民法ゼロから民法#155

債権の効力と強制執行

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第4章 債権総論 ⑤/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

裁判に勝っても、相手が払わない

冒頭の板。カメラ店Bが仕入先Dから改装資金百万円を借りて返さない→Dが裁判を起こして勝訴→判決は確定→それでもBは払わない。問い=勝ったのに払わない相手に、次に何が起きるのか。 図:冒頭の板

  • カメラ店Bが仕入先Dから改装資金百万円を借りて返さない→Dが裁判を起こして勝訴→判決は確定→それでもBは払わない
  • 問い=勝ったのに払わない相手に、次に何が起きるのか

中古カメラ店のBさんは、店の改装資金として、仕入先のDさんから百万円を借りました。前の回の続きです。ところがBさんは、期日が過ぎても返しません。Dさんは裁判を起こしました。そして勝ちました。Bさんに百万円の支払いを命じる判決が、確定したのです。それでもBさんは、払いません。判決が出れば、裁判所が取り立ててくれる、と考える人は多いものです。しかし判決は、払え、と命じる紙です。命じられたBさんが動かなければ、判決だけでは、1円も入りません。今日の問いは、勝ったのに払わない相手に、次に何が起きるのか、です。答えは最後に出します。手がかりは、債権には、どんな力が備わっているのか。その力を1段ずつ積むと、判決の先に何があるのかが見えてきます。

債権の4つの力

4つの力の階段の板。①請求力=履行せよと請求できる→②給付保持力=任意に払われた物を受け取って保持できる(不当利得として返さなくてよい)→③訴求力=裁判で履行を請求できる(勝訴判決)→④執行力=国の手で実現できる(強制執行)。訴求力と執行力は別の段。DがBに貸した百万円で通す。 図:4つの力の階段の板

  • ①請求力=履行せよと請求できる→②給付保持力=任意に払われた物を受け取って保持できる(不当利得として返さなくてよい)→③訴求力=裁判で履行を請求できる(勝訴判決)→④執行力=国の手で実現できる(強制執行)
  • 訴求力と執行力は別の段
  • DがBに貸した百万円で通す

債権の力は、全部で4段あります。DさんがBさんに貸した百万円で、順に上ります。1段目は、請求力です。返してください、と請求できる力。裁判の外でも言えます。請求そのものが、それだけで違法になることは、権利の濫用にならない限り、ありません。2段目は、給付保持力です。Bさんが自分から、百万円を払ったとします。Dさんは、それを受け取って、持っていてよい。あとからBさんに、あれは不当利得だから返せ、と言われても、返す必要はありません。703条の返還義務が、生じないのです。当たり前に見えますが、債権の力として最小限のものです。債権があることが、受け取ったお金を持っていてよい、法律上の理由になるからです。理由の無い利益なら、返さなければなりません。あとで、この力が欠けた債権を見ます。3段目は、訴求力です。Bさんが払わないとき、裁判に訴えて、履行を請求できる力。勝訴判決、つまり請求を認める判決を得られる力です。4段目が、執行力です。判決を得ても払わないBさんに対して、国の機関の手で、債権の内容を実現できる力。銀行口座を差し押さえてもらう、といった強制執行のことです。

訴求力と執行力は、別の段です。裁判に勝てば、その先の取り立てまで一続きで済む、と考えてしまうのが、冒頭の誤解の正体です。訴求力の成果は、請求が認められた、という判決までです。実際に取り立てるのは、執行力の仕事で、別の手続です。階段の別の段、と覚えてください。もう1つだけ。債権者は、債務者の財産から満足を受けられます。この、財産に手が届く力を、掴取力と呼ぶ言い方があります。その財産のほうは、このあと見ます。なお、債務者が履行しないとき、債権者にできることの地図も、先に置きます。履行の強制、損害賠償の請求、契約の解除です。今日は、最初の履行の強制を扱います。損害賠償と解除は、別の回で扱います。

力の欠けた債権の3つの形

比較表の板。通常の債権=請求力○・給付保持力○・訴求力○・執行力○/責任なき債務=○○○×(不執行の合意)/自然債務=○○××(不訴求の合意・カフェー丸玉事件)/道義上の債務=法的な効力の無い約束(請求も訴えも強制もできない)。見分け=裁判所に持ち込めるか(訴求力)・差し押さえられるか(執行力)。 図:比較表の板

  • 通常の債権=請求力○・給付保持力○・訴求力○・執行力○/責任なき債務=○○○×(不執行の合意)/自然債務=○○××(不訴求の合意・カフェー丸玉事件)/道義上の債務=法的な効力の無い約束(請求も訴えも強制もできない)
  • 見分け=裁判所に持ち込めるか(訴求力)・差し押さえられるか(執行力)

ふつうの債権は、4つの力が全部揃います。ところが、どれかが欠けた債権があります。何が欠けて、何が残るかで、3つに分かれます。1つめは、道義上の債務です。法的な効力の無い約束から生じる債務のことです。たとえば、今度ごちそうするよ、という社交上の約束。守らなくても、法律上は、請求も訴えも強制もできません。2つめが、自然債務です。給付保持力はあるが、訴求力が無い債務です。債務者が自分から払えば、債権者は受け取ってよく、払ったほうは、返せと言えません。ところが、債務者が払わないとき、債権者は、裁判で請求することができません。訴求力が無いので、当然、強制執行もできません。例を作ります。DさんとBさんが、この貸金は、裁判所には持ち込まない、と約束したとします。不訴求の合意です。Bさんが自分から払えば有効な弁済です。しかしBさんが払わなくても、Dさんは訴えられません。判例の典型は、カフェー丸玉事件です。カフェーの客が、店の女給の気を引くために、相当な額のお金をあげると約束しました。のちに女給が、その支払いを求めた事件です。大審院は、そうした事情の約束を、裁判で請求できる権利を与える趣旨だと、決めつけるのは相当でない、としました。約束した側が自分から進んで払えば、弁済として有効です。しかし相手方が、払えと強く求めることはできない。そういう特殊な債務関係が生じる、と述べたのです。自然債務の典型例として、整理されます。

判例の板。カフェー丸玉事件=カフェーの客が女給の気を引くために相当な額の金銭を与えると約束→女給が支払を求めた→約束した側が自ら履行すれば弁済として有効/相手方が履行を強要することはできない特殊の債務関係(自然債務の典型例)。 図:判例の板

決め手は、その約束が、裁判所に強制してもらう性質のものではない、という点です。その場の気持ちで交わした約束を、国の力で取り立てさせるのは、行き過ぎだ、という感覚が背景にあります。3つめは、責任なき債務です。執行力が無い債務です。裁判で払え、という判決は取れます。訴求力はあるのです。ただ、その判決をもとにした強制執行はできません。例は、DさんとBさんが、判決を取ってもいいが、差押えはしない、と約束した場合です。不執行の合意です。ほかに、差し押さえられる財産が一部に限られる例として、相続の限定承認があります。亡くなった人の借金は引き継ぐが、払うのは、相続で得た財産の限度まで、と留保して相続することです。相続人自身の財産には、手が届きません。これは、相続の科目で詳しく扱います。一度、立ち止まって考えてください。DさんとBさんが、この貸金は裁判所に持ち込まない、と約束した債務と、判決は取ってよいが差押えはしない、と約束した債務。どちらが自然債務で、どちらが責任なき債務でしょうか。

持ち込まない約束は、訴求力が無いから、自然債務。判決は取れるけれど差押えしない約束は、執行力が無いから、責任なき債務です。見分け方は、裁判所に持ち込めるか、差し押さえられるか、の2つを順に聞くことです。訴えられないのが自然債務、訴えられても差し押さえられないのが責任なき債務です。

債務と責任、責任財産と債権者平等

責任財産の板。責任=自己の財産が債務の履行の引当てになること/責任財産=債務者の総財産から差押えが禁じられた財産を除いたもの/差押禁止の例=生活に欠かせない衣服・寝具・家具・台所用具(民事執行法131条1号)、給料などの原則4分の3(同法152条1項2号)/債務なき責任=物上保証人。 図:責任財産の板

ここで、責任という言葉を整理します。責任は多義的ですが、ここでは、自己の財産が、債務の履行の引当てになることを言います。前にも出てきた責任財産という言葉を、ここで正確にします。強制執行の対象になる財産を、責任財産と呼びます。債務者の総財産から、差押えが禁じられた財産を除いたものです。生活に欠かせない、衣服、寝具、家具、台所用具などです。民事執行法131条1号が挙げています。給料なども、原則として4分の3は差し押さえられません。152条1項2号です。生活を、丸ごと奪わないための線引きです。ふつうの債務には、責任が伴います。債務があって、責任もある。例外が2つあります。債務はあるのに引当てが無いのが、さっきの責任なき債務。逆に、債務者ではないのに、引当てだけがあるのが、債務なき責任で、物上保証人がその例です。担保物権で見た、他人の債務のために自分の財産を担保に出した人です。そして、責任財産が足りないときの原則が、担保の最初の回で見た、債権者平等の原則です。

債権者平等の数値例の板。Bの財産は90万円しか残っていない。債権者=Dの貸金100万円・Cの前払代金の返還50万円(合計150万円)。債権額に比例して按分→Dは60万円・Cは30万円。先に貸したか・先に注文したかでは優先しない。債権に優先的な力は無い。 図:債権者平等の数値例の板

  • Bの財産は90万円しか残っていない
  • 債権者=Dの貸金100万円・Cの前払代金の返還50万円(合計150万円)
  • 債権額に比例して按分→Dは60万円・Cは30万円
  • 先に貸したか・先に注文したかでは優先しない
  • 債権に優先的な力は無い

数字で見ます。Bさんの財産が、90万円しか残っていない。Bさんに対する債権者は、Dさんの貸金100万円と、Cさんです。Cさんは新品を1台注文して、代金を前払いしたのに、届かなかったので、50万円の返還を求めています。合計150万円です。先に貸したDさんが、先に取れるんじゃないんですか。違います。原則として、各債権者は、債権額に比例して、弁済を受けます。90万円を、合計の150万円で按分して、Dさんは60万円、Cさんには、30万円です。先に貸したか、先に注文したかでは、決まりません。前にも確かめたとおり、債権には排他性が無く、物を押さえているわけではないので、割り込む根拠が無いのです。

そもそも、Bさんの財産が空っぽだったら、判決も意味がなくなります。そこを突いています。責任財産が空っぽなら、強制執行は空振りに終わります。だから民法は、債務者の責任財産を保全する手段を用意しています。責任財産の回で見た、債権者代位権と詐害行為取消権です。債務者が放っておく権利を代わりに使ったり、財産を減らす行為を取り消したりして、責任財産を守る道具でした。守った財産は、最後に強制執行で取るためのものです。強制執行で実現できない債権は、この道具の対象にならないと、423条3項と424条4項が定めています。だから、執行力の無い自然債務と責任なき債務は、この道具の土台になれません。本体は、保全を扱う回で改めて見ます。

履行の強制、自力救済の禁止の代償

414条の板。債務者が任意に履行しないとき→債権者は裁判所に履行の強制を請求できる(直接強制・代替執行・間接強制その他の方法)/ただし債務の性質が許さないときは不可(1項ただし書)/損害賠償の請求を妨げない(2項)。趣旨=自分でやるな、そのかわり国がやる。 図:414条の板

  • 債務者が任意に履行しないとき→債権者は裁判所に履行の強制を請求できる(直接強制・代替執行・間接強制その他の方法)/ただし債務の性質が許さないときは不可(1項ただし書)/損害賠償の請求を妨げない(2項)
  • 趣旨=自分でやるな、そのかわり国がやる

ここから本題です。勝訴したDさんが、Bさんの店に乗り込んで、レジのお金を持って帰ることは、できません。それは、自力救済の禁止があるからです。占有の回で見ました。実力で取り返しても、占有の訴えで無力化されます。では、実力を禁じたら、債権者は、泣き寝入りなのか。そうではありません。その代わりに、国が強制してくれます。それが、414条です。

条文民法414条

民法第414条 債務者が任意に債務の履行をしないときは、債権者は、民事執行法その他強制執行の手続に関する法令の規定に従い、直接強制、代替執行、間接強制その他の方法による履行の強制を裁判所に請求することができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。 2 前項の規定は、損害賠償の請求を妨げない。

短く言えば、自分でやるな。そのかわり、国がやる、です。この条文は、方法の名前を3つ挙げて、手続の細目は、民事執行法に委ねています。だから民法は、方法の名前と、強制できる範囲だけを定めます。2項は、履行の強制と損害賠償は、両立する、という規定です。強制を求めても、損害賠償を請求できます。損害賠償の中身は、次の回以降です。1項のただし書は、債務の性質が許さないときは、強制できない、という例外です。あとで見ます。

手続の流れの板。①債務名義を得る(典型は訴訟=確定判決・仮執行宣言付判決/執行証書は判決手続を経ない債務名義)→②執行手続=執行文の付された債務名義の正本に基づき裁判所に強制執行を申し立てる→差押え→売却→配当。強制執行には債務名義が必要。 図:手続の流れの板

  • ①債務名義を得る(典型は訴訟=確定判決・仮執行宣言付判決/執行証書は判決手続を経ない債務名義)→②執行手続=執行文の付された債務名義の正本に基づき裁判所に強制執行を申し立てる→差押え→売却→配当
  • 強制執行には債務名義が必要

手続は、2段階です。1段目は、債務名義を得ることです。典型は、訴えを起こして、判決手続で得る方法です。債務名義は、時効の回にも出てきた言葉です。この請求権が確かにある、と国が認めた文書のことです。確定判決。確定する前でも執行してよい、という宣言が付いた判決、つまり仮執行宣言付判決。そして、公証人が作る公正証書のうち、債務者が直ちに強制執行に従う、と書き込んだもの、執行証書などです。執行証書は、判決手続を経ずに得られる債務名義です。2段目は、執行手続。執行文、つまり、この債務名義で強制執行をしてよい、という証明の文言が付いた、債務名義の正本をもとに、裁判所に、強制執行を申し立てます。強制執行をするには、債務名義が必要です。冒頭のDさんの確定判決は、この債務名義に当たります。

判決は、訴求力の段。強制執行は、執行力の段。冒頭の誤解は、この別々の段を、一続きだと思ったところにありました。

3つの方法と、債務の種類の対応表

3つの方法の板。直接強制=債務の内容をそのまま実現する(金銭=差押え・競売・配当、不動産の明渡し=執行官が占有を解く、動産の引渡し=執行官が取り上げて渡す)/代替執行=誰がやっても同じ作為を債務者の費用で第三者にやらせる/間接強制=履行するまで一定の金額を払わせて圧力をかける。 図:3つの方法の板

方法に入る前に、前の回の確認を1問です。地震で店が潰れて、返済が遅れても、遅延損害金は付きました。それはなぜでしたか?お金は世の中から無くならないので、履行不能にならなくて、不可抗力も抗弁にできないからです。お金は無くならず、払えないのは債務者の負担でした。では、そのお金を、実際に取り立てる方法は。ここから、3つの方法です。1つめは、直接強制です。債務の内容を、そのまま実現する。国が、債務者の財産や占有を、直接動かします。金銭債権なら、債務者の財産を差し押さえて、売って、その代金から弁済を受けます。差押えの対象ごとに、やり方が違います。不動産なら、売って代金から取る強制競売や、売らずに賃料などの収益から取る強制管理。動産なら、執行官が差し押さえます。預金などの債権なら、執行裁判所が差押命令を出します。これが、冒頭の問いの答えの中身です。物の引渡しも、直接強制です。不動産の明渡しは、執行官が、債務者の占有を解いて、債権者に取得させます。動産の引渡しは、執行官が、債務者から取り上げて、債権者に渡します。たとえば、特定物の回のAさんです。Bさんの店で、製造番号まで確かめて、中古カメラのこの1台を買いました。その1台を、Bさんが渡さない。執行官が取り上げて、Aさんに渡します。BさんがDさんから借りた倉庫を、期限が過ぎても明け渡さず居座る。執行官が、Bさんの占有を解きます。

代替執行の板。代替執行=なす債務のうち、誰がやっても同じ作業を、債務者の費用で第三者にやらせる(民事執行法171条1項1号)/例=看板を外す・家屋の取壊しを解体業者にやらせる/費用は債務者に負担させる/不作為債務=債務者の費用で、債務者がした行為の結果を除去し、又は将来のため適当な処分をすべき旨を命ずる(同項2号)。 図:代替執行の板

2つめの、代替執行です。なす債務、つまり、物を渡すこと以外の行為をする債務のうち、誰がやっても同じ、という作業のとき、債務者の費用で、第三者にやらせます。

条文民事執行法171条1項

民事執行法第171条第1項(柱書・第1号) 次の各号に掲げる強制執行は、執行裁判所がそれぞれ当該各号に定める旨を命ずる方法により行う。 一 作為を目的とする債務についての強制執行 債務者の費用で第三者に当該作為をさせること。

例です。契約が終わったので、Bさんは、店に掲げているDさんの取扱ブランドの看板を、外す債務を負っています。誰が外しても同じ作業です。Bさんが外さなければ、業者に外させて、その費用をBさんに負担させます。家屋の取壊しを解体業者にやらせる、というのが典型です。

間接強制の板。間接強制=履行するまで一定の金額を払わせて心理的に圧力をかける(民事執行法172条)/使う場面=本人でなければできない作業(不代替的な作為債務)/例=腕を見込んだ修理・1日につき何円/金額が損害額に足りなければ超える損害賠償も請求できる。 図:間接強制の板

そこで、3つめの、間接強制です。

条文民事執行法172条1項

民事執行法第172条第1項 作為又は不作為を目的とする債務で前条第一項の強制執行ができないものについての強制執行は、執行裁判所が、債務者に対し、遅延の期間に応じ、又は相当と認める一定の期間内に履行しないときは直ちに、債務の履行を確保するために相当と認める一定の額の金銭を債権者に支払うべき旨を命ずる方法により行う。

期限までに履行しないなら、1日につきいくら払え、と命じます。遅れるたびに、料金メーターが回るようなものです。心理的な圧力で、履行を促す方法です。例です。Cさんは、Bさんの腕を見込んで、修理を頼みました。Bさん本人の技量が、約束の中身です。代わりの人が直しても、約束を果たしたことになりません。こういう債務を、不代替的な作為債務と呼びます。だから、期限までにやらなければ1日につき何円を払え、と命じるのです。決め手は、代わりの人がやっても、債務の中身が実現されるか、です。間接強制の金額は、債務の履行を確保するために相当と認める額です。払わせた額が、損害の額に足りないなら、超える額の損害賠償を請求できます。もう1つ大事なのは、直接強制や代替執行ができる債務でも、債権者が申し立てれば、間接強制を選べる、という点です。直接強制や代替執行は、手間も時間もかかります。1日いくらの圧力のほうが、早く確実に片付く場面があるからです。金銭債務は、原則として、間接強制の対象になりません。お金は、差し押さえて直接取れるからです。例外として、扶養義務に関する金銭債権は、間接強制を選べます。養育費のように、毎月の暮らしに直結するお金は、早く確実に払わせる必要が大きいからです。子の引渡しの強制執行にも、間接強制が使われる場面があります。これは、名前だけです。

対応表の板。与える債務(金銭・特定物・不特定物)=直接強制○・代替執行×・間接強制○(金銭は例外を除き×)/なす債務・代替的作為=×・○・○/なす債務・不代替的作為=×・×・○/なさない債務(不作為)=×・○(違反の結果の除去)・○/意思表示をする債務=判決の確定で代用。 図:対応表の板

ここで、対応表にまとめます。債務の種類は、債権の最初の回で分けた、与える債務となす債務、作為と不作為の区別を使います。種類ごとに、どの方法が使えるか。物を渡す債務、つまり与える債務は、直接強制ができます。代替執行はありません。間接強制は選べますが、金銭債務は、原則として使えません。なす債務のうち、誰がやっても同じ作業は、代替執行ができます。間接強制も選べます。直接強制はありません。本人でなければできない作業は、間接強制だけです。なさない債務、つまり、何かをしない、と約束した不作為の債務です。たとえばBさんが、借りた倉庫の前の通路に物を置かない、とDさんに約束したのに、荷物を積み上げた。この荷物を業者に片付けさせるのが、違反の結果を取り除く代替執行です。これからも置かせないために、間接強制も選べます。

代替執行が使えるのは、なす債務のうち誰がやっても同じ作業と、なさない債務の違反の結果の除去、この2つの場面だけです。表を、口に出して言えるようにしておいてください。

強制執行が認められない債務

強制できない債務の板。夫婦の同居義務(752条)=性質上、強制執行できない(大決昭5・9・30)/意思表示をする債務(登記手続への協力など)=強制執行は不要で認められない・原則として判決の確定の時に意思表示をしたものとみなす(民事執行法177条1項本文)/ただし書=条件付き・引換えの場合は執行文付与の時。 図:強制できない債務の板

414条1項ただし書に戻ります。債務の性質がこれを許さないとき、強制はできません。1つめの例は、夫婦の同居義務です。ここだけは、BさんとDさんの話を離れて、夫と妻で考えます。

条文民法752条

民法第752条 夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。

同居する義務は、この条文で定められた、れっきとした義務です。しかし、性質上、強制執行はできない、という古い判例があります。決め手は、中身が実現しないからです。無理やり連れてきて同居させても、夫婦の協力や信頼という、同居の中身は実現されません。だから、国の力を使っても意味が無いのです。2つめの例は、意思表示をする債務です。たとえば、Bさんが、自分の持つ別の建物をDさんに売る約束をしたのに、所有権移転の登記手続に、協力しない。この協力は、意思表示をする債務です。この債務には、強制執行は不要で、認められません。原則として、判決が確定すれば、足りるからです。

条文民事執行法177条1項

民事執行法第177条第1項本文 意思表示をすべきことを債務者に命ずる判決その他の裁判が確定し、又は和解、認諾、調停若しくは労働審判に係る債務名義が成立したときは、債務者は、その確定又は成立の時に意思表示をしたものとみなす。

判決が確定した時に、Bさんが、意思表示をしたことにします。本人がサインをしたことにする、と考えると分かりやすいです。Dさんは、原則として勝訴判決の確定だけで足り、登記の手続は、その判決を使って進められます。ただし、Bさんの意思表示が条件付きだったり、Dさんの反対給付と引換えだったりする場合は、執行文が付与された時に、意思表示をしたことになります。取り上げる作業が要るか、判決で足りるか、が分かれ目です。

冒頭の答えと、今日の地図

まとめの板。債権の4つの力=請求力・給付保持力・訴求力・執行力/欠けた3つの形=道義上の債務(請求も訴えも強制もできない)・自然債務(訴求力なし)・責任なき債務(執行力なし)/責任財産=総財産−差押禁止財産・債権者平等の原則=債権額に比例/履行の強制(414条)=自力救済禁止の代償・債務名義が必要/3つの方法と対応表/強制できない債務=夫婦の同居義務・意思表示は原則として判決で代用。 図:まとめの板

冒頭の問いに、答えます。勝訴判決を取っても、Bさんが払わないとき、Dさんは、その確定判決、つまり債務名義をもとに、裁判所に強制執行を申し立てます。国が、Bさんの財産、つまり責任財産を差し押さえて、売って、その代金からDさんに払います。これが直接強制です。判決を取っただけでは、入金されません。強制執行という別の手続が要ります。整理します。債権の力は、請求力、給付保持力、訴求力、執行力の4段です。訴えられない債務が自然債務、差し押さえられない債務が責任なき債務で、請求も訴えも強制もできない約束が道義上の債務です。責任財産は、総財産から差押禁止財産を除いたもの。足りなければ、債権者平等の原則で、債権額に比例して分けます。履行の強制は、自力救済の禁止の代わりに、国がやるもので、債務名義が要ります。方法は、直接強制、代替執行、間接強制の3つ。渡す債務は直接強制、誰がやっても同じ作業は代替執行、本人でなければできない作業は間接強制です。夫婦の同居義務は性質上できず、意思表示の債務は、原則として判決の確定で足ります。論文では、自然債務の意義と、履行の強制の方法の使い分けが、論点になりえます。

参照条文

  • 民法414条
  • 民事執行法171条1項
  • 民事執行法172条1項
  • 民法752条
  • 民事執行法177条1項

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