債権者代位権の転用の判例と限界
印刷のコツ
プリンターでは次の設定がおすすめです。
- 用紙:A4 / 向き:縦
- 拡大縮小:「実際のサイズ」(フィット縮小しない)
- 両面印刷:オン、とじ方は「長辺をとじる」(左綴じ)
- モノクロ印刷OK(強調は色でなく太字なので白黒でも読めます)
第4章 債権総論 #196/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
借りた土地に見知らぬ人が居座っている
図:冒頭の関係図
- 土地を借りる約束をした借主A、貸主で地主のB、勝手に小屋を建てて居座っているC
- AとBの間は「賃借する約束」の実線
- Cは土地の上
- Bは動かない
- 問い=Aは、自分でCに「出ていけ」と言えるか
- 呼び名=役割で固定
- A=代わりに権利を使う人、B=その相手で動かない人、C=Bが権利を持つ相手
ある人が、地主から土地を借りる約束をしました。使い始めようとしたところ、見知らぬ人が、勝手に小屋を建てて居座っていました。地主は、何もしてくれません。借りた人は、自分で、その人に「出ていけ」と言えるのでしょうか。先に、すでに使っているなら話が簡単になる、という点を片づけておきます。すでに占有しているなら、占有の訴えがありました。ですが今回は、使い始める前の設例です。引渡しを受ける前ですから、占有の訴えは使えません。登場人物を整理します。今日は、代わりに権利を使う人をA、その相手で動かない人をB、Bが権利を持つ相手をCと呼びます。この設例では、土地を借りた人がA、地主がB、居座っている人がCです。前回は、売られた順に呼んだので、代位するのはCでした。今日は、どの場面でも、代位するのはAです。
Aが、自分の権利でCに向かおうとすると、引っかかりがあります。Aが持っている賃借権は、Bに対して、土地を使わせてくださいと言える債権です。見知らぬCに向けられた権利ではありません。Cを追い出す権利、つまり所有権に基づく返還請求権、土地の明渡しを求める権利を持っているのは、所有者のBです。そのBが動かない。Aは、Bの権利を借りて使えないのか。これが、今日の問いです。先に答えを言います。Aは、Bに代わって、Cに「出ていけ」と言えます。決め手は、Bの権利を使うことが、Aの債権を守るのに役に立つかどうかです。なぜそう言えるのか、どこまで言えるのかを、順に見ていきます。
今日の地図(保存版)
図:今日の地図
- 前回=条文になった転用は登記・登録だけ
- 条文にない転用も否定されていない
- 今日の3つの柱=①判例が認めた、条文にない転用の4場面②転用が認められない2場面③認める・認めないの分かれ目
- 右端に根拠の種類
- ①②=判例
- ③=解釈による整理
前回から、転用を見ています。典型的には、金銭債権でない債権を実現するために、代位のしくみを借りる使い方です。前回は、そのうち、条文になったものを見ました。登記や登録の請求権を代位する場面だけでした。ただし、条文にない転用が否定されたわけではない、と言って終えました。今日は、その中身です。柱は3つです。1つめは、判例が認めた、条文にない転用の4場面。2つめは、転用が認められない2場面。3つめは、認める場合と認めない場合の分かれ目です。6つを別々に暗記する必要はありません。どの場面でも、守る債権と、代わりに使う権利の組を確かめます。そして最後に、認める場合と認めない場合を分ける、2つの問いを出します。3つめの柱です。
場面1——賃借人が、所有者の返還請求権を代位する
図:場面1の関係図
- A(借主)がBに持つ「土地を使わせてもらう債権=賃借権」が被保全債権
- BがCに持つ「所有権に基づく返還請求権(土地の明渡しを求める権利)」が被代位権利
- AがBに代わってCに「出ていけ」と請求する
- Bの資力欄=関係なし
- 出典=大判昭4・12・16 民集8巻944頁
1つめの場面は、冒頭の設例そのものです。3点で言います。守りたい債権、つまり被保全債権は、AがBに対して持つ、土地を使わせてもらう債権です。代わりに使う権利、つまり被代位権利は、BがCに対して持つ、所有権に基づく返還請求権です。土地を明け渡せ、と求める権利です。そして、請求する相手はCです。Bの資力は、関係がありません。Bがどれほどの資産家でも、Cが居座っている限り、Aは土地を使えません。Bの財産は、Aの役に立たないからです。前回、登記の場面で見たのと同じ考え方を、ここに当てはめ直せます。Aが欲しいのはお金ではなく、土地を使える状態そのものです。根拠を確かめます。条文を読みます。
条文民法423条1項
民法第423条1項 債権者は、自己の債権を保全するため必要があるときは、債務者に属する権利(以下「被代位権利」という。)を行使することができる。ただし、債務者の一身に専属する権利及び差押えを禁じられた権利は、この限りでない。
注目してほしいのは、2か所です。「自己の債権を保全するため必要があるとき」と、「債務者に属する権利」です。金銭債権に限るとは、書いていません。前の回までに見た無資力、つまり、債務者の資力が債権を弁済するのに十分でないこと、という言葉も、ありません。賃借権を守るために、賃貸人が不法占拠者に対して持つ権利を代位してよいことは、大審院の時代から、判例が認めてきました。ここは、条文に書かれた転用ではありません。423条1項の読み方として、判例が認めた使い方です。前回言ったとおり、転用の一般的な要件を条文にすることは、見送られました。ここで、考えてみてください。Bが大金持ちなら、Aは代位できないのでしょうか?
できます。Bが大金持ちでも、Aは代位できます。この場面で問われるのは、Bに財産があるかどうかではなく、Bの権利を使えばAが土地を使える状態になるかどうかです。
誰に明け渡させるのか——自分への明渡しと605条の4
図:問いの板
- 代位してCに請求するとき、「Bに明け渡せ」と言うのか、「Aに明け渡せ」と言えるのか
- 前提=原則は債務者に履行させる
- 金銭の支払・動産の引渡しだけは、423条の3で自分に求められる
- 不動産の明渡しは423条の3に書かれていない
代位してCに「出ていけ」と言うとき、もう1つ問題があります。「Bに明け渡せ」と言うのか、「Aに明け渡せ」と言えるのか、です。前々回に見たとおり、原則は、債務者に履行させます。例外が、423条の3です。金銭の支払と動産の引渡しだけは、自分に払え、自分に引き渡せ、と求められました。土地や建物の明渡しは、423条の3に書かれていません。この点は、条文ではなく、判例が答えています。
判例最判昭29・9・24 民集8巻9号1658頁
建物の賃借人による代位と自己への明渡し 建物の賃借人が、その賃借権を保全するため賃貸人たる建物所有者に代位して建物の不法占拠者に対しその明渡を請求する場合においては、直接自己に対してその明渡をなすべきことを請求することができるものと解するのを相当とする。
図:自己への明渡しの板
- 判例=建物の賃借人が、賃貸人(所有者)に代位して不法占拠者に明渡しを請求するときは、直接自己に明け渡せと請求できる
- 判決は理由を述べていない
- こちらの説明=Aが欲しいのは自分が使える状態
- Bに戻させるだけでは、目的を達せない場合がある
- お金の回収ではないので、自分に引き渡させても他の債権者を害する場面ではない
この判決が述べているのは建物の賃借人についてで、カードの賃借人がA、賃貸人たる建物所有者がB、不法占拠者がCにあたります。結論は、賃借人は、直接自分に明け渡せと請求できる、です。土地の賃借人にも同じ理屈が当てはまる、と一般に考えられています。ただし、この判決の言葉は、建物の賃借人についてです。判決は、直接自分に明け渡せと言える理由を、述べていません。ですから、ここからは判決の言葉ではなく、こちらの説明です。Aが欲しいのは、自分が使える状態です。Bに戻させるだけでは、Bが受け取らなかったり、また別の人に貸したりして、Aの目的を達せない場合があります。それに、お金の回収ではないので、自分に明け渡させても、ほかの債権者を害する場面ではありません。そう説明できます。
図:605条の4の板
- 対抗要件を備えた不動産の賃借人は、自分の権利として、妨害の停止・返還を請求できる(1号・2号)
- 対抗要件の例=605条の登記/借地借家法10条の借地上の建物の登記/同31条の建物の引渡し(名前だけ)
ただ、2017年の改正で、別の道が条文になりました。605条の4です。
条文民法605条の4
民法第605条の4 不動産の賃借人は、第六百五条の二第一項に規定する対抗要件を備えた場合において、次の各号に掲げるときは、それぞれ当該各号に定める請求をすることができる。 一 その不動産の占有を第三者が妨害しているとき その第三者に対する妨害の停止の請求 二 その不動産を第三者が占有しているとき その第三者に対する返還の請求
設例のCは、小屋を建てて居座っています。土地を占有していますから、2号の、返還の請求にあたります。条件は、賃借人が対抗要件を備えた場合、です。対抗要件とは、第三者に賃借権を主張するための条件のことで、土地なら、賃借権の登記や、借地上の自分名義の建物の登記などがあります。中身は、賃貸借の回でくわしく見ます。備えた賃借人は、605条の4で、自分の権利として請求できます。代位がとくに意味を持つのは、備えていない賃借人です。条文が認めているのは、備えた場合だけで、備えていない場合について、条文は何も言っていません。冒頭のAは、使い始める前で、建物もまだありません。賃借権の登記もないものとします。ですから、対抗要件を備えていません。だから、Aにとっては、代位が残る道です。備えていない賃借人は直接請求できない、と言い切ることはできません。条文が何も言っていない、というところまでが、確かなところです。
場面2——抵当権者が、所有者の妨害排除請求権を代位する
図:場面2の関係図
- この場面のA=抵当権者、B=抵当不動産の所有者、C=不法占有者
- Aが守る=不動産を適切に維持・保存するよう求める請求権
- 代わりに使う=BがCに持つ妨害排除請求権(判決の呼び名)
- 判決の核心=抵当権者は、右請求権を保全する必要があるとき、423条の法意に従い、所有者の不法占有者に対する妨害排除請求権を代位行使できる
- 出典=最大判平11・11・24 民集53巻8号1899頁
2つめの場面です。抵当権の回で見ました。この場面のAは抵当権者、Bは抵当不動産の所有者、Cは不法占有者です。抵当権の回では、不法占有者を、抵当権者が追い出す道として、Bの妨害排除請求権を、423条の法意に従ってAが代わりに使う、という構成を見ました。判決は、居座っている不法占有者に明渡しを求める所有者の権利を、妨害排除請求権と呼んでいます。1つめの場面では返還請求権と呼びましたが、どちらも、居座る人に出ていけと求める所有者の権利のことです。抵当権者が、自分の抵当権そのものの効力として追い出す道も、そのあとの回で見ました。今日は、Bの権利を代わりに使うほうの道を取り上げて、これが転用の1つだ、と位置づけます。理由は、Aが守りたいものにあります。Aが守りたいのは、貸したお金そのものではありません。抵当権は、お金が返ってこないときに、不動産を競売にかけ、その代金から優先して返してもらう権利でした。不法占有者がいると、競売が進まず、売れる値段も下がるおそれがあります。判決は、これを抵当権に対する侵害と評価できるとし、所有者は、侵害が生じないよう、不動産を適切に維持管理することが予定されている、と言います。だから抵当権者は、所有者に対して、抵当不動産をきちんと維持し、保存するよう求める請求権を持ちます。判決が挙げるのは、この請求権です。お金の回収そのものではなく、抵当不動産の価値を保つための使い方です。
判決そのものは、転用だとは言っていません。法廷意見に、転用という言葉は出てきません。補足意見には、いわゆる転用事例、という言い方が出てきます。転用の1つと見られる、というのは、こちらの整理です。もう1点、言い分けます。代位行使を認めたのは、債権譲渡と相殺の回でも出てきた法廷意見、つまり裁判所としての判断で、条文そのものではなく、423条の法意に従い、という言い方でした。担保価値維持請求権という名前は、補足意見、つまり結論に賛成する裁判官が理由を付け加えた意見で出てきます。法廷意見は、そう名づけていません。また、法廷意見は、所有者の資力に触れていません。無資力が要件に挙がっていない、というところまでが、言えることです。
場面3——転々と譲渡された債権の、通知を求める権利を代位する
図:復習の1問
- 債権譲渡の通知は、譲渡人と譲受人のどちらがするのか
- 債権譲渡の回の答え=譲渡人がする
- 467条1項
- 譲受人が自分の名前でした通知は、対抗要件にならない
3つめに入る前に、債権譲渡の回で見たことを思い出してください。債権譲渡の通知は、譲渡人と譲受人のどちらがするのでしたか?今日は、この通知が絡みます。
図:場面3の関係図
- 債権の債務者D
- 債権は最初の債権者Cから、中間のBへ、最後のAへと渡った(渡った順はC、B、A)
- C→Bの譲渡が、Dに通知されていない
- 被保全債権=AがBに持つ「B→Aの譲渡をDに通知せよ」と求める権利
- 被代位権利=BがCに持つ「C→Bの譲渡をDに通知せよ」と求める権利
- 通知をするのは、請求を受けたCのまま
設例です。ある債権の債務者をDとします。この債権が、最初の債権者C、中間のB、最後のAと、渡りました。渡った順は、C、B、Aです。ところが、CからBへの譲渡が、Dに通知されていません。Dの承諾もありません。債権譲渡の回で見たとおり、譲渡人が債務者に通知をするか、債務者が承諾をしなければ、譲受人は、債務者に、自分が債権者だと言えません。ですからBは、Dに対して、債権者だと言えないままです。そのBから譲り受けたAも、CからBへの通知がそろわない限り、Dに債権者だと言えない、と説明できます。Aは、Dに対して、自分が債権者だと言えるようにしたい。Dは債権の債務者で、A・B・Cの役割には入りません。代わりに権利を使うのは、最後のAです。3点で言います。被保全債権は、AがBに対して持つ、BからAへの譲渡をDに通知せよ、と求める権利です。被代位権利は、BがCに対して持つ、CからBへの譲渡をDに通知せよ、と求める権利です。Bが動かないので、AがBに代わって、Cに通知を求めます。通知をするのは、請求を受けたCのままです。譲渡人が通知する、という原則とは、矛盾しません。Aが自分でDに通知しているわけではないからです。この点は、あとでもう一度使います。
図:前回の登記と今回の通知の並列板
- 左=前回の登記(売られた順にA・B・C、最後のCが代位。登記請求権を代位して、過程を順にそろえる)
- 右=今回の通知(渡った順にC・B・A、最後のAが代位。通知を求める権利を代位して、譲渡の過程を順にそろえる)
- 形は同じ
- 登記請求権が、通知を求める権利に置き換わっただけ
- 無資力=どちらも問われない
- 出典=大判大8・6・26 民録25輯1178頁
前回の登記の連鎖と、同じ形です。前回は、売られた順にA、B、Cと呼んで、最後のCが代位しました。今日は、役割で呼ぶので、渡った順はC、B、Aで、代位するのは最後のAです。呼び名の並びは逆ですが、形は同じです。登記を求める権利が、通知を求める権利に置き換わっただけです。過程を順にそろえる、という考え方も同じです。Bの資力は、この場面でも関係がありません。Aが欲しいのは、お金ではなく、Dに対して債権者だと言える状態だからです。この代位を認めたのも、大審院の判例です。
場面4——金銭債権なのに、無資力が問われなかった
図:場面4の関係図
- 亡くなった売主が土地を売り、登記は未了、代金は一部未払い
- 相続人はAとC
- 買主B
- この場面のA=代金を受け取りたい相続人、B=買主、C=登記に協力しない相続人
- Cが登記に応じない→Bは533条(同時履行)で代金全額の支払を拒める→Aは代金を受け取れない
- AがBに代わって、Cに「Bに登記せよ」と求める
- Bの資力=問われない
4つめです。前回、転用について、同じ2人の間でも、典型的には、守るものがお金か登記かで結論が分かれる、と言いました。転用の意味を言うときにも、典型的には、金銭債権でない債権、と言いました。どちらにも「典型的には」と添えたのは、例外があるからです。その例外が、この場面です。守るものがお金なのに、Bの資力が問われなかった判例があります。設例を作ります。売主が、買主Bに土地を売りました。まだ登記は移しておらず、代金も、一部しか払われていません。その間に、売主が亡くなりました。相続人は、AとCです。登記を移す義務は、相続人全員が受け継ぎます。ところが、Cが、登記に応じません。この場面のAは、代金を受け取りたい相続人、Bは買主、Cは登記に協力しない相続人です。
Cが拒むだけでAまで受け取れなくなるのは、同時履行の抗弁があるからです。買主Bは、登記と引換えでなければ、代金を払わない、と言えます。そして、相続人全員が登記を提供しない限り、Bは、代金全額の支払を拒めます。Cが登記を拒んでいる以上、Aが「自分は登記を提供するから払ってほしい」と言っても、Bは払わなくてよいのです。なお、売主の代金債権は、相続人が相続分に応じて当然に分けて受け継ぐ、というのが判例です。ですからAは、自分の分の代金債権を持っています。そこでAは、Bに代わって、Cに「Bに所有権移転登記をせよ」と求めます。Aが守りたい債権は、代金債権、つまり金銭債権です。それでも、Bの資力は問われませんでした。
判例最判昭50・3・6 民集29巻3号203頁
代金債権を保全するための登記請求権の代位 被相続人が生前に土地を売却し、買主に対する所有権移転登記義務を負担していた場合に、数人の共同相続人がその義務を相続したときは、買主は、共同相続人の全員が登記義務の履行を提供しないかぎり、代金全額の支払を拒絶することができるものと解すべく、したがつて、共同相続人の一人が右登記義務の履行を拒絶しているときは、買主は、登記義務の履行を提供して自己の相続した代金債権の弁済を求める他の相続人に対しても代金支払を拒絶することができるものと解すべきである。そして、この場合、相続人は、右同時履行の抗弁権を失わせて買主に対する自己の代金債権を保全するため、債務者たる買主の資力の有無を問わず、民法四二三条一項本文により、買主に代位して、登記に応じない相続人に対する買主の所有権移転登記手続請求権を行使することができるものと解するのが相当である。
図:判旨の言葉と、こちらの説明の板
- 判決の言葉=「右同時履行の抗弁権を失わせて買主に対する自己の代金債権を保全するため」「債務者たる買主の資力の有無を問わず」「民法四二三条一項本文により」
- 判決は、資力を問わない理由を書いていない
- こちらの説明=Aが代金を受け取れない原因は、Bにお金がないことではなく、Bが「登記と引換えでなければ払わない」と言えること
- Bが資産家でも、この抗弁がある限りAは受け取れない
カードの言葉を、役割に対応させます。「右」は、直前に書いた事柄を指す、古い言い回しです。「買主」がB、「登記に応じない相続人」がC、「他の相続人」と、そのあとの「相続人」が、代位するAです。判決が言っていることは、3つです。同時履行の抗弁権を失わせて、自分の代金債権を保全するため。買主の資力の有無を問わず。そして、423条1項本文により。判決は、資力を問わない、と述べているだけで、その理由は書いていません。理由は、こちらの説明です。Aが代金を受け取れない原因は、Bにお金がないことではありません。Bが、登記と引換えでなければ払わない、と言えることです。Bが資産家でも、この抗弁がある限り、Aは受け取れません。Cが登記に応じて、抗弁が消えれば、AはBに代金を請求できるようになります。Bの資力は、Aの債権が実現できるかどうかと関係がない。だから、問われなかった、と説明できます。ここで、考えてみてください。買主Bが無資力だったら、結論は変わるでしょうか?
Bが無資力でも、結論は変わりません。判決は、資力の有無を問わず、と述べています。この場面の障害は、Bの資力ではなく、同時履行の抗弁です。Bがお金を持っていても持っていなくても、まず抗弁を消さなければ、Aは請求に進めません。前回の「典型的には」は、まさにこのためでした。金銭債権だから無資力が要る、という決め方ではないのです。決め手は、金銭債権かどうかではなく、Bの資力が、債権の実現と関係するかどうかです。ただし、これは判例が示した一般論ではなく、この回の整理です。最後の分かれ目で、もう一度使います。
認めた4場面の一覧
図:4場面の一覧表。列=だれが/守る債権(被保全債権)/代わりに使う権利(被代位権利)/無資力。行1=賃借人/土地を使わせてもらう債権(賃借権)/所有権に基づく返還請求権(明渡し)/問われない。行2=抵当権者/抵当不動産を適切に維持・保存するよう求める請求権/所有権に基づく妨害排除請求権(判決の呼び名)/要件に挙がっていない。行3=後の譲受人/通知を求める債権(B→Aの譲渡をDに通知せよ)/通知を求める権利(C→Bの譲渡をDに通知せよ)/問われない。行4=相続人/代金債権(金銭債権)/所有権移転登記手続請求権/問われない(同時履行の抗弁を失わせるため)。右端に根拠=判例。
柱の1つめを、表にまとめます。賃借人は、土地を使わせてもらう債権を守るために、所有者の返還請求権を使います。抵当権者は、不動産を適切に維持、保存するよう求める請求権を守るために、居座る人に出ていけと求める所有者の権利、判決の呼び名では妨害排除請求権を使います。後の譲受人は、通知を求める債権を守るために、通知を求める権利を使います。相続人は、代金債権を守るために、所有権移転登記手続請求権を使います。無資力の欄で、抵当権者だけ「問われない」ではなく、「要件に挙がっていない」と書きました。法廷意見が資力に触れていないからです。
4つとも、お金の回収そのものではなく、特定の権利を実現するための使い方です。ただし、4つめだけは、守る債権が金銭債権です。ここが、金銭債権かどうかでは決まらない、ということの手がかりになります。
限界1——建物の借主は、貸主の建物買取請求権を代位できない
図:復習の1問
- 建物買取請求権を行使すると、建物の所有権と代金債権はどうなるか
- 留置権の回の答え=請求した瞬間に売買が成立し、建物の所有権を渡す代わりに、建物の代金債権を持つ
ここからは、柱の2つめ、認められない場面です。まず前提を、最小限だけ入れます。留置権の回で見た、建物買取請求権です。建物買取請求権を行使すると、建物の所有権と代金債権は、どうなるのでしたか?今日は、この建物買取請求権が、別の形で登場します。
図:13条と14条の対比板
- 借地借家法13条=借地権の存続期間が満了し、更新がないとき、借地権者が、借地権設定者に建物を時価で買い取れと請求(留置権の回)
- 借地借家法14条=第三者が賃借権の目的である土地の上の建物を取得した場合に、借地権設定者が賃借権の譲渡又は転貸を承諾しないとき、その第三者が、借地権設定者に建物を時価で買い取れと請求(第三者の建物買取請求権)
- 今日は14条
- 612条1項=賃借権の譲渡には賃貸人の承諾が要る
前提の設例です。土地を借りていた人が、その土地の上に建物を建てていました。その人が、建物を、Bに譲りました。地主のCの承諾は、取っていません。建物と一緒に、土地を借りる権利も、Bに移った形です。建物を譲った、もとの借主は、役割のA・B・Cには入りません。612条1項は、賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、賃借権を譲り渡せない、と定めています。承諾がないと、Bは、土地を借りる権利を、地主のCに主張できません。Cから「建物を壊して、土地を明け渡せ」と言われたら、従うしかありません。ただ、Bには、手があります。Cに対して、建物を時価で買い取れ、と請求できます。借地借家法14条の、第三者の建物買取請求権です。この判決の当時は、同じ内容の規定が別の法律にあり、いまは14条に引き継がれています。請求すると、売買が成立して、Bは建物の所有権を失う代わりに、建物の代金債権を持ちます。
名前は同じですが、条文が違います。留置権の回は、借地借家法13条で、借地権の期間が満了して更新がないときの、借地権者の請求権でした。今回は14条で、地主の承諾を得られない譲受人の請求権です。取り違えないでください。
図:限界1の関係図
- この場面のA=建物の借主、B=建物の貸主(借地上の建物を譲り受けた人)、C=地主
- 建物を譲った、もとの借主は役割外
- AはBに建物を借りている
- BはCに建物買取請求権(14条)を持つ
- AがBに代わって、この買取請求権を行使できるか
- Aの狙い=建物がCのものになれば、Cは自分の建物を壊せとは言えなくなる
- 答え=できない
本題です。この場面のAは、Bから建物を借りている人、Bは建物の貸主、Cは地主です。Aは、Bから借りている建物を、これからも使い続けたい。そこで、AのBに対する建物賃借権を守るために、AがBに代わって、Bの買取請求権を行使できないか、と考えます。Aの狙いは、建物が地主Cのものになれば、Cは、自分の建物を壊せ、とは言えなくなるだろう、ということです。結論は、できません。判例は、これを否定しました。
判例最判昭38・4・23 民集17巻3号536頁
建物買取請求権の代位 債権者が民法四二三条により債務者の権利を代位行使するには、その権利の行使により債務者が利益を享受し、その利益によつて債権者の権利が保全されるという関係が存在することを要するものと解される。しかるに、本件において、上告人らが債務者である訴外Dの有する本件建物の買取請求権を代位行使することにより保全しようとする債権は、右建物に関する賃借権であるところ、右代位行使により訴外Dが受けるべき利益は建物の代金債権、すなわち金銭債権に過ぎないのであり(買取請求権行使の結果、建物の所有権を失うことは、訴外Dにとり不利益であつて、利益ではない)、右金銭債権により上告人らの賃借権が保全されるものでないことは明らかである。
図:判旨の板
- 一般論=代位行使するには、その権利の行使により債務者が利益を享受し、その利益によって債権者の権利が保全されるという関係が必要
- 本件=守りたい債権は建物の賃借権
- 代位行使で債務者(貸主B)が受ける利益は建物の代金債権(金銭債権)にすぎない
- 建物の所有権を失うことは、Bにとって不利益
- その金銭債権では、賃借権は保全されない
カードの言葉を対応づけます。「上告人ら」がA、債務者の「訴外D」が建物の貸主のB、「右」は直前に書いた事柄を指す古い言い回しです。判決は、まず一般論を言います。債務者の権利を代位行使するには、その権利の行使によって債務者が利益を受け、その利益によって、債権者の権利が保全される、という関係が必要だ、と言います。そして、本件に当てはめます。Aが守りたい債権は、建物の賃借権です。ところが、買取請求権を代位行使して、Bが受ける利益は、建物の代金債権、つまり金銭債権にすぎません。しかも、建物の所有権を失うことは、Bにとって不利益であって、利益ではありません。その金銭債権で、Aの賃借権が保全されないことは、明らかだ、と判決は言います。
判決は、代位に成功した後で、Aがどうなるかには、触れていません。言えるのは、判決の言葉の範囲までです。Bが受ける利益は代金債権だけで、それはAの賃借権を守る役に立たない。つまり、代位しても、守りたい債権が守られない。だから、認められません。場面1と比べると違いが見えます。場面1では、Bの権利を使うと、居座りが消えて、Aは土地を使える状態になりました。ここでは、Bの権利を使っても、Aの賃借権の保全にはつながりません。
限界2——通知そのものは、代位できない
図:通知の代位の対比板
- ○=通知を求める権利の代位(場面3)
- AがBに代わって、Cに「C→Bの譲渡をDに通知せよ」と求める
- 通知をするのは、Cのまま
- ×=通知そのものの代位
- AがBに代わって、Dに「B→Aの譲渡」を通知する
- 通知をするのは、A
- 理由=通知は譲渡人がするという趣旨に反する/通知は、譲渡人が債務者に対して持つ「権利」ではなく、譲渡人のする行為
- 根拠=判例(結論。大判昭5・10・10)・説明(理由)
2つめの認められない場面です。場面3と対にして見ます。債権譲渡の回で、譲受人が、譲渡人に代位して債務者に通知することはできない、と見ました。大審院の判例です。対比します。場面3は、AがBに代わって、Cに、CからBへの譲渡をDに通知せよ、と求める形でした。通知をするのは、Cのままです。これは認められます。認められないのは、AがBに代わって、Dに、BからAへの譲渡を通知する形です。通知をするのは、Aです。通知を求める権利の代位は認められ、通知そのものの代位は認められません。通知をするのが誰か、が違います。場面3では、通知をするのは譲渡人のCで、原則どおりです。通知そのものの代位は、結局、譲受人のAが通知することになります。通知は譲渡人がする、という原則の意味が失われます。債権譲渡の回で見たとおり、譲受人を名乗る誰かが一方的に通知できるなら、Dが振り回されてしまうからです。もう1つ、権利の面から説明できます。423条1項が代位を認めるのは、債務者に属する「権利」です。通知は、譲渡人が債務者に対して持つ権利ではなく、譲渡人がする行為です。代わりに使う権利が存在しない、と説明できます。この2つの理由は、大審院の言葉ではなく、こちらの説明です。なお、Aが、Bの代理人として通知することは、できます。代位は、自分の名前でBの権利を使います。代理は、Bの代理人としてBの意思でする行為です。別のものです。
認める・認めないの分かれ目——2つの問い
図:分かれ目の板
- 423条1項の言葉に戻る=「自己の債権を保全するため必要があるとき」「債務者に属する権利」
- 問い1=債務者の権利を使うことが、自分の債権を守るのに必要で、役に立つか
- 問い2=代わりに使おうとしているものは、債務者が持っている「権利」か
- 根拠=問い1の必要=423条1項の文言・役に立つ=昭38の一般論
- 問い2=423条1項の文言と限界2の説明
- 右端=2問に整理するのは、この回の整理
3つめの柱です。ここまでの6つの場面を、2つの問いにまとめます。423条1項の言葉に戻ります。「自己の債権を保全するため必要があるとき」と、「債務者に属する権利」です。問い1です。債務者の権利を使うことが、自分の債権を守るのに、必要で、役に立つか。必要は、条文の言葉です。役に立つは、先ほどの判決の一般論、債務者が利益を受け、その利益で債権者の権利が保全される、という関係から取りました。問い2です。代わりに使おうとしているものは、債務者が持っている権利か。債務者のする行為そのものを、代わりにしようとしていないか、という確認です。これは、条文の言葉と、通知そのものの説明から組みました。注意してほしいのは、この2問に整理するのは、この回の整理だということです。問い1の一般論は判決の言葉ですが、2問にまとめたのは、判例が示した一般論ではありません。通説とも、言い切れません。考えるときの物差し、と受け取ってください。
図:当てはめ表。行=場面1〜4(賃借人・抵当権者・後の譲受人・相続人)、建物買取請求権の代位、通知そのものの代位。列=問い1(必要で役に立つか)/問い2(債務者の権利か)/結論。場面1〜4=○/○/認める。建物買取請求権=×(Bの利益は代金債権にすぎず賃借権を保全しない)/○/認めない。通知そのもの=○/×(行為であって権利でない)/認めない。
当てはめます。場面1から4は、問い1も問い2も○です。建物買取請求権の代位は、問い1が×です。Bの利益は代金債権にすぎず、Aの賃借権を保全しないからです。通知そのものの代位は、問い2が×です。通知は、権利ではなく行為だからです。確認します。建物買取請求権の代位は、問い1と問い2のどちらで×になるでしょうか?買取請求権は、Bが持っている権利ですから、問い2は通ります。×になるのは、問い1です。場面4を問い1で説明し直します。登記が実現すると、買主Bは、登記と引換えでなければ払わない、とは言えなくなります。Aは、代金を請求できるようになる。役に立つ、と言えます。これは判決の言葉ではなく、問い1に当てはめた、こちらの説明です。
今日見た最高裁の4つの判決の法廷意見は、ほかに手段がないことを、要件として挙げていません。補足意見の中に、転用事例は、他に適切な救済手段が存しないために、やむなく認められた便法とされている、という言い方があります。抵当権者の場合に、代位の道を閉ざすべきでないと述べる文脈です。あくまで補足意見の記述です。賃借人の場面では、対抗要件を備えていれば、605条の4が、自分の権利としての請求を条文にしました。ですから、ほかに手段があるかは、考えるときの材料にはなります。ただ、要件として確立している、とは言えません。判例のない場面に出会ったときは、結論を言い切らず、問い1と問い2を当てはめます。たとえば、Aが借りる約束をした自転車を、Aが受け取る前に、Cが持ち去り、貸主のBは何もしない場合です。Bの返還請求権を使えば、Aは自転車を使える状態になれます。問い1は通ります。返還請求権はBの権利ですから、問い2も通ります。動産の引渡しですから、423条の3で自分に引き渡せと求める道もあります。認められる方向で考えられる、というところまでが、言えることです。
債権者代位権の全体の振り返り
図:振り返り板
- 本来の使い方=責任財産を保つ/金銭債権を守る/無資力が要る
- 転用=特定の権利を実現する/Bの資力と関係しない(関係するかで決まる)/条文になった登記・登録と、条文にない4場面
債権者代位権の全体を、振り返ります。本来の使い方は、債務者の責任財産を保って、金銭債権を回収できるようにするものでした。債務者が無資力であることが、要件でした。転用は、特定の権利を実現するための使い方です。債務者の資力が、債権の実現と関係しないので、無資力は問われません。条文になったのが登記と登録で、条文にないものが、今日の4場面です。次の回からは、債務者が財産を減らす行為を取り消す制度に進みます。
冒頭の問いに戻る——今日のまとめ
図:まとめ板
- 3つの柱と根拠の種類
- ①判例が認めた4場面=賃借人・抵当権者・後の譲受人・相続人=判例
- ②認められない2場面=建物買取請求権の代位・通知そのものの代位=判例
- ③分かれ目の2つの問い=問い1(必要で役に立つか)・問い2(債務者の権利か=解釈による整理。
冒頭の問いに戻ります。使い始める前の土地に、見知らぬ人が居座っていて、地主が動かない。借りた人は、出ていけと言えるのか、でした。答えです。Aは、Bに代わって、Cに「出ていけ」と言えます。Bが資産家でも、関係がありません。自分に明け渡せとも言えます。どちらも判例の考え方です。自分への明渡しを認めた判決の事案は、建物の賃借人でした。ただし、対抗要件を備えた賃借人は、605条の4で、自分の権利として請求することもできます。3つの柱を、整理します。1つめ、判例が認めた4場面です。賃借人、抵当権者、後の譲受人、相続人でした。守る債権と、代わりに使う権利の組で言えるようにしてください。2つめ、認められない2場面です。建物買取請求権の代位と、通知そのものの代位でした。3つめが、分かれ目で、2つの問いでした。ここは、解釈による整理です。今日の軸を、1つにまとめます。代位は、Bの権利を使うことが、Aの債権を守るのに役に立ち、しかも、それがBの権利であるときに認められます。守るものがお金かどうかではなく、Bの資力が、債権の実現と関係するかどうかで、無資力が要るかどうかが決まります。転用の可否の当てはめは、論文で論点になりうる部分です。
参照条文
- 民法423条1項
- 民法605条の4