民法ゼロから民法#251

契約不適合責任の期間制限と危険の移転

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第5章 契約 #251/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

雨漏りに気づいて半年

冒頭の設例の関係図。左が売主A、右が買主B。AはBに中古の一戸建てを売って引き渡した。2年後、Bは天井のしみに気づき、雨漏りだと分かった。Bは忙しく、半年そのまま放っておいた。 図:冒頭の設例の関係図

  • 左が売主A、右が買主B
  • AはBに中古の一戸建てを売って引き渡した
  • 2年後、Bは天井のしみに気づき、雨漏りだと分かった
  • Bは忙しく、半年そのまま放っておいた

冒頭の問いの答えの方向。言える。時計は、買った日でも引渡しの日でもなく、知った日から動く。知ってから半年なら、1年以内。いま通知すれば、4つの救済は残る。ただし、消滅時効は別に進む。 図:冒頭の問いの答えの方向

  • 言える
  • 時計は、買った日でも引渡しの日でもなく、知った日から動く
  • 知ってから半年なら、1年以内
  • いま通知すれば、4つの救済は残る
  • ただし、消滅時効は別に進む

先に、答えの方向を言います。言えます。時計が動き出すのは、買った日でも、引き渡された日でもありません。雨漏りを知った日です。知ってから半年なら、1年の枠の中ですので、いま売主に伝えれば、4つの救済は残ります。ただし、これとは別の物差しとして、消滅時効も進んでいます。前回は、買主が何を言えるのか、という4つの救済を見ました。追完、代金減額、損害賠償、解除です。今日は、その4つを、いつまで言えるのか、そして、どんな場面で言えなくなるのか、を見ます。

柱1 知ってから1年以内に通知する

1つめの柱の入口。種類・品質の不適合は、買主が知った時から1年以内に、売主に通知しないと、4つの救済を失う。 図:1つめの柱の入口

1つめの柱です。条文は、566条です。本文とただし書の2段でできています。条文を出します。

条文民法566条

民法第566条 売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から一年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りでない。

本文を順に読みます。対象は、種類又は品質の不適合です。数えるのは、買主がその不適合を知った時から1年です。その1年のうちに、売主に通知しないと、前回の4つ、追完、代金減額、損害賠償、解除のすべてを、失います。1つだけ残る、ということはありません。

566条の起算点。買った時でも、引き渡された時でもなく、不適合を知った時から1年。冒頭の設例=3月に雨漏りを知る。いま9月で、半年。残りは半年。 図:566条の起算点

  • 買った時でも、引き渡された時でもなく、不適合を知った時から1年
  • 冒頭の設例=3月に雨漏りを知る
  • いま9月で、半年
  • 残りは半年

起算点が、冒頭の答えの核心です。買った日でも、引渡しの日でもなく、知った時です。Bが雨漏りに気づいたのは3月、いまは9月です。半年がたったところです。1年の枠の中に、まだ半年残っています。買主に、引渡しの時に検査をする義務があるわけではありません。民法には、検査をしなかったために、時計が早く動き出す、という条文もありません。通知には、請求や訴えまでは、要りません。不適合があることを、売主に伝えれば足りると考えられています。伝える中身は、不適合の種類と、おおよその範囲です。天井から雨が漏れている、という程度の中身が想定されています。賠償の金額や、法律上の根拠までは、求められていないと考えられます。ですから、Bは、電話でも書面でも、雨漏りがある、とAに伝えれば、その時点で1年の関門は通過すると考えられます。

1年で失う理由は2つ。1=引き渡せば履行は終わった、という売主の期待を守る。2=時間がたつと、使ったせい・古びたせいか、元からの不適合かの見分けが難しくなる。 図:1年で失う理由は2つ

  • 1=引き渡せば履行は終わった、という売主の期待を守る
  • 2=時間がたつと、使ったせい・古びたせいか、元からの不適合かの見分けが難しくなる

1年で救済を失う、という線を引く理由は、2つあります。1つめは、売主の期待です。引き渡したら、売主は、これで履行は終わった、と思います。いつまでも、あとから言われるかもしれない、という状態では、落ち着きません。2つめは、見分けの難しさです。何年もたつと、雨漏りが、住んでいたあいだの傷みのせいなのか、はじめからの不適合なのかが、分からなくなります。そこで、知ったら1年のうちに知らせてください、という線を引いたのです。ここで、立ち止まって考えてください。売主Aが、引渡しの時から、雨漏りを知っていたとします。それでも、買主が1年以内に通知しなければ、救済は失われるのでしょうか?

ただし書は、売主が引渡しの時にその不適合を知っていたか、重大な過失によって知らなかったときは、この限りでない、と読みます。重大な過失とは、少し注意すれば分かったのに、ほとんど注意を払わなかったような場合です。こういう売主には、履行は終わったという期待を、守る理由がありません。ですから、通知がなくても、4つの救済は失われません。基準になるのは、引渡しの時の、売主の様子です。

566条が及ぶ範囲。種類・品質の不適合=1年の通知あり。数量の不適合=1年の通知なし(外から見て分かるから)。権利の不適合も、566条の対象外。 図:566条が及ぶ範囲

  • 種類・品質の不適合=1年の通知あり
  • 数量の不適合=1年の通知なし(外から見て分かるから)
  • 権利の不適合も、566条の対象外

範囲も、押さえます。本文は、種類又は品質、とだけ書いています。数量の不適合には、566条はかかりません。なぜかというと、数が足りないことは、外から見て分かるからです。10箱のはずが8箱だったと、届いた日に数えれば分かります。売主に、履行は終わった、という期待が生じにくく、時間がたって見分けにくくなるわけでもありません。1年で線を引く理由が、数量には当てはまらないのです。権利の不適合も、566条の対象は種類又は品質だけです。権利の不適合は、別の回で見ます。柱1の当てはめを、冒頭に戻します。Bが知ったのは3月で、いまは9月です。残りの半年のうちに、雨漏りがある、とAに伝えれば足ります。放っておいて1年を超えたなら、Aが引渡しの時に雨漏りを知っていた場合を除いて、4つとも失います。

柱2 通知とは別に進む消滅時効

2つめの柱の入口。通知の1年とは別の物差し。消滅時効。 図:2つめの柱の入口。通知の1年とは別の物差し。消滅時効。

2つめの柱です。ここで1つ、思い出してください。債権の消滅時効で、知った時から数えるのは何年で、行使できる時から数えるのは何年でしたか?知った時から5年、権利を行使できる時から10年でした。条文を出します。

条文民法166条1項

民法第166条第1項 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。 一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。 二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。

契約不適合の救済に当てはめます。1号は、不適合を知った時から5年です。2号の、権利を行使できる時は、ふつうは引渡しの時です。引渡しから10年です。先に満了したほうで、消滅時効が完成します。種類や品質の不適合にも、数量の不適合にも、どちらにもかかります。

2本立ての時間軸。上段=1年の通知(種類・品質だけ。知った時から1年)。下段=消滅時効(全部。知った時から5年、引渡しから10年の早いほう)。冒頭の設例=引渡し、2年後に知る、1年後が通知の締切、5年後が時効。 図:2本立ての時間軸

  • 上段=1年の通知(種類・品質だけ。知った時から1年)
  • 下段=消滅時効(全部。知った時から5年、引渡しから10年の早いほう)
  • 冒頭の設例=引渡し、2年後に知る、1年後が通知の締切、5年後が時効

2本立てにして、時間の軸に並べます。上の段が、1年の通知です。種類又は品質の不適合だけが対象で、知った時から1年が締め切りです。下の段が、消滅時効です。種類・品質にも数量にもかかり、知った時から5年か、引渡しから10年かの、早いほうで完成します。冒頭の設例で見ます。引渡しから2年後に知ったので、知った時から5年の満了は、引渡しから数えて7年目です。引渡しから10年よりも先に来ます。通知の締め切りは、知った時から1年なので、時効よりずっと早く来ます。ですから、まず通知の関門を通ることが、先の課題です。

通知をしただけで、時効が止まるとは限りません。通知は、1年の関門を通るための行為で、権利を失わないように残しておくだけです。雨漏りがある、と知らせれば足り、直してください、と求めるところまでは要りません。残した権利を、いつまでに使うかを決めるのが、消滅時効です。時効を止める仕組みは、完成猶予と更新の回で見たとおりです。たとえば、裁判上の請求や、承認があります。催告は、完成を6か月猶予するだけです。ですから、通知のあと、時効が完成する前に、直してください、代金を減らしてください、と実際に求め、応じなければ訴えを起こします。これが、権利を使う、ということです。数量の不適合は、1年の通知がなく、この時効だけが関わります。

柱3 引渡しのあとに壊れたら

3つめの柱の入口。特定した物を引き渡したあと、双方の責めに帰することができない事由で壊れた。4つの救済は言えるか。代金は拒めるか。 図:3つめの柱の入口

  • 特定した物を引き渡したあと、双方の責めに帰することができない事由で壊れた
  • 4つの救済は言えるか
  • 代金は拒めるか

3つめの柱です。ここからは、1年の通知や時効という時間の限界ではなく、危険の限界です。前に、危険負担のところで、引渡しの後に双方の責めに帰することができない事由で滅失したら、買主は代金の支払も拒めない、と見ました。そのとき、4つの救済も使えなくなる、という結論だけを押さえて、救済の中身は別の回に回しました。前回、その4つの救済を見ましたので、今日は、なぜ使えなくなるのかを開けます。条文を出します。

条文民法567条

民法第567条 売主が買主に目的物(売買の目的として特定したものに限る。以下この条において同じ。)を引き渡した場合において、その引渡しがあった時以後にその目的物が当事者双方の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、買主は、その滅失又は損傷を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。この場合において、買主は、代金の支払を拒むことができない。 2 売主が契約の内容に適合する目的物をもって、その引渡しの債務の履行を提供したにもかかわらず、買主がその履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、その履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその目的物が滅失し、又は損傷したときも、前項と同様とする。

567条の設例の関係図。左が売主A、右が買主B。AはBに中古車(特定した1台)を売り、鍵と車検証を渡した。翌日、大雨で駐車場が水没して、使えなくなった。AにもBにも責めに帰すべき事由はない。 図:567条の設例の関係図

  • 左が売主A、右が買主B
  • AはBに中古車(特定した1台)を売り、鍵と車検証を渡した
  • 翌日、大雨で駐車場が水没して、使えなくなった
  • AにもBにも責めに帰すべき事由はない

新しい設例で見ます。売主のAが、買主のBに、中古車を1台売りました。特定した1台です。Aは、鍵と車検証を渡して、引き渡しました。翌日、大雨で駐車場が水没して、車は使えなくなりました。AにもBにも、責めに帰すべき事由はありません。4つとも、言えません。代金も、拒めません。1項の前半が、4つの救済を使えなくし、後半が、代金の支払を拒めなくしています。どちらも、危険負担の回で、結論だけは見ました。今日は、その理由です。引渡しによって、物が壊れる危険が、売主から買主に移った、と考えるからです。なぜ引渡しで移るのか。危険負担の回で見たとおり、物を守れるのは、それを手元に置いている人だからです。鍵を受け取ったあとは、戸締まりも、保険を掛けることも、Bにしかできません。AにもBにも帰責事由がないのに壊れた損は、物を持っているBが引き受ける、という線引きです。引き渡して履行を終えた売主の期待を、ここで守るわけです。1年の通知と、同じ根っこです。同じ回で見たとおり、所有権が移る時と、危険が移る時は、別の話です。危険が移る基準は、引渡しです。かっこ書の、特定した物とは、売買の目的として、これと決まった物のことです。この車のように、1台に決まった物に限って、危険の移転が語られます。

双方の責めに帰することができない事由の働き。買主の帰責事由による滅失なら、そもそも4つとも使えない(562条2項・563条3項・543条・415条1項ただし書)。567条1項の前段が実際に効くのは、売主に帰責事由がない場面。 図:双方の責めに帰することができない事由の働き

  • 買主の帰責事由による滅失なら、そもそも4つとも使えない(562条2項・563条3項・543条・415条1項ただし書)
  • 567条1項の前段が実際に効くのは、売主に帰責事由がない場面

ここで、条文の言葉の働きを整理します。双方の責めに帰することができない、とあります。買主のせいで壊れたのなら、この条文を持ち出すまでもなく、4つとも使えません。前回見た、買主の帰責事由による不適合と同じ理屈で、追完も、減額も、解除も、損害賠償も、認められないからです。つまり、この前半が実際に働くのは、売主に帰責事由がない場面です。売主に帰責事由がある場合は、どうなるでしょうか。引渡しのあとなら、ふつうに、前回の救済を使えます。引渡しの前に売主の帰責事由で壊れたなら、危険負担の問題ではなく、債務不履行の問題です。これは、4つめの柱の表で当てはめます。

2項は、売主が契約に合った物を持っていって、約束どおり提供したのに、買主が受け取りを拒んだり、受け取れなかったりする場面です。その提供があった時以後に、双方の責めに帰することができない事由で壊れたなら、引渡しの前でも、1項と同じ扱いです。4つの救済は使えず、代金も拒めません。

条文民法413条の2第2項

民法第413条の2第2項 債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその債務の履行が不能となったときは、その履行の不能は、債権者の責めに帰すべき事由によるものとみなす。

受領遅滞のところで見た、この条文と、同じ結論です。債権者である買主の責めに帰すべき事由とみなされるので、代金は拒めません。売買の条文としても、同じことが567条の2項に書いてある、と押さえてください。

柱4 引渡し前と引渡し後の処理表

4つめの柱の入口。壊れた原因が誰に帰責事由があるかと、引渡しの前か後か。2つの軸で、買主が言えること、と、代金を整理する。 図:4つめの柱の入口

  • 壊れた原因が誰に帰責事由があるかと、引渡しの前か後か
  • 2つの軸で、買主が言えること、と、代金を整理する

4つめの柱です。この回の主役です。軸は2つです。壊れた原因が、誰に帰責事由があるか。そして、引渡しの前か後か。原因は3つに分けます。誰にも帰責事由がない場合、買主に帰責事由がある場合、売主に帰責事由がある場合です。表は、縦に原因を並べ、横に、買主が言えること、代金、根拠の、3つの欄を並べます。引渡しの前から見ます。特定した物が、引渡しの前に壊れたときの表は、危険負担の2つの回のまとめで、一度並べました。思い出しながら、1行ずつ埋めます。柱3の中古車で考えます。駐車場の水没が、鍵を渡す前の晩だった、とします。

引渡し前の処理表1行目。誰にも帰責事由がない。買主が言えること=引渡し請求×・損害賠償×・解除○。代金=拒める。根拠=412条の2第1項・415条1項ただし書・542条1項1号・536条1項。 図:引渡し前の処理表1行目

  • 誰にも帰責事由がない
  • 買主が言えること=引渡し請求×・損害賠償×・解除○
  • 代金=拒める
  • 根拠=412条の2第1項・415条1項ただし書・542条1項1号・536条1項

1行目、誰にも帰責事由がない場合です。物は壊れて、引渡しは不能です。引渡しの請求は、できません。債務者に帰責事由がないので、損害賠償も、できません。ただ、解除は、できます。解除の回で見たとおり、解除は、売主を責める道具ではなく、買主を契約の拘束から解放する道具だからです。代金は、拒めます。危険負担の回で見た536条1項です。壊れた損を、まだ売主が負っているので、買主は代金を払わなくてよいのです。拒めるだけで代金の債務は残るので、確定的に消したいなら、解除をします。引渡しの前は、危険が、まだ売主にあります。水没が鍵を渡す前の晩なら、Bは、車を渡せとは言えませんが、代金は拒めます。

引渡し前の処理表2行目。買主に帰責事由あり。買主が言えること=引渡し請求×・損害賠償×・解除×。代金=拒めない。根拠=543条・536条2項前段。 図:引渡し前の処理表2行目

  • 買主に帰責事由あり
  • 買主が言えること=引渡し請求×・損害賠償×・解除×
  • 代金=拒めない
  • 根拠=543条・536条2項前段

2行目、買主の帰責事由で壊れた場合です。たとえば、鍵を渡す前の試乗で、Bが運転を誤って、車を大破させた場合です。引渡しの請求も、損害賠償も、解除も、できません。解除は、債権者の帰責事由によるとき、できないからです。代金も、拒めません。自分のせいで壊したのに、代金を払わなくてよい、とは言えません。

引渡し前の処理表3行目。売主に帰責事由あり。買主が言えること=引渡し請求×(不能)・損害賠償○・解除○。代金=危険負担ではなく債務不履行の問題。解除すれば、代金は払わずに済む。根拠=415条1項・542条1項1号。 図:引渡し前の処理表3行目

  • 売主に帰責事由あり
  • 買主が言えること=引渡し請求×(不能)・損害賠償○・解除○
  • 代金=危険負担ではなく債務不履行の問題
  • 解除すれば、代金は払わずに済む
  • 根拠=415条1項・542条1項1号

3行目、売主の帰責事由で壊れた場合です。たとえば、鍵を渡す前に、Aが運転を誤って、車を大破させた場合です。引渡しの請求は、不能ですのでできません。損害賠償は、売主に帰責事由があるので、できます。解除も、できます。代金は、危険負担ではなく、債務不履行の問題として整理します。危険負担は、誰のせいでもない損を、どちらが負うか、の決まりです。売主の帰責事由で壊れたなら、売主が約束を果たさなかった、という話になるからです。解除をすれば、代金を払わずに済みます。次に、引渡しの後です。ここで、1つ聞きます。引渡しのあとに、買主のせいで壊れたなら、4つの救済は使えるでしょうか?

使えません。買主の帰責事由による不適合は、4つとも使えなかったはずです。引渡しの後の表を、1行ずつ埋めます。

引渡し後の処理表1行目。誰にも帰責事由がない。買主が言えること=追完×・減額×・損害賠償×・解除×。代金=拒めない。根拠=567条1項。 図:引渡し後の処理表1行目

  • 誰にも帰責事由がない
  • 買主が言えること=追完×・減額×・損害賠償×・解除×
  • 代金=拒めない
  • 根拠=567条1項

1行目、誰にも帰責事由がない場合です。4つの救済は、すべてできません。代金も、拒めません。これが、先ほどの567条1項です。柱3の、鍵を受け取った翌日の水没です。引渡しの前の1行目と見比べてください。同じ原因なのに、引渡しの前なら代金は拒め、後なら拒めません。分け目は、危険が移ったかどうかです。水没の前の晩に車を守れたのはAで、翌日はBでした。だから、その損を負う人が入れ替わり、代金の結論も入れ替わるのです。

引渡し後の処理表2行目。買主に帰責事由あり。買主が言えること=追完×・減額×・損害賠償×・解除×。代金=拒めない。根拠=562条2項・563条3項・415条1項ただし書・543条・536条2項前段。 図:引渡し後の処理表2行目

  • 買主に帰責事由あり
  • 買主が言えること=追完×・減額×・損害賠償×・解除×
  • 代金=拒めない
  • 根拠=562条2項・563条3項・415条1項ただし書・543条・536条2項前段

2行目、買主に帰責事由がある場合です。4つの救済は、条文ごとに、買主に帰責事由があるなら使えない、と定められています。代金も、拒めません。引渡しの前の2行目と、同じ結果です。買主に帰責事由があるなら、前でも後でも、救済は使えず、代金も拒めません。

引渡し後の処理表3行目。売主に帰責事由あり。買主が言えること=4つの救済を使える(通知・時効の範囲内)。代金=減額か解除で調整できる。根拠=562条から564条。 図:引渡し後の処理表3行目

  • 売主に帰責事由あり
  • 買主が言えること=4つの救済を使える(通知・時効の範囲内)
  • 代金=減額か解除で調整できる
  • 根拠=562条から564条

3行目、売主に帰責事由がある場合です。引渡しのあとは、前回の4つの救済が、そのまま生きます。損害賠償も、売主に帰責事由があるので、できます。ただし、1年の通知と、消滅時効の範囲の中で、という条件が付きます。代金は、減額か解除で、調整できます。

引渡しの前後の時間軸。履行の提供→受領遅滞→引渡し。引渡しの前=危険は売主(双方無責なら代金は拒める)。履行の提供の後=受領遅滞中の双方に帰責事由がない滅失は、引渡しの後と同じ扱い(567条2項)。引渡しの後=危険は買主。 図:引渡しの前後の時間軸

  • 履行の提供→受領遅滞→引渡し
  • 引渡しの前=危険は売主(双方無責なら代金は拒める)
  • 履行の提供の後=受領遅滞中の双方に帰責事由がない滅失は、引渡しの後と同じ扱い(567条2項)
  • 引渡しの後=危険は買主

2枚の表を、時間の軸に重ねます。引渡しの前は、危険が売主にあります。履行の提供のあと、買主が受け取らないあいだに壊れたなら、その時点から、引渡しのあとと同じ扱いになります。引渡しの後は、危険が買主にあります。読み取りの軸は、3つです。引渡しの前は、誰にも帰責事由がなければ、代金は拒めます。引渡しの後は、拒めません。買主に帰責事由があるなら、前でも後でも、拒めず、救済も使えません。売主に帰責事由があるなら、債務不履行として、救済が生きます。

確かめる

確かめるその1。雨漏りに気づいて1年半後に初めて連絡した。ただし売主は、引渡しの時から雨漏りを知っていた。救済は失われるか。 図:確かめるその1

  • 雨漏りに気づいて1年半後に初めて連絡した
  • ただし売主は、引渡しの時から雨漏りを知っていた
  • 救済は失われるか

事例で確かめます。1つめ。買主が雨漏りに気づいて、1年半後に初めて売主に連絡しました。ただし、売主は引渡しの時から、雨漏りを知っていました。買主は、4つの救済を失うでしょうか?

答えその1。失わない。566条ただし書。ただし、消滅時効(知って5年、引渡しから10年)の範囲内。 図:答えその1

  • 失わない
  • 566条ただし書
  • ただし、消滅時効(知って5年、引渡しから10年)の範囲内

失いません。566条のただし書で、売主が引渡しの時に不適合を知っていたなら、通知がなくても失わないからです。ただし、消滅時効は別に進みますので、その範囲の中で、という条件が付きます。

確かめるその2。10箱のはずが8箱しか届かず、気づいて1年後に言った。言えるか。 図:確かめるその2。10箱のはずが8箱しか届かず、気づいて1年後に言った。言えるか。

2つめ。10箱を買ったのに、8箱しか届きませんでした。買主が気づいてから1年後に、不足の2箱を言いました。まだ言えるでしょうか?

答えその2。言える。数量には566条はかからない。消滅時効(知って5年、引渡しから10年)の範囲内なら言える。 図:答えその2

  • 言える
  • 数量には566条はかからない
  • 消滅時効(知って5年、引渡しから10年)の範囲内なら言える

言えると思います。数量の不適合には566条がかからないので、1年の通知はなくて、時効だけが関わります。時効の範囲内なら、言えます。

確かめるその3。鍵を受け取った翌日、落雷で、売った機械が壊れた。双方に帰責事由はない。買主は何を言えるか。 図:確かめるその3

  • 鍵を受け取った翌日、落雷で、売った機械が壊れた
  • 双方に帰責事由はない
  • 買主は何を言えるか

3つめ。買主が、特定した機械の鍵を受け取った翌日に、落雷でその機械が壊れました。売主にも買主にも帰責事由はありません。買主は、何を言えるでしょうか? 代金は払わなくてよいでしょうか?

答えその3。4つとも不可、代金も拒めない。567条1項。引渡し後の処理表の1行目。 図:答えその3

  • 4つとも不可、代金も拒めない
  • 567条1項
  • 引渡し後の処理表の1行目

何も言えません。4つの救済は使えず、代金も拒めません。引渡しの後の処理表の、1行目です。危険は、引渡しで買主に移っていました。

確かめるその4。売主が約束の日に品物を持参したが、買主が「今日は置き場がない」と受け取りを断った。その晩に火事で焼けた。双方に帰責事由はない。 図:確かめるその4

  • 売主が約束の日に品物を持参したが、買主が「今日は置き場がない」と受け取りを断った
  • その晩に火事で焼けた
  • 双方に帰責事由はない

4つめ。売主が、約束の日に品物を持っていきました。買主は、今日は置き場がない、と受け取りを断りました。その晩、火事で品物が焼けました。売主にも買主にも帰責事由はありません。引渡しの前ですが、買主は代金を拒めるでしょうか?

答えその4。拒めない。4つの救済も使えない。567条2項。413条の2第2項・536条2項前段と同じ結論。 図:答えその4

  • 拒めない
  • 4つの救済も使えない
  • 567条2項
  • 413条の2第2項・536条2項前段と同じ結論

拒めません。受け取りを断っているあいだなので、567条2項で、1項と同じ扱いになります。受け取らないあいだの滅失は、買主の側に回ります。

4つの柱のまとめと、冒頭の問い

今日の4つの柱。1=1年の通知(566条)。種類・品質だけ。知った時から1年。ただし書は売主の悪意・重過失。2=消滅時効(166条1項)。知って5年か、引渡しから10年。通知とは別。3=危険の移転(567条)。引渡し後の双方に帰責事由がない滅失は、4つの救済も代金拒絶もできない。受領遅滞中も同じ。4=引渡し前・後の処理表。 図:今日の4つの柱

  • 1=1年の通知(566条)
  • 種類・品質だけ
  • 知った時から1年
  • ただし書は売主の悪意・重過失
  • 2=消滅時効(166条1項)
  • 知って5年か、引渡しから10年
  • 通知とは別
  • 3=危険の移転(567条)
  • 引渡し後の双方に帰責事由がない滅失は、4つの救済も代金拒絶もできない
  • 受領遅滞中も同じ
  • 4=引渡し前・後の処理表

今日の話を整理します。1つめ、1年の通知です。種類又は品質の不適合は、知った時から1年以内に通知しないと、4つの救済を失います。売主が引渡しの時に悪意か重過失なら、失いません。数量には、かかりません。2つめ、消滅時効です。知った時から5年か、引渡しから10年かの早いほうで、通知とは別に進みます。3つめ、危険の移転です。引渡しのあとの双方に帰責事由がない滅失では、4つの救済も使えず、代金も拒めません。受領遅滞中も同じです。4つめ、引渡しの前と後の処理表で、原因と時点を、1行ずつ当てはめます。

冒頭の答え合わせ。言える。時計は知った日から。知ってから半年なら、いま通知すれば、4つの救済は残る。ただし、消滅時効は別に進む。 図:冒頭の答え合わせ

  • 言える
  • 時計は知った日から
  • 知ってから半年なら、いま通知すれば、4つの救済は残る
  • ただし、消滅時効は別に進む

冒頭の問いの答えです。Bは、Aに言えます。時計が動くのは、知った日からです。知ってから半年なら、1年以内ですので、いま通知すれば、4つの救済は残ります。ただし、消滅時効は別に進んでいます。期間制限の当てはめと、危険の移転の認定は、論文で論点になりうるところです。

参照条文

  • 民法566条
  • 民法166条1項
  • 民法567条
  • 民法413条の2第2項

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