民法ゼロから民法#219

事前求償権と物上保証人(460条・461条)

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第4章 債権総論 #219/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

払う前に、本人に「先に返して」と言えるか

冒頭の設例の関係図。A 債権者(貸主)、B 主債務者(借主)、C 保証人(Bに頼まれて保証)。AはBに300万円を貸し、弁済期は12月末。Cが保証した。弁済期が来てもBは払わず、Bの財産は減っている。問い=CはAに払う前に、Bに「先に300万円をよこしてください」と言えるか。辺ラベルの語=貸金300万円/保証/頼み。 図:冒頭の設例の関係図

  • A 債権者(貸主)、B 主債務者(借主)、C 保証人(Bに頼まれて保証)
  • AはBに300万円を貸し、弁済期は12月末
  • Cが保証した
  • 弁済期が来てもBは払わず、Bの財産は減っている
  • 問い=CはAに払う前に、Bに「先に300万円をよこしてください」と言えるか
  • 辺ラベルの語=貸金300万円/保証/頼み

先に答えです。言えます。Cは、Bに頼まれて保証した人で、主債務は弁済期に来ているからです。460条2号です。ただしBも、無防備ではありません。Cに担保を出させたり、Cに先にAへ払わせて自分の債務を消させたりして、身を守れます。461条です。そして、同じように頼まれた人でも、自分の土地に抵当権を設定しただけの人、つまり物上保証人は、払う前には言えません。今日は、この3つを順に見ます。今日の登場人物です。Aが債権者、Bが主債務者、Cが保証人です。前の回までと同じ役です。

前の回の受けと、根拠の札

前の回の受けと根拠の札の板。前の回=払った後の求償(事後求償)。今日=払う前の求償(事前求償)。根拠の札3つ=条文/判例(最高裁・大審院の判決が述べたこと)/こちらの説明(理解のための説明)。 図:前の回の受けと根拠の札の板

  • 前の回=払った後の求償(事後求償)
  • 今日=払う前の求償(事前求償)
  • 根拠の札3つ=条文/判例(最高裁・大審院の判決が述べたこと)/こちらの説明(理解のための説明)

前の回では、Cが払った後に、Bへ求償する話を見ました。思い出してみましょう。払った後に求償するとき、求償できるのは何の額で、上限はいくらまででしたか?Cが支出した額です。ただし、消滅した主債務の額が上限でした。払ったあとなら、額は払った事実から決まります。今日は、その手前の話です。前の回で、払った後に求償するものを事後求償、払う前に求償するものを事前求償と呼びました。今日も話の根拠が混ざるので、そのつど、なにに基づく話かを言います。根拠の札は3つです。条文に書かれていることは、条文の札です。最高裁や、その前の大審院の判決が述べたことは、判例の札です。条文にも判例にも書かれていない、理解のための説明は、こちらの説明の札です。答案では、条文は条文番号を引いて書き、それ以外は理由を添えて書きます。

柱1——事前求償権 460条

1つめの柱の導入板。事前求償権=払う前に行使する求償権。条文=460条(3つの場合)・461条(主債務者の守り)。山場=物上保証人には無い。札=条文/判例/こちらの説明。 図:1つめの柱の導入板

  • 事前求償権=払う前に行使する求償権
  • 条文=460条(3つの場合)・461条(主債務者の守り)
  • 山場=物上保証人には無い
  • 札=条文/判例/こちらの説明

1つめの柱、事前求償権です。払った後の求償は、前の回で見ました。今度は、払う前です。460条を読みます。

条文民法460条

民法第460条(委託を受けた保証人の事前の求償権) 保証人は、主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、次に掲げるときは、主たる債務者に対して、あらかじめ、求償権を行使することができる。 一 主たる債務者が破産手続開始の決定を受け、かつ、債権者がその破産財団の配当に加入しないとき。 二 債務が弁済期にあるとき。ただし、保証契約の後に債権者が主たる債務者に許与した期限は、保証人に対抗することができない。 三 保証人が過失なく債権者に弁済をすべき旨の裁判の言渡しを受けたとき。

柱書です。委託を受けた保証人は、次の3つのときに、あらかじめ、つまり払う前に、求償権を行使できます。委託を受けたことが前提です。条文の札です。1号です。主債務者が破産手続開始の決定を受け、かつ、債権者がその破産財団の配当に加入しないとき。破産財団とは、破産した人の財産をまとめたもので、そこから債権者に配当されます。Aが配当に加わらないまま配当が終わると、あとでCが払っても、Bの財産はもう分けられた後で、求償してもほとんど取れません。ですから、Cが払う前に求償権を出して、配当に加わる道を開ける、ということです。こちらの説明です。2号です。債務が弁済期にあるとき。3号です。保証人が過失なく、債権者に弁済すべき旨の裁判の言渡しを受けたときです。保証人に落ち度が無いのに、払えという判決が出た場面です。条文の札です。Cは、払えという判決を、すでに言い渡された立場で、払う額も判決で示されています。ですから、払う前に求償させてよい、ということです。こちらの説明です。冒頭の設例は、弁済期が来ているので、2号です。事前求償の要件は条文どおりですので、答案では460条の各号の文言で書きます。

460条2号ただし書の数字板。弁済期6月30日の300万円債務。保証契約の後に、AがBに12月31日まで猶予した。猶予=保証契約の後に債権者が主たる債務者に許与した期限→Cには対抗できない→Cは6月30日以後、事前求償できる。札=条文/こちらの説明。 図:460条2号ただし書の数字板

  • 弁済期6月30日の300万円債務
  • 保証契約の後に、AがBに12月31日まで猶予した
  • 猶予=保証契約の後に債権者が主たる債務者に許与した期限→Cには対抗できない→Cは6月30日以後、事前求償できる
  • 札=条文/こちらの説明

2号のただし書を数字で見ます。別の設例です。弁済期は6月30日です。保証契約のあとで、AがBに「12月31日まで待ちましょう」と猶予を与えました。この期限は、保証契約の後に債権者が主債務者に許与した期限です。Cには対抗できません。Cは、6月30日が来れば、12月31日を待たずに、事前求償ができます。Cの知らないところで期限を延ばされて、事前求償の道を塞がれてはならない、ということです。こちらの説明です。前の回の、弁済期の前に払った場合とは、別の話です。あちらは、払った後に、いつから言えるかの話でした。こちらは、払う前に言えるかの話です。

払う前の求償が認められる理由です。前の回で、頼まれて仕事をした人は、委任の費用の償還を求める関係にある、と一言だけ言いました。今日は、その前払の側です。発想は、委任の費用の前払に近いです。649条は、委任事務を処理するについて費用を要するときは、委任者は、受任者の請求により、その前払をしなければならない、と定めています。頼んだ人は、頼まれた人に費用を前払いする。近所の人に買い物を頼むとき、先に代金を渡しておくのと同じです。Cは、Bに頼まれて、Bの債務を払う側に立ちました。ですから、払う前に費用を出してほしいと言える。こちらの説明です。ただし、いつでも言えるわけではありません。Bは、自分にお金が無いから、保証人を頼んで借りたのです。弁済期の前からCに300万円を求められるなら、保証を頼んだ意味がなくなります。ですから、3つの場面に絞られています。これもこちらの説明です。

柱2——主債務者の守り 461条

461条の板。1項=事前求償に応じて償還する場合、債権者が全部の弁済を受けない間は、Bは、Cに担保を供させ、またはCに自己を免責させることを請求できる。2項=Bは、供託をし、担保を供し、またはCに免責を得させて、償還の義務を免れる。設例=BがCに300万円を渡した後、CがAに払わず使い込む危険。札=条文/こちらの説明。 図:461条の板

  • 1項=事前求償に応じて償還する場合、債権者が全部の弁済を受けない間は、Bは、Cに担保を供させ、またはCに自己を免責させることを請求できる
  • 2項=Bは、供託をし、担保を供し、またはCに免責を得させて、償還の義務を免れる
  • 設例=BがCに300万円を渡した後、CがAに払わず使い込む危険
  • 札=条文/こちらの説明

事前求償を受けるBの側を見ます。BがCに300万円を渡した後、CがAに払わずに、使い込んでしまったらどうでしょうか。Bは、渡したのに、AにはBの債務が残ったまま、という最悪の目に遭います。この危険からBを守る条文が、461条です。こちらの説明です。

条文民法461条

民法第461条(主たる債務者が保証人に対して償還をする場合) 1 前条の規定により主たる債務者が保証人に対して償還をする場合において、債権者が全部の弁済を受けない間は、主たる債務者は、保証人に担保を供させ、又は保証人に対して自己に免責を得させることを請求することができる。 2 前項に規定する場合において、主たる債務者は、供託をし、担保を供し、又は保証人に免責を得させて、その償還の義務を免れることができる。

1項です。事前求償に応じて償還する場合、債権者が全部の弁済を受けない間は、Bは、Cに担保を供させ、または、Cに自分を免責させることを請求できます。免責させるとは、Cに払わせて、Bの債務を完全に消させることです。2項です。Bは、供託をし、担保を供し、またはCに免責を得させて、償還の義務を免れられます。供託とは、お金を供託所に預けることです。条文の札です。Bは、Cに言われたら、すぐ300万円を渡さなければいけないのですか。違います。Bは、担保を出させたり、Cに払わせて免責させたりすることを、請求できます。使い込みの危険に備える道が、用意されています。これが、冒頭の答えの「Bは身を守れる」の理由です。条文の札です。

柱3——物上保証人には事前求償権が無い

山場の設例の関係図。A 債権者、B 主債務者、D 物上保証人(Bに頼まれ、Bの300万円債務のために自分の土地に抵当権を設定)。弁済期の12月末が来た。問い=Dは、抵当権を実行される前に、Bに「先に返してください」と言えるか。辺ラベルの語=貸金300万円/抵当権/頼み。 図:山場の設例の関係図

  • A 債権者、B 主債務者、D 物上保証人(Bに頼まれ、Bの300万円債務のために自分の土地に抵当権を設定)
  • 弁済期の12月末が来た
  • 問い=Dは、抵当権を実行される前に、Bに「先に返してください」と言えるか
  • 辺ラベルの語=貸金300万円/抵当権/頼み

山場です。前の回の一覧で、物上保証人の行は、払う前の欄が空いていました。そこを、今日、埋めます。その前に、抵当権の入り口の回の言葉を思い出してください。物上保証人は、何を差し出しているんでしたか?自分の土地です。債務は負っていないけれど、その土地の限度で責任を負う、債務なき責任でした。この言葉を、あとで使います。設例です。DはBに頼まれて、Bの300万円の債務のために、自分の土地に抵当権を設定しました。弁済期の12月末が来ました。Cの場合は、460条2号で、払う前に言えました。ではDは、抵当権を実行される前に、Bに「先に返してください」と言えるでしょうか。

頼まれて担保を出したのだから、保証人と同じに扱ってよい。この見方を、最高裁は否定しました。抵当権の入り口の回で、結論だけは言いました。物上保証人には、事前求償権がありません。今日は、その理由を、判決で確かめます。判決の理由を、3つに分けて見ます。条文に根拠が無いこと、頼まれた中身が違うこと、払う額が払う前に決まらないことです。結論から読みます。

判例最判平2・12・18 民集44巻9号1686頁

物上保証人と事前求償権 債務者の委託を受けてその者の債務を担保するため抵当権を設定した者(物上保証人)は、被担保債権の弁済期が到来したとしても、債務者に対してあらかじめ求償権を行使することはできないと解するのが相当である。けだし、抵当権については、民法三七二条の規定によって同法三五一条の規定が準用されるので、物上保証人が右債務を弁済し、又は抵当権の実行により右債務が消滅した場合には、物上保証人は債務者に対して求償権を取得し、その求償の範囲については保証債務に関する規定が準用されることになるが、右規定が債務者に対してあらかじめ求償権を行使することを許容する根拠となるものではなく、他にこれを許容する根拠となる規定もないからである。

読みます。物上保証人は、弁済期が来ても、あらかじめ求償権を行使できない。これが結論です。理由は、けだし、以下です。372条で351条が準用されるので、払った後には求償権を取得して、その範囲は保証債務に関する規定による。351条は、前の回で見た、物上保証人が払ったり土地を失ったりしたら、保証人と同じように求償できる、という条文です。けれど、その規定は、あらかじめ求償権を行使することを許す根拠にならず、他に許す根拠になる規定もない。1つめの理由は、条文に、根拠が無い、です。判例の札です。判決は、続けて、もう2つの理由を述べます。カードに出てくる出捐は、典型契約の回で見た言葉で、経済的な負担のことです。ここでは、自分の財産を出して債務を消すことです。

判例最判平2・12・18 民集44巻9号1686頁

物上保証人と事前求償権——委任の内容 なお、民法三七二条の規定によって抵当権について準用される同法三五一条の規定は、物上保証人の出捐により被担保債権が消滅した場合の物上保証人と債務者との法律関係が保証人の弁済により主債務が消滅した場合の保証人と主債務者との法律関係に類似することを示すものであるということができる。ところで、保証の委託とは、主債務者が債務の履行をしない場合に、受託者において右債務の履行をする責に任ずることを内容とする契約を受託者と債権者との間において締結することについて主債務者が受託者に委任することであるから、受託者が右委任に従った保証をしたときには、受託者は自ら保証債務を負担することになり、保証債務の弁済は右委任に係る事務処理により生ずる負担であるということができる。

続きを読みます。

判例最判平2・12・18 民集44巻9号1686頁

物上保証人と事前求償権——求償の範囲 これに対して、物上保証の委託は、物権設定行為の委任にすぎず、債務負担行為の委任ではないから、受託者が右委任に従って抵当権を設定したとしても、受託者は抵当不動産の価額の限度で責任を負担するものにすぎず、抵当不動産の売却代金による被担保債権の消滅の有無及びその範囲は、抵当不動産の売却代金の配当等によって確定するものであるから、求償権の範囲はもちろんその存在すらあらかじめ確定することはできず、また、抵当不動産の売却代金の配当等による被担保債権の消滅又は受託者のする被担保債権の弁済をもって委任事務の処理と解することもできないのである。したがって、物上保証人の出捐によって債務が消滅した後の求償関係に類似性があるからといって、右に説示した相違点を無視して、委託を受けた保証人の事前求償権に関する民法四六〇条の規定を委託を受けた物上保証人に類推適用することはできないといわざるをえない。

平2判決の理由3つの板。物上保証人に事前求償権が無い理由=1 条文に根拠が無い(372条で351条を準用=払った後の求償)/2 頼まれた中身が違う(物権設定行為の委任にすぎない)/3 求償の存在と範囲が確定しない(配当等で決まる)。札=判例(3つへの分け方はこちらの説明)。 図:平2判決の理由3つの板

  • 物上保証人に事前求償権が無い理由=1 条文に根拠が無い(372条で351条を準用=払った後の求償)/2 頼まれた中身が違う(物権設定行為の委任にすぎない)/3 求償の存在と範囲が確定しない(配当等で決まる)
  • 札=判例(3つへの分け方はこちらの説明)

2つめの理由です。頼まれた中身が違う、です。保証の委託は、債権者との間で保証契約を結ぶことの委任です。受託者は自分で保証債務を負い、その弁済は、委任に係る事務処理から生じる負担です。これに対して、物上保証の委託は、物権設定行為の委任にすぎず、債務負担行為の委任ではありません。判例の札です。つまり、Dが頼まれたのは、自分の土地に抵当権を付けることで、自分が債務を負うことではありません。ですから、Dが弁済することを、委任事務の処理とは言えません。460条の前払の発想は、委任事務を処理するための費用でした。そこにDは乗らない。この結びつけは、こちらの説明です。3つめの理由です。判決は、受託者は抵当不動産の価額の限度で責任を負担するものにすぎない、と言います。そして、被担保債権が消えるかどうか、いくら消えるかは、売却代金の配当等で決まる。だから、求償権の範囲はもちろん、その存在すらあらかじめ確定できない、です。判例の札です。

Dの数字の板。Dの土地が競売で200万円で売れる→Bの300万円債務のうち消えるのは200万円分→Dが払う額は300万円全額とは限らない→その前にBが払えばDは何も失わない。札=こちらの説明。 図:Dの数字の板

  • Dの土地が競売で200万円で売れる→Bの300万円債務のうち消えるのは200万円分→Dが払う額は300万円全額とは限らない→その前にBが払えばDは何も失わない
  • 札=こちらの説明

ここで、抵当権の入り口の回の言葉に直します。判決の言う、価額の限度で責任を負担するものにすぎず、を、あの回の言葉にすると、債務なき責任です。こちらの説明です。Dは、債務を負っていません。ですから、いくら払うことになるのか、そもそも払うことになるのかが、競売の配当が終わるまで分かりません。数字にします。Dの土地が競売で200万円で売れたら、Bの300万円の債務が消えるのは、200万円分です。300万円全額を、Dが払うとは限りません。そしてその前にBが払えば、Dは何も失いません。こちらの説明です。

CとDの比較表。縦=C(委託を受けた保証人)/D(物上保証人)。横=負うもの(保証債務=自分の財産全体で/抵当不動産の価額の限度の責任)/頼まれた中身(債務負担行為の委任/物権設定行為の委任)/求償額が払う前に決まるか(弁済額が決まる/配当等まで決まらず存在も未確定)/事前求償(460条で可/不可)/払った後の求償(459条/351条・372条で保証債務の規定に従う)。札=条文/判例/こちらの説明。 図:CとDの比較表

  • 縦=C(委託を受けた保証人)/D(物上保証人)
  • 横=負うもの(保証債務=自分の財産全体で/抵当不動産の価額の限度の責任)/頼まれた中身(債務負担行為の委任/物権設定行為の委任)/求償額が払う前に決まるか(弁済額が決まる/配当等まで決まらず存在も未確定)/事前求償(460条で可/不可)/払った後の求償(459条/351条・372条で保証債務の規定に従う)
  • 札=条文/判例/こちらの説明

比較表にします。縦にCとD、横に4つの欄です。負うものです。Cは保証債務で、自分の財産全体で払います。Dは、土地の価額の限度の責任です。頼まれた中身です。Cは債務負担行為の委任、Dは物権設定行為の委任です。求償額が払う前に決まるかです。Cは弁済額が決まります。Dは、配当等まで決まらず、存在すら未確定です。事前求償です。Cは460条でできます。Dはできません。払った後の求償です。Cは459条、Dは351条と372条で、保証債務に関する規定に従います。460条2号のとおり弁済期が来ていても、Dは払う前には言えません。460条は、保証人の事前求償の規定です。弁済期が来ていることは、Dについては、根拠になりません。境界を確かめます。Cは、委託を受けた保証人で、弁済期が来れば、払う前に言えます。Dは、同じ弁済期が来ても、言えません。ところが、Dが実際に弁済したり、抵当権を実行されて土地を失ったりしたあとなら、351条と372条で、求償できます。違いは、払ったあとか、払う前かです。決め手は、頼まれた中身が債務負担か物権設定か、そして払う額が払う前に決まるか、の2点です。こちらの説明です。論文で論点になりうる所です。結論は判例の言葉で、理由は3つに整理できます。条文に根拠が無いこと、頼まれた中身が違うこと、求償の存在と範囲が確定しないことです。

柱3——事前求償権と事後求償権は別個の権利

時系列の板。1 弁済期(12月末)が来る→事前求償権を取得(行使できる)/2 翌年6月にCが弁済→事後求償権を取得/3 事後求償権の消滅時効の起算点は2(事前求償権を取得した時ではない)。別個の組=事前求償権と事後求償権(今日)/求償権と原債権(弁済による代位の回)。札=判例/こちらの説明。 図:時系列の板

  • 1 弁済期(12月末)が来る→事前求償権を取得(行使できる)/2 翌年6月にCが弁済→事後求償権を取得/3 事後求償権の消滅時効の起算点は2(事前求償権を取得した時ではない)
  • 別個の組=事前求償権と事後求償権(今日)/求償権と原債権(弁済による代位の回)
  • 札=判例/こちらの説明

最後の論点です。事前求償権と事後求償権の関係です。時間の順に並べます。12月末に弁済期が来て、Cは事前求償権を取得して、行使できるようになります。翌年の6月に、Cが弁済しました。ここで、事後求償権を取得します。では、事後求償権の消滅時効は、いつから進むのか。事前求償権を取得した12月末か。それとも、弁済した6月か。答えは、弁済した6月です。最高裁の判決を読みます。

判例最判昭60・2・12 民集39巻1号89頁

事後求償権の消滅時効の起算点 主たる債務者から委託を受けて保証をした保証人(以下「委託を受けた保証人」という。)が、弁済その他自己の出捐をもつて主たる債務を消滅させるべき行為(以下「免責行為」という。)をしたことにより、民法四五九条一項後段の規定に基づき主たる債務者に対して取得する求償権(以下「事後求償権」という。)は、免責行為をしたときに発生し、かつ、その行使が可能となるものであるから、その消滅時効は、委託を受けた保証人が免責行為をした時から進行するものと解すべきであり、このことは、委託を受けた保証人が、同項前段所定の事由、若しくは同法四六〇条各号所定の事由、又は主たる債務者との合意により定めた事由が発生したことに基づき、主たる債務者に対して免責行為前に求償をしうる権利(以下「事前求償権」という。)を取得したときであつても異なるものではない。

理由の部分です。

判例最判昭60・2・12 民集39巻1号89頁

事後求償権の消滅時効の起算点——別個の権利 けだし、事前求償権は事後求償権とその発生要件を異にするものであることは前示のところから明らかであるうえ、事前求償権については、事後求償権については認められない抗弁が付着し、また、消滅原因が規定されている(同法四六一条参照)ことに照らすと、両者は別個の権利であり、その法的性質も異なるものというべきであり、したがつて、委託を受けた保証人が、事前求償権を取得しこれを行使することができたからといつて、事後求償権を取得しこれを行使しうることとなるとはいえないからである。右と同旨の原審の判断は、正当というべきである。

判旨を読みます。事後求償権は、免責行為、つまりCが弁済などでBの債務を消す行為、前の回で見た債務の消滅行為をしたときに発生し、かつ、その行使が可能となる。ですから、消滅時効は、免責行為をした時から進行する。そして、事前求償権を取得したときであっても、これは異ならない。ここまでが結論です。理由は、けだし、以下です。事前求償権は、事後求償権と発生要件が違います。しかも、事前求償権には、事後求償権には認められない抗弁が付いていて、消滅原因も規定されています。判決は、461条を参照しています。こうした点から、両者は別個の権利で、法的性質も異なる、と言います。判例の札です。付いている抗弁は、たとえばこうです。Cが事前求償で300万円をよこしてと言ってきても、Bは、Cが担保を出すまでは渡さない、と言い返せます。消滅原因は、Bが供託すれば償還の義務を免れる、という461条2項の点です。どちらも、Cがまだ払っていないから付くもので、払い終えた後の事後求償権には付きません。だから、2つは別の権利です。こちらの説明です。カードの条番号は、判決の当時のものです。当時の459条1項の前段、つまり裁判の言渡しの場合は、今の460条3号に移りました。後段、つまり払った後の求償は、今の459条1項です。461条は、今もほぼ同じ形で、Bの守りの条文です。条文の札です。事後求償権と事前求償権という言葉で、判旨を追えば足ります。

別個の権利なら、事前求償権に何をしても、事後求償権の時効には関係ないのですか。そこが、もう1つの判決の話です。

仮差押えの板。事前求償権を被保全債権とする仮差押え→事後求償権の消滅時効にも効く(最高裁は「中断」の語。現行法では149条1号で仮差押えは時効の完成猶予の事由)。理由=事前求償権は、事後求償権と別個の権利だが、事後求償権を確保するために認められた権利。札=判例/こちらの説明。 図:仮差押えの板

  • 事前求償権を被保全債権とする仮差押え→事後求償権の消滅時効にも効く(最高裁は「中断」の語。現行法では149条1号で仮差押えは時効の完成猶予の事由)
  • 理由=事前求償権は、事後求償権と別個の権利だが、事後求償権を確保するために認められた権利
  • 札=判例/こちらの説明

仮差押えとは、あとで裁判に勝ったときのために、相手の財産を勝手に処分できないよう、仮に押さえておく手続です。Cが、事前求償権を守るために、Bの財産を仮差押えしたとします。この仮差押えは、事後求償権の時効にも効くか。最高裁の判決です。

判例最判平27・2・17 民集69巻1号1頁

事前求償権の仮差押えと、事後求償権の消滅時効 事前求償権を被保全債権とする仮差押えは,事後求償権の消滅時効をも中断する効力を有するものと解するのが相当である。その理由は,次のとおりである。事前求償権は,事後求償権と別個の権利ではあるものの(略),事後求償権を確保するために認められた権利であるという関係にあるから,委託を受けた保証人が事前求償権を被保全債権とする仮差押えをすれば,事後求償権についても権利を行使しているのと同等のものとして評価することができる。また,上記のような事前求償権と事後求償権との関係に鑑みれば,委託を受けた保証人が事前求償権を被保全債権とする仮差押えをした場合であっても民法459条1項後段所定の行為をした後に改めて事後求償権について消滅時効の中断の措置をとらなければならないとすることは,当事者の合理的な意思ないし期待に反し相当でない。

結論は、事前求償権を被保全債権とする仮差押えは、事後求償権の消滅時効にも効く、です。理由です。事前求償権は、事後求償権と別個の権利ではあるものの、事後求償権を確保するために認められた権利である。だから、事前求償権で仮差押えをすれば、事後求償権についても、権利を行使しているのと同等に評価できる。反対に、仮差押えは事前求償権のためだけだとすると、Cは払った後に、改めて事後求償権の時効の手当てをしなければなりません。判決は、それは当事者の合理的な意思ないし期待に反する、と言います。判例の札です。判決は、中断という言葉を使っています。時効の中断は、改正前の言葉です。今の民法では、149条1号で、仮差押えは、時効の完成猶予の事由です。仮差押えが終わった時から6か月が過ぎるまで、時効は完成しません。同じ結論を現行法では完成猶予として整理する、というのは、こちらの説明です。2つの判決は、矛盾しません。まず、時効の起算点です。事前求償権を取得しても、事後求償権の時効は進みません。2つめは、それでも、判決の言葉では、事前求償権は事後求償権を確保するために認められた権利だから、仮差押えは事後求償権の時効にも効く、です。別個の権利と、確保するための権利は、両立します。別々の書類だけれど、同じ目的のための書類、というイメージです。こちらの説明です。最後に、別個の組を分けます。今日の別個は、事前求償権と事後求償権の組です。弁済による代位の回の別個は、払った人が自分で持つ求償権と、債権者から移ってきた原債権の組でした。何と何が別個かを、分けて覚えてください。時効の客観的な起算点は、166条1項2号の、権利を行使することができる時です。事後求償権は、弁済のときから行使できるので、数字の例では、翌年6月から数えます。こちらの説明です。

冒頭の問いに戻る——まとめ

冒頭の設例の関係図(答え)。A 債権者、B 主債務者、C 保証人、D 物上保証人。Cは委託を受けた保証人で、主債務は弁済期にある→460条2号で払う前でも求償できる。Bは担保を出させる・Cに免責を得させる・供託するなどで身を守れる(461条)。Dは払う前に求償できない(最判平2・12・18)。 図:冒頭の設例の関係図

  • 答え
  • A 債権者、B 主債務者、C 保証人、D 物上保証人。Cは委託を受けた保証人で、主債務は弁済期にある→460条2号で払う前でも求償できる。Bは担保を出させる・Cに免責を得させる・供託するなどで身を守れる(461条)。Dは払う前に求償できない(最判平2・12・18)。

冒頭の問いに戻ります。Cは、Aに払う前に、Bに「先に300万円をよこしてください」と言えるか。言えます。Cは委託を受けた保証人で、主債務は弁済期にあります。460条2号です。ただしBは、Cに担保を供させたり、Cに免責を得させたり、供託をしたりして、身を守れます。461条です。自分の土地に抵当権を設定しただけのDなら、払う前には言えません。最高裁の判決です。

今日のまとめ。3つの柱=1 事前求償権(460条の3つの場合・2号ただし書)/2 主債務者の守り(461条・担保を供させる・免責を得させる・供託)/3 物上保証人には事前求償権が無い・事前と事後は別個の権利。 図:今日のまとめ

3つの柱で整理します。1つめ、事前求償権です。委託を受けた保証人は、460条が定める3つの場合に、払う前でも求償できます。破産、弁済期、裁判の言渡しです。2つめ、主債務者の守りです。461条で、Bは、担保を供させたり、免責させたり、供託をしたりして、使い込みの危険に備えられます。3つめ、物上保証人には事前求償権が無いこと、そして、事前求償権と事後求償権は別個の権利であることです。論文で論点になりうる所は、物上保証人の事前求償です。根拠の札を付けて整理します。条文は、460条と461条です。判例は3つです。物上保証人には事前求償権が無いという判決、事後求償権の消滅時効は免責行為をした時から進むという判決、事前求償権の仮差押えは事後求償権の時効にも効くという判決です。こちらの説明は、主なものとして、委任の費用の前払との結びつき、数字の例、債務なき責任との結びつき、完成猶予との整理です。

参照条文

  • 民法460条
  • 民法461条

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