詐害行為取消しの範囲(424条の8)
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第4章 債権総論 #207/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
債権は1,500万円、家は2,400万円
図:冒頭の設例の関係図
- A 取消債権者、B 債務者、C 受益者(親族)、D 転得者
- AからBへ貸金1,500万円
- BからCへ売却(時価2,400万円の家を700万円で。Bの財産はこの家だけ)
- CからDへ転売
- 問い=債権は1,500万円なのに、2,400万円の家の売却を丸ごと取り消せるのか
- お金で返してもらうなら、いくらまでか
設例の続きです。Aは、Bに1,500万円を貸しています。Bの財産は、時価2,400万円の家だけです。ところがBは、その家を、事情を知っている親族のCに、700万円で売りました。Cは、その家をDに転売しています。取消しの要件と、誰を相手にどう訴えるかは、前の回までに見てきました。では、Aの債権は1,500万円しかないのに、2,400万円の家の売却を、丸ごと取り消せるのでしょうか? また、家の代わりにお金で返してもらうなら、いくらまで求められるのでしょうか?先に答えを言います。家は分けられない物ですから、売却の全部を取り消せます。ただし、家の代わりに、お金で返してもらう、価額の償還なら、自分の債権額の1,500万円までです。同じ家でも、家そのものを戻すのか、お金に変えるのかで、上限が変わります。なぜ変わるのかが、今日の中身です。前の回までに、取り消したあとの請求として、財産の返還と、返せないときの価額の償還を見ました。その額が、債権の額とどう関わるのかは、取消しの範囲を見る回で、と預けてありました。今日が、その回です。
範囲は何で決まるのか——債権額が物差し
図:債権額を物差しにする理由の板
- こちらの説明=取消権は、相手がすでに手に入れた取引に踏み込む制度
- 債権を守るのに必要な分を超えて踏み込む理由がない
- 立案の過程の説明=改正のとき債権額を超えて取り消せる案もあったが採らなかった
- 理由=1 債権額を超える金銭を受け取った債権者が使い込めば、リスクは債務者や他の債権者が負う/2 破産と違い、総債権者に配当する手続が整っていない/3 取消権は、自己の債権を保全するための制度
まず、範囲を決める物差しの話です。取消権は、Cがすでに手に入れた取引に、あとから踏み込む制度でした。踏み込みが強い制度ですから、債権を守るのに必要な分を超えて踏み込む理由がありません。Aが守りたいのは、1,500万円の債権です。ここまでは、こちらの説明です。こちらの説明とは、条文にも判例にも書かれていない、理解のための、この講義の説明のことです。取り戻す額を増やせば、確実さは上がります。実は、2017年の改正のとき、債権額を超えて取り消せる案も出ていました。しかし、採られませんでした。ここは立案の過程の説明です。立案の過程の説明とは、改正のときに、なぜそう決めたのか、として説明されていることです。理由は3つ挙がっています。1つめ、債権額を超えるお金を受け取った債権者が使ってしまえば、そのリスクは、債務者や、ほかの債権者が負います。2つめ、破産のように、総債権者に配当する手続が、この制度には整っていません。3つめ、取消権は、債権者代位権と同じく、自己の債権を保全するための制度です。そこで、分けられる目的の場合と、価額の償還の場合について、改正前の判例の結論、つまり債権額までという結論を、条文にしました。
424条の8を読む——第1項と第2項
図:424条の8の板
- 第1項=行為の目的が可分であるときは、自己の債権の額の限度においてのみ取消しを請求できる
- 第2項=価額の償還を請求する場合(424条の6第1項後段・第2項後段)も、前項と同様
- 第1項には「可分であるとき」の限定がある/第2項にはその限定が繰り返されていない
条文を読みます。
条文民法424条の8
民法第424条の8 債権者は、詐害行為取消請求をする場合において、債務者がした行為の目的が可分であるときは、自己の債権の額の限度においてのみ、その行為の取消しを請求することができる。 2 債権者が第四百二十四条の六第一項後段又は第二項後段の規定により価額の償還を請求する場合についても、前項と同様とする。
第1項と第2項を言い分けます。第1項は、債務者がした行為の目的が可分であるときは、自己の債権の額の限度においてのみ、取消しを請求できる、です。可分とは、割れる、ということです。お金のように、半分にしても、同じ性質の物として残るものです。反対に、家のように割れない物を、不可分といいます。第2項は、価額の償還を請求する場合も、前項と同様、です。価額の償還は、受益者のCに求める場合も、転得者のDに求める場合も、どちらも含まれます。ここまでは、条文の言葉です。読みどころは、第1項には、目的が可分であるとき、という限定があるのに、第2項には、その言葉が繰り返されていないことです。第2項は、可分かどうかを問わず、前項と同様、つまり自己の債権の額の限度、と言っています。これが今日の核です。このあと、例と判例で確かめます。
割れる物の例——債権額まで
図:可分の例の板
- ここからは別の例(数字も変える)
- Aの債権600万円
- Bが、全財産の現金1,000万円をCに贈与
- 取り消せる=600万円まで(第1項)
- 残りの400万円=取り消せない
- 根拠=条文(424条の8第1項)
ここからは別の例です。数字も変えます。Aの債権は600万円です。Bは、全財産の現金1,000万円を、Cに贈与しました。お金は割れる物ですから、可分です。第1項により、取り消せるのは、自分の債権額の600万円までです。残りの400万円は、取り消せません。400万円は、Aの債権を守るのに、必要のない部分です。必要のない部分までCから取り上げる理由はない、という先ほどの理由づけが、そのまま当てはまります。600万円まで、という結論のほうは、条文に書かれていることですから、条文の札を付けてください。
割れない物なら全部——判例
図:判旨の板
- 判決の言葉=1 債権者は故なく自己の債権の数額を超過して取消権を行使できない/2 ただし目的物が不可分なら、価額が債権額を超過しても、行為の全部について取り消せる
- 事案=贈与された物は一棟の建物・時価54万円・取消債権者の債権額45万円・それでも贈与の全部を取り消せるとした
- 用語=数額=金額/超過=超えること/論を待たない=言うまでもない
ここからは、1つの家のような、割れない物です。家の半分だけ売却を取り消して、半分だけBに戻す、ということは、できません。この場合を述べた判例を読みます。ここは、判例の札を付けます。判例の札とは、最高裁の判決が述べたことです。
判例最判昭30・10・11 民集9巻11号1626頁
不可分の目的物と取消しの範囲 民法四二四条に依る債権者の取消権は、債権者の債権を保全するためその債権を害すべき債務者の法律行為を取消す権利であるから、債権者は故なく自己の債権の数額を超過して取消権を行使することを得ないことは論を待たないが、債務者のなした行為の目的物が不可分のものであるときは、たとえその価額が債権額を超過する場合であつても行為の全部について取消し得べきことは、すでに大審院判決の示したとおりである。
言葉を直します。「数額」は金額、「超過」は超えること、「論を待たない」は、言うまでもない、です。判決が述べたことは、2つです。1つめ、理由なく、自分の債権額を超えて取消権を行使してはならない、という原則です。2つめ、ただし、行為の目的物が不可分のものなら、価額が債権額を超えていても、行為の全部を取り消せる、です。この2つめは、前から大審院の判決がそう示していた、とも書いています。判決の事案です。贈与されたのは、一棟の建物でした。時価は54万円、取り消そうとした債権者の債権額は45万円です。価額のほうが大きいのに、贈与の全部の取消しが認められました。
判決が書いているのは、目的物が不可分のものであるとき、という条件と、全部を取り消せるという結論までです。なぜ全部か、は、こちらの説明です。建物は、45万円分だけを取り消す、ということができません。一部だけ取り消せないのですから、取り消すなら全部になります。しかも、全部を取り消して戻る先は、債務者の財産です。取消債権者が、建物を自分の物にするわけではありません。そこで、債権額を超えて取り消しても、行き過ぎにはならない、と説明できます。
設例に当てはめる——家そのものと、お金
図:設例の当てはめの関係図
- A 取消債権者、B 債務者、C 受益者、D 転得者
- AからBへ貸金1,500万円(債権額)
- BからCへ売却(家2,400万円)
- CからDへ転売
- 2つの場面=家そのものを戻す場合は売却の全部を取り消せる(家はBの名義に戻る)/Cに家の代わりのお金(価額の償還)を求める場合は第2項で債権額の限度
設例に戻ります。数字も、1,500万円と2,400万円に戻ります。Bの家は、1つの家で、不可分です。家そのものを取り戻すなら、判例のとおり、売却の全部を取り消せます。家の名義は、Bに戻ります。Aの債権額は1,500万円で、家は2,400万円ですが、全部取り消せます。場面を変えます。Cは、家をDに転売していて、家そのものは返せません。そのうえ、Dは事情を知らず、Dには行けないとします。2つ前の回の組合せ表でいうと、事情を知っているCが悪意、知らないDが善意、の行です。このとき、Aは、Cに対して、取消しとともに、家の代わりに、お金で返してもらう、価額の償還を求めます。ここで小さな問題です。Aの債権は1,500万円、家の価額は2,400万円です。お金で返してもらうとき、請求できるのは、いくらまででしょうか?
図:価額の償還の数字の板
- 家の価額=2,400万円(判決の前に審理が終わる時の価額で測る)
- Aの債権額=1,500万円
- 求められるのは小さいほう=1,500万円まで(第2項)
- 2,400万円ではない
- 注記=Cが家の代金として払った700万円の扱いは後の回
第2項で、債権額の限度ですから、1,500万円までです。数字で通します。家の価額は2,400万円です。この価額は、前の回で見たとおり、判決の前に審理が終わる時で測ります。Aの債権額は1,500万円です。求められるのは、小さいほうの1,500万円までです。2,400万円ではありません。これは第2項の条文ですから、条文の札を付けてください。立案の過程の説明も添えます。この第2項は、不動産の贈与を取り消す場合に、家そのものを返すことが難しくて、価額の償還を求めるとき、などを想定して置かれた規定だ、と説明されています。なお、Cが家の代金として払った700万円が、ここでどう扱われるかは、後の回で見ます。今日の数字からは、引くこともしませんし、足しもしません。
同じ家なのに、なぜ上限が変わるのか
図:3つの言い分けの表
- 行=1 目的が可分(お金など)→債権額の限度→根拠=条文(424条の8第1項)/2 目的が不可分(1つの家など)で、現物を戻す→全部を取り消せる→根拠=判例/3 価額の償還を求める(不可分でも)→債権額の限度→根拠=条文(424条の8第2項)
- 理由づけ=こちらの説明=お金に変わると、割れる物になる
3つの言い分けに並べます。1つめ、目的が可分、たとえばお金は、債権額の限度です。第1項です。2つめ、目的が不可分、たとえば1つの家で、家そのものを取り戻すなら、全部を取り消せます。これは判例です。3つめ、価額の償還、つまりお金で返してもらうなら、不可分の物でも、債権額の限度です。第2項です。理由は、お金に変わると、割れる物になるからです。ここは、こちらの説明です。家は割れません。ですから、現物を戻すなら、全部か、なしかしかありません。けれども、価額の償還は、お金です。お金は、1,500万円でも、2,400万円でも、好きな額に割れます。割れるのなら、債権額を超える部分まで求める理由がありません。最初に見た、債権額を物差しにする理由が、そのまま当てはまります。第2項が、可分かどうかを問わず、前項と同様、と書いているのは、この理解と合っています。ここは、論文で論点になりうる所です。424条の8の第1項と第2項は、条文どおりの成立要件と効果ですから、条文番号を付けて、条文の言葉で書きます。不可分なら全部を取り消せる、というのは、条文の外の話で、判例です。判例の札を付けて書いてください。
抵当権が付いた不動産だったら——場面は2つ
図:抵当権付き不動産の2段の板
- 上=抵当権の登記が、受益者のもとで残っている(例=抵当権付きのまま譲渡)→家そのものを返してもらえる(全部を取り消し、現物を回復)
- 下=抵当権の登記が消えた(例=抵当権者への代物弁済)→取消しは、価額から被担保債権額を引いた残額の限度
- 不可分なら価格の賠償(価額の償還)
- 用語=被担保債権額=抵当権が担保する債権の額
ここからは、特別な場面の1つめ、抵当権が付いた不動産です。同じ家でも、Bの家に抵当権が付いていると、取り消せる範囲の考え方が変わります。まず、物差しです。債権額とは別に、もう1つ、上限になる物差しがあります。取り消せるのは、詐害行為で減った責任財産の範囲まで、です。責任財産とは、前に見た、強制執行の対象になる、債務者の財産のことです。抵当権が付いた家は、価額から、抵当権が担保する債権の額、これを被担保債権額といいますが、それを引いた残りだけが、一般の債権者にとって、引き当ての財産になります。抵当権者は、家から先に回収できるからです。この引き算の見方は、こちらの説明です。場面は2つに分かれます。1つめは、抵当権の登記が、受益者のもとで残っている場合です。抵当権付きのまま譲渡された場合などです。このときは、家そのものを返してもらえます。売却の全部を取り消して、現物を回復します。現物を戻しても、戻るのは、抵当権が付いたままの家です。一般の債権者の引き当ては、価額から被担保債権額を引いた残りの分に戻るだけで、行為の前より増えることがないからです。これは、こちらの説明です。判例の札を付ける判決は、次のものです。
判例最判昭54・1・25 民集33巻1号12頁
逸出した財産の回復 詐害行為取消権の制度は、詐害行為により逸出した財産を取り戻して債務者の一般財産を原状に回復させようとするものであるから、逸出した財産自体の回復が可能である場合には、できるだけこれを認めるべきである。
言葉を直します。「逸出」は、流れ出ること、「原状」は、元の状態です。判決が述べたことは、財産そのものを取り戻せるなら、できるだけそうすべきだ、という方針です。この判決は、今の条文より前のものです。この判決の事案には、条件が2つありました。1つめ、受益者は、抵当権者ではありませんでした。受益者が抵当権者でないので、抵当権は残ります。2つめ、目的物の土地の価額から被担保債権額を引いた額が、取消債権者の債権額を下回っていました。引いた額は、責任財産が減った分です。それが債権額より小さいので、債権額の物差しのほうは、この事案では問題になりません。残るのは、土地そのものを戻せるか、だけでした。この2つめの読み方は、こちらの説明です。そういう条件のもとで、現物の回復を認めています。条件つきの判例だ、と押さえてください。
抵当権の登記が消えたとき——差額の限度
図:判旨の板
- 前に特定物債権者の話で読んだ判決の後半
- 事案=家屋は10万円以上の価格
- 受益者は8万円の債権の抵当権者で、その債権への代物弁済として家屋を受け取った(抵当権の登記が消えていたことは、補足意見が述べている)。判決=取消しは、家屋の価格から抵当債権額を控除した残額の部分に限る。一棟の家屋で不可分なら、一部取消しの限度で、価格の賠償を請求するほかない。原審が全部の取消しを認めて所有権移転登記を命じたのは違法で、破棄差戻し。用語=共同担保=債権者みんなの引き当てになる責任財産
- 一般財産減少行為=責任財産を減らす行為
- 外はない=ほかにない。
2つめは、抵当権の登記が消えた場合です。たとえば、抵当権者への代物弁済で、抵当権が消えたときです。代物弁済とは、本来の給付に代えて、別の物で弁済することです。現物を戻すと、抵当権の付かない家が戻ってきます。これでは、債務者や債権者が、元より得をしてしまいます。この場合を述べた判例を、読みます。前に、特定物債権者も取り消せる、という話で読んだ判決の、後半です。ここも、判例の札を付けます。読みどころは2つです。どこまで取り消せるか。そして、家が割れないときに、どんな形で求めるか、です。
判例最大判昭36・7・19 民集15巻7号1875頁
抵当権付き家屋の取消しの範囲 債権者取消権は債権者の共同担保を保全するため、債務者の一般財産減少行為を取り消し、これを返還させることを目的とするものであるから、右の取消は債務者の詐害行為により減少された財産の範囲にとどまるべきものと解すべきである。
言葉を直します。「共同担保」は、債権者みんなの引き当てになる責任財産です。「一般財産減少行為」は、責任財産を減らす行為です。ですから、取消しは、責任財産が減った範囲にとどまる、と述べています。続きです。
判例最大判昭36・7・19 民集15巻7号1875頁
不可分の物の一部取消し したがつて、前記事実関係によれば本件においてもその取消は、前記家屋の価格から前記抵当債権額を控除した残額の部分に限つて許されるものと解するを相当とする。そして、詐害行為の一部取消の場合において、その目的物が本件の如く一棟の家屋の代物弁済であつて不可分のものと認められる場合にあつては、債権者は一部取消の限度において、その価格の賠償を請求するの外はないものといわなければならない。
判決の事案です。家屋は10万円以上の価格で、受益者は、8万円の債権の抵当権者でした。その債権への代物弁済として、家屋を受け取っています。抵当権の登記が消えていたことは、補足意見が述べています。判決が述べたことは、2つです。1つめ、取消しは、家屋の価格から、抵当債権額を引いた残りの部分に限る。2つめ、一棟の家屋のような不可分の物で、一部だけ取り消すなら、債権者は、その価格の賠償を請求するほかない。原審は、全部の取消しを認めて、所有権移転登記を命じていましたが、最高裁は、それを違法として、破棄して差し戻しました。
違いは、何で切るか、です。先ほどの判例は、債権額で切る話でした。債権額は、取り消す側の事情です。その場合は、不可分なら全部でした。全部を取り消しても、債務者の財産が、行為の前の姿に戻るだけだからです。今回は、責任財産が減った分で切っています。これは、行為の中身の事情です。抵当権で押さえられた部分は、もともと、一般の債権者の引き当てではありません。全部を取り消すと、抵当権の付かない家が戻り、行為の前より、引き当てが増えてしまいます。そこまで取り戻す理由がないので、一部だけです。家は割れませんから、現物ではなく、お金、つまり価額の償還の形になります。この整理は、こちらの説明です。もう1つ、断っておきます。この判決は、今の424条の8ができるより前の判決です。いまの条文でいう、価額の償還の話に重ねて読むことになりますが、その重ね方は、こちらの説明で、判決が述べたことではありません。
数字で確かめる——減った分と債権額、2つの上限
図:抵当権付き家屋の数値例の板
- ここからは別の例(数字を言う)
- 家の価額2,400万円
- Cが、その家に、被担保債権1,000万円の抵当権を持っていた
- BはCに、1,000万円の債務の代物弁済として家を渡し、抵当権の登記が消えた
- Aの債権=1,500万円
- 減った分=2,400万円−1,000万円=1,400万円
- 取り消せる=1,400万円(家は不可分なので現物ではなく価格賠償)
- Aの債権が1,000万円なら、小さいほうの1,000万円で止まる
- 共同抵当=複数の不動産に共同で抵当権が付いている場合は、引く額は、その不動産が負担すべき額(価額に応じて案分した額=割り付け額)=最判平4・2・27
ここからは別の例です。数字を言います。家の価額は2,400万円です。Cが、その家に、被担保債権1,000万円の抵当権を持っていました。BはCに、その1,000万円の債務の代物弁済として、家を渡し、抵当権の登記が消えました。Aの債権は1,500万円です。減った責任財産は、2,400万円から1,000万円を引いた、1,400万円です。取り消せる範囲は、1,400万円です。家は不可分ですから、現物ではなく、1,400万円の価格賠償、つまり価額の償還になります。Aの債権は1,500万円で、1,400万円より大きいので、債権額の限度は、ここではかかりません。
債権額のほうが、減った分の1,400万円より小さく、1,000万円しかないなら、小さいほうの1,000万円で止まります。減った分の上限と、債権額の上限は、別々にかかり、どちらか小さいほうで止まる、という整理です。これは、こちらの説明です。もう1つ、補足です。複数の不動産に、共同で抵当権が付いている場合を、共同抵当といいます。その抵当権が、あとから消えたときは、引く被担保債権額は、その不動産が負担すべき額です。価額に応じて案分した額、つまり、価額の割合で割り振った額で、割り付け額といいます。これを述べた判決の名は、板に出しています。ここでは、そういう扱いがある、というところまでを押さえてください。
取り消す側が担保を持っているとき
図:取消す側が担保を持つ場合の入口
特別な場面の2つめです。取り消す側のAが、担保を持っている場合です。復習から入ります。前に、被保全債権の確認で見ました。被保全債権は、詐害行為取消権で守られる債権のことでした。では、抵当権のような物的担保が付いた債権は、被保全債権として数えるのは、どの部分だけでしたか?
図:担保の種類と範囲の表
- 行=1 債務者自身の財産への物的担保(抵当権・質権)→取消しを求められる範囲=担保で回収できない部分だけ/2 債務者以外の者の財産への物的担保(物上保証)→債権全額/3 保証人など人的担保→債権全額
- 根拠=判例(大審院)
- 用語=物上保証=債務者以外の人が、自分の物に抵当権などを付けること
被保全債権の確認で見た、担保で回収できる分は数に入れない、という考え方を、範囲の側から言い直します。債権の全額を基準にしてよいのか、担保で回収できない部分だけなのかは、担保の種類で分かれます。表に並べます。1行目、債務者自身の財産に、抵当権や質権のような物的担保を持っているなら、担保で回収できない部分だけです。2行目、物上保証、つまり債務者以外の人が、自分の物に抵当権を付けている場合は、債権の全額です。3行目、保証人のような人的担保でも、債権の全額です。いずれも大審院の判例です。中身は、結論だけを押さえてください。1行目だけ、別の例の数字で確かめます。Aの債権が1,500万円で、Aが、Bの土地に抵当権を持っていて、そこから1,200万円を回収できるとします。このとき、取消しの物差しになる債権額は、残りの300万円です。2つの上限でいうと、債権額のほうの物差しが、小さくなる話です。ここは、こちらの説明です。
理由は、判例の結論に添えた、こちらの説明です。債務者自身の財産への担保で、確実に回収できる部分は、債務者の責任財産に頼らなくて済みます。ところが、物上保証の物や、保証人の財産は、債務者の責任財産ではありません。債務者の責任財産の代わりにはなりません。数字で比べます。Aの債権が1,500万円です。1,200万円を回収できる抵当権が、Bの土地ではなく、Bの友人の土地に付いているとします。Aが友人の土地から1,200万円を回収しても、友人は、立て替えた1,200万円を返せと、Bに求めることができます。Bの責任財産で支えなければならない額は、1,500万円のまま、減りません。ですから、物差しは、全額の1,500万円です。前に、被保全債権の確認で見た、第三者の担保が付いた債権は全額、という見方と同じです。結論は判例、理由はこちらの説明、と分けて押さえてください。
離婚の財産分与を受けた家——過大な部分だけ
図:過大な財産分与の受けの板
- ここからは別の例(財産分与の回の設例に戻す)
- Aの貸金2,000万円
- Bの財産は1,500万円の家だけ
- Bは離婚で、家を別れた妻のCに渡した
- 相当な分与の額は500万円と見られる
- 過大な部分=1,000万円
- 取り消せる=1,000万円の部分
- 債権額(2,000万円)以下なので、債権額の限度はかからない
- 形=家そのものではなく、過大な部分にあたる額を価額の償還で求める(こちらの説明)
特別な場面の3つめです。ここからは別の例です。数字は、財産分与の回の設例に戻します。Aは、Bに2,000万円を貸しています。Bの財産は、1,500万円の家だけです。Bは、離婚のときに、その家を、別れた妻のCに渡しました。財産分与の回では、取り消せるのは、不相当に過大な部分だけ、と見ました。家を渡した場合に、どういう形で取り消すかは、取消しの範囲の回で、と預けてありました。答えを言います。家は分けられない物で、しかも、取り消せるのは過大な部分だけです。そこで、家そのものを戻させるのではなく、過大な部分にあたる額を、価額の償還で求める形になる、と整理できます。たとえば、相当な分与の額が500万円と見られるなら、過大な部分は1,000万円です。取り消せるのは、この1,000万円の部分です。Aの債権は2,000万円で、1,000万円はそれ以下ですから、債権額の限度は、ここではかかりません。
責任財産が減った分、つまり、行為の中身で切るほうです。相当な部分は、Cがもともと受け取る取り分で、そこを取り上げる理由がないからです。ここは、こちらの説明です。財産分与の判決は、家を渡した場合の形については、述べていません。組み立ては、先ほどの、不可分の物の一部だけ取り消すなら価格の賠償、という判決と同じです。
冒頭の問いに戻る——今日のまとめ
図:今日のまとめ
- 3つの柱と根拠の札
- 1 分けられる目的は債権額まで・分けられない目的は全部=条文(424条の8第1項)と判例(不可分なら全部)と立案の過程の説明(債権額を物差しにする理由)/2 お金で返してもらうなら債権額まで=条文(424条の8第2項)とこちらの説明(お金に変わると割れる)/3 特別な場面=判例(抵当権付き不動産・大審院の判例)とこちらの説明(減った分と債権額の2つの上限・過大な分与の家)
- 要点=家そのものを戻すなら全部、お金で返してもらうなら債権額の1,500万円まで
冒頭の問いに戻ります。ここまでの別の例を離れて、Aの債権1,500万円、Bの家2,400万円、でした。債権は1,500万円なのに、2,400万円の家の売却を、丸ごと取り消せるのか。お金で返してもらうなら、いくらまでか、という問いです。答えです。家は分けられない物ですから、家そのものを戻すなら、売却の全部を取り消せます。家の代わりに、お金で返してもらう、価額の償還なら、自分の債権額の1,500万円までです。3つの柱を整理します。1つめ、分けられる目的は、自分の債権額まで。分けられない目的は、全部です。根拠は、424条の8第1項の条文と、不可分なら全部とした判例で、債権額を物差しにする理由は、立案の過程の説明です。2つめ、お金で返してもらうなら、債権額までです。根拠は、第2項の条文で、お金に変わると割れる、という理由づけは、こちらの説明です。3つめ、特別な場面です。抵当権の登記が消えたときは、価額から被担保債権額を引いた分まで。取り消す側が債務者自身の財産に担保を持つなら、担保で回収できない部分だけ。過大な財産分与は、過大な部分だけです。根拠は判例で、2つの上限の重なりと、家を渡した場合の形は、こちらの説明です。取り戻すお金の額は、これで分かりました。では、そのお金は、Bに払わせるのか、Aに払わせるのか。それは、次の回で見ます。取消しを認める判決の効力や、Cが払った700万円の後始末は、後の回です。
参照条文
- 民法424条の8