買戻しと再売買の予約
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第5章 契約 #247/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
売った土地を取り戻したい
図:冒頭の設例の関係図
- 左が売主A、右が買主B
- Aは資金繰りのために甲土地を2000万円でBに売る
- 3年以内なら取り戻せる約束を付けたい
図:冒頭の問いの答えの方向
- 売買と同時に買戻しの特約を結び、同時に登記すれば、Bが転売しても取り戻せる
- ただし、住み続けたまま借りる目的なら、判例は譲渡担保として扱う
先に、答えの方向を言います。売買と同時に買戻しの特約を結び、同時に登記もしておけば、Bが甲土地を他人に転売しても、取り戻せます。ただし、住み続けたまま、つまり占有を移さずにお金を借りる目的なら、判例は、債権担保の目的だと推し量り、買戻しではなく譲渡担保として扱います。前回は、成立した売買から手付で抜ける話をしました。今日は、売った後に、売買を解除して取り戻す約束を見ます。以前に、お金を貸す側の担保として、買戻しと再売買の予約を見ました。今日は、それを売買の側から見直します。担保のための買戻しと、本当に取り戻すための買戻しの線引きも、最後に見ます。
買戻しとは何か
図:1つめの柱の入口。買戻しは、もう一度買う新しい売買なのか。
1つめの柱です。買戻しの条文を出します。以前に担保の回で出した条文です。今日は、読み方を深くします。
条文民法579条
民法第579条 不動産の売主は、売買契約と同時にした買戻しの特約により、買主が支払った代金(別段の合意をした場合にあっては、その合意により定めた金額。第五百八十三条第一項において同じ。)及び契約の費用を返還して、売買の解除をすることができる。この場合において、当事者が別段の意思を表示しなかったときは、不動産の果実と代金の利息とは相殺したものとみなす。
いちばん大事な読み方を、先に言います。買戻しは、売主が買主から、もう一度買う新しい売買ではありません。最初の売買の解除です。条文も、売買の解除をすることができる、と書いています。売った時点で、3年以内なら、代金と費用を返して、この売買をなかったことにできる、という解除権を、売主の手に残しておきます。この解除権を、買戻権と呼びます。契約で解除権を留保する約定解除の、代表例です。以前の回で、名前だけ出した条文は、これでした。買戻権は、解除権ですから、形成権です。売主が一方的に意思表示をすれば、買主の承諾を待たずに、売買がなかったことになります。
図:冒頭の設例の買戻しの流れ
- 売買と同時に買戻しの特約
- 期間内に、AがBに代金2000万円と契約の費用を提供する
- 解除で、甲土地がAに戻る
- 左が売主A、右が買主B
要件を3つに分けます。1つめ、目的物は不動産です。動産には、この制度は使えません。2つめ、買戻しの特約は、売買契約と同時に結びます。3つめ、売主が返すのは、買主が支払った代金と、契約の費用です。2017年の改正で、代金とは違う額を返すと合意した場合は、その額を返す、と書かれました。冒頭の設例なら、別段の合意がなければ、Aは2000万円と、契約の費用を返します。条文の後段も、意味を言っておきます。当事者が別段の意思を表示しなかったときは、不動産の果実と代金の利息とは、相殺したものとみなす、とあります。Bは、甲土地を使って、駐車場の収入、つまり果実を得ます。他方、Aは、受け取った2000万円の利息を払うべきところです。この2つを、差し引きゼロにします。ですから、買戻しの期間中、AはBに利息を払わず、BもAに駐車場の収入を返しません。この後段は、買主が土地を使うことを前提にしています。この前提が、あとの4つめの柱で、効いて戻ってきます。果実と代金の利息を、どう清算するかという一般の話は、別の回で見ます。
買戻しの縛り
図:2つめの柱の入口。買戻しの特約は、いつまで、誰に対して、どうやれば使えるのか。
2つめの柱です。この回の中心です。買戻しは、条文でかなり細かく縛られています。まず、期間です。
条文民法580条
民法第580条 買戻しの期間は、十年を超えることができない。特約でこれより長い期間を定めたときは、その期間は、十年とする。 2 買戻しについて期間を定めたときは、その後にこれを伸長することができない。 3 買戻しについて期間を定めなかったときは、五年以内に買戻しをしなければならない。
図:580条の4つのルール
- 上限は10年
- 長く定めても10年に短縮
- 定めた後は伸長できない
- 定めなければ5年以内
ルールは4つです。1つめ、期間は10年を超えられません。2つめ、これより長く定めても、無効にはならず、10年になります。3つめ、期間を定めたら、その後で伸長できません。伸長とは、延ばすことです。4つめ、期間を定めなかったときは、5年以内に買戻しをしなければなりません。理由は、2つあると説明されます。1つめ、買戻権が長く残ると、買主や、そこから買った人の所有権が、いつまでも不安定になるからです。2つめ、いつ取り戻されるか分からないと、買主は、建物を建てたり土地を整えたりといった改良に、お金をかけにくくなるからです。たとえば、もし縛りが無く、借金の代わりに土地を売る形にして、20年後まで買い戻せる、としておくと、Bも、Bから土地を買う人も、20年のあいだ、いつ取り戻されるか分からないまま使うことになり、思い切った改良もしにくくなります。冒頭の設例に、ここで一度、考えてみてください。Aは3年以内という約束でした。ここから1点だけ変えます。1つめ、期間を決めなかったら、いつまでですか。2つめ、期間を12年と決めたら、いつまでですか。3つめ、3年と決めたあとで、2年目に、5年に延ばそうと合意したら、いつまでですか?
図:当てはめの問い
- 1=期間を決めなかった
- 2=期間を12年と決めた
- 3=3年と決めたが、2年目に5年に延ばそうと合意した
- それぞれ、いつまで買い戻せるか
図:当てはめの答え
- 1=5年以内(580条3項)
- 2=10年に短縮(580条1項)
- 3=伸長できず3年のまま(580条2項)
1つめは5年以内で、2つめは10年で、3つめは、延ばす合意が効かないので、3年のままだと思います。2つめは、12年という定めが全部無効になるのではなく、10年に縮みます。3つめは、延ばす合意をしても、買戻しの期間としては伸びません。期間を延ばしたいなら、新しく別の約束を立てる話になります。次は、登記です。
条文民法581条
民法第581条 売買契約と同時に買戻しの特約を登記したときは、買戻しは、第三者に対抗することができる。 2 前項の登記がされた後に第六百五条の二第一項に規定する対抗要件を備えた賃借人の権利は、その残存期間中一年を超えない期間に限り、売主に対抗することができる。ただし、売主を害する目的で賃貸借をしたときは、この限りでない。
図:581条の2つのルール
- 1項=売買契約と同時に特約を登記すれば、買戻しを第三者に対抗できる
- 後からの登記は保護の外
- 2項=特約の登記の後に対抗要件を備えた賃借人は、残存期間中1年を超えない期間に限り売主に対抗できる
- 売主を害する目的の賃貸借は除く
1項です。売買契約と同時に、買戻しの特約を登記したときは、買戻しを第三者に対抗できます。つまり、Bが甲土地を他人に売っても、買戻しの登記があれば、Aは、その他人からも取り戻せます。要は、同時です。特約そのものが売買と同時に付けるものなので、登記も、所有権の移転の登記と並べて、同時にします。そうすれば、あとからBの土地を買う人は、登記を見ただけで、取り戻されるかもしれない土地だと分かります。後からの登記では、この条の保護を受けられません。2項は、賃借人の扱いです。Bが甲土地を賃借人のDに貸したとします。Dが、特約の登記の後で、賃借権を第三者に主張できる形を整えました。その場合、残りの期間が5年あっても、Dの賃借権をAに対して主張できるのは、1年を超えない期間に限られます。Aが買い戻したあと、Dは長くは居座れないのです。ただし、Bが、Aを害する目的で貸したときは、1年も認められません。
条文民法583条
民法第583条 売主は、第五百八十条に規定する期間内に代金及び契約の費用を提供しなければ、買戻しをすることができない。 2 買主又は転得者が不動産について費用を支出したときは、売主は、第百九十六条の規定に従い、その償還をしなければならない。ただし、有益費については、裁判所は、売主の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。
図:583条の2つのルール
- 1項=580条の期間内に、代金と契約の費用を提供しなければ買い戻せない
- 2項=買主や転得者が不動産に費用を出していたら、売主は196条に従って償還する(必要費・有益費)
次は、買戻しの実行の仕方です。1項です。売主は、580条の期間内に、代金と契約の費用を提供しなければ、買戻しができません。買い戻します、と言うだけでは足りません。期間内に、実際に差し出す必要があります。2項です。買主や転得者が、不動産に費用を出していたときは、売主は、196条に従って償還します。転得者とは、買主から、さらに買った人のことです。
条文民法196条
民法第196条 占有者が占有物を返還する場合には、その物の保存のために支出した金額その他の必要費を回復者から償還させることができる。ただし、占有者が果実を取得したときは、通常の必要費は、占有者の負担に帰する。 2 占有者が占有物の改良のために支出した金額その他の有益費については、その価格の増加が現存する場合に限り、回復者の選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができる。ただし、悪意の占有者に対しては、裁判所は、回復者の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。
196条は、以前の回で見た、占有者の費用の条文です。必要費は原則として全額、有益費は増えた価値が残っている限り、選択に従って償還します。たとえば、Bが駐車場の舗装に100万円かけていたなら、Aが買い戻すときに、この分の清算が問題になります。解除で土地を戻すときに、他人が入れたお金は、清算する、という発想です。期間中にBが土地をCへ転売していたなら、買戻権を行使する相手は、転得者のCです。判例があります。
判例最判昭36・5・30 民集15巻5号1459頁
買戻権行使の相手方 買戻約款付売買契約により不動産を買受けた者が約款所定の買戻期間中に更にその不動産を第三者に売渡し且つ右売買に因る所有権移転に付更に登記を経由した場合は、その不動産の売主が買戻権を行使するには、右転得者に対してこれを為すべきものであつて、
図:買戻権を行使する相手方
- 期間中に買主Bが転売し、転得者Cが移転登記を済ませたら、行使の相手はC(最判昭36)
- 買戻しは売買の解除で、所有権を戻させる相手は、いま登記ごと持っている転得者
- 特約の登記があればCに主張できる
読み方です。買主が、買戻しの期間中に、不動産をさらに第三者に売って、その第三者が所有権移転の登記まで済ませたとします。この場合、売主が買戻権を行使する相手は、その転得者です。言うべき相手は、買主ではなく、いま不動産を持っている転得者です。その理由は、一般に、こう説明されます。買戻しは、売買を解除して、所有権を売主に戻すものだからです。戻してもらう所有権を、いま登記ごと持っているのは転得者ですから、転得者に向けて言わなければ、取り戻せません。買戻しの特約を登記したあとなら、Cに買戻権を主張できます。Aは、Cに対して行使します。これは、冒頭の答えの、転売されても取り戻せる、の部分です。もう一度、冒頭の設例で、続けて3点を考えてください。4つめ、特約の登記を、売買の半年後にしたら、581条1項の保護を受けられますか。5つめ、登記の後で、BがCに転売して、Cも移転登記をしたら、Aは誰に行使しますか。6つめ、3年目の最終日に、Aが、買い戻します、と言っただけで、代金を用意していなかったら、どうなりますか?
図:当てはめの問い2
- 4=特約の登記を売買の半年後にした
- 5=登記後にBがCに転売し、Cも移転登記をした
- 6=3年目の最終日にAが買い戻すと言っただけで、代金を用意しなかった
図:当てはめの答え2
- 4=581条1項の保護の外(売買契約と同時ではない)
- 5=転得者Cに対して行使(最判昭36)
- 6=提供が無いので買戻しできない(583条1項)
4つめは、売買と同時の登記ではないので、581条1項の対抗力は受けられません。5つめは、Cに行使します。6つめは、提供が無いので、買戻しはできません。4つめは、条文が認めているのは、売買契約と同時に特約を登記したときです。後からの登記は、この条の保護の外にあります。そして6つめは、意思表示だけでは、買戻しになりません。期間内の提供が要ります。
図:残りの条文
- 582条=売主の債権者が代位して買い戻すとき、買主は鑑定人の評価に従い差額を弁済して買戻権を消滅させうる
- 584条・585条=共有持分に買戻しの特約を付けて売った後の分割・競売
最後に、残りの条文を、板で一覧にします。582条は、売主の債権者が、売主に代わって買い戻そうとするときの規定です。このとき買主は、裁判所が選んだ鑑定人の評価に従い、不動産の現在の価額から、売主が返すべき金額を引いた残りに達するまで、売主の債務を弁済し、それでも残りがあれば売主に返して、買戻権を消滅させることができます。たとえば、Aにお金を貸している人が、Aに代わって甲土地を買い戻そうとしたら、Bは、土地のいまの値打ちから、Aが返すべき2000万円と費用を引いた残りの範囲で、Aの借金を払って、買戻しを止められます。584条と585条は、共有持分に買戻しの特約を付けて売ったあと、分割や競売があった場合の規定です。今日は、存在を確かめるだけにします。
再売買の一方の予約との比較
図:3つめの柱の入口。いったん売った物を取り戻す方法は、買戻しだけなのか。
3つめの柱に入る前に、前回の復習を1問だけ出します。売買の一方の予約で、完結権をもつ人が完結の意思表示をしたとき、何が成立するのでしたか?相手方の承諾を待たずに、売買そのものが成立します。その予約完結権は、形成権でした。これを、売った物を取り戻す場面に使うのが、再売買の一方の予約です。
条文民法556条
民法第556条 売買の一方の予約は、相手方が売買を完結する意思を表示した時から、売買の効力を生ずる。 2 前項の意思表示について期間を定めなかったときは、予約者は、相手方に対し、相当の期間を定めて、その期間内に売買を完結するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、相手方がその期間内に確答をしないときは、売買の一方の予約は、その効力を失う。
再売買の一方の予約とは、いったん売った物を、売主がもう一度買う予約です。完結権をもつのが売主のAなら、Aが完結の意思表示をした時に、再売買が成立します。ここでは、新しい売買が成立します。解除で最初の売買をなかったことにする買戻しとは、仕組みが違います。
図:買戻しと再売買の一方の予約の比較表
- 行=対象・特約のタイミング・返還額・対抗要件・権利行使期間・権利行使の相手方
- 買戻し=不動産のみ・売買契約と同時・代金(別段の合意ならその額)と契約の費用・売買契約と同時の登記・10年以下(定めなければ5年)・買主(転売されたら転得者)
- 再売買の予約=制限なし・制限なし・予約で自由・仮登記・条文に上限なし・予約の相手方
比べます。1行目、対象です。買戻しは不動産だけです。再売買の予約は、制限がなく、動産でもできます。2行目、特約のタイミングです。買戻しは売買契約と同時です。再売買の予約は、制限がなく、売買の後でも結べます。3行目、返還額です。買戻しは、代金と契約の費用、別段の合意があればその額です。再売買の予約は、予約で自由に決められます。4行目、対抗要件です。買戻しは、売買契約と同時の登記です。再売買の予約は、仮登記です。5行目、権利行使期間です。買戻しは10年以下で、定めなければ5年です。再売買の予約は、条文に上限がありません。6行目、権利行使の相手方です。買戻しは、買主で、転売されたら転得者です。再売買の予約は、予約をした相手方に、完結の意思表示をします。
条文に上限が無くても、いつまでも完結できるわけではありません。期間を定めていたなら、その期間です。定めていなければ、556条2項の催告があります。予約者は、相手方に、相当の期間を定めて、売買を完結するかどうか確答するよう催告でき、その期間内に確答が無ければ、予約は効力を失います。さらに、消滅時効の一般ルールにも従います。
条文民法166条1項
民法第166条第1項 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。 一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。 二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
166条1項は、権利を行使できると知った時から5年、または行使できる時から10年、のどちらかが来れば消える、という二本立てです。この回では、予約完結権がどちらで動くかまでは、深入りしません。条文に買戻しのような上限は無い、というところを押さえてください。買戻しは、要件が厳格です。不動産だけ、売買と同時、期間は最長10年、というように、使える場面が狭くなります。では、なぜ再売買の予約には、この縛りが無いのか。579条から585条は、買戻しという特約のためだけに置かれた規定です。再売買の予約は、556条の売買の予約を、取り戻す向きに使っているだけなので、この縛りは掛からず、中身は契約の自由に任されます。たとえば、画家が、手元の絵を売ってお金をつくり、あとで取り戻したいとします。絵は動産なので、買戻しは使えませんが、再売買の予約なら結べます。ですから、実務では、再売買の予約がよく使われます。以前の回でも見たとおり、条文で縛られた買戻しと、契約の自由に任された再売買の予約、という対比で覚えてください。
実質は担保
図:4つめの柱の入口
4つめの柱に入る前に、以前の回の復習を1問だけ出します。譲渡担保で、目的物の価額が債務額を上回るとき、担保権者は、差額をどうしなければなりませんか?差額を、清算金として、設定者に支払わなければなりません。丸取りは許されない、というのが清算義務でした。さて、買戻しは、真正なものなら、どうなるでしょうか。
図:柱4の場面の関係図
- 左が売主E、右が融資元F
- EはFから500万円を借りて返済が滞っている
- Fの提案で、時価1800万円の自宅を、貸金と同じ500万円の代金でFに売る形にし、代金は貸金と差し引きにして買戻しの特約を付けた
- 登記もFに移ったが、Eは住み続けた
別の場面で考えます。左にいるのが売主のEで、右にいるのが融資元のFです。EはFから500万円を借りていて、返済が滞っています。Fは、Eの自宅、時価1800万円相当を、EがFに貸金と同じ500万円の代金で売る形にし、代金は貸金と差し引きにして、買戻しの特約を付けよう、と提案しました。Eは応じました。売買による移転登記も、特約の登記も、Fの名義で済みました。ただ、Eは、そのまま自宅に住み続けました。期間内に、Eは買い戻せませんでした。Fは、所有権は私のもの、出ていってください、と言っています。真正な買戻しなら、Eは負けです。売主は、期間内に代金と契約の費用を返せなければ、目的不動産を取り戻せなくなります。そのとき、目的不動産の価額が代金と費用を超えていても、買主は、差額を払う義務を負いません。ところが、この事案は、実際は、貸金500万円の担保です。判例の答えは、2段になっています。1段目は、担保の目的なら、形が買戻しでも譲渡担保だ、という性質の決め方です。2段目は、担保の目的かどうかを、占有で見分ける、という手がかりです。まず1段目です。
判例最判平18・2・7 民集60巻2号480頁
担保目的なら譲渡担保 真正な買戻特約付売買契約においては、売主は、買戻しの期間内に買主が支払った代金及び契約の費用を返還することができなければ、目的不動産を取り戻すことができなくなり、目的不動産の価額(目的不動産を適正に評価した金額)が買主が支払った代金及び契約の費用を上回る場合も、買主は、譲渡担保契約であれば認められる清算金の支払義務……を負わない(民法579条前段、580条、583条1項)。このような効果は、当該契約が債権担保の目的を有する場合には認めることができず、買戻特約付売買契約の形式が採られていても、目的不動産を何らかの債権の担保とする目的で締結された契約は、譲渡担保契約と解するのが相当である。
読み方です。真正な買戻しなら、取り戻せなかったときの結論は、買主の丸取りです。しかし、そういう効果は、債権担保の目的の契約には認められません。ですから、形が買戻しでも、目的不動産を何らかの債権の担保にする目的の契約は、譲渡担保契約として扱います。なぜかというと、形を買戻しにするだけで清算を逃れられるなら、さっき確かめた清算義務は、契約書の書き方ひとつで、骨抜きになるからです。担保の目的かどうかの見分け方が、判例の2段目です。判例は、見分ける手がかりとして、占有に注目しました。
判例最判平18・2・7 民集60巻2号480頁
占有を移さない契約の推認 そして、真正な買戻特約付売買契約であれば、売主から買主への目的不動産の占有の移転を伴うのが通常であり、民法も、これを前提に、売主が売買契約を解除した場合、当事者が別段の意思を表示しなかったときは、不動産の果実と代金の利息とは相殺したものとみなしている(579条後段)。そうすると、買戻特約付売買契約の形式が採られていても、目的不動産の占有の移転を伴わない契約は、特段の事情のない限り、債権担保の目的で締結されたものと推認され、その性質は譲渡担保契約と解するのが相当である。
読み方です。真正な買戻しなら、売主から買主へ占有が移るのが通常です。579条後段が、果実と利息の相殺をみなすのも、買主が使うことが前提だからです。1つめの柱の最後で、この前提がまた出てくる、と言ったのは、これのことです。ですから、買戻しの形でも、占有を移さない契約は、特段の事情がない限り、債権担保の目的で締結されたものと推認され、その性質は譲渡担保契約です。推認とは、反対の事情が示されない限り、そう扱う、ということです。
図:設例Eの結論
- 形は買戻し(不動産・同時の特約・登記)
- しかしEは占有を移さず住み続けた
- 特段の事情が見当たらず、500万円の貸金の担保と推認
- 譲渡担保
- FはEに、価額1800万円と債権額500万円の差額1300万円を清算金として支払う義務
設例のEに当てはめます。買戻しの特約も登記も揃っていますが、Eは占有を移さず、住み続けています。特段の事情も見当たりません。ですから、貸金の担保と推認されて、譲渡担保として扱われます。話を単純にするため、利息は考えないことにします。Fは、価額の1800万円と、債権額の500万円との差額、1300万円を、清算金としてEに支払う義務を負います。Eは、買戻しの期限が切れた、というだけでは、自宅を丸ごとは失いません。清算の仕組みは、以前の譲渡担保の回で見たとおりです。位置づけを直しておきます。売渡担保は、契約の形そのものを売買にする担保でした。真正な買戻しなら、いったん売買で精算されて、買い戻せなければ確定的に買主のものになります。担保なら、貸金債権が残り、清算が要ります。今日の判例は、形が買戻しでも、中身が担保なら、後者として扱う、ということです。もう1点です。以前の回で見たとおり、2025年に成立した譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する新しい法律は、まだ施行されていません。この法律の譲渡担保契約の定義からは、抵当権の目的にできる財産、つまり土地や建物などが外れています。不動産だけを目的とする買戻しは、この定義の外です。判例法理のままで考えます。担保目的の買戻特約付売買を、譲渡担保として扱うかどうかは、論文で論点になりうるところです。
確かめる
図:確かめるその1
- 機械(動産)を売るとき、買戻しの特約を付けた
- 579条の買戻しになるか
事例で確かめます。1つめ。機械を売るときに、買戻しの特約を付けました。579条の買戻しになりますか?
図:答えその1
- ならない
- 買戻しは不動産に限る(579条)
- 動産で取り戻したいなら、再売買の一方の予約
買戻しは不動産に限られるので、なりません。579条は、不動産の売主、と書いています。動産で取り戻したいなら、再売買の一方の予約という形にします。
図:確かめるその2。買戻しの期間を15年と決めた。
2つめ。買戻しの期間を、15年と決めました。この定めは、どうなりますか?
図:答えその2。10年に短縮される。無効にはならない(580条1項)。
無効ではなく、10年に縮みます。特約でこれより長い期間を定めたときは、その期間は10年とする、が580条1項でした。
図:確かめるその3。売買の半年後に、買戻しの特約を結んだ。
3つめ。売買を済ませた半年後に、買戻しの特約を結びました。579条の買戻しになりますか。また、後から取り戻す約束をしたいなら、どんな形があり得ますか?
図:答えその3
- 579条の買戻しにはならない(売買契約と同時でない)
- 後から取り戻す約束をしたいなら、再売買の一方の予約という形なら、売買の後でも結べる
売買と同時でないので、579条の買戻しにはなりません。後から取り戻す約束なら、再売買の一方の予約の形がありえます。買戻しは、売買契約と同時に結ぶことが要件でした。再売買の予約は、特約のタイミングに制限がありませんから、売買の後でも結べます。
図:確かめるその4
- 占有を移さないまま、貸金の担保として「買戻し」と書いた契約で自宅を譲った
- 目的物の値打ちが貸した額を超えるとき、差額は返さなくてよいか
4つめ。占有を移さないまま、貸金の担保として、買戻しと書いた契約で、自宅を譲りました。目的物の値打ちが、貸した額を超えるとき、買主は、差額を返さなくてよいですか?
図:答えその4
- 返さなければならない
- 占有を移さない契約は、特段の事情がない限り担保目的と推認され、譲渡担保
- 清算金の支払義務(最判平18)
返さなければなりません。譲渡担保と扱われるので、清算金を払う義務があります。占有を移さない契約は、特段の事情がない限り、債権担保の目的と推認されて、譲渡担保になります。買主は、差額を清算金として支払います。
4つの柱のまとめと、冒頭の問い
図:今日の4つの柱
- 1=買戻しは最初の売買の解除(579条)
- 不動産・売買と同時・代金と契約の費用
- 2=580条(最長10年・長い定めは10年・伸長不可・定めなければ5年)・581条(同時の登記)・583条(期間内に提供)・相手方は転得者
- 3=再売買の一方の予約は新しい売買・動産可・自由・仮登記
- 4=占有を移さない担保目的は譲渡担保で清算義務
今日の話を整理します。1つめ、買戻しは、新しい売買ではなく、最初の売買の解除です。不動産で、売買と同時の特約で、代金と契約の費用を返して解除します。2つめ、期間は最長10年で、長い定めは10年に縮み、伸長できず、定めがなければ5年以内です。第三者への対抗には、売買と同時の登記が要ります。実行には、期間内に代金と契約の費用の提供が要ります。転売されたら、行使の相手方は転得者です。3つめ、再売買の一方の予約は、完結の意思表示で新しい売買が成立する型で、動産でもでき、額は自由で、保全は仮登記です。4つめ、占有を移さない担保目的の買戻特約付売買は、特段の事情がない限り、譲渡担保として扱われ、清算が要ります。
図:冒頭の答え合わせ
- 売買と同時に買戻しの特約を結び、同時に登記すれば、Bが転売しても取り戻せる
- ただし、住み続けたまま借りる目的なら、譲渡担保として扱われる
冒頭の問いの答えです。売買と同時に買戻しの特約を結び、同時に登記もしておけば、Bが甲土地を転売しても、Aは取り戻せます。ただし、住み続けたまま、占有を移さずにお金を借りる目的なら、判例は、債権担保の目的だと推し量り、譲渡担保として扱います。
参照条文
- 民法579条
- 民法580条
- 民法581条
- 民法583条
- 民法196条
- 民法556条
- 民法166条1項