解除の効果と原状回復義務
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第5章 契約 #240/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
解除したら、返すのは受け取った物だけか
図:冒頭の設例の関係図
- 左が売主のA、右が買主のB
- 中古車を代金100万円で売る契約
- Bは頭金30万円を払って車を受け取り、半年乗った
- 残りの70万円は払われないまま、Aが契約を解除した
図:冒頭の問いの答えの方向
- Bが返すもの=車+半年乗った分の使用料に当たる額
- Aが返すもの=頭金+受け取った時からの利息
先に、答えの方向を言います。車と頭金を返すだけでは、足りません。Bは、車のほかに、半年乗った分の使用料に当たる額も返します。Aは、頭金のほかに、受け取った時からの利息も返します。なぜ、そうなるのか。その前に、そもそも、解除すると契約はどうなるのか。今日は、ここから順に見ていきます。
今日の位置と、3つの話
図:今日の位置
- 前回まで=解除とは何か/解除権の使い方/解除権がいつ消えるか
- 今日=解除の効果・原状回復(民法545条・546条)
位置づけです。前回までに、解除とは何か、どう使うのか、いつ消えるのかを見ました。今日は、解除したら何が起きるのか、つまり解除の効果です。前に、危険負担で払ってしまった代金を取り戻す道として、545条1項を一度引きました。その545条を、今日は4項まで読みます。
図:今日の地図
- 1=解除すると契約はどうなるか(直接効果説)
- 2=何を返すのか(545条1項から3項・使用利益・返せないとき)
- 3=返し方と、返したあとに残るもの(546条・保証人・545条4項)
話は3つです。1つめ、解除すると契約はどうなるか。ここで、直接効果説という考え方が出てきます。2つめ、何を返すのか。545条の1項から3項と、使用利益の判例です。3つめ、返し方と、返したあとに残るもの。546条、保証人、545条4項です。
図:根拠の札
- 条文=法律に書いてあること
- 判例=最高裁の判決が実際に述べたこと
- 学説=学者が説明している考え方
- こちらの説明=この動画が理解のために整理したこと
- 審議の資料=法制審議会の資料に書かれた説明として紹介
今日も、根拠のふだを貼りながら話します。条文は、法律に書いてあること。判例は、最高裁の判決が実際に述べたことです。学説は、学者が説明している考え方です。こちらの説明は、この動画が理解のために整理したことです。もう1つ、改正の理由は、法制審議会の資料に書かれた説明として、「審議の資料には」と言って紹介します。
図:今日を通す軸
- 契約がなかった状態に戻す
- 何を返すのか/どう返すのか/何が残るのか=すべてこの軸から説明する
- 札=こちらの説明
例は、冒頭の中古車で通します。売主がA、買主がBです。今日を通す軸は、1本です。契約がなかった状態に戻す、です。何を返すのか、どう返すのか、何が残るのか。どれも、この軸から説明できます。こちらの説明のふだです。
解除すると、契約はどうなるのか
図:1つめの柱の入口。条文は、解除した人に何を求めているのか。
1つめの柱です。まず、545条を読みます。1項から順に、使う場面で出していきます。
条文民法545条1項
民法第545条1項 当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。
本文です。解除権を行使したときは、各当事者は、相手方を原状に復させる義務を負います。原状に復させるとは、受け取ったものを返して、契約がなかった状態に戻すことです。この義務を、原状回復義務と呼びます。条文のふだです。契約が解除でどうなるかは、条文に書いていません。ここが、1つめの柱の出発点です。ですから、考え方で決まります。
図:直接効果説
- 解除によって、契約は遡及的に消滅する
- 理由=契約がなかった状態に戻す、という解除の目的に、最も端的で簡明に合う
- 札=学説(通説)
通説は、直接効果説です。解除によって、契約は遡及的に消滅する、と考えます。遡って消えるとは、契約を結んだ時にさかのぼって、はじめからなかったものとして扱う、という意味です。学説、つまり学者が説明している考え方のふだです。なぜそう考えるのか。解除の目的は、契約がなかった状態に戻すことです。契約がはじめからなかったと考えるのが、その目的に、いちばん素直に合うからです。
図:最高裁の言い方
- 使用利益の判決は、解除によって売買契約が遡及的に効力を失う、と述べている(あとで読む)
- 直接効果説という呼び名は、判決のものではなく、学説の整理
- 札=判例/学説
最高裁も、この前提に立っています。あとで読む判決は、解除によって売買契約が遡及的に効力を失う、と述べています。判例、つまり最高裁の判決が実際に述べたことのふだです。ただし、直接効果説という呼び名は、判決のものではありません。学説の整理です。
図:冒頭の設例で言い直す
- 解除によって、AとBの売買契約は、はじめからなかったものとして扱われる
- ただし書=遡って消えると困る第三者を守る(次の回)
冒頭のAとBで言い直します。解除によって、AとBの売買契約は、はじめからなかったものとして扱われます。なお、1項のただし書は、遡って消えると困る第三者を守る定めです。
図:問い。契約が遡って消えるなら、Bの残代金70万円は、どうなるか。
ここからは、契約が遡って消えると何が言えるかを、AとBで見ていきます。まず、問いです。契約が遡って消えるなら、Bがまだ払っていない、残りの代金70万円は、どうなるでしょうか?
図:帰結その1
- まだ履行していない債務は消える
- Bの残代金70万円の債務は、遡って消滅する
- Aはもう請求できない
- 札=学説(直接効果説の帰結)
帰結の1つめです。まだ履行していない債務は、消えます。債務を生んだ契約そのものが、はじめからなかったことになるからです。Bの残代金70万円を払う債務も、遡って消滅します。Aは、もう70万円を請求できません。直接効果説から出てくる結論で、学説のふだです。
図:帰結その2
- すでに受け取ったものは、持っている理由がなくなる=返す
- Bの車も、Aの頭金も返す
- この義務=原状回復義務
- 性質=不当利得返還債務(法律上の原因なく得た利益を返す義務)
- 札=学説
2つめです。すでに受け取ったものは、持っている理由がなくなります。契約がはじめからなかったなら、Bが車を持つ理由も、Aが頭金を持つ理由もありません。ですから返します。この返す義務が、さきほどの原状回復義務です。性質は、不当利得返還債務だと説明されます。法律上の原因がないのに得た利益を、返す義務のことです。学説のふだです。不当利得の一般的な話は、別の回で見ます。
図:帰結その3
- それでも損害賠償は請求できる(545条4項)
- 遡って契約が消えるなら、払わなかったこともなかったことになりそうだが、条文が例外を置いた
- 札=条文/学説
3つめです。それでも、損害賠償は請求できます。契約が遡って消えるなら、Bが払わなかったことも、なかったことになりそうです。それでは、払わなかったBが得をしてしまいます。そこで、545条4項が、解除をしても損害賠償を請求できる、と定めました。直接効果説からは、遡って消えることの例外だ、と説明されます。条文と学説のふだです。4項は、3つめの柱で、あらためて読みます。
図:3つの考え方の比べ
- 直接効果説(通説)=契約は遡及的に消滅/未履行の債務は消える/原状回復義務は不当利得返還債務/ただし書は第三者を守る・4項は遡及効の例外
- 間接効果説(少数説)=契約は消えない/未履行の債務は消えず、履行を拒める/解除で生じた新しい義務/ただし書と4項は注意規定
- 折衷説=間接効果説とおおむね同じで、未履行の債務は将来に向かって消滅する
- 札=学説
ほかの考え方も、見ておきます。少数説に、間接効果説があります。解除しても契約は消えない、と考えます。未履行の債務も消えず、Bは払わなくてよい、つまり履行を拒めるようになるだけだ、とします。原状回復義務は、不当利得ではなく、解除によって生じた新しい義務です。ただし書と4項は、当たり前のことを書いた注意の規定だ、と読みます。契約が消えないのですから、損害賠償が残るのは当たり前で、例外を持ち出さずに済む、というわけです。折衷説は、間接効果説とほぼ同じですが、未履行の債務は、将来に向かって消える、とします。
図:違いが出る3点
- 1=未履行の債務が消えるか
- 2=原状回復義務の性質
- 3=ただし書と4項の読み方
- 答案は、通説の直接効果説で書く
- 札=学説/こちらの説明
違いが出る場所は、3つです。未履行の債務が消えるか。原状回復義務をどういう性質の義務と見るか。ただし書と4項をどう読むか。学説のふだです。答案は、通説の直接効果説で書きます。解除の目的にいちばん素直で、最高裁の判決も、契約は遡及的に効力を失う、という前提に立っているからです。こちらの説明のふだです。
図:取消しとの違い
- 取消し=契約の有効性の問題(出発点に欠陥がある)
- 民法121条=取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす
- 解除=有効に成立した契約が前提
- 効果=遡及的に消滅
- 札=学説
取消しとの違いを、確かめます。取消しは、契約の出発点にある欠陥を理由に、いったん有効な契約を、遡って無効にするものでした。契約の有効性の問題です。121条は、取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす、と定めます。解除は、有効に成立した契約が前提で、その後の事情で終わらせます。効果は、遡及的な消滅です。答案では、解除によって契約が無効になる、とは書かず、遡って消滅する、と書き分けます。学説のふだです。
図:1つめの柱のまとめ
- 解除=契約は遡って消える(直接効果説)
- 1=未履行の債務は消える
- 2=受け取ったものは返す(原状回復義務)
- 3=損害賠償は残る(545条4項)
1つめの柱を、まとめます。解除すると、契約は遡って、消えます。だから、まだ履行していない債務は消え、受け取ったものは返し、それでも損害賠償は残ります。では、返すのは、具体的に何なのでしょうか。2つめの柱に進みます。
何を返すのか(1)原物・利息・果実
図:2つめの柱の入口。AとBは、何を返すのか。受け取ったものだけか。
図:返す中身の一覧
受け取ったものを返すだけでは、元に戻りません。Bは半年のあいだ、車を使え、Aは半年のあいだ30万円を手元に置けました。契約がなかった状態に戻すには、その時間の分も戻します。返す中身は、5つに分けて見ます。原物、金銭の利息、果実、使用利益、そして、返せないときです。はじめの3つは条文があり、使用利益は判例です。返せないときには、条文がありません。
図:1つめ、原物
- Bは車そのものを返す
- Aは受け取った頭金30万円を返す
- 金銭は同額の金銭
- 根拠=1項の「原状に復させる」
1つめは、原物です。受け取ったものを、そのまま返すのが原則で、原物を返還する、と言います。Bは車そのものを、Aは受け取った頭金30万円を返します。物を受け取ったなら、その物。金銭なら、同じ額の金銭です。1項の、原状に復させる、が根拠です。条文と学説のふだです。
図:2つめの入口。Aが返す頭金30万円に、利息は付くか。
2つめは、金銭の利息です。Aが返す頭金30万円に、利息は付くのでしょうか。2項を読みます。
条文民法545条2項
民法第545条2項 2 前項本文の場合において、金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付さなければならない。
前項本文の場合、つまり原状回復の場合に、金銭を返還するときは、受領の時から利息を付さなければならない、です。冒頭のAなら、頭金30万円に、受け取った日からの利息が付きます。条文は、善意か悪意かで分けていません。Aが、自分のお金のつもりで使っていたとしても、付きます。条文のふだです。
図:民法404条
- 1項=利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、その利息が生じた最初の時点における法定利率による
- 2項=法定利率は、年三パーセントとする
- 3項=前項の規定にかかわらず、法定利率は、法務省令で定めるところにより、三年を一期とし、一期ごとに、次項の規定により変動するものとする
利率は、特約がなければ、法定利率になる、と考えます。404条1項は、別段の意思表示がないときは、利息が生じた最初の時点における法定利率による、と定めます。2項は、年率3パーセントを出発点とし、3項で、3年を一期として見直されます。利率の数字は、その時点の法定利率を確かめてください。404条の内容は条文のふだ、2項の利息に404条を当てはめるところは、こちらの説明のふだです。なぜ、受領の時からなのか。契約が遡って消えるなら、Aは、受け取った時から、法律上の原因なく、Bのお金を持っていたことになるからです。こちらの説明のふだです。
図:3つめの前に確認。天然果実と法定果実の違いは何だったか。
3つめの果実に入る前に、前に見たことを、ひとつ復習します。物から生まれる収益を果実と言い、2種類ありました。天然果実と法定果実の違いは、何でしたか?
図:民法88条
- 1項=物の用法に従い収取する産出物を天然果実とする
- 2項=物の使用の対価として受けるべき金銭その他の物を法定果実とする
88条が、この2つを定めています。1項が天然果実で、物の用法に従い収取する産出物。2項が法定果実で、物の使用の対価として受けるべき金銭その他の物です。この果実を、3項が返すものに入れています。
条文民法545条3項
民法第545条3項 3 第一項本文の場合において、金銭以外の物を返還するときは、その受領の時以後に生じた果実をも返還しなければならない。
第1項本文の場合に、金銭以外の物を返還するときは、受領の時以後に生じた果実をも返還しなければならない、です。物を返すときは、その物から生まれた果実も返還する、ということです。条文のふだです。
図:場面を変える
- Bは、受け取った車を友人Cに貸して、賃料を得ていた
- Bは車を返すとき、受領の時以後に得た賃料も返す
- 賃料=法定果実
場面を変えます。Bが、受け取った車を、友人のCに貸して、賃料を得ていたとします。賃料は、物を使わせた対価ですから、法定果実です。Bは、Aに車を返すときに、受領の時以後に得た賃料も返します。
図:3項の改正
- 改正前の条文は、利息のことしか書いていなかった
- 2017年の改正で、利息以外の果実も返還することを、条文に明記した
- それまでの扱いは変えない
- 札=審議の資料の説明
3項は、2017年の民法改正で、明文になりました。改正前の条文は、利息のことしか書いていませんでした。金銭以外の物の果実は、解釈で返すとされていました。審議の資料には、利息以外の果実も返さなければならないことを、条文の上でも明記して趣旨を明確にするもので、それまでの扱いは変えない、と説明されています。
何を返すのか(2)使用利益
図:問い。Bが自分で半年乗った分を返す根拠は、545条の1項から3項のどこにあるか。
4つめです。問いから入ります。Bは、車を人に貸さず、自分で半年乗りました。冒頭で、乗った分も返す、と答えを先に言いました。では、その根拠は、いま読んだ1項から3項の、どこにあるでしょうか?
図:使用利益
- 物を使って得た利益
- 明文なし
- 自分で使った分は、判例により返す
- 測り方=借りていたら払ったはずの使用料
1項から3項のどこにも、自分で使った分の定めはありません。ですが、判例は、返す、としています。この分を、使用利益と言います。物を使って得た利益のことです。判例を、読んでみます。
図:判例の事案の関係図
- 売主のA(中古自動車の販売業者)が、買主のBに中古車を転売
- Bは代金57万5000円を全額払い、引渡しを受けた
- 車は、販売金融会社Cが分割払いで売り、払い終わるまで所有権を自分に残していたもの(所有権留保)で、名義もCのまま
事案は、冒頭の中古車とは別の事件です。ここでも、売主をA、買主をBと呼びます。中古自動車の販売業者のAが、ほかの人から買い受けた車を、Bに転売しました。Bは、代金57万5000円を全額払って、車の引渡しを受けました。ところが、その車は、販売金融会社のCが、代金を分割で払わせ、払い終わるまでは所有権を自分に残す、という約束で売ったもので、名義もCのままでした。Aに車を売った人には、車を処分する権限がなかったのです。
図:事案の続き
- Cが裁判所の手続(仮処分)をとり、車はBから引き揚げられた
- Bは当時の民法561条(他人の権利の売買で、買主が解除できる定め)により売買を解除した
- 問い=解除までの間に使った利益を、買主が売主に返すのか
Cは、仮処分、つまり、裁判の結論が出るまでの間、裁判所に仮の措置をとってもらう手続をとり、車は、Bの手元から引き揚げられました。Bは、そこで初めて、車がAの物ではなかったと知り、当時の民法561条により、売買を解除しました。売主が他人の権利を買主に移せないときに、買主が解除できる、という定めです。いまの561条は、売主が権利を移す義務を定める条文で、解除は、債務不履行による解除の規定によります。判決が答えたのは、解除までの間に使った利益を、買主が売主に返すのか、です。答えは2つに分かれます。解除一般についてと、他人の権利の売買についてです。
判例最判昭51・2・13 民集30巻1号1頁
売買の解除と使用利益の返還 売買契約が解除された場合に、目的物の引渡を受けていた買主は、原状回復義務の内容として、解除までの間目的物を使用したことによる利益を売主に返還すべき義務を負うものであり、この理は、他人の権利の売買契約において、売主が目的物の所有権を取得して買主に移転することができず、民法五六一条の規定により該契約が解除された場合についても同様であると解すべきである。
1つめ、売買契約が解除されたとき、引渡しを受けていた買主は、原状回復義務の内容として、解除までの間に目的物を使用した利益を、売主に返還する義務を負います。2つめ、他人の権利の売買が解除された場合も、同じです。判例のふだです。冒頭のBは、この1つめに、そのまま当たります。半年乗った分は、Aに返します。理由も、判決が述べています。問いは、ふたつです。なぜ、使った利益まで返させるのか。そして、返ってきた利益が売主の手元に残らなくても、それでよいのか。続きを読みます。
判例最判昭51・2・13 民集30巻1号1頁
売買の解除と使用利益の返還 理由 けだし、解除によつて売買契約が遡及的に効力を失う結果として、契約当事者に該契約に基づく給付がなかつたと同一の財産状態を回復させるためには、買主が引渡を受けた目的物を解除するまでの間に使用したことによる利益をも返還させる必要があるのであり、売主が、目的物につき使用権限を取得しえず、したがつて、買主から返還された使用利益を究極的には正当な権利者からの請求により保有しえないこととなる立場にあつたとしても、このことは右の結論を左右するものではないと解するのが、相当だからである。
1つめ。解除によって契約が遡って効力を失うのだから、給付がなかったのと同じ財産状態に戻すには、使った利益も返させる必要があります。2つめ。売主が使用の権限を持たず、返ってきた使用利益を、結局は正当な権利者に渡す立場でも、結論は変わりません。さきほど見た、契約が遡って消える、という前提が、そのまま理由になっています。判例のふだです。
図:使用利益の測り方
- 借りていたら払ったはずの使用料(賃料相当額)
- 例=同じ車を借りたら月2万円なら、半年で12万円
- 判旨は、額の測り方も、車の値打ちの減りとの関係も述べていない
- 札=学説/こちらの説明
額の測り方です。借りていたら払ったはずの使用料、つまり賃料相当額で測ります。同じ車を借りたら月2万円かかったなら、半年で12万円です。学説と、こちらの説明のふだです。判決は、額の測り方までは述べていません。また、車は乗れば値打ちが下がりますが、その減り方と使用利益の関係についても、判決は何も述べていません。
図:審議の資料の説明
- 審議の途中でまとめた案の説明は、使用利益の返還を条文に書く考え方を紹介したうえで、範囲がはっきりしない面があり、目的物の値打ちの減りとの整理も難しいから、一律の規定は設けず、解釈に委ねる、とした
- 最終の3項は果実だけ
審議の資料にも、この点の説明があります。審議の途中でまとめた案の説明には、使用利益の返還も条文に書く考え方がある、と紹介したうえで、どこまでが使用利益か、はっきりしない面があり、目的物の値打ちが減ることとの整理も難しいから、一律の規定は設けず、解釈に委ねる、とあります。最終の3項に書かれたのも、果実だけです。
図:使用して得た利益の返還義務の性質
- 「右償還の義務の法律的性質は、いわゆる原状回復義務に基く一種の不当利得返還義務にほかならないのであつて、不法占有に基く損害賠償義務と解すべきではない。」(特定物の売買で、買主が解除までの間に使用収益した利益の償還について)出典=最判昭34・9・22 民集13巻11号1451頁
- 札=判例
もう1つ、返す義務の性質について、最高裁の判決があります。特定物の売買で、買主が解除までの間に使って得た利益を返す義務は、原状回復義務に基づく、一種の不当利得返還義務であって、不法占有による損害賠償義務ではない、というものです。判例のふだです。さきほど、原状回復義務は不当利得返還債務だと言いましたが、その裏づけになります。
図:果実と使用利益の違い
- 人に貸して得たもの(賃料)=法定果実/3項(条文)
- 自分で使った分=使用利益/明文なし・判例
- どちらも返す
果実と使用利益の違いを、1枚にします。Bが、人に貸して賃料を得たなら、法定果実で、3項が根拠です。Bが、自分で乗ったなら、使用利益で、条文はなく、判例が根拠です。どちらも返します。分かれ目は、人に使わせて得たのか、自分で使ったのか、です。
何を返すのか(3)ほかの返還の決まりとの違い
図:問い
- 前に見た189条では、善意の占有者は果実を取得できた
- 善意のBが得た賃料は、返さなくてよいか
図:189条と190条
- 189条1項=善意の占有者は、占有物から生ずる果実を取得する
- 190条1項=悪意の占有者は、果実を返還し、かつ、既に消費し、過失によって損傷し、又は収取を怠った果実の代価を償還する義務を負う
- 解除の原状回復には、どちらも適用されない
- 札=学説
解除の原状回復には、189条も190条も適用されない、と解されています。通説で、学説のふだです。理由は2つあります。1つめ、545条3項は、受領の時以後に生じた果実を返せと書いていて、善意か悪意かで分けていません。条文の字面です。2つめ、189条は、善意で暮らしている占有者の生活の安定を守る、一般の不当利得より手厚い特則でした。解除は、契約を元に戻す場面で、その場面とは違います。こちらの説明のふだです。
図:民法703条
解除で返す範囲は、一般の不当利得で返す範囲より大きくなります。一般の不当利得を定める703条は、利益の存する限度、つまり、今も残っている分だけ返せばよい、という定めです。さきほど、原状回復義務の性質は、不当利得返還債務だと言いました。法律上の原因なく持っているものを返す、という性質は同じです。しかし、返す範囲は違います。545条1項は、原状に復させる、と書いていて、利益の存する限度、とは書いていません。ですから、解除では、今も残っている分には限られません。学説のふだです。
図:121条の2との比べ
- 無効・取消し(121条の2)=1項は、無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、相手方を原状に復させる義務を負う
- 2項と3項は、現に利益を受けている限度で返還する場面(無償行為で善意/意思能力のない者・制限行為能力者)
- 解除(545条)=現に利益を受けている限度とする定めはない
- 札=条文/こちらの説明
無効や取消しの原状回復との違いも、見ておきます。前に、121条の2で見ました。原則は全部返還で、返せなければ価額を返しました。ただ、無償行為で善意の人や、意思能力のない人、制限行為能力者は、現に利益を受けている限度で返せば足りる場面がありました。545条には、そのような定めがありません。たとえば、Aが頭金の30万円を使ってしまっていても、全額と利息を返します。条文のふだです。
図:理由の整理
- 取消し・無効=守るべき人(無償で善意の人・意思能力のない者・制限行為能力者)を、現存利益で守る規定が働く場面
- 解除=有効に成立した契約を、対価の関係ごと元に戻す場面
- 札=こちらの説明
理由は、こちらの説明のふだです。取消しや無効は、無償で善意の人や、能力の弱い人を、現存利益で守る規定が働く場面です。解除は、有効に成立した契約を、対価の関係ごと、元に戻す場面です。双方が対価を出し合った契約ですから、片方だけ、残っている分で足りる、とする理由がありません。
何を返すのか(4)返せないとき
図:5つめの前提
- 前の回で見たこと=落ち度なく、落雷で車が焼けたときは、解除権は消えない
- 今日は、その先
- 場面=売主のA(左)が、エンジンに重大な欠陥のある中古車を、買主のB(右)に売った
- Bは全額払って引渡しを受けた
- Bに落ち度なく、車が落雷で焼けた
5つめは、返せないときです。前の回で、買主に落ち度がないまま、たとえば落雷で車が焼けたときは、解除権は消えない、と見ました。今日は、その先、つまり、解除したあとに何を返すのかを見ます。場面を置きます。売主のAが、エンジンに重大な欠陥のある中古車を、買主のBに売りました。Bは、代金を全額払って、車の引渡しを受けました。ところが、Bに落ち度がないのに、車が落雷で焼けてしまいました。
図:民法548条
- 解除権を有する者が故意若しくは過失によって契約の目的物を著しく損傷し、若しくは返還することができなくなったとき、又は加工若しくは改造によってこれを他の種類の物に変えたときは、解除権は、消滅する
- ただし、解除権を有する者がその解除権を有することを知らなかったときは、この限りでない
欠陥があるので、Bは解除したい。Bに落ち度はありませんから、548条本文に当たらず、解除権は消えません。もしBに故意や過失があれば、本文により、解除権そのものが消えます。ただし、Bが、解除権があると知らなかったときは、消えません。条文のふだです。
図:返せないとき
- 条文=545条に定めなし(1項の原状回復と、2項・3項の利息・果実だけ。現存利益に限る定めもない)
- 有力な考え方=返せない原物の代わりに、その価値に当たるお金を返す義務(価額返還義務)を負う
- 理由=1 現存利益に限る定めがない
- 2 解除は契約の清算=双方が戻し合う
- 戻すのが片方だけにならないよう、物の代わりに価値で返す
- 札=条文/学説/こちらの説明
まず、条文には、返せないときの定めがありません。545条は、1項の原状回復と、2項と3項の利息と果実だけです。121条の2のような、現存利益に限る定めもありません。有力な考え方があります。返せない原物の代わりに、その価値に当たるお金を返す義務、つまり価額返還義務を負う、というものです。学説のふだです。理由は、2つです。1つめ、545条には、受け取った人の義務を、現存利益、つまり今も残っている分に限る定めがありません。ですから、手元に何も残っていないことは、返さない理由にならない、と考えます。2つめ、解除は契約の清算だから、客観的な価値を返すのが筋だ、と説明されます。清算とは、双方が受け取ったものを戻し合うことです。Aは、代金を全額返します。Bは車がないから何も返さない、となると、戻すのがAだけになります。そこで、Bは、車の代わりに、その価値をお金で返す、という筋です。清算の言い直しは、こちらの説明のふだです。
図:審議の資料の説明
- 審議の途中でまとめた案=返せないときは、返せない原因を問わず、その価額を返す旨を条文に書く案
- その後の整理=この規律は設けず、解釈に委ねる
- 結果=545条に価額の定めはない
審議の資料にも、経緯があります。審議の途中でまとめた案には、返せないときは、返せない原因を問わず、その価額を返す、と条文に書く案がありました。ところが、その後の整理では、この規律は設けず、解釈に委ねる、とされました。その結果、545条には、価額の定めがありません。審議の資料の説明です。判例の線も確認します。さきほどの、他人の権利の売買の判決の、別の段落です。判決文の上告人は売主、被上告人は買主のことです。所有権者の追奪、という言葉も出てきます。本当の持ち主に、物を取り戻されることで、ここでは、Cに車を引き揚げられたことを指します。見るのは1点です。返せなくなった原因が売主の側にあるとき、買主は、代わりのお金を返すのか。
判例最判昭51・2・13 民集30巻1号1頁
返還不能と価格返還 右事実によると、上告人が、他人の権利の売主として、本件自動車の所有権を取得してこれを被上告人に移転すべき義務を履行しなかつたため、被上告人は、所有権者の追奪により、上告人から引渡を受けた本件自動車の占有を失い、これを上告人に返還することが不能となつたものであつて、このように、売買契約解除による原状回復義務の履行として目的物を返還することができなくなつた場合において、その返還不能が、給付受領者の責に帰すべき事由ではなく、給付者のそれによつて生じたものであるときは、給付受領者は、目的物の返還に代わる価格返還の義務を負わないものと解するのが相当である。
読み方です。解除による原状回復として目的物を返せなくなった場合に、その原因が、受け取った買主の責任ではなく、給付した売主の責任で生じたときは、買主は、返還に代わる価格返還の義務を負わない、と言っています。価格返還とは、さきほどの、価値に当たるお金を返すことです。判例のふだです。自分の落ち度で返せなくした売主が、その代わりのお金を買主に求めるのは、筋が通らないからです。こちらの説明のふだです。
図:判例の線の範囲
- 判旨=返せなくなった原因が給付した売主の責任であるときは、買主は価格返還の義務を負わない
- 判旨が述べていないこと=返せないときに一般に価額返還義務を認めるか否か
言っていない範囲も、はっきりさせます。判決は、返せなくなった原因が、売主の責任だった事案について述べています。一般に、価額の返還義務を認めたとも、否定したとも、言っていません。
図:返せないときの整理
- 誰のせいで返せなくなったか
- 解除する側の故意・過失=548条本文により解除権が消える
- 売主の責任=判例により、買主は価格返還の義務を負わない
- どちらのせいでもない(落雷)=条文なし
- 有力な考え方では価額を返す
落雷のように、売主のせいでも買主のせいでもないときは、どうなるのですか?そこは、言い切れません。条文はなく、判例も一般論は述べていないからです。整理は、誰のせいで返せなくなったか、で分けます。解除する側の故意や過失で返せなくなったなら、548条の本文により、解除権そのものが消えます。売主の責任で返せなくなったなら、判例により、買主は価格返還の義務を負いません。落雷のように、どちらのせいでもないときは、条文がなく、有力な考え方では、Bは焼けた車の価額を返します。答案では、条文に定めがないことを先に示し、有力な考え方を、理由と一緒に書きます。
図:2つめの柱のまとめ
- 原物=1項(条文・学説)/金銭の利息=2項(条文)/果実=3項(条文)/使用利益=明文なし(判例)/返せないとき=条文なし(有力な考え方では価額を返す)
- 189条・190条は適用されない
- 121条の2のような現存利益の限定はない
2つめの柱を、まとめます。原物は、1項の原状に復させる義務です。金銭の利息は2項、果実は3項で、どれも条文です。自分で使った分の使用利益は、明文がなく、判例です。返せないときは、条文がなく、有力な考え方では、価額を返します。そして、189条と190条は適用されず、現存利益に限る定めもないので、返す範囲は、一般の不当利得より広くなります。冒頭のBが、車のほかに半年乗った分の使用利益を返し、Aが、頭金のほかに利息を返すのは、このためです。
返し方と、返したあとに残るもの
図:3つめの柱の入口。返し方=引換えか。返したあとに残るもの=何か。
3つめの柱です。解除の原状回復の中身は、ここまでです。次は、どう返すのか、そして、返したあとに何が残るのか、です。
図:確認の問い。同時履行の抗弁権とは何だったか。
546条の前に、前に見たことを、ひとつ復習します。同時履行の抗弁権とは、何でしたか?
図:民法533条
- 双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行(債務の履行に代わる損害賠償の債務の履行を含む。)を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる
- ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない
相手方が自分の債務の履行を提供するまでは、自分の債務の履行を拒める権利です。533条の定めどおりです。ここからは、解除の原状回復の同時履行です。533条が、解除のあとの互いの返還にも使われることは、同時履行のところで、546条を読んで、一度見ました。そのときは、何を、どこまで返すのかは、後回しにしていました。返す中身が分かったいま、もう一度、546条を読みます。
条文民法546条
民法第546条 第五百三十三条の規定は、前条の場合について準用する。
前条の場合とは、545条の場合、つまり解除の場合です。準用とは、条文が、ほかの規定を使えと書いていることでした。解除の巻き戻しにも、533条が準用されます。AとBが互いに負う返還の義務は、同時履行の関係になります。条文のふだです。
図:546条の引換え
- 左のAと右のBが、引換えに返す
- AからBへ=頭金30万円+受領の時からの利息
- BからAへ=車(+賃料や使用利益に当たる額)
冒頭のAとBで言います。Aは、車が返ってくるまで、頭金と利息は返さない、と言えます。Bも、頭金と利息が返ってくるまで、車は返さない、と言えます。引換えです。どちらか片方だけ先に返させると、不公平だからです。向き合う2つの返還は、同じ契約の巻き戻しとして、ひと組だからです。こちらの説明のふだです。
図:保証の例
- 左が売主のA、右が買主のB、Aのための保証人がC
- 車の売買が、売主Aの債務不履行で解除された
- Bが払った代金の返還を、保証人Cに求められるか
保証人の話です。場面を変えます。今度は、売主のAが車を引き渡さないので、買主のBが契約を解除したとします。Aには、保証人のCがいます。Bが払った代金の返還は、Aのための保証人Cに求められるのでしょうか。
図:保証人と原状回復義務
- 最大判昭40・6・30=特定物の売買における売主のための保証人は、特に反対の意思表示のないかぎり、売主の債務不履行により契約が解除された場合における原状回復義務についても、保証の責に任ずる
- 理由=売主のための保証は、通常、売主の債務不履行によって売主が買主に負う債務を引き受ける趣旨でされる
- 買主の代金債務のための保証人については、判断していない
- 札=判例
前に、保証のところで読んだ、最高裁の判決です。そのときは、買主をA、売主をBと呼びました。今日は、売主がA、買主がBです。判決は、理由から述べています。特定物の売買で、売主のために保証する人は、ふつう、売主に代わって自分で物を引き渡すというよりも、むしろ、売主が約束を破ったときに売主が買主に負う債務を引き受ける趣旨で、保証します。だから、損害賠償義務はもちろん、特に反対の意思表示がない限り、売主の債務不履行により契約が解除された場合の、原状回復義務についても、責任を負う、としました。判例のふだです。代金を返す義務も、売主が約束を破ったことから生じる債務だからです。こちらの説明のふだです。範囲に注意してください。判決が述べたのは、売主のための保証です。買主の代金債務のための保証人については、判断していません。次に、返したあとに残るものです。契約が遡って消えるのに、損害賠償は、本当に請求できるのでしょうか。4項を読みます。
条文民法545条4項
民法第545条4項 4 解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。
4項が、この疑問に答えています。解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。条文のふだです。払わなかったBの責任は、契約が消えても残ります。直接効果説では、遡及効の例外と説明されます。学説のふだです。
図:4項の損害賠償
- 何の賠償か=契約が履行されていたら得られた利益(履行利益)
- 民法415条2項3号=前項の規定により損害賠償の請求をすることができる場合において、債権者は、次に掲げるときは、債務の履行に代わる損害賠償の請求をすることができる
- 三 債務が契約によって生じたものである場合において、その契約が解除され、又は債務の不履行による契約の解除権が発生したとき
何の賠償か。契約が履行されていたら得られた利益、履行利益です。前に、債務不履行の賠償で見た言葉です。415条2項3号は、契約が解除されたときは、債務の履行に代わる損害賠償を請求できる、と定めます。冒頭のAで言います。Bが約束どおり払っていれば、Aの手元には、代金の100万円が入っていました。解除して車が戻ってきても、その車が値下がりしていて、100万円の値打ちがなければ、Aの手元は、約束が守られた場合より少なくなります。その差が、得られたはずの利益です。条文のふだと、こちらの説明のふだです。
図:損害額の基準時
- 売主が引き渡さず、買主が解除した場合の、履行に代わる損害賠償の額=解除当時における目的物の時価を標準とする(最判昭28・12・18)
- 理由=買主は解除の時まで物の給付を求める権利を持ち、解除で初めて、それが賠償の請求権に変わる
では、物の値打ちは、いつの値段で見るのか。前に、売主が引き渡さないので買主が解除した事例で、最高裁は、解除当時の時価を標準にする、としました。買主は、解除の時まで、物を渡せと言う権利を持っていて、解除で初めて、その権利が賠償の請求権に変わるから、という理由でした。判例のふだです。今日のAは売主で、立場は逆です。売主が解除した場合について、その判決が述べたわけではありません。
図:民法620条
- 賃貸借の解除をした場合には、その解除は、将来に向かってのみその効力を生ずる
- この場合においては、損害賠償の請求を妨げない
最後に、遡らない契約もあります。620条は、賃貸借の解除は、将来に向かってのみ効力を生ずる、と定めます。条文のふだです。賃貸借の解除は、別の回で見ます。
図:3つめの柱のまとめ
- 546条=互いの返還は引換え
- 保証人=売主のための保証は原状回復義務にも及ぶ(昭40)
- 4項=損害賠償は残る
- 620条=賃貸借の解除は将来に向かってのみ
3つめの柱を、まとめます。互いの返還は、546条により、引換えです。売主のための保証人は、原状回復義務にも責任を負います。損害賠償は、4項により、解除しても残ります。賃貸借のように、遡らない契約もあります。
確かめる——場面を変えた問い
図:確かめるその1
- 中古ピアノの売買
- 売主A、買主B、代金60万円
- Bは頭金20万円を払い、ピアノを受け取って1年使った
- 残りを払わず、Aが解除した
- 1=Aが受け取った頭金20万円に利息は付くか
- Aは、解除されるとは思っていなかった
- 2=Bがピアノを音楽教室に貸して得た賃料と、自分で弾いた分は、それぞれどう返すか
事例で確かめます。中古ピアノの売買です。売主がA、買主がBで、代金は60万円です。Bは、頭金20万円を払い、ピアノを受け取って、1年使いました。残りを払わないので、Aが解除しました。1つめ。Aは、解除されるとは思っていませんでした。Aが受け取った頭金20万円に、利息は付きますか? 2つめ。Bは、ピアノを音楽教室に貸して賃料を得ていました。その賃料と、自分で弾いた分は、それぞれどう返しますか?
図:答えその1
- 1=付く(受領の時から。善意か悪意かで分けない=545条2項)
- 2=賃料は法定果実で、3項により返す
- 自分で弾いた分は使用利益で、明文はないが判例により返す
- どちらも返す
1つめは、付きます。545条2項は、受領の時から利息を付さなければならない、と定めていて、善意か悪意かで分けていません。Aが解除されると思っていなくても、同じです。条文のふだです。2つめは、どちらも返します。音楽教室に貸して得た賃料は、法定果実で、3項により返します。条文のふだです。自分で弾いた分は、使用利益で、明文はありませんが、判例により返します。判例のふだです。
図:確かめるその2
- 同じ中古ピアノの売買
- 3=Aは「ピアノが返ってくるまで、頭金は返さない」と言えるか
- 4=解除したのに、Aは損害賠償も請求できるのはなぜか
続けて、同じピアノの売買で、2問です。3つめ。Aは、ピアノが返ってくるまで、頭金は返さない、と言えますか? 4つめ。解除したのに、Aが損害賠償も請求できるのは、なぜですか?
図:答えその2
- 3=言える(546条により533条を準用。互いの返還義務は同時履行の関係)
- 4=545条4項が、解除権の行使は損害賠償の請求を妨げない、としているから
- 契約が履行されていたら得られた利益(履行利益)の賠償
- 遡及効の例外
3つめは、言えます。546条により533条が準用され、互いの返還の義務が、同時履行の関係になるからです。条文のふだです。4つめは、545条4項が、解除権の行使は損害賠償の請求を妨げない、と定めているからです。遡って契約が消えることの例外です。ここまでは、条文と学説のふだです。賠償されるのは、契約が履行されていたら得られた利益、履行利益です。415条2項3号に、前に見た履行利益の意味を当てはめた、こちらの説明のふだです。
冒頭の問いに戻る——まとめ
図:今日の3つの柱
- 1=解除すると契約は遡って消える(直接効果説)
- 2=返す中身は、原物・利息(2項)・果実(3項)・使用利益(判例)
- 返せないときは条文なし
- 3=互いの返還は引換え(546条)
- 損害賠償は残る(4項)
今日の話を整理します。1つめ、解除すると、契約は遡って、消えます。直接効果説です。2つめ、返す中身は、原物と、金銭の利息と、果実と、使用利益です。返せないときの定めは、条文にありません。3つめ、互いの返還は、546条により引換えです。そして、損害賠償は、4項により、解除しても残ります。
図:冒頭の答え合わせ
- Bが返すもの=車+半年乗った分の使用利益(借りていたら払ったはずの使用料)
- Aが返すもの=頭金+受領の時からの利息
- 互いの返還は引換え
- それでも損害賠償は請求できる
冒頭の問いの答えです。Bが返すのは、車だけではありません。車のほかに、半年乗った分の使用利益、つまり、借りていたら払ったはずの使用料に当たる額も返します。Aが返すのは、頭金だけではありません。頭金のほかに、受け取った時からの利息も返します。互いの返還は引換えで、それでも、損害賠償は請求できます。論文では、直接効果説とその帰結、つまり、未履行債務の消滅と、原状回復義務の性質と、4項の位置づけが、論点になりえます。
参照条文
- 民法545条1項
- 民法545条2項
- 民法545条3項
- 民法546条
- 民法545条4項