権を取得→×。⑤逆相殺=相殺の意思表示の先後で決まる(転付命令の事案)。3項=基準時の読替え(466条4項・466条の3)。 図:まとめ表

  • 5行
  • ①1項=具備時より前に取得→○(弁済期の先後を問わない・債務者対抗要件)。②2項1号=後に取得でも原因が前→○。③2項2号=同じ契約から生じた債権→○(将来債権の譲渡の場面・差押えには条文なし)。④ただし書=具備後に他人の債権を取得→×。⑤逆相殺=相殺の意思表示の先後で決まる(転付命令の事案)。3項=基準時の読替え(466条4項・466条の3)。

冒頭の答えです。B小売チェーンは、貸金の取得が4月1日で、通知の7月10日より前です。返済期限が代金の支払期日より後でも、12月20日に適状に達すれば、貸金500万円で相殺できます。C金融業者に払うのは、300万円です。整理します。1項は、具備時より前に取得した債権なら、弁済期の先後を問わず、対抗できます。対抗要件は、債務者に対する対抗要件です。2項1号は、具備後に取得しても、原因が具備前なら、対抗できます。2号は、譲受人の取得した債権と同じ契約から生じた債権で、将来債権の譲渡の場面で、独立に働きます。差押えには、これに当たる規定はありません。ただし書は、具備後に他人の債権を取得したら、対抗できません。3項は、譲渡制限の意思表示がある場合の、基準時の読替えです。511条との違いは、基準時と、2号の2点でした。逆相殺は、相殺の意思表示の先後で決まります。判例が判断したのは、転付命令の事案でした。ここは、論文で論点になりうる部分です。

条文の線は、期待を守る範囲をどこまで広げるか、という線です。この線で、条文を当てはめられます。

参照条文

  • 民法469条

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