相当の対価を得てした財産の処分(424条の2)
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第4章 債権総論 #202/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
相場の値段で売っても、取り消せるのか
図:冒頭の設例の関係図
- A 債権者、B 債務者、C 受益者
- AからBへ貸付900万円
- Bの財産は時価1500万円の土地だけで、ほかの貸主への借金が800万円
- BからCへ売却(土地を相場どおり1500万円で)
- CからBへ代金1500万円
- Bは代金を隠す
- 問い=相場で売ったのに、Aは取り消せるのか
設例から入ります。Bの財産は、時価1500万円の土地が1つだけです。Bは、Aから900万円を借りています。ほかの貸主からも800万円を借りていて、借金はあわせて1700万円です。ある日、Bはこの土地を、相場どおりの1500万円でCに売りました。そして、受け取った代金を、隠してしまいました。Aは、この売却を取り消せるでしょうか?数字で見れば、財産の総額は変わりません。けれども、土地は隠せませんが、現金は隠せます。この違いが、今日の芯です。前の回の最後に預けた問いでもあります。先に答えを言います。相場で売ったというだけでは、取り消せません。取り消せるのは、Bが代金を隠すなどするつもりで売り、Cもそれを知っていたときに限られます。なぜそうなるのかを、これから見ます。
預けていた問いの答えは、特則にある
図:預けていた問いの整理
- 以前の回=相当な値段で売るのは、特則が受け持つ
- 中身は後の回
- 前の回の最後=相当な値段で売ったらどうなるか、は次の回
- 今日がその回
- 用語=特則(基本の424条から外れる特別のルール)/受益者(債務者の行為によって利益を受けた人。設例のC)/相当の対価(行為に見合った、相場並みの見返り)
以前に、相当な値段で売るのは、特則が受け持つ、中身は後の回、と預けました。前の回の最後にも、相当な値段で売ったらどうなるか、は、次の回、と言いました。今日が、その回です。言葉を確かめます。特則とは、基本のルールである424条から外れる、特別のルールを定めた条文のことです。受益者とは、債務者の行為によって利益を受けた人のことで、設例ではCです。相当の対価とは、その行為に見合った、相場並みの見返りのことです。売った値段が相場なら、相当の対価を得た、と言えます。特則が要るのは、財産が減らないのに、債権者を害する危険だけが残るからです。先に結論だけ言います。基本の424条だけで扱っていた改正前は、相場で売っても、原則として取り消せる、とされていました。それでは、相場どおりに買った相手まで、巻き込まれます。だから、取り消せる場面を絞る特則が置かれました。くわしくは、これから見ます。なお、売った値段が相場より安いなら、相当の対価を得たとは言えません。その場合は、この特則の入口を通りません。基本の424条で、通常の詐害行為として見る話です。
改正前は、相場の値段でも原則として取り消せた
図:改正前の整理
- 改正前の判例は、次のように整理されていた
- 原則=相当な値段で不動産を売っても、詐害行為になる(不動産が、隠しやすく使いやすい金銭に変わるから)
- 例外=売却の目的・動機が正当なとき(たとえば代金を、債務者にとって有用な資金に充てるため)は、詐害行為にならない
- 立証の向き=受益者の側が、目的・動機が正当だったことを主張し証明する、と考えられていた
- 根拠の種類=立案の過程の説明
改正前から見ます。入る前に、以前の回の復習です。詐害行為の中心になる行為は、どんな行為でしたか?財産を減らす行為です。贈与、安い値段での売却、債務の免除でした。減らす行為が中心でした。では、相場の値段での売却はどうだったのか。改正前の判例は、不動産を相当な値段で売っても、原則として詐害行為になる、と整理されていました。改正の際の、立案の過程の説明です。理由は、不動産が、隠しやすく使いやすい金銭に変わるからです。設例で言えば、Bの土地が、1500万円の現金に変わります。たとえるなら、重くて動かせない金庫が、ポケットに入る財布に変わる、という状態です。金額が同じでも、持ち逃げの危険が生まれます。ただし、例外がありました。売却の目的や動機が正当なときです。たとえば、代金を、債務者が自分にとって有用な資金に充てる目的で売った場合です。この場合は、詐害行為にならないとされました。もう1つ、立証の向きです。この整理のもとでは、売却の目的や動機が正当だったことは、受益者の側が主張して証明する、と考えられていました。この向きは、改正後と逆になります。あとで対にします。
⭐ 論文で書く規範:改正前の整理(立案の過程の説明) 相当な値段での不動産の売却も、原則として詐害行為になる。例外は、売却の目的・動機が正当なとき。その立証は、受益者の側が負うと考えられていた。 (出どころ=立案の過程の説明(改正前の判例の整理)。改正後の条文の答えとは別)
例外の一例として挙げられる判決を、1つ読みます。
判例最判昭41・5・27 民集20巻5号1004頁
抵当権付債務の弁済のための、相当な価格での売却 債務者が既存の抵当権付債務の弁済をするために、右被担保債権額以下の実価を有する抵当物件たる所有不動産を相当な価格で売却し、その代金を右債務の支払に充てて当該抵当権の消滅をはかる場合にあつては、その結果右債務者の無資力を招いたとしても、右不動産売却行為は、一般債権者の共同担保を減少することにはならないから、民法四二四条所定の詐害行為にあたらないと解するのを相当とする。
言葉を直します。「被担保債権額」は、抵当権で守られている借金の額です。「実価」は、実際の価値です。「あつては」は、場合には、です。「共同担保」は、債権者みんなの引き当てになる、債務者の財産のことです。結論は、こうです。抵当権のついた借金を返すために、その借金の額以下の価値しかない抵当不動産を、相当な価格で売って、代金をその借金の支払に充てるなら、詐害行為にあたらない、と判決は判断しました。理由として、判決は、共同担保を減少することにはならない、と述べました。こちらの説明を足します。借金の額以下の価値しかない抵当不動産は、売らなくても、抵当権を持つ債権者の取り分で埋まっています。ほかの債権者に回る分が、もともと無いので、売って返しても、減りません。位置づけも確かめます。この判決は、売却が詐害行為にならない例として、改正のときの説明で挙げられた判決です。判決が、売却の目的や動機という一般的な例外を述べたわけではありません。ここまでを押さえてください。
何が困ったのか——萎縮と逆転現象
図:改正前の何が困ったか
- 立案の過程の説明
- 困りごと1=苦しい債務者と取引する相手は、適正な値段で買っても、あとから取り消されるおそれがある→尻込みする(萎縮)。困りごと2=債務者が資産を売って立て直す道がふさがれる。困りごと3=逆転現象。破産の手続にも似た働きをする制度(否認権)がある。そちらは相当な値段の処分を、3つの要件がそろうときに限って否認できるとしていた(2004年の破産法の改正)。民法の取消権のほうが広く取り消せた。平時は取り消せるのに、破産管財人は否認できない。
改正前の整理には、困りごとがありました。これは、立案の過程の説明です。1つめ、萎縮です。経済的に苦しい債務者と取引する相手は、相場どおりの値段で買っても、あとから取り消されるおそれがあります。それなら、最初から取引をやめておこう、と尻込みします。設例のCで言えば、改正前なら、相場どおりの1500万円を払ったのに、あとから売買を取り消されるおそれがある、ということです。2つめ、債務者が、持っている資産を売って立て直す道が、ふさがれます。3つめが、逆転現象です。破産の手続にも、似た働きをする制度があります。否認権と呼ばれます。破産の手続では、相当な値段での処分を否認できる場面を、3つの要件がそろうときに限っていました。2004年の破産法の改正です。その3つは、財産の種類が変わって隠すなどの処分のおそれが現に生じること、債務者に隠すなどの処分をする意思があったこと、相手がその意思を知っていたこと、です。あとで読む424条の2の3つの要件と、同じ形です。
取り消せる範囲は、破産の手続の否認より、民法の取消しのほうが広くなっていました。つまり、平時のほうが、広かったのです。破産の手続は、債務者が行き詰まった最後の局面の手続です。そちらが限られていて、まだ破産していない平時の取消しのほうが広い。平時なら債権者が取り消せるのに、破産管財人、つまり破産の手続で債務者の財産を管理する人は否認できない、という順序のずれが生じます。これを、逆転現象と呼びます。この逆転をなくして、考え方をそろえる。それが、2017年の改正の方向でした。
424条の2を、一語ずつ読む
図:424条の2の構造
- 柱書=債務者が財産を処分し、受益者から相当の対価を取得しているときは、債権者は、次の要件のいずれにも該当する場合に限り、詐害行為取消請求ができる
- 1号=その行為が、財産の種類の変更により、隠匿等の処分のおそれを現に生じさせるもの(客観の要件)
- 2号=債務者が、行為の当時、対価について、隠匿等の処分をする意思をもっていた(債務者の主観)
- 3号=受益者が、行為の当時、債務者のその意思を知っていた(受益者の主観)
- 根拠の種類=条文
改正後の条文を読みます。項はなく、柱書と、1号から3号までの号で、できています。
条文民法424条の2
民法第424条の2 債務者が、その有する財産を処分する行為をした場合において、受益者から相当の対価を取得しているときは、債権者は、次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り、その行為について、詐害行為取消請求をすることができる。 一 その行為が、不動産の金銭への換価その他の当該処分による財産の種類の変更により、債務者において隠匿、無償の供与その他の債権者を害することとなる処分(以下この条において「隠匿等の処分」という。)をするおそれを現に生じさせるものであること。 二 債務者が、その行為の当時、対価として取得した金銭その他の財産について、隠匿等の処分をする意思を有していたこと。 三 受益者が、その行為の当時、債務者が隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたこと。
まず、柱書です。債務者が財産を処分して、受益者から相当の対価を取得しているときは、と始まります。そのうえで、次の要件の、いずれにも該当する場合に限り、取消しを請求できる、と書いています。原則は取り消せない。取り消せるのは、3つの全部がそろった場合に限る。ここで、原則と例外が、改正前と逆になりました。柱書の形から、もう1つ読めます。取り消せる、という例外を言う側は、取り消したい側です。では、なぜ、例外を言う側が証明するのか。こちらの説明を足します。裁判では、自分に有利な結果を求めるがわが、その根拠になる事実を証明する、というのが一般的な考え方です。設例で言えば、売買を取り消して得をするのは、Aです。Cは、相場どおりの1500万円を払っています。何も証明されなければ、売買はそのままです。それを覆したいAが、覆す根拠になる3つの事実を、示さなければなりません。示せなければ、原則どおり、取り消せないままです。ですから、3つの要件は、取消しを求める債権者、つまり取消債権者が主張して証明します。条文の形と、立案の過程の説明の両方から、そう説明されます。
図:要件5つと424条の2の対応
- こちらの整理
- 1つめ 被保全債権=424条の2でも要る(柱書の、詐害行為取消請求。424条3項・4項)/2つめ 債務者の無資力=424条の2でも前提として要る(1号の中で見る、という説明もある)/3つめ どんな行為か=1号(財産の種類の変更により、隠匿等の処分のおそれを現に生じさせる)/4つめ 債務者の主観=2号(対価について、隠匿等の処分をする意思)/5つめ 受益者の主観=3号(債務者のその意思を知っていた)
要件5つとの関係も、ここで確かめます。こちらの整理です。柱書は、債権者は、詐害行為取消請求をすることができる、と書いています。詐害行為取消請求とは、424条の請求のことです。その424条は、3項と4項で、債権者の債権についての条件を定めています。ですから、1つめの被保全債権は、ここでも要ります。変わるのは、残りです。どんな行為か、債務者の主観、受益者の主観。この部分を、1号、2号、3号が、それぞれ受け持ちます。2つめの無資力がどこに入るかは、1号のところで言います。1号です。その行為が、不動産の金銭への換価、その他の、処分による財産の種類の変更によって、隠匿等の処分のおそれを、現に生じさせるものであること。換価とは、財産をお金に換えることです。種類の変更とは、土地が現金になる、といった変化です。隠匿等の処分とは、条文のかっこの中で定義されています。隠匿、無償の供与、それに、その他の債権者を害することとなる処分、のことです。隠す、ただで渡す、そのほか債権者を害する処分、という意味です。ここからの2点は、条文の言葉そのものではなく、解釈による整理です。1号の「現に」は、抽象的な危険では足りず、具体的な危険が生じていること、と説明されます。また、債務者の無資力は、この特則でも前提として要ります。改正の際の、立案の過程の説明でも、無資力が要件になることは、特則を通じた前提とされていました。その無資力を、1号のおそれの中で見る、という説明もあります。理由を、こちらの説明で足します。財産が十分にあれば、代金を隠されても、債権者は残りの財産から返してもらえます。害することになりません。設例では、土地1500万円に対して借金が1700万円ですから、財産が足りません。Bは無資力です。土地が現金に変わった、という点も、この1号を満たす方向です。
図:2号と3号の読みどころ
- 2号=債務者の主観
- 見る時点=行為の当時/意思の対象=対価として取得した金銭その他の財産/求められるのは意思(424条1項の、知って、より重い)
- 3号=受益者の主観
- 債務者が隠匿等の処分をする意思をもっていたことを、行為の当時に知っていた/債務者の無資力を知っているだけでは足りない
- 根拠の種類=条文
- 424条1項との重さの比較は、こちらの説明
2号です。債務者が、行為の当時に、対価として取得した金銭などの財産について、隠匿等の処分をする意思を持っていたこと。注意点が2つあります。1つは、見る時点が、行為の当時であること。もう1つは、隠す意思の対象が、対価として取得したお金や財産であることです。前の回で、424条の詐害の意思は、意思ではなく、知って、つまり認識だと見ました。2号は違います。ここは、文字どおり、意思です。424条の主観より重い要件です。財産の総額を減らさない行為なので、取り消すには、そのぶん重い主観が要る、という形です。前の回で、行為の強さと主観の強さを組み合わせる見方を見ました。財産を減らす度合いが弱い行為ほど、強い主観が要る、という見方です。たとえば、唯一の財産の贈与のように、減らす度合いが強い行為は、知っていた、だけで足りる、と整理されていました。それと、同じ向きです。ここは、こちらの説明です。3号の前に、1つ考えてみてください。受益者のCが、Bが無資力だと知っていた。それだけで、3号を満たすでしょうか?
3号が求める知識は、無資力ではありません。債務者が隠匿等の処分をする意思を持っていたこと、その意思を知っていたこと、です。Bが苦しいと知っていても、Bが代金を隠すつもりだとは知らない。その場合、3号を欠きます。
⭐ 論文で書く規範:424条の2の3つの要件(成立要件) 相当の対価を得た処分は、原則として取り消せない。取り消せるのは、次の3つが全部そろうときだけ。1号 財産の種類の変更により、隠匿等の処分のおそれを現に生じさせる。2号 債務者が、行為の当時、対価として取得した財産について、隠匿等の処分をする意思をもっていた。3号 受益者が、行為の当時、その意思を知っていた。 (出どころ=条文(成立要件。民法424条の2の柱書と1号から3号。証明の向きは、条文の形と立案の過程の説明))
条文の要件を、短くまとめた成立要件です。正確な言葉は、条文で確かめてください。柱書、1号、2号、3号と、言い分けられれば足ります。
冒頭の設例に当てはめる
図:当てはめ1
- A 債権者、B 債務者、C 受益者
- AからBへ貸付900万円
- BからCへ売却(土地を1500万円で)
- CからBへ代金1500万円
- Bは売る時から代金を隠すつもりで、実際に隠す
- Cは、Bが代金を隠すつもりだとは知らなかった
- 1号=土地から現金に変わる、で満たす
- 2号=Bに隠す意思があり、満たす
- 3号=Cは知らず、欠く
- 結論=取り消せない
冒頭の設例に、当てはめます。ケースを3つに分けます。1つめのケースです。Bが土地を1500万円でCに売りました。Bは、売る時から、代金を隠すつもりでした。Cは、Bが代金を隠すつもりだとは、知りませんでした。1号は、土地が現金に変わり、無資力のBに、隠すおそれが生じていて、満たします。2号は、売った時点の意思を見ます。Bは、売る時から代金を隠すつもりでしたから、満たします。欠けるのは、3号です。Cは、その意思を知りませんでした。ですから、取り消せません。代金を隠したのはBで、Cの取引は守られます。
図:当てはめ2
- A 債権者、B 債務者、C 受益者
- AからBへ貸付900万円
- BからCへ売却(土地を1500万円で)
- CからBへ代金1500万円
- Bは代金を隠す
- 売る前に、Cは、Bから、代金は弟名義の口座に移して、Aには見つからないようにする、と聞いていた
- 1号と2号と3号がそろう
- 結論=取り消せる
2つめのケースです。Cは、売る前に、Bから、こう聞いていました。代金は、弟名義の口座に移して、Aには見つからないようにする。1号は、土地が現金に変わることで満たします。2号は、Bに、代金を隠す意思があります。3号は、Cが、その意思を、行為の当時に知っていました。要件が3つともそろいます。取り消せます。取り消すのは、Aです。Aは、この3つを、全部、証明しなければなりません。
図:当てはめ3
- A 債権者、B 債務者、C 受益者
- AからBへ貸付900万円
- BからCへ売却(土地を1500万円で)
- CからBへ代金1500万円
- Bは代金を仕入れの資金に回して、店を続けるつもり
- Cも、それを聞いていた
- 2号=Bに隠す意思はなく、欠く
- 結論=取り消せない
3つめのケースです。Bは、代金を、仕入れの資金に回して、店を続けるつもりでした。Cも、そのことを聞いていました。欠けるのは、どの号でしょうか?1号は、土地が現金に変わる点では満たす方向です。けれども、2号を欠きます。Bの頭にあるのは、仕入れです。隠すことでも、ただで渡すことでもありません。隠匿等の処分をする意思がありません。意思そのものが無い以上、Cが何を聞いていても、3号で知る対象が存在しません。ですから、取り消せません。苦しい債務者が、資産を売って店を立て直す道は、守られます。これが、改正の狙いでした。3つのケースを並べます。1つめは3号を欠き、取り消せない。2つめは3つともそろい、取り消せる。3つめは2号を欠き、取り消せない。どの号を欠くのか、を号の番号で言えるようにしてください。
証明の向きは、424条1項と逆になる
図:証明の向きの対比
- 424条1項=ただし書で、受益者が知らなかったことは、受益者が証明する(受益者の善意の証明)
- 424条の2=3号の、受益者が知っていたことは、取消債権者が証明する
- 向きが逆
- 理由=424条の2は、取り消せる場面を限った
- いずれにも該当する場合に限り、という条文の形
- 取消しを求める側が3つとも証明する設計
- 根拠の種類=条文の形と立案の過程の説明
証明の向きを、確かめます。424条1項は、本文で、取消しを請求できる、と書きます。こちらが原則です。そして、ただし書で、受益者が、行為の時に債権者を害することを知らなかったときは、取り消せない、と書きます。こちらが例外です。では、知らなかったことは、誰が証明するのでしょうか?受益者が証明する、という結論は、前の回で読んだ判例の判断です。理由のほうは、こちらの説明でした。Cで言えば、424条1項の場面で、知らなかったと言って取消しを免れたいのは、Cです。ですから、Cが証明します。424条の2は、向きが逆です。3号の、受益者が知っていたことは、取消債権者が証明します。受益者が、知らなかった、と証明するのではありません。設例で言えば、Cが知っていたことを、Aが証明します。どちらの条文でも、自分に有利な結果を求める側が証明する、という考え方は同じです。変わったのは、条文が、どちらを例外に置いたか、です。理由は、2つあります。1つは、条文の形です。いずれにも該当する場合に限り、という書き方は、取り消せる場面を絞っています。絞られた場面にあたると言って取消しを求める債権者が、3つとも示す設計です。もう1つは、立案の過程の説明です。破産の手続の否認でも、否認する側が3つの要件を証明します。その構造に合わせました。受益者に、立証の負担を負わせない設計です。これが、苦しい債務者と取引する人を、尻込みさせないことにつながります。
1つ補足します。破産の手続には、相手が親族や同居者、取締役などの内部者の場合に、隠す意思を知っていたと推定する規定があります。民法の条文には、これに当たる規定がありません。実務は、類推や、事実上の推定、つまり事情から知っていたと推し量るやり方で対応することが想定されていた、と説明されています。立案の過程の説明です。
424条と424条の2の比較

比較表で、まとめます。その前に、前の回の確認です。債務者の主観は、424条1項では、何が足りるのでしたか?条文の言葉は、意思ではなく、知って、でした。認識の問題です。そして、受益者の側は、害することを知らなかったことを、受益者が証明します。この2つが、左の列、424条の中身です。表を、順に見ます。1行目、対象の行為です。424条は、贈与、安い値段での売却、債務の免除など、財産を減らす度合いが強い行為です。424条の2は、相当の対価を得た処分で、財産の種類の変更によって、隠匿等の処分のおそれを現に生じさせるものです。2行目、債務者の主観です。424条は、債権者を害することを知っていたこと。424条の2は、対価について、隠匿等の処分をする意思です。重さが違います。3行目、受益者の主観です。424条は、受益者が知らなかったと言えれば、取り消されません。424条の2は、債務者の隠匿等の意思を、知っていたことが必要です。424条は、知らなければ免れる。424条の2は、知っていなければ取り消せない。4行目、どちらが証明するか、です。424条は、債務者の認識などは取消債権者が、受益者の知らなかったことは受益者が証明します。424条の2は、3つとも、取消債権者が証明します。5行目、根拠の種類は、424条が条文と判例、424条の2が条文です。ただし、3つとも取消債権者が証明する、という向きは、条文の形と、立案の過程の説明から導かれます。
論文で論点になりうる点を、一言だけ言います。424条の2の3つの要件は、条文どおりの成立要件です。他方、424条の詐害の意思が認識で足りることと、善意の証明が受益者にあることは、判例による規範です。成立要件と規範を、区別して書いてください。
冒頭の問いに戻る——今日のまとめ
図:今日のまとめ
- 3つの柱と根拠の種類
- 1 改正前は相場の値段でも原則取り消せた
- 改正で、原則取り消せないに逆転=立案の過程の説明(改正前の判例の整理)と条文(424条の2)/2 424条の2の3つの要件は全部必要で、取消債権者が証明=条文(柱書の、いずれにも該当する場合に限り、と1号から3号)
- 証明の向きは条文の形と立案の過程の説明/3 424条1項との違い=債務者は、知って、か、意思か
- 受益者の善意は受益者が証明するか、悪意を取消債権者が証明するか=条文と判例、比較表はこちらの説明
冒頭の問いに戻ります。Bは、土地を相場どおりの1500万円でCに売り、代金を隠しました。Aは、取り消せるのか、でした。答えは、こうです。Aが取り消せるのは、代金を隠すなどの処分をする意思をBが持っていて、Cもそれを知っていたときに限られます。Cが知らなければ、取り消せません。土地が現金に変わると、隠しやすくなる、という心配はあります。それでも、取り消すには、3つが全部要ります。3つの柱を整理します。1つめ、改正前は、相場の値段で売っても、原則として取り消せました。改正で、原則取り消せない、に逆転しました。根拠は、改正前の判例の整理についての立案の過程の説明と、424条の2の条文です。2つめ、424条の2の3つの要件は、全部が必要で、取消債権者が証明します。根拠は、柱書の、いずれにも該当する場合に限り、と、1号から3号の条文です。1号は、財産の種類の変更で隠匿等のおそれを現に生じさせること。2号は、債務者が、行為の当時、対価について、隠匿等の処分をする意思を持っていたこと。3号は、受益者が、行為の当時、その意思を知っていたこと。証明の向きは、条文の形と、立案の過程の説明から導かれます。3つめ、424条1項との違いです。債務者について、424条1項は、知って、で足り、424条の2は、意思が要ります。受益者について、424条1項は、知らなかったことを受益者が証明し、424条の2は、知っていたことを取消債権者が証明します。向きが逆でした。これは、条文と判例を並べた、こちらの比較です。
特則の1つめが済みました。特則は、あと2つ、次の回からです。
参照条文
- 民法424条の2