詐害行為取消権の意義と特定物債権
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第4章 債権総論 #197/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
借金を残したまま、家を親族に譲った
図:冒頭の関係図
- 貸主A、借主B、家を譲り受けた親族C
- AはBに500万円を貸している
- Bの唯一の財産は時価1500万円の家
- BはCに、代金10万円で家を譲り、登記もCに移した
- Bに「ほかに財産なし」の注記
- 問い=Aは、その家にもう手を出せないのか
- 呼び名=A=貸した人、B=借りた人、C=Bから財産を受け取った相手
今日は、お金の貸し借りの話から始まるのですか。設例から入ります。AがBに、500万円を貸しました。ところが、返済を迫られたBは、ほかに財産がなく、唯一の財産である時価1500万円の家を、親族に、代金10万円で譲ってしまいました。登記も、その親族に移してあります。Aは、その家に、もう手を出せないのでしょうか。登場人物を整理します。貸したAと、借りたBは、債権者代位権の5回と同じ役割です。今日からは、Bから財産を受け取った相手を、Cと呼びます。この設例では、家を受け取った親族がCです。代位権の回では、Cは、Bに支払う義務を負う相手でしたが、今日は役割が変わります。
引っかかりは3つあります。1つめ、家の名義はもうCで、差押えができるのは債務者Bの財産だけです。2つめ、自分の財産をどうするかは本人の自由でした。財産管理の自由です。3つめ、CはAと何の契約も結んでいません。それでも民法は、一定の場合に限って、Aの口出しを認めます。なぜ認めるのか、どこまで認めるのか。これが今日の問いです。1つ、似た場面と区別しておきます。家を譲ったふりをしただけなら、仮装の譲渡で、最初から無効でした。虚偽表示の回で見たとおりです。その場合は、取り消すまでもなく、Aは無効を主張して、差押えにいけます。今日の設例は、本当に譲っています。有効な譲渡を、あとから取り消す。ここが違います。先に答えを言います。要件がそろえば、Aは、裁判所に請求して、BからCへの譲渡を取り消し、家の名義をBに戻させることができます。ただし、戻した家をAが自分のものにするわけではありません。なぜそうなるのか、順に見ていきます。
今日の地図(保存版)
図:今日の地図
- 責任財産の保全の地図=債務者が「しない」ために増えない=債権者代位権(前の5回)/債務者が「した」ために減る=詐害行為取消権(今日から)
- 今日の3つの柱=①詐害行為取消権とは何か(しくみ・登場人物・代位権との違い)②条文の地図と要件の全体像③守られる債権は金銭債権——特定物債権者は使えるか
- 右端に根拠の種類
- ①=条文②=条文と解釈③=解釈・判例
責任財産の回で、2つの制度の地図を見ました。債務者が、取り立てるべきものを取り立てないために、責任財産が増えない場面が、債権者代位権でした。債務者が、財産を減らす行為をしたために、責任財産が減る場面が、詐害行為取消権です。代位権の回で左側を済ませました。今日から、右側に入ります。入口が、債務者の資力が足りないことで共通だった点も、思い出してください。柱は3つです。1つめは、制度のしくみです。何を、誰に、どうやって求める権利なのか、代位権とどこが違うのかを見ます。2つめは、条文の並びと、取り消すための要件の全体像です。3つめは、守られる債権は金銭債権という要件と、その応用として、特定物の引渡しを求める債権者は使えるのか、です。
要件が何個もあるなら、今日全部覚えるのですか。違います。要件は5つありますが、今日、中身まで見るのは、そのうち、守られる債権が金銭債権であること、だけです。残りは次の回から順に見ます。今日は、5つの全体像を持って、その1つに集中します。
制度の姿——424条1項と登場人物
図:登場人物の板
- A=取消債権者(取り消しを求める債権者)/B=債務者/C=受益者(Bから財産を受け取った相手)/D=転得者(Cからさらに受け取った人)
- AのBに対する貸金債権=被保全債権、BからCへの譲渡=詐害行為
- 根拠=民法424条1項
制度の中心になる条文を読みます。
条文民法424条1項
民法第424条1項 債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者(以下この款において「受益者」という。)がその行為の時において債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。
本文とただし書を分けて読みます。本文は、債務者が、債権者を害すると知りながらした行為について、債権者がその取消しを裁判所に請求できる、です。ただし書は、その行為で利益を受けた者が、行為の時に、債権者を害することを知らなかったときは、取り消せない、です。受益者が事情を知らなかった場合は、取消しは認められません。用語を、設例に当てはめます。取り消しを求めるAを、取消債権者と呼びます。AのBに対する貸金債権は、被保全債権です。守られる債権という意味で、代位権の回でも使った呼び方です。BからCへの譲渡が、詐害行為です。債権者を害する行為、という意味です。そして、行為によって利益を受けたCが、受益者です。もう1人います。Cが、さらにその家を別の人に渡した場合の、その相手を、転得者と呼びます。受益者からさらに受け取った人、という意味です。今日はDと呼びます。今日の設例では、Cはまだ家を持っているので、Dは出てきません。名前だけ覚えてください。
債権者を害するとは、債務者の財産が減って、債権者が貸したお金を回収できなくなることです。設例では、Bはほかに財産がありません。家を手放せば、500万円を払えなくなります。この「害する」の中身は、次の回で、くわしく見ます。
しくみは4段——取り消す、戻す、強制執行、配当
図:しくみ4段の図と関係図
- A→B(債権)、B→C(詐害行為)、C→D(転得)
- 4段=①Aが取り消す(BCの譲渡)→②家の名義がBのもとに戻る→③Aが強制執行する→④配当を受ける
- 目的=Aが自分だけ回収することではなく、責任財産を元に戻して強制執行に備えること
しくみを、設例で4段に分けます。1段目、AがBからCへの譲渡を取り消します。2段目、取り消されたので、家の名義が、Bのもとに戻ります。3段目、家はBの責任財産に戻ったので、Aは、Bに対する500万円の債権で、その家に強制執行をします。4段目、家が競売で売れて、代金が、配当されます。取り消せば、家がAのものになるわけではないのですか。なりません。戻る先は、Aではなく、Bのもとです。目的は、Aが自分だけ回収することではなく、Bの責任財産を元に戻して、強制執行に備えることだからです。戻った家は、Bのほかの債権者にとっても、引き当てになります。ですから4段目で、代金を、債権者に分ける配当、と言います。Aは、その中から、配当を受けます。今日は、家のような不動産の例だけを見ます。戻ってくるのがお金の場合の細かい扱いは、後の回です。
取り消すだけで終わらない——424条の6
図:424条の6第1項の板
- 前段=取消しとともに、受益者に移転した財産の返還を請求できる
- 後段=返還が困難なときは、価額の償還を請求できる(価額の償還=財産の代わりに、値段分のお金を返すこと)
- 設例=Aは、Cへの売買を取り消すだけでなく、家の名義をBに戻すところまで求める
- 2項=転得者に対する同旨(名前だけ)
- 2017年の改正で、判例が認めていた内容を条文にしたもの
取り消しが認められても、家の名義はCのままですよね。そこまで戻してもらえるのですか。そこを定めた条文があります。
条文民法424条の6第1項
民法第424条の6第1項 債権者は、受益者に対する詐害行為取消請求において、債務者がした行為の取消しとともに、その行為によって受益者に移転した財産の返還を請求することができる。受益者がその財産の返還をすることが困難であるときは、債権者は、その価額の償還を請求することができる。
前段と後段を分けます。前段は、債権者が、債務者の行為の取消しを求めるのと一緒に、受益者に移った財産の返還も請求できる、です。後段は、受益者が、その財産を返すのが難しいときは、財産の代わりに、その価額、つまり値段分のお金を返すよう請求できる、です。設例に当てはめます。Aは、BからCへの売買を取り消すだけでなく、家の名義をBに戻すところまで、求められます。登記を戻すのが、返還です。もしCが、家を壊してしまったり、別の人に渡して返せなくなったりすれば、その価額、つまり家の値段分のお金を求めます。法的性質の呼び名も、1つだけ挙げておきます。取消しを求めることと、返還を求めることを、あわせて認める考え方は、従来、折衷説と呼ばれてきました。ただ、今は424条の6が、取消しと返還の請求を、条文に定めています。答案は条文で書けますから、呼び名を知っていることが、結論を左右するわけではありません。この条文は、2017年の改正で入りました。判例が認めていた内容を、条文にしたものです。2項は、同じことを転得者に対して請求する場合を定めています。地図に名前を載せるだけにします。
なぜ裁判所を通すのか
図:裁判上の行使の板
- 424条1項=「裁判所に請求」
- 裁判外では行使できない
- 代位権=裁判外でも行使できた
- こちらの説明=すでに成立した他人どうしの取引(BとC)を、あとから無かったことにする
- 第三者であるCの取引の安全に与える影響が大きい
- だから、要件がそろっているかを、裁判所が確かめる
代位権の回で、取消権は裁判で行使する、と予告していました。その理由を、ここで回収します。条文の結論は、424条1項の「裁判所に請求」です。裁判外では行使できません。理由は、条文には書かれていませんので、こちらの説明です。BとCの取引は、すでに成立した、他人どうしの取引です。取消権は、それをあとから、無かったことにします。第三者であるCの取引の安全に、与える影響が大きい。そこで、要件がそろっているかどうかを、裁判所が確かめたうえで、取り消す仕組みにした、と説明できます。代位権は、債務者の権利を代わりに使うだけで、Cの取引をひっくり返しません。この違いが、次の比較に効きます。
債権者代位権との比較
図:比較表。列=債権者代位権/詐害行為取消権。行=①場面(債務者が動かない/債務者が動いて財産を減らした)②することの中身(債務者の権利を代わりに使う/債務者の行為を取り消す)③行使の方法(裁判外でもできる/裁判所に請求)④金銭でない債権を守る使い方(ある=転用/ない)⑤期間の制限(行使そのものに特別の期間は無い/ある=426条・中身は後の回)。最下段=取消権は他人の取引に踏み込む。介入が強いから、要件が重く、裁判に限り、期間の制限がある。
債権者代位権と、詐害行為取消権を、5つの点で並べます。1つめ、場面です。代位権は、債務者が動かない場面。取消権は、債務者が動いて、財産を減らした場面です。2つめ、することの中身です。代位権は、債務者の権利を、代わりに使います。取消権は、債務者の行為を取り消します。3つめ、行使の方法です。代位権は、裁判の外でもできます。取消権は、裁判所に請求します。4つめ、金銭でない債権を守る使い方です。代位権には、金銭でない債権を実現するために、代位のしくみを借りる使い方がありました。転用です。取消権には、この使い方がありません。理由は、あとで見ます。5つめ、期間の制限です。代位権は、行使そのものに、特別の期間の定めはありません。取消権は、426条に期間の制限があります。数字は、後の回で見ます。
1本の理由で通せます。取消権は、Cがすでに手に入れた財産と取引に、踏み込みます。代位権は、債務者の権利を代わりに使うだけで、他人の取引を壊しません。取消権は、介入が強いので、要件が重く、行使は裁判に限られ、期間の制限もある、と説明できます。これはこちらの整理で、条文に書かれた理由ではありません。
条文の地図と、この先の進み方
図:条文の地図
- まとまり1=要件(424条・424条の2から424条の5)/まとまり2=行使の方法など(424条の6から424条の9)/まとまり3=行使の効果(425条から425条の4)/まとまり4=期間の制限(426条)
- 見出し=424条 詐害行為取消請求/424条の2 相当の対価を得てした財産の処分行為の特則/424条の3 特定の債権者に対する担保の供与等の特則/424条の4 過大な代物弁済等の特則/424条の5 転得者に対する詐害行為取消請求/424条の6 財産の返還又は価額の償還の請求/424条の7 被告及び訴訟告知/424条の8 詐害行為の取消しの範囲/424条の9 債権者への支払又は引渡し/425条 認容判決の効力が及ぶ者の範囲/425条の2 債務者の受けた反対給付に関する受益者の権利/425条の3 受益者の債権の回復/425条の4 詐害行為取消請求を受けた転得者の権利/426条(条の見出しなし・目の題は詐害行為取消権の期間の制限)
- 2017年の改正で組み替え
その要件、裁判での行使のしかた、期間の制限が、条文のどこに置かれているかを、大づかみに持っておきます。並びは、取り消そうとする債権者が出会う問いの順に読めます。どんなときに取り消せるか、誰に何をどう求めるか、認められたらどうなるか、いつまでにできるか、です。基本のルールが、424条です。続く424条の2から424条の4までが、3つの特則です。特則とは、基本のルールから外れる、特別のルールのことです。424条の2は、相当の対価を得てした処分の特則。424条の3は、特定の債権者への担保の供与などの特則。424条の4は、過大な代物弁済などの特則です。代物弁済は、本来の支払の代わりに、別の物で払うことです。中身には、今日は入りません。424条の5は、受益者ではなく、転得者を相手にするときの定めです。424条の6から424条の9までは、行使のしかたです。今日見た返還や価額の償還のほか、誰を被告にするか、どこまで取り消せるか、誰に支払わせるかが、並びます。425条から425条の4までは、行使の効果です。426条は、期間の制限です。この条文は、2017年の改正で組み替えられました。判例が積み上げてきたルールを条文にした部分と、判例を変えた部分が、混ざっています。どこがどちらかは、各条文を見るときに、言います。この先の進み方は、要件、特則、転得者と行使のしかた、取消しの範囲、効果の順です。今日は、その入口にあたる、基本の要件の全体像までを見ます。
要件は5つ——条文の言葉と、解釈
図:要件の全体像
- 受益者を相手にするときの基本の要件5つ
- ①被保全債権があること(条文=424条1項「債権者」・同3項・同4項。解釈=金銭債権であること・弁済期は不要・担保付きなら残額)②債務者の無資力(条文に語は無い。「債権者を害する」の読み方=解釈)③債務者が詐害行為をしたこと(条文=424条1項本文)④債務者が害することを知っていたこと(条文=424条1項本文)⑤受益者が害することを知っていたこと(条文=424条1項ただし書)
- 右の列=冒頭の設例への当てはめ
要件を、5つ並べます。受益者を相手にする場合の、基本の要件です。1つめ、被保全債権があること。2つめ、債務者が無資力であること。3つめ、債務者が詐害行為をしたこと。4つめ、債務者が、害することを知っていたこと。そして5つめが、受益者も、害することを知っていたこと、です。大事なのは、どれが条文の言葉で、どれが解釈か、です。3つめと4つめは、424条1項本文の言葉そのものです。行為をした、が3つめで、債権者を害すると知っていた、が4つめです。5つめは、ただし書です。受益者が、害することを知らなかったときは取り消せない、ということは、取り消すには、受益者が知っていたことが要る、という意味です。この3つは、条文を読めば出てきます。2つめの無資力は、条文に、無資力という言葉がありません。424条1項の、債権者を害する、という言葉の読み方として、債務者の財産が債務を払うのに足りないことが要る、と判例や学説が立てた基準です。代位権の「保全するため必要があるとき」を、無資力と読んだのと同じ型です。1つめの被保全債権は、両方が混ざります。条文の言葉は、424条1項の「債権者」に加えて、3項と4項です。3項は、守られる債権が、取り消したい行為の前の原因に基づいて生じたものであること。4項は、強制執行で実現できない債権では、請求できないこと、です。中身は、次の回です。一方、金銭債権であること、弁済期が来ていなくてよいこと、担保付きなら残額が被保全債権になること、は条文に書かれていない、解釈です。
冒頭の設例に、当てはめます。Aは、家を譲る前から、Bに貸金債権を持っています。Bは、家を失えば、ほぼ無資力です。10万円での譲渡は、財産を減らす行為です。Bは、債権者を害すると知っていました。Cも、事情を知っていました、という設定にします。5つがそろえば、Aは、さきほどの4段のしくみで、家をBの責任財産に戻せます。ここで、冒頭の問いに、いったん答えを出します。Aは、その家に、もう手を出せないわけではありません。要件がそろえば、裁判所に請求して、譲渡を取り消し、家をBのもとに戻して、強制執行にかけられます。これが、制度の姿です。
守られる債権は金銭債権——取消権には転用が無い
図:新しい問い
- ここまでは、Aが貸金債権を持つ設例
- ここからは、守られる債権の種類
- 復習=代位権で守られる債権は原則どんな債権か(答え=金銭債権・転用は例外)
- 取消権の規範=詐害行為取消権で守られる債権(被保全債権)は、金銭債権でなければならない
- 根拠は条文ではない(424条1項は「債権者」とだけ書く)=解釈(判例・通説)
ここから、新しい問いに入ります。制度の姿は、つかめました。次は、取り消せる債権者は、どんな債権を持つ人か、です。始める前に、復習です。債権者代位権で守られる債権は、原則として、どんな債権でしたか?金銭債権が原則で、その理由は、代位権が、責任財産を守って強制執行を準備する制度だからでした。金銭債権の債権者は、払ってもらえなければ、債務者の責任財産に強制執行をして、財産を売った代金から回収します。だから、責任財産に頼るのは、金銭の債権です。取消権も、責任財産を元に戻して、強制執行に備える制度です。ですから、同じ考え方が効きます。規範として言います。詐害行為取消権で守られる債権、つまり被保全債権は、金銭債権でなければならない。この規範の出どころは、条文の言葉の読み方と、制度の趣旨です。424条1項は、債権者、とだけ書いていて、金銭債権とは書いていません。判例と通説が、読み方として立てた基準です。たとえば、AがBに、家を引き渡せ、という債権だけを持っていたとします。家は、まだBのもとにあります。Bが、家とは別の財産をCに渡して、Bの責任財産が減ったとしても、Aが求めているのは家そのものです。別の財産を元に戻したところで、Aが家を手にできるかどうかは、変わりません。責任財産に頼る債権ではないので、取消権で守る場面ではない、ということです。
取消権には、転用はありません。代位権では、登記や賃借権のように、金銭でない債権を守るために、代位のしくみを使う転用がありました。判例が理由を述べているわけではありませんので、こちらの説明です。代位権の転用は、債務者の権利を代わりに使うだけで、他人がすでに手に入れた財産を取り上げません。ところが、取消権は、他人の取引を壊します。そこまで踏み込んでよいのは、全債権者が引き当てにしている責任財産を守る、という目的に絞られているからだ、と説明できます。金銭でない債権は、責任財産が元に戻っても、そのままでは満たされません。そのために他人の取引を壊すことは、この制度の目的の外にある、ということです。
被保全債権の、そのほかの確認
図:被保全債権の確認3行
- 1=弁済期が来ていなくてもよい(代位権の423条2項は「期限が到来しない間は、被代位権利を行使することができない」と定める。424条にはそういう文言が無い)
- 2=物的担保付きの債権は、担保で回収できない部分だけが被保全債権
- 3=物上保証・保証など第三者の担保が付いた債権は、債権全額(担保を実行されても債務者への求償権が残る)
被保全債権について、あと3つだけ確認します。1つめ、弁済期が来ていなくてもよいです。代位権は、423条2項が、債権の期限が到来しない間は、被代位権利を行使できない、と定めていました。424条には、そういう文言がありません。財産が出ていこうとしている場面で、期限が来るのを待てないから、と説明できます。判例・通説も、この結論です。2つめ、債務者自身の財産に物的担保が付いた債権は、担保で回収できない部分だけが、被保全債権です。代位権の回で見た考え方と同じです。担保で確実に回収できる部分は、責任財産に頼らなくて済むからです。範囲の細部は、後の回です。3つめ、物上保証や保証のように、第三者の担保が付いた債権は、債権全額が被保全債権です。物上保証とは、他人の借金のために、自分の物に担保をつけることでした。2つめとの違いは、担保に入っているのが、債務者自身の財産ではない点です。数字で見ます。AがBに500万円を貸し、Bの友人が保証人になっているとします。保証人が500万円を払えば、Aの債権は消えます。けれども、払った保証人は、立て替えた500万円を返せと、Bに求めることができます。この権利が求償権です。Bから見ると、500万円を払う相手が、Aから保証人に入れ替わっただけです。Bの責任財産で支えなければならない額は、500万円のまま、少しも減っていません。だから、債権の全額について、Bの責任財産を保つ意味があるのです。
特定物の債権者は使えるか——まず設例
図:二重売買の設例の関係図
- ここは自前の設例で、判決の事案ではない
- A=先に家を買う約束をしたが、登記のない買主(取消債権者)/B=売主(債務者)/C=後から相場よりずっと安い値段で買って、先に登記を備えた買主(受益者)
- BがAに家を売る約束/BがCに安値で売る/Cに「登記済み」のしるし
- 「177条ではCの勝ち」の注記
- Bにほかに財産はない
ここで、金銭債権でなければならない、という規範の、いちばん難しい応用を見ます。ここからは、自前の設例です。次に出てくる判決の事案ではありません。冒頭の家の話とも別の場面ですが、呼び名の役割は、変えません。BがAに、家を売る約束をしました。Aは先に買う約束をした買主で、まだ登記は受けていません。Bは売主です。ところが、Bは、同じ家を、相場よりずっと安い値段で、Cにも売り、Cが先に登記を備えました。Cは、後から買った買主です。Bには、ほかに財産がありません。Cは、先にAに売る約束があったことは知りませんでしたが、Bにほかに財産がないことは知っていた、とします。177条は、不動産の所有権を得ても、登記をしなければ、第三者に対抗できない、つまり主張できない、と定めていました。そのため、二重に売られた場合は、先に登記を備えたほうが勝つのでした。二重譲渡と177条の回で見たとおりです。ですから、家の所有権は、Cのものです。また、Cは、先の約束を知らなかったので、登記の主張を封じられる事情もありません。
金銭債権の規範をそのまま当てれば、二重売買の設例のAは、取消権を使えません。それでも、AはBからCへの売買を、詐害行為として取り消せるでしょうか。考えてみてください。結論を先に言うと、取り消せます。金銭債権の規範で見た例と違うのは、Aが求めている家そのものが、Cに渡っている点です。その根拠になる判決を見ます。
特定物債権者も取り消せる——最高裁大法廷の判決
図:判決の事案の関係図
- ここは判決の事案で、二重売買ではない
- A=家を買って引渡しを求める立場にいた人/B=売主(ほかに見るべき資産もないのに、家を代物弁済に差し出し、無資力になった)/C=8万円の抵当権を持つ人(代物弁済を受けた)
- 家の価格は10万円以上
- 被告にされたのは、Cとは別の、その家の登記を備えた人
先に、判決の事案を見ます。さきほどの設例とは形が違い、二重売買ではありません。家を買って、引渡しを求める立場にいた人が、Aです。売主がBです。Bは、ほかに見るべき資産もないのに、その家を、8万円の抵当権を持つCに、代物弁済として差し出し、無資力になりました。代物弁済とは、本来の支払の代わりに、別の物で払うことです。家の価格は、10万円以上でした。そして、取消しを求められて被告になったのは、Cその人ではなく、その家の登記を備えていた別の人です。争点は、家を引き渡せという債権を持つAが、BからCへの代物弁済を、詐害行為として取り消せるか、です。最高裁の大法廷が、こう述べました。
判例最大判昭36・7・19 民集15巻7号1875頁
特定物債権者の詐害行為取消し 民法四二四条の債権者取消権は、総債権者の共同担保の保全を目的とする制度であるが、特定物引渡請求権(以下特定物債権と略称する)といえどもその目的物を債務者が処分することにより無資力となつた場合には、該特定物債権者は右処分行為を詐害行為として取り消すことができるものと解するを相当とする。けだし、かかる債権も、窮極において損害賠償債権に変じうるのであるから、債務者の一般財産により担保されなければならないことは、金銭債権と同様だからである。
図:判旨の板
- 判決の言葉=①取消権は、総債権者の共同担保の保全が目的②特定物引渡請求権でも、目的物を債務者が処分して無資力になったときは、取り消せる③理由=窮極において損害賠償債権に変じうるので、債務者の一般財産により担保されなければならないのは、金銭債権と同様
- 用語=共同担保=責任財産/窮極=最後には/けだし=なぜなら
- かつての判例の「金銭の給付を目的とする債権者に限る」という見解は採用しなかった
カードの言葉を読み分けます。「共同担保」は、債権者みんなの引き当てになる責任財産のことです。「一般財産」も、ここでは責任財産と同じ意味で読んでください。「窮極」は、最後には、「けだし」は、なぜなら、です。判決は、3点を述べています。1点目、取消権は、総債権者の共同担保の保全を目的とする制度です。2点目、それでも、特定物の引渡しを求める債権者は、その目的物を債務者が処分して無資力になったときは、処分を詐害行為として取り消せます。3点目が理由です。そういう債権も、最後には、損害賠償債権に変わりうる。ですから、債務者の一般財産によって担保されなければならない点は、金銭債権と同じだ、と言います。かつての判例は、取消権を使えるのは、金銭の給付を目的とする債権者に限る、としていました。この判決は、その見解を採りませんでした。判例が変わった点です。
家を引き渡せという債権は、引渡しができなくなれば、その代わりに、損害賠償を求める債権に変わります。損害賠償は、金銭で額を定めるのが原則です。417条が、そう定めています。つまり、最後はお金の債権になる。そうであれば、Aも、結局は、Bの責任財産に頼る立場で、ほかの金銭債権者と変わらない、というのが、判決の筋です。ここで、判決が言ったことと、言っていないことを、分けておきます。判決が述べたのは、目的物を処分して無資力になった場合には取り消せること、損害賠償債権に変わりうること、金銭の給付を目的とする債権者に限る見解を採らないこと、です。判決の理由は、履行不能という言葉を、使っていません。ここから先の、設例への当てはめは、判決の言葉ではなく、こちらの説明です。
図:設例への当てはめの板
- Cが登記を備える→BのAに対する引渡債務は履行不能→Aは履行に代わる損害賠償を請求できる(415条1項・2項1号)→損害賠償は金銭で額を定める(417条)→Aの債権は金銭債権に姿を変える→BからCへの売買を取り消せる
- 注記=ここは判決の言葉ではなく、設例への当てはめ
設例の二重売買で考えます。履行することができなくなった場合が、履行不能でした。二重売買で、他の買主に登記が移れば、その買主が確定的に所有権を主張でき、売主は、もう先の買主に所有権を移せません。だから、売主の引渡しの債務は、この時に履行不能に確定する、と履行不能の回で見ました。Cが登記を備えた時点で、BのAに対する引渡債務は、特段の事情がなければ、履行不能になります。履行不能になれば、Aは、415条1項と2項1号で、履行に代わる損害賠償を請求できます。損害賠償は、金銭で額を定めます。こうして、Aの債権は、損害賠償という金銭債権に姿を変えます。代位権の回で、Bが引渡しを怠って、Aの債権が損害賠償という金銭債権に変わった場合は、金銭債権として扱う、と言いました。同じ考え方です。金銭で償われる以上、Aも、最後はBの責任財産に頼る立場です。だから、Aは、BからCへの売買を取り消せます。
答案では、取消しを裁判所に求めるときまでに、引渡しを求める債権が、損害賠償という金銭債権に変わっていれば足りる、と整理します。これは学説の整理で、判決の言葉ではありません。設例では、取消しを請求するときまでに、Cが登記を備えて、引渡債務は履行不能になっています。ですから、足りています。この判決には、補足意見が、1通付いています。補足意見とは、結論に賛成する裁判官が、理由を付け加えた意見で、判決の理由そのものである法廷意見とは別です。骨子は、処分によって無資力になり、損害賠償債権の履行ができなくなった場合に限って詐害行為になる、処分と同時に損害賠償債権に変わる、というものです。条件も、はっきりさせます。判決が認めたのは、目的物の処分によって、債務者が無資力になった場合です。Bにほかに十分な財産があれば、家を処分しても無資力にはならず、取消しは問題になりません。設例が、Bにほかに財産がない、としているのは、そのためです。
図:177条への応答の板
- 上告した側の主張(論旨)=原判決のような判断が許されるなら、被上告人は登記をしていないのに、すでに登記した上告人に所有権の移転を対抗できるのと同じ結果になり、177条の趣旨に反する
- 判決の答え=債権者取消権は、総債権者の利益のため債務者の一般財産の保全を目的とし、しかも債務者の無資力を要件とする
- 177条の場合と法律効果を異にするのは当然
- 対応=被上告人=A(特定物債権者)/上告人=すでに登記した人
判決は、もう1つ、上告した側の主張に答えています。次のカードです。
判例最大判昭36・7・19 民集15巻7号1875頁
177条への応答 なお、論旨は、原判決のような判断が許されるときは、被上告人は登記を了しないのに、既に登記した上告人に対し所有権の移転を対抗し得ると同一の結果となり、民法一七七条の法意に反すると主張するが、債権者取消権は、総債権者の利益のため債務者の一般財産の保全を目的とするものであつて、しかも債務者の無資力という法律事実を要件とするものであるから、所論一七七条の場合と法律効果を異にすることは当然である。
言葉を対応させます。「論旨」は、上告した側の主張のことです。「被上告人」は、家を買った特定物債権者のAです。「上告人」は、すでに登記した人で、被告にされた人です。「所論」は、上告した側の言う、という意味です。「法意」は、趣旨のことです。上告した側の主張は、こうです。Aの取消しを認めると、Aは登記をしていないのに、先に登記した人に所有権を主張できるのと同じになり、177条の趣旨に反するのではないか。判決は、こう答えました。取消権は、総債権者の利益のために、債務者の一般財産を保全するものです。しかも、債務者の無資力が要件です。177条の場合とは、法律効果が違うのは当然だ、と答えました。大事なのは、判決が、Aが所有権を主張できるようになる、とは言っていないことです。取消しが認められても、Aが登記を備えた人に、所有権を対抗できるようになったわけではありません。この点は、あとで、もう一度使います。なお、この判決は、取消しの範囲についても判断していますが、それは後の回で見ます。
それでも、家は手に入らない——自分の名義にはできない
図:2段の対比板
- 段1=取り消せる(最大判昭36・7・19)=理由=窮極において損害賠償債権に変じうる
- 段2=取消しの結果として、自分の名義にはできない(最判昭53・10・5)=理由=取消権は共同担保の保全が目的
- 問い=取り消して家の名義がBに戻ったら、家はAのものになるか
- 答え=ならない
- Aが得られるのは、戻った家を強制執行にかけて、損害賠償債権について配当を受けること
ここで、もう1つ問いがあります。設例の二重売買に戻ります。AがBからCへの売買を取り消して、家の名義がBに戻ったら、家は、Aのものになるでしょうか?ならない、というのが、判例です。取り消せることと、自分の名義にできることは、別の問題です。最高裁が、特定物の引渡請求権を持つ人が、詐害行為の取消しと併せて、自分への所有権移転登記を求めた事件で、判断しました。
判例最判昭53・10・5 民集32巻7号1332頁
特定物債権者による自己への移転登記 民法四二四条の債権者取消権は、窮極的には債務者の一般財産による価値的満足を受けるため、総債権者の共同担保の保全を目的とするものであるから、このような制度の趣旨に照らし、特定物債権者は目的物自体を自己の債権の弁済に充てることはできないものというべく、原判決が「特定物の引渡請求権に基づいて直接自己に所有権移転登記を求めることは許されない」とした部分は結局正当に帰する。
言葉を対応させます。「原判決」は、高裁の判決です。「価値的満足」は、財産の価値を、お金として満足を受けること、です。判決の言い方を、4つに分けます。1つめ、特定物債権者も取り消せる、という前提があります。2つめ、取消権は、窮極的には、債務者の一般財産による価値的満足を受けるため、総債権者の共同担保の保全を目的とするものです。3つめ、この制度の趣旨に照らすと、特定物債権者は、目的物自体を、自分の債権の弁済に充てることはできません。4つめ、したがって、取消しとあわせて、直接自分に所有権移転登記を求めることは許されません。2段で言い分けます。取り消せるのは、損害賠償債権に変わりうるからで、これは先ほどの判決です。自分の名義にできないのは、取消権が、共同担保の保全のための制度だからで、こちらが、今のカードです。理由が違います。目的は、Aが家を取ることではなく、Bの責任財産を元に戻すことです。
Aが得られるのは、戻った家を強制執行にかけて、損害賠償の債権について、配当を受けるところまでです。家そのものは取れません。責任財産という共有の井戸にたとえるなら、取消権は、運び出された水を井戸へ戻させる権利です。戻った水を、Aのバケツに移す権利ではありません。戻った水は、井戸から、債権者みんなで分けます。この判決で押さえるのは、判決が述べた理由、つまり共同担保の保全という制度の趣旨です。判決は、177条には触れていません。名義がBに戻ったあとで、AがBに家の移転を求めることについては、判決は何も言っていません。学説の整理では、これも認められないと考えられています。理由は、2つ言えます。1つめ、いったん損害賠償という金銭債権に変わった以上、引渡しの債権には戻らないこと。2つめ、登記で負けたAが、取消しを経て、結局、家を取れることになってしまえば、登記で決着を付ける177条の意味が、なくなること。この2つは、判決の言葉ではなく、こちらの補強です。なお、条文が、自分に払え、自分に渡せ、と言える場面を認めているのは、金銭の支払と動産の引渡しだけです。不動産の登記は、債務者の名義に戻すだけです。くわしくは、後の回で見ます。
177条との関係——整理
図:177条との関係の整理
- 左=177条=だれが所有者かを決める(先に登記を備えたCの勝ちは変わらない)
- 右=取消権=Bの責任財産を元に戻す(Aの債権を引き当てにできるようにする)
- 結論=177条で勝ったCが取消しを受けることはありうる
- 取消しでAが所有者になることはない
- 根拠=判決(法律効果を異にする)+説明(Aが家を取れるなら177条の意味がなくなる=判決の言葉ではない補強)
177条との関係を、1枚に整理します。177条は、だれが所有者かを決めるルールです。二重売買では、先に登記を備えたCが勝ちます。これは、取消権を使っても変わりません。取消権は、別の目的の制度です。Bの責任財産を元に戻して、Aの債権を、引き当てにできるようにする制度です。ですから、177条で勝ったCが、取消しを受けることは、ありえます。Cの所有権は、取り消されて、家はBのもとに戻ります。ただ、取消しによって、Aが家の所有者になることは、ありません。判決は、177条の場合と法律効果を異にする、と述べました。Aが家を取れるなら、177条の意味がなくなる、という説明は、判決の言葉ではなく、こちらの補強です。判決の理由は、あくまで、共同担保の保全でした。
登記で負けたAが、取消権で、家の所有者として逆転するわけではありません。Aは、損害賠償の債権者として、戻った家から配当を受ける立場に、とどまります。
冒頭の問いに戻る——今日のまとめ
図:まとめ板
- 3つの柱と根拠の種類
- ①制度の姿=取り消す→戻す→強制執行→配当/取消し+返還(424条の6)/裁判で行使/代位権より介入が強い=根拠は条文(424条1項・424条の6)
- ②要件5つ=条文の言葉(③④⑤・①の一部)と解釈(②・金銭債権)
- ③金銭債権・特定物債権者=金銭債権でなければならない(解釈)
- 特定物債権者も、損害賠償債権に変わりうるので取り消せる(判例)
- 自分の名義にはできない(判例)
冒頭の問いに戻ります。借金を残したまま、Bが、唯一の財産である家を、親族のCに譲りました。Aは、その家に、もう手を出せないのか、でした。答えです。要件がそろえば、Aは、裁判所に請求して、BからCへの譲渡を取り消し、家の名義をBに戻させて、強制執行にかけられます。ただし、家をAが自分のものにするわけではありません。Aは、戻った家から、配当を受けます。3つの柱を、整理します。1つめ、制度のしくみです。取り消す、戻す、強制執行、配当の4段で、取消しとあわせて返還も求められます。裁判で行使し、代位権より他人の取引への介入が強いので、要件が重い、というのが筋でした。根拠は、条文です。2つめ、要件5つです。被保全債権、無資力、詐害行為、債務者の悪意、受益者の悪意でした。3つめから5つめまでは条文の言葉で、2つめの無資力と、1つめの金銭債権は、解釈でした。3つめ、守られる債権は金銭債権です。取消権には、転用がありません。でも、家を引き渡せという特定物債権者でも、損害賠償債権に変わりうるので、取り消せます。ただし、取消しの結果として、自分の名義にはできません。ここは、判例です。特定物債権者と取消権の当てはめは、論文で論点になりうる部分です。要件の残りは、次の回から、順に見ていきます。
参照条文
- 民法424条1項
- 民法424条の6第1項