民法ゼロから民法#224

債権各論の地図と契約の5つの分け方

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第5章 契約 #224/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

友人に自転車を「あげる」と言うのと「売る」と言うのと

冒頭の設例の関係図。A 約束した人、B 友人。Aは自転車について、Bに「あげるよ」と約束する場合と、Bに「1万円で売るよ」と約束する場合。問い=約束を破ったとき、Aの責任の重さは同じか。辺ラベルの語=自転車/あげる/売る/1万円。 図:冒頭の設例の関係図

  • A 約束した人、B 友人
  • Aは自転車について、Bに「あげるよ」と約束する場合と、Bに「1万円で売るよ」と約束する場合
  • 問い=約束を破ったとき、Aの責任の重さは同じか
  • 辺ラベルの語=自転車/あげる/売る/1万円

先に答えです。同じではありません。あげる約束は、書面にしていなければ、AからもBからも解除できます。550条です。しかもAが渡す自転車は、あげると決めた時の状態で渡すと推定されます。551条の1項です。つまり責任が軽いのです。売る約束には、この軽さがありません。分かれ目は、タダか、対価があるか、です。これは、契約の分け方から出てきます。550条と551条の中身は、贈与の回で扱います。今日は、その手前の、契約の分け方そのものを、条文の文言から自分で読めるようになるところまで進みます。

柱1——債権各論のなかで契約はどこか

民法第3編の構造。第3編 債権=第1章 総則(債権総論・どの発生原因にも共通)/第2章 契約/第3章 事務管理/第4章 不当利得/第5章 不法行為(第2章から第5章が債権各論)。債権の発生原因は4つ=契約/事務管理/不当利得/不法行為。この講座では契約を第5章として歩き、残る3つは第6章で扱う。 図:民法第3編の構造

  • 第3編 債権=第1章 総則(債権総論・どの発生原因にも共通)/第2章 契約/第3章 事務管理/第4章 不当利得/第5章 不法行為(第2章から第5章が債権各論)
  • 債権の発生原因は4つ=契約/事務管理/不当利得/不法行為
  • この講座では契約を第5章として歩き、残る3つは第6章で扱う

債権の発生原因は、4つでした。契約、事務管理、不当利得、不法行為です。六法の目次では、民法第3編の債権の中で、第1章が総則、つまり債権総論です。第2章から第5章が債権各論で、契約、事務管理、不当利得、不法行為と並びます。この講座では、契約を第5章として歩きます。ほかの3つは第6章です。4つあるなかで、契約を先にやるのはなぜですか?契約が、債権の発生原因のなかで、いちばん出番が多いからです。買い物、アパートを借りること、アルバイトで働くこと、どれも契約から債権が生まれます。一方、隣の人の自転車にぶつけて壊したときの賠償債務は、約束をしていないのに生まれます。これは不法行為です。約束から生まれる債権と、約束がなくても生まれる債権とを、この順で見ていきます。

契約の章の作り。第1節 総則(どの契約にも共通)=第1款 契約の成立/第2款 契約の効力/第3款 契約上の地位の移転/第4款 契約の解除/第5款 定型約款。第2節から第14節 各則(個々の契約)=13種類の典型契約、贈与/売買/交換/消費貸借/使用貸借/賃貸借/雇用/請負/委任/寄託/組合/終身定期金/和解。 図:契約の章の作り

  • 第1節 総則(どの契約にも共通)=第1款 契約の成立/第2款 契約の効力/第3款 契約上の地位の移転/第4款 契約の解除/第5款 定型約款
  • 第2節から第14節 各則(個々の契約)=13種類の典型契約、贈与/売買/交換/消費貸借/使用貸借/賃貸借/雇用/請負/委任/寄託/組合/終身定期金/和解

次に、契約の章の中を見ます。ここも、2段でできています。第1節が総則で、どの契約にも共通するルールが置かれています。契約の成立、効力、契約上の地位の移転、解除、そして定型約款です。定型約款は、利用規約のように、あらかじめ決まった内容で多くの人と結ぶ取引のルールです。第2節から第14節が各則で、個々の契約ごとのルールです。各則は、カクソクと読みます。贈与から和解まで、13種類の典型契約が並びます。契約の章のなかでも、総則と各則という二段の作りが、もう一度繰り返されています。共通ルールを先にくくり出しておけば、各則で同じ説明を繰り返さずに済みます。例えば、約束が守られなかったときの解除の基本ルールは、総則に一度書かれていて、売買でも請負でも使い回されます。ですから各則を読むときは、これは契約ごとの特別な話か、どの契約にも共通の話か、を区別できると、頭が整理されます。

第5章の歩き方。契約の基礎と成立→双務契約の効力→解除→個々の契約(贈与から和解まで)。今日は最初の、基礎と成立の入口。 図:第5章の歩き方

  • 契約の基礎と成立→双務契約の効力→解除→個々の契約(贈与から和解まで)
  • 今日は最初の、基礎と成立の入口

第5章の歩き方も、先に見せておきます。まず契約の基礎と成立。次に、双務契約の効力。続いて解除。最後に、贈与から和解までの個々の契約です。今日は最初の、基礎の入口にあたります。各ブロックの中身は、この先の回で扱います。

柱2——契約の5つの分け方

契約の5つの分け方。1 典型か非典型か=民法に規定があるか/2 諾成か要物か=成立に物の受渡しが要るか/3 双務か片務か=対価的な意味をもつ債務を双方が負うか/4 有償か無償か=双方が対価的な意味をもつ出捐(自分の財産を減らす負担)をするか/5 要式か不要式か=成立に書面などの方式が要るか。 図:契約の5つの分け方

ここで、総則のときの話を1つ思い出してください。契約を測る4つの物差しを見ました。どんな4つでしたか?典型契約か非典型契約か、いつ成立するか、どんな債務を負うか、あとは、誰が損をするか、でした。その4つの物差しが、契約の分け方です。それぞれに名前が付いています。1つめが、典型か非典型か。2つめは、合意だけで成立するか、物の受渡しまで要るかで、諾成か要物か。3つめは、対価として向き合う債務を双方が負うかで、双務か片務か。4つめは、双方が自分の財産を減らす負担をするかで、有償か無償か、と呼びます。今日は5つめに、成立に書面などの方式が要るか、という分け方を足します。要式か不要式か、です。なぜ分けるのかも、先に言います。どの分け方に入るかで、使える規定が変わるからです。冒頭の、あげる約束は軽く、売る約束には軽さが無い、という差も、有償か無償かの分け方から出ていました。今日の読み方のコツを先に言います。各典型契約には、最初の条文があります。その契約が何かを定める条文で、冒頭規定と呼びます。多くの冒頭規定は、「何かを約し、何かを約することによって、その効力を生ずる」という似た形をしています。この文のどの言葉で効力が生じるのか、誰がどんな債務を負うのか、無償や報酬という言葉があるか。そこを見れば、分け方に仕分けられます。暗記ではなく、条文から復元する読み方です。

柱2——典型か非典型か

典型と非典型。典型契約=民法に規定がある13種類。非典型契約=規定がない契約(有効)。混合契約=典型契約の要素が組み合わさったもの。例=エアコンを売り、取付工事も請け負う→売買(555条)+請負(632条)。非典型に出会ったら、近い典型契約の規定を手がかりに考える。 図:典型と非典型

  • 典型契約=民法に規定がある13種類
  • 非典型契約=規定がない契約(有効)
  • 混合契約=典型契約の要素が組み合わさったもの
  • 例=エアコンを売り、取付工事も請け負う→売買(555条)+請負(632条)
  • 非典型に出会ったら、近い典型契約の規定を手がかりに考える

1つめの分け方は、民法に規定があるか、です。民法に規定がある13種類が典型契約、規定がないものが非典型契約です。非典型契約も、有効です。近い典型契約の規定を手がかりにします。例えば、電器店がエアコンを売り、あわせて取付工事もする契約です。エアコンを渡して代金をもらう部分は売買、555条です。取付けという仕事を完成させて報酬をもらう部分は請負、632条です。2つの典型契約の要素が組み合わさっているので、混合契約です。どの典型契約の要素も含まない契約は、無名契約と呼びます。例えば、スポーツ選手が、自分の名前や写真を広告に使ってよいと企業に認めて、使用料を受け取る契約です。物を渡すわけでも、仕事を完成させるわけでもなく、13種類のどれにも当てはまりません。混合契約も無名契約も、非典型契約で、考える出発点は、近い典型契約の規定です。

柱2——諾成か要物か、冒頭規定を並べて読む

売買555条と消費貸借587条の冒頭規定を並べて読む板。売買=当事者の一方が財産権を移転することを約し、相手方が代金を支払うことを約することによって、効力を生ずる→「約する」で効力が生じる(諾成)。消費貸借=当事者の一方が同じ種類・品質・数量の物をもって返還することを約して、相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、効力を生ずる→「受け取る」で効力が生じる(要物)。 図:売買555条と消費貸借587条の冒頭規定を並べて読む板

  • 売買=当事者の一方が財産権を移転することを約し、相手方が代金を支払うことを約することによって、効力を生ずる→「約する」で効力が生じる(諾成)
  • 消費貸借=当事者の一方が同じ種類・品質・数量の物をもって返還することを約して、相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、効力を生ずる→「受け取る」で効力が生じる(要物)

2つめの分け方は、成立に物の受渡しが要るか、です。合意だけで成立する契約が、諾成契約です。ダクセイと読みます。合意に加えて物の受渡しがあって初めて成立する契約が、要物契約です。ヨウブツと読みます。例を挙げます。友人に、お金を貸してと頼んで、貸すよと言ってもらいました。でも、まだお金は渡されていません。口約束だけなら、この段階では消費貸借の契約は、まだ成立していません。書面を交わしていた場合は別で、それはこのあと条文で見ます。お金を受け取って、初めて成立する。これが要物です。一方、売買は、売ると買うで合意した時点で成立します。まだ品物も代金も動いていなくて構いません。これが諾成です。この差は、冒頭規定の文言に書いてあります。読む前に、問いです。555条と587条で、効力が生じる時点を決めているのは、それぞれどの言葉でしょう?

確かめましょう。条文の札です。

条文民法555条

民法第555条(売買) 売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

条文民法587条

民法第587条(消費貸借) 消費貸借は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる。

並べると、差は一目で分かります。555条は、約することによって、効力を生ずる。合意の瞬間に成立します。587条は、受け取ることによって、効力を生ずる。物を受け取った時に成立します。後ろの「効力を生ずる」は同じ。その直前の言葉が、諾成か要物かを決めています。

使用貸借593条・寄託657条の冒頭規定。使用貸借=物を引き渡すことを約し、相手方が無償で使用及び収益をして終了したときに返還することを約することによって、効力を生ずる。寄託=物を保管することを委託し、相手方が承諾することによって、効力を生ずる。いずれも物の受取りが成立の要件になっていない→諾成。賃貸借601条も「約することによって」→諾成。 図:使用貸借593条・寄託657条の冒頭規定

  • 使用貸借=物を引き渡すことを約し、相手方が無償で使用及び収益をして終了したときに返還することを約することによって、効力を生ずる
  • 寄託=物を保管することを委託し、相手方が承諾することによって、効力を生ずる
  • いずれも物の受取りが成立の要件になっていない→諾成
  • 賃貸借601条も「約することによって」→諾成

同じ読み方を、使用貸借と寄託に当てます。条文の札です。

条文民法593条

民法第593条(使用貸借) 使用貸借は、当事者の一方がある物を引き渡すことを約し、相手方がその受け取った物について無償で使用及び収益をして契約が終了したときに返還をすることを約することによって、その効力を生ずる。

条文民法657条

民法第657条(寄託) 寄託は、当事者の一方がある物を保管することを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。

593条は、約することによって、657条は、承諾することによって、です。どちらも、物を受け取ったことが成立の要件に出てきません。ですから、使用貸借も寄託も、諾成です。賃貸借の601条も、約することによって、ですから、諾成です。使用貸借と寄託は、以前は、物を受け取って初めて成立する要物契約でした。改正で、諾成になりました。使用貸借が諾成だと、貸す約束だけで成立してしまいます。あとから気が変わったら、困りませんか?そこは手当てがあります。使用貸借の593条の2 です。書面によらない使用貸借なら、借主が物を受け取るまでは、貸主は解除できます。寄託にも、657条の2 に、受け取る前の解除の定めがあります。細かい中身は、使用貸借と寄託の回で扱います。

書面でする消費貸借587条の2第1項の冒頭規定。前条の規定にかかわらず、書面でする消費貸借は、金銭その他の物を引き渡すことを約し、同じ種類・品質・数量の物で返還することを約することによって、効力を生ずる。合意だけで成立する(諾成)代わりに、書面が要る。契約は原則、申込みに承諾をしたときに成立する(522条1項)。 図:書面でする消費貸借587条の2第1項の冒頭規定

  • 前条の規定にかかわらず、書面でする消費貸借は、金銭その他の物を引き渡すことを約し、同じ種類・品質・数量の物で返還することを約することによって、効力を生ずる
  • 合意だけで成立する(諾成)代わりに、書面が要る
  • 契約は原則、申込みに承諾をしたときに成立する(522条1項)

消費貸借には、もう1つ条文があります。条文の札です。

条文民法587条の2

民法第587条の2(書面でする消費貸借等)第1項 1 前条の規定にかかわらず、書面でする消費貸借は、当事者の一方が金銭その他の物を引き渡すことを約し、相手方がその受け取った物と種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約することによって、その効力を生ずる。 2 (略)

書面でする消費貸借は、ここも「約することによって」ですから、諾成です。物を受け取る前に、合意だけで成立します。その代わりに、書面が要ります。全体を整理します。契約は、申込みに承諾をしたときに成立する。これが522条1項で、諾成が土台です。そのうえで、13種類の典型契約のなかで要物として残るのは、書面によらない消費貸借、587条だけです。

柱2——双務か片務か

対価の関係図。A 貸す・売る・あげる側、B 相手方。売買=Aの物の引渡債務とBの代金債務が対価として向き合う(双務)。贈与=Aの引渡債務だけ(片務)。使用貸借=貸主の引渡債務と、借主の返還債務。返還債務は貸してもらったことの対価ではない(片務)。 図:対価の関係図

  • A 貸す・売る・あげる側、B 相手方
  • 売買=Aの物の引渡債務とBの代金債務が対価として向き合う(双務)
  • 贈与=Aの引渡債務だけ(片務)
  • 使用貸借=貸主の引渡債務と、借主の返還債務
  • 返還債務は貸してもらったことの対価ではない(片務)

3つめの分け方は、双務か片務か、です。総則のときには、当事者の双方に債務があるのが双務契約、一方だけが負うのが片務契約、と話しました。もう一段正確に言います。双務契約は、双方が、互いに対価としての意味をもつ債務を負う契約です。対価、というところが肝心です。売買で見ます。売主は、物を引き渡す債務を負います。買主は、代金を払う債務を負います。この2つは、互いに引き換えの関係にあります。これが対価として向き合う、ということで、売買は双務です。贈与は、あげる側だけが引き渡す債務を負います。片務です。対価かどうかで結論が変わる例が、使用貸借です。使用貸借では、貸主は物を引き渡す債務を負い、借主は、終わったときに返還する債務を負います。債務は両方にあります。でも、借主の返還債務は、貸してもらったことの見返りではありません。借りた物を元の持ち主に戻すだけです。引き換えの関係にはないので、使用貸借は片務です。債務の数ではなく、対価として向き合っているか、で見ます。無利息の消費貸借も同じです。借主は、借りた物と同じ種類、品質、数量の物を返す債務を負います。でも、返すのは借りたものを戻すだけで、貸してもらったことの対価ではありません。無利息の消費貸借は、片務です。双務か片務かで、何が変わるのか。双務契約にだけ働く規定が、2つあります。1つは、同時履行の抗弁権、533条です。総則のときに見ました。売主が品物を渡そうとしないうちは、買主も代金の支払を拒める、という権利です。もう1つは、危険負担、536条です。債権総論で条文を読みました。どちらのせいでもなく売主が品物を渡せなくなったとき、買主は代金の支払を拒める、というルールです。どちらも、対価として向き合う債務の片方だけを果たさせるのは釣り合わない、という考え方から出ています。ふつうの贈与のような片務契約には、引き換えにする相手の債務がそもそも無いので、出番がありません。もらう側も何かをする約束が付いた贈与は別で、553条が双務契約の規定を準用します。細かい要件は、この先の回で扱います。

柱2——有償か無償か

有償と無償。出捐(シュツエン)=自分の財産を減らす負担。有償契約=双方が対価的な意味をもつ出捐をする。無償契約=一方だけが出捐する。売買=物を渡す損と代金を払う損(有償)。贈与=あげる側だけが損(無償)。無利息の消費貸借=同じ物を返すだけで損ではない(無償)。委任・寄託=報酬の特約があれば有償、無ければ無償。 図:有償と無償

  • 出捐(シュツエン)=自分の財産を減らす負担
  • 有償契約=双方が対価的な意味をもつ出捐をする
  • 無償契約=一方だけが出捐する
  • 売買=物を渡す損と代金を払う損(有償)
  • 贈与=あげる側だけが損(無償)
  • 無利息の消費貸借=同じ物を返すだけで損ではない(無償)
  • 委任・寄託=報酬の特約があれば有償、無ければ無償

4つめの分け方は、有償か無償か、です。出捐、という言葉を使います。総則のときには、これを経済的な負担と呼び、両方が負担を負えば有償、片方だけなら無償、と話しました。ここも、もう一段正確に言います。出捐は、自分の財産を減らす負担のことです。双方が、対価的な意味をもつ出捐をする契約が有償契約。一方だけが出捐する契約が無償契約です。負担が両方にあるか、ではなく、相手の負担の見返りとして自分の財産を減らしているか、で見ます。売買は、売主が物を渡す損、買主が代金を払う損で、有償です。贈与は、あげる側だけが損をしますから、無償です。

無利息の消費貸借は、無償です。借主が返すのは、借りたものを戻すだけで、財産が借りる前より減るわけではありません。借りる前に戻る、というだけです。損ではありません。利息のことは、589条が定めています。条文の札です。

条文民法589条

民法第589条(利息) 1 貸主は、特約がなければ、借主に対して利息を請求することができない。 2 前項の特約があるときは、貸主は、借主が金銭その他の物を受け取った日以後の利息を請求することができる。

1項は、特約がなければ、貸主は借主に利息を請求できない、としています。利息を払う約束があって初めて、借主にも損が生まれて有償になります。報酬の有無で動く契約もあります。委任は、648条の1項で、特約がなければ報酬を請求できません。寄託も、665条が委任の規定を準用していて、報酬が無いのが原則です。友人に荷物を預かってもらい、お礼もなければ、無償の寄託です。保管業者に保管料を払って預ければ、有償です。同じ寄託でも、報酬の特約があれば有償で双務、無ければ無償で片務、と動きます。

柱2——要式か不要式か

要式と不要式。要式契約(ヨウシキ)=成立に書面などの方式が要る契約。不要式契約=方式が要らない契約。原則は不要式(書面は要らない)。要式の例=保証契約(446条2項)/書面でする消費貸借(587条の2)。 図:要式と不要式

  • 要式契約(ヨウシキ)=成立に書面などの方式が要る契約
  • 不要式契約=方式が要らない契約
  • 原則は不要式(書面は要らない)
  • 要式の例=保証契約(446条2項)/書面でする消費貸借(587条の2)

5つめの分け方は、成立に書面などの方式が要るか、です。要るものが要式契約、ヨウシキと読みます。要らないものが不要式契約です。原則は、不要式です。総則のときに、522条の2項で読みました。契約の成立には、特別の定めがある場合を除いて、書面の作成その他の方式を要しない、という規定です。コンビニで口頭のやり取りだけで買い物ができるのは、このためです。この原則が契約の自由のなかでどう位置づくかは、次の回で扱います。例外が要式契約です。1つは保証契約です。条文の札です。

条文民法446条

民法第446条(保証人の責任等)第2項 1 (略) 2 保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない。

書面でしなければ効力を生じない。これが要式の典型の形です。保証の回で見たとおり、軽い気持ちで引き受けやすい契約なので、書面を一度かませて、立ち止まって考えさせるためです。もう1つは、先ほどの書面でする消費貸借、587条の2 です。合意だけで成立させたいなら、書面が要る。ここでは、書面が成立の仕組みの一部に入っています。

成立の軸と方式の軸の表。縦=成立(諾成/要物)、横=方式(要式/不要式)。売買=諾成・不要式。書面でする消費貸借=諾成・要式。書面によらない消費貸借=要物・不要式。 図:成立の軸と方式の軸の表

  • 縦=成立(諾成/要物)、横=方式(要式/不要式)
  • 売買=諾成・不要式
  • 書面でする消費貸借=諾成・要式
  • 書面によらない消費貸借=要物・不要式

諾成なのに要式、という組み合わせがあるのですか?あります。諾成か要物かは、成立に物の受渡しが要るか、という軸です。要式か不要式かは、成立に書面などの方式が要るか、という軸です。別の軸ですから、組み合わせが自由に出てきます。売買は、諾成で不要式。書面でする消費貸借は、諾成で要式。書面によらない消費貸借は、要物で不要式、です。もう1点、注意があります。書面が出てくるだけでは、要式ではありません。冒頭の贈与で見た550条は、書面によらない贈与は解除できる、という規定でした。書面が無くても、贈与契約そのものは成立しています。解除できるかどうかの差で、成立の要件ではありません。使用貸借の593条の2 も、書面の有無が、受取り前に貸主が解除できるかの差です。要式かどうかは、その方式が無いと効力を生じないか、で見ます。

柱3——分け方どうしの関係

関係の4マス。双務×有償=売買・賃貸借・雇用・請負など。片務×無償=贈与・使用貸借・無利息の消費貸借。片務×有償=利息付消費貸借だけ(書面によらない場合を前提)。双務×無償=無い。双務ならば有償、逆は成り立たない。 図:関係の4マス

  • 双務×有償=売買・賃貸借・雇用・請負など
  • 片務×無償=贈与・使用貸借・無利息の消費貸借
  • 片務×有償=利息付消費貸借だけ(書面によらない場合を前提)
  • 双務×無償=無い
  • 双務ならば有償、逆は成り立たない

ここから3つめの柱です。まず、分け方どうしの関係を見ます。総則のときの話を、もう1つ思い出してください。利息付きの消費貸借が、片務なのに有償だったのは、なぜでしたか? 答えを組み立ててみます。4つのマスに分けます。双務で有償は、売買、賃貸借、雇用、請負など、典型的な取引の契約です。片務で無償は、贈与、使用貸借、無利息の消費貸借です。そして、片務で有償が、利息付きの消費貸借です。最後の、双務で無償は、ありません。最後のマスに入る契約が無い理由は、こちらの説明の札です。双務契約は、双方が対価として向き合う債務を負います。対価として向き合う債務を負うなら、双方が出捐をします。双方が出捐をするなら、有償です。ですから、双務ならば必ず有償になります。逆は成り立ちません。片務でも、有償になる契約があります。それが、利息付きの消費貸借です。書面によらない場合で考えます。まず、587条で、受け取ることによって成立します。成立の時には、貸主の物の受渡しは終わっていて、貸すという債務は残りません。残るのは借主の返還債務と利息債務だけで、片務です。次に、589条の2項で、利息の特約があれば、貸主は借主が物を受け取った日以降の利息を請求できます。貸主は貸す損、借主は利息を払う損を負いますから、有償です。片務で有償、になります。

13種類の典型契約を、冒頭規定の文言から5つの分け方で仕分けた表(前半)。贈与549条=無償で与える意思+受諾→諾成・片務・無償・不要式/売買555条=財産権の移転+代金→諾成・双務・有償・不要式/交換586条=互いに財産権を移転→諾成・双務・有償・不要式/消費貸借587条・587条の2=受け取る/書面で約す→要物(書面なら諾成)・片務・無利息は無償で利息付は有償・書面でするものだけ要式/使用貸借593条=引き渡すことを約す+無償で使用→諾成・片務・無償・不要式/賃貸借601条=使用収益させる+賃料→諾成・双務・有償・不要式。 図:13種類の典型契約を、冒頭規定の文言から5つの分け方で仕分けた表

  • 前半
  • 贈与549条=無償で与える意思+受諾→諾成・片務・無償・不要式
  • 売買555条=財産権の移転+代金→諾成・双務・有償・不要式
  • 交換586条=互いに財産権を移転→諾成・双務・有償・不要式
  • 消費貸借587条・587条の2=受け取る
  • 書面で約す→要物(書面なら諾成)・片務・無利息は無償で利息付は有償・書面でするものだけ要式
  • 使用貸借593条=引き渡すことを約す+無償で使用→諾成・片務・無償・不要式
  • 賃貸借601条=使用収益させる+賃料→諾成・双務・有償・不要式。

次に、13種類を、冒頭規定の鍵の言葉から、仕分けます。前半の6つです。贈与は、無償で与える意思を表示し、受諾する形ですから、諾成、片務、無償です。売買は、財産権の移転と代金ですから、諾成、双務、有償です。交換は、互いに財産権を移転する形ですから、同じく諾成、双務、有償です。消費貸借は、書面によらない場合で言うと、さっき見たとおり、要物、片務で、利息が付くかで有償か無償かが動きます。書面でする場合は、成立のしかたが変わって、諾成で要式でした。使用貸借は、無償で使用とあるので、諾成、片務、無償です。賃貸借は、使用収益させることと賃料が向き合うので、諾成、双務、有償です。

13種類の典型契約を、冒頭規定の文言から5つの分け方で仕分けた表(後半)。雇用623条=労働に従事+報酬→諾成・双務・有償・不要式/請負632条=仕事の完成+報酬→諾成・双務・有償・不要式/委任643条=法律行為の委託+承諾→諾成・不要式・債務と出捐は報酬の有無による(場合による)/寄託657条=保管の委託+承諾→諾成・不要式・債務と出捐は報酬の有無による(場合による)/組合667条=各当事者が出資して共同の事業→諾成・不要式・ふつうは双務・有償と説明される(ただし533条・536条は適用されない=667条の2)/終身定期金689条=定期に給付を約す→諾成・不要式・債務と出捐は条文から言い切らない/和解695条=互いに譲歩→諾成・双務・有償・不要式。 図:13種類の典型契約を、冒頭規定の文言から5つの分け方で仕分けた表

  • 後半
  • 雇用623条=労働に従事+報酬→諾成・双務・有償・不要式
  • 請負632条=仕事の完成+報酬→諾成・双務・有償・不要式
  • 委任643条=法律行為の委託+承諾→諾成・不要式・債務と出捐は報酬の有無による(場合による)
  • 寄託657条=保管の委託+承諾→諾成・不要式・債務と出捐は報酬の有無による(場合による)
  • 組合667条=各当事者が出資して共同の事業→諾成・不要式・ふつうは双務・有償と説明される(ただし533条・536条は適用されない=667条の2)
  • 終身定期金689条=定期に給付を約す→諾成・不要式・債務と出捐は条文から言い切らない
  • 和解695条=互いに譲歩→諾成・双務・有償・不要式。

後半の7つです。雇用と請負は、労働や仕事の完成と報酬が向き合いますから、諾成、双務、有償です。和解は、互いに譲歩する形ですから、双務、有償と読み取れます。委任と寄託は、契約の名前だけでは決まりません。委任は、総則のときに見たとおり、条文の原則は無償で片務です。寄託も、さっき見たとおり、報酬が無いのが原則でした。どちらも、報酬の特約があれば、有償で双務に変わります。ですからこの2つは、場合による、と書きます。組合と終身定期金は、それぞれ注意が要ります。まず、終身定期金です。ある人が亡くなるまで、定期的に金銭などを渡し続ける、と約束する契約です。689条は、定期に金銭などを給付することを約する、としか言いません。渡す側が見返りを受け取るのかどうかは、条文だけでは決まりません。

組合は、ふつうは双務で有償の契約と説明されます。ただ、売買と同じ意味の双務ではありません。その理由が、条文に書いてあります。組合は、667条で、各当事者が出資をして、共同の事業を営むと約束する契約です。その次に、こういう条文があります。条文の札です。

条文民法667条の2

民法第667条の2(他の組合員の債務不履行)第1項 1 第五百三十三条及び第五百三十六条の規定は、組合契約については、適用しない。 2 (略)

667条の2の1項は、同時履行の533条と、危険負担の536条を、組合契約には適用しない、としています。533条が使えないとは、どういうことか。ほかの組合員がまだ出資していなくても、それを理由に自分の出資を拒めない、ということです。売買なら、相手が渡そうとしないうちは払わない、と言えました。組合では、言えません。ここからは、こちらの説明の札です。組合の出資は、相手から直接何かを受け取るためというより、共同の事業のために出すものです。債務は全員にありますが、売買のように1対1で引き換えになる関係とは、形が違います。それでも、ほかの組合員も出資するからこそ、自分も出資を約束します。その意味で、出資どうしは対価として向き合っていて、全員が財産を減らす負担をします。ですから、双務で有償の契約に数えられます。ただ、双務契約にだけ働く2つの規定が外されている以上、売買と同じ意味の双務ではありません。

分け方が効く場面の予告。双務→同時履行の抗弁権(533条)・危険負担(536条)。有償→売買の規定を準用(559条)。無償→責任が軽い(贈与者の引渡義務は551条1項/無報酬の受寄者の注意は659条/使用貸借は551条を準用する596条)。ただし委任は無償でも善良な管理者の注意(644条)。 図:分け方が効く場面の予告

  • 双務→同時履行の抗弁権(533条)・危険負担(536条)
  • 有償→売買の規定を準用(559条)
  • 無償→責任が軽い(贈与者の引渡義務は551条1項/無報酬の受寄者の注意は659条/使用貸借は551条を準用する596条)
  • ただし委任は無償でも善良な管理者の注意(644条)

最後に、分け方が、これから先、どの規定の入口になるかです。3つあります。1つめ、双務契約です。双務ならば、同時履行の抗弁権の533条と、危険負担の536条が働きます。相手が渡そうとしないうちは支払を拒める、が533条。どちらのせいでもなく相手が渡せなくなったら支払を拒める、が536条でした。契約が双務だと分かれば、この2つが使えるかを考えることになります。片務なら、考えなくて済みます。さっき見たとおり、組合では、この両方が外されています。2つめ、有償契約です。条文の札です。

条文民法559条

民法第559条(有償契約への準用) この節の規定は、売買以外の有償契約について準用する。ただし、その有償契約の性質がこれを許さないときは、この限りでない。

売買の規定は、売買以外の有償契約にも準用されます。条文の「この節」は、売買を定める第3節のことです。例えば、お金を払って本棚を作ってもらう請負で、届いた本棚の棚の板が1枚割れていたとします。その第3節には、引き渡された物が契約の内容に合わないとき、買主は直すことなどを求められる、という562条があります。請負も有償契約ですから、559条を通してこの562条を使い、注文した人は、直してほしいと求められます。売買だけの規定を、有償という共通点で、他の契約にも借りてくる仕組みです。ただし、その契約の性質が許さないときは別です。3つめ、無償契約です。無償なら、責任が軽くなります。理由は、こちらの説明の札です。見返りを受け取らずに引き受けた人に、対価を受け取った人と同じ重さの責任を負わせるのは、釣り合わないからです。贈与者の引渡義務が軽いのは、551条の1項です。使用貸借は、596条で551条を準用します。無報酬で物を預かる側、つまり受寄者の注意義務は、659条で、自己の財産に対するのと同一の注意に軽くなります。ただし、委任は別です。無償の委任でも、644条により、善良な管理者の注意が求められます。無償だから常に軽い、とは言えません。3つの入口の中身は、この先の回で1つずつ開けていきます。

冒頭の問いの答え。Aの「あげる」=贈与(片務・無償)→書面によらなければ解除できる(550条)/引渡義務は軽い(551条1項)。Aの「売る」=売買(双務・有償)→この軽さは無い。 図:冒頭の問いの答え

  • Aの「あげる」=贈与(片務・無償)→書面によらなければ解除できる(550条)/引渡義務は軽い(551条1項)
  • Aの「売る」=売買(双務・有償)→この軽さは無い

冒頭の問いに戻ります。「あげる」は贈与で、片務、無償です。ですから、書面によらなければ解除でき、引渡義務も軽くなります。「売る」は売買で、双務、有償です。この軽さはありません。同じ約束でも、分け方が違えば、責任の重さが変わる。これが答えでした。

弁別のミニ事例

弁別の事例の板。Q1 賃貸借601条の文言(ある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる)。Q2 書面でする消費貸借587条の2の文言。Q3 友人に荷物を預かってもらう。お礼は無し。 図:弁別の事例の板

  • Q1 賃貸借601条の文言(ある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる)
  • Q2 書面でする消費貸借587条の2の文言
  • Q3 友人に荷物を預かってもらう
  • お礼は無し

条文の文言から、読み取ってみましょう。答えは、そのつど言います。Q1です。賃貸借の601条は、ある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる、です。諾成か要物か、双務か片務か、有償か無償か、言えますか?約することによって、だから諾成です。使用させる債務と賃料を払う債務が向き合っていて、どちらも出捐だから、双務で有償だと思います。借りた物を返す債務も出てきますが、使用貸借のときと同じで、対価として向き合う債務ではありません。Q2です。書面でする消費貸借の587条の2は、金銭その他の物を引き渡すことを約し、返還することを約することによって、効力を生ずる、でした。諾成か要物か、要式か不要式か、どちらですか?

約することによってですから、諾成で、書面が要るので要式です。諾成と要式が、同時に成り立つ例でした。Q3です。友人に荷物を預かってもらいました。お礼は何もありません。この寄託は、有償ですか、無償ですか? 報酬の特約を足したら、どうなりますか?お礼が無いので無償で、預かってもらうだけですから片務です。報酬の特約を足すと、有償で、双務になります。委任や寄託は、報酬の有無で動きます。

冒頭の問いに戻る——まとめ

今日のまとめ。3つの柱=1 債権各論の地図と契約の章の作り(契約は債権の発生原因のうち最重要・章は総則と各則の2段)/2 契約の5つの分け方を条文の文言から読む(典型か/諾成か要物か/双務か片務か/有償か無償か/要式か不要式か)/3 双務・片務と有償・無償の関係(双務ならば有償・片務で有償は利息付消費貸借)と分け方が効く場面(双務→533条・536条/有償→559条/無償→責任が軽い)。 図:今日のまとめ

3つの柱で整理します。1つめ、債権各論の中で、契約は最も出番の多い発生原因です。契約の章は、どの契約にも共通する総則と、個々の契約の各則の、2段でできています。2つめ、契約の5つの分け方は、冒頭規定の文言から読み取れます。民法に規定があるか、約することで成立するか受け取ることで成立するか、対価として向き合う債務があるか、双方に出捐があるか、成立に書面などの方式が要るか、です。3つめ、双務ならば必ず有償で、片務なのに有償なのは利息付きの消費貸借だけです。そして双務は同時履行と危険負担、有償は売買の規定の準用、無償は責任の軽さへ、つながります。

参照条文

  • 民法555条
  • 民法587条
  • 民法593条
  • 民法657条
  • 民法587条の2
  • 民法589条
  • 民法446条
  • 民法667条の2
  • 民法559条

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