民法ゼロから民法#239

解除権の消滅

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第5章 契約 #239/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

解除できるのに、黙っていたら

設例の関係図。兄弟のA、B、Cが、相続した山林を、Dに売った。Dは代金を払わない。A、B、Cは解除できる状態だが、何年も、解除するともしないとも言っていない。 図:設例の関係図

  • 兄弟のA、B、Cが、相続した山林を、Dに売った
  • Dは代金を払わない
  • A、B、Cは解除できる状態だが、何年も、解除するともしないとも言っていない

売主が解除できる状態のまま、何も言わずに時間だけが過ぎたら、買主はどうなるのでしょう。Dは、ずっと待つしかないのでしょうか。そもそも、解除権は、いつまで使えるのでしょうか?

先に、答えの方向を言います。解除権は、消えることがあります。相手方が返事を求めたのに、期間内に通知がなければ、消えます。時間が過ぎても、消えます。今日は、解除権がどんなときに消えるのかを、条文と判例で見ます。

今日の位置と、今日の話

前回までの確認。解除=当事者の一方が、一方的意思表示によって、相手方との契約を終わらせること。解除権があるときだけできる。届いた意思表示は撤回できない。当事者が数人なら、全員から・全員に対して。 図:前回までの確認

  • 解除=当事者の一方が、一方的意思表示によって、相手方との契約を終わらせること
  • 解除権があるときだけできる
  • 届いた意思表示は撤回できない
  • 当事者が数人なら、全員から・全員に対して

位置づけです。前回は、解除とは、当事者の一方が、一方的意思表示によって、相手方との契約を終わらせることだと見ました。解除権があるときにしかできず、意思表示が届いたら、撤回できません。当事者が数人いるときは、全員からでした。今日は、その解除権が、いつ消えるのかを見ます。

今日の地図。解除権が消える場面=1 相手方の催告(547条)。2 目的物を壊した(548条)。3 消滅時効。4 債務不履行の解消。数人のとき=1人について消えれば全員について消える(544条2項)。 図:今日の地図

  • 解除権が消える場面=1 相手方の催告(547条)
  • 2 目的物を壊した(548条)
  • 3 消滅時効
  • 4 債務不履行の解消
  • 数人のとき=1人について消えれば全員について消える(544条2項)

話は、解除権が消える場面が4つと、当事者が数人いるときの扱いの話が1つです。1つめ、相手方の催告。547条です。2つめ、解除権者が目的物を壊した場合。548条です。3つめ、消滅時効です。4つめ、債務不履行の解消です。そして最後に、数人のときの544条2項です。どういうときに解除権が生まれるのか、解除したら何が起きるのかは、別の回で見ます。

根拠の札。条文=法律に書いてあること。判例=最高裁の判決が実際に述べたこと。学説=学者が説明している考え方。こちらの説明=この動画が理解のために整理したこと。審議の資料=法制審議会の資料に書かれた説明として紹介。 図:根拠の札

  • 条文=法律に書いてあること
  • 判例=最高裁の判決が実際に述べたこと
  • 学説=学者が説明している考え方
  • こちらの説明=この動画が理解のために整理したこと
  • 審議の資料=法制審議会の資料に書かれた説明として紹介

今日も、根拠のふだを貼りながら話します。条文は、法律に書いてあること。判例は、最高裁の判決が実際に述べたことです。学説は、学者が説明している考え方です。こちらの説明は、この動画が理解のために整理したことです。もう1つ、改正の理由は、法制審議会の資料に書かれた説明として、「審議の資料には」と言って紹介します。

判断のものさし

判断のものさし。誰が、誰に、いつまでに、何を言えば、契約は終わるのか。解除権が生まれる=別の回。解除権を使う=前回。解除権が消える=今日。札=こちらの説明。 図:判断のものさし

  • 誰が、誰に、いつまでに、何を言えば、契約は終わるのか
  • 解除権が生まれる=別の回
  • 解除権を使う=前回
  • 解除権が消える=今日
  • 札=こちらの説明

ものさしは、1本です。誰が、誰に、いつまでに、何を言えば、契約は終わるのか。こちらの説明のふだです。今日は、いつまでに、の部分です。解除権があって、使い方が分かっていても、解除権が消えてしまえば、もう何を言っても、契約は終わりません。例は、冒頭の山林です。売主は兄弟のA、B、C、買主はDです。

相手方の催告——547条

1つめの場面、相手方の催告。547条は、何を求め、解除権をどうするのか。 図:1つめの場面、相手方の催告。547条は、何を求め、解除権をどうするのか。

1つめは、相手方の催告です。条文は、547条です。

条文民法547条

民法第547条 解除権の行使について期間の定めがないときは、相手方は、解除権を有する者に対し、相当の期間を定めて、その期間内に解除をするかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、その期間内に解除の通知を受けないときは、解除権は、消滅する。

547条の流れ。解除権が生じている→相手方が、相当の期間を定めて確答を催告→期間内に解除の通知がない→解除権は消滅。 図:547条の流れ

冒頭の山林で、流れを読みます。売主が3人のときの扱いは最後に見ますので、ここでは、売主がAだけだとします。解除権の行使に期間の定めがない。DがAに、相当の期間を定めて、解除するかどうか返事をください、と催告する。その期間内に、Aから解除の通知が届かない。すると、Aの解除権は消滅します。なぜ認めるのか。Dを、解除されるのか分からない状態に、長く置かないためです。こちらの説明のふだです。

催告の比べ。20条の催告=追認するかどうかの返事を求める。1か月以上の期間。547条の催告=解除するかどうかの返事を求める。相当の期間で、1か月の下限はない。541条の催告=債権者が債務者に、履行を求める。 図:催告の比べ

  • 20条の催告=追認するかどうかの返事を求める
  • 1か月以上の期間
  • 547条の催告=解除するかどうかの返事を求める
  • 相当の期間で、1か月の下限はない
  • 541条の催告=債権者が債務者に、履行を求める

返事を迫る催告は、前に、制限行為能力者の相手方のところでも見ました。制限行為能力者と契約した相手方が、追認するかどうかの返事を求める、20条の催告です。あちらは1か月以上の期間が要りました。547条は相当の期間で、1か月という下限はありません。条文のふだです。また、541条にも催告が出てきますが、別物です。541条の催告は、債権者が債務者に、履行してください、と求めるものです。547条の催告は、相手方が解除権者に、解除するのかしないのか、返事を求めるものです。

547条の流れ。解除権が生じている→相手方が、相当の期間を定めて確答を催告→期間内に解除の通知がない→解除権は消滅。 図:547条の流れ

冒頭の問いに、ここで半分答えられます。Dは、待つしかないわけではありません。Dの側から期間を切って返事を求め、通知が届かなければ、解除権は消えます。催告をしないまま時間だけが過ぎた場合は、3つめで見ます。

目的物を壊した場合——548条

2つめの場面、目的物を壊した場合。548条は、どんなときに解除権を消すのか。 図:2つめの場面、目的物を壊した場合。548条は、どんなときに解除権を消すのか。

2つめは、解除権者が目的物を壊した場合です。条文は、548条です。項は1つだけで、本文とただし書があります。

条文民法548条

民法第548条 解除権を有する者が故意若しくは過失によって契約の目的物を著しく損傷し、若しくは返還することができなくなったとき、又は加工若しくは改造によってこれを他の種類の物に変えたときは、解除権は、消滅する。ただし、解除権を有する者がその解除権を有することを知らなかったときは、この限りでない。

548条の構造。本文=解除権を有する者が、故意若しくは過失によって、目的物を著しく損傷し、返還できなくなり、又は加工・改造で別の物に変えたとき→解除権は消滅。ただし書=解除権を有することを知らなかったとき→消滅しない。 図:548条の構造

  • 本文=解除権を有する者が、故意若しくは過失によって、目的物を著しく損傷し、返還できなくなり、又は加工・改造で別の物に変えたとき→解除権は消滅
  • ただし書=解除権を有することを知らなかったとき→消滅しない

本文から。解除権を有する者が、故意若しくは過失によって、目的物を著しく損傷した。返還できなくなった。加工や改造で、別の種類の物に変えた。このとき、解除権は消滅します。わざとでなくても、不注意で足ります。なぜ消えるのか。元に戻せなくしたのは、解除権者自身だからです。こちらの説明のふだです。次に、ただし書です。解除権を有することを知らなかったときは、消滅しません。なぜか。解除権があると知らないまま使ってしまった人から、解除権を奪うのは酷だからです。改正の審議の資料にも、同じ指摘があります。

設例。中古車の売買。エンジンに重大な欠陥があり、買主に解除権が生じている。買主は、欠陥があって解除できることを知りながら、不注意で壊して直せなくした=解除権は消える(本文)。欠陥も、解除できることも知らないまま、同じく不注意で壊して直せなくした=解除権は消えない(ただし書)。 図:設例

  • 中古車の売買
  • エンジンに重大な欠陥があり、買主に解除権が生じている
  • 買主は、欠陥があって解除できることを知りながら、不注意で壊して直せなくした=解除権は消える(本文)
  • 欠陥も、解除できることも知らないまま、同じく不注意で壊して直せなくした=解除権は消えない(ただし書)

たとえば、中古車の売買で言います。エンジンに重大な欠陥があり、買主に解除権が生じています。買主が、欠陥があって解除できることを知りながら、不注意でエンジンを壊して、直せなくしました。この買主の解除権は、本文により消えます。一方、欠陥も、解除できることも知らないまま、同じように不注意でエンジンを壊して、直せなくした買主は、解除権が消えません。ただし書の働きです。分かれ目は、解除権があることを知っていたかどうかです。条文のふだと、こちらの説明のふだです。

548条の改正。2017年の改正で、ただし書が加わった。旧法には、解除権者の行為又は過失によらずに目的物が滅失・損傷したときは消滅しない、という2項があった。現行は2項がなく、本文は「故意若しくは過失」。 図:548条の改正

  • 2017年の改正で、ただし書が加わった
  • 旧法には、解除権者の行為又は過失によらずに目的物が滅失・損傷したときは消滅しない、という2項があった
  • 現行は2項がなく、本文は「故意若しくは過失」

改正にも触れます。2017年の改正で、このただし書が加わりました。旧法には、解除権者の行為又は過失によらずに、目的物が滅失したり損傷したりしたときは、解除権が消えない、という2項がありました。現行は、2項がなく、本文は故意若しくは過失、ただし書は知らなかったとき、という形です。2項がなくなっても、結論は変わりません。本文が故意若しくは過失を求めていますから、解除権者に落ち度がないまま、たとえば落雷で車が焼けたときは、本文に当たらず、解除権は消えません。条文のふだと、こちらの説明のふだです。なお、解除したあとの原状回復は、別の回で見ます。

消滅時効

3つめ、消滅時効。166条1項=債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。 一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。 二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。 図:3つめ、消滅時効

  • 166条1項=債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する
  • 一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき
  • 二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき

3つめは、消滅時効です。解除権は、債権そのものではありません。しかし、解除権だけがいつまでも残れば、相手方は、契約が続くのか終わるのか、分からないままになります。そこで、債権に準ずるものとして、166条1項により、消滅時効にかかると解されています。理由はこちらの説明のふだ、結論は学説のふだです。当てはめると、解除権を行使することができると知った時から5年、行使することができる時から10年です。前に見た、主観的起算点と客観的起算点でした。どちらか早く満了したほうで、時効が完成します。ただ、期間が過ぎただけでは、解除権は消えません。相手方が援用、つまり、時効の利益を受けると主張する意思表示をして、初めて効力が出ます。

無断転貸を理由とする解除権の消滅時効。転借人が、賃借人との転貸借に基づき、土地の使用収益を開始した。その後、賃貸人が、無断転貸を理由に解除の意思表示をした。解除された側が消滅時効を援用した。 図:無断転貸を理由とする解除権の消滅時効

  • 転借人が、賃借人との転貸借に基づき、土地の使用収益を開始した
  • その後、賃貸人が、無断転貸を理由に解除の意思表示をした
  • 解除された側が消滅時効を援用した

判例を見ます。無断転貸、つまり、借主が貸主に無断で土地を又貸ししたことを理由とする、賃貸借の解除権が問題になりました。前回、個別の規定による解除の例として見た、612条2項の解除権です。又貸しを受けた転借人は、賃貸人の承諾がないまま、その土地の使用収益を始めていました。それから25年以上が過ぎたあとに、賃貸人が解除の意思表示をしました。解除された側は、消滅時効を援用しました。判決が述べたことは3つです。解除権はどんな権利か。時効にかかるのか。いつから時効が進むのか。なお、判決は改正前の条文で書かれています。今の条文との対応は、読んだあとで整理します。

判例最高裁判所第一小法廷判決 昭和62年10月8日(民集41巻7号1445頁)(判旨は改正前の民法167条1項〔債権は、十年間行使しないときは、消滅する。〕)

無断転貸を理由とする解除権の消滅時効 賃貸土地の無断転貸を理由とする賃貸借契約の解除権は、賃借人の無断転貸という契約義務違反事由の発生を原因として、賃借人を相手方とする賃貸人の一方的な意思表示により賃貸借契約関係を終了させることができる形成権であるから、その消滅時効については、債権に準ずるものとして、民法一六七条一項が適用され、その権利を行使することができる時から一〇年を経過したときは時効によつて消滅するものと解すべきところ、右解除権は、転借人が、賃借人(転貸人)との間で締結した転貸借契約に基づき、当該土地について使用収益を開始した時から、その権利行使が可能となつたものということができるから、その消滅時効は、右使用収益開始時から進行するものと解するのが相当である。

3つを確かめます。1つめ、解除権は、一方的な意思表示で契約関係を終了させる、形成権です。2つめ、債権に準ずるものとして、消滅時効にかかります。3つめ、無断転貸の解除権は、転借人が使用収益を始めた時から、権利行使が可能になり、時効が進みます。この事案では、10年の経過で解除権が時効により消え、解除の意思表示は効力を生じない、とされました。判例のふだです。

判旨の条文との対応。判旨の167条1項=改正前の条文(債権は、十年間行使しないときは、消滅する)。現行=166条1項の5年と10年。判決が述べたのは、改正前の10年の話。 図:判旨の条文との対応

  • 判旨の167条1項=改正前の条文(債権は、十年間行使しないときは、消滅する)
  • 現行=166条1項の5年と10年
  • 判決が述べたのは、改正前の10年の話

条文との対応に注意してください。判旨の167条1項は、改正前の条文です。債権は10年間行使しないときは消滅する、という定めでした。現行では、166条1項の、5年と10年の2本立てに当たります。判決が述べたのは、改正前の10年の話です。現行の5年を、判例が判断したわけではありません。取消権の期間の制限は、通説が除斥期間と読むものでした。除斥期間は、前に見たとおり、援用が要らず、期間がすぎれば当然に権利が消えます。解除権は、同じ形成権でも、さきほどの判例が消滅時効としていますから、相手方の援用があって初めて消えます。ここが違いです。

債務不履行の解消

4つめ、債務不履行の解消。履行遅滞の債務者が、解除権を行使される前に、本来の給付に遅延損害金を添えて提供すれば、解除権は消える。 図:4つめ、債務不履行の解消

4つめは、債務不履行の解消です。履行が遅れている債務者が、解除権を行使される前に、本来の給付に遅延損害金を添えて提供すれば、解除権は消える、と考えられています。学説のふだです。なぜか。この解除権は、債務者が履行を遅らせていることを理由に生まれたものです。前に見た弁済の提供、つまり、やるべきことを全部やって、あとは債権者が受け取るだけの状態にすれば、債務者は、その時から、履行しないことによる責任を免れます。遅れているという理由がなくなる、つまり不履行が解消されるので、解除権も消えるのです。こちらの説明のふだです。ポイントは、遅延損害金も要る点と、行使される前、という点です。

事案の時間軸。賃料を持参して提供(3月29日)→受領拒絶され、弁済供託(4月4日)→解除の意思表示が届く(5月17日)。遅延損害金の不足は12円70銭。 図:事案の時間軸

  • 賃料を持参して提供(3月29日)→受領拒絶され、弁済供託(4月4日)→解除の意思表示が届く(5月17日)
  • 遅延損害金の不足は12円70銭

判例です。賃料が遅れた事案でした。借主は、解除の意思表示が届くより前に、3か月分の賃料を持参して提供しました。貸主が受け取らなかったので、供託、つまり、供託所にその金額を預ける手続をしました。ところが、遅延損害金は付けていませんでした。3か月分の賃料1,620円に対して、不足は、12円70銭でした。原審は、遅延損害金の提供がないとして、提供を無効としました。最高裁が述べたことは2つです。遅延損害金も付けなければならないのか。付けた額がわずかに足りないとき、どうなるのか。

判例最高裁判所第三小法廷判決 昭和41年3月29日(集民82号785頁)

解除の前の履行の提供と、遅延損害金 ……履行遅滞にある債務者が、債権者から解除権を行使されるまでにその債務の履行をするためには、債務額のほか、遅延損害金をもあわせて提供しなければ、債務の本旨に従つたものということができない……債務者が現に支払いまたは提供した金額についてきわめてわずかな不足があるに過ぎないときは、債権者において、その不足に名をかりて債務の本旨に従つた弁済の提供がないものとしてその受領を拒絶することは信義則に照らし許されないものと解するのが相当である。

2つを確かめます。1つめ、解除権を行使されるまでに履行するには、債務額のほか、遅延損害金も合わせて提供しなければ、債務の本旨、つまり、債務の本来の内容に従ったものとはいえません。遅れた分の損害金も、払うべき債務の一部だからです。2つめ、ごくわずかな不足を口実に、債権者が受領を拒むことは、信義則に照らして許されません。最高裁は、原判決を破棄して、差し戻しました。判例のふだです。損害金も債務の一部だから、という理由の部分は、こちらの説明のふだです。注意点が2つあります。判決が述べたのは、提供が債務の本旨に従ったものといえるか、までです。解除権が消滅する、という言い方は、判決そのものではなく、学説の整理です。もう1つ、行使される前、です。解除の意思表示が届いたあとは、540条2項により、撤回できません。あとから提供しても、元には戻りません。こちらの説明のふだです。

このほか、権利失効。長く行使しなかったために、相手方がもう行使されないと信頼したのに、その後に行使することが信義則に反する場合は、行使が許されない。長く行使しなかっただけでは足りない。 図:このほか、権利失効

  • 長く行使しなかったために、相手方がもう行使されないと信頼したのに、その後に行使することが信義則に反する場合は、行使が許されない
  • 長く行使しなかっただけでは足りない

このほかに、前に見た、権利失効の原則があります。権利者が長く権利を行使しなかったために、相手方が、もう行使されないだろうと信頼するに至ったのに、その後に行使することが信義則に反する場合には、行使が許されない、というものでした。解除権についても、最高裁は一般論としてこの考え方を認めています。ただし、長く行使しなかっただけでは足りず、適用には慎重です。判例のふだです。

数人いるときの解除権——544条2項

前回の544条1項の確認。売主が3人(A、B、C)の売買。解除は、全員から、全員に対して。では、3人のうち1人について、解除権が消えたら、残りの2人は解除できるか。 図:前回の544条1項の確認

  • 売主が3人(A、B、C)の売買
  • 解除は、全員から、全員に対して
  • では、3人のうち1人について、解除権が消えたら、残りの2人は解除できるか

前回に見た544条1項は、売主が3人なら、解除は全員からでした。では、そのうちの1人について、解除権が消えたとします。残りの2人は、解除できるでしょうか?解除権を1人ずつ別々に持っていると考えれば、残る2人は解除できるはずです。ところが、条文は逆です。544条を、出し直します。

条文民法544条

民法第544条 当事者の一方が数人ある場合には、契約の解除は、その全員から又はその全員に対してのみ、することができる。 2 前項の場合において、解除権が当事者のうちの一人について消滅したときは、他の者についても消滅する。

数人いるときの解除権。1項=全員から、又は全員に対してのみ。2項=解除権が当事者のうちの一人について消滅したときは、他の者についても消滅する。 図:数人いるときの解除権

  • 1項=全員から、又は全員に対してのみ
  • 2項=解除権が当事者のうちの一人について消滅したときは、他の者についても消滅する

1項は、前回のとおり、全員から、全員に対してしかできない、という定めです。今日は2項です。解除権が、当事者のうちの1人について消滅したときは、他の者についても消滅する。なぜか。1項で、解除は全員がそろわなければできません。1人が解除権を失えば、全員がそろうことは、もうありません。残りの人だけに解除を認めれば、前回見たとおり、人によって契約が残ったり終わったりしてしまいます。ですから、解除権は、数人で1つのように動くのです。こちらの説明のふだです。冒頭の山林で言えば、Aの解除権が消えれば、B、Cの解除権も消えます。先ほどの問いの答えは、残る2人も解除できない、です。

設例。買主のE、F、Gが、売主のHから、共同で中古の機械を買った。機械に重大な欠陥があり、3人に解除権が生じた。Eが、欠陥があって解除できることを知りながら、不注意で機械を壊し、直せなくした。 図:設例

  • 買主のE、F、Gが、売主のHから、共同で中古の機械を買った
  • 機械に重大な欠陥があり、3人に解除権が生じた
  • Eが、欠陥があって解除できることを知りながら、不注意で機械を壊し、直せなくした

1人だけ解除権が消える場面を、買主が数人の例で見ます。兄弟のE、F、Gの3人が、共同で中古の機械を買いました。売主はHです。機械には重大な欠陥があり、3人に解除権が生じました。ところが、Eが、欠陥があって解除できることを知りながら、不注意で機械を壊して、直せなくしました。

帰結。Eの解除権は消滅(548条本文)。544条2項により、F、Gの解除権も消滅。Eが解除できることを知らなかったなら、ただし書でEの解除権は消えず、F、Gも消えない。 図:帰結

  • Eの解除権は消滅(548条本文)
  • 544条2項により、F、Gの解除権も消滅
  • Eが解除できることを知らなかったなら、ただし書でEの解除権は消えず、F、Gも消えない

Eの解除権は、548条本文により消滅します。そして、544条2項により、F、Gの解除権も消滅します。Eの不注意で、F、Gまで解除できなくなる。これが、この条文の厳しさです。条文のふだと、こちらの説明のふだです。なお、Eが解除できることを知らなかったなら、ただし書によりEの解除権は消えません。すると、F、Gの解除権も消えません。

確かめる——場面を変えた問い

確かめるその1。貸主が土地を借主に貸していて、借主が無断で第三者に又貸しし、その第三者が土地を使い始めた。1=貸主はそれを知りながら6年間、何もしなかった。解除権はどうなるか。2=場面を変えて、借主が賃料を滞納し、解除の通知が届いた後で、滞納賃料と遅延損害金を全額提供した。解除は元に戻るか。 図:確かめるその1

  • 貸主が土地を借主に貸していて、借主が無断で第三者に又貸しし、その第三者が土地を使い始めた
  • 1=貸主はそれを知りながら6年間、何もしなかった
  • 解除権はどうなるか
  • 2=場面を変えて、借主が賃料を滞納し、解除の通知が届いた後で、滞納賃料と遅延損害金を全額提供した
  • 解除は元に戻るか

事例で確かめます。貸主が、土地を借主に貸しています。借主は、無断で第三者に又貸しし、その第三者が土地を使い始めました。1つめ。貸主は、それを知りながら、6年間、何もしませんでした。解除権はどうなりますか? 2つめは、場面を変えます。借主が賃料を滞納し、解除の通知が借主に届いたあとで、借主が、滞納した賃料と遅延損害金を、全額提供しました。解除は、元に戻りますか?

答えその1。1=時効にかかる(知った時から5年。借主が援用すれば解除権は消える。債権に準ずるものとして166条1項)。2=戻らない(提供は、解除権を行使される前に限る。届いた意思表示は撤回できない=540条2項)。 図:答えその1

  • 1=時効にかかる(知った時から5年。借主が援用すれば解除権は消える。債権に準ずるものとして166条1項)
  • 2=戻らない(提供は、解除権を行使される前に限る。届いた意思表示は撤回できない=540条2項)

1つめは、解除権を行使できると知った時から5年が過ぎているので、消滅時効にかかります。借主が援用すれば、解除権は消えます。学説のふだです。2つめは、戻りません。債務不履行の解消は、解除権を行使される前の話です。届いた解除の意思表示は、540条2項により撤回できず、あとから提供しても、解除は元に戻りません。

確かめるその2。古いピアノの売買。重大な欠陥があり、買主に解除権が生じている。買主は、欠陥があることも、解除権があることも知らないまま、手入れのつもりで不注意に部品を外し、元に戻せなくした。買主の解除権は消えるか。 図:確かめるその2

  • 古いピアノの売買
  • 重大な欠陥があり、買主に解除権が生じている
  • 買主は、欠陥があることも、解除権があることも知らないまま、手入れのつもりで不注意に部品を外し、元に戻せなくした
  • 買主の解除権は消えるか

最後です。古いピアノの売買です。ピアノには重大な欠陥があり、買主に解除権が生じています。ところが買主は、欠陥があることも、解除権があることも知らないまま、手入れのつもりで、不注意に部品を外して、元に戻せなくしました。買主の解除権は、消えますか?

答え。消えない(解除権を有することを知らなかったとき=548条ただし書)。知っていたなら消える(本文)。分かれ目は、解除権があることを知っていたかどうか。 図:答え

  • 消えない(解除権を有することを知らなかったとき=548条ただし書)
  • 知っていたなら消える(本文)
  • 分かれ目は、解除権があることを知っていたかどうか

不注意で元に戻せなくした点は、本文の場面です。ところが、買主は、解除権を有することを知りませんでした。ですから、ただし書により、解除権は消えません。分かれ目は、不注意かどうかではなく、解除権があることを知っていたかどうかです。条文のふだと、こちらの説明のふだです。

冒頭の問いに戻る——まとめ

解除権が消える場面。1=相手方の催告(547条)。2=故意・過失による損傷等(548条。知らなかったときは消えない)。3=消滅時効(債権に準ずるものとして166条1項)。4=債務不履行の解消(本来の給付と遅延損害金の提供)。数人のとき=1人について消えれば全員について消える(544条2項)。 図:解除権が消える場面

  • 1=相手方の催告(547条)
  • 2=故意・過失による損傷等(548条。知らなかったときは消えない)
  • 3=消滅時効(債権に準ずるものとして166条1項)
  • 4=債務不履行の解消(本来の給付と遅延損害金の提供)
  • 数人のとき=1人について消えれば全員について消える(544条2項)

今日の話を整理します。解除権が消える場面は4つです。相手方の催告。目的物を壊した場合。消滅時効。債務不履行の解消。そして、当事者が数人のときは、1人の解除権が消えれば、全員の解除権も消えます。ものさしに戻ります。誰が、誰に、いつまでに、何を言えば、契約は終わるのか。いつまでに、の答えが、今日の話でした。解除権は、催告で、目的物を壊すことで、時効で、債務不履行の解消で、消えます。消える前に、言わなければなりません。

冒頭の答え合わせ。Dは、待つしかないわけではない。Dが、相当の期間を定めて確答を求め、期間内に解除の通知がなければ、解除権は消える(547条)。時間が過ぎても消える(知った時から5年・行使できる時から10年。相手方の援用が要る)。 図:冒頭の答え合わせ

  • Dは、待つしかないわけではない
  • Dが、相当の期間を定めて確答を求め、期間内に解除の通知がなければ、解除権は消える(547条)
  • 時間が過ぎても消える(知った時から5年・行使できる時から10年。相手方の援用が要る)

冒頭の問いの答えです。A、B、Cが、いつまでも黙っていても、Dは、待つしかないわけではありません。Dが、相当の期間を定めて、解除するかどうかの返事を求め、その期間内に解除の通知が届かなければ、解除権は消えます。547条です。そうでなくても、時間がすぎれば、消滅時効にかかります。解除権を行使できると知った時から5年、行使できる時から10年です。論文では、解除権の消滅事由の拾い方と、544条2項の働きが、論点になりえます。次回は、解除したら、受け取ったものはどうなるかを見ます。

参照条文

  • 民法547条
  • 民法548条
  • 民法544条

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