民法ゼロから民法#159

履行不能と原始的不能・填補賠償

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第4章 債権総論 #159/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

契約の前夜に焼けていた別荘

冒頭の関係図。買主Gと売主Hが、山の別荘を3,000万円で買う売買契約を結んだ。別荘は契約の前夜に、Hの庭の焚き火の不始末で全焼していた。二人ともそれを知らずに契約した。別荘の時価は契約前で4,000万円、代金は3,000万円で未払い。問い=この契約は無効か。GはHに何か請求できるか。 図:冒頭の関係図

  • 買主Gと売主Hが、山の別荘を3,000万円で買う売買契約を結んだ
  • 別荘は契約の前夜に、Hの庭の焚き火の不始末で全焼していた
  • 二人ともそれを知らずに契約した
  • 別荘の時価は契約前で4,000万円、代金は3,000万円で未払い
  • 問い=この契約は無効か
  • GはHに何か請求できるか

Gさんは、Hさんから、山の別荘を3,000万円で買う契約を結びました。ところが、契約の前夜に、その別荘は、Hさんの庭の焚き火の不始末で、全焼していました。二人とも、それを知らないまま契約しています。存在しない物の売買は、成り立ちようがない。そう考えるのは自然です。改正前の考え方も、まさにそちらでした。今日の問いは2つです。この契約は無効か。そして、GさんはHさんに、何か請求できるか。答えは最後に出します。前の回で、履行に代わる賠償ができる場面の1つとして、履行不能が出てきました。その履行不能とは何か。そして、以前に名前だけ出した、契約の時にすでに不能だった場合、原始的不能とは何か。今日は、この2つを受け止めます。

履行不能とは何か

不能の物差しの分解板。412条の2第1項を2つに分ける。「契約その他の債務の発生原因」(契約の内容・目的・経緯など)+「取引上の社会通念」→照らして不能かどうか。左=物理的に壊れた(別荘が全焼した=灰は別荘ではない)。右=社会通念上の不能(二重譲渡で相手が登記を備えた/敷地ごと地滑りで埋まり、掘り出す工事費が別荘の値段をはるかに超える)。不能になった債権は履行を請求できない。 図:不能の物差しの分解板

  • 412条の2第1項を2つに分ける
  • 「契約その他の債務の発生原因」(契約の内容・目的・経緯など)+「取引上の社会通念」→照らして不能かどうか
  • 左=物理的に壊れた(別荘が全焼した=灰は別荘ではない)
  • 右=社会通念上の不能(二重譲渡で相手が登記を備えた/敷地ごと地滑りで埋まり、掘り出す工事費が別荘の値段をはるかに超える)
  • 不能になった債権は履行を請求できない

まず、不能の物差しを、条文で確認します。

条文民法412条の2第1項

民法第412条の2第1項 債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能であるときは、債権者は、その債務の履行を請求することができない。

ここで見るのは、契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして、という部分です。物理的にできるかどうかだけで決めるのではありません。契約の趣旨と、取引の世界の常識で決めます。前の回の、責めに帰することができない事由の物差しと、同じ言葉です。壊れて渡せなくなる場合も、もちろん不能です。冒頭の別荘が全焼して、灰になったなら、渡せません。灰は、別荘ではありません。前に、特定物が焼ければ履行不能になる、と見ました。それと同じです。ただ、不能は、壊れた場合だけではありません。物理的には渡せるのに、不能とされる場合があります。たとえば、別荘が建つ敷地ごと、地滑りで深い土の下に埋まったとします。掘り出せば、物理的には渡せるかもしれません。ただ、掘り出す工事費が、別荘の値段をはるかに超えるなら、どうでしょう。取引の常識は、そこまでして渡すことを債務者に求めませんし、契約の内容からも、そこまでの負担を引き受けたとは読めません。こうした場合は、不能とされます。見るのは、契約の趣旨と、取引の常識の両方です。

二重譲渡の場合も、不能になりえます。それは次の判例で見ます。その前に、結論を1つ。不能になった債権は、履行を請求できません。もう渡せないものを、渡せとは言えない、という当然のことを、条文が書いています。冒頭のGさんは、別荘そのものを渡せ、とは言えません。なお、金銭債務は、不能になりません。世の中からお金がなくなることは、社会通念上ありえないからです。お金がなくて払えないときは、履行遅滞でした。前に見たとおりです。

二重譲渡と履行不能の判例

二重譲渡の関係図。売主Hが、同じ別荘を買主Gに売り(先の契約)、もう一人の買主にも売った(あとの契約)。もう一人の買主に所有権移転登記が完了した時に、Gに対するHの債務は履行不能に確定する。 図:二重譲渡の関係図

  • 売主Hが、同じ別荘を買主Gに売り(先の契約)、もう一人の買主にも売った(あとの契約)
  • もう一人の買主に所有権移転登記が完了した時に、Gに対するHの債務は履行不能に確定する

事案は、こうです。Hさんが、同じ別荘を、Gさんに売り、もう一人の買主にも売りました。そして、もう一人の買主に、先に登記を移しました。二重に売られたとき、先に登記を備えた方が所有権を主張できる、という結論は、前に見ました。今日の問いは、その結果、Gさんへの債務がどうなるか、です。判例の判断を、見てください。

判例最判昭35・4・21 民集14巻6号930頁

不動産の二重売買と履行不能 不動産の二重売買の場合において、売主の一方の買主に対する債務は、特段の事情のないかぎり、他の買主に対する所有権移転登記が完了した時に履行不能になるものと解すべきである。

決め手は、登記が完了した時です。登記が移れば、もう一人の買主が、確定的に所有権を主張できます。Hさんは、もうGさんに、別荘の所有権を移せません。だから、この時に、Gさんへの債務は、履行不能に確定します。登記が移る前は、まだ、Hさんが、もう一人の買主との契約を解消して、Gさんに渡す余地が残っています。だから、登記が移る前の出来事では、不能とは言えません。登記が完了して、初めて、不能に確定する、という意味です。なお、別の判決に、こういう考え方があります。登記を受けた人が、さらに転売した事案です。売主が、買い戻して、もう一方の買主に移せる特別の事情があるなら別です。そうでなければ、履行は不能とされます。そして、その特別の事情を主張して立証するのは、買主の側、とされました。ここは、結論だけ持ち帰ってください。

原始的不能でも契約は有効

原始的不能の比較板。行=契約の効力/賠償の根拠/賠償の範囲。左=改正前(条文ではなく伝統的な通説の解釈)=契約の効力が生じないと考えられた/契約締結上の過失/信頼利益(契約が有効だと信じて使った費用。測量・登記の準備・下見の交通費など50万円)。右=現行(412条の2第2項)=契約は有効に成立する/債務不履行として415条/履行利益(約束どおり別荘が手に入っていれば得られた価値。4,000万円−3,000万円=1,000万円)まで請求できる。 図:原始的不能の比較板

  • 行=契約の効力/賠償の根拠/賠償の範囲
  • 左=改正前(条文ではなく伝統的な通説の解釈)=契約の効力が生じないと考えられた/契約締結上の過失/信頼利益(契約が有効だと信じて使った費用。測量・登記の準備・下見の交通費など50万円)
  • 右=現行(412条の2第2項)=契約は有効に成立する/債務不履行として415条/履行利益(約束どおり別荘が手に入っていれば得られた価値。4,000万円−3,000万円=1,000万円)まで請求できる

ここから、冒頭の問いの核心です。契約を結んだ時に、すでに不能だったことを、原始的不能と言います。契約のあとで不能になる場合と区別する言葉です。立ち止まって考えてください。別荘は前夜に焼けていました。それでも契約は有効に成立する、と言えるのはなぜか。そして、Gさんは何を請求できるのか。まず、条文です。

条文民法412条の2第2項

民法第412条の2第2項 契約に基づく債務の履行がその契約の成立の時に不能であったことは、第四百十五条の規定によりその履行の不能によって生じた損害の賠償を請求することを妨げない。

契約の成立の時に不能であっても、後から不能になった場合と同じく、415条で損害賠償を請求できる、と言っています。つまり、原始的不能でも、契約は有効に成立します。そして、債務不履行の問題として処理されます。Gさんは、別荘そのものは請求できませんが、賠償は請求できます。改正前と比べます。まず、改正前の民法には、原始的不能を定めた条文は、ありませんでした。ですから、当時の扱いは、条文ではなく、解釈です。伝統的な通説は、契約の時にすでに不能なら、契約の効力は生じない、と考えました。契約に基づく請求は、できません。

契約に基づく請求はできません。ただ、契約締結上の過失、という考え方で、救済が図られました。契約を結ぶ段階での落ち度、たとえば、焼けていないかを確かめずに売った落ち度を理由に、賠償させる考え方です。契約が有効だと信じて出した費用の賠償です。これを信頼利益と言い、伝統的な通説では、賠償はそこにとどまりました。

賠償額の比較板。行=賠償の種類/意味/中身/設例の額。左=改正前=信頼利益(契約が有効だと信じて使った費用。測量・登記の準備・下見の交通費)=50万円。右=現行=履行利益(約束どおり別荘が手に入っていれば得られた価値。4,000万円−3,000万円)=1,000万円。 図:賠償額の比較板

  • 行=賠償の種類/意味/中身/設例の額
  • 左=改正前=信頼利益(契約が有効だと信じて使った費用。測量・登記の準備・下見の交通費)=50万円
  • 右=現行=履行利益(約束どおり別荘が手に入っていれば得られた価値。4,000万円−3,000万円)=1,000万円

冒頭の例で、Gさんが、契約を有効と信じて、測量、登記の準備、下見の交通費に使った費用が、合わせて50万円だとします。その考え方なら、賠償の中身は、この50万円が中心でした。現行法は、違います。契約は有効に成立し、債務不履行として、415条で賠償を請求できます。賠償の範囲は、契約どおりに履行されていれば得られた利益、履行利益まで広がります。別荘の時価が4,000万円で、代金が3,000万円なら、その差の1,000万円です。焼けたのが、契約の前夜か、翌朝かは、たまたまの違いです。翌朝に焼けたなら、後から不能になった場合として、415条で履行利益まで請求できます。前夜だったというだけで、50万円に縮むのは、釣り合いません。Hさんは、別荘を渡すと約束しています。不能になった時期ではなく、契約で何を約束したかで決める、というのが、現行法の考え方です。

有効であることと、賠償を請求できることは、別の問題です。415条1項ただし書、つまり、責めに帰することができない事由による不履行なら賠償を免れる、という定めは、原始的不能でも使えます。今日の設例では、別荘が焼けたのはHさんの不注意です。責めに帰することができない事由とは言えませんから、Hさんは免れません。もし、焼けた原因が、Hさんに責任のない落雷だったなら、どうでしょう。ここでも物差しは、契約でHさんが何を引き受けたか、です。その中身しだいでは、賠償を負わない結論になる余地もあります。もう1つ、別の道があります。別荘が存在するという前提が、真実に反していたことを理由に、錯誤による取消しを選べる可能性があります。ただし、取り消せば、契約は初めから無かったことになります。そうすると、債務不履行の賠償は、請求できません。95条の中身は、別の回で扱います。

履行不能による損害賠償の要件

履行不能による損害賠償の要件まとめ表。要件5つ。①履行が不能であること(412条の2=契約の時に不能でも可)②損害の発生(差額説)③因果関係(あれなければこれなし。範囲は416条)④違法であること(条文に無く通説が立てる要件・正当化する事由が無い。試験上ほぼ問題にならない)⑤責めに帰することができない事由によるのではない(415条1項ただし書・立証は債務者・履行補助者の行為による場合も同じ)。履行遅滞の要件は6つで別物。 図:履行不能による損害賠償の要件まとめ表

  • 要件5つ
  • ①履行が不能であること(412条の2=契約の時に不能でも可)②損害の発生(差額説)③因果関係(あれなければこれなし。範囲は416条)④違法であること(条文に無く通説が立てる要件・正当化する事由が無い。試験上ほぼ問題にならない)⑤責めに帰することができない事由によるのではない(415条1項ただし書・立証は債務者・履行補助者の行為による場合も同じ)
  • 履行遅滞の要件は6つで別物

賠償の要件に入る前に、前の回の問いを1問。債務者が、責めに帰することができない事由によるものと言えるかは、何に照らして判断するのでしたか?契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念、です。過失の有無だけではなく、契約で何を引き受けたかを軸に見ます。この物差しを、そのまま使います。まず、条文を確認します。

条文民法415条1項

民法第415条第1項 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

履行不能による損害賠償の要件は、5つです。履行遅滞は6つでしたので、混ぜないでください。1つめ、履行が不能であること。契約の時に不能でも構いません。2つめ、損害の発生。3つめ、因果関係。この2つは、前に見た内容です。損害は差額説、つまり、不能が無ければあったはずの財産と、今の財産との差です。因果関係は、あれなければこれなし、の事実のつながりで、どこまで払わせるかの範囲は、416条という別の問いでした。4つめ、違法であること。正当化する事由が無い、という意味です。これは、条文には書かれていない、通説が立てる要件です。ただ、履行不能で、これが問題になるのは、緊急避難、つまり、差し迫った危険を避けるために、やむを得ず壊した場合など、きわめて例外的です。試験では、ほぼ問われません。5つめ、責めに帰することができない事由によるのではないこと。ただし書の物差しで判断します。履行補助者の行為による場合も同じです。免れると言える事情を示すのは、債務者です。冒頭の別荘に当てます。焼けて渡せないので、1つめを満たします。別荘の時価と代金の差、1,000万円が、2つめの損害です。渡せていれば、その差が手に入ったので、3つめの因果関係も満たします。4つめの違法性も、問題になりません。5つめは、Hさんの不注意ですから、免れません。

入口が違います。履行遅滞は、履行期に履行が可能であること、その期を過ぎたこと、の2つが入口なので、6つになります。履行不能は、履行が不能であること、1つが入口なので、5つです。そこから先の、損害、因果関係、違法、責めに帰することができない事由は、共通の型です。冒頭の別荘で言えば、期日に別荘が建っているのに、Hさんが渡さないなら、履行遅滞。焼けて、もう無いなら、履行不能です。

遅れている間に不能になったら

遅滞中の不能の時間軸図。引渡期日→(Hが遅滞)→大地震で別荘が崩れて不能。地震はG・Hどちらの責めにも帰することができない事由。それでも、遅滞の責任を負っている間の不能なので、Hの責めに帰すべき事由によるものとみなす。 図:遅滞中の不能の時間軸図

  • 引渡期日→(Hが遅滞)→大地震で別荘が崩れて不能
  • 地震はG・Hどちらの責めにも帰することができない事由
  • それでも、遅滞の責任を負っている間の不能なので、Hの責めに帰すべき事由によるものとみなす

次は、遅れている間に不能になった場合です。今度は、契約のあとの別荘の話です。Hさんが、引渡期日を過ぎても、別荘を渡さずにいました。そのうちに、大地震で、別荘が崩れました。双方に責任のない出来事ですから、免れるように見えます。でも、条文は、違う扱いをします。

条文民法413条の2第1項

民法第413条の2第1項 債務者がその債務について遅滞の責任を負っている間に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその債務の履行が不能となったときは、その履行の不能は、債務者の責めに帰すべき事由によるものとみなす。

地震は、どちらのせいでもありません。しかし、Hさんは、遅滞の責任を負っている間でした。その間に起きた不能は、Hさんの責めに帰すべき事由によるものと、みなされます。415条1項のただし書は使えません。だから、Gさんは、賠償を請求できます。趣旨は、こうです。約束の期日に渡していれば、地震の前に、Gさんの手元に別荘があったはずです。遅れた人に、その後の不能の危険を負わせる、という考え方です。遅れたことで背負った危険が、その後に起きた不能にまで及ぶ、ということです。みなす、とは、そう決める、という意味です。Hさんが、地震は自分のせいではない、と言っても、覆りません。なお、逆向きの場面もあります。Hさんが別荘を引き渡そうとしたのに、Gさんが受け取らずにいる間に、地震で崩れた場合です。このときは、413条の2第2項で、Gさんの責めに帰すべき事由によるものと、みなされます。

填補賠償ができる3つの場面

填補賠償3場面の比較板。①履行不能(415条2項1号)=別荘が焼けた。もう渡せないので、渡す代わりの賠償しかない。②明確な履行拒絶(2号)=Hが「別荘は誰にも渡さない。裁判になっても渡さない」とはっきり言った。待っても履行される見込みがない。③契約の解除または解除権の発生(3号)=Gが期間を定めて催告したがHが渡さず、契約を解除できる状態になった。契約から生じた債務に限る。共通項=もう履行が望めない場面。填補賠償=別荘を渡す代わりに、別荘の価値相当(1,000万円)を金銭で払わせる。 図:填補賠償3場面の比較板

  • ①履行不能(415条2項1号)=別荘が焼けた
  • もう渡せないので、渡す代わりの賠償しかない
  • ②明確な履行拒絶(2号)=Hが「別荘は誰にも渡さない。裁判になっても渡さない」とはっきり言った
  • 待っても履行される見込みがない
  • ③契約の解除または解除権の発生(3号)=Gが期間を定めて催告したがHが渡さず、契約を解除できる状態になった
  • 契約から生じた債務に限る
  • 共通項=もう履行が望めない場面
  • 填補賠償=別荘を渡す代わりに、別荘の価値相当(1,000万円)を金銭で払わせる

最後は、効果です。履行に代わる損害賠償、填補賠償です。前の回で、条文は一度見ました。今日は、3つの場面の中身と、なぜ場面が絞られているのかを見ます。

条文民法415条2項

民法第415条第2項 前項の規定により損害賠償の請求をすることができる場合において、債権者は、次に掲げるときは、債務の履行に代わる損害賠償の請求をすることができる。 一 債務の履行が不能であるとき。 二 債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。 三 債務が契約によって生じたものである場合において、その契約が解除され、又は債務の不履行による契約の解除権が発生したとき。

填補賠償は、別荘を渡す代わりに、別荘の価値を金銭で払わせる賠償です。冒頭の例なら、履行利益の1,000万円です。1号は、履行不能です。別荘が焼けた設例です。もう渡せない以上、渡せの代わりに求められるのは、賠償しかありません。2号は、債務者が、履行を拒絶する意思を明確に表示したときです。Hさんが、別荘は誰にも渡さない、裁判になっても渡さない、とはっきり言った場合です。待っても、履行される見込みがありません。催告を重ねても、意味がありません。3号は、契約が解除され、または、解除権が発生したときです。Gさんが、期間を定めて催告したのに、Hさんが渡さない。そうすると、解除権が発生します。この状態になれば、契約を解除しなくても、別荘はもういいから、価値相当の金銭を払え、と請求できます。

債務不履行による解除に限りません。債務不履行以外の解除、たとえば合意で解除した場合も指すと解されています。もう1点。3号は、債務が契約によって生じたものである場合に限ります。不法行為など、契約以外から生じた債務には、使えません。解除の中身は、第5章で扱います。料理が出てくるのを待っているお客が、もう作らなくていい、お金で返して、と一方的に言う場面を想像してください。店は、まだ作れるのに、作る機会を奪われます。遅れているだけなら、債務者はなお履行できます。債権者の一言で、履行に代わる賠償に切り替えられると、その機会がなくなる、と説明されます。不能、拒絶、解除できる状態。この3つに共通するのは、もう履行が望めない、ということです。そのため、条文は、この3つに絞られている、と説明されます。遅れているだけなら、原則として、遅れた分の賠償、遅延賠償にとどまる、というのが前の回の結論でした。

冒頭の答えと、まとめ

まとめ板。冒頭の答え=契約は有効に成立する(412条の2第2項)。Gは別荘そのものは請求できない(412条の2第1項)。Hの不注意で焼けたので、415条の損害賠償を請求できる。履行利益1,000万円まで。①412条の2第1項=物差しは契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念・不能なら履行請求できない②412条の2第2項=契約の時に不能でも契約は有効・415条で賠償③要件5つ+遅滞中の不能はHの責めに帰すべき事由とみなす(413条の2第1項)④填補賠償の3場面=不能/明確な履行拒絶/解除または解除権の発生。 図:まとめ板

  • 冒頭の答え=契約は有効に成立する(412条の2第2項)
  • Gは別荘そのものは請求できない(412条の2第1項)
  • Hの不注意で焼けたので、415条の損害賠償を請求できる
  • 履行利益1,000万円まで
  • ①412条の2第1項=物差しは契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念・不能なら履行請求できない②412条の2第2項=契約の時に不能でも契約は有効・415条で賠償③要件5つ+遅滞中の不能はHの責めに帰すべき事由とみなす(413条の2第1項)④填補賠償の3場面=不能/明確な履行拒絶/解除または解除権の発生

冒頭の答えを、言い切ります。契約は、有効に成立します。契約の時に不能だったことは、それだけでは契約を無効にしません。Gさんは、別荘そのものは請求できません。でも、Hさんの不注意で焼けたのですから、責めに帰することができない事由とは言えず、415条で損害賠償を請求できます。賠償は、履行利益、1,000万円まで請求できます。ただし、火事の原因が、Hさんに責任のない落雷だったなら、話は変わります。Hさんが契約で何を引き受けたかしだいでは、賠償を負わない結論になる余地もあります。また、錯誤による取消しを選ぶ余地は、別に残ります。整理します。1つめ、412条の2第1項。不能かどうかは、契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念で決めます。不能になった債権は、履行を請求できません。二重譲渡では、他の買主への登記が完了した時に、不能になります。2つめ、412条の2第2項。契約の時に不能でも、契約は有効で、415条で賠償を請求できます。改正前の、契約の効力が生じない、というかつての通説の考え方から、賠償が履行利益まで広がりました。3つめ、要件は5つ。遅れている間に、双方に責任のない事由で不能になったら、債務者の責めに帰すべき事由とみなされます。

4つめが、填補賠償の3場面ですね。不能、明確な履行拒絶、解除できる状態。もう履行が望めない場面に絞られている、と覚えてください。次の回は、不完全履行を見ます。

参照条文

  • 民法412条の2第1項
  • 民法412条の2第2項
  • 民法415条1項
  • 民法413条の2第1項
  • 民法415条2項

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