典型契約の地図と贈与
印刷のコツ
プリンターでは次の設定がおすすめです。
- 用紙:A4 / 向き:縦
- 拡大縮小:「実際のサイズ」(フィット縮小しない)
- 両面印刷:オン、とじ方は「長辺をとじる」(左綴じ)
- モノクロ印刷OK(強調は色でなく太字なので白黒でも読めます)
第5章 契約 #245/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
酒の席の「やるよ」
図:冒頭の設例の関係図
- 左が贈与者A、右が友人B
- 夜の居酒屋で、Aが腕時計を指して「この時計、君にやるよ」と言い、Bが「いいの?」と受ける
- 翌朝、Aは時計が惜しくなる
図:冒頭の問いの答えの方向
- 書面にしていない贈与なら、まだ渡していない限り、やめられる
- 渡してしまった後は、やめられない
先に、答えの方向を言います。書面にしていない贈与なら、まだ渡していない限り、やめられます。そして、渡してしまった後は、やめられません。前回までで、契約の総則が終わりました。契約の成立、効力、解除です。今日から、契約の種類を1つずつ開けていきます。最初に開けるのが、贈与です。贈与とは、タダで財産をあげる契約のことです。
典型契約の地図と贈与の性格
図:典型契約13種の地図
- 4つの型
- 財産を移す=贈与(549)・売買(555)・交換(586)
- 貸す=消費貸借(587)・使用貸借(593)・賃貸借(601)
- 働く=雇用(623)・請負(632)・委任(643)・寄託(657)
- その他=組合(667)・終身定期金(689)・和解(695)
- 今いる位置=贈与
1つめの柱です。まず、地図を出します。民法が名前をつけた13種類の契約を、典型契約と呼びました。これから開ける順番を、4つの型に分けて置きます。1つめ、財産を移す型。贈与、売買、交換です。2つめ、貸す型。消費貸借、使用貸借、賃貸借です。3つめ、働く型。雇用、請負、委任、寄託です。4つめ、その他の型。組合、終身定期金、和解です。今日いるのは、財産を移す型の先頭の、贈与です。今は、名前と型の見取り図だけで足ります。中身は、1つずつ開けるたびに見ていきます。では、贈与の最初の条文を出します。贈与とは何かを定める、549条です。
条文民法549条
民法第549条 贈与は、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。
図:549条の文言から読む3つの性格
- 諾成=意思表示と受諾だけで効力を生ずる(物を渡さなくても成立)
- 片務=債務を負うのは贈与者だけ
- 無償=財産を出すのは贈与者だけ
契約の分け方の回で見た物差しを当てると、文言から、3つの性格が読めます。1つめ、諾成です。意思を表示し、相手方が受諾をすることによって効力を生ずる、とあります。合意だけで成立し、物を渡すことは成立の条件ではありません。2つめ、片務です。債務を負うのは、贈与者だけで、受贈者には、対価を払う債務は、ありません。3つめ、無償です。財産を出すのは、贈与者だけです。言い合った時点で、契約は成立しています。時計がAの腕にあっても、契約はできています。ところが、それならなぜやめられるのか。ここが次の柱です。その前に、549条のもう1つの文言を見ます。
図:他人物贈与の設例の関係図
- 左が贈与者K、右が受贈者M、上に持ち主L
- KがLの自転車を勝手に「君にあげるよ」とMに約束する
条文は、ある財産、と書いています。自分の物に限る、とは書いていません。設例です。贈与者のKが、友人Lの自転車について、Lに断りなく、受贈者のMに「君にあげるよ」と約束しました。Kは、その自転車の所有者ではありません。契約としては、有効です。ただし、約束をしただけで、自転車の所有権がすぐMに移るわけではありません。有効なのは、K・M間の約束です。なお、条文の言い方は、2017年の改正で、自己の財産から、ある財産に改められました。実質は変わりません。
口約束の贈与は解除できる
図:2つめの柱の入口
- 契約は成立している
- なのに、書面がなければやめられるのはなぜか
- 渡した後は、なぜやめられないのか
2つめの柱です。中心の条文は、550条です。
条文民法550条
民法第550条 書面によらない贈与は、各当事者が解除をすることができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りでない。
まず、本文です。書面によらない贈与は、各当事者が解除をすることができる。各当事者、とありますから、贈与者だけではありません。受贈者のほうも、やっぱりいらない、と言って解除できます。ここでの解除は、債務不履行の解除とは別物です。解除は、契約の拘束から抜ける制度で、解除権がなければできないのでした。解除権の出どころの1つが、法律の個別の規定です。550条は、その1つです。相手に落ち度があることは、要りません。書面にしていない、というだけで、理由を問わず、解除できます。行使は、これまでと同じ、相手方への意思表示です。まだ渡していないなら、巻き戻す物もありません。
ねらいは、2つあります。1つめ、贈与者に、軽率な贈与をさせないことです。タダであげる約束は、勢いでしてしまいやすいからです。2つめ、贈与の意思を、書面ではっきりさせることです。あとで言った言わないの争いになるのを防ぎます。居酒屋の「やるよ」は、まさに、勢いの約束です。次に、書面とは、どの程度のものか。判例があります。その前に、1つ注意です。これから読む判決は、改正前の言い方で書かれています。当時の550条は、解除ではなく、撤回と書いてありました。判決文には、取り消しうる、とも出てきます。意味は、今の解除と同じです。
判例最判昭60・11・29
書面の程度 民法五五〇条が書面によらない贈与を取り消しうるものとした趣旨は、贈与者が軽率に贈与することを予防し、かつ、贈与の意思を明確にすることを期するためであるから、贈与が書面によつてされたといえるためには、贈与の意思表示自体が書面によつていることを必要としないことはもちろん、書面が贈与の当事者間で作成されたこと、又は書面に無償の趣旨の文言が記載されていることも必要とせず、書面に贈与がされたことを確実に看取しうる程度の記載があれば足りるものと解すべきである。
読み方です。ねらいは、さきほどの2つと同じです。軽率な贈与を防ぎ、意思を明確にする。そのためには、契約書の形でなくても、贈与がされたことが確実に読み取れる記載があれば足ります。当事者間で作った書面でなくてもよく、無償と書いてなくてもよいのです。事案です。贈与された土地の登記名義が、前の所有者のままでした。贈与者は、前の所有者に宛てて、受贈者に直接登記を移してほしい、という内容の内容証明郵便を出しました。受贈者に移してほしい、と書いてあれば、土地をあげたことが読み取れます。ですから、この書面は、贈与の意思が確実に読み取れる記載がある書面に当たります。
図:柱②の入口で止まる問い
- 口頭で時計をあげると約束し、もう手渡してしまった
- 解除できるか
ここで、考えてみてください。居酒屋の時計を、Aが翌朝、Bの家まで持って行って、手渡してしまいました。書面はありません。それでも、Aは、解除できるでしょうか?
図:550条ただし書。履行の終わった部分については、この限りでない。
結論は、解除できません。根拠は、さきほどのただし書です。履行の終わった部分については、この限りでない。つまり、履行が終わった部分は、書面がなくても、解除できないのです。
履行の終わった部分
図:なぜ履行の終わった部分は解除できないのか
- 実際に渡した行動で、贈与の意思ははっきりした
- それを信頼した受贈者を守る
- だから、履行の終わりは緩やかに考える
なぜ、でしょうか。口で言うだけなら、勢いで言ったかもしれません。けれども、物を実際に渡す、という行動をしたなら、もう勢いではありません。意思は、はっきりしたと言えます。それを信じた受贈者を、守る必要もあります。ですから、履行が終わったかどうかは、緩やかに考えます。物によって、何をすれば履行が終わるかが違います。動産は、引き渡せば、履行が終わります。以前の回で見た、占有改定でも、足りると考えられます。次に読む判例の理屈から、そう導けます。占有改定とは、渡したことにして、現物は渡す側の手元で、受け取る側のために預かっておく形です。次は、不動産です。不動産は、引渡しか登記の、どちらか一方で足ります。両方は要りません。順に、判例を見ます。
図:昭31の事案の関係図
- 建物を建てた贈与者が、完成と同時に建物を受贈者のものにする
- 贈与者は、1年間は無償で使い続けて良いという約束で、そのまま使っている
1つめの判例です。建物を建てた贈与者が、完成と同時に、その建物を受贈者のものにしました。ただし、贈与者は、1年間は無償で使い続ける約束で、そのまま使っていました。さて、所有権は、受贈者に移っています。これで、履行は終わったのでしょうか。判旨の大事な部分を読みます。
判例最判昭31・1・27
不動産の贈与と履行の終了(引渡し) 不動産の贈与は、その所有権を移転したのみをもつて、民法五五〇条にいわゆる「履行ノ終ハリタル」ものとすることはできないのであつて、右「履行ノ終ハリタル」ものとするには、これが占有の移転を要するものと解すべきことは、論旨所説のとおりである。
読み方です。所有権を移したことだけでは、履行が終わったことになりません。占有の移転、つまり引渡しが要る、と言っています。占有とは、以前の回で見た、物を事実上支配している状態のことです。履行ノ終ハリタル、とあるのは、当時の条文の言い方です。ところが、この事案では、結論は、履行が終わっている、でした。所有権が受贈者に移ると同時に、贈与者は、これからは受贈者のために建物を占有します、という意思を、暗黙に表示したと見たからです。これで、占有も受贈者に移った、つまり引渡しが済んだ、と評価されました。引渡しは、済んでいます。実際に建物の中にいるのは贈与者でも、その贈与者が、受贈者のために使っている形になったからです。占有改定の考え方と同じ方向です。
図:昭40の事案
- 贈与者が不動産の所有権移転登記を済ませた
- 登記原因は形式上、売買にした
- 引渡しはしていなくても履行は終わる
2つめの判例です。登記のほうです。
判例最判昭40・3・26
不動産の贈与と履行の終了(登記) 不動産の贈与契約において、該不動産の所有権移転登記が経由されたときは、該不動産の引渡の有無を問わず、贈与の履行を終つたものと解すべきであり、この場合、当事者間の合意により、右移転登記の原因を形式上売買契約としたとしても、右登記は実体上の権利関係に符合し無効ということはできないから、前記履行完了の効果を生ずるについての妨げとなるものではない。
読み方です。登記が済めば、引渡しの有無を問わず、履行は終わります。登記の原因を、形式上は売買にしていても、実際の権利関係に合っていて、登記が無効でないなら、履行完了の効果は変わりません。2つを並べます。引渡しが済めば、履行は終わります。登記が済めば、履行は終わります。どちらか一方で足ります。決め手は、さきほどの理由です。引渡しでも登記でも、贈与者が行動に出て、意思がはっきりした、という点では同じだからです。一方、所有権が移ったという理屈だけでは、まだ、行動に出たと言えません。所有権は、合意だけで移ります。ですから、所有権が移った、というだけなら、まだ口の約束の段階と変わりません。1つめの判例で履行が終わったのは、所有権が移ったからではなく、贈与者が受贈者のために使う形になって、占有が移ったと評価できたからです。登記も、贈与者が自分から名義の書き換えに動かなければ、できません。
図:弁別の罠
- 不動産の贈与は、引渡しと登記の両方がされるまで解除できる、は誤り
- 引渡しか登記のどちらか一方で履行は終わる
- 所有権が移ったことだけでは足りない
試験で問われる罠が、1つあります。引渡しと登記の両方がされるまでは、解除できる、という肢は誤りです。どちらか一方で、履行は終わります。
図:条文の「部分」
- 叔母が全集5冊を口頭で贈与すると約束し、2冊だけ渡した
- 渡した2冊は解除できない
- 残り3冊は、書面がなければ解除できる
もう1つ、条文の文言です。履行の終わった部分、と、部分と書いています。設例です。叔母が、全集5冊を、口頭で贈与する約束をして、2冊だけ渡しました。渡した2冊は、解除できません。残り3冊は、書面がなければ、まだ解除できます。
図:柱②の当てはめ板。行=場面、列=解除できるか。時計(口頭)=渡す前はできる・渡した後はできない。不動産(口頭)=何もしていないはできる・引渡しだけはできない(昭31)・登記だけはできない(昭40)。書面あり=550条の解除はできない。一部履行=渡した部分だけできない。
当てはめ板にまとめます。冒頭の時計は、口頭なら、渡す前は解除できます。渡した後は、解除できません。不動産は、贈与者C、受贈者Dとします。口頭で贈与したとして、何もしていないなら、解除できます。引渡しだけを済ませたなら、できません。登記だけを済ませたなら、これもできません。書面がある贈与は、そもそも、550条の解除ができません。一部だけ履行したなら、渡した部分だけが、解除できなくなります。以上が、冒頭の問いの答えです。書面にしていない贈与は、渡す前なら解除できます。渡した後は、できません。この論点は、論文で論点になりうるところです。書面によらない贈与の解除と、履行の終了という言葉を、覚えておいてください。
タダだから責任が軽い
図:3つめの柱の入口
- 贈与者の引渡義務は、どこまでか
- 傷があっても、その状態で渡せばよいのか
3つめの柱です。約束が有効で、解除もされない。では、贈与者は、何を渡す約束をしたことになるのでしょうか。551条です。
条文民法551条
民法第551条 贈与者は、贈与の目的である物又は権利を、贈与の目的として特定した時の状態で引き渡し、又は移転することを約したものと推定する。 2 負担付贈与については、贈与者は、その負担の限度において、売主と同じく担保の責任を負う。
今日は、1項を読みます。2項は、4つめの柱で使います。1項は、贈与の目的である物を、特定した時の状態で引き渡すことを約したものと推定する、と読みます。特定した時、とは何か。特定物、つまり、この1点物の贈与なら、贈与の目的として、この物と決まった時です。種類物、つまり、同じ種類ならどれでもよい物の贈与なら、目的物がこれと決まった時です。たとえば、同じ型の新品のボールペンを1本あげる約束なら、渡す1本がこれと決まった時です。その時の状態のまま渡せば、約束どおりで、債務は果たしたことになります。約束の時にあった傷や不具合を、直して渡す義務は、原則としてありません。
図:柱③の設例の関係図
- 左が贈与者E、右が受贈者F
- 5年使ったノートパソコン
- 約束の時点で、電源が時々落ちる不具合がある
設例です。贈与者のEが、受贈者のFに、5年使ったノートパソコンをあげる、と約束しました。約束の時点で、電源が時々落ちる不具合がありました。Eは、そのままFに渡せば足ります。その場合、Fのほうが、落ちない物を渡す約束があったことを、示さなければなりません。551条1項は、推定だからです。推定は、覆すことができます。直してから渡す、新品同様で渡す、といった特約があれば、その約束の中身が優先されます。その特約を示す責任は、推定を覆したい側、つまり受贈者の側にあります。
図:柱③の境界ペア
- 約束の時から電源が落ちるパソコン=そのまま渡せば足りる
- 直して渡すという約束があった=約束の中身が優先される
境界を、ペアで確かめます。約束の時から電源が落ちていたパソコンを、そのまま渡すなら、約束どおりです。同じ約束の時に、直してから渡すと言っていたなら、その約束が優先されます。分かれ目は、特別な約束があったかどうかです。軽いのは、見返りを受け取らずに引き受けた人に、対価を受け取った人と同じ重さの責任を負わせるのは、釣り合わないからです。タダだから、軽いのです。逆に、売る約束には、この軽さがありません。売買の場合は、別の回で見ます。
特殊の贈与3つ
図:4つめの柱。基本形からどこが違うか。負担付贈与(553条・551条2項)、定期贈与(552条)、死因贈与(554条)。行=3つの贈与、列=何か・条文・基本形からの違い。
4つめの柱です。特殊な贈与が、3つあります。負担付贈与、定期贈与、死因贈与です。それぞれ、ここまで見た基本形から、どこが違うかで整理します。1つめ、負担付贈与です。その前に、復習です。以前の回で、同時履行の抗弁権を見ました。同時履行の抗弁権は、どんな関係にある2つの債務に働きましたか?同じ契約から生じて、対価的に向き合っている2つの債務に働きました。ここで、負担付贈与の話に入ります。受贈者も、一定の給付をする義務を負う贈与です。
図:負担付贈与の設例の関係図
- 左が贈与者G、右が受贈者H
- Gが中古のバイクをHにあげる
- Hは、Gが友人に借りている3万円を、Gに代わって友人に返す
設例です。贈与者のGが、受贈者のHに、中古のバイクをあげます。そのかわり、Hは、Gが友人に借りている3万円を、Gに代わって、その友人に返します。この3万円を返すのが、負担です。負担の給付先は、贈与者に限りません。この設例のように、第三者に対するものでも、負担になります。売買のようなものではありません。負担は、バイクの対価ではありません。ですから、負担付贈与も、基本形のまま、片務で無償です。ただし、Hも、3万円を返すという債務を負います。バイクを渡すGの債務と、負担の限度で向き合う形になるので、その限度では、双務で有償の契約に似ています。そこで、553条が、準用を定めます。
条文民法553条
民法第553条 負担付贈与については、この節に定めるもののほか、その性質に反しない限り、双務契約に関する規定を準用する。
この節とは、贈与の節のことです。性質に反しない限り、双務契約の規定を準用する。具体的には、3つが使えます。同時履行の抗弁権、危険負担、契約の解除です。
条文民法533条
民法第533条 双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行(債務の履行に代わる損害賠償の債務の履行を含む。)を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない。
1つめ、同時履行の話です。Hが3万円を返してくれないうちは、Gは、バイクを渡さなくてよいのです。
条文民法536条1項
民法第536条第1項 当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。
2つめ、危険負担です。バイクが、G・H双方に落ち度のない事情で、渡せなくなったとします。Hは、3万円を返す負担の履行を、拒めます。危険負担は、以前の回で見た仕組みです。相手の債務が、双方の落ち度なく果たせなくなれば、こちらも、自分の見返りの給付を拒めます。
条文民法541条
民法第541条 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。
3つめ、解除です。Hが、負担を果たさないとき、Gは、催告したうえで、解除できます。前に見た解除の仕組みが、そのまま使えます。
条文民法551条2項
民法第551条第2項 負担付贈与については、贈与者は、その負担の限度において、売主と同じく担保の責任を負う。
そして、もう1つ。551条2項です。負担付贈与では、贈与者は、その負担の限度において、売主と同じく、担保の責任を負います。担保の責任とは、渡した物が約束の内容に合っていないときに、売主が負う責任のことです。Gが、整備済みで走るバイクだと約束して渡したのに、エンジンに不具合があったとします。約束の内容に合わないので、Gは、3万円の限度で、売主と同じ責任を負います。たとえば、直すのに5万円かかっても、Gが負うのは3万円までです。売主の担保責任の中身は、別の回で見ます。
図:柱④の問い。Hが3万円を返してくれない。GはHに対して、何ができるか。
ここで、考えてみてください。バイクを受け取ったHが、3万円を返してくれません。Gは、何ができるでしょうか?
図:答え
- まだ渡していなければ、履行を拒める(同時履行・533条)
- 催告して解除できる(541条の準用)
バイクをまだ渡していなければ、渡すのを断れます。すでに渡していたなら、催告して、解除できると思います。渡す前なら、自分の履行を拒めます。そして、催告をしたうえで、解除もできます。
図:負担付贈与の暗記ライン
- 片務・無償(負担は対価ではない)
- 双務契約の規定を準用(同時履行・危険負担・解除)
- 担保責任は負担の限度で
負担付贈与を整理します。片務、無償のままです。負担は、対価ではないからです。ただし、双務契約の規定を、性質に反しない限り準用します。そして、担保責任は、負担の限度までです。
図:定期贈与の設例の関係図
- 左が叔母I、右が甥J
- Jの大学の4年間、毎年春に20万円を贈る約束
- 3年目にIが亡くなる
2つめ、定期贈与です。条文を出します。
条文民法552条
民法第552条 定期の給付を目的とする贈与は、贈与者又は受贈者の死亡によって、その効力を失う。
設例です。叔母のIが、甥のJの大学の4年間、毎年春に20万円を贈る約束をしました。3年目に、叔母が亡くなりました。Iの相続人は、残りの分を払う義務を引き継ぎません。効力を失うからです。受贈者が亡くなった場合も、同じです。条文は、贈与者又は受贈者、と書いています。どちらが亡くなっても、効力を失います。定期的に贈る約束は、贈与者と受贈者の、特別な個人的関係にもとづくのが普通です。そこで、どちらかが亡くなれば終わり、とし、相続の対象から外したのです。
図:死因贈与とは
- 贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与
- 契約
- 遺贈の規定を準用(554条)
- ただし方式は準用されない
3つめ、死因贈与です。贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与のことで、契約です。
条文民法554条
民法第554条 贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与については、その性質に反しない限り、遺贈に関する規定を準用する。
遺贈とは、遺言によって財産を無償で与えることです。死因贈与は、その遺贈の規定を、性質に反しない限り、準用します。方式は、準用されません。判例があります。
判例最判昭32・5・21
死因贈与の方式 民法五五四条の規定は、贈与者の死亡によつて効力を生ずべき贈与契約(いわゆる死因贈与契約)の効力については遺贈(単独行為)に関する規定に従うべきことを規定しただけで、その契約の方式についても遺言の方式に関する規定に従うべきことを定めたものではないと解すべきである。
読み方です。効力については、遺贈の規定に従う。でも、契約の方式については、遺言の方式に従うとは言っていない、と読みます。死因贈与は契約なので、口頭でも成立します。ただし、書面によらない贈与には、550条が及びます。口頭の死因贈与も、履行が終わるまでは、各当事者が解除できます。
図:死因贈与と遺贈の比較表。行=死因贈与・遺贈。列=何で成り立つか・口約束で足りるか・何歳から単独でできるか・代理人にさせられるか。死因贈与=契約・足りる・18歳・できる。遺贈=遺言者の単独行為・足りない(遺言の方式)・15歳・できない。
死因贈与と遺贈の違いを、表で見ます。死因贈与は、贈与者と受贈者の契約で、口約束でも足ります。遺贈は、遺言者の一方的な意思表示で、遺言の方式が要ります。年齢です。死因贈与は契約です。未成年者が贈与者として契約をするには、親など法定代理人の同意が要りますから、成年になれば、単独でできます。受贈者のほうは、権利を得るだけなら、未成年でも単独でできます。
条文民法4条
民法第4条 年齢十八歳をもって、成年とする。
条文民法961条
民法第961条 十五歳に達した者は、遺言をすることができる。
遺言は、15歳からできます。遺言は、本人の最後の意思をできるだけ活かす制度なので、成年より早く、本人だけでできるとしたのです。ですから、遺贈は15歳から、死因贈与は、18歳からです。そして、死因贈与は契約なので、代理人にさせることができます。遺言は、本人の意思そのものが大事なので、代理人にはさせられません。死因贈与の撤回ができるか、遺贈との細かい比較は、別の回で見ます。
確かめる
図:確かめるその1
- 口頭で土地を贈与した
- 引渡しは済んだが、登記はまだ
- 贈与者は解除できるか
事例で確かめます。1つめ。口頭で、土地を贈与しました。引渡しは済みましたが、登記はまだです。贈与者は、解除できますか?
図:答えその1。解除できない。引渡しで履行が終わった(最判昭31・1・27)。
引渡しが済んでいるので、履行が終わっています。解除できません。引渡しだけで、履行は終わります。登記は、要りません。
図:確かめるその2
- 書面で、5年使ったテレビを贈与した
- 約束の時にすでに映りが悪かった
- 贈与者は何を渡せばよいか
2つめ。書面で、5年使ったテレビを贈与しました。約束の時から、映りが悪かったとします。贈与者は、何を渡せばよいでしょうか?
図:答えその2
- 特定した時の状態のまま
- 推定なので、直す約束があれば別(551条1項)
映りが悪いまま、約束の時の状態で渡せば足りると思います。特定した時の状態で足ります。ただし、推定ですから、直して渡す約束があったなら、その約束が優先されます。
図:確かめるその3。負担付贈与で、受贈者が負担を果たさない。贈与者は何ができるか。
3つめ。負担付贈与で、受贈者が負担を果たしません。贈与者は、何ができますか?
図:答えその3
- 自分の履行を拒める(同時履行・533条)
- 催告して解除できる(541条の準用)
自分の履行を拒めます。催告して、解除もできます。553条の準用で、同時履行と解除が使えます。
図:確かめるその4。定期贈与の途中で、贈与者が亡くなった。相続人は払い続けるか。
4つめ。定期贈与の途中で、贈与者が亡くなりました。贈与者の相続人は、払い続けますか?
図:答えその4。効力を失う(552条)。受贈者が亡くなっても同じ。
払い続けません。効力を失います。受贈者が亡くなった場合も、同じです。
図:確かめるその5。口頭の死因贈与は、遺言の方式を満たさなくても有効か。
5つめ。口頭の死因贈与は、遺言の方式を満たしていなくても、有効でしょうか?
図:答えその5
- 有効
- 死因贈与は契約で、遺言の方式は準用されない(最判昭32・5・21)
- 遺贈なら方式が要る
契約なので、有効だと思います。遺贈なら、方式が要ります。方式は準用されません。
4つの柱のまとめと、冒頭の問い
図:今日の4つの柱
- 1=549条(諾成・片務・無償・他人物贈与も有効)
- 2=550条(書面なしは解除可・履行の終わった部分は不可・不動産は引渡しか登記)
- 3=551条1項(特定した時の状態・推定)
- 4=負担付(553条・551条2項)・定期(552条)・死因(554条)
今日の話を整理します。1つめ、贈与は、諾成、片務、無償です。ある財産とあるので、他人のものの贈与も、契約としては有効です。2つめ、書面によらない贈与は、各当事者が解除できます。ただし、履行の終わった部分はできません。不動産は、引渡しか登記のどちらか一方で、履行が終わります。3つめ、贈与者は、特定した時の状態で渡す約束をしたと推定されます。タダだから、軽いのです。4つめ、負担付贈与は双務契約の規定を準用し、担保責任は負担の限度です。定期贈与は、どちらが亡くなっても効力を失います。死因贈与は契約で、遺言の方式は要りません。
図:冒頭の答え合わせ
- 書面にしていない贈与なら、渡す前はやめられる
- 渡した後はやめられない(550条)
冒頭の問いの答えです。居酒屋の時計は、書面がなければ、渡す前ならやめられます。渡した後は、やめられません。
参照条文
- 民法549条
- 民法550条
- 民法551条
- 民法553条
- 民法533条
- 民法536条1項
- 民法541条
- 民法551条2項
- 民法552条
- 民法554条
- 民法4条
- 民法961条