分割債権と連帯債権(427条・432条〜435条の2)
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第4章 債権総論 #211/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
3人で借りた300万円は、1人に全額請求できるか
図:冒頭の設例の関係図
- A 貸主、B・C・D 借りた友人3人(Dは3人のうち一番お金がある)
- AからB・C・Dへ貸した金額=合計300万円
- 問い=AはDに300万円全額を請求できるのか
- 辺ラベルの語=請求
先に答えです。特に約束がなければ、3人は等しい割合で100万円ずつの債務を負います。ですからAがお金のあるDに請求できるのは100万円だけです。427条です。全額を請求できるようにするには「連帯」という約束、つまり別の仕組みが要ります。みんなで借りたのだから誰からでも全額を取れる、と多くの人が思います。そこで今日は債権者や債務者が複数いるとき、その債権は誰に、いくら、どう効くのかを順番に整理します。前の回までは、基本的に債権者と債務者が1人ずつの話でした。相殺の回で連帯債務や保証が少し出ましたが、多数当事者の話として整理するのは今日からです。債権総論の地図で最後に予告してあった多数当事者の話に入ります。今日は話の根拠が混ざりますので、そのつど何に基づく話かを言います。条文に書かれていることは条文の札、最高裁やその前の大審院の判決が述べたことは判例の札です。2017年の改正のとき、なぜそう決めたのか、として説明されていることは立案の過程の説明の札、条文にも判例にも書かれていない、理解のための講義の説明はこちらの説明の札です。答案では条文と判例はその言葉を引いて書き、それ以外は理由を添えて書きます。
多数当事者を測る3つの問い
図:類型の地図と呼び方の規則
- 多数当事者の債権関係=分割債権・分割債務(427条)/不可分債権・不可分債務(428条・430条)/連帯債権・連帯債務(432条・436条)
- 呼び方=複数の側を基準にする(債権者が複数なら債権・債務者が複数なら債務)
- 今日=分割と連帯債権
- 札=条文
1つめの柱です。民法は数人の債権者や債務者がいる場合を3つの型に分けて定めています。1つめが分割債権と分割債務で、427条です。2つめが不可分債権と不可分債務で、そもそも分けられない給付の場合です。3つめが連帯債権と連帯債務で、432条と436条です。ここまでは条文の札を付けます。呼び方の決まりを先に置きます。複数いる側を基準にします。債権者が複数なら債権、債務者が複数なら債務です。冒頭の例は債務者が3人ですから分割債務です。今日は分割と連帯のうち連帯債権を扱います。不可分は分けられない給付の場合がある、という名前だけ覚えておいてください。
型ごとに別々に覚える必要はありません。どの型も、同じ3つの問いで測れるからです。これが、今日の中心です。
図:3つの問いの板
- 問い1=対外的効力(債権者と債務者の関係で、誰が誰にいくら請求でき、誰がいくら払う義務を負うか)
- 問い2=1人に生じた事由の効力(複数のうち1人に起きたことが、他の人にも影響するか。及ぶなら絶対効、及ばないなら相対効)
- 問い3=求償関係(1人が払ったとき、他の人に分担を求められるか)
3つの問いを板に固定します。問いの1 対外的効力。債権者と債務者の関係で、誰が誰にいくら請求できて、誰がいくら払う義務を負うか、です。問いの2 1人に生じた事由の効力。複数いる人のうち1人に起きたこと、たとえば弁済や免除や時効が他の人にも影響するか、です。他の人にも及ぶなら絶対効。及ばないなら相対効と呼びます。問いの3 求償関係。複数の債務者のうち1人が払ったとき、他の債務者に分担を求められるか、です。債権者側なら受け取った人が他の債権者に分け前を渡すか、になります。相対効は、時効の援用の回で見た言葉です。時効の援用は援用した人との関係でだけ効く、でした。その人との関係でだけ効くのが相対効で、他の人にも及ぶ絶対効はその反対です。免除や混同や相殺は、使う場面でそれぞれ思い出します。もう1つ共有を思い出してください。物の共有では妨害の排除は各共有者が単独でできました。損害賠償は持分割合の限度でだけでした。求めるものが分けられるかどうかで請求の形が変わる、という話です。債権でも複数の人が1つの給付に関わると、全部なのか分けた分なのかが問題になります。その答えを3つの問いで見ていきます。
分割債務の原則——427条
図:冒頭の設例の関係図
- 分割債務
- A 貸主、B・C・D 借りた友人。各自の債務=100万円。別段の約束なし。辺ラベルの語=請求(100万円)。
2つめの柱の前半です。冒頭の例に条文を当てます。まず条文を読みます。
条文民法427条
民法第427条 数人の債権者又は債務者がある場合において、別段の意思表示がないときは、各債権者又は各債務者は、それぞれ等しい割合で権利を有し、又は義務を負う。
条文を区切って読みます。まず数人の債権者または債務者がある場合です。冒頭のB、C、Dの3人です。次に別段の意思表示がないとき、です。割合を変える合意や連帯の約束が無いときという意味です。最後にそれぞれ等しい割合で義務を負う、です。3人なら300万円を3等分して100万円ずつです。ここまで条文の札を付けます。これが原則で、分割債務と呼びます。ここで問いです。Bが自分の100万円を払ったとき、CとDの債務は減るでしょうか?減らないと思います。Bは、自分の分を払っただけなので。では、3つの問いに当てはめます。
図:分割債務の3つの問いへの当てはめ
- 問い1 対外的効力=AはB・C・Dそれぞれに自分の分の100万円だけ請求できる(条文)
- 問い2 1人に生じた事由=すべて相対効(Bが払ってもC・Dの債務は残る。AがCを免除してもCの100万円が消えるだけ。時効も同じ=援用した人の債務だけが消える)(こちらの説明)
- 問い3 求償関係=生じない(こちらの説明)
問いの1 対外的効力です。AはB、C、Dのそれぞれに対して、自分の分の100万円だけを請求できます。Dが一番お金持ちでも100万円です。各自も自分の100万円だけ払えば足ります。これは条文の札です。問いの2 1人に生じた事由です。すべて相対効です。Bが100万円を払ってもCとDの債務はそのまま残ります。AがCを免除しても消えるのはCの100万円だけで、BとDの債務はそのままです。時効も同じで、援用した人の債務だけが消えます。理由はこちらの説明です。分割債務では3人の債務が、最初から100万円ずつ別々の債務として生じていて、互いに結びついていないからです。他人の借金まで負わされないという形を、そのまま条文にしたものです。問いの3 求償関係です。生じません。これもこちらの説明です。各自が払うのは自分の100万円です。他人の分を肩代わりしているわけではないので、あとで分担を求める必要がそもそも出てきません。共有との重なりを1つだけ言います。物の共有では損害賠償が持分割合の限度でしか請求できませんでした。債務も同じ発想で等しい割合に分かれます。
割合を変えたいときに使うのが、条文の別段の意思表示です。たとえばBが200万円、CとDが50万円ずつと決めればその割合になります。そして全員が全額について責任を負うという連帯の約束にすることもできます。その仕組みは別の回で扱います。薄く1つだけ触れます。売買のような双方に債務がある契約で当事者の一方が数人のとき、契約の解除は全員から、または全員に対してだけできます。544条1項です。条文の札を付けます。たとえば買主がB、C、Dの3人なら、Bだけが解除して自分の分の契約だけを消す、とはできません。分かれるのは金銭のように分けられる給付の債権や債務で、解除権はバラバラにはならないと覚えてください。一部の人だけが解除できると、契約が残る人と消える人が入り混じって、関係がこじれるからです。この理由はこちらの説明です。
分割債権と、預貯金債権の例外
図:設例の切替の板
- ここから設例を替える
- A・B・Cは前の例とは別の人
- A・B=亡くなった父の債権を相続した兄弟(債権者)、C=債務者
- 父がCに貸していた300万円の貸金を相続→A・Bは各150万円(分割債権)
ここから設例を替えます。A、B、Cは前の例とは別の人です。AとBは亡くなった父の債権を相続した兄弟です。Cは、その債権の債務者です。
図:相続した分割債権の3つの問いへの当てはめ
- 父がCに貸していた300万円の貸金を兄弟A・Bが相続→各150万円の分割債権(427条)
- 問い1 対外的効力=自分の150万円だけ請求できる
- 問い2 1人に生じた事由=相対効(AがCから150万円を受け取ってもBの150万円は残る)
- 問い3 求償関係=生じない
- 札=条文/こちらの説明
父がCに300万円を貸していたとします。兄弟のAとBが相続すると、貸金は各150万円の債権に分かれます。債権者が複数の場合も427条です。これが分割債権です。3つの問いの答えは債務のときと同じです。対外的効力では、AもBもCに自分の150万円だけを請求できます。1人に生じた事由は相対効です。AがCから150万円を受け取っても、Bの150万円は残ります。求償関係は生じません。理由はさきほどと同じ、こちらの説明です。
図:預貯金債権の問いの板
- 父の遺産が300万円の預金だったら=預金債権も相続と同時に150万円ずつに分かれるのか(問い)
- 手がかり=預貯金債権の譲渡制限の特約は、悪意か重過失の譲受人に対抗できる(一般の債権との違い)
- 今日は譲渡ではなく相続のときの別の特別扱い
ここで問いです。父の遺産が300万円の預金だったらどうでしょうか。預金債権も、相続と同時に兄弟で150万円ずつに分かれるのでしょうか?その前に思い出してください。預貯金債権の譲渡制限の特約は、悪意か重過失の譲受人に対して一般の債権と何が違いましたか?一般の債権は特約があっても譲渡は有効でした。預貯金債権は悪意か重過失の譲受人に特約を対抗できるという特別扱いでした。預貯金債権とは預金口座や貯金口座に係る預金や貯金の債権のことです。譲渡のときも一般の債権と扱いが違いました。今日は譲渡ではなく、相続のときに働く、別の特別なルールです。まず一般の金銭債権から。貸金や損害賠償の債権のような、金銭で分けられる一般の債権は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されるという理解が前提にされてきました。判例の札を付けます。債権者が複数なら427条で等しい割合に分かれ、相続人が複数ならそれが相続分に応じた割合になる、という筋です。この接続はこちらの説明です。これが分割債権の典型の場面です。では預貯金債権はどうでしょうか。判例を読みます。
判例最高裁判所大法廷決定 平成28年12月19日(民集70巻8号2121頁)
共同相続された預貯金債権 共同相続された普通預金債権,通常貯金債権及び定期貯金債権は,いずれも,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく,遺産分割の対象となるものと解するのが相当である。 ……預貯金は,預金者においても,確実かつ簡易に換価することができるという点で現金との差をそれほど意識させない財産であると受け止められているといえる。 ……普通預金債権及び通常貯金債権は,いずれも,1個の債権として同一性を保持しながら,常にその残高が変動し得るものである。 ……定期貯金債権が相続により分割されると解すると,それに応じた利子を含めた債権額の計算が必要になる事態を生じかねず,定期貯金に係る事務の定型化,簡素化を図るという趣旨に反する。
図:預貯金債権が当然には分割されない理由の板
- 結論=普通預金・通常貯金・定期貯金は相続と同時に当然に分割されず、遺産分割の対象になる(判例)
- 理由1 預貯金は確実かつ簡易に換価できる=現金に近い
- 理由2 普通預金・通常貯金は1個の債権として同一性を保持して残高が変動する
- 理由3 定期貯金は分割払戻しが制限され事務が定型化されている
- 以前の判例を変更
- 札=判例
言葉を直します。「換価」はお金に換えること、「同一性を保持」は同じ1つの債権のまま、です。「定型化」は決まった形にそろえること、です。この決定が述べたことは、結論と理由の3つです。結論は、普通預金も通常貯金も定期貯金も相続と同時に当然に分割されることはなく、遺産分割の対象になる、です。この決定は、預金も相続で当然に分かれるとしていた以前の判例を変更しました。ここまで判例の札を付けます。理由を3つ挙げます。最初は、預貯金は現金に近い財産だという見方です。預金者も確実に簡単にお金に換えられるので、現金との差をあまり意識しません。遺産分割では現金のように評価に迷いが少なく、調整に使える財産を対象にしたいという要請もあります。2つめ、普通預金と通常貯金は入金や出金のたびに合算されて、1つの債権として同じ債権のまま残高が変わり続けます。相続開始の時の額で当然に分けてしまうと、その後の入出金のたびに計算が必要になって、銀行などに煩雑な計算を強いることになります。3つめ、定期貯金は満期の前の分割払戻しが制限されていて、事務を決まった形で簡単にすることが契約の要素になっています。相続で分けられると解すると利子を含めた計算が必要になって、その趣旨に反します。以上は判旨ですから、判例の札です。
預金はまだAとBで分かれていません。AとBを含む相続人の全員で遺産分割をして、はじめて誰がどれだけ受け取るかが決まります。遺産分割は、物権の回で登記との関係で見たものと同じ手続で、相続人全員の話し合いで、まとまらなければ家庭裁判所に請求して遺産を分ける手続のことです。907条で、条文の札です。中身は相続法で学びます。
図:預貯金債権の対比板
- 一般の金銭債権(貸金・損害賠償など)=相続と同時に当然に相続分に応じて分割される(分割債権)
- 預貯金債権(普通預金・通常貯金・定期貯金)=当然には分割されず遺産分割の対象
- 理由=現金に近い/1個の債権で残高が動く/定期貯金は分割払戻しの制限と事務の簡素化
- 札=判例
板で対比します。貸金や損害賠償のような一般の金銭債権は、相続と同時に当然に分割されます。預貯金債権は当然には分割されず、遺産分割の対象です。一般のお金の債権は分割のまま。預貯金だけが特別です。この線を守ってください。答案で貸金債権まで遺産分割の対象と書くのも、預金を当然に分割と書くのも、どちらも誤りになります。預貯金の払戻しを相続人が単独でどこまでできるのかといった話は、相続法の話です。今日は扱いません。ここは論文で論点になりうる所です。判例の結論は規範としてそのまま使えます。共同相続された、普通預金債権、通常貯金債権、定期貯金債権は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となる。そのあとに現金に近いこと、残高が動くこと、定期貯金の事務の簡素化という3つの理由を添えます。
連帯債権——432条
図:連帯債権の設例の関係図
- A・B=共同事業の仲間(債権者)、C=取引先(債務者)
- 代金300万円の債権
- 分割債権なら各150万円/連帯債権なら各自が300万円全額を請求できる
- 辺ラベルの語=請求
3つめの柱です。役割はそのままで、場面を替えます。債権者のAとBは、今度は共同事業の仲間です。Cは取引先で、債務者です。AとBは2人でCに代金300万円の債権を持っています。分割債権なら各150万円です。ところがAとBがCとの間で、どちらも300万円の全額を請求できると取り決めたとします。これが連帯債権です。条文を読みます。
条文民法432条
民法第432条 債権の目的がその性質上可分である場合において、法令の規定又は当事者の意思表示によって数人が連帯して債権を有するときは、各債権者は、全ての債権者のために全部又は一部の履行を請求することができ、債務者は、全ての債権者のために各債権者に対して履行をすることができる。
区切って読みます。まず債権の目的がその性質上可分である場合です。可分とは分けられるという意味で、金銭の支払は分けられます。次に法令の規定または当事者の意思表示によって数人が連帯して債権を持つとき、です。連帯して債権を持つとは各自が全部の権利を持つということです。3つめ、各債権者は全ての債権者のために全部または一部の履行を請求できます。設例ならAもBもCに300万円全額を請求できます。最後に債務者は全ての債権者のために各債権者に履行できます。CはAかBのどちらか1人に払えば足ります。これらは条文の札です。
分割債権との違いは、どうやって生じるかです。分割は約束が無いときの原則で、自動的にそうなります。連帯債権は例外です。法令の規定や当事者の意思表示が要ります。そして連帯債権は分けられる給付の話で、不可分債権は、給付が性質上分けられない場合の話です。分けられるかどうかが違いです。連帯債権の具体例は実際にはあまり多くありません。この点はこちらの説明です。3つの問いに当てはめます。問いの1 対外的効力はさきほどのとおりです。各債権者が全部を請求でき、債務者は誰か1人に払えば足ります。次は問いの2 1人に生じた事由の効力です。ここが今日の山場です。
図:連帯債権の絶対効と相対効の全体像
- 原則=相対効(435条の2)
- 例外=絶対効が5つ(履行の請求・弁済=432条/更改・免除=433条(持分部分だけ)/相殺=434条/混同=435条)
- 札=条文
まず原則を読みます。他の人に効かない、相対効が原則です。435条の2です。
条文民法435条の2
民法第435条の2 第四百三十二条から前条までに規定する場合を除き、連帯債権者の一人の行為又は一人について生じた事由は、他の連帯債権者に対してその効力を生じない。ただし、他の連帯債権者の一人及び債務者が別段の意思を表示したときは、当該他の連帯債権者に対する効力は、その意思に従う。
本文とただし書に分けて読みます。本文は432条から前条まで、つまり433条、434条、435条に規定する場合を除いて、連帯債権者の1人の行為や1人について生じた事由は他の連帯債権者に効力を生じない、です。相対効が原則だということです。ただし書は他の連帯債権者の1人と債務者が別段の意思を表示したときは、その意思に従う、です。つまり当事者の合意で変えられます。これらは条文の札です。相対効が原則なのは、1人の債権者がしたことで、ほかの債権者の権利が勝手に増えたり減ったりしないようにするためです。これはこちらの説明です。例外が絶対効になるもので、事由は全部で5つ、条文で数えると4つです。条文の順に見ます。1つめが履行の請求と弁済で、432条です。さきほど読みました。AがCに請求すれば、全ての債権者のための請求になります。請求にともなう時効の完成猶予や更新も全員のために及ぶと整理されます。完成猶予は時効の完成を先に延ばすこと、更新はそれまでの時間をリセットして数え直すことです。この整理はこちらの説明です。そしてCがBに300万円を払えばAの債権も消えます。弁済は絶対効です。払う準備をして受け取りを求める弁済の提供や、受け取ってもらえないときに供託所に預ける供託のような、弁済に準ずるものも同じに扱われます。これもこちらの説明です。2つめに入る前に思い出してください。免除は債権者が債務者に利益だけを与える単独行為でした。更改は別の債務に作り替えることでした。この2つは433条です。
条文民法433条
民法第433条 連帯債権者の一人と債務者との間に更改又は免除があったときは、その連帯債権者がその権利を失わなければ分与されるべき利益に係る部分については、他の連帯債権者は、履行を請求することができない。
区切って読みます。まず連帯債権者の1人と債務者との間に更改または免除があったとき。次にその連帯債権者がその権利を失わなければ分与されるべき利益に係る部分。これを持分部分と呼びます。免除した人が自分で受け取るはずだった分です。最後にその部分については他の連帯債権者は履行を請求できません。ここまでは条文の札です。数字で見ます。AとBの持分は等しいとします。AがCの債務を免除しました。Aが受け取るはずだった150万円の部分が消えます。Bが請求できるのは150万円だけです。Aが自分の権利を手放したのはAの持分についてだけ、という考え方です。この考え方は立案の過程の説明です。連帯債権の目的は可分なので、免除した人の持分部分を除いて請求できるとしたからです。お金の債権は持分で割れるので、Aの分だけを消してBの分は残す、ということができます。
図:免除の数字図
- A・B=連帯債権者(持分は等しい)、C=取引先
- 債権300万円
- AがCを免除→Aの持分150万円が消える→Bが請求できるのは150万円だけ
- 辺ラベルの語=免除/請求
次は相殺です。問いから入ります。Cが連帯債権者のAに別の債権を持っていて、それで相殺したら、Bの債権にも響くでしょうか?
条文民法434条
民法第434条 債務者が連帯債権者の一人に対して債権を有する場合において、その債務者が相殺を援用したときは、その相殺は、他の連帯債権者に対しても、その効力を生ずる。
条文は響く、と答えています。債務者が連帯債権者の1人に対して債権を持つ場合に、債務者が相殺を援用したときは他の連帯債権者に対しても効力を生じます。条文の札です。数字で見ます。CがAに90万円の貸金債権を持っています。CがAに対して相殺を援用するとBに対しても効力があります。AとBの債権は、300万円から210万円へと減ります。相殺とはお互いの債権を対当額で消すことで、自分の持つ債権が自働債権、相手の持つ債権が受働債権でした。免除は持分だけなのに、相殺が他の連帯債権者にも効く理由は、こちらの説明です。相殺は弁済と同じように債権が満たされる出来事だからです。Cは90万円を払うのと同じ結果を得ています。債権が満たされたのですから、全員の債権に響くと整理できます。相殺の回で見た連帯債務では、他の連帯債務者が相殺できず履行拒絶にとどまりましたが、あれは他人の債権を勝手に処分できないからでした。今回は債務者のCが自分の債権で相殺を援用するので、向きが違います。
図:相殺の数字図
- A・B=連帯債権者、C=取引先
- 債権300万円
- CがAに対して90万円の債権を持ち、Cが相殺を援用→A・Bの債権は300万円から210万円に減る
- 辺ラベルの語=相殺/請求
4つめは混同です。債権者と債務者が同一人物になることでした。
条文民法435条
民法第435条 連帯債権者の一人と債務者との間に混同があったときは、債務者は、弁済をしたものとみなす。
条文は、債務者は弁済をしたものとみなす、と書いています。条文の札です。例で見ます。Aが亡くなって、取引先Cが唯一の相続人でした。AとCの間で債権者と債務者が同一人物になります。Cは弁済をしたものとみなされます。つまりCが300万円を払ったのと同じに扱われて、Bの300万円の請求権もここで消えます。弁済ですから432条の絶対効で、連帯債権は消えます。混同が絶対効になる理由づけはこちらの説明で、弁済と同じく債権が満たされた形だからです。なお債権の混同には、その債権が第三者の権利の目的なら消えないという別の例外が520条にありましたが、ここは435条の、弁済したものとみなす話です。最後に、それ以外です。原則の相対効で、435条の2です。たとえば、AがCに1か月は支払を待つと言ったとします。Bは今すぐ300万円を請求できます。時効も同じ原則で、時効を援用した人との間でだけ効きます。ただし書の例です。BとCがAの猶予はBにも及ぶと合意すれば、その意思に従います。別段の意思表示です。これらは条文の札です。時効をこの原則で読む読み方は、こちらの説明です。3つめの問い、求償関係です。薄く触れます。連帯債権者の1人が受け取ったり、免除や相殺で利益を得たりしたとき、債権者の内部でどう分け合うかです。条文には書かれていません。433条の分与されるべき利益という言葉が分ける前提を示すだけです。合意がなければ等しく分けると考えるのが、こちらの説明です。設例なら、CがAに300万円を払えば、AはBに150万円を渡すことになります。
ここは短答で問われやすい所です。論文でも論点になりうる所です。絶対効の条文は条文どおり、条文番号を付けて書きます。冒頭で、全額を請求するには連帯という別の仕組みが要ると言いました。その債権者の側がこの連帯債権です。約束が無ければ自分の分だけ、約束があれば全部。型が変わっても、同じ3つの問いで答えが出ます。
絶対効と相対効の一覧
図:絶対効と相対効の一覧表。列=事由/条文/他の連帯債権者への効力。行=履行の請求(432条・絶対効・全ての債権者のために請求)/弁済(432条・絶対効・1人に払えば全員の債権が消える)/更改・免除(433条・絶対効だがその人の持分部分だけ)/相殺(434条・債務者の援用で絶対効)/混同(435条・絶対効・債務者は弁済をしたものとみなす)/上の5つ以外(支払の猶予・時効の完成など)(435条の2・相対効・別段の意思表示があればその意思に従う)。札=条文。
一覧表にします。履行の請求は432条で絶対効です。弁済も432条で、1人に払えば全員の債権が消えます。更改と免除は433条で絶対効ですが、その人の持分部分だけです。相殺は434条で、債務者の援用があれば絶対効です。混同は435条で、債務者は弁済をしたものとみなされます。そしてこの5つ以外、たとえば支払の猶予や時効は、435条の2で相対効です。別段の意思表示があれば、その意思に従います。表の中身は全て条文の札です。読み方の軸を1つ置きます。請求は、432条が全ての債権者のための請求と書いているので全員に響きます。弁済や相殺や混同は、債権が満たされるので全員の債権に響きます。債権者個人の処分、免除や更改は、その人の持分部分だけです。それ以外は相対効です。この軸は覚えやすく整理した読み方で、こちらの説明です。
冒頭の問いに戻る——今日のまとめ
図:今日のまとめ
- 3つの問いで、分割と連帯債権を比べる表
- 行=成立/対外的効力/1人に生じた事由の効力/求償関係
- 分割(427条)=原則・別段の意思表示がなければ等しい割合・自分の分だけ・すべて相対効・求償なし
- 連帯債権(432条〜435条の2)=法令の規定または当事者の意思表示・各自が全部・5つが絶対効で他は相対効・分与(条文に書かれていない)
- 最下段=答え
- 別段の意思表示がなければ各100万円
冒頭の問いに戻ります。B、C、Dが借りた300万円を、Aは一番お金のあるDに全額請求できるのか、でした。答えです。別段の意思表示がなければ、3人は等しい割合で各100万円です。427条です。AがDに請求できるのは100万円だけです。全額を請求できるのは連帯の約束がある場合で、その仕組みは別の回で扱います。3つの問いで分割と連帯債権を比べます。成立は、分割が原則で、約束が無いとき自動的にそうなります。連帯債権は法令の規定か当事者の意思表示が要ります。対外的効力は、分割が各自、自分の分だけ。連帯債権は各自が全部です。1人に生じた事由は、分割がすべて相対効。連帯債権は5つが絶対効で他は相対効です。求償関係は、分割は生じません。連帯債権は分け前の分与で、条文には書かれていません。札を付けて整理します。条文は427条と、432条から435条の2まで。判例は、預貯金債権は当然には分割されず遺産分割の対象になる、です。立案の過程の説明は433条の持分部分の考え方。こちらの説明は求償が生じない理由、相殺と混同が絶対効になる理由、連帯債権の内部の分け方、一覧表の読み方です。この3つの問いは、次の回からもそのまま使います。
参照条文
- 民法427条
- 民法432条
- 民法435条の2
- 民法433条
- 民法434条
- 民法435条