解除と第三者
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第5章 契約 #241/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
解除したら、転売された家は戻るのか
図:冒頭の設例の関係図
- 左が売主のA、中央が買主のB、右が転得者のC
- AはBに家を売ったが、Bは代金を払わない
- Bはその家をCに転売していた
- Aが解除したら、家は誰のものか
図:冒頭の問いの答えの方向
- 解除の前に買ったC=条件を満たせば守られる
- 解除の後に買ったD=先に登記を備えたほうが勝つ
先に、答えの方向を言います。解除の前に買ったCは、条件を満たせば守られます。解除の後に買ったDは、先に登記を備えたほうが勝ちます。登記とは、不動産の持ち主を、国の帳簿に書いて公に示す手続のことです。なぜ、前と後で分かれるのか。条件とは何か。今日は、そこを順に見ていきます。
今日の位置と、3つの話
図:今日の位置
- 前回まで=解除すると契約は遡って消え、原状回復義務が生じる
- 今日=その遡及効から、第三者をどう守るか
位置づけです。前回、解除すると、契約は遡って消える、つまり、直接効果説で考えるのが通説だと見ました。遡って消えるなら、途中で買ったCの権利も、はじめからなかったことになりそうです。そこで、遡って消えることから、第三者をどう守るのか。それを決めるのが、今日です。解除できる要件そのものは、別の回で見ます。
図:今日の地図
- 1=解除前の第三者(545条1項ただし書)
- 2=解除後の第三者(177条・178条)
- 3=取消しと第三者の比べ
話は3つです。1つめ、解除の前に現れた第三者。2つめ、解除の後に現れた第三者。3つめ、取消しと第三者の比べです。以前に、取消しと第三者、それから解除と登記の結論を見ました。今日は、その結論の理由を、条文の側から掘り下げます。
図:根拠の札
- 条文=法律に書いてあること
- 判例=最高裁の判決が実際に述べたこと
- 学説=学者が説明している考え方
- こちらの説明=この動画が理解のために整理したこと
今日も、根拠のふだを貼りながら話します。条文は、法律に書いてあること。判例は、最高裁の判決が実際に述べたことです。学説は、学者が説明している考え方。こちらの説明は、この動画が理解のために整理したことです。
解除前の第三者——ただし書が守る人
図:1つめの柱の入口。条文は、遡って消えることから、誰を守っているのか。
1つめの柱です。前回読んだ545条1項を、もう一度出します。前回は本文を読みました。今日の主役は、ただし書です。
条文民法545条1項
民法第545条1項 当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。
ただし、第三者の権利を害することはできない。これが、ただし書です。条文のふだです。
図:ただし書の趣旨
- 直接効果説=契約は遡って消える→Bから買ったCの権利も、理屈の上ではもとから無かったことになる
- それでは、何も知らずに取引したCがあまりに気の毒
- そこで、遡及効から第三者を守る
- 札=学説(通説)
なぜ、こんな定めがあるのか。直接効果説で素直に考えると、契約は、遡って消滅します。そうすると、AB間の契約の上に乗って、Bから家を買ったCの権利も、理屈の上では、もとから無かったことになります。何も知らずに取引したCにとって、これはあまりに気の毒です。そこで、遡って消えることから第三者を守るのが、ただし書です。学説、つまり通説の説明のふだです。Bから買えば誰でも守られる、というわけではありません。ただし書の第三者には、定義があります。
図:ただし書の「第三者」の定義
- 解除された契約から生じた法律効果を基礎として、解除までに新たな権利を取得した者
- 3つに分ける
- 1=その契約の上に乗って
- 2=新たな権利を取得した
- 3=解除までに
- 札=学説(通説)
ただし書の第三者とは、解除された契約から生じた法律効果を基礎として、解除までに新たな権利を取得した者です。学説、通説のふだです。長いので、3つに分けます。1つめ、解除された契約から生じた法律効果を基礎として。これは、その契約の上に乗っかって、という意味です。AB間の売買があるから、Bが所有者になり、その所有者からCが買った、という関係です。2つめ、新たな権利を取得した。ここが大切です。すでにある権利を、そのまま引き継いだだけの人は、含みません。3つめ、解除までに。解除より前に、ということです。この3つ目は、あとの柱2で使います。
図:当たる人と当たらない人
- 当たる=Cの(家を買った)・目的物に抵当権を取得した人
- 当たらない=代金債権の譲受人E・第三者のためにする契約の受益者
当たる人と、当たらない人を並べます。当たるのは、冒頭のCです。Bから家を買った転得者、つまり、人から人へ渡ってきた物を、さらに受け取った人です。また、その契約の目的物そのものに、抵当権を取得した人も当たります。抵当権とは、お金が返ってこないときに、その物を競売にかけて、優先的に返してもらう権利です。所有権ではなくても、新しい権利を取得していますから、同じ筋で当たります。当たらない人は、2種類です。まず、場面を変えます。売主のAが、買主のBに対して持っている代金の債権を、Eに譲りました。その後、Aが家を引き渡さないので、Bが契約を解除しました。ここだけは、解除したのは買主のBです。債権を譲り受けたEは、第三者に当たるでしょうか。
気持ちは分かります。ですが、Eは当たりません、というのが判例と通説の結論です。ほかに、当たるとする反対説もあります。当たらない理由は、定義の2つめです。Eが取得したのは、Aが持っていた代金債権そのものです。新たな権利を取得したのではなく、同じ債権を引き継いだだけです。例えるなら、リレーでバトンを受け取った走者です。バトンが偽物だったと分かれば、走者は走れません。新しく契約して買ったCとは、そこが違います。前に債権譲渡と抗弁のところで、解除は譲受人にも言える、と見ました。その結論の理由が、これです。もう1つ。第三者のためにする契約の、受益者です。前に、第三者のためにする契約で、受益者が直接、権利を取得すると見ました。ただ、受益者が取得するのは、解除される契約そのものから生じる権利です。その契約の上に新たに乗った権利ではありません。ですから、ただし書の第三者には当たりません。
図:問い。Cは第三者に当たる。では、Cはどんな条件で守られるのか。
Cは、第三者に当たります。では、Cは、どんな条件で守られるのでしょうか。まず、Cが何を知っていたかが、関係あるでしょうか?
図:守られる条件1
- 善意悪意は問わない
- 理由=解除権があっても、Aが実際に解除するとは限らない
- 札=学説(通説)
- 条文には、善意という要件が書かれていない
1つめの条件は、善意か悪意かを問わない、です。善意とは、ある事実を知らないこと。悪意とは、知っていることです。Cが、Bは代金を払っていない、と知っていても守られます。理由は、解除権があっても、Aが実際に解除するとは限らないからです。Bが払えば解除しませんし、Aが黙っていることもあります。債務不履行を知っていることは、解除されると知っていることとは別の話です。ですから、悪意のCも保護に値する、と説明されます。学説、通説のふだです。条文には、善意という言葉が書かれていません。この点は、3つめの柱で使います。
図:守られる条件2
- 登記(不動産)・引渡し(動産)が必要
- 権利保護要件としての登記
- 理由=Aは何も悪くない
- 落ち度のないAを犠牲にして守る以上、Cにも守られる資格を求める
- 札=学説(通説)
2つめの条件は、登記です。不動産なら登記、動産なら引渡しを、Cが備えている必要があります。学説、通説のふだです。なぜか。Aは何も悪くないからです。約束どおり家を売ったのに、Bが払わなかっただけです。落ち度のないAの犠牲のうえでCを守る以上、Cにも、守られるに値する資格を求める。それが登記や引渡しです。ここで、登記の意味を確認します。登記には2つの意味がありました。権利保護要件としての登記は、保護を受けるために、追加で必要になるハードルです。もう1つ、対抗要件としての登記は、権利を奪い合う相手に、自分の権利を主張するための登記でした。ここでのCの登記は、前者です。AとCは、家を奪い合う関係ではありません。Aが先に登記を戻したかどうかは、問題になりません。Cは、守られるための資格として、登記を備えるだけです。守ってもらうための、入場券です。
図:古い判例との違い
- 大審院の判例=この登記・引渡しを、対抗要件としての登記・引渡しだとした
- 通説=権利保護要件
- 結論(登記が要る)は同じ
- 答案は通説で書く
- 札=判例(古い)/学説
古い大審院の判例は、この登記や引渡しを、対抗要件としての登記や引渡しだとしました。通説は、権利保護要件です。理屈は違いますが、登記が要る、という結論は同じです。答案では、通説の言い方で書きます。判例と学説のふだです。
図:最高裁の判決
- 合意解約の事案
- AとBが合意で契約を解約し、Bから買った者は未登記だった
最高裁の判決も、見ておきます。事案は、土地の売買です。土地の持ち主のAが、自分名義の登記のある土地をBに売り、Bはそれをさらに、Cに転売しました。その後、AとBは、話し合いで契約を解除しました。転得者のCは、所有権の登記を受けていませんでした。話し合いで契約をなくすことを、合意解約と言います。今回の解除とは違いますが、判決は、遡って効力を失わせる趣旨なら、解除と別に考える理由はない、としました。そのうえで、次のように述べています。
判例最判昭33・6・14
合意解約と第三者の登記 しかしながら、右いずれの場合においてもその第三者が本件のように不動産の所有権を取得した場合はその所有権について不動産登記の経由されていることを必要とするものであつて、もし右登記を経由していないときは第三者として保護するを得ないものと解すべきである。けだし右第三者を民法一七七条にいわゆる第三者の範囲から除外しこれを特に別異に遇すべき何らの理由もないからである。
読み方です。第三者が不動産の所有権を取得したときは、登記を受けていることが必要で、登記を受けていなければ、第三者として保護されない、と言っています。理由として、177条の第三者から外して特別扱いする理由がない、と述べています。判例のふだです。判決はさらに、二重に売って先に登記をしたのと同じ関係になる、とも述べています。177条の対抗の関係に寄せて考えているわけです。ただ、対抗要件か権利保護要件か、という分類の言葉そのものは使っていません。登記が要る、という結論は、どちらの説でも同じです。
図:あてはめ
- Cが登記を備えている=Cの勝ち
- 備えていない=Cは守られず、Aの勝ち
- 動産なら引渡しを受けているか
冒頭の設例に当てはめます。Cが登記を備えていれば、Cは守られ、家はCのものです。備えていなければ、Cは守られず、Aが勝ちます。家ではなく動産、たとえば高価な絵画なら、Cが引渡しを受けているかを見ます。答案の流れも、ここで確認します。まず、解除の効果は、遡及的な消滅です。次に、ただし書の趣旨は、遡及効から第三者を守ることです。そして、第三者の意義を示して、Cが当たると言います。そのうえで、善意悪意は問わず、権利保護要件としての登記が要る、として、Cが登記を備えているかを当てはめます。ここは、論文で論点になりえます。
図:確かめるその1
- AがBに家を売った
- Bは代金を払わない
- 1=CはBの不払いを知っていたが、登記も備えた
- Cは守られるか
- 2=Cは代金を払い終えたが、登記はまだ
- Cは守られるか
事例で確かめます。同じAとBとCです。1つめ。Cは、Bが代金を払っていないと知っていましたが、登記は備えました。Cは守られますか? 2つめ。Cは、代金を払い終えましたが、登記はまだです。Cは守られますか?
図:答えその1
- 1=守られる(善意悪意不問・登記あり)
- 2=守られない(代金を払い終えても登記なし。権利保護要件を満たさない)
1つめは、守られます。2つめは、守られません。1つめは、悪意でも、登記があるので守られます。2つめは、代金を払い終えていても、登記がないので、守られません。資格を満たしていないからです。
図:確かめるその1の続き
- 売主のAが、買主のBへの代金債権をEに譲った
- その後、Aが引渡しを怠り、Bが解除した
- Eは第三者に当たるか
もう1問です。さきほどの、代金債権の譲受人Eの場面です。解除したのは買主のBでした。Eは、ただし書の第三者に当たりますか?当たりません。Eは、新たな権利を取得したのではなく、同じ債権を引き継いだだけだからです。ですから、BはEに、解除したことを言えます。
解除後の第三者——ただし書の外
図:2つめの柱の入口
- 場面=Aが解除した後に、BがDに家を売った
- Dにも、ただし書は使えるか
- 左が売主のA、中央が買主のB、右が解除後の買主のD
2つめの柱です。設例を変えます。売主はA、買主はBです。Aは、Bの不払いを理由に、解除しました。ところが、その後に、Bが、まだ自分名義の家を、Dに売りました。解除の後に買ったDです。Dにも、ただし書は使えるのでしょうか?
図:答え
- 使えない
- ただし書の第三者=解除までに新たな権利を取得した者
- 解除の後に現れたDは当たらない
- ただし書の外
- 札=学説
ただし書は使えません。解除の後に買ったDは、ただし書の第三者に当たらないからです。さきほど見た定義の、3つめを思い出してください。解除までに、です。ただし書が守るのは、解除によって遡って消える権利でした。解除の後に現れたDは、解除までに新たな権利を取得した人ではありません。ですから、ただし書の第三者に当たりません。学説のふだです。取消しでも同じ形でした。96条3項や95条4項で守られるのは、取消しの前に現れた第三者だけで、取消しの後の第三者は、外でした。
図:確認の問い
では、AとDの勝ち負けは、どうやって決まるのでしょうか。その前に、前に見たことを、ひとつ復習します。詐欺を取り消した後に現れた第三者とは、何で勝ち負けが決まるのでしたか?
図:復帰的物権変動
- 解除によって、給付を受けたBから解除権者Aへ、権利が戻ると見る
- すると、B→Aの戻りと、B→Dの売却は、Bを出発点とした二重譲渡に似た形になる
- 札=学説(通説)
取消しの後に買った人との間では、対抗関係になって、登記を先に備えたほうが勝つ、でした。解除でも、同じです。ここで、詐欺の取消しの回で見た、復帰的物権変動を使います。解除によって、いったんBに移った権利が、Aに戻ると見る考え方です。そうすると、BからAへの戻りと、BからDへの売却は、Bを出発点にした二重譲渡に似た形になります。1つの家を、AとDが奪い合う関係です。学説、通説のふだです。取消しの回でも、同じ疑問を解きました。遡って消えるというのは、法律がそう扱うことにした擬制です。事実としては、権利はいったんBに移っています。解除の前に権利を得たCとの関係では、この擬制がCを害しそうになるので、ただし書が守ります。解除の後のDとの関係では、Aへ戻る動きと、Dへ移る動きがぶつかるので、登記の先後で決めます。こちらの説明のふだです。
条文民法177条
民法第177条 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
奪い合う関係は、対抗関係です。不動産なら、177条です。不動産に関する物権の得喪及び変更は、登記をしなければ、第三者に対抗することができない。条文のふだです。
条文民法178条
民法第178条 動産に関する物権の譲渡は、その動産の引渡しがなければ、第三者に対抗することができない。
動産なら、178条です。物権の譲渡は、引渡しがなければ、第三者に対抗することができない、と定めます。条文のふだです。
図:AとDの勝ち負け
- 先に登記を備えたほうが勝つ(177条)
- 動産は引渡し(178条)
- Dが悪意でも先に登記を備えれば勝つ
- 理由=対抗要件の有無という画一的な基準で決められ、取引の安全にも役立つ
- 札=条文/学説
結論です。Aが先に登記を戻していればAの勝ち、Dが先に登記を備えていればDの勝ちです。理由は、対抗要件の有無という画一的な基準で決められ、取引の安全にも役立つからです。取消しの後の場面と、同じ理由です。学説のふだです。Dが、Bの不払いを知っていても、先に登記を備えれば勝てます。単なる悪意は、自由な競争の範囲内だからです。ただし、背信的悪意者、つまり、相手を害する目的などで入ってきた人は、別です。背信的悪意者は、先に登記を備えても、Aに勝てません。177条の第三者の回で見た枠です。
図:登記の2つの意味
- 解除前のC=権利保護要件としての登記(守られる資格・先後は見ない)
- 解除後のD=対抗要件としての登記(先後で決める)
登記の意味が、前と後で違います。解除の前のCは、登記を備えているかを見ます。相手との先後は見ません。入場券です。解除の後のDは、AとDの、どちらが先かを見ます。早い者勝ちの、番号札です。こちらの説明のふだです。
図:確かめるその2
- 解除の後の場面
- 1=解除の後にBがDに売り、Dが先に登記を備えた
- 2=Aが解除の後すぐ、登記をBからAに戻した
確かめます。解除の後の場面です。1つめ。解除の後に、BがDに売り、Dが先に登記を備えました。誰が勝ちますか? 2つめ。Aは、解除の後すぐに、登記をBからAに戻しました。その後に、BがDに売りました。誰が勝ちますか?
図:答えその2
- 1=Dの勝ち(先に登記)
- 2=Aの勝ち(先に登記を戻した)
- ただし書は使えない
1つめは、Dの勝ちです。2つめは、Aが先ですから、Aの勝ちです。どちらも、先に登記を備えたほうが勝ちます。ただし書は、使いません。
取消しと第三者の比べ——なぜ違うのか
図:3つめの柱の入口。取消しの第三者は何を見るのか。解除の第三者は何を見るのか。
3つめの柱です。取消しと、解除を並べます。その前に、確認です。
図:確認の問い
詐欺による取消しの前に現れた第三者が守られるのは、どんなときだったでしょうか?
条文民法96条3項
民法第96条3項 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
善意で、しかも過失がないときでした。96条3項は、詐欺による取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない、と定めます。過失がないとは、知らないことに落ち度もない、ということです。条文のふだです。
図:比較表1
- 取消し前の第三者
- 詐欺(96条3項)=善意でかつ過失がない第三者/登記は必要かどうか見解が分かれる
- 錯誤(95条4項)=善意でかつ過失がない第三者/同上
- 虚偽表示(94条2項)=善意の第三者(無過失は不要)/登記は不要(判例)
- 強迫=第三者を保護する規定がない
取消し前の第三者を、条文ごとに並べます。詐欺は、96条3項で、善意でかつ過失がない第三者です。錯誤は、95条4項が、同じく、善意でかつ過失がない第三者です。虚偽表示は、94条2項が、善意の第三者で、無過失までは求めません。これらの登記が要るかは、詐欺と錯誤は見解が分かれ、虚偽表示は不要、と判例は言います。強迫は、第三者を保護する規定がありません。ですから、強迫による取消しは、悪意でも善意でも、第三者に言えます。条文と判例のふだです。
図:比較表2
- 取消し前=条文ごとに主観を見る(善意無過失または善意)
- 取消し後=主観は問わない、先に登記したほうが勝つ(177条)
- 解除前=主観は問わない、登記(動産は引渡し)が必要
- 解除後=主観は問わない、先に登記したほうが勝つ(177条・178条)
並べ替えます。取消しの前は、条文ごとに、第三者の主観を見ます。取消しの後は、主観を見ず、先に登記したほうが勝ちます。解除の前は、主観を問わず、登記が必要です。解除の後は、主観を問わず、先に登記したほうが勝ちます。つまり、前の第三者のところで、取消しと解除が、大きく違うのです。取消しは、主観を見る。解除は、主観を見ず、登記を見る。
図:なぜ違うのか
- 見る場所が違う
- 取消し=取消権者の落ち度の大きさで、第三者に求める主観が上下する(落ち度が大きいほど善意で足り、小さいほど善意+無過失)
- 解除=解除権者Aに落ち度がない→主観は問わない
- その代わり、守られる資格として登記を求める
- 札=こちらの説明/学説
取消しは、取消権者、つまり、だまされた人や勘違いした人の落ち度の大きさで、第三者に求める主観が上下します。自分で偽りの外観を作った虚偽表示なら、第三者は善意で足ります。だまされただけなら、善意に加えて無過失まで求めます。前に見た、落ち度の物差しです。解除は違います。解除権者のAに、落ち度がありません。約束どおり売ったのに、Bが払わなかっただけだからです。そこで、まず1つめ。第三者の主観は問いません。解除原因があっても、Aが解除するとは限らないので、悪意のCも保護に値するからです。その代わり、2つめ。落ち度のないAを犠牲にして守る以上、Cには、守られる資格、つまり登記や引渡しを求めます。こちらの説明のふだです。「主観を問わない」と「登記を求める」の各理由は、学説のふだです。前に、解除は債務不履行が理由で、意思表示のキズではないから、主観を問う必要が薄いと言いました。今日は、その理由を、解除されるとは限らない、という点で深めました。同じ方向の説明です。覚え方は1行です。取消しは、心の中、つまり、善意無過失を見る。解除は、外から見える状態、つまり、登記を見る、です。
図:確かめるその3
- 1=Cは、Bの不払いを知っていたが、登記を備えた(解除前)
- 2=Aは、Bにだまされて家を売った
- Aが詐欺を取り消す前に、Bから買ったCは、だまされたことを知っていた(取消し前)
事例で確かめます。1つめ。解除の前の場面です。Cは、Bの不払いを知っていましたが、登記を備えました。2つめ。別の事例です。売主のAが、Bにだまされて、家を売りました。Aが詐欺を取り消す前に、Bから家を買ったCは、だまされたことを知っていました。1つめと2つめで、Cは守られますか?
図:答えその3
- 1=守られる(解除前・主観不問・登記あり)
- 2=守られない(詐欺取消し前・悪意)
- 同じ悪意でも結果が逆になる
1つめは、守られます。2つめは、悪意なので、守られません。同じ悪意のCでも、解除の前なら守られ、詐欺取消しの前なら守られません。比較表の、いちばん大事なところです。
確かめる——場面を変えた問い
図:確かめるその4
- 1=絵画
- AがBに絵画を売り、Bは代金を払わない
- BはCに転売して引き渡した
- その後Aが解除した
- Cは守られるか
- 2=家
- Aの解除の前に、Bが銀行Fのために家に抵当権を設定し、Fは登記を備えた
- その後Aが解除した
- Fは守られるか
最後に、場面を変えて確かめます。1つめ。家ではなく、絵画です。AがBに絵画を売り、Bは代金を払いません。Bは、その絵画をCに売って、引き渡しました。その後、Aが解除しました。Cは守られますか? 2つめ。家に戻ります。Aの解除の前に、Bは、銀行Fからお金を借りて、家に抵当権を設定し、Fは抵当権の登記を備えました。その後、Aが解除しました。Fは守られますか?
図:答えその4
- 1=守られる(解除前・動産は引渡しが資格)
- 2=守られる(解除前に抵当権という新たな権利を取得・登記あり)
1つめは、守られます。絵画は動産なので、登記ではなく引渡しを見ます。Cは引渡しを受けています。2つめも、守られます。Fは、解除の前に、抵当権という新しい権利を取得して、登記も備えているからです。動産なら引渡し、抵当権なら抵当権の登記が、守られるための資格です。家を買ったCでも、抵当権を取ったFでも、同じ筋で守られます。
冒頭の問いに戻る——まとめ
図:今日の3つの柱
- 1=解除前の第三者=善意悪意不問、登記があれば守られる(545条1項ただし書)
- 2=解除後の第三者=ただし書の外、先に登記したほうが勝つ(177条・178条)
- 3=取消しは主観、解除は登記
今日の話を整理します。1つめ、解除の前の第三者は、545条1項ただし書で守られます。第三者とは、解除された契約から生じた法律効果を基礎として、解除までに新たな権利を取得した者です。善意か悪意かは問わず、登記、動産なら引渡しを備えていれば守られます。2つめ、解除の後の第三者は、ただし書の外です。AとDは対抗関係で、177条、動産は178条により、先に登記を備えたほうが勝ちます。3つめ、取消しは第三者の主観を見て、解除は登記を見ます。
図:冒頭の答え合わせ
- Aが解除したら、家は戻るか
- 解除の前に買ったC=善意悪意を問わず、登記を備えていれば守られる
- 解除の後に買ったD=先に登記を備えたほうが勝つ
冒頭の問いの答えです。解除の前にBから買ったCは、Bの不払いを知っていても、登記を備えていれば守られ、家はCのものです。登記がなければ、Cは守られず、家はAに戻ります。解除の後にBから買ったDは、ただし書では守られません。AとDのどちらが先に登記を備えたかで、勝ち負けが決まります。論文では、ただし書の第三者の意義と、解除の前と後の使い分けが、論点になりえます。
参照条文
- 民法545条1項
- 民法177条
- 民法178条
- 民法96条3項