民法ゼロから民法#248

売主と買主の義務・他人物売買・果実と利息

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第5章 契約 #248/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

兄の車を黙って売る

冒頭の設例の関係図。上に所有者C(Aの兄)。左が売主A、右が買主B。AはCに黙って、C名義で登録された中古ワゴン車を、150万円でBに売る契約を結んだ。 図:冒頭の設例の関係図

  • 上に所有者C(Aの兄)
  • 左が売主A、右が買主B
  • AはCに黙って、C名義で登録された中古ワゴン車を、150万円でBに売る契約を結んだ

冒頭の問いの答えの方向。契約は有効。Aは、Cから車を手に入れてBに渡す義務を負う。ただし契約だけでは車の持ち主は変わらない。Cが認めれば、売った時に遡ってBのものになる。 図:冒頭の問いの答えの方向

  • 契約は有効
  • Aは、Cから車を手に入れてBに渡す義務を負う
  • ただし契約だけでは車の持ち主は変わらない
  • Cが認めれば、売った時に遡ってBのものになる

先に、答えの方向を言います。契約は有効です。Aは、Cから車を手に入れて、Bに渡す義務を負います。ただし、契約だけでは、車の持ち主は変わりません。Cが認めれば、売った時に遡って、Bのものになります。前に、他人のものを売る契約そのものの効力は、別の回で詳しく見る、と言いました。今日が、その回です。売買が成立するところまでは、前に見ました。今日は、成立した後に、売主と買主が何をしなければならないかを見ます。

売主の義務

1つめの柱の入口。売買の契約から、売主には何の義務が生まれるのか。 図:1つめの柱の入口。売買の契約から、売主には何の義務が生まれるのか。

1つめの柱です。売買の定義の条文から読みます。

条文民法555条

民法第555条 売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

555条の読み方。前半=当事者の一方が財産権を移転することを約す→売主の財産権移転義務。後半=相手方が代金を支払うことを約す→買主の代金支払義務。 図:555条の読み方

  • 前半=当事者の一方が財産権を移転することを約す→売主の財産権移転義務
  • 後半=相手方が代金を支払うことを約す→買主の代金支払義務

この条文は、2つの約束を並べています。前半の、財産権を移転することを約す、から、売主の財産権移転義務が生まれます。後半の、代金を支払うことを約す、から、買主の代金支払義務が生まれます。売買の契約は、この2つの義務を、同時に生みます。財産権移転義務とは、買った物の権利を、買主に渡す義務です。物の引渡しと、所有権の移転が、中心です。なお、契約の内容に合った物や権利を渡す義務も、この中に含まれます。この中身は、別の回で見ます。権利を渡したら、売主の仕事は終わりですか?終わりません。もう1つ、義務があります。条文に、はっきり書かれています。

条文民法560条

民法第560条 売主は、買主に対し、登記、登録その他の売買の目的である権利の移転についての対抗要件を備えさせる義務を負う。

売主の義務は2つ。1=財産権移転義務(555条)。2=対抗要件を備えさせる義務(560条)。例=マンションの一室を売るなら、部屋を引き渡して所有権を移し、登記も買主が備えられるようにする。登記は売主と買主の共同申請。 図:売主の義務は2つ

  • 1=財産権移転義務(555条)
  • 2=対抗要件を備えさせる義務(560条)
  • 例=マンションの一室を売るなら、部屋を引き渡して所有権を移し、登記も買主が備えられるようにする
  • 登記は売主と買主の共同申請

例で考えます。売主のAが、中古マンションの一室を、3000万円で買主のBに売ります。Aが負う義務は2つです。1つめ、部屋を引き渡し、所有権を移すことです。2つめ、Bが登記を備えられるようにすることです。2つめが要る理由は、登記の仕組みにあります。登記は、売主と買主が一緒に申請します。買主が一人で済ませることはできません。ですから、売主の協力そのものを、義務にしておく必要があります。以前に見た債権的登記請求権、つまり、売買契約から生まれる、登記を移せという請求権は、この義務を、買主の側から見たものです。

買主の義務

2つめの柱の入口。買主は代金を払う。では、払わなくてよい場合はあるのか。 図:2つめの柱の入口。買主は代金を払う。では、払わなくてよい場合はあるのか。

2つめの柱です。買主の義務の基本は、代金を払うことです。555条の後半が、その根拠です。払う時期と場所には、補充のルールがあります。

573条と574条。573条=目的物の引渡しに期限があるときは、代金の支払にも同一の期限を付けたものと推定する。574条=引渡しと同時に代金を支払うべきときは、引渡しの場所で支払う。どちらも特約が優先する任意規定。 図:573条と574条

  • 573条=目的物の引渡しに期限があるときは、代金の支払にも同一の期限を付けたものと推定する
  • 574条=引渡しと同時に代金を支払うべきときは、引渡しの場所で支払う
  • どちらも特約が優先する任意規定

573条は、引渡しに期限があるなら、代金の支払にも、同じ期限を付けたものと推定します。574条は、引渡しと同時に払うなら、引渡しの場所で払う、と定めます。どちらも、当事者の特約が優先する規定です。本題は、払わなくてよい場合です。2つあります。1つめです。

条文民法576条

民法第576条 売買の目的について権利を主張する者があることその他の事由により、買主がその買い受けた権利の全部若しくは一部を取得することができず、又は失うおそれがあるときは、買主は、その危険の程度に応じて、代金の全部又は一部の支払を拒むことができる。ただし、売主が相当の担保を供したときは、この限りでない。

例で考えます。買主のBが、土地を買いました。ところが、第三者のDが、そこは私の土地だと主張しています。Bは、権利を取得できないかもしれません。この場合、Bは、危険の程度に応じて、代金の全部、または一部の支払を拒めます。ただし、売主のAが、相当の担保を出したなら、もう拒めません。2つめです。

条文民法577条

民法第577条 買い受けた不動産について契約の内容に適合しない抵当権の登記があるときは、買主は、抵当権消滅請求の手続が終わるまで、その代金の支払を拒むことができる。この場合において、売主は、買主に対し、遅滞なく抵当権消滅請求をすべき旨を請求することができる。 2 前項の規定は、買い受けた不動産について契約の内容に適合しない先取特権又は質権の登記がある場合について準用する。

576条と577条の対比。576条=理由は権利を取得できない・失うおそれ。拒める範囲は危険の程度に応じて全部または一部。売主の対応は相当の担保を供すれば拒めない。577条=理由は契約の内容に適合しない抵当権等の登記。拒める期間は抵当権消滅請求の手続が終わるまで。売主は遅滞なく消滅請求をするよう請求できる。 図:576条と577条の対比

  • 576条=理由は権利を取得できない・失うおそれ
  • 拒める範囲は危険の程度に応じて全部または一部
  • 売主の対応は相当の担保を供すれば拒めない
  • 577条=理由は契約の内容に適合しない抵当権等の登記
  • 拒める期間は抵当権消滅請求の手続が終わるまで
  • 売主は遅滞なく消滅請求をするよう請求できる

例で考えます。Bが買ったマンションに、契約の内容に合わない抵当権の登記が付いていました。抵当権消滅請求とは、買主が一定の金額を払って、抵当権を消してもらう手続です。この手続が終わるまで、Bは代金を払わなくてよいのです。売主のAは、Bに、遅滞なく消滅請求をしてください、と請求できます。2項で、先取特権や質権の登記にも、同じ扱いが及びます。先取特権とは、法律が特別に認める、優先して弁済を受ける権利のことです。気をつけるのは、契約の内容に適合しない、という点です。その抵当権を、承知のうえで買ったのなら、契約の内容に合わないとは言えません。この場合、Bは拒めません。

576条・577条と、同時履行の抗弁権とでは、拒める理由が違います。同時履行の抗弁権は、相手が自分の義務を果たすまで、自分の義務を拒む権利でした。相手の履行がまだ、ということが理由です。576条と577条は、売主の履行がまだかどうかとは関係ありません。買主が権利を失うおそれがある、ということが理由です。ここを、混ぜないでください。

他人物売買

3つめの柱の入口。他人の物を売る契約は、有効なのか。有効だとして、物は動くのか。 図:3つめの柱の入口。他人の物を売る契約は、有効なのか。有効だとして、物は動くのか。

3つめの柱に入る前に、前の回の復習を1問だけ出します。売買の契約だけで、所有権は、原則いつ買主に移るのでしたか?意思主義でした。契約をした時に、買主に移ります。ただし、この原則には、条件が隠れています。所有権を移せるのは、所有権を持っている人だけです。冒頭のAは、持っていません。この点が、あとで効いてきます。まず、条文を出します。

条文民法561条

民法第561条 他人の権利(権利の一部が他人に属する場合におけるその権利の一部を含む。)を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う。

561条の読み方。他人の権利を売る契約も有効。売主Aは、その権利を取得して買主Bに移転する義務を負う。Bは代金を払う義務を負う。 図:561条の読み方

  • 他人の権利を売る契約も有効
  • 売主Aは、その権利を取得して買主Bに移転する義務を負う
  • Bは代金を払う義務を負う

他人の権利を売買の目的にしても、契約は有効です。売主は、その権利を取得して、買主に移転する義務を負います。冒頭の答えの、1つめの部分です。約束と、物を動かすことは、別だからです。契約が生むのは、約束です。約束は、守れるかどうかが、まだ決まっていない段階でも、結べます。たとえば、まだ仕入れていない商品を、予約で売るお店を思い浮かべてください。売った後で仕入れて渡せばよいので、予約を受け付けられます。売主が、あとで所有者から譲ってもらって渡す取引も、有効な約束として認める。これが、561条の趣旨です。見込みの有無で、有効かどうかが変わるわけではありません。逆に、無効にしたらどうなるでしょう。Aが車を手に入れられなかったとき、Bは、約束を守れとも、損害を償えとも言えなくなります。有効にしておくからこそ、Bは、Aの責任を問えるのです。

契約の線と所有権の線を分けた関係図。上に所有者C、左に売主A、右に買主B。AからBへ売買契約の線(実線)。CからBへの所有権の線は、まだつながっていない(点線)。 図:契約の線と所有権の線を分けた関係図

  • 上に所有者C、左に売主A、右に買主B
  • AからBへ売買契約の線(実線)
  • CからBへの所有権の線は、まだつながっていない(点線)

図にします。AからBへの、売買契約の線は、実線でつながります。契約は有効だからです。ところが、CからBへの、所有権の線は、つながりません。契約だけでは、Cの所有権は動かないからです。Aは、持っていない物を、移せません。登録された車は、そもそも即時取得の話にならないので、Bが善意でも、この結論は変わりません。では、物が動く道は、ないのでしょうか。あります。所有者のCが、売買を認めた場合です。まず、条文を出します。

条文民法116条

民法第116条 追認は、別段の意思表示がないときは、契約の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。

116条は、以前に見た、無権代理の追認の条文です。代理権のない人が、他人の代理人として契約をしても、本人が追認すれば、契約の時に遡って効力が生じます。判例は、この考え方を、他人物の処分に借りました。なぜ借りてよいのかは、判例を読んでから説明します。

判例最判昭37・8・10 民集16巻8号1700頁

権利者の追認と遡及効 或る物件につき、なんら権利を有しない者が、これを自己の権利に属するものとして処分した場合において真実の権利者が後日これを追認したときは、無権代理行為の追認に関する民法一一六条の類推適用により、処分の時に遡つて効力を生ずるものと解するのを相当とする

読み方です。まず、なんら権利を有しない者が、自己の権利に属するものとして処分した、とあります。Aが、自分の名で、自分の物として売った場面です。次に、真実の権利者が、後日これを追認したとき、とあります。Cが認めた場面です。最後に、処分の時に遡って効力を生ずる、とあります。売った時から、Bのものだったことになります。この事案は、無断で抵当権を設定した場面ですが、判旨は、処分一般について述べています。売買にも及びます。他人物売買と無権代理は、場面が違います。ここが大事です。無権代理は、代理人が、本人の名で契約をする場面です。Aは、本人の名では売っていません。自分の名で、自分の物として売っています。ですから、無権代理そのものではありません。それでも、116条を借りられるのは、構造が同じだからです。権限のない人がした行為を、権利者が、後から、自分のこととして引き受ける。この形は、無権代理の追認と同じです。ですから、遡って効力が生じる、という効果だけを借ります。これが、類推です。では、なぜ、売った時まで遡らせてよいのでしょう。AとBは、売った時にBのものになる前提で契約しています。所有者のCがその売買を認めるなら、2人が前提にした時点に合わせるのが自然だから、と一般に説明されます。冒頭の車に、当てはめます。ここから4通りに分けます。1つめ、Cが、弟の売買を認めたら、車はいつからBのものですか。2つめ、Cが認めず、Aも車を手に入れられないままなら、契約はどうなりますか。3つめ、Aが後日、Cから車を買い取って、所有者になったら、どうなりますか。4つめ、納車の日を過ぎても、Aが車を手に入れられないなら、Bは何ができますか?

当てはめの問い。1=Cが売買を認めた。2=Cが認めず、Aも車を手に入れられないまま。3=Aが後日、Cから車を買い取った。4=納車の日を過ぎてもAが車を手に入れられない。 図:当てはめの問い

  • 1=Cが売買を認めた
  • 2=Cが認めず、Aも車を手に入れられないまま
  • 3=Aが後日、Cから車を買い取った
  • 4=納車の日を過ぎてもAが車を手に入れられない

当てはめの答え。1=売った時に遡ってBのもの(116条本文の類推)。2=契約は有効なまま、車はCのもの、Aの取得して移す義務が残る(561条)。3=Aが所有権を取得した時に、Bにそのまま移る(結び直しは不要)。4=Bは債務不履行を理由に解除できる(不能なら催告なし)・損害賠償もできる。損害賠償だけ、Aの責めに帰すべき事由が要る(415条・541条・542条)。 図:当てはめの答え

  • 1=売った時に遡ってBのもの(116条本文の類推)
  • 2=契約は有効なまま、車はCのもの、Aの取得して移す義務が残る(561条)
  • 3=Aが所有権を取得した時に、Bにそのまま移る(結び直しは不要)
  • 4=Bは債務不履行を理由に解除できる(不能なら催告なし)・損害賠償もできる
  • 損害賠償だけ、Aの責めに帰すべき事由が要る(415条・541条・542条)

1つめは、売った時に遡ってBのものです。2つめは、契約は有効なまま、Aの義務が残ります。3つめは、Aが所有者になった時に、Bに移ります。契約が最初から有効で、あとは、移す、がそろうのを待つだけだったからです。結び直しは要りません。4つめを説明します。他人物売買の売主が、約束どおりに権利を移せなければ、売買だけの特別な責任ではなく、一般の債務不履行として処理されます。2017年の改正で、この形が整理されました。Bは、解除ができます。解除に、Aの帰責事由は要りません。解除は、Aを責めるためではなく、Bを契約から解放するための仕組みだからです。物が手に入らない不能なら、催告なしで解除できます。催告は、もう一度チャンスを与えるためのものなので、手に入らないと決まっていれば、待つ意味がないのです。遅れているだけなら、催告をして解除します。損害賠償もできますが、こちらは、Aの責めに帰すべき事由が要ります。ここを、混ぜないでください。他人物売買の売主の責任の詳細は、別の回で見ます。冒頭の問いに戻してまとめます。他人物売買は、契約としては有効です。ただし、契約だけでは物は動きません。所有者が認めれば、売った時に遡って動きます。他人物売買と追認の類推は、論文で論点になりうるところです。

果実と代金の利息

4つめの柱の入口。契約の日に所有権が買主に移っているのに、引渡し前の賃貸アパートの家賃は、なぜ売主のものなのか。 図:4つめの柱の入口

4つめの柱です。場面を変えます。売主のAが、賃貸アパート1棟を、5000万円で、買主のBに売ります。家賃は、全部で月40万円です。契約の日は4月1日、引渡しは6月1日の約束です。意思主義なら、契約の日に、所有権はBに移っています。それなのに、4月と5月の家賃は、売主のAのものになる。この理由が、575条です。

条文民法575条

民法第575条 まだ引き渡されていない売買の目的物が果実を生じたときは、その果実は、売主に帰属する。 2 買主は、引渡しの日から、代金の利息を支払う義務を負う。ただし、代金の支払について期限があるときは、その期限が到来するまでは、利息を支払うことを要しない。

1項です。まだ引き渡されていない目的物が生んだ果実は、売主に帰属します。果実とは、物から生まれる収益です。家賃は、法定果実でした。引渡しの後は、一般の原則どおり、物の所有者、つまり買主のものです。2項です。買主は、引渡しの日から、代金の利息を払います。ただし、代金の支払に期限があるときは、その期限が来るまでは、払わなくてよいのです。そして、引渡しの前は、買主は、代金をまだ払っていなくても、利息を払いません。

575条の趣旨。上=本来は3本の請求が行き交う(売主から買主への果実の返還・買主から売主への管理費の償還・買主から売主への代金の利息)。下=果実と、管理費+代金の利息を、等しいとみなして差引ゼロ。1本の簡単な清算にする。 図:575条の趣旨

  • 上=本来は3本の請求が行き交う(売主から買主への果実の返還・買主から売主への管理費の償還・買主から売主への代金の利息)
  • 下=果実と、管理費+代金の利息を、等しいとみなして差引ゼロ
  • 1本の簡単な清算にする

575条は、売主に都合のよいルールというより、手間を省く仕組みです。さっきのアパートで考えます。4月1日に所有権はBに移りましたが、6月1日までは、アパートはAの手元にあります。本来なら、3本の請求が行き交います。1本目、4月と5月の家賃80万円は、もうBの物から生まれた果実です。持ち主のBのものになるはずです。Aは、それをBに渡す立場です。2本目は、物の手入れの費用は、その物の持ち主が負うのが筋です。ですから、Bは、Aがその2か月アパートを管理した費用を負担する側です。3本目、Bは、代金の利息を、払う側です。これを1本ずつ数えると、複雑です。そこで、575条は、細かい貸し借りを数えずに、引き分けにしました。実際の金額が、ぴったり同じとは限りません。それでも、おおむね釣り合うものとして、果実と、管理費に利息を足したものを、等しいとみなして差し引きゼロにし、1本の簡単な清算にまとめたのです。家賃80万円はAのまま、管理費も利息も、お互いに請求しない、ということです。前の回の買戻しでも、不動産の果実と代金の利息は、相殺したものとみなす、とされていました。同じ発想です。この趣旨を持って、判例を2つ見ます。1つめです。売主が、引渡しを遅らせていたらどうなるか。

判例その1(大連判大13・9・24)。売主が引渡しを遅らせていても、果実は売主に帰属する。買主は、引渡しを受けるまでの利息を払わなくてよい。引渡しが遅れても、果実と利息の差引ゼロという趣旨は変わらない。 図:判例その1

  • 大連判大13・9・24
  • 売主が引渡しを遅らせていても、果実は売主に帰属する。買主は、引渡しを受けるまでの利息を払わなくてよい。引渡しが遅れても、果実と利息の差引ゼロという趣旨は変わらない。

売主が引渡しを遅らせていても、果実は売主のものです。一方、買主は、引渡しを受けるまでの利息を払いません。趣旨が、遅れていても変わらないからです。Bは、代金をまだ手元に置いたままです。Aが果実を取り、Bが利息を払わない、という釣り合いは、引渡しが遅れても崩れていません。2つめです。買主が、代金を払い終えていたらどうなるか。

判例その2(大判昭7・3・3)。買主が代金を払い終えると、575条1項は働かなくなり、その後に生じる果実は、引渡し前でも買主のものになる。払済みなら利息が生じず、差引ゼロという趣旨が及ばないため。 図:判例その2

  • 大判昭7・3・3
  • 買主が代金を払い終えると、575条1項は働かなくなり、その後に生じる果実は、引渡し前でも買主のものになる。払済みなら利息が生じず、差引ゼロという趣旨が及ばないため。

代金を払い終えた後は、果実は買主のものです。代金を払い済みなら、利息は、もう生じません。利息が生じないのなら、果実と差し引きする相手がありません。趣旨が及ばないので、1項は適用されず、一般の原則に戻ります。

575条のまとめ表。行=状況・果実・買主の利息・根拠。1=引渡し前(代金未払)・売主・払わない・575条。2=売主が引渡しを遅らせている・売主・払わない・大連判大13。3=代金を払い終えたが売主が引渡さない・買主・問題にならない・大判昭7。4=引渡し後・代金未払(期限なし)・買主・引渡しの日から払う・89条・575条2項本文。5=引渡し後・代金の期限が3か月先・買主・期限まで払わない・575条2項ただし書。6=引渡しと代金支払が同時・引渡しの日を境に売主から買主・生じない・575条・89条。 図:575条のまとめ表

  • 行=状況・果実・買主の利息・根拠
  • 1=引渡し前(代金未払)・売主・払わない・575条
  • 2=売主が引渡しを遅らせている・売主・払わない・大連判大13
  • 3=代金を払い終えたが売主が引渡さない・買主・問題にならない・大判昭7
  • 4=引渡し後・代金未払(期限なし)・買主・引渡しの日から払う・89条・575条2項本文
  • 5=引渡し後・代金の期限が3か月先・買主・期限まで払わない・575条2項ただし書
  • 6=引渡しと代金支払が同時・引渡しの日を境に売主から買主・生じない・575条・89条

6通りに整理します。1行目、引渡し前は、果実は売主で、利息は払いません。2行目、売主が引渡しを遅らせても、同じです。3行目、代金を払い終えたのに引渡されないなら、果実は買主です。4行目、引渡し後で、代金が未払なら、果実は買主で、利息は、引渡しの日から払います。5行目、引渡し後でも、代金の支払期限が先なら、期限までは利息を払いません。6行目、引渡しと代金の支払が同時なら、引渡しの日を境に、果実は売主から買主へ移ります。代金は、その日に払い終わるので、利息は生じません。

確かめる

確かめるその1。買った土地を第三者Dが自分のものだと主張している。売主は引渡しの準備を終えている。買主は代金の支払を拒めるか。 図:確かめるその1

  • 買った土地を第三者Dが自分のものだと主張している
  • 売主は引渡しの準備を終えている
  • 買主は代金の支払を拒めるか

事例で確かめます。1つめ。さきほどの土地で、第三者のDが、そこは私の土地だと主張しています。一方、売主のAは、土地を引き渡す準備を、すっかり終えています。それでも、買主のBは、代金の支払を拒めますか?

答えその1。拒める(576条)。理由は、権利を取得できない・失うおそれ。売主の履行がまだ、ということが理由の同時履行の抗弁権(533条)とは別。 図:答えその1

  • 拒める(576条)
  • 理由は、権利を取得できない・失うおそれ
  • 売主の履行がまだ、ということが理由の同時履行の抗弁権(533条)とは別

拒めます。576条は、権利を取得できないおそれが理由で、売主が履行したかどうかとは関係ないからです。売主が準備を終えていても、Bが権利を失うおそれがあるなら、危険の程度に応じて拒めます。同時履行の抗弁権の533条は、相手の履行がまだ、という場面の規定です。理由が違います。

確かめるその2。売買契約の後、引渡し前に、目的物から賃料が生じた。誰のものか。 図:確かめるその2。売買契約の後、引渡し前に、目的物から賃料が生じた。誰のものか。

2つめ。売買契約の後、引渡し前に、目的物から賃料が生じました。誰のものですか?

答えその2。売主のもの(575条1項)。 図:答えその2。売主のもの(575条1項)。

売主のものです。575条1項は、まだ引き渡されていない目的物の果実は、売主に帰属する、と書いていました。

確かめるその3。引渡しを遅らせている売主は、果実を取れるか。 図:確かめるその3。引渡しを遅らせている売主は、果実を取れるか。

3つめ。引渡しを遅らせている売主は、果実を取れますか?

答えその3。取れる。引渡しが遅れていても、果実は売主のもの(大連判大13)。 図:答えその3。取れる。引渡しが遅れていても、果実は売主のもの(大連判大13)。

取れます。遅れていても、趣旨は変わらないからです。果実と利息を差し引きする、という趣旨は、引渡しが遅れても変わりません。

確かめるその4。代金を先に払い終えた買主は、払い終えた後、引渡しまでに生じた果実を取れるか。 図:確かめるその4

4つめ。代金を先に払い終えた買主は、払い終えた後、引渡しまでに生じた果実を、取れますか?

答えその4。取れる。代金を払い終えると利息が生じないので、575条1項は働かない(大判昭7)。 図:答えその4

  • 取れる
  • 代金を払い終えると利息が生じないので、575条1項は働かない(大判昭7)

取れます。代金を払い済みなら、1項は適用されないからです。利息が生じなくなれば、差引ゼロの趣旨が及びません。ですから、果実は買主のものになります。

4つの柱のまとめと、冒頭の問い

今日の4つの柱。1=売主の義務は、財産権移転義務(555条)と対抗要件を備えさせる義務(560条)。2=買主の義務は代金支払。権利を失うおそれ(576条)・合わない抵当権の登記(577条)なら拒める。3=他人物売買は契約として有効(561条)・物は動かない・追認で遡る(116条の類推)。4=引渡し前の果実は売主・買主は引渡しの日から利息(575条)・差引ゼロの清算。 図:今日の4つの柱

  • 1=売主の義務は、財産権移転義務(555条)と対抗要件を備えさせる義務(560条)
  • 2=買主の義務は代金支払
  • 権利を失うおそれ(576条)・合わない抵当権の登記(577条)なら拒める
  • 3=他人物売買は契約として有効(561条)・物は動かない・追認で遡る(116条の類推)
  • 4=引渡し前の果実は売主・買主は引渡しの日から利息(575条)・差引ゼロの清算

今日の話を整理します。1つめ、売主の義務は2つです。財産権を移す義務と、対抗要件を備えさせる義務です。2つめ、買主の義務は、代金を払うことです。権利を失うおそれがあるとき、契約の内容に合わない抵当権の登記があるときは、払いを拒めます。3つめ、他人物売買は、契約として有効です。ただし、物は動きません。所有者が追認すれば、116条の類推で、遡って動きます。動かなければ、債務不履行です。4つめ、引渡し前の果実は売主のもの、買主は引渡しの日から代金の利息を払います。これは、清算を簡単にするための仕組みです。

冒頭の答え合わせ。契約は有効。AはCから車を手に入れてBに渡す義務を負う。ただし契約だけでは持ち主は変わらない。Cが認めれば、売った時に遡ってBのものになる。 図:冒頭の答え合わせ

  • 契約は有効
  • AはCから車を手に入れてBに渡す義務を負う
  • ただし契約だけでは持ち主は変わらない
  • Cが認めれば、売った時に遡ってBのものになる

冒頭の問いの答えです。契約は有効です。Aは、Cから車を手に入れて、Bに渡す義務を負います。ただし、契約だけでは、車の持ち主は変わりません。Cが認めれば、売った時に遡って、Bのものになります。

参照条文

  • 民法555条
  • 民法560条
  • 民法576条
  • 民法577条
  • 民法561条
  • 民法116条
  • 民法575条

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