詐害行為取消権の被保全債権と無資力
印刷のコツ
プリンターでは次の設定がおすすめです。
- 用紙:A4 / 向き:縦
- 拡大縮小:「実際のサイズ」(フィット縮小しない)
- 両面印刷:オン、とじ方は「長辺をとじる」(左綴じ)
- モノクロ印刷OK(強調は色でなく太字なので白黒でも読めます)
第4章 債権総論 #198/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
財産が出ていった後に貸した人
図:冒頭の関係図
- Bは唯一の財産である土地を親族Cに贈与した
- その後で、AがBにお金を貸した
- 問い=Aは、その贈与を取り消せるか
- 贈与の前から貸していた人ならどうか
- 前から貸していたお金の遅延損害金が、贈与の後に増えた分はどうか
- 呼び名=A=貸した人(取り消したい債権者)、B=借りた人、C=Bから財産を受け取った親族
Bは、唯一の財産である土地を、親族のCに贈与しました。そのあとで、AがBに、お金を貸しました。Aは、この贈与を取り消せるでしょうか。では、贈与の前から貸していた人なら、どうでしょうか。さらに、前から貸していたお金の遅延損害金が、贈与の後に増えた場合、その増えた分はどうでしょうか。贈与の後に貸した人の自己責任、という直感は、半分当たっています。ただ、残りの半分は外れています。理由まで言えるかどうかが、今日の勝負です。答えは、最初の柱で出します。前の回で、制度のしくみと、要件が5つあることを見ました。1つめ、守られる債権があること。2つめ、債務者が無資力であること。3つめ、債務者が詐害行為をしたこと。さらに4つめ、債務者が害することを知っていたこと。5つめ、受益者も知っていたこと、でした。今日見るのは、1つめの残りと、2つめ、そして3つめの、どんな行為なのか、です。1つめの残りとは、前の回で「中身は次の回」と言った、3項と4項です。
今日の地図(保存版)
図:今日の地図
- 要件5つのうち、今日見る範囲=1つめの残り(守られる債権が、いつ生じたものか・強制執行できる債権か)、2つめ(無資力)、3つめ(どんな行為か)
- 今日の3つの柱=①守られる債権は、行為の前の原因から生じたもの(3項・4項)②無資力は、2つの時点で要る③詐害行為になるのは、どんな行為か
- 4つめと5つめは今日は扱わない
柱は3つです。1つめ、守られる債権は、行為の前の原因から生じたものでなければならない、という3項と、強制執行で実現できる債権に限る、という4項です。2つめ、無資力は、2つの時点で要る、という話です。3つめ、詐害行為になるのは、どんな行為か、です。代位権では、無資力を見る時点は1つでした。取消権では2つになります。なぜ増えるのかが、2つめの柱の中心です。4つめと5つめの、知っていたかどうかの要件は、今日は扱いません。
424条の全文と、今日読む場所
図:424条の項の地図
- 1項=基本のルール(前の回で読んだ)
- 2項=財産権を目的としない行為(次の回から)
- 3項=前の原因(今日)
- 4項=強制執行(今日)
- 1項のうち今日見る言葉=「債権者を害する」と「行為」
条文の全体を、先に読みます。
条文民法424条
民法第424条 債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者(以下この款において「受益者」という。)がその行為の時において債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。 2 前項の規定は、財産権を目的としない行為については、適用しない。 3 債権者は、その債権が第一項に規定する行為の前の原因に基づいて生じたものである場合に限り、同項の規定による請求(以下「詐害行為取消請求」という。)をすることができる。 4 債権者は、その債権が強制執行により実現することのできないものであるときは、詐害行為取消請求をすることができない。
今日読むのは、3項と4項、それに1項の「債権者を害する」と「行為」の2つの言葉です。1項の本文とただし書の読み分けは、前の回で済ませました。2項は、財産権を目的としない行為には、1項を適用しない、という定めです。ここに位置があることだけ、押さえてください。2項は、次の回から見ます。3項の「第一項に規定する行為」は、取り消したい、その行為を指します。3項の読み方を、日本語に直します。債権者が取り消しを請求できるのは、自分の債権が、取り消したい行為より前の原因に基づいて生じたものである場合に限る、という意味です。ここで、時間の順番が問題になります。
柱1——なぜ「行為の前」でなければならないか
図:貸した時点で、あてにする財産
- 貸す時点=その時点のBの財産を見て、貸すか決める
- 財産が出ていった後に貸した人=減った後の財産をあてにしたはず=減る前に戻してもらう理由がない
- 前から貸していた人=減る前の財産をあてにしていた=戻してもらう理由がある
- 根拠=424条3項(条文)
- 理由の説明=こちらの整理
冒頭の贈与の後に貸した人は、取り消せないのですか。取り消せません。理由は、次の筋で説明できます。お金を貸す人は、貸すとき、その時点のBの財産を見て、返してもらえそうかを考えます。つまり、あてにしているのは、貸した時点の財産です。たとえるなら、貸すときにのぞいた、相手の財布の中身です。土地が贈与された後に貸した人は、土地のなくなった財産を見て、貸したはずです。土地が戻れば、その人の予想を超えて得をするだけです。戻してもらう理由がありません。逆に、贈与の前から貸していた人は、土地のある財産をあてにしていました。その土地が、債権者を害する形で出ていったのですから、戻してもらう理由があります。条文の結論は、424条3項です。理由づけは条文には書かれていません。こちらの整理として聞いてください。
図:時系列の3つの並び
- 債権の原因・債権の発生・Bの贈与の3つを、起きた順に並べる
- 並び1=原因と発生が贈与の前=取り消せる
- 並び2=原因は贈与の前、発生は贈与の後=取り消せる
- 並び3=贈与の後に原因が生じ、その後に発生=取り消せない
時間の並びを、3つに分けます。債権には、原因と、発生があります。原因とは、その債権が生じる元になった出来事、たとえば貸す約束です。発生とは、実際に債権として生じることです。多くの場合、原因と発生は同時ですが、ずれることがあります。並び1。貸付があり、そのあとでBが贈与をする。原因も発生も、贈与の前です。取り消せます。並び2。贈与の前に原因があり、贈与をはさんで、贈与の後に債権が発生する。原因は前なので、取り消せます。この並び2が、3項の特徴です。具体例は、このあとに見ます。並び3を出す前に、1つ聞きます。3月に貸した人と、8月に貸した人がいます。6月に、Bの財産が贈与されました。取り消せるのは、どちらでしょうか?
3月に貸した人だけが、取り消せます。並び3は、贈与の後に原因が生じ、その後に債権が発生する場合です。取り消せません。型としては、相殺の回で見た、差押えの前の原因に基づいて生じた債権、と同じです。相殺では差押えの前の原因、取消権では行為の前の原因です。債権譲渡と相殺の回で見た、対抗要件具備時より前の原因、も同じ型です。基準になる出来事が違うだけで、原因で時期を見る、という型は同じです。代位権との違いも、ここで押さえます。代位権では、守られる債権が、代わりに使う権利より前に成立している必要は、ありませんでした。代位権は、今ある責任財産を守る制度で、貸した時にBの財産をあてにしていたかどうかは、関係がなかったからです。取消権は、すでに出ていった財産を戻す制度です。そのため、出ていく前の財産をあてにしていた債権、つまり行為の前の原因から生じた債権に限られます。ここは、論文で論点になりうる部分です。
「前に発生」ではなく「前の原因」——具体例
図:前の原因の具体例1
- 行為の前に貸した100万円の貸金
- 弁済期が過ぎ、行為の後に遅延損害金が生じた
- 遅延損害金も、守られる債権の額に含まれる(最判平8・2・8)
- 旧い判例は含まないとしていたが、現在は含む
条文が「前の原因」という言葉を選んだのは、「前に発生」では足りない場面があるからです。例を2つ見ます。1つめは、遅延損害金です。Aは、Bに100万円を貸しています。Bが土地を贈与した後に、弁済期が過ぎて、遅延損害金が生じました。遅延損害金は、行為の後に発生する債権です。それでも、元の貸金が、行為の前の原因です。最高裁は、取消権によって守られる債権の額には、行為の後に生じた遅延損害金も含まれる、としています。かつての判例は、含まない、としていましたが、現在の判例は含みます。理由は、遅延損害金は、元の貸金債権から生じるもので、貸したとき、すでにあてにしていた財産の範囲に入っているからだ、と説明できます。これはこちらの説明です。
行為の後に生じるのに、行為の前の債権と同じ扱いですか。同じ扱いです。生じた時が後でも、原因が前なら、貸したときにあてにした財産に頼っている、という点は変わりません。冒頭の、贈与のあとなら自己責任、という直感の、外れていた半分が、ここです。後かどうかは、債権が生じた時ではなく、原因の時で見ます。2つめの例を出す前に、相殺の回の復習です。差押えを受けた後に生じた債権でも、相殺で対抗できる債権は、どんな債権でしたか?原因が差押えの前にあれば、債権が生じるのが後でも、相殺で対抗できました。そこで例にした保証の求償権が、今日の2つめの例です。保証とは、主たる債務者が払えないとき、代わりに払う約束をすることです。保証人が代わりに払えば、主たる債務者に、その分を返せと言える権利が生じます。これが求償権です。
図:前の原因の具体例2
- Aは、Bの頼みで保証人になる契約を結んだ
- その後、BがCに土地を贈与した
- さらにその後、AがBの借金を代わりに払い、AはBに対する求償権を得た
- 保証の契約が贈与の前=行為の前の原因
- 求償権の発生は贈与の後
- 取り消せる
- 登場=A=保証人(取り消したい債権者)、B=借金をしている人、C=贈与を受けた人
設例です。Aは、Bに頼まれて、保証人になる契約を結びました。そのあとで、BがCに、土地を贈与しました。さらにその後、Bが払えなくなって、Aが代わりに払い、AはBに対する求償権を持ちました。求償権が生じたのは、贈与の後です。しかし、保証の契約は、贈与の前に結ばれています。Aは、Bに財産があることを見て、保証を引き受けました。行為の前の原因に基づいて生じた債権です。ですから、Aは贈与を取り消せます。並び2にあたります。贈与の前に原因である保証の契約があり、贈与をはさんで、求償権が発生します。遅延損害金も、求償権も、並び2です。
図:前の原因の具体例3
- 将来の婚姻費用
- 調停や審判で、毎月の支払が決まった婚姻費用
- 行為の時に、支払期日が来ていない分も、調停の前提となる事実関係が続くことがかなりの蓋然性をもって予測される限度で、守られる債権として扱える(最判昭46・9・21)
3つめは、短く触れるだけにします。夫婦や子どもの生活のための費用を、婚姻費用と言います。調停などで、毎月の支払が決まった婚姻費用は、行為の時には、まだ支払の期日が来ていない分があります。この分も、調停の前提となる事実関係が、続くことがかなりの蓋然性をもって予測される限度で、守られる債権として扱える、とした最高裁の判例があります。蓋然性とは、確からしさのことです。どこまでも、ではなく、限度がついている点を、落とさないでください。
図:3項の改正の経緯
- 2017年の改正前=3項に当たる条文がなかった
- 判例は、行為の前に債権が生じていることを求める一方で、遅延損害金や将来の婚姻費用のように、厳密には行為の前に生じたとは言い切れない債権も認めていた
- 立案の資料の説明=「前に発生」と書くと判例を正確に条文にできず、発生する時が遅い債権で誤解も生むので「前の原因」と書いた
- まとめ=判例の考え方を条文にした
この3項は、2017年の改正で入りました。改正の前には、この点を定める条文がありませんでした。判例が、行為の前に債権が生じていることを求める一方で、遅延損害金や将来の婚姻費用のように、厳密には行為の前に生じたとは言い切れない債権も認めていました。立案の資料は、条文を「前に発生」と書くと、判例の扱いを正確に写せない、と説明しています。具体的に発生する時が遅い債権では、誤解も生む、とも説明しています。そこで、「前の原因」と書きました。判例の考え方を、条文にした、ということです。
債権が譲渡されたとき
図:債権譲渡の設例
- Aが3月にBに貸す
- 6月にBがCに土地を贈与する
- 8月にAがEに、貸金債権を譲渡する
- Eは、行為の時には債権者でなかった
- Eは取り消せるか
- 答え=取り消せる
- 理由=3項が見ているのは、債権の原因の時期であって、債権を持っている人ではない
- 債権は同じもののまま移る
- 根拠=解釈による整理
設例で見ます。Aは、3月にBに貸しました。6月に、BがCに土地を贈与しました。そのあと、8月に、Aは、その貸金債権を、Eに譲渡しました。Eは、取り消せるでしょうか。取り消せます。3項が見ているのは、債権の原因の時期です。債権を、いま誰が持っているかではありません。債権は、持ち主が変わっても、同じ債権のまま移ります。原因は、3月の貸付で、贈与の前です。ですから、Eも、取り消せます。これは、条文の読み方による整理です。債権の形が変わる場合も、見ておきます。準消費貸借です。準消費貸借とは、すでにある債務を、消費貸借の契約の目的に切り替えることです。たとえば、3月の貸金を、6月の贈与の後の8月に、新しい借用の約束に切り替えた場合です。8月の約束だけを見ると、贈与の後の原因に見えます。しかし、8月に、新しくお金を渡したわけではありません。お金を渡したのは3月で、そのときあてにしたのは、土地のある、3月のBの財産です。切り替えで変わったのは約束の形だけで、債権の元になった出来事は、3月の貸付のままです。ですから、旧い債務が、行為の前の原因に基づくものなら、切り替えた後の債権も、3月に貸した人の債権と同じように扱える、と3項の読み方から整理できます。
強制執行で実現できる債権——4項
図:424条4項
- 条文=債権者は、その債権が強制執行により実現することのできないものであるときは、詐害行為取消請求をすることができない
- 理由=取消権は強制執行の準備の制度
- 強制執行できない債権のために、他人の取引を壊す意味がない
- 例=強制執行をしない合意のある債権/自然債務(訴える力が欠けた債権)
- 代位権の423条3項と同じ言葉、同じ理由
4項に移ります。4項は、強制執行で実現できない債権では、取消請求ができない、と定めています。理由は、代位権の回と同じです。取消権は、責任財産を元に戻して、強制執行の準備をする制度でした。最後に強制執行できない債権のために、他人の取引を壊しても、使い道がありません。代位権の回で見た例が、そのまま当てはまります。強制執行をしない、という合意のある債権と、自然債務、つまり訴える力が欠けた債権です。どちらも、4項で、取消権の土台になれません。代位権の423条3項と、同じ言葉で、同じ理由です。4項の結論は、条文を読めば出てくる部分です。
柱2——無資力は2つの時点で要る
図:無資力の復習
- 無資力=債務の額が財産の額を上回る状態(債務超過)
- 代位権で、無資力を見る時点=事実審の口頭弁論が終わる時点で、無資力であれば足りる
- 取消権では=2つの時点
- ①行為の時②取消しを求める裁判の終わりの時
- 根拠=判例と、その解釈(条文に無資力の語は無い)
無資力に入ります。入る前に、代位権の復習です。代位権で、無資力はいつの時点で見るのでしたか?代位権では、事実審の口頭弁論が終わる時点で、無資力であれば足りました。無資力とは、債務の額が財産の額を上回る、債務超過の状態でした。ただ、無資力という言葉は条文にありません。424条1項の「債権者を害する」という言葉の読み方として、判例も、立案の資料も、債務者が無資力であることが要る、と整理してきました。取消権では、見る時点が2つになります。1つめは、行為の時です。2つめは、取消しを求める裁判の、終わりの時です。順に見ます。
図:行為の時の無資力
- 数値例
- Bの債務=Aへの3000万円だけ
- 贈与の前のBの財産=預金500万円と土地3000万円(合計3500万円)=資力あり
- 土地をCに贈与=財産は預金500万円だけ=債務超過(その行為で無資力になった)
- 行為の前から債務超過の場合も、行為の時に無資力に含まれる
数字で見ます。Bの債務は、Aに対する3000万円だけです。贈与の前のBの財産は、預金が500万円と、土地が3000万円で、合わせて3500万円です。債務の3000万円を上回っていて、資力があります。ここで、Bが、土地をCに贈与しました。財産は、預金の500万円だけになります。債務の3000万円を、大きく下回ります。この贈与で、Bは債務超過になりました。行為の前から債務超過だった場合も、行為の時に無資力、に当たります。その行為で債務超過になった場合と、同じ扱いです。取消権は、債務者の行為が、債権者を害したから、その行為を取り消すものです。行為の時に、まだ財産が足りていれば、その行為は、債権者を害していません。足りていたのに取り消す理由は、ありません。ですから、行為の時の財産の状態を見ます。これはこちらの説明です。
図:裁判の終わりの時の無資力
- 続き=贈与の後、Bが親の遺産3000万円を相続した
- Bの財産=預金500万円+相続の3000万円=3500万円
- 債務3000万円を上回る=資力が回復した
- 行為の時は無資力でも、裁判の終わりの時に資力が回復していれば、取り消せない
- 理由=取消権は強制執行の準備
- いま払える人の取引を壊す必要がない
- 他人の取引への介入は、必要な範囲に限る
続けます。贈与のあと、裁判になる前に、Bが親の遺産を相続して、新たに3000万円を得ました。Bの財産は、預金の500万円と、相続した3000万円で、合わせて3500万円です。債務の3000万円を、上回りました。資力が戻ったのです。このとき、Aは取り消せるでしょうか?取り消せません。取消しを求める裁判の終わりの時、つまり、事実審の口頭弁論が終わる時点でも、無資力でなければなりません。理由は、取消権が、強制執行の準備の制度だからです。Bに、いま払えるだけの財産があれば、Aは、Bの財産に強制執行すれば、回収できます。それなのに、すでに成立しているBとCの取引を壊すのは、行き過ぎです。前の回で言った、取消権は他人の取引に踏み込む、という1本の理由が、ここでも効きます。踏み込むのは、必要な範囲に限る、ということです。立証の分担も、触れておきます。行為の時の無資力は、取消しを求める債権者が示せば足ります。行為の後に資力が回復したことは、受益者の側が示すべきことです。古い判例が、この分担を示しています。
図:代位権と取消権の対比
- 見る時点=代位権は、裁判の終わりの時だけ
- 取消権は、行為の時と、裁判の終わりの時の両方
- 理由の違い=代位権には、債務者の行為が無い(取り消す対象が無い)ので、行為の時という発想が無い
- 取消権には、取り消す行為があるので、行為が債権者を害したかを見る
- 裁判の終わりの時は、どちらの制度も、強制執行の準備だから見る
代位権と取消権の違いを、1枚に整理します。代位権は、裁判の終わりの時だけを見ます。取消権は、行為の時と、裁判の終わりの時の、両方を見ます。どうして、代位権には、行為の時が無いのですか。代位権には、債務者の行為がないからです。債務者が、取り立てないまま放置している状態を、代わりに動かす制度で、取り消す対象の行為が存在しません。行為の時という発想が、そもそも出てきません。取消権には、取り消す行為があるので、その行為が債権者を害したか、を行為の時に見ます。そして、どちらの制度も、強制執行の準備ですから、いま必要かどうかを、裁判の終わりの時に見ます。ここも、論文で論点になりうる部分です。
柱3——どんな「行為」が詐害行為か
図:詐害行為の「行為」
- 424条1項は「行為」と書く
- 改正前は「法律行為」と書かれていた
- 契約などに限らないと解されていたのを、条文の言葉にした(立案の資料の説明)
- 例=時効の更新になる債務の承認
- 承認は、契約でも意思表示でもなく、債務があることを認める認識を示す行為
- 中心になる行為=財産を減らす行為(贈与・安値での売却・債務の免除)
詐害行為になる行為は、契約に限りません。424条1項は「行為」と書いています。2017年の改正の前は、「法律行為」と書かれていました。それでも、契約などに限られない、と解釈されていたので、改正で、その解釈が条文の言葉になりました。立案の資料も、そう説明しています。例を1つ挙げます。時効の更新になる、債務の承認です。借金は、長いあいだ請求されないままだと、時効が完成して、借りた人は、もう払いません、と言えるようになります。承認とは、その時効が完成する前に、時効の利益を受ける側、つまり借りた人が、貸した人に対して、その借金はあります、という認識を示す行為でした。もう少し待ってください、必ず返します、と言うのが典型です。承認があると、時効は振り出しに戻り、その時から新たに進み始めます。これが、時効の更新です。承認は、契約でも、意思表示でもなく、認識を示す行為です。それでも、消えるはずだった債務が、残り続けます。債務が残れば、責任財産、つまり強制執行の対象になる債務者の財産を、分け合う相手が減りません。そのため、詐害行為になりうる、と整理されます。
数字で見ます。Bの財産は、全部で300万円です。Bには、Aからの借金が300万円、もう1人の貸した人からの借金も300万円あります。もう1人の債権は、あと少しで時効が完成するところでした。完成して、Bが時効を主張すれば、その借金は消えて、Aは、300万円の財産から、全額を回収できたはずです。ところがBが、もう1人に対して、必ず返します、と承認しました。時効は振り出しに戻り、もう1人への300万円の借金が残ります。300万円の財産を、2人で分け合うことになり、Aの取り分は、半分の150万円に減ります。Bの財産は1円も動いていないのに、Aにとっては、150万円分、Bの財産が減ったのと同じ結果です。承認が、財産を減らす行為と同じように扱われるのは、このためです。これは、こちらの説明です。詐害行為の中心になるのは、財産を減らす行為です。贈与、安い値段での売却、債務の免除が、典型です。
前の回で見た条文の地図に、それぞれの特則がありました。相当な値段で売るのは、相当の対価を得てした処分の特則。特定の債権者にだけ返すのは、担保の供与などの特則が、受け持ちます。中身は、後の回です。今日は、通常の、財産を減らす行為が中心、と押さえてください。
冒頭の問いに戻る——今日のまとめ
図:今日のまとめ
- 3つの柱と根拠の種類
- ①守られる債権は、行為の前の原因から生じたもの(3項)
- 強制執行で実現できる債権に限る(4項)=条文
- 譲渡されても取り消せる=解釈による整理
- 遅延損害金・将来の婚姻費用=判例
- ②無資力は2つの時点=行為の時と、裁判の終わりの時=判例と、その解釈
- 代位権は裁判の終わりの時だけ
- ③詐害行為の「行為」は契約などに限らない=条文の「行為」と、その解釈
冒頭の問いに戻ります。Bが、唯一の財産である土地を、Cに贈与しました。そのあとで貸した人は、取り消せるか。前から貸していた人は、どうか。前から貸していたお金の遅延損害金が、贈与の後に増えた分は、どうか、でした。答えです。贈与の後に貸した人は、行為の後の原因に基づく債権なので、取り消せません。贈与の前から貸していた人は、取り消せます。ただし、行為の時と、裁判の終わりの時の、両方で、無資力であることが要ります。前から貸していたお金の遅延損害金は、行為の後に増えた分も、被保全債権の額に含まれます。3つの柱を整理します。1つめ、守られる債権は、行為の前の原因から生じたものです。「前に発生」ではなく、「前の原因」なので、遅延損害金や、保証の求償権も入ります。債権が譲渡されても、原因の時期は変わりませんから、取り消せます。強制執行で実現できない債権は、取消権の土台になれません。根拠は、条文が3項と4項で、遅延損害金などは判例、譲渡は解釈による整理です。2つめ、無資力は、2つの時点で要ります。行為の時は、債権者を害したか、を見るため。裁判の終わりの時は、いま他人の取引を壊す必要があるか、を見るためです。代位権は、行為が無いので、裁判の終わりの時だけです。根拠は、古くからの判例と、その解釈です。3つめ、詐害行為の「行為」は、契約などの法律行為に限りません。時効の更新になる債務の承認も、責任財産に響けば、詐害行為になりうるのでした。中心は、贈与や、安値での売却、債務の免除のような、財産を減らす行為です。
2項は、財産権を目的としない行為には、取消しの規定を適用しない、と定めています。家族に関わる行為で、財産が動くもの、たとえば相続や離婚の場面は、どうなるのか。次の回から、見ていきます。
参照条文
- 民法424条