民法ゼロから民法#204

非義務行為(424条の3第2項)と過大な代物弁済(424条の4)

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第4章 債権総論 #204/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

期限の前に返した借金は、取り消せるのか

冒頭の設例の関係図。A 取消債権者、B 債務者(小さな会社)、C 受益者(貸主)。AからBへ債権900万円。CからBへ債権300万円(期限は来年3月)。BからCへ11月に弁済300万円。もう一つの問い=Cへの200万円の借金を、時価800万円の土地を渡して払った。問い=どちらも借金を返しただけなのに、Aは取り消せるのか。 図:冒頭の設例の関係図

  • A 取消債権者、B 債務者(小さな会社)、C 受益者(貸主)
  • AからBへ債権900万円
  • CからBへ債権300万円(期限は来年3月)
  • BからCへ11月に弁済300万円
  • もう一つの問い=Cへの200万円の借金を、時価800万円の土地を渡して払った
  • 問い=どちらも借金を返しただけなのに、Aは取り消せるのか

設例を二つ、続けて出します。Bは、小さな会社です。Aには900万円、貸主のCには300万円を払う立場にあります。Cへの300万円の期限は、来年の3月です。ところが、まだ期限の来ていない11月に、BはCに頼まれて、300万円を全額返しました。これが一つめです。二つめは、別の場面です。BはCに200万円の借金を負っていて、期限も来ています。Bは、その200万円を、時価800万円の土地を渡して払いました。どちらも、借金を返しただけです。それでも、ほかの債権者Aは、取り消せるでしょうか?先に答えを言います。一つめ。期限前の弁済のように、債務者に義務のない行為は、債務者が支払不能になる前30日以内に行われ、しかも通謀して他の債権者を害する意図があれば、取り消せます。二つめ。借金より大きな物で払ったときは、過大な部分だけは、ふつうの424条の要件で取り消せます。なぜ30日さかのぼるのか。なぜ過大な部分だけなのか。今日の中身です。前の回で、424条の3の第1項を読みました。言葉を2つだけ戻します。支払不能は、期限の来た債務を払えない状態でした。財産が借金に足りない無資力とは、別の概念です。通謀とは、示し合わせることです。この条文は項が2つあり、前の回に預けた第2項が、今日です。

義務のない行為は、30日さかのぼる

期限前弁済の時系列。来年3月=Cへの借金の期限。11月20日=BがCへ300万円を弁済。12月10日=Bが支払不能になる。弁済は支払不能になる20日前で、支払不能になる前30日以内の枠に入る。 図:期限前弁済の時系列

  • 来年3月=Cへの借金の期限
  • 11月20日=BがCへ300万円を弁済
  • 12月10日=Bが支払不能になる
  • 弁済は支払不能になる20日前で、支払不能になる前30日以内の枠に入る

期限の来ていない借金を、債務者が先に返す義務は、あるでしょうか?ないと思います。期限までは、返さなくてよいはずです。以前見たとおり、民法は、期限の利益、つまり期限が来るまで返さなくてよいという債務者の得を、債務者のためにあるものと推定しています。136条1項です。債務者が望めば、放棄して先に返すこともできます。2項です。期限前の弁済は、債務者の義務の履行ではありません。この、債務者に義務のない行為が、非義務行為です。条文の言葉では、債務者の義務に属せず、又はその時期が債務者の義務に属しない行為です。2種類あります。1つは、時期が義務に属しない行為で、典型が、今の期限前弁済です。もう1つは、行為そのものが義務に属しない行為です。たとえば、契約で担保を差し出す約束がないのに、あとから抵当権を設定する行為です。前の回と同じく、根拠の種類を言い分けます。条文、判例、改正のときになぜそう決めたのかという立案の過程の説明、条文の言葉から導く解釈による整理、それから、この講義での説明である、こちらの説明です。設例です。Bは、来年3月が期限の300万円を、11月20日に、Cへ全額返しました。そのあと、12月10日に、Bは支払不能になりました。返した日は、支払不能になる20日前です。通謀も、あったとします。なお、基本の5つの要件のうち、被保全債権と、債務者の無資力は、満たされているものとして進めます。

第2項の前に、前の回の復習です。第1項で、取り消せるための2つの要件は、何でしたか?債務者が支払不能の時だったことと、債務者と受益者が通謀して、他の債権者を害する意図だったことです。11月20日は、まだ支払不能の時ではありません。第1項だけでは、この弁済は取り消せない形です。そこで、第2項を読みます。

条文民法424条の3第2項

民法第424条の3第2項 前項に規定する行為が、債務者の義務に属せず、又はその時期が債務者の義務に属しないものである場合において、次に掲げる要件のいずれにも該当するときは、債権者は、同項の規定にかかわらず、その行為について、詐害行為取消請求をすることができる。 一 その行為が、債務者が支払不能になる前三十日以内に行われたものであること。 二 その行為が、債務者と受益者とが通謀して他の債権者を害する意図をもって行われたものであること。

柱書から読み分けます。前項に規定する行為とは、第1項の行為、つまり既存の債務の担保の供与や、債務の消滅に関する行為です。それが、債務者の義務に属せず、又はその時期が義務に属しない、つまり非義務行為である場合です。そして、同項の規定にかかわらず、とあります。第1項の要件を満たさなくても取り消せる、別の道、という意味です。要件は2つで、どちらも必要です。1号は、その行為が、債務者が支払不能になる前30日以内に行われたこと。2号は、債務者と受益者とが通謀して他の債権者を害する意図をもって行われたこと。2号の言葉は、第1項の2号と同じです。設例は、支払不能の20日前でしたから、1号に当たります。通謀もありましたから、2号にも当たります。取り消せます。反対に、期限が来てからの弁済なら、債務者の義務の履行です。第2項ではなく、第1項、つまり支払不能の時かどうかと、通謀で判断します。

なぜ30日さかのぼるのか(立案の過程の説明)。抜け道=近いうちに行き詰まると察した債権者が、期限前弁済や担保の差入れを債務者に迫り、支払不能になる少し前に受け取る。対策=支払不能の少し前の義務のない行為にも取消しを広げて、この抜け道を塞ぐ。義務のない行為には、破産の手続の否認権にも似た作りの30日の枠があり、民法もその30日の枠の考え方を取り入れた。 図:なぜ30日さかのぼるのか

  • 立案の過程の説明
  • 抜け道=近いうちに行き詰まると察した債権者が、期限前弁済や担保の差入れを債務者に迫り、支払不能になる少し前に受け取る。対策=支払不能の少し前の義務のない行為にも取消しを広げて、この抜け道を塞ぐ。義務のない行為には、破産の手続の否認権にも似た作りの30日の枠があり、民法もその30日の枠の考え方を取り入れた。

義務のない行為だけ30日さかのぼる理由は、立案の過程の説明では、第1項の抜け道を塞ぐため、とされています。第1項だけだと、近いうちに会社が行き詰まると察した債権者が、義務のない期限前弁済や担保の差入れを債務者に迫り、支払不能になる少し前に受け取る、という抜け道が使えてしまいます。支払不能の少し前までは、取り消せないからです。そこで、義務のない行為だけは、支払不能の少し前にも、取消しを広げました。前の回で、否認権は、原則として、支払不能になったあとの弁済だけを対象にする、と見ました。義務のない行為は、その原則に対する例外です。否認権にも、似た作りの30日の枠があり、民法もその30日の枠の考え方を取り入れた、と説明されます。義務のある普通の弁済まで広げないのは、前の回で見たとおり、債務者には返す義務があり、債権者には受け取る権利があるからです。2点だけ補います。1つめは、解釈による整理です。前の回の第1項と同じく、第2項でも、取消しを求める裁判の終わりの時、つまり事実審の口頭弁論が終わる時点まで、支払不能の状態が続いていることが前提になります。回復していれば、取り消せません。2つめは、条文の形からの整理です。第2項は、義務に属しない行為であることを前提に置いていますから、取消債権者が、通謀に加えて、その行為が義務に属しない行為であることも示す、と整理されます。もう1つ。代物弁済は、第2項の非義務行為にあたるのでしょうか。ここで考えるのは、期限が来たあとの代物弁済です。期限が来た債務を、本来の給付ではない物で払います。時期は義務のとおりで、違うのは、払う方法だけです。条文は、行為と時期を書いて、方法は書いていません。第2項に含まれるとする見解と、含まれず第1項で判断するとする見解があり、分かれます。含まれると見れば、支払不能になる前30日以内の代物弁済まで取り消せます。含まれないと見れば、支払不能の時の代物弁済だけです。どちらの見解でも、支払不能の時の代物弁済は第1項で判断します。代物弁済が424条の3の対象になること自体は、どちらの見解でも変わりません。これは、3つめの柱で使います。

この柱を締めます。義務のない行為は、支払不能になる前30日以内に行われ、通謀して他の債権者を害する意図があれば、取り消せます。支払不能の少し前に受け取る抜け道を、塞ぐためです。

新たな借入れのための担保は、なぜ対象外か

2つの場面の比較。ア=すでに借りている200万円(無担保)の貸主に、あとから土地に抵当権を付けた。既存の債務の担保の供与で、424条の3の対象。イ=新たに200万円を借りると同時に、その借入れのために土地に抵当権を付けた。既存の債務の担保ではなく、424条の3の対象外。424条の2で考える。 図:2つの場面の比較

  • ア=すでに借りている200万円(無担保)の貸主に、あとから土地に抵当権を付けた
  • 既存の債務の担保の供与で、424条の3の対象
  • イ=新たに200万円を借りると同時に、その借入れのために土地に抵当権を付けた
  • 既存の債務の担保ではなく、424条の3の対象外
  • 424条の2で考える

424条の3が狙うのは、既存の債務についての担保の供与と、債務の消滅に関する行為でした。では、担保を差し出す行為なら、どれも424条の3に入るのでしょうか。二つの場面を比べます。アは、Bがすでに借りている200万円、無担保の貸主に、あとから土地に抵当権を付けた場面です。イは、Bが新たに200万円を借りると同時に、その借入れのために、土地に抵当権を付けた場面です。アは、すでにある借金についての担保の供与ですから、424条の3の対象です。イは、新たな借入れの担保です。「既存の債務」についての担保ではありませんから、424条の3の対象になりません。

違いは、見合うものを受け取っているかです。イは、200万円を借り入れて、相当の対価を得たうえで、担保を設定しています。経済的には、担保の目的物を差し出して、資金を調達したのと同じです。借金は増えますが、現金も同額増えます。ですから、424条の2、相当の対価を得てした財産の処分で考えます。前に見たとおり、この条文は、隠匿等の処分、つまり財産を隠す、ただで渡すといった処分のおそれを現に生じさせること、債務者がその処分をする意思を持っていたこと、受益者がその意思を知っていたこと、この3つの要件が全部そろう必要があり、通常は取り消せません。ここまでは、条文を前提にしたこちらの説明です。理由は、立案の過程の説明です。苦しい会社に、担保を取って救済の融資をしようとする人が、あとから取り消されるのをおそれて、尻込みしないようにするためです。再建の道を残す、という考え方です。用語を一つ。新たな借入れと同時にする、その担保の供与のことを、同時交換的行為と呼びます。試験では、既存の債務ではない、と言えれば足ります。

判例の事案の関係図。他に資力のない夫婦、貸主。貸主が生計費として10万円を貸し、夫婦は所有物を譲渡担保に出した。のちに長女の大学進学の費用として6万円を貸し、追加の担保が出された。16万円の借入れに対し、10万円を超えない物が担保。最高裁は原審を正当として上告を棄却。 図:判例の事案の関係図

  • 他に資力のない夫婦、貸主
  • 貸主が生計費として10万円を貸し、夫婦は所有物を譲渡担保に出した
  • のちに長女の大学進学の費用として6万円を貸し、追加の担保が出された
  • 16万円の借入れに対し、10万円を超えない物が担保
  • 最高裁は原審を正当として上告を棄却

判例を1つ、薄く見ます。改正前の判決ですが、新たな借入れのための担保を、どう見ていたかを示しています。事案を役割で言います。他に資力のない夫婦がいました。貸主が、生計費として10万円を貸し、夫婦は、所有物を譲渡担保に出しました。譲渡担保とは、お金を借りる代わりに、物の所有権を貸主に移しておく担保の形です。のちに、長女の大学進学の費用として、さらに6万円を貸し、追加の担保も出されました。結局、16万円の借入れのために、10万円を超えない物が担保に出されたことになります。最高裁は、原審の判断を正当として、上告を棄却しました。判旨を読みます。

判例最判昭42・11・9 民集21巻9号2323頁

生計費の借入れのための担保供与 その売買価格が不当に廉価であつたり、供与した担保物の価格が借入額を超過したり、または担保供与による借財が生活を営む以外の不必要な目的のためにする等特別の事情のない限り、詐害行為は成立しないと解するのが相当であり、

言葉を直します。「廉価」は安いこと、「超過」は超えること、「借財」は借金のことです。判決が述べたことは、こうです。他に資力のない債務者が、生計費などのために家財などを売ったり、担保に出したりする行為は、値段が不当に安い、担保の価格が借入額を超える、借金が生活を営む以外の不必要な目的のため、といった特別の事情がない限り、詐害行為になりません。この事案は、借入額が16万円で、担保は10万円を超えない物でした。なぜ詐害行為にならないのか。先ほどの、見合うものを受け取っているか、で読めます。担保が借入額の範囲に収まっていれば、差し出した物に見合うお金が、債務者の手元に入っています。判決が特別の事情に挙げた、値段が不当に安い場合や、担保の価格が借入額を超える場合は、この見合いが崩れる場面です。ここは、こちらの説明です。区別してください。「同時交換的行為」という呼び方は、この判決の言葉ではなく、立案の過程の説明で使われる呼び方です。そして、これは改正前の判例の例です。改正後は、新たな借入れのための担保を、424条の2の枠で考えます。

過大な代物弁済は、過大な部分だけ取り消せる

設例の関係図。A 取消債権者、B 債務者、C 受益者。AからBへ債権900万円。CからBへ債権200万円(弁済期は来ている)。BからCへ代物弁済(時価800万円の土地)。Bの財産は、この土地だけ。 図:設例の関係図

  • A 取消債権者、B 債務者、C 受益者
  • AからBへ債権900万円
  • CからBへ債権200万円(弁済期は来ている)
  • BからCへ代物弁済(時価800万円の土地)
  • Bの財産は、この土地だけ

3つめの柱は、代物弁済です。前に、代物弁済は、債権者が合意すれば、物の値段が釣り合わなくても成立する、と見ました。100万円の債務に、60万円の山林を渡しても、債務は全部消えます。では、逆に、借金より大きな物で払ったらどうなるでしょうか。数字で考えます。Bの財産は、時価800万円の土地だけです。Bの債務は、Aに900万円、Cに200万円で、どちらも弁済期は来ています。BはCへの200万円の代物弁済として、土地を渡しました。土地は800万円、消えた債務は200万円です。差の600万円が、過大な部分です。Bの財産は、ゼロになりました。

過大な部分の数字。渡した土地=800万円。消えた債務=200万円。過大な部分=600万円。差し引き(財産から借金を引いた額)=前はマイナス300万円(財産800万円・借金1100万円)、後はマイナス900万円(財産0・借金900万円)。減った額=600万円。 図:過大な部分の数字

  • 渡した土地=800万円
  • 消えた債務=200万円
  • 過大な部分=600万円
  • 差し引き(財産から借金を引いた額)=前はマイナス300万円(財産800万円・借金1100万円)、後はマイナス900万円(財産0・借金900万円)
  • 減った額=600万円

差し引きで見ます。前の回で見たとおり、弁済は、財産が出ていく代わりに借金が同じ額減るので、差し引きは変わりません。Bは、土地800万円を失って、Cへの200万円の借金が消えました。財産は800万円からゼロに。借金は1100万円から900万円に。差し引きは、マイナス300万円から、マイナス900万円へ、600万円減りました。この減った600万円は、見合う借金の減りがありません。ただで渡したのと同じです。ここは、こちらの説明です。条文を読みます。

条文民法424条の4

民法第424条の4 債務者がした債務の消滅に関する行為であって、受益者の受けた給付の価額がその行為によって消滅した債務の額より過大であるものについて、第四百二十四条に規定する要件に該当するときは、債権者は、前条第一項の規定にかかわらず、その消滅した債務の額に相当する部分以外の部分については、詐害行為取消請求をすることができる。

読み分けます。債務者がした債務の消滅に関する行為であって、受益者の受けた給付の価額が、消滅した債務の額より過大であるもの。設例なら、受けた給付は800万円、消えた債務は200万円です。次に、第四百二十四条に規定する要件に該当するとき。つまり、ふつうの424条の要件です。前条第一項の規定にかかわらず、とは、424条の3の第1項の要件によらなくてよい、という意味です。そして、消滅した債務の額に相当する部分以外の部分、つまり200万円の部分を除いた、過大な600万円について、取消しを請求できます。

二段の構造。一段目=424条の3の要件(支払不能の時+通謀して他の債権者を害する意図)がそろう。取り消せるのは、代物弁済の全部(土地800万円)。二段目=424条の3の要件がそろわなくても、424条の要件がそろえば、取り消せるのは過大な部分600万円だけ。200万円の部分は取り消せない。 図:二段の構造

  • 一段目=424条の3の要件(支払不能の時+通謀して他の債権者を害する意図)がそろう
  • 取り消せるのは、代物弁済の全部(土地800万円)
  • 二段目=424条の3の要件がそろわなくても、424条の要件がそろえば、取り消せるのは過大な部分600万円だけ
  • 200万円の部分は取り消せない

構造を、二段で整理します。ここからは、こちらの説明です。一段目。代物弁済は、債務の消滅に関する行為ですから、424条の3の対象です。前の回で読んだ、代物弁済と詐害行為の判決は、借金の額を超えない代物弁済でも、通謀して害する意図があれば、偏頗行為、つまり特定の債権者だけを有利にする行為として取り消せるとしていました。額が見合っている部分も含めて、行為ごと取り消されるわけです。ですから、支払不能の時で、通謀して他の債権者を害する意図がある、という424条の3の要件がそろえば、代物弁済の全部、つまり800万円の土地を取り消せます。二段目。424条の3の要件がそろわなくても、過大な部分、600万円分については、424条の要件で取り消せます。理由は、先ほどの差し引きです。過大な部分は、贈与に近い、財産が減る行為だからです。200万円の部分は、取り消せません。借金が消えているので、財産の総額は変わらないからです。位置づけも、一文で。条文の言葉からの整理です。424条の3は、424条の特則です。特則は3つと数えましたが、424条の4は、債務の消滅に関する行為のうち、過大なものを取り出した条文ですから、その424条の3の、さらに特則にあたります。前条第一項の規定にかかわらず、と書かれているのは、そのためです。424条の要件を、設例に当てはめます。その前に、復習です。424条1項のただし書で、受益者が知らなかったと証明するのは、誰でしたか?

受益者のCです。向きは、今日も同じです。1つめ、被保全債権は、Aの900万円です。2つめ、無資力は、土地を失うとBの財産がゼロですから、満たします。3つめ、行為は、過大な部分で、財産を減らす行為です。4つめ、債務者の主観は、害することを知っていれば足ります。5つめ、受益者の主観は、Cが知らなかったと証明できれば、免れます。424条の3の、支払不能も、通謀も、要りません。424条の4の対象は、代物弁済だけに限りません。代物弁済のほか、債務を消す行為で、受益者の受けた給付が、消えた債務より大きいもの全般です。試験では、代物弁済を押さえれば足ります。土地のように分けられない物の、600万円分だけを取り消すとき、どう取り消して、どう戻すのかは、後の回で扱います。

424条と3つの特則を、表で比べる

424条と3つの特則の比較(1)。列=424条(基本)/424条の2/424条の3/424条の4。対象の行為=財産を減らす行為/相当の対価を得てした財産の処分/既存の債務の担保の供与・債務の消滅に関する行為/過大な代物弁済等。状態・時期=無資力/隠匿等の処分のおそれを現に生じさせる/支払不能の時(義務のない行為は支払不能になる前30日以内)/424条の要件に従う。取り消せる範囲=行為/行為/行為の全部/消えた債務の額に相当する部分以外の部分だけ。 図:424条と3つの特則の比較(1)。列=424条(基本)/424条の2/424条の3/424条の4。対象の行為=財産を減らす行為/相当の対価を得てした財産の処分/既存の債務の担保の供与・債務の消滅に関する行為/過大な代物弁済等。状態・時期=無資力/隠匿等の処分のおそれを現に生じさせる/支払不能の時(義務のない行為は支払不能になる前30日以内)/424条の要件に従う。取り消せる範囲=行為/行為/行為の全部/消えた債務の額に相当する部分以外の部分だけ。

要件編の締めです。基本の424条と、3つの特則を、同じ行で比べます。まず、1枚目の板です。対象の行為。424条は、財産を減らす行為です。424条の2は、相当の対価を得てした財産の処分。424条の3は、既存の債務の担保の供与と、債務の消滅に関する行為。424条の4は、過大な代物弁済等です。状態と時期。424条は、無資力です。424条の2は、隠匿等の処分のおそれを現に生じさせる行為です。424条の3は、支払不能の時で、義務のない行為は、支払不能になる前30日以内です。424条の4は、424条の要件に従います。この行に並ぶ支払不能は、無資力の代わりではありません。前の回で見たとおり、詐害行為取消権に無資力が要ることは、立案の過程の説明でも、特則を通じた前提とされています。取り消せる範囲。424条と424条の2は、行為です。424条の3は、行為の全部です。424条の4だけは、消えた債務の額に相当する部分以外の部分に限られます。同じ代物弁済でも、424条の3の要件がそろえば全部を取り消せるのは、先ほどの一段目のとおりです。

424条と3つの特則の比較(2)。列=424条(基本)/424条の2/424条の3/424条の4。債務者の主観=害することを知って/対価について隠匿等の処分をする意思/受益者と通謀して他の債権者を害する意図/害することを知って。受益者の主観=知らなかったら免れる(受益者が証明)/債務者の意思を知っていた(取消債権者が証明)/債務者と通謀して他の債権者を害する意図(取消債権者が証明)/知らなかったら免れる(受益者が証明)。 図:424条と3つの特則の比較(2)。列=424条(基本)/424条の2/424条の3/424条の4。債務者の主観=害することを知って/対価について隠匿等の処分をする意思/受益者と通謀して他の債権者を害する意図/害することを知って。受益者の主観=知らなかったら免れる(受益者が証明)/債務者の意思を知っていた(取消債権者が証明)/債務者と通謀して他の債権者を害する意図(取消債権者が証明)/知らなかったら免れる(受益者が証明)。

2枚目は、主観と証明です。債務者の主観。424条と424条の4は、害することを知っていれば足ります。認識で足りる、ということです。424条の2は、対価について隠匿等の処分をする意思。424条の3は、受益者と通謀して、他の債権者を害する意図です。受益者の主観と、証明する側。424条と424条の4は、受益者が、知らなかったと証明できれば、免れます。424条の2は、債務者の意思を知っていたことを、取消債権者が証明します。424条の3は、通謀を、取消債権者が証明します。読み方を、一文ずつ。基本の424条は、贈与のように、財産が出ていくだけの行為です。差し引きが減りますから、害することを知っていれば足ります。424条の2は、財産を売っても、相当の対価が入ります。424条の3は、弁済なら、財産が出ていく代わりに、借金が同じ額減ります。担保の供与も、財産の総額は変わらないまま、特定の債権者だけを有利にします。どちらも、差し引きは変わりません。行為の側が弱いぶん、知っていた、というだけでは足りず、隠匿等の処分をする意思や、通謀して害する意図という、重い主観がそろって初めて取り消せます。前に見た、弱い類型が特則に出ていき、特則の側に重い主観が条文の言葉として入っている、というのは、このことです。424条の4は、過大な部分に見合う借金の減りがなく、贈与に近いので、424条の要件そのままです。ここは、解釈による整理をもとにした、こちらの説明です。

論文で論点になりうる点を、一言だけ言います。424条の3と424条の4の要件は、条文どおりの成立要件です。他方、通謀の証明の向きや、回復したら取り消せないという点は、解釈や立案の過程の説明に基づく整理です。区別して書いてください。

冒頭の問いに戻る——今日のまとめ

今日のまとめ。3つの柱と根拠の種類。1 義務のない行為は支払不能になる前30日以内でも取り消せる=条文(424条の3第2項)と立案の過程の説明/2 新たな借入れのための担保は424条の2で考える=条文(424条の2)と判例(改正前)/3 過大な代物弁済は過大な部分だけ424条で取り消せる=条文(424条の4)とこちらの説明。締め=424条と3つの特則の表。 図:今日のまとめ

  • 3つの柱と根拠の種類
  • 1 義務のない行為は支払不能になる前30日以内でも取り消せる=条文(424条の3第2項)と立案の過程の説明/2 新たな借入れのための担保は424条の2で考える=条文(424条の2)と判例(改正前)/3 過大な代物弁済は過大な部分だけ424条で取り消せる=条文(424条の4)とこちらの説明
  • 締め=424条と3つの特則の表

冒頭の問いに戻ります。Bが、期限前にCへ300万円を返しました。あるいは、200万円の借金を、800万円の土地で払いました。Aは取り消せるのか、でした。一つめ。期限前に返した借金は、支払不能になる前30日以内で、しかも通謀して他の債権者を害する意図があれば、取り消せます。二つめ。借金より大きな物で払ったときは、過大な部分だけ、ふつうの424条の要件で取り消せます。設例なら、600万円分です。3つの柱を整理します。1つめ、義務のない行為は、通謀して他の債権者を害する意図があれば、支払不能になる前30日以内でも取り消せます。根拠は、424条の3第2項の条文と、抜け道を塞ぐという立案の過程の説明です。2つめ、新たな借入れのための担保は、424条の3の対象にならず、424条の2で考えます。根拠は、条文と、改正前の判例の例です。3つめ、過大な代物弁済は、過大な部分だけ、424条で取り消せます。根拠は、424条の4の条文と、差し引きで見たこちらの説明です。締めの表で、424条と3つの特則を比べました。これで、取消しの要件が、要件5つと特則3つで、出そろいました。取り消したあとのことは、後の回で扱います。

参照条文

  • 民法424条の3第2項
  • 民法424条の4

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