保証債務の範囲と解除・原状回復(447条・449条・450条)
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第4章 債権総論 #216/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
売買が解除されたら、代金は保証人から返ってくるのか
図:冒頭の設例の関係図
- A 買主=債権者、B 売主=主債務者(中古のキッチンカーの持ち主)、C 保証人
- AはBから車を200万円で買った
- Cは書面でBの債務を保証した
- AはBに200万円を払ったが、Bは車を引き渡さず、Aは契約を解除した
- 問い=AはCに「払った200万円を返してくれ」と言えるか
- 辺ラベルの語=売買/保証契約/代金
先に答えです。言えます。ただし、特に反対の意思表示がない限り、です。最高裁は、特定物の売買における売主のための保証人は、売主の債務不履行から生じる責任を引き受けたものと読みます。解除による代金の返還も、その責任に入ります。解除のあとの返金まで保証人が負うのか。これが今日の山場で、あとで判決を読んで確かめます。先に、今日の登場人物を決めます。Aが債権者、Bが主たる債務者、Cが保証人です。前の回と同じ役です。ただし、前の回は貸金でした。今日は売買です。Aは買主、Bは売主です。
449条——取り消せると知って保証した人
図:449条の板
- 要件=1 行為能力の制限によって取り消すことができる債務の保証/2 保証契約の時に、その取消しの原因を知っていた
- 効果=主債務の取消しの場合に、同一の目的を有する独立の債務を負担したものと推定する
- 対象外=詐欺・強迫による取消し
- 札=条文/こちらの説明
1つめの柱の前半です。取消しの効果は、取消しの回で見たとおり、取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす、です。121条で、条文の札です。主債務が取り消されれば、主債務が無かったことになり、保証債務も成立しません。取消しの原因を知って保証した人をどう扱うか。そこに手当てをしたのが449条です。読みます。
条文民法449条
民法第449条(取り消すことができる債務の保証) 行為能力の制限によって取り消すことができる債務を保証した者は、保証契約の時においてその取消しの原因を知っていたときは、主たる債務の不履行の場合又はその債務の取消しの場合においてこれと同一の目的を有する独立の債務を負担したものと推定する。
要件は2つです。1つめ、取消しの原因が、行為能力の制限であることです。行為能力の回で見た、4つの類型の制限行為能力者の行為を指します。未成年者の契約が典型です。2つめ、保証した人が、保証契約の時に、その取消しの原因を知っていたことです。効果は、主債務と同一の目的を有する独立の債務を負担したものと、推定する、です。条文の札です。独立の債務とは、主債務が取り消されて消えても、それに引きずられずに残る、主債務と同じ中身の債務です。こちらの説明です。
図:449条の設例の板
- A 債権者・B 未成年の主債務者(親の同意なく借りた)・C 保証人
- Cが保証の時に取消しの原因を知っていた→Bが取り消しても、Cは独立の債務を負担したものと推定/知らなかった→推定は働かない=成立における付従性で保証債務は成立しない
- 推定≠みなす=推定は反対の立証で覆る(条文は「推定する」)
場面を替えます。Aが債権者、Bが未成年の主債務者で、保証人はCです。役は変わりません。AがBにお金を貸し、Cが保証しました。Bは親の同意なく借りていました。Cは、保証の時に、それを知っていました。のちにBが契約を取り消しました。このとき、Cは、Aに対して、独立の債務を負担したものと推定されます。Cが、Bが未成年だと知らなかったなら、推定は働きません。成立における付従性のとおり、保証債務は成立しません。推定と、みなすは、別物です。推定は、覆せます。Cが「取り消されたら払わない約束だった」と立証すれば、推定は破れます。みなす、であれば覆せません。条文は「推定する」です。落とさないでください。趣旨を説明します。取消しの原因を知って保証した人は、取り消されても、自分が払うつもりだったと読むのが自然です。だから、推定します。前の回で見た独立債務性、つまり、保証債務は保証契約によって成立する、主債務とは別個の債務だ、という性質の現れでもあります。こちらの説明です。条文には、主たる債務の不履行の場合も書いてあります。ただ、主債務者が払わないときに保証人が払う責任は、446条1項の保証債務で足り、損害賠償など、主債務に付いて回るものは、次に見る447条1項が従たるものとして保証の範囲に入れている、と説明されます。ですから、449条で独立の債務と推定する意味があるのは、取消しの場合です。こちらの説明です。
ここで問いです。Bが、詐欺を受けて取り消したとします。Cが詐欺のことを知っていたら、449条の推定は働くでしょうか?
図:449条の対象の板
- 対象=行為能力の制限による取消しだけ
- 対比=未成年者の取消し(未成年者を守るため・債権者が悪いことをしたからではない)→知って保証した人に独立の債務を推定/詐欺・強迫による取消し(債権者の側がだましたり脅したりした取引が多い)→対象外=払わせると不正な取引を助ける(こちらの説明)
対象は行為能力の制限だけでした。詐欺による取消しには、働かないと思います。理由を言います。未成年者が取り消せるのは、未成年者を守るためです。債権者が悪いことをしたからではありません。これに対して、詐欺や強迫で取り消されるのは、債権者の側がだましたり、脅したりした取引であることが多いのです。それを知りながら保証した人に、取消しのあとも払わせると、だました側が保証人から回収できる道が残り、不正な取引を助けることになります。こちらの説明です。対象は、行為能力の制限による取消しだけです。
450条——保証人の要件
図:450条の板
- 原則=保証人になる資格に制限はない
- 1項=債務者が保証人を立てる義務を負う場合、保証人は行為能力者であること・弁済をする資力を有することの両方を備える者でなければならない
- 2項=資力の要件を欠くに至ったとき、債権者は要件を備える者への交替を請求できる
- 3項=債権者が保証人を指名した場合は1項・2項は適用しない
- 札=条文/こちらの説明
1つめの柱の後半です。保証人になれるのは、どんな人でしょうか。原則は、制限がありません。未成年者でも、お金のない人でも、保証人にはなれます。ただし、未成年者なら、行為能力の制限による取消しの余地は残ります。そのうえで、例外を定めるのが450条です。読みます。
条文民法450条
民法第450条(保証人の要件) 1 債務者が保証人を立てる義務を負う場合には、その保証人は、次に掲げる要件を具備する者でなければならない。 一 行為能力者であること。 二 弁済をする資力を有すること。 2 保証人が前項第二号に掲げる要件を欠くに至ったときは、債権者は、同項各号に掲げる要件を具備する者をもってこれに代えることを請求することができる。 3 前二項の規定は、債権者が保証人を指名した場合には、適用しない。
1項です。債務者が、保証人を立てる義務を負う場合です。契約や、法律や、裁判所の命令で、「保証人を立てなさい」と決まっている場合を指します。その場合の保証人は、行為能力者であること、弁済をする資力を有すること、この両方を備えていなければなりません。条文の札です。2項です。保証人が、あとで資力の要件を欠くに至ったとき、債権者は、要件を備える人に代えるよう請求できます。条文は「前項第二号に掲げる要件を欠くに至ったとき」です。ですから、代えるよう請求できる根拠は、資力を失ったことです。行為能力を失った場合は、条文の文言に入りません。条文の札です。3項です。債権者が保証人を指名したときは、1項も2項も、適用されません。債権者が自分で選んだ人だから、要件を求める理由がない、ということです。こちらの説明です。
「保証人を立てる」という約束で借りたBが、未成年の学生を保証人候補に連れてきたとします。行為能力者でないので、1項の要件を欠きます。債権者が、最初から「この人を保証人にしてほしい」と指名していたなら、3項で、この要件の話は出ません。こちらの説明です。なお、要件を備える保証人を立てられないときは、債務者は、他の担保を供して、これに代えることができます。451条です。条文の札です。
447条——保証人はどこまで払うのか
図:447条の板
- 1項=保証債務は主たる債務に関する利息・違約金・損害賠償その他その債務に従たるすべてのものを包含する
- 例(A 債権者・B 主債務者・C 保証人)=元本240万円+利息7万2,000円(年3%の1年分)+遅延損害金12万円=259万2,000円
- 2項=保証債務についてだけ違約金・損害賠償の額を約定できる
- 付従性が縛るのは本来の額・447条2項が動かすのは不履行の制裁
- 札=条文/こちらの説明
2つめの柱です。保証人は、どこまで払うのでしょうか。447条です。
条文民法447条
民法第447条(保証債務の範囲) 1 保証債務は、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たるすべてのものを包含する。 2 保証人は、その保証債務についてのみ、違約金又は損害賠償の額を約定することができる。
1項です。保証債務は、主たる債務に関する、利息、違約金、損害賠償、その他、その債務に従たるすべてのものを包含します。条文の札です。元本だけではありません。主債務に付いて回るものを、全部保証したことになります。数字で見ます。場面を替えます。AがBに、元本240万円を貸しました。Cが保証人です。役は変わりません。約定の利息は年3%で、1年分は7万2,000円です。Bが期日に払わず、遅延して、遅延損害金が12万円になりました。Cが払うのは、元本240万円、足す、利息7万2,000円、足す、遅延損害金12万円、合わせて259万2,000円です。こちらの説明です。
利息や損害賠償と同じく、約定した違約金も、従たるものです。ただし、違約金は、損害賠償の額の予定と推定されます。420条3項です。同じ不履行について、違約金と損害賠償を、二重に足すことはしません。こちらの説明です。それから、条文の言葉は、従たる「すべてのもの」です。利息、違約金、損害賠償は、例です。2項に移ります。保証人は、その保証債務についてのみ、違約金または損害賠償の額を約定できます。前の回で、名前だけ出した条文です。たとえば、主債務の遅延損害金は年5%です。Cの保証債務だけ、「遅れたら1日1万円」と約束できます。Cの分だけ、不履行の制裁が違います。保証債務が別個の債務である、独立債務性の現れです。前の回の言い方を確認します。付従性が縛るのは本来の額で、契約の時点で保証が主債務より重ければ主債務の限度に減縮する、448条の話です。447条2項が動かすのは、不履行の制裁です。別の場所の話です。こちらの説明です。なお、保証債務は独立の債務なので、保証債務だけに、担保物権や、保証人を付けることもできます。さて、447条1項は、従たるすべてのものです。では、契約が解除されたとき、買主が払った代金を返す義務は、この従たるものに入るのでしょうか。ここから、3つめの柱です。
解除されると、何を返すのか——保証は残るのか
図:問いの再提示の板
- AはBの債務不履行を理由に契約を解除した
- 解除の効果=各当事者は受け取ったものを返す義務(原状回復義務・545条1項)を負う
- Aが求めるのは、車ではなく、払った200万円の返還
- 問題の所在=1 契約が消えるなら主債務も消え、付従性で保証債務も消えるのでは/2 返還の義務は契約が消えた結果生じる別の債務で、主債務にも従たるものにも当たらないのでは
- 札=条文/こちらの説明
3つめの柱です。冒頭の問いに戻ります。Aは、Bの債務不履行を理由に、契約を解除しました。解除されると、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負います。つまり、受け取ったものを返す義務です。これを原状回復義務と呼びます。545条1項で、条文の札です。解除の要件や効果の本体は、別の回で扱います。今日は、返す義務がある、という一点だけを使います。Aが求めるのは、引渡し前の車ではなく、すでに払った200万円の返還です。問題の所在は2段あります。1段目、解除で契約が遡って消えるなら、主債務、つまり、その車を引き渡す債務も消えます。付従性なら、保証債務も一緒に消えるのではないか。2段目、200万円を返す義務は、契約が消えた結果として生じる、別の債務ではないか。それなら、主債務そのものでも、主債務に従たるもの、つまり447条1項に入るものでもないのではないか。こちらの説明です。
実際、判例はかつて、この2段目の考え方をとっていました。これから読む判決が、その内容を紹介しています。売買契約の解除のように遡って効果が生じる場合は、解除による原状回復義務は、本来の債務が解除で消えた結果生じる別個独立の債務で、本来の債務に従たるものでもない。だから、契約当事者のための保証人は、特約がない限り、責任を負わない、というものでした。判例の札です。そして、これから読む大法廷判決は、この古い判例を変更しました。
法定解除——保証人は返金まで責任を負う
図:事案と判旨の整理板
- 事案=買主が売主から畳・建具(特定物)を買い、代金15万円を渡した
- 保証人が売主の債務を保証した
- 売主の債務不履行を理由に売買は解除された
- 買主が保証人に代金返還を請求
- 原審は古い判例に従い保証人の責任を否定→最高裁は破棄差戻し
- 札=判例
事案を、判旨と分けて言います。買主が、売主から、住宅内の畳と建具を買いました。特定物の売買です。代金は15万円で、買主は売主に渡しました。保証人は、売主の債務を保証していました。ところが、売主の債務不履行を理由に、売買は解除されました。買主が、保証人に、代金の返還を求めたのです。原審は、さきほどの古い判例に従って、保証人の責任を否定しました。最高裁は、原判決を破棄して、差し戻しました。保証人が負けた、というより、審理をやり直させた、という結論です。差し戻したのは、保証しない旨の特約があったかどうかと、和解で債務が消えたという保証人の主張が、まだ審理されていなかったからです。判旨を読みます。特定物の売買における、売主のための保証についての部分です。
判例最大判昭40・6・30 民集19巻4号1143頁
売主のための保証と解除による原状回復義務 特定物の売買における売主のための保証においては、通常、その契約から直接に生ずる売主の債務につき保証人が自ら履行の責に任ずるというよりも、むしろ、売主の債務不履行に基因して売主が買主に対し負担することあるべき債務につき責に任ずる趣旨でなされるものと解するのが相当であるから、保証人は、債務不履行により売主が買主に対し負担する損害賠償義務についてはもちろん、特に反対の意思表示のないかぎり、売主の債務不履行により契約が解除された場合における原状回復義務についても保証の責に任ずるものと認めるのを相当とする。
3つに区切ります。1つめ、特定物の売買の売主のための保証は、通常、売主の債務不履行が原因となって、売主が買主に対して負担することあるべき債務について、責任を負う趣旨でなされる、と読みます。2つめ、だから、損害賠償義務については、もちろん責任を負います。3つめ、特に反対の意思表示のないかぎり、契約が解除された場合の原状回復義務についても、保証の責任を負います。判例の札です。別個独立の債務だから及ばない、という考えに対して、判決は、見る場所を変えました。別個の債務かどうか、ではなく、保証人は何を引き受けたのか、を見ます。売主のための保証人は、売主が約束を守ったときだけでなく、守らなかったときに売主が買主に負う責任も引き受けている、と読むのが普通です。なぜ普通なのか。判旨が特定物の売買と限っているのは、こう読めるからだと考えられます。世界に1台の車は、Bの手元にしかありません。Cが、Bの代わりに引き渡すことは、ふつうできません。それでもCが保証したのは、Bが引き渡さなかったときに、Aが受けるお金の損を埋めるためだ、と読むのが自然です。その損のいちばん大きなものが、払った200万円が戻らないことです。判旨の、保証人が自ら履行するというよりも、という部分は、こう読めます。損害賠償は、その責任です。解除による代金の返還も、売主の不履行から生じる責任です。だから、同じ範囲に入ります。ただし、特定物だから、だけが理由ではありません。あとで見る請負の前払金の判決も、同じ向きの読み方をとっています。判決は、付従性の条文ではなく、保証契約の趣旨を読んで、結論を出しています。447条1項の従たるものに入るか、という問いには、判決は447条という言葉を使わず、保証契約の趣旨の解釈で答えたのです。ここが、論文の勘所です。こちらの説明です。
身近な言い方にします。友人が約束を破ったときの後始末を引き受けた、と考えてください。後始末には、相手への賠償金も、受け取ったお金の払い戻しも入る、と読むのが普通です。ただ、友人と相手が、自分に黙って「なかったことにしよう」と決めた後始末までは、引き受けた覚えはありません。それが、このあと見る合意解除です。こちらの説明です。
図:論証の流れ図
- 1 問題=解除による原状回復義務に保証は及ぶか/2 反対の事情=契約が消えた結果生じる別個の債務なので及ばないとも思える/3 保証の趣旨=特定物の売買における売主のための保証人は売主の債務不履行から生じる責任を引き受けたと通常は読める/4 結論=特に反対の意思表示のないかぎり及ぶ/5 あてはめ=Aの代金返還にCの保証は及ぶ
- 札=判例/こちらの説明
論証の型にします。1つめ、問題です。解除による原状回復義務に、保証は及ぶか。2つめ、反対の事情です。契約が消えた結果として生じる別の債務だから、及ばないとも思える。3つめ、保証の趣旨です。特定物の売買における売主のための保証人は、売主の債務不履行から生じる責任を引き受けたと、通常は読める。4つめ、結論です。特に反対の意思表示のないかぎり、及ぶ。5つめ、あてはめです。冒頭の設例では、Cが書面で保証した車の売買が、Bの不履行で解除されました。だから、Aの代金返還にも、Cの保証は及びます。Cが、「返還は保証しない」と書面に特約していたなら、別です。判例の言っていない範囲も、はっきりさせます。判旨は、特定物の売買の、売主のための保証で、債務不履行による解除の場合です。冒頭の設例は、売主のための保証なので、判旨と同じ向きです。買主の代金債務のための保証が、解除後の返還義務まで及ぶか、は判旨の外です。
合意解除——当然には及ばない
図:合意解除の板
- 合意解除=当事者が「この契約はなかったことにしよう」と新たに合意して契約を解消すること
- 法定解除=債務不履行などで一方が解除権を行使して契約を消すこと
- 事案=請負(工事代金2,900万円・3割前払)の注文主が前払金937万9,500円を払ったあと、請負人が工事を続けられず合意解除し、既済部分を400万円と評価して差額を返すと約束した
- 保証人への請求
- 札=判例
次は合意解除です。冒頭の設例を少し変えます。AとBが、車の売買を、「なかったことにしよう」と合意して、やめたとします。合意解除です。一方が解除権を行使する法定解除と違い、当事者が新たに合意して、契約を解消します。このとき、Cは返金まで払うでしょうか。判決を読みます。ここで事案に注意してください。この判決は、売買ではなく、請負契約の事案です。工事代金2,900万円のうち3割を前払いする約束で、注文主は前払金937万9,500円を払いました。請負人が資金難で工事を続けられなくなり、注文主と請負人は合意解除しました。そのとき、既済部分を400万円と評価して、差額を返す、と請負人が約束しました。注文主が、連帯保証をした人たちに請求しました。最高裁は、一部を破棄して差し戻しました。審理が尽くされていなかったからです。判旨は、原則と例外の2つに分かれます。原則から読みます。
判例最判昭47・3・23 民集26巻2号274頁
合意解除と保証人の責任(原則) 請負契約が注文主と請負人との間において合意解除され、その際請負人が注文主に対し既に受領した前払金を返還することを約したとしても、請負人の保証人が、当然に、右債務につきその責に任ずべきものではない。けだし、そうでないとすれば、保証人の関知しない合意解除の当事者の意思によつて、保証人に過大な責任を負担させる結果になるおそれがあり、必ずしも保証人の意思にそうものではないからである。
原則です。合意解除のとき請負人が前払金の返還を約束しても、保証人が当然に責任を負うのではありません。理由は、保証人の知らない合意解除の当事者の意思で、保証人に過大な責任を負わせるおそれがあり、保証人の意思にそうとは限らないから、です。判例の札です。法定解除は、売主の不履行から生じる責任なので、引き受けた範囲に入りました。合意解除の返金の約束は、当事者が決めた内容です。保証人が引き受けたかどうか、当然には言えません。こちらの説明です。続けて、例外を読みます。
判例最判昭47・3・23 民集26巻2号274頁
合意解除と保証人の責任(例外) 請負契約が合意解除され、その際請負人が注文主に対し、請負契約上前払すべきものと定められた金額の範囲内において、前払金返還債務を負担することを約した場合においても、右合意解除が請負人の債務不履行に基づくものであり、かつ、右約定の債務が実質的にみて解除権の行使による解除によつて負担すべき請負人の前払金返還債務より重いものではないと認められるときは、請負人の保証人は、特段の事情の存しないかぎり、右約定の債務についても、その責に任ずべきものと解するのを相当とする。けだし、このような場合においては、保証人の責任が過大に失することがなく、また保証人の通常の意思に反するものでもないからである。
例外の要件は2つです。1つめ、合意解除が、請負人の債務不履行に基づくものであること。2つめ、約束した債務が、実質的にみて、解除権の行使による解除によって負担すべき債務より、重いものではないと認められること。ただし、これは、請負契約上前払すべきものと定められた金額の範囲内で、返すと約束した場合の話です。そのうえで、この2つを満たすときは、特段の事情のないかぎり、保証人は責任を負います。理由は、保証人の責任が過大にならず、通常の意思に反しないからです。判例の札です。結局、法定解除に戻った形ですか。近い読み方です。もし解除権を行使していたとしても負うはずの額の範囲なら、保証人は引き受けた範囲を超えません。ですから、及ぶのです。この判決は請負の前払金の事案です。売買の設例に当てはめる箇所は、同じ考え方で読める、というこちらの説明です。冒頭の設例で確かめます。Bが車を引き渡さないので、AとBが合意解除し、Bは代金の200万円を返すと約束したとします。Bの不履行に基づく合意解除で、解除権を行使しても返すはずの200万円の範囲です。ですから、Cの保証は及びます。逆に、Bに不履行はなく、Aの都合で売買をやめることにした合意解除なら、例外の1つめの要件を欠きます。原則どおり、Cは当然には責任を負いません。こちらの説明です。
無効・取消し——原則は及ばない
図:無効・取消しの板
- 取消しは初めから無効(121条)
- 無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は相手方を原状に復させる義務を負う(121条の2第1項)=契約が消えた結果として生じる返還義務
- 原則=保証人はこの返還義務までは保証しない
- 理由=1 売主の債務不履行から生じる責任ではない/2 契約が有効でない危険は取引をした債権者が負う
- 例外=行為能力の制限による取消しを知って保証した場合(449条の推定)
- 詐欺・強迫は449条の対象外
- 札=条文/こちらの説明
3つめの場面は、無効と取消しです。売主が未成年者で、売主の側から売買が取り消されたような場面を考えてください。取消しは、初めから無効であったものとみなす、です。121条で、条文の札です。無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、相手方を原状に復させる義務を負います。121条の2第1項で、条文の札です。解除の原状回復義務と同じく、契約が消えた結果として生じる、返還の義務です。この返還義務まで、保証人が保証するか。原則は、保証しない、と整理するのが通常です。理由は2つあります。1つめ、解除の場合に及んだのは、保証人が、売主の債務不履行から生じる責任を引き受けたと読めたからでした。無効や取消しは、不履行の結果ではありません。契約そのものが、初めから無かった扱いです。保証人が引き受けた範囲の外です。2つめ、契約が有効でなかった、という危険は、取引をした当事者の側、つまり債権者が負うべきです。この場面で確かめます。未成年者が取り消したとき、行為の時に制限行為能力者であった者は、その行為によって現に利益を受けている限度で返せば足ります。つまり現存利益です。121条の2第3項で、条文の札です。無効の回で見ました。全部は戻らないかもしれない、という危険を、法律は、未成年者と取引した側に負わせているのです。保証人が引き受けたのは、主債務者の不履行から生じる責任です。契約が有効でなかった危険まで、保証人が引き受けたとは、通常は読めません。この場面は、こちらの説明の札で、原則だけ言います。
例外が、449条です。行為能力の制限による取消しの原因を知って保証した人は、取り消されても独立の債務を負担したものと推定されます。条文の札です。一方、詐欺や強迫による取消しは、449条の対象外のままです。
3つの場面を1枚にする
図:3場面の比較表
- 縦=場面、横=契約が消える原因/返す義務の出どころ/保証が及ぶか/札
- 法定解除=債務不履行による解除権の行使/解除の効果(545条1項)/及ぶ(特に反対の意思表示がないかぎり)/判例
- 合意解除=当事者の合意/合意の約束または解除の効果/当然には及ばない(債務不履行に基づき、解除で負う額より重くなければ及ぶ)/判例(請負・前払金の事案)
- 無効・取消し=契約が初めから無かった扱い/121条の2第1項/原則及ばない(行為能力の制限を知って保証した場合は449条の推定)/こちらの説明
3つの場面を、1枚にします。法定解除です。契約が消える原因は、債務不履行による解除権の行使です。返す義務の出どころは、解除の効果です。保証は、特に反対の意思表示がないかぎり、及びます。根拠は判例です。合意解除です。原因は、当事者の合意です。返す義務の出どころは、合意の約束か、解除の効果です。保証は、当然には及びません。債務不履行に基づき、解除で負うはずの額より重くなければ、及びます。根拠は判例で、請負の前払金の事案です。無効と取消しです。原因は、契約が初めから無かった扱いです。出どころは、121条の2第1項です。保証は、原則、及びません。行為能力の制限を知って保証した場合は、449条の推定があります。根拠は、こちらの説明です。読み分けの軸は、1つです。保証人は、売主の債務不履行から生じる責任を引き受けたと、読めるか。解除は、不履行から生じるので、読めます。合意解除は、保証人の知らない合意で決まるので、当然には読めません。無効と取消しは、不履行ではありません。この1つの軸で、3つの場面を読み分けられます。こちらの説明です。
冒頭の問いに戻る——まとめ
図:冒頭の設例の関係図
- 答え
- A 買主=債権者、B 売主=主債務者、C 保証人。AはCに、特に反対の意思表示がない限り、払った200万円の返還(原状回復)を請求できる。理由=特定物の売買における売主のための保証人は、売主の債務不履行から生じる責任を引き受けたと読む。Cが「返還は保証しない」と特約していれば別。辺ラベルの語=売買
- 保証契約
- 代金
- 原状回復。
冒頭の問いに戻ります。Aは、Cに、払った200万円を返してくれ、と言えるか。答えは、言えます。特に反対の意思表示がない限り、です。特定物の売買における売主のための保証人は、売主の債務不履行から生じる責任を引き受けたと読みます。解除による代金の返還も、その責任に入ります。Cが「返還は保証しない」と特約していたなら別です。AとBが合意解除をした場合は、当然には及びません。
図:今日のまとめ
3つの柱で整理します。1つめ、449条です。行為能力の制限による取消しの原因を知って保証した人は、独立の債務を負担したものと推定されます。詐欺や強迫は対象外です。450条は、保証人を立てる義務があるときの要件で、行為能力者であることと、弁済をする資力を有することです。2項は資力の喪失で、3項は債権者が指名したときは適用されません。2つめ、447条です。保証債務は、元本のほか、利息、違約金、損害賠償その他従たるすべてのものを包含します。2項は、不履行の制裁だけ、保証債務について別に約束できます。3つめ、契約が消えたときです。法定解除は及びます。合意解除は当然には及びません。無効と取消しは、原則及びません。契約を解除したあと、保証人に原状回復義務を請求できるか、は、論文で論点になりうる所です。根拠の札を付けて整理します。条文は、420条3項、447条、449条、450条、451条、121条、121条の2第1項と3項、545条1項です。判例は、売主のための保証と解除による原状回復義務の判決、合意解除と保証人の責任の判決です。こちらの説明は、主なものとして、449条の趣旨、詐欺や強迫を対象外とする理由、450条3項の読み方、数字の例、原状回復義務に保証が及ぶ理由の読み方、無効と取消しの原則、読み分けの軸です。
参照条文
- 民法449条
- 民法450条
- 民法447条