民法ゼロから民法#243

無催告解除と一部解除(542条)

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第5章 契約 #243/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

届いたのは成人式の翌日

冒頭の設例の関係図。左が呉服店の売主B、右が買主のA。Aは成人式で着る振袖を、式の前日までに届けてもらう約束で買った。振袖が届いたのは式の翌日。 図:冒頭の設例の関係図

  • 左が呉服店の売主B、右が買主のA
  • Aは成人式で着る振袖を、式の前日までに届けてもらう約束で買った
  • 振袖が届いたのは式の翌日

冒頭の問いの答えの方向。催告をしないで、直ちに解除できる。 図:冒頭の問いの答えの方向。催告をしないで、直ちに解除できる。

先に、答えの方向を言います。催告をしなくても、直ちに解除できます。式が終わってから届いても、もう、買った目的を果たせないからです。なぜ、催告が要らないのか。催告が要らないのは、ほかにどんな場面なのか。そして、品物の一部だけが不履行のとき、どう扱うのか。今日は、この順に見ていきます。

なぜ催告が要らないのか

1つめの柱の入口。催告は、何のためにするのか。 図:1つめの柱の入口。催告は、何のためにするのか。

1つめの柱です。その前に、1つ思い出してください。前回、期間を決めずに催告しても、解除できると見ましたね。では、催告そのものをしなくてよいのは、どんなときでしょうか?方向は、合っています。そこを、もう少し丁寧に言います。催告は、債務者に、もう一度だけチャンスを与える手続です。ここで履行してくれれば、契約は続けられる。そのための、最後の機会です。たとえば、学校の追試を考えてください。追試の案内は、追試で合格できる見込みがある人に出すから、意味があります。もう卒業式が終わったあとで、「卒業試験を、もう一度受けに来てください」と案内しても、何の意味もありません。契約も同じです。催告をしても、契約をした目的を達するのに足りる履行がされない、つまり、契約の目的を達成できないのなら、催告は無意味です。だから、民法は、そういう場面を並べて、催告なしで解除できる、としました。それが542条です。この回では、催告をしないでする解除を、無催告解除と呼びます。

前回と同じです。債務者の帰責事由、つまり、債務者のせいだと言える事情は、要りません。解除は、債権者を契約から解放する制度だからです。ただし、前回見た例外は、今日もかかります。543条です。

条文民法543条

民法第543条 債務の不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるものであるときは、債権者は、前二条の規定による契約の解除をすることができない。

前二条とは、541条と542条です。つまり、無催告解除にも、この例外はかかります。たとえば、冒頭の振袖で、Aが、届け先の家の鍵を閉めたまま留守にしていて、Bが前日に届けられなかったとします。式に間に合わなかったのはAのせいですから、Aは、催告なしの解除もできません。不履行の原因を作ったのは、買主だからです。

無催告解除の5つの場面

2つめの柱の入口。無催告解除ができる場面は、いくつあるのか。 図:2つめの柱の入口。無催告解除ができる場面は、いくつあるのか。

2つめの柱です。まず、条文を出します。

条文民法542条1項

民法第542条第1項 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる。 一 債務の全部の履行が不能であるとき。 二 債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。 三 債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき。 四 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき。 五 前各号に掲げる場合のほか、債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき。

5つの号があります。長いので、1つずつ見ます。どの号も、契約の目的を達成できない場面を、別々の角度から言っているだけです。ばらばらに暗記せず、この1本の筋に結んでください。

1号の場面。売主の手元の品が、火事で燃えて引き渡せない。全部の履行が不能。 図:1号の場面。売主の手元の品が、火事で燃えて引き渡せない。全部の履行が不能。

1号です。債務の全部の履行が不能であるとき。たとえば、売主が引き渡すはずだった、世界に1つの品が、火事で燃えてしまった。もう、どんなに待っても渡せません。催告は無意味ですから、買主は、直ちに解除できます。これは、危険負担の回で、すでに見ました。代金の不払いには、1号は使えません。ここが、落とし穴です。金銭債務、つまり、お金を払う債務は、履行不能にならないと考えられています。お金は、手元になくても、借りるなど、ほかから用意できるからです。ですから、お金が払えない、は、不能ではなく、遅れているだけ、と扱います。金銭債権の回で見たとおり、お金を払えないときは、履行遅滞です。

代金を払わない買主に対して使える道。1=催告して541条。2=「払わない」と明確に言ったなら2号。3=催告しても払われる見込みがないことが明らかなら5号。4=代金の支払いそのものが期日を過ぎたら無意味という約束なら4号(品物の引渡しの期限だけでは足りない)。1号は使えない。 図:代金を払わない買主に対して使える道

  • 1=催告して541条
  • 2=「払わない」と明確に言ったなら2号
  • 3=催告しても払われる見込みがないことが明らかなら5号
  • 4=代金の支払いそのものが期日を過ぎたら無意味という約束なら4号(品物の引渡しの期限だけでは足りない)
  • 1号は使えない

売主が使える道は、全部で4つです。1つめ、催告をして、541条で解除する。2つめ、買主が「払わない」と明確に言ったなら、2号。3つめ、催告しても払われる見込みがないことが明らかなら、5号。4つめ、代金の支払いそのものに、その日を過ぎたら意味がない、という珍しい約束があれば、4号です。品物の引渡しに期限があるだけでは、代金の不払いに4号は使えません。売主にとって代金は、1日遅れて届いても、同じお金です。その日を過ぎたら目的を達成できない、とはふつう言えないからです。1号だけは、使えません。

2号の場面。売主が「あの契約はなかったことにして、渡さない」とはっきり告げた。全部の履行拒絶の意思を明確に表示。 図:2号の場面

  • 売主が「あの契約はなかったことにして、渡さない」とはっきり告げた
  • 全部の履行拒絶の意思を明確に表示

2号です。債務者が、全部の履行を拒絶する意思を、明確に表示したとき。たとえば、売主が、「あの契約はなかったことにする。渡さない」と、はっきり告げた。もう、待っても意味がありません。前回、確定的に履行を拒絶されたら期間を待たなくてよい、と見ましたね。その考え方が、現在は、この2号に定められています。この言い回しは、履行に代わる損害賠償のところで見た条文と、同じです。出してみます。

条文民法415条2項

民法第415条第2項 前項の規定により損害賠償の請求をすることができる場合において、債権者は、次に掲げるときは、債務の履行に代わる損害賠償の請求をすることができる。 一 債務の履行が不能であるとき。 二 債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。 三 債務が契約によって生じたものである場合において、その契約が解除され、又は債務の不履行による契約の解除権が発生したとき。

415条2項の2号に、同じ形の文言があります。542条の2号も、これと同じ言い方です。ポイントは、明確に、です。「遅れるかもしれない」「今は難しい」といった、あいまいな言い方では足りません。足りないときは、5号を検討するか、541条の催告に戻ります。また、2号は、全部の拒絶です。一部だけの拒絶は、次の3号と、あとで見る2項の話です。

3号の場面。夫婦茶碗として一対で買った。片方が売主の手元で壊れて引き渡せない。残る片方だけでは買った目的を達成できない。 図:3号の場面

  • 夫婦茶碗として一対で買った
  • 片方が売主の手元で壊れて引き渡せない
  • 残る片方だけでは買った目的を達成できない

3号です。一部の履行が不能、または一部の履行拒絶があって、さらに、残る部分だけでは、契約の目的を達成できないとき。設例です。買主は、夫婦茶碗として、一対の茶碗を買いました。ところが、片方が売主の手元で壊れて、引き渡せなくなりました。残る片方だけでは、一対で贈るという目的は果たせません。この場合、買主は、契約の全部を、催告なしで解除できます。残りだけで目的を達成できるなら、全部は解除できません。その場合は、あとで見る2項で、不能になった部分だけを解除できます。分かれ目は、残りだけで目的を達成できるかどうかです。

4号の場面。成人式の前日までという約束。時期を過ぎたら、目的を達成できない。 図:4号の場面。成人式の前日までという約束。時期を過ぎたら、目的を達成できない。

4号です。冒頭の振袖が、この場面です。特定の日時、または一定の期間内に履行しなければ、契約の目的を達成できない契約を、定期行為と言います。そして、定期行為で、債務者が履行をしないまま、その時期を過ぎたら、催告なしで解除できます。定期行為になる理由は、2通りです。1つめは、契約の性質です。たとえば、元日に届けることが前提の、年賀状の印刷を頼んだ場合です。2つめは、当事者の意思表示です。「式の前日までに届かなければ、要りません」と約束した場合です。冒頭の振袖は、成人式に着るために、前日までと約束しました。時期が、契約の目的の核心になっています。冒頭の問いに戻ります。振袖は式の翌日に届き、時期は過ぎました。Aは、催告なしで解除できます。ただし、4号が免除するのは、催告だけです。解除の意思表示は、必要です。Aは、「この契約を解除します」と、Bに伝えます。

問い。同じ振袖で、納期は式の前日。届いたのが式の当日の朝だった場合、時期を経過したと言えるか。 図:問い

  • 同じ振袖で、納期は式の前日
  • 届いたのが式の当日の朝だった場合、時期を経過したと言えるか

ここで、立ち止まって考えてください。同じ振袖で、納期は式の前日です。届いたのは、式の当日の朝でした。式は午後からで、着付けも間に合いました。時期を経過した、と言えるでしょうか?

答え。契約の目的を達成できないかで見る。前日までに届けること自体が目的の核心なら4号。式に間に合えばよい約束なら、4号は使いにくい。 図:答え

  • 契約の目的を達成できないかで見る
  • 前日までに届けること自体が目的の核心なら4号
  • 式に間に合えばよい約束なら、4号は使いにくい

迷うところです。4号は、その時期までに履行しなければ、契約の目的を達成できない場合、と書いています。ですから、見るのは、納期の字面ではなく、目的を達成できるかどうかです。「前日までに届けること自体」が目的の核心だったのか、「式に着られること」が核心だったのかで、結論が変わりえます。たとえば、『前日に着付けの予行をするので、前日に届かなければ要りません』と約束していたなら4号になりえますし、式に間に合えばよい約束なら、4号は使いにくくなります。契約の目的の中身を、読み取ることが大切です。

商法525条との比較の準備。民法4号と商法525条。 図:商法525条との比較の準備。民法4号と商法525条。

定期行為については、商法に、例外が1つあります。

条文商法525条

商法第525条 商人間の売買において、売買の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、当事者の一方が履行をしないでその時期を経過したときは、相手方は、直ちにその履行の請求をした場合を除き、契約の解除をしたものとみなす。

商人どうしの売買で、定期行為の時期が過ぎたときは、買主が、直ちに履行を請求した場合を除いて、解除をしたものと、みなされます。つまり、解除の意思表示すら、要りません。なぜ、商人どうしだけなのか。商売の取引は、早く決着させる必要があるからです。時期が過ぎた後に、買主が、値動きを見ながら、履行を求めるか解除するかを、都合のよいときに選べると、売主は、品物を用意しておくべきか分からず、宙ぶらりんになります。それを防ぐために、法律が、解除と決めてしまうのです。

比較。民法542条1項4号と商法525条。催告=どちらも要らない。解除の意思表示=民法は必要、商法はしたものとみなす。冒頭の振袖は、買主が一般の個人なので、商法は適用されない。 図:比較

  • 民法542条1項4号と商法525条
  • 催告=どちらも要らない
  • 解除の意思表示=民法は必要、商法はしたものとみなす
  • 冒頭の振袖は、買主が一般の個人なので、商法は適用されない

並べます。催告は、民法の4号も、商法525条も、要りません。違いは、解除の意思表示です。民法の4号は必要で、商法は、解除したものとみなします。冒頭の振袖は、買主のAが一般の個人で、商人どうしの売買ではありませんから、商法は使えず、民法の4号になります。論文では、商人間の売買かどうかを、一言確認すれば足ります。

5号の場面。売主の製造会社が工場を閉鎖し、再開の見込みも分からないと通知してきた。2号でも1号でもないが、催告しても履行される見込みがないことが明らか。 図:5号の場面

  • 売主の製造会社が工場を閉鎖し、再開の見込みも分からないと通知してきた
  • 2号でも1号でもないが、催告しても履行される見込みがないことが明らか

最後の、5号です。前各号に掲げる場合のほか、債務者が履行をせず、催告をしても、契約の目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかなとき。ここでの言葉は、前各号に掲げる場合のほか、です。1号から4号のどれにも当たらなくても、催告が無意味な場面は、ここで拾う。いわば、受け皿の規定です。設例です。売主は、製造会社です。工場を閉鎖し、いつ再開できるかも分からない、と通知してきました。「もう渡さない」とまでは、言っていません。ですから、2号ではありません。法律上、不能と言い切れるかも、分かりません。でも、催告しても、履行される見込みがないことは明らかです。そこで、5号で、催告なしに解除できます。2号は、債務者自身の言葉で決まります。5号は、そういう言葉が無くても、周りの事情から、見込みがないと明らかな場面を拾います。

条文は、見込みがないことが明らか、と求めています。単に遅れているだけ、あるいは、遅れそうだ、という程度では足りません。見込みがないことが明らか、という高いハードルがあります。足りないなら、541条の催告に戻ります。

5場面のまとめ。1号=全部不能。2号=全部の明確な拒絶。3号=一部不能か一部拒絶+残りでは目的不達成。4号=定期行為の時期の経過。5号=催告しても見込みがないことが明らか。どれも、催告しても契約の目的を達成できない。 図:5場面のまとめ

  • 1号=全部不能
  • 2号=全部の明確な拒絶
  • 3号=一部不能か一部拒絶+残りでは目的不達成
  • 4号=定期行為の時期の経過
  • 5号=催告しても見込みがないことが明らか
  • どれも、催告しても契約の目的を達成できない

まとめます。1号は、全部が不能。2号は、全部の履行を、明確に拒絶。3号は、一部の不能か拒絶で、残りだけでは目的を達成できない。4号は、定期行為の時期の経過。5号は、催告しても、見込みがないことが明らか。どれも、催告しても、契約の目的を達成できない、という1本の筋でつながっています。論文では、これらは、条文どおりに書ける成立要件です。

一部だけの不履行——一部解除か全部解除か

3つめの柱の入口。一部だけ不履行のとき、一部だけ解除できるのか。全部を解除するのか。催告は要るのか。 図:3つめの柱の入口

  • 一部だけ不履行のとき、一部だけ解除できるのか
  • 全部を解除するのか
  • 催告は要るのか

3つめの柱です。引出物の設例で考えます。売主は、引出物の製造会社です。買主は、結婚式を控えたカップルです。買主は、引出物を50セット注文しました。ところが、そのうち10セットだけ、材料がなくなり、製造できなくなりました。残る40セットは、予定どおり届けられます。買主は、契約をどうできるでしょうか? 先に、条文を出します。

条文民法542条2項

民法第542条第2項 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の一部の解除をすることができる。 一 債務の一部の履行が不能であるとき。 二 債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。

2項です。一部の履行が不能であるとき、または、債務者が一部の履行を拒絶する意思を明確に表示したときは、催告なしで、契約の一部を解除できます。設例に当てはめます。10セットだけ製造できなくなりました。残り40セットで、披露宴の目的は果たせます。そこで、買主は、その10セット分だけを、催告なしで解除できます。残る40セットの契約は、そのまま続きます。残りだけでは目的を達成できないなら、先ほどの1項3号です。たとえば、50セットのうち、45セットが作れなくなり、残りは5セットだけ。それでは、披露宴が成り立ちません。残りだけでは、契約の目的を達成できませんから、1項3号で、契約の全部を、催告なしで解除できます。分かれ目は、残りだけで、目的を達成できるかどうかです。

分かれ目の図。一部が不能・拒絶のとき、残りだけで目的を達成できる→2項で一部解除。残りだけでは達成できない→1項3号で全部解除。 図:分かれ目の図

  • 一部が不能・拒絶のとき、残りだけで目的を達成できる→2項で一部解除
  • 残りだけでは達成できない→1項3号で全部解除

図にします。一部が不能、あるいは、一部が拒絶されたとき。残りだけで、目的を達成できるなら、2項で、その部分だけを解除します。残りだけでは、達成できないなら、1項3号で、全部を解除します。

問い。事務椅子20脚のうち、18脚は納品済み。2脚だけが遅れている。遅れている2脚だけを解除できるのか。 図:問い

  • 事務椅子20脚のうち、18脚は納品済み
  • 2脚だけが遅れている
  • 遅れている2脚だけを解除できるのか

もう1つ、場面を変えます。売主は家具店、買主は会社です。会社は、事務椅子を20脚買いました。18脚は納品済みで、2脚だけが遅れています。一部だけ遅れているとき、その部分だけを解除できると思いますか?不能でも拒絶でもないので、2項は使えない気がします。2項の号には、遅滞は書いてありません。つまり、一部の遅滞の一部解除には、明文がないのです。そこで、一般の規定に戻ります。541条は、債務を履行しない場合、全般に使える規定でした。一部が遅れているのも、その一部を履行していない、ということです。ですから、遅れている一部に541条を当てはめる、と整理されています。遅れているだけなら、待てば届くかもしれません。だから、1つめの柱のとおり、まず、その一部について、もう一度チャンスを与える、という筋です。541条を出します。

条文民法541条

民法第541条 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。

18脚が納品済みで、2脚が遅れている場合、買主は、その2脚について催告をします。相当な期間が過ぎても届かなければ、2脚分だけを解除できる、という整理です。そして、本文だけでなく、ただし書もかかります。期間が過ぎたときの遅れが軽微なら、解除できません。軽微かどうかは、前回見たとおり、契約の目的や取引の事情を総合して決めます。たとえば、遅れている2脚が予備に頼んだ分で、会社の業務には何の支障もないなら、軽微と評価される余地があるでしょう。ただし、注意があります。これは、条文に書いてある結論ではなく、条文を当てはめた整理です。しかも、平成29年の改正のあとに議論が進んだ部分で、見解は、まだ流動的です。試験では、明文があるところと、整理にすぎないところを、分けて書いてください。

全部の解除については、有力な見解は、できる場合がある、とします。すでに届いたぶんと、遅れて届くぶんを合わせても、契約の目的を達成できない場合です。1項の1号から4号には、一部の遅滞は書いてありません。ですから、5号の、催告しても見込みがない、という受け皿で、催告なしに、全部を解除できる、という考え方です。たとえば、椅子の遅れた2脚が揃わないと、会場が開けない、という事情があれば、全部を解除する余地があります。

3場面の表。行=一部の遅滞・一部の不能・一部の拒絶。列=一部解除・全部解除。遅滞=催告して一部解除(541条・軽微なら不可)/5号で無催告の全部解除(有力)。不能=無催告で一部解除(2項1号)/残りで目的不達成なら1項3号で全部解除。拒絶=無催告で一部解除(2項2号)/残りで目的不達成なら1項3号で全部解除。 図:3場面の表。行=一部の遅滞・一部の不能・一部の拒絶。列=一部解除・全部解除。遅滞=催告して一部解除(541条・軽微なら不可)/5号で無催告の全部解除(有力)。不能=無催告で一部解除(2項1号)/残りで目的不達成なら1項3号で全部解除。拒絶=無催告で一部解除(2項2号)/残りで目的不達成なら1項3号で全部解除。

3つの場面を、表にまとめます。一部の遅滞は、催告して、その部分を一部解除します。ただし、軽微なら不可です。全部の解除は、遅れた履行では目的を達成できないときに、5号で、催告なしにできる、という有力な考え方です。一部の不能は、2項1号で、催告なしに一部解除。残りだけでは目的を達成できないなら、1項3号で、催告なしに全部解除。一部の明確な拒絶は、2項2号で、催告なしに一部解除。残りだけでは目的を達成できないなら、1項3号で、全部解除です。整理の筋は、2つです。1つは、一部の解除なら、不能と拒絶は催告が要らず、遅滞は催告が要る、ということ。もう1つは、残りだけで目的を達成できるなら一部解除、できないなら全部解除、ということです。なお、543条は、一部の解除にも、かかります。債権者のせいで生じた不履行なら、一部でも解除できません。

確かめる——場面を変えた問い

確かめるその1。売主Cは、買主Dに品物を売った。Dは代金を払わない。Cは、履行不能を理由に、催告なしで解除できるか。 図:確かめるその1

  • 売主Cは、買主Dに品物を売った
  • Dは代金を払わない
  • Cは、履行不能を理由に、催告なしで解除できるか

事例で確かめます。1つめ。売主はC、買主はDです。Dは、代金を払いません。Cは、「代金が払われないのは履行不能だ」として、催告なしで解除したいと考えています。できますか?

答えその1。できない(金銭債務は履行不能にならない)。541条の催告か、2号・4号・5号に当たるかを検討する。 図:答えその1

  • できない(金銭債務は履行不能にならない)
  • 541条の催告か、2号・4号・5号に当たるかを検討する

代金は、お金ですから、不能にはならないと思います。だから、1号では解除できません。金銭債務は、履行不能になりません。Cは、541条で催告をするか、Dが明確に拒絶していれば2号、代金の支払いそのものに期限の約束があれば4号、見込みがないことが明らかなら5号を検討します。

確かめるその2。結婚式の引出物50セットのうち10セットが製造できなくなった。残り40セットで足りる。 図:確かめるその2

  • 結婚式の引出物50セットのうち10セットが製造できなくなった
  • 残り40セットで足りる

2つめと3つめは、対で考えてください。2つめ。引出物50セットのうち、10セットだけが製造できなくなりました。残り40セットで、披露宴は足ります。買主は、何を解除できますか?

確かめるその3。夫婦茶碗として買った一対のうち、片方が壊れて引き渡せない。残る片方だけでは目的を達成できない。 図:確かめるその3

  • 夫婦茶碗として買った一対のうち、片方が壊れて引き渡せない
  • 残る片方だけでは目的を達成できない

3つめ。夫婦茶碗として買った一対のうち、片方が壊れて、引き渡せなくなりました。買主は、何を解除できますか?

答えその2とその3。2=10セット分だけ、無催告で一部解除(2項1号)。3=契約の全部を無催告で解除(1項3号)。分かれ目は、残りだけで目的を達成できるか。 図:答えその2とその3

  • 2=10セット分だけ、無催告で一部解除(2項1号)
  • 3=契約の全部を無催告で解除(1項3号)
  • 分かれ目は、残りだけで目的を達成できるか

2つめは、10セット分だけを、一部解除できます。3つめは、残りの片方だけでは目的を達成できないので、全部を解除できます。どちらも一部の不能ですが、残りだけで目的を達成できるかで分かれます。2つめは、2項1号で、10セット分を、催告なしで一部解除。3つめは、1項3号で、全部を、催告なしで解除です。

確かめるその4。事務椅子20脚のうち、2脚だけが遅れている。期間を定めて催告したが、期間経過後の遅れは軽微かどうかで分かれる。 図:確かめるその4

  • 事務椅子20脚のうち、2脚だけが遅れている
  • 期間を定めて催告したが、期間経過後の遅れは軽微かどうかで分かれる

最後の、4つめ。事務椅子20脚のうち、2脚だけが遅れています。買主は、2脚について催告し、期間が過ぎました。ただ、遅れている2脚は予備に頼んだ分で、会社の業務には何の支障もなかったとします。買主は、その2脚を解除できますか?

答えその4。軽微と評価されれば解除できない(一部解除にも541条ただし書がかかる整理)。ただし、明文のない部分は見解が流動的。 図:答えその4

  • 軽微と評価されれば解除できない(一部解除にも541条ただし書がかかる整理)
  • ただし、明文のない部分は見解が流動的

遅れている2脚の一部解除は、541条の当てはめです。業務に支障がなく、軽微と評価されるなら、解除できないと思います。一部の遅滞の一部解除にも、ただし書がかかる、という整理です。ただし、明文のない部分ですので、有力な整理、と区別して書いてください。

冒頭の問いに戻る——まとめ

今日の3つの柱。1=催告が要らない理由(契約の目的を達成できない)。2=5つの場面(1号全部不能・2号明確な拒絶・3号一部+残りで不達成・4号定期行為・5号受け皿)。3=一部不履行(不能・拒絶=無催告の一部解除、遅滞=催告して一部解除)。 図:今日の3つの柱

  • 1=催告が要らない理由(契約の目的を達成できない)
  • 2=5つの場面(1号全部不能・2号明確な拒絶・3号一部+残りで不達成・4号定期行為・5号受け皿)
  • 3=一部不履行(不能・拒絶=無催告の一部解除、遅滞=催告して一部解除)

今日の話を整理します。1つめ、催告は、もう一度チャンスを与える手続です。催告しても、契約の目的を達成できないなら、催告は要りません。ただし、債権者のせいなら、543条で解除できません。2つめ、542条1項の5つの場面です。全部の不能、全部の明確な拒絶、一部の不能か拒絶で残りでは足りない場合、定期行為、そして受け皿の5号です。代金を払わない買主には、1号は使えません。商人間の定期売買は、商法525条で、解除したものと、みなされます。3つめ、一部だけの不履行です。不能と拒絶なら、催告なしで一部解除ができ、残りだけでは足りないなら、全部を解除できます。遅滞なら、催告して、その部分を解除します。

冒頭の答え合わせ。振袖が式の翌日に届いた。催告をせずに、直ちに解除できる(定期行為・542条1項4号)。ただし解除の意思表示は必要。 図:冒頭の答え合わせ

  • 振袖が式の翌日に届いた
  • 催告をせずに、直ちに解除できる(定期行為・542条1項4号)
  • ただし解除の意思表示は必要

冒頭の問いの答えです。振袖が式の翌日に届いたとき、Aは、催告をしなくても、直ちに解除できます。式の前日までという約束は、定期行為で、4号に当たるからです。ただし、解除の意思表示は、必要です。論文では、542条の各号は、条文どおりに書ける成立要件です。論点になりうるのは、5号の、見込みがないことが明らか、という当てはめと、条文に明記のない、一部の遅滞の一部解除です。

参照条文

  • 民法543条
  • 民法542条1項
  • 民法415条2項
  • 商法525条
  • 民法542条2項
  • 民法541条

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