詐害行為取消権の支払・引渡しの相手方と事実上の優先弁済(424条の9)
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第4章 債権総論 #208/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
取り戻した1,500万円は誰に払わせるのか
図:冒頭の設例の関係図
- A 取消債権者、B 債務者、C 受益者(親族)、D 転得者
- AからBへ貸金1,500万円
- BからCへ売却(時価2,400万円の家を700万円で)
- CからDへ転売
- AからCへ価額の償還1,500万円を請求
- 問い=この1,500万円は、Bに払わせるのか、Aに払わせるのか
設例の続きです。Aは、Bに1,500万円を貸しています。Bは、時価2,400万円の家を、親族のCに700万円で売り、Cは、その家をDに転売しました。前の回で、取消しの範囲を見ました。家そのものを戻すなら、売却の全部を取り消せます。これは、最高裁の判決が述べ、その前の大審院の判例から続いている結論です。家の代わりに、お金で返してもらう価額の償還なら、上限は2つあります。債権額の物差しと、減った責任財産の額です。減った分の上限と債権額の物差しは、どちらか小さいほうで止まる、というのが、前の回のこちらの説明でした。この設例では、1,500万円でした。では、Cから取り戻す、その1,500万円は、Bに払わせるのでしょうか。それとも、Aに払わせるのでしょうか。
Bに戻すか、Aに直接払わせるか。この2つの引っぱり合いが、今日の中身です。先に答えを言います。お金と動産は、Aに直接払え、渡せ、と求められます。Cは、Aに払えば、Bには払わなくてよくなります。家のような不動産は、登記をBの名義に戻すだけです。そして、Aが受け取ったお金は、Bに返す債務を負いますが、自分の貸金と相殺、つまり差し引きにすれば、結果として、ほかの債権者より先に回収したのと同じになります。ただし、この相殺と優先は、条文には書かれていません。今日は、その根拠が混ざりますので、4つに言い分けます。条文という札を付けるのは、条文に書かれていることです。判例の札を付けるのは、最高裁や、その前の大審院の判決が述べたことです。立案の過程の説明という札を付けるのは、2017年の改正のとき、なぜそう決めたのか、として説明されていることです。こちらの説明という札を付けるのは、条文にも判例にも書かれていない、理解のための、この講義の説明です。
払い先の原則と例外——お金と動産は自分に
図:払い先の原則と例外の板
- 上段=原則「財産は債務者Bに戻す」
- 例=登記は「B名義にせよ」と言える
- 下段=例外「金銭の支払・動産の引渡しは自分に求められる」
- 例=お金/動産(たとえば自転車)
- 右に根拠=条文(424条の9)
1つめの柱、金銭と動産は自分に渡させられる、という点です。入る前に、復習です。債権者代位権のとき、相手に自分へ払えと言えたのは、どんな場面だったでしょうか?代位のときは、お金と動産だけが自分に渡させられました。取消しでも、同じ組み立てです。原則は、取り戻した財産は債務者のBに戻す、です。理由は、取消権の目的が、Bの責任財産を元に戻すことで、Aが取ることではないからです。この点は、前に判決で見ました。例外が、今日の条文です。
条文民法424条の9
民法第424条の9 債権者は、第四百二十四条の六第一項前段又は第二項前段の規定により受益者又は転得者に対して財産の返還を請求する場合において、その返還の請求が金銭の支払又は動産の引渡しを求めるものであるときは、受益者に対してその支払又は引渡しを、転得者に対してその引渡しを、自己に対してすることを求めることができる。 この場合において、受益者又は転得者は、債権者に対してその支払又は引渡しをしたときは、債務者に対してその支払又は引渡しをすることを要しない。 2 債権者が第四百二十四条の六第一項後段又は第二項後段の規定により受益者又は転得者に対して価額の償還を請求する場合についても、前項と同様とする。
3つに言い分けます。第1項の前段です。財産の返還を請求する場合で、その請求が、金銭の支払か、動産の引渡しを求めるものなら、受益者に、自分に払え、自分に渡せ、と求められます。動産とは、土地や建物のような不動産以外の物のことです。ここは、条文の札を付けます。第1項の後段です。受益者が、債権者に払ったり渡したりしたときは、債務者には払わなくてよい、です。後段が無いと、Cは二重に払わされるおそれがあります。Aに払ったあとで、Bからも、払えと言われたら、二重に払うことになってしまいます。後段は、Cが二重に払わなくて済むための規定です。第2項です。価額の償還を請求する場合も、前項と同様、です。設例のように、家の代わりにお金を求めるときは、この第2項が使われます。Aは、1,500万円を自分に払え、と求められ、Cは、Aに払えば、Bには払わなくてよくなります。なお、動産そのものの引渡しは第1項前段の場面で、たとえば、BがCに贈与した自転車を、Aに渡せ、と言えます。細かい点を1つ足します。転得者について、条文は、引渡し、とだけ書いていて、支払とは書いていません。BからCに渡ったお金を、Cに返せと求めるのは、Bから出た財産そのものの返還です。これに対して、転得者が手にしたお金を求めるのは、財産そのものの返還ではなく、価額の償還という位置づけになります。ですから、第2項で扱う、という読み方になります。これは、条文の言葉の読み方で、こちらの説明です。
図:なぜ金銭と動産だけか、の板
- 判例=取戻しを実効あらしめるため、自己への引渡しを許すのはやむをえない
- 立案の過程の説明=直接の引渡しを認めていた判例を明文化した
- 条文が「金銭の支払又は動産の引渡し」と書くのは、問題になるのがその場合だから
- こちらの説明=登記はBが何もしなくても名義を戻せる
- 金銭と動産は、受け取るという行為が要る
理由を、札を付けて言い分けます。まず判例です。判例の札を付けるのは、最高裁や、その前の大審院の判決が述べたことでした。読みます。
判例最判昭46・11・19 民集25巻8号1321頁
自己への引渡しを許す理由 ところで、取消債権者が受益者または転得者に対し、取消にかかる弁済額を自己に引き渡すべきことを請求することを許すのは、債務者から逸出した財産の取戻しを実効あらしめるためにやむをえないことなのである。
言葉を直します。「逸出」は、流れ出ること、「弁済額」は、取り消される弁済で、債務者から渡ったお金のことです。「実効あらしめる」は、取戻しを、実際に効き目のあるものにする、という意味です。判決が述べたことは、自分に引き渡せと請求することを許すのは、債務者から流れ出た財産を取り戻すのを実際に効き目のあるものにするため、やむをえない、ということです。次に、立案の過程の説明です。立案の過程の説明という札を付けるのは、改正のときに、なぜそう決めたのか、として説明されていることでした。直接の引渡しを認めてきた判例を、明文にした、と説明されています。条文が、金銭の支払又は動産の引渡し、と書くのは、問題になってきたのが、その場合だったからです。最後に、こちらの説明です。こちらの説明という札を付けるのは、条文にも判例にも書かれていない、この講義の説明でした。決め手は、受け取るという行為が要るかどうかです。登記は、Bが何もしなくても、名義を戻せます。Aが自分に渡させる必要がありません。ところが、お金や動産は、誰かが受け取る行為をしなければ、戻ったことになりません。Bが受け取らないと言い張れば、取戻しが宙に浮きます。そこで、受け取る行為が要る場合だけ、Aに直接渡させることを認めた、と理解できます。代位のときと同じ理由づけです。
受け取る行為が要るから、という部分は、こちらの説明です。そこを分けて覚えてください。
登記は債務者の名義に戻すだけ
図:不動産の板
- 取消しの結果=受益者・転得者の名義の登記を抹消する、またはBの名義へ移す
- Aの名義への移転登記は求められない
- ここからは別の例(数字なし)の二重売買
- Bが、Aに売る約束をした土地を、先にCに売り、Cが先に登記を備えた
- Aが、BからCへの売却を取り消す場合=取り消せる(判例)/名義はBに戻る/Aへの移転登記は求められない(判例)/戻った土地に損害賠償債権者として強制執行できる(こちらの説明)
2つめの柱、不動産です。取り消したときの形は、受益者や転得者の名義の登記を抹消するか、Bの名義に移すか、です。Aの名義に移せ、とは言えません。理由は2つあります。1つは、1つめの柱で見た原則です。取消権の目的は、Bの責任財産を元に戻すことで、Aが取ることではありません。前に判決で見たとおりです。もう1つは、例外を認める理由が、登記には当たらないことです。登記は、Bが受け取らなくても、名義を戻せます。Aに直接渡させなくても、取戻しが宙に浮きません。424条の9が、金銭と動産に限っているのは、このためです。ここからは別の例です。数字は使いません。BがAに土地を売る約束をしたのに、その土地を、先にCに売って、Cが登記を先に備えました。二重に売られた形です。Aは、BからCへの売却を、取り消せるでしょうか。
取り消せる、というのが判例です。理由は、前に見たとおりです。土地を引き渡せという債権も、引渡しができなくなれば、損害賠償を求めるお金の債権に変わります。そうなれば、Aも、Bの責任財産に頼る立場で、お金を貸した債権者と変わりません。ただし、取り消した結果、名義はBに戻ります。Aは、自分への移転登記は求められません。これも判例です。理由は、いま見た原則と同じで、取消権は、債権者みんなの引き当てになる責任財産を守る制度だからです。では、取り消す意味は何か。Aは、損害賠償債権の債権者として、戻った土地に強制執行をかけ、配当を受けられます。ここまでが結論です。取り消す、戻す、強制執行、配当、という制度のしくみそのものは、前に見たとおり、条文です。取り消せることと、自分の名義にできないことは、判例の札を付けます。そのしくみを、土地を引き渡せという債権の債権者に当てはめて、戻った土地から配当を受ける、と言う部分が、こちらの説明です。ここは、論文で論点になりうる所です。424条の9の内容は、条文どおりの要件と効果ですから、条文番号を付けて、条文の言葉で書きます。なぜ金銭と動産だけか、という理由づけは、判例の言葉と、こちらの説明を分けて書いてください。
受け取った1,500万円の行方——返還債務と相殺
図:お金の流れの5段階の板
- Cから取り戻す1,500万円(Aの債権1,500万円、価額の償還)
- 1 AがCに、1,500万円を自分に払えと請求(424条の9第2項)/2 CがAに支払う/3 Cは、Bに払わなくてよい(424条の9第1項後段)/4 Aは、Bに1,500万円を返す債務を負う(不当利得)/5 Aは、自分の貸金債権1,500万円と、この返還債務を相殺する(505条1項、貸金の弁済期が来ていること)=回収が済んだ形
- 辺ラベルの語=請求/支払/返還
3つめの柱です。Aが、Cから1,500万円を受け取ったあとの話です。債権者代位権で、取り立てたお金を相殺した流れを見ました。取消しでも、同じ組み立てです。今回の数字で、もう1回通します。先に、問いです。Aが受け取った1,500万円は、Aのものになるでしょうか?結論を先に言えば、受け取っただけでは、Aのものにはなりません。流れで見ます。1つめ、AがCに、1,500万円を自分に払えと請求します。2つめ、CがAに払います。3つめ、Cは、Bに払わなくてよくなります。ここまでは、424条の9のとおりで、条文の札を付けます。4つめが大事です。Aが受け取った1,500万円は、本来は、Bの責任財産に戻るはずのお金です。条文が認めたのは、ここまで、つまり、Cとの関係です。ですから、Cとの関係では、Aが受け取ることに原因があります。しかし、受け取ったお金をAのものにしてよい、とは、条文に書かれていません。Bとの関係では、Aが1,500万円を持つ法律上の原因がありません。だからAは、Bに1,500万円を返す債務を負います。不当利得として説明されます。不当利得とは、法律上の原因なく得た利益のことで、得た人は返す義務を負います。5つめが、相殺です。相殺とは、自分の債権を使って、相手に対する自分の債務を消す仕組みでした。お互いに現金を動かさず、差し引きで済ませます。AはBに、1,500万円の貸金債権を持っています。そして、Bに、1,500万円の返還債務を負っています。どちらもお金の債権で、同じ額で向き合っています。505条1項は、双方の債務が弁済期にあるときに相殺できる、と定めます。取消しは貸金の弁済期が来ていなくてもできますが、相殺にはAの貸金の弁済期が来ていることが要り、設例では来ています。ですから、Aは505条1項で相殺できます。相殺すれば、Aの貸金が消えて、回収が済んだ形になります。受け取っただけでは、Aは返す債務を負ったままです。相殺の意思表示をして、初めて手元に残ります。
動産のときは別です。返す物は動産で、貸金は金銭ですから、種類が違い、相殺は問題になりません。相殺の話が出るのは、金銭の場合です。

- 条文に書いてあること/書いていないことの表
- 行1=自分に払えと求められる/払えば債務者への義務を免れる=条文(424条の9)
- 行2=受け取った金銭は債務者の一般財産に回復されたものとして取り扱う(Aに他の債権者へ分配する義務は無い)=判例
- 行3=相殺禁止の規定を置く案は改正のとき見送られ、実務の運用や解釈に委ねられた(相殺権の濫用などで制限される可能性にも言及)=立案の過程の説明
- 行4=Bへ返す債務が生じる理由(不当利得)・相殺できること(505条1項の当てはめ)・結果としての事実上の優先弁済=こちらの説明
重要なのは、この流れのうち、条文に書かれているのはどこまでか、です。表に並べます。1行目、自分に払えと求められること、払えば債務者への義務を免れること。これは、条文です。424条の9は、ここまでです。2行目、受け取った金銭は、債務者の一般財産に回復されたものとして取り扱う、というのは、判例の言葉です。のちほど読みます。3行目、立案の過程の説明です。2017年の改正のとき、相殺を禁じる規定を置く案がありましたが、見送られました。実務の運用や解釈に委ねる、とされ、相殺権の濫用などで制限される可能性にも触れています。代位のときと同じです。4行目、Bへ返す債務が生じる理由と、相殺できること、結果としての事実上の優先弁済は、こちらの説明です。条文には書かれていません。
数字で確かめます。
図:数値の比較
- 戻ってきたお金=1,500万円
- Bのもう1人の債権者の債権=1,500万円
- 上段=戻ったお金を債権者で平等に分けた場合(債権額の割合で)→Aが750万円、もう1人の債権者が750万円
- 下段=Aが自分に受け取り、相殺した場合→Aが1,500万円全額
- もう1人の債権者はこのお金から回る分が無い
- 右に「事実上の優先弁済」
戻ってきたお金は1,500万円で、Bには、もう1人の債権者がいて、その債権も1,500万円だとします。この戻ったお金だけを分ける場面を考えます。債権者で平等に分けるなら、債権額の割合で、750万円ずつです。ところが、Aが自分に受け取って相殺すると、Aは、1,500万円の全額を回収します。もう1人の債権者には、このお金から回る分が残りません。これが、事実上の優先弁済です。優先弁済とは、ほかの債権者より先に、満足を受けることです。事実上の、と付くのは、法律がAに優先権を与えたのではなく、自分に受け取れることと、相殺できることが重なった、結果だからです。
ほかの債権者が、戻ったお金の分配を求められるか、という問題です。判例は、求められない、としました。読みます。判例の札を付けます。
図:判決の要点の板
- 事案=取消債権者が、価額の償還として金銭を受け取ったあと、その金銭の扱いが争われた
- 判決=1 他の債権者が、当然に平等の割合で、その金銭の上に権利を取得するものではない/2 取消債権者は、受け取った金銭を債務者の一般財産に回復されたものとして取り扱うべきだが、自分が分配者になって、他の債権者の請求に応じて分配する義務は負わない
- 注意=相殺が許されるかどうかは、この判決は判断していない
- 用語=価格賠償=家の代わりにお金で返してもらう価額の償還のこと/取戻物=取り戻した物
判決の要点を先に板に出します。事案は、取消債権者が、価額の償還として金銭を受け取ったあと、その金銭の扱いが争われたものです。読みどころは2つです。ほかの債権者が、そのお金に当然に権利を持つのか。そして、受け取った側に、分ける義務があるのか、です。
判例最判昭37・10・9 民集16巻10号2070頁
取消債権者が受け取った金銭と他の債権者 取消債権者が自己に価格賠償の引渡を受けた場合、他の債権者は取消債権者の手中に入つた右取戻物の上に当然に総債権者と平等の割合による現実の権利を取得するものではない。また、取消債権者は自己に引渡を受けた右取戻物を債務者の一般財産に回復されたものとして取扱うべきであることは当然であるが、それ以上に、自己が分配者となつて他の債権者の請求に応じ平等の割合による分配を為すべき義務を負うものと解することはできない。
言葉を直します。「価格賠償」は、家の代わりにお金で返してもらう、価額の償還のことです。「取戻物」は、取り戻した物です。「一般財産」は、ここでは責任財産と同じ意味です。判決が述べたことは、2つです。1つめ、他の債権者は、当然には、平等の割合で、受け取った金銭の上に権利を取得しない。2つめ、取消債権者は、受け取ったものを、債務者の一般財産に回復されたものとして取り扱うべきだが、自分が分配者となって、他の債権者に分ける義務までは負わない、です。ここで、1つ注意です。この判決は、相殺が許されるかどうかには、踏み込んでいません。事案に、相殺をしたという主張が出ていましたが、最高裁は、その適否を判断していません。ですから、判例が相殺を認めた、とは言えません。この判決が述べたのは、他の債権者に分配する義務は無い、というところまでです。相殺と優先弁済のほうは、先ほどの表のとおり、立案の過程の説明と、こちらの説明です。
図:分ける義務が無い理由の板
- 判例=分配の時期や手続を、解釈で明確にするような規定を全く欠く法のもとでは、分ける義務を認めることは否定するほかない
- こちらの説明=いつ、どの債権者に、いくら配るのかを決める手続が要るのに、それが用意されていない
では、なぜ分ける義務が無いのでしょうか。判例の札を付けます。判決は、分配の時期や手続を、解釈で明確にするような規定を全く欠く法のもとでは、分ける義務を認めることは否定するほかない、と述べています。いつ、どの債権者に、いくら配るのかを決める手続が要るのに、それが用意されていない、という言い換えは、こちらの説明です。
図:判決の要点の板
- 場面=受益者が、もともとBの債権者の1人で、Bから先に弁済を受け、その弁済が取り消された
- 問い=自分も債権者だからという理由で、取り消された弁済のうち、自分の債権に対する按分額の支払を拒めるか
- 判決=拒めない
- 理由=拒めるとすると、いちはやく弁済を受けた受益者を保護し、総債権者の利益を無視する結果になり、制度の趣旨に反する
- 補足=分配の手続をどう定めるかは、立法上考慮の余地がある、とも述べている
- ただし、そこからただちに配当要求に効力を認めなければならない理由はない、としている
- 出典=最判昭46・11・19 民集25巻8号1321頁
最後に、場面を1つ変えます。設例のCは家の買主でしたが、ここでは、受益者が、もともとBの債権者の1人で、Bから先に弁済を受け、その弁済が取り消された場面です。受益者は、自分も債権者だからという理由では、取り消された弁済のうち、自分の債権に対する按分額の支払を拒めない、というのが判例です。さきほどの、自己への引渡しを許す理由を述べた判決の、別の部分です。判例の札を付けます。
判例最判昭46・11・19 民集25巻8号1321頁
受益者が按分額の支払を拒めるか もし、本件のような弁済行為についての詐害行為取消訴訟において、受益者である被告が、自己の債務者に対する債権をもつて、上告人のいわゆる配当要求をなし、取消にかかる弁済額のうち、右債権に対する按分額の支払を拒むことができるとするときは、いちはやく自己の債権につき弁済を受けた受益者を保護し、総債権者の利益を無視するに帰するわけであるから、右制度の趣旨に反することになるものといわなければならない。
言葉を直します。「配当要求」は、受益者が、自分も債権者として、分け前を求めることです。「按分額」は、債権額の割合で分けた額です。判決の中の上告人は、被告になった受益者のことです。判決が述べたことは、受益者が、自分の債権を理由に、取り消された弁済のお金のうち、自分の債権に対する按分額の支払を拒めるとすると、先に弁済を受けた受益者を保護し、総債権者の利益を無視することになり、制度の趣旨に反する、です。結論は、拒めない、です。この判決は、引き渡されたお金の分配の手続をどう定めるかは、立法上考慮の余地がある、とも述べていますが、そのことからただちに配当要求に効力を認めなければならない理由はない、としています。これも判例の札です。論文で書くときは、こう分けます。424条の9で自分に払わせられることは、条文の言葉で。他の債権者に分配する義務は無いこと、受益者が按分額の支払を拒めないことは、判例の言葉で。相殺による事実上の優先弁済は、条文の外ですから、解釈として書き、立案の過程の説明とこちらの説明を分けて、理由を述べます。
冒頭の問いに戻る——今日のまとめ
図:今日のまとめ
- 3つの柱と根拠の札
- 1 金銭と動産は自分に渡させられる=条文(424条の9)・判例(取戻しを実効あらしめるため)・立案の過程の説明(判例の明文化)・こちらの説明(受け取る行為が要る)/2 不動産は登記を債務者の名義に戻すだけ=判例(自己への移転登記は不可)・こちらの説明(登記は債務者が受け取らなくても戻せる)/3 受け取ったお金の行方=判例(分配義務なし・按分額の支払は拒めない)・立案の過程の説明(相殺禁止を見送り)・こちらの説明(返還債務・相殺)
- 最下段=答え
- お金はAに払わせられ、Aは相殺で事実上の優先弁済を受けうるが、条文には書かれていない
冒頭の問いに戻ります。Aの債権は1,500万円で、Cから取り戻すお金も1,500万円でした。それは、Bに払わせるのか、Aに払わせるのか、という問いです。答えです。お金は、Aに直接払えと求められます。Cは、Aに払えば、Bには払わなくてよくなります。家そのものは、登記をBの名義に戻すだけです。そして、Aが受け取った1,500万円は、Bに返す債務を負いますが、自分の貸金と相殺すれば、事実上の優先弁済になります。ただし、条文には書かれていません。3つの柱を、札を付けて整理します。1つめ、金銭と動産は、自分に渡させられます。根拠は、424条の9の条文です。なぜ金銭と動産だけか、は、取戻しを実際に効き目のあるものにするため、という判例と、判例を明文にした、という立案の過程の説明、受け取る行為が要る、というこちらの説明です。2つめ、不動産は、登記を債務者の名義に戻すだけです。自分への移転登記は求められない、というのは判例で、登記は債務者が受け取らなくても戻せる、という理由づけは、こちらの説明です。3つめ、受け取ったお金の行方です。他の債権者に分配する義務は無いこと、受益者が按分額の支払を拒めないことは、判例です。相殺禁止を見送ったのは、立案の過程の説明です。返還債務と、相殺による事実上の優先弁済は、こちらの説明です。取り消せる範囲と、渡す先は分かりました。取消しを認める判決の効力が誰に及ぶのかと、Cが払った700万円の後始末は、別の回で扱います。
参照条文
- 民法424条の9