民法ゼロから民法#238

解除の意義と解除権の行使

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第5章 契約 #238/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

「やめます」の一言で、契約は終わるのか

冒頭の設例の関係図。兄弟のA、B、Cが、相続した山林を、Dに売った。Dは代金を払わない。長男のAは、1人でDに「売買を解除する」と言えるか。 図:冒頭の設例の関係図

  • 兄弟のA、B、Cが、相続した山林を、Dに売った
  • Dは代金を払わない
  • 長男のAは、1人でDに「売買を解除する」と言えるか

冒頭の問いの答え。Aだけでは解除にならない。売主が3人なので、解除は3人全員で。民法544条1項。 図:冒頭の問いの答え

  • Aだけでは解除にならない
  • 売主が3人なので、解除は3人全員で
  • 民法544条1項

先に、答えの方向を言います。言えません。売主が3人いるので、解除は、3人全員でしなければなりません。民法544条1項です。ここで、疑問が出ます。そもそも、解除とは、何をすることなのか。解除は、どう使うのか。なぜ、1人ではだめなのか。そして、解除できるのに放っておくと、どうなるのか。今日は、はじめの3つに、条文で答えます。最後の1つは、次回に見ます。

今日の位置と、3つの話

今日の地図。位置=契約は守られなければならない。解除は、その拘束から抜ける制度。1=解除とは何か。2=解除権の使い方その1(540条)。3=解除権の使い方その2(544条)。解除権がいつ消えるか=次回。 図:今日の地図

  • 位置=契約は守られなければならない
  • 解除は、その拘束から抜ける制度
  • 1=解除とは何か
  • 2=解除権の使い方その1(540条)
  • 3=解除権の使い方その2(544条)
  • 解除権がいつ消えるか=次回

位置づけです。契約は、守られなければなりません。解除は、そこから抜ける制度です。解除という言葉は、ここまでに何度も出てきました。債務不履行を受けた債権者の手段として。危険負担で、代金の債務を確定的に消す道として。前回は、第三者のためにする契約で、受益者の承諾が要る場面として。名前だけ出してきた解除の本体を、これから数回に分けて見ます。今日は、その入口です。話は3つです。1つめ、解除とは何か。2つめ、解除権の使い方その1で、540条です。3つめ、使い方のその2で、544条です。解除権がいつまで使えるのかは、次回に見ます。どういうときに解除権が生まれるのか、解除をしたら何が起きるのかは、別の回で見ます。

根拠の札。条文=法律に書いてあること。判例=最高裁の判決が実際に述べたこと。学説=学者が説明している考え方。こちらの説明=この動画が理解のために整理したこと。審議の資料=法制審議会の資料に書かれた説明として紹介。 図:根拠の札

  • 条文=法律に書いてあること
  • 判例=最高裁の判決が実際に述べたこと
  • 学説=学者が説明している考え方
  • こちらの説明=この動画が理解のために整理したこと
  • 審議の資料=法制審議会の資料に書かれた説明として紹介

今日も、根拠のふだを貼りながら話します。条文は、法律に書いてあること。判例は、最高裁の判決が実際に述べたことです。学説は、学者が説明している考え方です。こちらの説明は、この動画が理解のために整理したことです。もう1つ、改正の理由は、法制審議会の資料に書かれた説明として、「審議の資料には」と言って紹介します。設例は、冒頭の山林で通します。売主は兄弟のA、B、C、買主はDです。

判断のものさし

判断のものさし。誰が、誰に、いつまでに、何を言えば、契約は終わるのか。解除権が生まれる=今日は条名まで。解除権を使う=2つめと3つめの話。解除権が消える=次回。札=こちらの説明。 図:判断のものさし

  • 誰が、誰に、いつまでに、何を言えば、契約は終わるのか
  • 解除権が生まれる=今日は条名まで
  • 解除権を使う=2つめと3つめの話
  • 解除権が消える=次回
  • 札=こちらの説明

ものさしは、1本です。誰が、誰に、いつまでに、何を言えば、契約は終わるのか。こちらの説明のふだです。解除権が生まれる場面は、今日は条名までです。解除権があるとして、どう使うか。誰が、誰に、何を言うかです。これが、2つめと3つめの話です。そして、いつまで使えるか。いつまでに、にあたるところは、次回の話です。

解除とは何か

解除と解除権。解除=当事者の一方が、一方的意思表示によって、相手方との契約を終わらせること。解除権=解除をすることができる権利。相手方の同意は要らない。札=学説。 図:解除と解除権

  • 解除=当事者の一方が、一方的意思表示によって、相手方との契約を終わらせること
  • 解除権=解除をすることができる権利
  • 相手方の同意は要らない
  • 札=学説

まず、言葉を決めます。解除とは、当事者の一方が、一方的意思表示によって、相手方との契約を終わらせることです。解除をすることができる権利を、解除権と呼びます。学説のふだです。大事なのは、相手方の同意が要らない点です。同意が要らない代わりに、解除は、解除権があるときにしかできません。気に入らないから、では解除できないのです。あとで読む540条1項も、解除権を有するときは、と書いています。条文のふだです。解除権は、契約で決めておく場合と、法律が与える場合があります。このほかに、解除権を使わないのに、解除と呼ばれるものが、1つあります。合わせて3つを、順に見ます。

3つの「解除」。法定解除=法律の規定で、解除権が生まれる。約定解除=契約で、解除権を留保しておく。合意解除=契約を結んだあとで、契約をなかったことにする、と合意する。 図:3つの「解除」

  • 法定解除=法律の規定で、解除権が生まれる
  • 約定解除=契約で、解除権を留保しておく
  • 合意解除=契約を結んだあとで、契約をなかったことにする、と合意する

1つめ、法定解除です。法律の規定で、解除権が生まれる場合です。2つめ、約定解除です。契約で解除権を留保した場合です。契約を結ぶときに、こういうときは解除できる、と決めておくのです。例は、手付による解除の557条と、買戻しの579条ですが、今日は名前だけにします。3つめ、合意解除です。契約を結んだあとで、当事者が、この契約はなかったことにしよう、と合意する場合です。解除契約とも呼びます。学説のふだです。

契約が終わるのはいつか。法定解除=解除権を行使した時。約定解除=解除権を行使した時。合意解除=合意が成立した時(新しい契約)。 図:契約が終わるのはいつか

  • 法定解除=解除権を行使した時
  • 約定解除=解除権を行使した時
  • 合意解除=合意が成立した時(新しい契約)

見分ける軸は、合意したのが何か、です。約定解除で合意されているのは、やめる権利があること、までです。やめるかどうかは、まだ決まっていません。契約が終わるのは、その権利を行使した時です。法定解除も、解除権を行使した時に終わります。合意解除は違います。合意されたのは、契約を終わらせること自体です。合意が成立した時に、契約が終わります。解除権の行使ではなく、契約を終わらせるための、新しい契約です。学説のふだと、こちらの説明のふだです。混ざりやすいところです。確かめてみましょう。

確認。契約書に「甲はいつでもこの契約を解除できる」と書いてある。後日、双方が「この契約はやめましょう」と合意した。この2つのうち、合意解除はどちらか。 図:確認

  • 契約書に「甲はいつでもこの契約を解除できる」と書いてある
  • 後日、双方が「この契約はやめましょう」と合意した
  • この2つのうち、合意解除はどちらか

問いです。契約書に、甲はいつでもこの契約を解除できる、と書いてあります。後日、双方が、この契約はやめましょう、と合意しました。この2つのうち、合意解除はどちらですか?

答え。後日の合意が合意解除(契約の終了そのものを合意した)。契約書の定めは約定解除(解除権を留保しただけ。行使して初めて終わる)。 図:答え

  • 後日の合意が合意解除(契約の終了そのものを合意した)
  • 契約書の定めは約定解除(解除権を留保しただけ。行使して初めて終わる)

後日の合意のほうです。後日の合意が、合意解除です。契約の終了そのものを、合意したからです。契約書の定めは、約定解除です。解除権を留保しただけで、行使して初めて契約が終わります。

法定解除の3つの出どころ。1=債務不履行による解除(541条〜543条)。2=個別の規定による解除。3=解釈によって認められる解除。 図:法定解除の3つの出どころ

  • 1=債務不履行による解除(541条〜543条)
  • 2=個別の規定による解除
  • 3=解釈によって認められる解除

約定解除と合意解除は、契約で決まるものでした。法定解除は、法律の規定で解除権が生まれるものですが、出どころが3つあります。1つめ、債務不履行による解除です。541条から543条で、最も重要です。541条は催告による解除、542条は催告によらない解除、543条は、債権者の責めに帰すべき事由があるときは、この2つの解除ができない、という定めです。中身は、別の回で見ます。2つめ、個別の規定による解除です。特定の契約について、条文が解除権を与えるものです。3つめ、解釈によって認められる解除です。条文はありませんが、事情変更の法理が例です。事情変更の法理を見た回で、効果に解除があると整理しました。学説のふだです。

個別の規定による解除の例。612条2項=賃借人が無断で第三者に使わせたとき、賃貸人は、契約の解除をすることができる。641条=請負人が仕事を完成しない間は、注文者は、いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができる。651条1項=委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。 図:個別の規定による解除の例

  • 612条2項=賃借人が無断で第三者に使わせたとき、賃貸人は、契約の解除をすることができる
  • 641条=請負人が仕事を完成しない間は、注文者は、いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができる
  • 651条1項=委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる

個別の規定の例を3つ挙げます。612条2項は、賃借人が無断で第三者に使わせたとき、賃貸人は解除できる、と定めます。641条は、請負で、仕事が完成しない間は、注文者が、いつでも、損害を賠償して解除できる、と定めます。651条1項は、委任は、各当事者がいつでも解除できる、と定めます。条文のふだです。それぞれの中身は、その契約の回で見ます。

損害賠償と解除。損害賠償=債務者の責任を追及する制度。415条1項ただし書は、債務者の責めに帰することができない事由かどうかを問う。解除=債権者を契約の拘束から解放する制度。541条・542条は、債務者の責めに帰すべき事由を要件に書いていない。 図:損害賠償と解除

  • 損害賠償=債務者の責任を追及する制度
  • 415条1項ただし書は、債務者の責めに帰することができない事由かどうかを問う
  • 解除=債権者を契約の拘束から解放する制度
  • 541条・542条は、債務者の責めに帰すべき事由を要件に書いていない

損害賠償と解除では、制度の狙いが違います。この整理は、審議の資料にも出てきます。損害賠償は、債務者の責任を追及する制度です。415条1項ただし書は、不履行が債務者の責めに帰することができない事由によるときは、賠償を求められない、と書きます。落ち度の有無を問うのです。

解除の要件、旧法と改正。旧法=債務者の責めに帰することができない事由による履行不能を、解除の例外とする条文があった。2017年の改正=その例外がなくなった。543条が気にするのは、債権者の責めに帰すべき事由。札=条文。 図:解除の要件、旧法と改正

  • 旧法=債務者の責めに帰することができない事由による履行不能を、解除の例外とする条文があった
  • 2017年の改正=その例外がなくなった
  • 543条が気にするのは、債権者の責めに帰すべき事由
  • 札=条文

解除は違います。債権者を、契約の拘束から解放する制度です。541条も542条も、債務者の責めに帰すべき事由を、解除の要件として書いていません。旧法には、債務者の責めに帰することができない事由による履行不能を、解除の例外とする条文があり、2017年の改正で、その例外がなくなりました。条文のふだです。なお、543条が気にするのは、債権者の責めに帰すべき事由です。債務者の落ち度ではありません。

審議の資料の説明その1。旧法の条文は、債務者の責めに帰することができない事由による履行不能のとき、解除を認めない扱いだった。実務で帰責事由は重要な機能を果たしておらず、意味も不明確との指摘があった。 図:審議の資料の説明その1

  • 旧法の条文は、債務者の責めに帰することができない事由による履行不能のとき、解除を認めない扱いだった
  • 実務で帰責事由は重要な機能を果たしておらず、意味も不明確との指摘があった

なぜ要件から外れたのか。審議の途中でまとめた案の説明には、こう書かれています。まず、旧法の条文は、債務者の責めに帰することができない事由による履行不能のとき、解除できないと読めました。しかし、裁判の実務で、帰責事由が解除の成否を決める重要な機能を果たしているとはいえないとの指摘があり、意味内容も、損害賠償の帰責事由以上に不明確だと説明されています。取引の実務でも、解除のとき帰責事由を意識していないとの指摘がありました。

審議の資料の説明その2。帰責事由を要件にすると、債務者の工場が大規模な自然災害で操業できなくなったとき、債権者は契約の拘束を免れられず、代替取引もできないままリスクを負う。硬直的で不当ではないか。 図:審議の資料の説明その2

  • 帰責事由を要件にすると、債務者の工場が大規模な自然災害で操業できなくなったとき、債権者は契約の拘束を免れられず、代替取引もできないままリスクを負う
  • 硬直的で不当ではないか

次に、帰責事由を要件にすると、たとえば債務者の工場が、大規模な自然災害で動かなくなったとき、債権者は契約に縛られたままです。代わりの取引もできず、リスクを負わされます。これは、硬直的で不当ではないかと考えられました。

審議の資料の説明その3。近時の学説に、解除を「制裁」ではなく「契約の拘束力から解放する制度」と理解する有力な考え方がある。 図:審議の資料の説明その3

最後に、近時の学説に、解除を制裁ではなく、契約の拘束力から解放する制度と理解する、有力な考え方があることが紹介されています。以上が、審議の資料の説明です。解除は債務者を責める制度ではない、という整理の背景です。

設例で言い直す。Dは、自分の落ち度なく、代金を払えなくなった(銀行の事故で送金できない)。A、B、Cは、解除を検討できる。理由=Dを責めるためではなく、代金が入らないまま待たされる状態から抜けるため。札=こちらの説明。 図:設例で言い直す

  • Dは、自分の落ち度なく、代金を払えなくなった(銀行の事故で送金できない)
  • A、B、Cは、解除を検討できる
  • 理由=Dを責めるためではなく、代金が入らないまま待たされる状態から抜けるため
  • 札=こちらの説明

山林の設例で言い直します。Dが、自分の落ち度なく、代金を払えなくなったとします。銀行の事故で、送金できない場合です。それでも、A、B、Cは、解除を検討できます。Dを責めたいのではありません。代金が入らないまま、契約に縛られて待たされる状態から、抜け出したいからです。こちらの説明のふだです。解除が使えるための要件の中身は、別の回で見ます。

似た制度との違いその1。取消し=契約の出発点にある欠陥を理由に、いったん有効な契約を、遡って無効にする。無効=はじめから効力がない。解除=有効に成立した契約を、その後の事情で終わらせる。 図:似た制度との違いその1

  • 取消し=契約の出発点にある欠陥を理由に、いったん有効な契約を、遡って無効にする
  • 無効=はじめから効力がない
  • 解除=有効に成立した契約を、その後の事情で終わらせる

似た制度との違いを、3つ見ます。1つめ、取消しと無効です。取消しは、契約の出発点にある欠陥を理由に、いったん有効な契約を、遡って無効にするものでした。無効は、はじめから効力がないものです。解除は違います。契約は有効に成立していて、その後の事情で終わらせます。出発点に問題があるかどうか、が分かれ目です。

似た制度との違いその2。解除条件(127条2項)=条件が成就した時に、当然に効力を失う。意思表示は要らない。解除=意思表示が要る(540条1項)。 図:似た制度との違いその2

  • 解除条件(127条2項)=条件が成就した時に、当然に効力を失う
  • 意思表示は要らない
  • 解除=意思表示が要る(540条1項)

2つめ、解除条件です。127条2項は、解除条件付法律行為は、解除条件が成就した時からその効力を失う、と定めます。条件が成就すれば、意思表示がなくても、当然に効力を失います。解除は、意思表示が要ります。名前が似ていますが、別のものです。

似た制度との違いその3。撤回=意思表示が届く前に引っ込めること。620条=賃貸借の解除をした場合には、その解除は、将来に向かってのみその効力を生ずる。 図:似た制度との違いその3

  • 撤回=意思表示が届く前に引っ込めること
  • 620条=賃貸借の解除をした場合には、その解除は、将来に向かってのみその効力を生ずる

3つめ、撤回と、効力の向きです。到達の回で見た撤回は、意思表示が届く前に、引っ込めることでした。この撤回と540条2項の関係は、あとで見ます。効力の向きでは、620条が、賃貸借の解除をした場合には、その解除は、将来に向かってのみその効力を生ずる、と定めます。過ぎた期間の賃貸借はそのまま残り、解除の時から先だけが終わる、ということです。解除をしたら何が起きるかは、別の回で見ます。

解除権の使い方その1——540条

復習の確認。第三者のためにする契約で、受益者の権利が発生した後、諾約者が受益者への債務を履行しないとき、要約者が契約を解除するには、何が必要か。 図:復習の確認

使い方の話の前に、前回の復習を1つ。第三者のためにする契約で、受益者の権利が発生した後の場面です。諾約者が、受益者への債務を履行しません。このとき、要約者が契約を解除するには、何が必要でしたか?

答え。受益者の承諾(538条2項)。今日は、解除をどう使うかの本体を見る。 図:答え。受益者の承諾(538条2項)。今日は、解除をどう使うかの本体を見る。

受益者の承諾です。538条2項でした。受益者の権利が発生した後に、諾約者が受益者への債務を履行しない場合、要約者は、受益者の承諾がなければ解除できない、と538条2項が定めていました。ただ、解除をどういう手順でするのかは、まだ見ていません。今日は、その本体です。

540条の入口。1項=解除は、相手方に対する意思表示によってする。2項=その意思表示は、撤回することができない。 図:540条の入口

  • 1項=解除は、相手方に対する意思表示によってする
  • 2項=その意思表示は、撤回することができない

条文は、540条です。1項と2項、全部を見ます。

条文民法540条

民法第540条 契約又は法律の規定により当事者の一方が解除権を有するときは、その解除は、相手方に対する意思表示によってする。 2 前項の意思表示は、撤回することができない。

1項は、契約又は法律の規定により、と書きます。約定解除も法定解除も、行使の方法は同じ、ということです。方法は、相手方に対する意思表示です。

1項の読み方その1。1=解除は意思表示でする(裁判を起こす必要はない)。2=相手方の承諾は要らない(解除権は形成権、解除の意思表示は単独行為)。 図:1項の読み方その1

  • 1=解除は意思表示でする(裁判を起こす必要はない)
  • 2=相手方の承諾は要らない(解除権は形成権、解除の意思表示は単独行為)

読み方は3つです。1つめ、解除は、意思表示でします。裁判を起こす必要はありません。条文の字面のとおりで、条文のふだです。2つめ、相手方の承諾は要りません。解除権は、一方的な意思表示だけで権利関係を変えられる、形成権の1つです。そして、解除の意思表示は、相手方の同意なしに、一方的な意思表示だけで効力が生じる、単独行為です。学説のふだです。裁判がいらないなら、言った者勝ちになりませんか。なりません。解除権があるときにしか、解除はできません。解除権がないのに、解除する、と言っても、解除の効力は生じません。意思表示だけで足りるのは、解除権という権利がある場合の話です。

1項の読み方その2。3=効力は、通知が相手方に到達した時に生ずる(97条1項)。山林なら、A、B、Cの通知がDに届いた時に、売買が終わる。 図:1項の読み方その2

  • 3=効力は、通知が相手方に到達した時に生ずる(97条1項)
  • 山林なら、A、B、Cの通知がDに届いた時に、売買が終わる

3つめ、いつ効くかです。意思表示は、その通知が相手方に到達した時から、効力を生じます。97条1項でした。解除も同じです。山林なら、解除の通知がDに届いた時に、売買が終わります。条文と、こちらの説明のふだです。

2項。届いた解除の意思表示は、解除した側の都合で撤回することができない。なぜ=相手方は、契約が終わった前提で動き出す。 図:2項

  • 届いた解除の意思表示は、解除した側の都合で撤回することができない
  • なぜ=相手方は、契約が終わった前提で動き出す

2項です。解除の意思表示は、撤回することができません。到達の回で見た撤回は、届く前に引っ込める話でした。540条2項が止めるのは、届いて効力が生じた後の、引っ込めです。届いた後の引っ込めは、申込みの回でも見ました。なぜか。Dは、売買が終わった前提で動き出します。この山林は手に入らないものとして、別の山林を探し始めるかもしれません。それを、A、B、Cの気分で元に戻せるなら、Dの立場がいつまでも不安定になります。こちらの説明と、学説のふだです。

条件を付けられるか。原則=付けられない(相手方の地位がいつまでも不安定になる)。例外=条件の成否が、相手方自身の行為で決まるなら許される。例=今月末までに払わなければ解除します。 図:条件を付けられるか

  • 原則=付けられない(相手方の地位がいつまでも不安定になる)
  • 例外=条件の成否が、相手方自身の行為で決まるなら許される
  • 例=今月末までに払わなければ解除します

もう1つ。解除の意思表示に、条件を付けられるか。解除は、単独行為でした。単独行為に条件を付けると、相手方の地位がいつまでも不安定になるので、原則として条件になじみません。ですから、原則、付けられません。ただし、例外があります。今月末までに払わなければ解除します、という通知です。払うか払わないかは、Dが自分で決められます。Dを不当に不安定にしないので、許されます。127条1項のとおり、停止条件が成就した時から効力を生じます。こちらの説明と、学説のふだです。先ほどの解除条件とは別の話です。

解除権の使い方その2——544条

544条の入口。1項=当事者の一方が数人あるときは、全員から、又は全員に対してのみ。2項=解除権が一人について消滅したときは、他の者についても消滅する。 図:544条の入口

  • 1項=当事者の一方が数人あるときは、全員から、又は全員に対してのみ
  • 2項=解除権が一人について消滅したときは、他の者についても消滅する

冒頭の山林に戻ります。条文は、544条です。

条文民法544条

民法第544条 当事者の一方が数人ある場合には、契約の解除は、その全員から又はその全員に対してのみ、することができる。 2 前項の場合において、解除権が当事者のうちの一人について消滅したときは、他の者についても消滅する。

2項は、解除権が1人について、消えれば、他の人についても消える、という定めです。今日は、1項です。1項の考え方を、解除権の不可分性と呼びます。解除の不可分性、とも呼びます。当事者の一方が数人いるとき、解除は、全員からか、全員に対してしかできません。図で読みます。

全員から。売主のA、B、Cの3人が、そろって、買主のDに解除の意思表示をする。 図:全員から。売主のA、B、Cの3人が、そろって、買主のDに解除の意思表示をする。

1つめの形は、全員から、です。A、B、Cの3人が、そろって、Dに解除の意思表示をします。これで、解除になります。

1人だけでは解除にならない。Aだけが、Dに解除の意思表示をしても、解除にならない(×)。 図:1人だけでは解除にならない

冒頭の問いの答えです。長男のAが、1人でDに解除すると言っても、解除にはなりません。B、Cも一緒に意思表示をしなければ、解除の効力は生じません。

全員に対して。山林が引き渡されなかった場面。買主のDが、売主のA、B、Cの全員に、解除の意思表示をする。Aだけに言っても解除にならない。 図:全員に対して

  • 山林が引き渡されなかった場面
  • 買主のDが、売主のA、B、Cの全員に、解除の意思表示をする
  • Aだけに言っても解除にならない

2つめの形は、全員に対して、です。場面を逆にします。今度は、A、B、Cが山林を引き渡せなかったとします。解除するのはDです。DがAだけに解除の意思表示をしても、解除になりません。A、B、Cの全員に対して、しなければなりません。全員でなければならないのは、人によって、契約が残ったり終わったりすると、法律関係が複雑になるからです。たとえば、Aの分だけ売買が終わり、BとCの分は残るとします。1つの山林の売買が、3つに割れて、代金も山林も、人ごとにばらばらになってしまいます。それを防ぐ趣旨です。こちらの説明と、学説のふだです。

全員に対しての判例。賃借権が共同相続された場合に、共同相続人の1人にだけした解除の意思表示は、効力を生じない。(最判昭37・4・19 集民60号219頁) 図:全員に対しての判例

  • 賃借権が共同相続された場合に、共同相続人の1人にだけした解除の意思表示は、効力を生じない
  • (最判昭37・4・19 集民60号219頁)

全員に対して、の判例が1つあります。賃借権を、複数の人が共同相続した場合です。賃貸人が、賃料の不払いを理由に、共同相続人の1人にだけ解除の意思表示をしても、効力を生じません。544条により、全員に対してしなければなりません。判例のふだです。

確認。A、B、Cが山林を売るのではなく、貸している。借主のDが賃料を払わない。AとBの2人(持分は各3分の1)で、解除できるか。 図:確認

  • A、B、Cが山林を売るのではなく、貸している
  • 借主のDが賃料を払わない
  • AとBの2人(持分は各3分の1)で、解除できるか

問いです。今度は、A、B、Cが、山林を売るのではなく、貸しているとします。借主のDが、賃料を払いません。AとBの2人、持分は各3分の1で、解除できますか?売買の解除と同じ物差しで見れば、できないように思えます。ところが、共有物を貸しているときは、もう1つ、条文が関わります。共有物の管理を、共有者の間でどう決めるかの定めです。252条1項です。

条文民法252条1項

民法第252条1項 共有物の管理に関する事項(次条第一項に規定する共有物の管理者の選任及び解任を含み、共有物に前条第一項に規定する変更を加えるものを除く。次項において同じ。)は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。共有物を使用する共有者があるときも、同様とする。

共有物の管理に関する事項は、持分の価格の過半数で決める、という定めです。物権の共有の回で見たとおり、共有物にすることは、重さで3段階に分かれました。現状を守るだけの保存は、各自が単独でできます。今の枠の中で使い方を決める管理は、過半数で決めます。物の形や使い道を変える変更は、全員の同意が要ります。条文のふだです。過半数は、頭数で数えるのではありません。各自の持分を足して、半分を超えるかで決めます。ちょうど半分では、足りません。最高裁の判例が、答えを出しています。

共有物の賃貸借の解除。判旨の252条は、判決当時の条文。但書の保存行為=現行の252条5項。本文の管理行為=現行の252条1項(共有物の管理に関する事項は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。)。 図:共有物の賃貸借の解除

  • 判旨の252条は、判決当時の条文
  • 但書の保存行為=現行の252条5項
  • 本文の管理行為=現行の252条1項(共有物の管理に関する事項は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。)

事案は、共有の土地を貸していた共有者の一人が、貸借契約を解除したものです。この共有者ともう一人の共有者は、持分が、それぞれ2分の1ずつでした。原審は、544条1項が適用されるので、単独では解除できない、としました。最高裁は、どう言ったのか。判旨を読みます。判旨の252条は、判決当時の条文です。ただし書の保存行為は、現行の252条5項、本文の管理行為は、いま読んだ現行の252条1項にあたります。

判例最高裁判所第三小法廷判決 昭和39年2月25日(民集18巻2号329頁)

共有物の賃貸借の解除と、544条1項 共有者が共有物を目的とする貸借契約を解除することは民法二五二条にいう「共有物ノ管理ニ関スル事項」に該当し、右貸借契約の解除については民法五四四条一項の規定の適用が排除されると解すべきことは所論のとおりであるから……共有物を目的とする貸借契約の解除は民法二五二条但書にいう保存行為にあたらず、同条本文の適用を受ける管理行為と解するのが相当であり、……同条本文の適用上、上告人が単独で本件貸借契約を解除することは、特別の事情がないかぎり、許されないものといわねばならない。

判旨の2点と射程。1点め=共有物を貸す契約の解除は管理に関する事項で、544条1項は適用されない。2点め=管理は持分の価格の過半数で決める。持分2分の1は過半数に当たらず、特別の事情がないかぎり、単独では解除できない。射程=過半数を持つ人が1人で解除できるかは、述べていない。 図:判旨の2点と射程

  • 1点め=共有物を貸す契約の解除は管理に関する事項で、544条1項は適用されない
  • 2点め=管理は持分の価格の過半数で決める
  • 持分2分の1は過半数に当たらず、特別の事情がないかぎり、単独では解除できない
  • 射程=過半数を持つ人が1人で解除できるかは、述べていない

判旨の核になるのは、2点です。1点め、共有物を貸す契約を解除することは、共有物の管理に関する事項にあたり、544条1項は適用されません。2点め、管理は、持分の価格の過半数で決めます。この事案では、2分の1は過半数に当たらず、特別の事情がないかぎり、単独で解除することは許されない、としました。最高裁は、原審の前提を誤りとしつつ、結論は正当だとして、上告を棄却しました。判例のふだです。

なぜ管理なのか。保存=現状を守るだけ。管理=貸すのをやめて契約を解除する=使い方を決め直す。変更=形や使い道を変える。判旨が述べているのは、持分が過半数に満たない場合。札=こちらの説明。 図:なぜ管理なのか

  • 保存=現状を守るだけ
  • 管理=貸すのをやめて契約を解除する=使い方を決め直す
  • 変更=形や使い道を変える
  • 判旨が述べているのは、持分が過半数に満たない場合
  • 札=こちらの説明

ここで言っているのは、持分が過半数に満たない場合の結論です。過半数を持つ人が、1人で解除してよいかまでは、判旨は述べていません。なぜ管理なのか。貸すのをやめて契約を解除するのは、共有物の使い方を決め直すことだからです。現状を守るだけの保存でも、形や使い道を変える変更でもない、真ん中の管理です。こちらの説明のふだです。

売る場合と貸す場合。売買の解除(A、B、Cが売主)=全員(544条1項)。貸借の解除(A、B、Cが貸主)=持分の価格の過半数(252条1項)。 図:売る場合と貸す場合

  • 売買の解除(A、B、Cが売主)=全員(544条1項)
  • 貸借の解除(A、B、Cが貸主)=持分の価格の過半数(252条1項)

山林で並べます。売主のA、B、Cが売買を解除するなら、全員です。544条1項です。山林を貸していた貸主のA、B、Cが貸借を解除するなら、持分の価格の過半数で決めます。252条1項です。同じ山林でも、解除する契約が売買か貸借かで、結論が分かれます。条文のふだと、こちらの説明のふだです。

持分の数値。持分は各3分の1。Aだけ=3分の1(過半数に足りない)。AとB=3分の2(過半数)。 図:持分の数値

  • 持分は各3分の1
  • Aだけ=3分の1(過半数に足りない)
  • AとB=3分の2(過半数)

先ほどの問いに戻ります。持分は、各3分の1です。Aだけなら3分の1で、過半数に足りません。AとBの2人なら、3分の2で、過半数です。ですから、AとBの2人で、解除すると決められます。答えは、できる、です。判例と252条1項からの帰結で、判例のふだと、条文のふだです。

確かめる——場面を変えた問い

確かめるその1。山林の売買。A、B、Cの3人が出した解除の通知が、Dに届いた。翌日、3人が「やっぱりやめます」と言った。言えるか。もう1つ、3人が「今月末までに払わなければ解除します」という通知を出した。有効か。 図:確かめるその1

  • 山林の売買
  • A、B、Cの3人が出した解除の通知が、Dに届いた
  • 翌日、3人が「やっぱりやめます」と言った
  • 言えるか
  • もう1つ、3人が「今月末までに払わなければ解除します」という通知を出した
  • 有効か

事例で確かめます。山林の売買で通します。1つめ。A、B、Cの3人が出した解除の通知が、Dに届きました。翌日、3人は、やっぱりやめます、と言いました。言えますか? 2つめ。3人が、今月末までに払わなければ解除します、という通知を出しました。この通知は有効ですか?

答えその1。1=言えない(届いた解除の意思表示は撤回できない=540条2項)。2=有効(条件の成否が、相手方の行為で決まる。相手方を不当に不安定にしない)。 図:答えその1

  • 1=言えない(届いた解除の意思表示は撤回できない=540条2項)
  • 2=有効(条件の成否が、相手方の行為で決まる。相手方を不当に不安定にしない)

1つめは、言えません。届いた解除の意思表示は、540条2項により、撤回できないからです。2つめは、有効です。条件の成否が、Dが払うかどうかで決まり、Dを不当に不安定にしないからです。こちらの説明と、学説のふだです。

確かめるその2。1=山林の売買。AとBがDに解除の通知を出した。Cは反対で、何もしない。解除は有効か。2=山林の貸借。持分は各3分の1。借主のDが賃料を払わず、Aが1人で解除の通知を出した。解除は有効か。 図:確かめるその2

  • 1=山林の売買
  • AとBがDに解除の通知を出した
  • Cは反対で、何もしない
  • 解除は有効か
  • 2=山林の貸借
  • 持分は各3分の1
  • 借主のDが賃料を払わず、Aが1人で解除の通知を出した
  • 解除は有効か

次です。1つめ。山林の売買で、AとBがDに解除の通知を出しました。Cは反対で、何もしません。この解除は、有効ですか? 2つめ。今度は、A、B、Cが山林を貸していて、持分は各3分の1です。借主のDが賃料を払わないので、Aが1人で、解除の通知を出しました。この解除は、有効ですか?

答えその2。1=有効にならない(売主が3人なので、解除は全員から。544条1項。Cが加わっていない)。2=有効にならない(貸借の解除は管理行為。持分の価格の過半数が要る。Aの持分は3分の1。252条1項)。 図:答えその2

  • 1=有効にならない(売主が3人なので、解除は全員から。544条1項。Cが加わっていない)
  • 2=有効にならない(貸借の解除は管理行為。持分の価格の過半数が要る。Aの持分は3分の1。252条1項)

理由が違います。1つめは、売主が3人いるので、解除は全員からしなければなりません。Cが加わっていないので、AとBの通知だけでは、解除になりません。544条1項です。2つめは、貸借の解除が、共有物の使い方を決め直す管理行為にあたるので、252条1項のとおり、持分の価格の過半数が要ります。持分を足して、半分を超えなければなりません。Aの持分は3分の1で、半分を超えません。結論は同じでも、売買は全員、貸借は過半数、と物差しが違います。

冒頭の問いに戻る——まとめ

今日のまとめ。1=解除とは何か(一方的意思表示で契約を終わらせる。法定解除・約定解除・合意解除)。2=解除権の使い方その1(540条=意思表示・撤回不可・条件)。3=解除権の使い方その2(544条=全員から・全員に対して。共有物の貸借の解除は別)。 図:今日のまとめ

  • 1=解除とは何か(一方的意思表示で契約を終わらせる。法定解除・約定解除・合意解除)
  • 2=解除権の使い方その1(540条=意思表示・撤回不可・条件)
  • 3=解除権の使い方その2(544条=全員から・全員に対して。共有物の貸借の解除は別)

今日の話を整理します。解除とは、一方的意思表示で契約を終わらせることです。法定解除、約定解除、合意解除は、合意したのが何かで見分けます。次に、540条です。解除は、意思表示でし、届いたら撤回できません。条件は、原則付けられませんが、相手方の行為で決まる条件は許されます。最後に、544条です。当事者が数人なら、全員から、全員に対してです。ただし、共有物の貸借の解除は管理行為で、持分の価格の過半数で決めます。ものさしに戻ります。誰が、誰に、いつまでに、何を言えば、契約は終わるのか。解除権があるときに、全員が、相手方に、意思表示を届ける。今日見たのは、そこまでです。

冒頭の答え合わせ。長男のAは、1人では解除できない。売主が3人なので、A、B、C全員からDに(544条1項)。 図:冒頭の答え合わせ

  • 長男のAは、1人では解除できない
  • 売主が3人なので、A、B、C全員からDに(544条1項)

冒頭の問いの答えです。長男のAは、1人では解除できません。売主が3人なので、A、B、Cの全員から、Dに対して、解除の意思表示をする必要があります。544条1項です。論文では、共有物の賃貸借の解除と544条1項の関係が、論点になりえます。

参照条文

  • 民法540条
  • 民法544条
  • 民法252条1項

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