民法ゼロから民法#242

催告による解除(541条)

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第5章 契約 #242/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

「3日以内に払って」で解除できるのか

冒頭の設例の関係図。左が売主のA、右が買主のB。AはBに機械を売ったが、Bは期限を過ぎても代金を払わない。Aは「3日以内に払ってください」とだけ伝えた。 図:冒頭の設例の関係図

  • 左が売主のA、右が買主のB
  • AはBに機械を売ったが、Bは期限を過ぎても代金を払わない
  • Aは「3日以内に払ってください」とだけ伝えた

冒頭の問いの答えの方向。相当の期間を示さなくても、催告から客観的に相当な期間が過ぎれば解除できる。ただし、不履行が軽ければ解除できない。 図:冒頭の問いの答えの方向

  • 相当の期間を示さなくても、催告から客観的に相当な期間が過ぎれば解除できる
  • ただし、不履行が軽ければ解除できない

先に、答えの方向を言います。相当の期間を示さなくても、催告から、客観的に相当な期間が過ぎれば、解除できます。ただし、残っている不履行が軽いときは、解除できません。なぜ、期間を示さなくてよいのか。軽いとは、どの程度なのか。今日は、そこを順に見ていきます。

今日の位置と、3つの柱

今日の位置。前回まで=解除した後(効果・第三者)。今日=その手前、いつ解除できるのか。 図:今日の位置

  • 前回まで=解除した後(効果・第三者)
  • 今日=その手前、いつ解除できるのか

位置づけです。前回までは、解除した後の話でした。契約が遡って消え、原状回復義務が生じ、第三者はどう守られるか。今日は、その手前に戻ります。そもそも、いつ解除できるのか。債務不履行による解除の、最初の型である、催告による解除を見ます。

今日の地図。1=解除の意義(帰責事由は要件でない・543条)。2=催告解除の要件(履行遅滞・催告・相当期間の経過)。3=軽微の例外と、要件事実の並び。 図:今日の地図

  • 1=解除の意義(帰責事由は要件でない・543条)
  • 2=催告解除の要件(履行遅滞・催告・相当期間の経過)
  • 3=軽微の例外と、要件事実の並び

今日の話は、3つです。1つめ、解除の意義。解除に、債務者の落ち度は要らない、ということです。2つめ、催告解除の要件。履行遅滞、催告、相当期間の経過の3つです。3つめ、軽微という例外と、主張立証の並びです。催告をしなくても解除できる場合は、別の回で見ます。

根拠の札。条文=法律に書いてあること。判例=最高裁の判決が実際に述べたこと。学説=学者が説明している考え方。こちらの説明=この動画が理解のために整理したこと。 図:根拠の札

  • 条文=法律に書いてあること
  • 判例=最高裁の判決が実際に述べたこと
  • 学説=学者が説明している考え方
  • こちらの説明=この動画が理解のために整理したこと

今日も、根拠のふだを貼りながら話します。条文は、法律に書いてあること。判例は、最高裁の判決が実際に述べたことです。学説は、学者が説明している考え方。こちらの説明は、この動画が理解のために整理したことです。

解除の意義——落ち度は要らない

1つめの柱の入口。解除は制裁か、解放か。債務者に落ち度は要るのか。 図:1つめの柱の入口。解除は制裁か、解放か。債務者に落ち度は要るのか。

1つめの柱です。債務不履行による解除は、何のための制度でしょうか。設例に戻ります。Bが代金を払わないままだと、Aは、機械を引き渡す約束に縛られたままです。ほかの買い手に売りたくても、売れません。そこで、解除です。解除は、Bを罰するための制度ではありません。Aを、この契約の拘束から解き放つための制度です。前に、解除の意義のところで見た、解放の制度です。こちらの説明のふだです。債務者の帰責事由は、解除の要件ではありません。帰責事由とは、債務者の責めに帰すべき事由、つまり、債務者のせいだと言える事情のことです。たとえば、Bの取引先からの入金が遅れて、Bは悪くないのに払えなかった。そんな場合でも、Aは、いつまでも待たされる理由はありません。だから、解除はできます。

条文民法415条1項

民法第415条1項 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

損害賠償は、違います。415条1項のただし書を見てください。債務の不履行が、債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、損害賠償を請求できません。条文のふだです。

比較の表。解除と損害賠償(415条)の違い。帰責事由=解除は不要、損害賠償は要る(なければ賠償できない)。狙い=解除は債権者を契約から解放する、損害賠償は生じた損害を埋める。 図:比較の表

  • 解除と損害賠償(415条)の違い
  • 帰責事由=解除は不要、損害賠償は要る(なければ賠償できない)
  • 狙い=解除は債権者を契約から解放する、損害賠償は生じた損害を埋める

並べます。債務者の帰責事由は、解除では要りません。損害賠償では、なければ賠償できません。狙いも違います。解除は、債権者を契約から解放します。損害賠償は、生じた損害を埋め合わせます。条文のふだと、こちらの説明のふだです。2017年の改正の前の民法を学んだ人は、注意してください。改正前は、解除に帰責事由が要るとされていました。改正で、変わっています。気持ちは分かります。ただ、解除されても、Bは契約から離れるだけで、罰を受けるわけではありません。なお、代金のような、お金の支払いの遅れには、別の決まりがあります。419条3項により、落ち度がなくても、遅れた分の損害金は払わなければなりません。お金の債務は、損害賠償の面では別扱いです。一方のAは、払われない代金を待ち続ける理由が、ありません。両方の事情を比べて、解除は帰責事由を問わない、と整理されます。

条文民法543条

民法第543条 債務の不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるものであるときは、債権者は、前二条の規定による契約の解除をすることができない。

ただし、例外が1つあります。543条です。債務の不履行が、債権者の責めに帰すべき事由によるものであるときは、債権者は、前二条の規定による契約の解除をすることができない。条文のふだです。たとえば、Aが機械の受け取り場所を教えなかったせいで、Bが払えなかったなら、Aは、そのBを解除できません。不履行の原因を作ったのは、Aだからです。危険負担のところで見た、債権者の帰責事由と、同じ考え方です。ここまでをまとめます。解除に、債務者の帰責事由は要りません。ただし、不履行の原因が債権者にあるときは、解除できません。この2つを、持ち帰ってください。

催告解除の要件——遅滞・催告・待つ時間

2つめの柱の入口。条文は、どう読むのか。 図:2つめの柱の入口。条文は、どう読むのか。

2つめの柱です。まず、条文を出します。

条文民法541条

民法第541条 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。

条文のふだです。当事者の一方が債務を履行しない場合に、相手方が、相当の期間を定めて催告をし、その期間内に履行がないときは、解除できる。ただし、期間を経過した時の不履行が軽微なときは、解除できません。

条文の骨格を4拍にする。1=遅れている(履行遅滞)。2=催告した。3=相当な期間が過ぎた。4=それでも、軽くない。 図:条文の骨格を4拍にする

  • 1=遅れている(履行遅滞)
  • 2=催告した
  • 3=相当な期間が過ぎた
  • 4=それでも、軽くない

この条文を、4拍で覚えます。まず1つめ、遅れている。2つめ、催告した。3つめ、相当な期間が過ぎた。4つめ、それでも、軽くない。こちらの説明のふだです。1つめから3つめが、解除権が生まれるための要件です。4つめは、ただし書の話で、3つめの柱で見ます。まず、1つめの拍です。履行遅滞が発生していること。

場面を変える。Aはまだ機械をBに渡していない。期限が来たので、Aは「代金を払って」と催告し、期間が過ぎた。 図:場面を変える

  • Aはまだ機械をBに渡していない
  • 期限が来たので、Aは「代金を払って」と催告し、期間が過ぎた

場面を変えます。売主はA、買主はBです。AはBに、機械を売りました。ところが、Aはまだ、機械をBに渡していません。期限が来たのに、Bは代金を払いません。Aは「代金を払ってください」と催告し、期間が過ぎました。Aは、解除できるでしょうか?

答え。解除できない。Aが機械を渡していないので、Bには同時履行の抗弁権がある。Aが自分の債務を提供して、はじめてBは遅滞になる。 図:答え

  • 解除できない
  • Aが機械を渡していないので、Bには同時履行の抗弁権がある
  • Aが自分の債務を提供して、はじめてBは遅滞になる

気になった点が、鍵です。解除できません。この場面のBは、同時履行の抗弁権を持っています。機械を渡してくれるまで、払わない、と言える権利です。前に、同時履行の抗弁権があるあいだは、払わなくても違法ではなく、遅滞にならない、と見ました。遅滞していないBに、催告をしても、解除権は生まれません。そこで、Aは、まず自分の債務を提供します。提供とは、渡せる状態にして、受け取ってくださいと示すことです。Aが機械を渡せる状態にして示せば、Bの抗弁権は消えます。そのうえで催告をします。提供は、1度すれば足ります。そのあと、ずっと続ける必要はありません。これは、これまでの回の結論の確認です。もう1つ。履行期は、いつ来るのか。期限の定めがあれば、その期限が来た時です。期限の定めがない債務は、412条3項で、履行の請求を受けた時から遅滞になります。前に、履行遅滞のところで見た条文です。これは、あとで使います。

確認の問い。同時履行の抗弁権は、相手に払えと言われたとき、何を消す理由になったか。 図:確認の問い

ここで、前に学んだことを1つ思い出してください。同時履行の抗弁権があると、相手から払えと言われても、どうなるのでしたか? 何を消す理由になったでしょうか?払わないことの違法性を消すのでした。だから、遅れても、遅滞にならないのでした。ですから、遅滞が要件の1つめになります。2つめの拍に進みます。催告です。催告とは、債務者に、履行を求める通知のことです。時効の完成猶予の催告と、同じ言葉ですが、場面が違います。あちらは時効を止める話、こちらは解除の入口の話です。解除権の消滅のところで見た547条の催告とも、向きが逆です。あちらは、解除される側が、解除するのかどうか、はっきりさせるよう求める催告でした。催告について、確認することが、5つあります。

催告で確かめる5つ。1=債務が何か分かるか。2=額が多すぎ・少なすぎたら。3=期間を定めなくてよいか。4=期限の定めのない債務の二重の催告。5=催告なしの特約。 図:催告で確かめる5つ

  • 1=債務が何か分かるか
  • 2=額が多すぎ・少なすぎたら
  • 3=期間を定めなくてよいか
  • 4=期限の定めのない債務の二重の催告
  • 5=催告なしの特約

1つめ、何を求めているか。2つめ、額が多すぎたり少なすぎたりしたら。3つめ、期間を定めなくてよいか。4つめ、期限の定めのない債務で、二重の催告が要るか。5つめ、催告なしで解除できるという特約です。1つめ。催告の内容です。どの債務の履行を求めているのか、債務者に分かればよい、とされています。大審院の判例も、同じ方向です。債務の同一性が分かる程度で足りるわけです。たとえば、「あの機械の売買の代金を払ってください」と、分かるように書けば足ります。学説と、こちらの説明のふだです。2つめ。額が違うときです。まず、額が少なすぎる、過小催告です。たとえば、代金が100万円なのに、80万円を払ってくださいと催告した。この場合は、示した範囲、80万円の限度で催告として効力があります。ただし、不足がごくわずかなら、全部について催告したものと見てよい、というのが通説です。学説のふだです。次に、額が多すぎる、過大催告です。判例は、一律に有効とも無効とも言っていません。2つの判決を、並べます。1つ目は、統制額、つまり、法律で上限が定められた額を、少し超えた催告の事案です。最高裁は、超えた部分を含んでいても、催告全部が無効になるわけではなく、正当な額の限度では有効だ、としました。

次の判決の事案。家主が賃料の値上げに固執し、適正額を超える額でなければ受け取らない態度を示していた。家主は月5,000円を催告したが、適正額は月3,989円。 図:次の判決の事案

  • 家主が賃料の値上げに固執し、適正額を超える額でなければ受け取らない態度を示していた
  • 家主は月5,000円を催告したが、適正額は月3,989円

2つ目は、借家の事案です。家主が賃料の値上げに固執して、月5,000円より低い額では、受け取らない態度を示していました。催告した額は月5,000円ですが、適正な額は月3,989円でした。その差は、1,011円です。最高裁は、次のように述べています。

判例最判昭39・6・26

過大な催告の効力 右のような場合においては、値上相当額月金三、九八九円を金一、〇一一円しかこえない賃料月金五、〇〇〇円の割合による家賃債務についての支払催告であっても、適法な催告といいがたく、したがって、過大な催告としてその効力を否定した原判決の判断は正当。

読み方です。適正額を少し超えただけの催告でも、適法な催告とは言いがたい、として、過大な催告の効力を否定した判断を、正当としました。冒頭の「右のような場合」とは、家主が、それ以下の額では受け取らない態度を示していた場合です。判例のふだです。

過大催告の線引き。正当額なら受け取るつもりがあった=正当額の限度で有効。正当額では受け取らない態度が明確=催告は効力を生じない。札=判例(2つの判決を対にした、こちらの整理)。 図:過大催告の線引き

  • 正当額なら受け取るつもりがあった=正当額の限度で有効
  • 正当額では受け取らない態度が明確=催告は効力を生じない
  • 札=判例(2つの判決を対にした、こちらの整理)

2つを並べると、線が見えます。分かれ目は、正当な額なら、受け取るつもりがあったか、です。受け取るつもりがあるなら、多めに書いていても、正当な額の限度で、催告は有効です。正当な額では受け取らない、という態度がはっきりしているなら、その催告は効力を生じません。債務者から見れば、正当な額を差し出しても受け取ってもらえないのなら、催告に応じる意味がないからです。これは、2つの判決を並べた、こちらの整理のふだです。「著しく過大でなければ有効」という覚え方は、判決の言葉ではありません。数字の大きさでは決まりません。100万円なら受け取る、という態度なら、有効です。100万円では受け取らない、という態度なら、無効です。3つめ。いよいよ、冒頭の問いです。条文は、相当の期間を定めて催告をする、と書いています。では、期間を定めなかったら、催告にならないのでしょうか?

問い。期間を定めない催告でも、解除できるのか。条文は、「相当の期間を定めて」と書いている。 図:問い

  • 期間を定めない催告でも、解除できるのか
  • 条文は、「相当の期間を定めて」と書いている

「相当の期間を定めて」という条文の文言を見れば、疑うのは自然です。ですが、最高裁は、定めなくてよい、としました。事案は、期間を定めずに催告をして、その後に、解除した、というものです。判決は、次のように述べています。

判例最判昭29・12・21

期間を定めない催告 債務者が遅滞に陥つたときは、債権者が期間を定めずに催告をした場合でも、その催告から相当の期間を経過すれば解除できると解すべきことは、すでに大審院判例の趣旨とするところであり…今なおこの解釈を改めるの要を認めない。

読み方です。債務者が遅滞に陥ったときは、期間を定めずに催告しても、その催告から相当の期間が過ぎれば、解除できる、と言っています。そして、これは大審院の判例からの考え方で、改める必要はない、としています。判例のふだです。

期間を定めなくてよい理由。催告=債務者に猶予を与えるため。待つ長さを見立てて書けなかったとき、解除権まで失わせるのは酷。実際に客観的に相当な期間が過ぎたかで決める。札=学説・こちらの説明。 図:期間を定めなくてよい理由

  • 催告=債務者に猶予を与えるため
  • 待つ長さを見立てて書けなかったとき、解除権まで失わせるのは酷
  • 実際に客観的に相当な期間が過ぎたかで決める
  • 札=学説・こちらの説明

なぜ、定めなくてよいのか。催告の役目は、債務者に、履行する猶予を与えることです。その猶予は、実際に、客観的に足りていればよいはずです。債権者が、猶予の長さを見立てて書けなかったとき、書かなかったことで、解除する権利まで失うのは、遅れているのは債務者なのですから、酷だからです。学説と、こちらの説明のふだです。ここで、判決の範囲を、正確に言います。最高裁が直接述べたのは、期間を定めない催告です。冒頭の「3日以内」のように、短すぎる期間を定めた催告は、同じ理屈で考えるのが学説です。短い期間を書いても、催告の日から、客観的に相当な期間が過ぎれば、解除できる、という整理です。

冒頭の設例のあてはめ。「3日以内に」=期間が短い。「早く払って」=期間を定めない。どちらも、催告から客観的に相当な期間が過ぎていれば、解除できる。1か月が相当かは、事情による。 図:冒頭の設例のあてはめ

  • 「3日以内に」=期間が短い
  • 「早く払って」=期間を定めない
  • どちらも、催告から客観的に相当な期間が過ぎていれば、解除できる
  • 1か月が相当かは、事情による

冒頭の設例に、当てはめます。「3日以内に払って」と短い期間で催告した場合も、「早く払って」とだけ伝えた場合も、催告から、客観的に相当な期間が過ぎていれば、解除できます。なお、1か月が相当な期間かは、契約の中身や、払うために必要な準備の程度で決まります。機械の代金を払うだけなら、ふつうは1か月あれば、足りると考えられます。4つめ。期限の定めのない債務の、二重の催告です。

条文民法412条3項

民法第412条3項 債務の履行について期限を定めなかったときは、債務者は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。

412条3項です。債務の履行について期限を定めなかったときは、債務者は、履行の請求を受けた時から、遅滞の責任を負う。条文のふだです。

二重の催告は不要。期限の定めのない債務=請求を受けた時から遅滞(412条3項)。そのうえで、541条の催告もする。理屈は別物でも、1回の通知で兼ねられる。札=判例(大審院)・こちらの説明。 図:二重の催告は不要

  • 期限の定めのない債務=請求を受けた時から遅滞(412条3項)
  • そのうえで、541条の催告もする
  • 理屈は別物でも、1回の通知で兼ねられる
  • 札=判例(大審院)・こちらの説明

期限の定めがない債務では、まず、請求を受けた時に、遅滞が始まります。そのうえで、541条の催告をして、期間が過ぎるのを待つ。理屈のうえでは、請求と催告は別のものです。それなら、あらためて二度、求めなければいけないのでしょうか? 古い大審院の判例は、二重の催告は不要としました。たった1回の通知で、請求と催告を兼ねられるのです。二度求めさせるのは、債務者に有利すぎて、不合理だからです。判例と、こちらの説明のふだです。たとえば、品物は先に渡したのに、「いつ払うか決めていない」売買の代金を、「今月末までに払ってください」と一度だけ伝えて、期間が過ぎたとします。この1通で、遅滞の請求と、541条の催告の両方になります。5つめ。無催告特約です。契約に、催告しなくても解除できる、と書いてあったら、どうでしょうか?

原則は、そのとおりです。無催告解除の特約は有効、というのが、古い大審院の判例です。ただし、継続的契約、つまり、賃貸借のように、一度で終わらず、長く続く契約では、事情が違います。最高裁の判決を見ます。

判決の事案。家屋の賃貸借。賃料を1か月分でも滞納したら催告なしで解除できる、という特約。賃料は月1万5000円、5か月分の滞納。 図:判決の事案

  • 家屋の賃貸借
  • 賃料を1か月分でも滞納したら催告なしで解除できる、という特約
  • 賃料は月1万5000円、5か月分の滞納

事案は、家屋の賃貸借です。賃料は月1万5000円。賃料を1か月分でも滞納したら、催告なしで契約を解除できる、という特約がありました。借主は、5か月分の賃料を滞納し、貸主が、催告せずに解除しました。判決は、次のように述べています。

判例最判昭43・11・21

無催告解除の特約 家屋の賃貸借契約において、一般に、賃借人が賃料を一箇月分でも滞納したときは催告を要せず契約を解除することができる旨を定めた特約条項は、賃貸借契約が当事者間の信頼関係を基礎とする継続的債権関係であることにかんがみれば、賃料が約定の期日に支払われず、これがため契約を解除するに当たり催告をしなくてもあながち不合理とは認められないような事情が存する場合には、無催告で解除権を行使することが許される旨を定めた約定であると解するのが相当である。

読み方です。1か月分でも滞納したら催告なしで解除できる、という特約は、その文字どおりには使えません。催告しなくても不合理とは認められない事情がある場合に、無催告で解除できる、という趣旨の約束だ、と解釈する。つまり、特約の意味を、限定して読むのです。なぜ、限定して読むのか。判決が挙げた理由は、賃貸借が、当事者の信頼関係を土台にして、長く続く関係だ、という点です。1か月分の遅れだけで、立て直す機会も与えずに契約を終わらせるのは、その性質に合わない、という考え方です。判例と、こちらの説明のふだです。この事案では、5か月分の滞納があり、ほかに特別な事情もなかったので、無催告の解除が許されました。判例のふだです。似た判決に、借地で、無断の増改築を禁じる特約に基づく無催告解除を扱った、最高裁の判決があります。そちらは、信頼関係を破壊するおそれがない場合は、信義則上、許されない、と述べています。理由づけは、今見た判決と少し違います。賃貸借の信頼関係の話は、別の回で見ます。今日は、特約があっても、文字どおり使えるとは限らない、というところまでです。3つめの拍に進みます。相当期間の経過です。

相当期間の経過。催告後、客観的に相当な期間が過ぎる必要。確定的に履行を拒絶されたときは、待たなくてよい。条文の読みと、判例の結論を分ける。 図:相当期間の経過

  • 催告後、客観的に相当な期間が過ぎる必要
  • 確定的に履行を拒絶されたときは、待たなくてよい
  • 条文の読みと、判例の結論を分ける

催告の後、客観的に相当な期間が過ぎる必要があります。どのくらいが相当かは、債務者が履行の準備をするのに、どのくらいかかるかなどで決まります。ここで、言葉を整理します。条文は、相当の期間を定めて、と書いています。これは、催告の中身の話です。判例は、客観的に相当な期間が過ぎれば足りる、と言っています。これは、要件としての期間の話です。たとえば、催告に3日以内と書いても、払う準備に10日かかる契約なら、解除できるのは、3日たった時ではなく、催告から10日ほど過ぎた時です。書いた日数は催告の文面にすぎず、解除できるかを決めるのは、実際に過ぎた期間です。条文の読みと、判例の結論は、分けて覚えてください。例外が2つあります。1つめ、債務者が、はっきりと履行を拒絶したときです。もう待っても意味がないので、期間の経過を待たずに、解除できます。古い大審院の判例も、そう述べています。現在は、542条1項2号に、全部の履行を拒絶する意思が明確に表示された場合として、定められています。2つめ、期間が過ぎた後の話です。期間が過ぎても、解除の意思表示をする前に、債務者が、本来の給付に遅延損害金を添えて提供すれば、解除権は消えます。解除権は、遅れていることを理由に生まれた権利です。遅れを埋め合わせる分まで添えて差し出せば、その理由がなくなるので、解除権も消えるのです。前に、解除権の消滅のところで見ました。ここまでの流れを、一度確認します。遅れている。催告した。相当な期間が過ぎた。この3つが揃えば、解除権が生まれます。冒頭の問いで言えば、期間を書いたかどうかではなく、催告から、客観的に相当な期間が過ぎたかどうかで決まります。

軽微の例外と、主張立証の並び

3つめの柱の入口。解除権が生まれても、解除できないとき。 図:3つめの柱の入口。解除権が生まれても、解除できないとき。

3つめの柱です。4つめの拍、ただし書です。もう一度、条文を見ます。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行が、契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。

軽微の判断。契約の性質・契約の目的・契約締結に至る経緯・その他の取引をとりまく事情を、総合して考える。例=代金100万円のうち、300円だけが残っている。 図:軽微の判断

  • 契約の性質・契約の目的・契約締結に至る経緯・その他の取引をとりまく事情を、総合して考える
  • 例=代金100万円のうち、300円だけが残っている

軽微とは、わずか、ということです。軽微かどうかは、契約の性質、契約の目的、契約を結ぶに至った経緯、その他の取引をとりまく事情を、総合して決めます。たとえば、代金が100万円で、その残りが300円だけ。ほかは全部払われていて、契約の目的は達成されています。そこまでの不履行で、契約全体を解除するのは、行き過ぎです。こちらの説明のふだです。軽微だと証明する責任を負うのは、債務者です。ここから、主張立証の並びを整理します。まず、言葉の説明です。請求原因とは、請求を基礎づける事実、つまり、権利を主張する側が言うことです。抗弁とは、その請求を覆す事実、つまり、相手が言うことです。

要件事実の並び。左=請求原因(解除する側が主張立証)。契約の成立、履行期の経過、(同時履行のときは)自分の債務の提供、催告、相当期間の経過、解除の意思表示。右=抗弁(債務者が主張立証)。不履行が軽微、債権者の責めに帰すべき事由。 図:要件事実の並び

  • 左=請求原因(解除する側が主張立証)
  • 契約の成立、履行期の経過、(同時履行のときは)自分の債務の提供、催告、相当期間の経過、解除の意思表示
  • 右=抗弁(債務者が主張立証)
  • 不履行が軽微、債権者の責めに帰すべき事由

並べます。左の請求原因は、解除する側のAが言うことです。契約が成立したこと。履行期が過ぎたこと。同時履行の抗弁権があるときは、自分の債務を提供したこと。催告をして、相当な期間が過ぎたこと。そして、解除の意思表示をしたこと。右の抗弁は、解除される側のBが言うことです。不履行が軽微であること。不履行が、債権者の責めに帰すべき事由によること、つまり、543条です。こちらの整理のふだです。なぜ、軽微と543条は右側、抗弁なのか。条文の作りを見てください。541条は、本文で、解除できる、と原則を書き、ただし書で、軽微なら、この限りでない、と例外を書いています。543条も、解除できないと、例外を書いています。では、なぜ例外の側を、Bが言うのか。ある効果で得をする側が、その効果を生む事実を証明する、という考え方が、通説です。解除できる、で得をするのは、解除する側のAです。ですから、Aは、本文の要件だけを言えば足ります。解除させない、で得をするのは、Bです。ですから、ただし書の軽微や、543条の事情は、Bが言うのです。学説と、こちらの説明のふだです。

確かめる——場面を変えた問い

確かめるその1。AがBに機械を売った。Bは代金を払わない。Aは期間を書かずに「早く払って」とだけ伝え、1か月後に解除の意思表示をした。解除できるか。 図:確かめるその1

  • AがBに機械を売った
  • Bは代金を払わない
  • Aは期間を書かずに「早く払って」とだけ伝え、1か月後に解除の意思表示をした
  • 解除できるか

事例で確かめます。1つめ。売主はA、買主はBです。Bは代金を払いません。Aは、期間を書かずに「早く払って」とだけ伝え、1か月後に、解除の意思表示をしました。解除できますか?

答えその1。解除できる(催告から客観的に相当な期間が過ぎていれば、期間を定めなくてよい)。 図:答えその1

期間を書いていなくても、1か月が過ぎていれば、解除できます。期間を定めなくても、催告から客観的に相当な期間が過ぎていれば、解除できます。不足していたのは、期間の定めでした。

確かめるその2。代金100万円のところ、Aは101万円と書いて催告した。1=Aは、100万円なら受け取ると言っていた。2=Aは、100万円では受け取らないと言っていた。 図:確かめるその2

  • 代金100万円のところ、Aは101万円と書いて催告した
  • 1=Aは、100万円なら受け取ると言っていた
  • 2=Aは、100万円では受け取らないと言っていた

2つめ。代金が100万円のところを、Aは、101万円と書いて催告しました。1つめの場合、Aは、100万円なら受け取る、と言っていました。2つめの場合、Aは、100万円では受け取らない、と言っていました。それぞれ、催告は有効ですか?

答えその2。1=正当額の限度で有効(受け取る態度あり)。2=催告は効力を生じない(正当額では受け取らない態度が明確)。 図:答えその2

  • 1=正当額の限度で有効(受け取る態度あり)
  • 2=催告は効力を生じない(正当額では受け取らない態度が明確)

1つめは、100万円の限度で有効です。2つめは、効力を生じません。分かれ目は、額の大きさではなく、正当な額で受け取るつもりがあったかです。

確かめるその3。代金100万円のうち、300円だけが残った。Aが催告し、期間も過ぎた。Aは解除できるか。 図:確かめるその3

  • 代金100万円のうち、300円だけが残った
  • Aが催告し、期間も過ぎた
  • Aは解除できるか

3つめ。代金が100万円で、残りは300円だけです。ほかは全部払われています。Aは催告をして、期間も過ぎました。Aは、解除できますか?

答えその3。解除できない(軽微はただし書。債務者が主張立証する)。ただし、軽微かどうかは総合判断。 図:答えその3

  • 解除できない(軽微はただし書。債務者が主張立証する)
  • ただし、軽微かどうかは総合判断

軽微なので、解除できません。ただ、軽微だと言うのは、Bの側です。軽微は、ただし書の例外ですので、債務者のBが主張立証します。足りなかったのは、不履行の程度でした。

確かめるその4。Aは品物を先に渡し、代金の支払期限は決めていなかった。Aは「今月末までに払って」と1度だけ伝え、十分な期間のあった月末が過ぎた。もう一度請求しないと解除できないか。 図:確かめるその4

  • Aは品物を先に渡し、代金の支払期限は決めていなかった
  • Aは「今月末までに払って」と1度だけ伝え、十分な期間のあった月末が過ぎた
  • もう一度請求しないと解除できないか

最後に、場面を変えます。AがBに、絵を売って、先に渡しました。代金をいつ払うかは、決めていませんでした。Aは「今月末までに払ってください」と1度だけ伝え、月末が過ぎました。月末までの期間は、払う準備には十分だったとします。Aは、改めて請求し直さないと、解除できないでしょうか?

答えその4。解除できる(期限の定めのない債務は二重の催告が不要。請求と催告を1回の通知で兼ねる)。 図:答えその4

1度の通知で、遅滞の請求と、催告を兼ねられるので、改めて請求し直さなくても、解除できます。期限の定めのない債務でも、二重の催告は要りません。

冒頭の問いに戻る——まとめ

今日の3つの柱。1=解除の意義(帰責事由は要らない・債権者の責めなら不可)。2=催告解除の要件(遅滞・催告・相当期間の経過)。3=軽微の例外(債務者が主張立証)と、要件事実の並び。 図:今日の3つの柱

  • 1=解除の意義(帰責事由は要らない・債権者の責めなら不可)
  • 2=催告解除の要件(遅滞・催告・相当期間の経過)
  • 3=軽微の例外(債務者が主張立証)と、要件事実の並び

今日の話を整理します。1つめ、解除は、債権者を契約から解放する制度です。債務者の帰責事由は要りません。ただし、不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるときは、543条により、解除できません。2つめ、催告解除は、遅滞、催告、相当期間の経過、の3つで解除権が生まれます。期間を定めなくてもよく、期限の定めのない債務では、二重の催告も要りません。無催告の特約は、文字どおりに使えるとは限りません。3つめ、ただし書の軽微な不履行は、解除できません。軽微は、債務者が主張立証します。

冒頭の答え合わせ。「3日以内に払って」でも「早く払って」でも、催告から客観的に相当な期間が過ぎれば解除できる。ただし、不履行が軽ければ解除できない。 図:冒頭の答え合わせ

  • 「3日以内に払って」でも「早く払って」でも、催告から客観的に相当な期間が過ぎれば解除できる
  • ただし、不履行が軽ければ解除できない

冒頭の問いの答えです。「3日以内に払って」と短く伝えても、「早く払って」とだけ伝えても、催告から、客観的に相当な期間が過ぎていれば、Aは解除できます。ただし、期間が過ぎたときの不履行が軽微なら、解除できません。論文では、解除の要件は、条文どおりに書ける成立要件です。期間を定めなくてよいこと、二重の催告が不要なこと、過大な催告の扱いは、判例や学説の規範で、論点になりえます。

参照条文

  • 民法415条1項
  • 民法543条
  • 民法541条
  • 民法412条3項

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