付随義務の不履行と複数契約の解除
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第5章 契約 #244/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
部屋は届いたのにプールがない
図:冒頭の設例の関係図
- 左が売主B(開発会社)、右が買主A
- BとAの間に2本の契約
- マンションの1室の売買(引渡し済み)と、スポーツクラブの会員権の売買(屋内プールが未完成)
図:冒頭の問いの答えの方向
先に、答えの方向を言います。2つの契約が密接に結びついていて、プール抜きでは買った目的が全体としては果たせないなら、部屋の売買契約も、あわせて解除できます。前回までに、解除の物差しを2つ見ました。今日は、その物差しを、2つの場面に当てます。1つは、中心の給付は済んだのに、周りの義務だけが果たされない場面。もう1つは、冒頭のように、不履行がない契約まで解除したい場面です。
付随義務の不履行で解除できるか
図:1つめの柱の入口
- 本体は届いて代金も払った
- 周りの義務だけが果たされない
- 解除できるのか
1つめの柱です。まず、言葉を確かめます。安全配慮義務の回で見た、付随義務です。付随義務とは、中心の約束、つまり、対価と結びつく本来の給付の周りにあって、契約の約束や信義則から生じる義務です。中心の約束の実現を準備したり、配慮したり、助けたりする義務、と言い換えられます。今日の問いは、こうです。本来の給付は済んでいるのに、付随義務だけが果たされない。このとき、解除できるのか。できるなら、全部か、一部か。そして、催告は要るのか。
図:柱①の設例の関係図
- 左が売主C(業務用コーヒー焙煎機の販売会社)、右が買主D(これからカフェを開く)
- 本体は納品・据付けも代金の支払いも済んでいる
設例を置きます。売主Cは、業務用のコーヒー焙煎機を売る会社です。買主Dは、これからカフェを開く人です。焙煎機の本体は、据付けまで終わっていて、代金も払い済みです。そのうえで、周りの約束が、3通りあったとします。順に見ます。
図:場面a
- 取扱説明書の冊子の交付が遅れている
- 同じ内容はウェブで読め、操作に支障はない
- 催告し、期間が過ぎても届かない
場面aです。Cは、日本語の取扱説明書の冊子を渡す、と約束していました。ところが、冊子の交付が遅れています。同じ内容は、ウェブ上で読めて、機械の操作には何の支障もありません。Dが催告をして、期間が過ぎても、冊子はまだ届きません。解除できません。催告をして期間が過ぎても、それだけでは足りないのです。条文を出します。
条文民法541条
民法第541条 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。
ただし書です。期間が過ぎた時点での不履行が、その契約と取引上の社会通念に照らして軽微なら、解除できません。冊子が遅れているだけで、機械の操作に支障がないなら、軽微と評価されます。ですから、場面aは、解除できない、が結論です。
図:旧法の考え方との対比
- 旧法の判例=付随的義務の不履行では、特段の事情がなければ解除できない
- 現行法=付随的かどうかではなく、軽微かどうかで切る
ここで、昔の考え方に一言だけ触れます。改正の前、最高裁は、付随的な義務の不履行について、こう述べていました。
判例最判昭36・11・21
旧法の付随的義務 法律が債務の不履行による契約の解除を認める趣意は、契約の要素をなす債務の履行がないために、該契約をなした目的を達することができない場合を救済するためであり、当事者が契約をなした主たる目的の達成に必須的でない附随的義務の履行を怠つたに過ぎないような場合には、特段の事情の存しない限り、相手方は当該契約を解除することができないものと解するのが相当である
読み方です。主たる目的の達成に必須ではない付随的義務を怠っただけなら、特段の事情がない限り、解除できない、と言っています。現在の541条は、ただし書で、不履行が軽微なら解除を認めない形になっています。ですから、付随義務の不履行でも、軽微でなければ、解除の道があります。
図:場面b
- ガス配管の安全検査を受けて検査済証を渡す約束
- Cは営業を停止し、検査を受ける見込みもないことが明らか
- 検査済証がなければ営業を始められない
場面bです。Cは、据付けのあとに、ガス配管の安全検査を受けて、検査済証をDに渡す、と約束していました。検査済証がなければ、Dは、営業を始められません。ところが、Cは営業を停止してしまい、検査を受ける見込みもないことが明らかです。催告なしで、全部を解除できます。検査という付随義務が果たされない結果、Dは、営業を始めるという、契約をした目的を達することができません。542条の出番です。
条文民法542条1項
民法第542条第1項 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる。 一 債務の全部の履行が不能であるとき。 二 債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。 三 債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき。 四 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき。 五 前各号に掲げる場合のほか、債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき。
5号です。1号から4号のどれにも当たらなくても、催告が無意味な場面を拾う、前回見た受け皿の規定でした。債務者が履行をせず、催告をしても、契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかなとき、催告なしで解除できます。場面bは、これに当たります。付随義務が相手でも、結論は同じです。全部を、催告なしで解除できます。
図:柱①の中間まとめ
- 原則は全部解除
- 履行が可能なら、催告して、軽微でなければ541条
- 付随義務が果たされず契約の目的を達成できないなら、無催告で542条1項5号
ここまでを、整理します。付随義務の不履行にも、解除の道は開かれています。原則は、全部解除です。履行が可能なら、催告をして、相当の期間が過ぎ、不履行が軽微でなければ、541条で解除できます。付随義務が果たされない結果、契約の目的を達成できないなら、5号で、催告なしに解除できます。
図:場面cの前に
- 前回学んだこと
- 一部の不能のとき、無催告で何を解除できたか
- 答えは、その部分だけ(542条2項1号)
次は、例外の一部解除です。その前に、1つ思い出してください。前回、一部の履行が不能のとき、催告なしで、何を解除できましたか?不能になった、その部分だけを解除できました。2項の1号でした。その考え方を、付随義務に持ち込みます。
図:場面c
- 購入後3年間、年1回の定期点検が代金に含まれる
- 焙煎機は問題なく動いている
- Cが点検をしない
- 点検は他の業者にも頼める
場面cです。代金の内訳に、購入後3年間、年1回の定期点検が含まれていました。焙煎機自体は、問題なく動いています。ところが、Cが、点検をしません。点検は、ほかの業者にも頼めます。機械が動いている以上、全部を解除するまでの必要はありません。点検は、機械の売買から切り離して、独立の約束として考えられます。こういう、切り離して扱える性質を、可分と言います。点検を、独立かつ可分な義務と見られて、しかも、履行が可能なら、その点検の部分だけを、一部解除する道があります。手順は、こうです。まず、点検を催告します。相当の期間が過ぎても、点検がなされず、その不履行が軽微でなければ、点検の部分だけを解除できます。焙煎機本体の売買は、そのまま有効です。
図:一部解除の位置づけ
- 付随義務の履行が可能=催告して一部解除(明文なし・有力な整理)
- 履行が不能=無催告で一部解除(542条2項1号)
大切な区別があります。条文に書いてあるのは、履行が不能な場合です。点検を担当する部門がなくなって、もう点検ができない。この場合は、542条2項1号が、そのまま使えます。次の条文です。
条文民法542条2項
民法第542条第2項 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の一部の解除をすることができる。 一 債務の一部の履行が不能であるとき。 二 債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
付随義務が不能になれば、その部分だけを、催告なしで一部解除できます。一方、履行が可能なまま遅れている場合に、催告して一部解除するという道は、条文に書いてありません。一部解除を定める542条2項を類推して、催告したうえで、軽微でなければ、その部分だけ解除できる、とする整理です。これは、有力な整理として、区別して書いてください。一部解除は、いつでも使えるのでしょうか?違います。多くの場合は、全部解除で処理します。一部解除に実益があるのは、場面cのように、その付随義務の部分だけを切り離して、ほかの業者に頼むなどの手当てができるときです。
図:柱①の表。行=全部解除(原則)・一部解除(例外)。列=履行が可能(催告)・履行不能または目的不達成(無催告)。全部解除=催告して軽微でなければ(541条)/目的不達成なら(542条1項5号)。一部解除=催告して軽微でなければ(有力な整理)/履行不能なら(542条2項1号)。
表にまとめます。全部解除は原則です。履行が可能なら、催告して、軽微でなければ解除できます。契約の目的を達成できないなら、5号で、催告なしです。一部解除は例外です。独立かつ可分で、履行が可能なら、催告して、軽微でなければ一部解除できますが、これは有力な整理です。履行が不能なら、2項1号で、催告なしの一部解除です。なお、前々回と前回で見た543条のとおり、債権者のせいで生じた不履行なら、これらの解除は、いずれも使えません。
2つの物差しの使い分け
図:2つめの柱の入口
- 軽微か
- 契約の目的を達成できるか
- 2つの物差しは、何が違うのか
2つめの柱です。ここまでの3つの場面で、2つの物差しが、別々の働きをしていました。その前に、前回の復習です。前回の無催告解除は、どんな共通項でつながっていましたか?催告をしても、契約の目的を達成できない、という筋でした。この、目的を達成できるか、が2つめの物差しです。整理します。1つめの物差しは、軽微かどうかです。場所は、541条のただし書で、催告して待つ解除の中にあります。期間が過ぎた時点での不履行が軽微なら、解除そのものを止めます。前々回見たとおり、軽微だと証明する責任を負うのは、債務者です。ただし書に置かれた例外だからです。2つめの物差しは、契約の目的を達成できるかどうかです。場所は、542条で、催告しても目的を達成できないなら、催告を省きます。つまり、1つめは解除を止める物差し、2つめは催告を省く物差し、と役割が違います。なぜ役割が違うのか。前々回、ささいな不履行で契約を丸ごと壊すのは行き過ぎだ、と見ました。だから、軽微なら解除そのものを止めます。一方、前回見たとおり、催告は、債務者にもう一度だけチャンスを与える手続です。目的を達成できないなら、そのチャンスは無意味です。だから、催告を省きます。
図:使い分けの図
- 不履行→軽微か
- はい=解除できない(場面a)
- いいえ→目的を達成できるか
- はい=催告して待つ解除(541条・場面cの点検)
- いいえ=無催告で解除(542条・場面b)
図にします。不履行があったら、まず、軽微かどうかを見ます。軽微なら、どちらの道でも解除できません。場面aです。軽微でなければ、次に、目的を達成できるかを見ます。達成できるなら、催告して待つ解除、つまり541条です。場面cの点検がこれです。達成できないなら、催告なしの解除、つまり542条です。場面bの検査済証がこれです。目的を達成できないほどの不履行は、軽微とは言えないのがふつうです。ですから、図は、軽微でない領域の中に、さらに、目的を達成できない領域がある、という入れ子になっています。同じ付随義務の不履行でも、どの領域に入るかで、道が変わります。この見分けが、今日の1つめの実力です。
複数契約の解除
図:3つめの柱の入口。1つの契約にしか不履行がない。別の契約まで解除できるのか。
3つめの柱です。冒頭の問いに戻ります。売主B、買主Aです。BとAの間には、部屋の売買と、会員権の売買の、2つの契約があります。プールの未完成は、会員権の契約の不履行です。部屋の売買には、不履行がありません。
図:柱③の原則
- 不履行があるのは会員権の契約だけ
- 部屋の売買には不履行がない
- 原則=不履行がない契約は解除できない
原則は、こうです。解除権は、不履行があった契約について生じます。不履行がない契約は、解除できません。部屋の売買は、約束どおり引き渡されているのですから、そのままでは、解除の根拠がありません。プールがなければ、Aは部屋を買わなかったかもしれません。それでも、だめなのですか?そこが、この判例の問題意識です。最高裁は、一定の場合に、不履行がない契約まで、あわせて解除できるとしました。このことを、複数契約の解除と呼びます。判旨を読みます。
判例最判平8・11・12
複数契約の解除 このように同一当事者間の債権債務関係がその形式は甲契約及び乙契約といった二個以上の契約から成る場合であっても、それらの目的とするところが相互に密接に関連付けられていて、社会通念上、甲契約又は乙契約のいずれかが履行されるだけでは契約を締結した目的が全体としては達成されないと認められる場合には、甲契約上の債務の不履行を理由に、その債権者が法定解除権の行使として甲契約と併せて乙契約をも解除することができるものと解するのが相当である。
読み方です。同じ当事者の間で、形の上では契約が2つ以上に分かれていても、2つの条件が揃えば、一方の不履行を理由に、他方もあわせて解除できる、と言っています。法定解除権とは、解除の総論で見た、法律の規定で生まれる解除権のことです。なぜ、不履行のない契約まで解除できるのか。形の上では2つの契約でも、中身が1つの取引なら、片方だけを残されても、買主は、買った目的を果たせない契約に縛られるだけだからです。
図:判旨を2段にした板
- 前提=同一当事者間の2個以上の契約で、一方に解除権が生じている
- 要件1=目的が相互に密接に関連付けられている
- 要件2=社会通念上、どちらかが履行されるだけでは契約を締結した目的が全体としては達成されない
- 効果=一方の不履行を理由に、他方もあわせて解除できる
2段に分けます。まず前提です。同一の当事者の間に、2つ以上の契約があり、そのうちの1つに、解除権が生じています。そのうえで、1つめの要件。それらの目的が、相互に密接に関連付けられていること。2つめの要件。社会通念上、どちらかが履行されるだけでは、契約を締結した目的が、全体としては達成されないと認められること。この2つが揃うと、効果として、一方の不履行を理由に、他方の契約もあわせて解除できます。たとえとして、ペアの靴を考えてください。左足の靴だけが届いて、右足が届かない。左足だけを履いても、歩けません。2つの契約の関係も、これに近いです。片方だけが履行されても、目的が全体として達成されないのが、2つめの要件です。
図:問い。冒頭の事案で、1つめの要件に当たる事実は何か。
ここで、考えてみてください。冒頭の事案で、密接に関連付けられている、と言える事実は、何でしょうか?
図:答え
- 部屋を買うと必ずクラブに入会しなければならず、部屋を手放すとクラブの会員の地位も失う
- 部屋を手に入れる・手放すことと会員の地位が連動し、売主は両者の帰属が別になることを許していない
この事案では、マンションの区分所有権を買うと、必ずクラブに入会しなければなりません。そして、部屋を他人に譲れば、会員の地位も失います。つまり、部屋の権利を手に入れることと手放すことは、会員の地位を手に入れることと手放すことに、連動しています。売主は、両者の帰属が別々になることを、許していません。だから、1つめの要件を満たします。
図:2つめの要件の当てはめ
- 物件は屋内プールを含むスポーツ施設の利用が主要な目的のリゾートマンション
- 買主もそのような物件として購入
- プールの遅延で、売買契約を締結した目的を達成できなくなった
2つめの要件です。判決の当てはめを読みます。途中に出てくる、要素たる債務とは、契約の中心をなす債務のことです。
判例最判平8・11・12
当てはめ これを本件について見ると、本件不動産は、屋内プールを含むスポーツ施設を利用することを主要な目的としたいわゆるリゾートマンションであり、前記の事実関係の下においては、上告人らは、本件不動産をそのような目的を持つ物件として購入したものであることがうかがわれ、被上告人による屋内プールの完成の遅延という本件会員権契約の要素たる債務の履行遅滞により、本件売買契約を締結した目的を達成することができなくなったものというべきであるから、本件売買契約においてその目的が表示されていたかどうかにかかわらず、右の履行遅滞を理由として民法五四一条により本件売買契約を解除することができるものと解するのが相当である。
読み方です。この物件は、屋内プールを含むスポーツ施設を使うことを主要な目的にした、リゾートマンションでした。買主も、そういう物件として買っています。プールの完成が遅れた結果、売買契約を締結した目的を達成できなくなった。だから、部屋の売買契約も、541条で解除できる、と言っています。使われた条文は、催告して待つ541条です。目的を達成できないことは、ここでは、催告を省く理由ではなく、不履行のない部屋の売買にまで解除を広げる理由として働いています。ここに、大事な一言があります。本件売買契約においてその目的が表示されていたかどうかにかかわらず、です。
契約書に目的が書かれていなくても、かまいません。実は、原審は、プールを使うという目的が、売買契約に表示されていなかったことを理由に、解除を認めませんでした。目的は重要な動機ではあっても、契約に表示されていない、と見たのです。最高裁は、そこを退けました。見るべきは、契約書への表示ではありません。2つの契約が客観的に密接に関連しているか。そして、全体として目的が達成されないか。この2点です。もう1つ、注意があります。判決は、屋内プールの完成が、会員権契約においては、単なる付随的義務ではなく、要素たる債務の一部だった、とも判断しています。不履行そのものが大きいことが前提です。最初に見た付随義務との対比に、使えます。
図:現行法での位置づけ
- 判例は改正前の事案
- 542条1項の「契約をした目的を達することができない」と同じ方向の考え方
最後に、現行法との関係です。この判例は、改正前の事案です。それでも、答案では、この2つの要件をそのまま使います。そして、現在の542条1項の、契約をした目的を達することができない、という考え方と、同じ方向を向いています。解除した後の処理は、原状回復の回で見たとおりです。部屋の売買も、会員権の売買も、解除の効果が生じます。論文では、複数契約の解除は、論点になりうるところです。書くときは、2つの要件を、判旨の言葉どおりに書きます。密接に関連付けられている、社会通念上、全体としては達成されない、です。
確かめる——場面を変えた問い
図:確かめるその1
- 焙煎機の売買で、取扱説明書の冊子が遅れているが、同じ内容はウェブで読め、操作に支障はない
- 催告して期間が過ぎた
- 解除できるか
事例で確かめます。1つめ。焙煎機の売買で、取扱説明書の冊子が遅れています。同じ内容はウェブで読めて、操作に支障はありません。買主は催告をし、期間が過ぎました。解除できますか?
図:答えその1。解除できない。期間経過時の不履行が軽微(541条ただし書)。
軽微ですから、解除できません。期間が過ぎた時点で、不履行が軽微なら、ただし書で、解除できません。
図:確かめるその2
- ガス配管の安全検査を売主が受けず、検査を受ける見込みもないことが明らか
- 催告は要るか
2つめ。売主が安全検査を受けず、受ける見込みもないことが明らかです。検査済証がなければ、営業を始められません。催告は要りますか?
図:答えその2
- 催告は要らない
- 検査という付随義務が果たされず契約の目的を達成できない
- 542条1項5号で無催告の全部解除
営業を始められないので、目的を達成できません。だから、催告は要らず、全部を解除できます。付随義務の不履行でも、契約の目的を達成できないなら、5号で、催告なしの全部解除です。
図:確かめるその3
- 定期点検を売主がしない
- 点検は他の業者にも頼める
- 全部の解除か、点検の部分だけか
- 催告はどうか
3つめ。定期点検を、売主がしません。点検は、ほかの業者にも頼めます。機械は動いています。全部を解除するのか、点検の部分だけなのか。催告は要りますか?
図:答えその3
- 点検の部分だけを一部解除
- 履行が可能なら催告(明文なし・有力な整理)
- 履行が不能なら無催告(542条2項1号)
点検は切り離せるので、点検の部分だけです。履行はできるので、催告が要ると思います。独立かつ可分なら、点検の部分だけを一部解除します。履行が可能なら催告が要り、これは有力な整理です。履行が不能になったなら、2項1号で、催告なしです。
図:確かめるその4
- 買主Eは、マンションの1室を買い、別の機会に、入会が任意でマンションを手放しても資格が残るクラブの会員権を買った
- 会員権の施設が完成しない
- 部屋の売買まで解除できるか
4つめです。買主Eは、開発会社からマンションの1室を買いました。別の機会に、入会が任意で、マンションを手放しても会員資格が残るクラブの、会員権を買いました。広告にも、一体とは書かれていません。会員権の施設が完成しません。Eは、マンションの売買まで解除できますか?
図:答えその4
- マンションの売買は解除できない
- 要件1(密接に関連付けられている)が欠ける
- 会員権の契約の解除はできる
別々に買っただけなので、連動していません。1つめの要件が欠けると思います。部屋を手に入れること・手放すことと、会員の地位が連動していないので、1つめの要件が欠けます。原則どおり、不履行がない契約は解除できません。解除できるのは、不履行のある、会員権の契約のほうです。
解除ブロックのまとめ表と、冒頭の問い
図:今日の3つの柱
- 1=付随義務の不履行(全部解除が原則・一部解除は例外)
- 2=2つの物差し(軽微=解除を止める・目的達成=催告を省く)
- 3=複数契約の解除(要件1・要件2)
今日の話を整理します。1つめ、付随義務の不履行でも、解除できます。原則は全部解除です。履行が可能で軽微でなければ、催告して541条。契約の目的を達成できないなら、5号で催告なし。独立かつ可分なら、例外として一部解除ができますが、履行が可能な場合は有力な整理です。2つめ、物差しは2つです。軽微かどうかは解除を止め、目的を達成できるかどうかは催告を省きます。3つめ、複数契約の解除です。目的が相互に密接に関連付けられていて、社会通念上、全体としては達成されないなら、他方の契約もあわせて解除できます。
図:冒頭の答え合わせ
冒頭の問いの答えです。部屋の売買も、あわせて解除できます。部屋の権利とクラブの会員の地位が連動しているので、目的が密接に関連付けられています。そして、屋内プールの完成が遅れた結果、買った目的が全体としては達成されないからです。契約書に、目的が表示されていたかどうかは、問題になりません。
図:解除ブロックのまとめ表
- 前半
- 総論=解除は契約の拘束から抜ける制度、行使は相手方への意思表示(540条)。効果=原状回復義務(545条)。第三者=解除前の第三者は545条1項ただし書で保護(善意悪意不問・登記が要る)、解除後の第三者は先に登記したほうが勝つ対抗問題(177条)。消滅=相手方の催告(547条)・目的物の損壊(548条・解除権を知らなかったときは除く)など。
解除のブロックを、1枚の表で見渡します。前半です。総論では、解除は、債権者を契約の拘束から解放する制度で、相手方への意思表示で行使しました。540条です。効果では、契約がなかった状態に戻すため、受け取った物を互いに返す、原状回復義務が生じました。545条です。第三者の回では、解除の前に新たな権利を取得した第三者は、善意か悪意かを問わず、登記を備えていれば守られました。解除権があっても、実際に解除されるとは限らないので、悪意でも保護に値します。その代わり、落ち度のない解除権者を犠牲にして守る以上、登記という資格を求めました。解除のあとの第三者は、ただし書が守る第三者に当たらないので、先に登記を備えたほうが勝つ、対抗問題でした。消滅の回では、解除するのかしないのか、相手方をいつまでも待たせないために、相手方が期間を定めて返事を求め、期間内に解除の通知がなければ、解除権が消えました。解除権を持つ人が、わざと、または不注意で、目的物を壊して返せなくしたときも、解除権が消えました。ただし、解除権があると知らなかったときは、消えません。
図:解除ブロックのまとめ表
- 後半
- 催告解除=541条、軽微ならただし書で不可。無催告解除・一部解除=542条1項の5場面、2項の一部解除。付随義務・複数契約=軽微でなければ催告解除・目的不達成なら無催告
- 複数契約は要件1・要件2で併せて解除。
後半です。催告解除は、催告して待つ型で、軽微ならただし書で解除できません。無催告解除は、催告しても目的を達成できない、5つの場面で、一部の不能と拒絶なら、一部解除もあります。そして今日の、付随義務と複数契約です。付随義務は、軽微でなければ催告解除、目的を達成できないなら無催告解除。複数契約は、2つの要件を満たすとき、あわせて解除できます。催告解除から今日までの3回は、どれも、2つの物差しの当てはめでした。付随義務の一部解除のうち、条文に明記のない部分は、有力な整理として、区別して書いてください。
参照条文
- 民法541条
- 民法542条1項
- 民法542条2項