民法ゼロから民法#252

権利の契約不適合と他人物売買の責任

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第5章 契約 #252/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

傷のない土地に地上権

冒頭の設例の関係図。左が売主A、右が買主B。AはBに更地を売って代金も受け取った。土地そのものに傷はない。ところが、Aが話していなかった第三者Cの地上権が、登記されて付いていて、Cは50年間そこに家を建てて使える。Bは自分の家を建てるつもりだった。 図:冒頭の設例の関係図

  • 左が売主A、右が買主B
  • AはBに更地を売って代金も受け取った
  • 土地そのものに傷はない
  • ところが、Aが話していなかった第三者Cの地上権が、登記されて付いていて、Cは50年間そこに家を建てて使える
  • Bは自分の家を建てるつもりだった

冒頭の問いの答えの方向。物ではなく、権利の側の不適合。565条が4つの救済をそのまま借りてくる。1年の通知は要らず、消滅時効だけ。 図:冒頭の問いの答えの方向

  • 物ではなく、権利の側の不適合
  • 565条が4つの救済をそのまま借りてくる
  • 1年の通知は要らず、消滅時効だけ

先に、答えの方向を言います。この不適合は、物の傷ではなく、買主が手にした権利の側の欠けです。565条が、これまで見てきた4つの救済を、そのまま借りてきます。追完、代金減額、損害賠償、解除です。追完は、欠けを直してもらうこと、代金減額は、代金を下げてもらうことです。そして、1年の通知は要りません。消滅時効だけが、時間の限界になります。ここまでの3回は、渡された物の不適合を見てきました。今日は、売主が移した権利の不適合です。

柱1 権利の不適合とは

1つめの柱の入口。565条の本文と、かっこ書と、準用先(562条=追完、563条=代金減額、564条=損害賠償と解除)。 図:1つめの柱の入口

1つめの柱です。条文は、565条です。条文を出します。

条文民法565条

民法第565条 前三条の規定は、売主が買主に移転した権利が契約の内容に適合しないものである場合(権利の一部が他人に属する場合においてその権利の一部を移転しないときを含む。)について準用する。

3つに分けて読みます。1つめ、前三条の規定は、準用する、とあります。前の3つの条文は、562条、563条、564条です。追完請求、代金減額請求、損害賠償と解除の条文です。つまり565条は、自分で救済を新しく作るのではなく、4つの救済に橋を架けるだけの条文です。2つめ、入口の条件です。売主が買主に移転した権利が、契約の内容に適合しないものである場合、と書いてあります。この、移転した権利、という言葉を、あとで使います。覚えておいてください。3つめ、かっこ書です。権利の一部が他人に属する場合に、その権利の一部を移転しないときも含む、とあります。一部が他人のものだったときも、この条文の中に入る、という意味です。

土地には傷がないのに、どうして不適合になるのですか?契約不適合の見方は、渡された物だけではないからです。物は無傷でも、Bが手にした権利の中身が、契約と違うことがあります。冒頭の土地は、更地として使える所有権を買ったはずなのに、50年間Cが使える地上権が付いていました。物の側ではなく、権利の側が欠けているのです。前に、物の種類、品質、数量とは別に、移した権利の側の欠けがある、と言いました。今日が、その本体です。権利の不適合には、3つの型があります。1つめが、余計な権利が付いている型。2つめが、あるはずの権利が無い型。3つめが、一部を移せない型です。

3つの型。1=余計な権利が付いている(例=更地に他人の地上権。土地に他人の抵当権)。2=あるはずの権利が無い(例=借地上の建物を買ったが、敷地を使う権利が実は無かった)。3=一部を移せない(例=1つの土地の北側が隣人名義で、売主が取得できず移せなかった)。 図:3つの型

  • 1=余計な権利が付いている(例=更地に他人の地上権。土地に他人の抵当権)
  • 2=あるはずの権利が無い(例=借地上の建物を買ったが、敷地を使う権利が実は無かった)
  • 3=一部を移せない(例=1つの土地の北側が隣人名義で、売主が取得できず移せなかった)

1つめ、余計な権利が付いている型です。目的物に、契約の内容に合わない、地上権、地役権、留置権、質権、抵当権などが付いている場合です。冒頭の地上権が、これです。もう1つ、買った土地に、他人の抵当権が付いていた場合も同じです。抵当権は、借金が返されないときに、その土地を競売にかけて回収できる権利です。実行されると、Bは所有権を失うおそれがあります。2つめ、あるはずの権利が無い型です。建物を買ったときに、その建物のために存在するはずの、敷地を使う権利が、実は無かった場合です。たとえば、借地の上の建物を買ったのに、敷地を借りる権利が、実際には存在しなかった。建物は無傷でも、敷地を使えなければ、住めません。使うために必要な権利が欠けているのです。3つめ、一部を移せない型です。一部他人物売買で、売主が、他人に属する一部を移せなかった場合です。たとえば、登記の上で1つの土地を売ったところ、北側の一部が、実は隣人Cの名義でした。売主のAは、それを取得できず、Bに移せませんでした。565条のかっこ書は、この型を指しています。561条のかっこ書も、一部が他人のものである場合を含む、と書いていました。

立ち止まる問い。次の3つは、それぞれ、どの型か。1=買った土地に他人の抵当権が付いていた。2=借地上の建物を買ったら敷地を使う権利が無かった。3=分譲地の一部が他人の土地だった。 図:立ち止まる問い

  • 次の3つは、それぞれ、どの型か
  • 1=買った土地に他人の抵当権が付いていた
  • 2=借地上の建物を買ったら敷地を使う権利が無かった
  • 3=分譲地の一部が他人の土地だった

ここで、立ち止まって考えてください。1つめ、買った土地に他人の抵当権が付いていた。2つめ、借地上の建物を買ったら、敷地を使う権利が無かった。3つめ、分譲地の一部が、他人の土地だった。それぞれ、どの型でしょうか?

答え。1=余計な権利が付いている。2=あるはずの権利が無い。3=一部を移せない。 図:答え。1=余計な権利が付いている。2=あるはずの権利が無い。3=一部を移せない。

1つめは、余計な権利が付いている型です。2つめは、あるはずの権利が無い型です。3つめは、一部を移せない型だと思います。ここで、物差しを1つ足します。基準になるのは、契約の内容です。承知のうえで買った負担は、不適合ではありません。たとえば、地上権が付いていることを前提に、その分安く売る約束だったなら、契約の内容に織り込み済みです。抵当権が付いていることを承知で買った場合も、同じです。契約の内容に、合っているからです。

柱2 全部他人物は別ルート

2つめの柱の入口。全部が他人のものなら、565条は使えるか。 図:2つめの柱の入口。全部が他人のものなら、565条は使えるか。

2つめの柱です。ここで1つ、思い出してください。他人物売買の売主が、約束どおりに権利を移せなかったとき、買主は、何でその責任を追及するのでしたか?売買だけの特別な責任ではなく、一般の債務不履行として処理する、でした。561条を、もう一度出します。

条文民法561条

民法第561条 他人の権利(権利の一部が他人に属する場合におけるその権利の一部を含む。)を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う。

かっこ書に、権利の一部が他人に属する場合も含む、とあります。売主の義務は、全部が他人のものでも、一部が他人のものでも、同じです。その権利を取得して、買主に移転する義務です。ここで、立ち止まって考えてください。権利の全部が他人のものだったとき、565条は使えるでしょうか?

全部他人物と一部他人物の区別。行=全部他人物/一部他人物。列=売主が移せなかったとき/根拠/使える手段。全部他人物=移転した権利が無い/561条の義務の不履行/一般の債務不履行(415条・541条・542条)。一部他人物=移転した権利が合わない/565条/562条から564条の4つの救済。 図:全部他人物と一部他人物の区別。行=全部他人物/一部他人物。列=売主が移せなかったとき/根拠/使える手段。全部他人物=移転した権利が無い/561条の義務の不履行/一般の債務不履行(415条・541条・542条)。一部他人物=移転した権利が合わない/565条/562条から564条の4つの救済。

565条は、移転した権利が契約に合わない場合の条文でした。全部が他人のものなら、権利を何も移せていないので、使えないと思います。表で振り分けます。行は、全部他人物と、一部他人物です。列は、売主が移せなかったとき、根拠、使える手段の、3つです。一部他人物で、一部を移せなかった場合です。売主は、権利の一部は移しています。ただ、その中身が契約と合わない。つまり、移転した権利が、契約の内容に適合しない場合です。根拠は565条で、使える手段は、562条から564条の4つの救済です。全部他人物で、権利を全く移せなかった場合です。移した権利が、そもそも無いのです。565条の入口は、売主が買主に移転した権利が、適合しない場合、でした。移した権利が無ければ、不完全な権利を移した、という前提が立ちません。売主は、履行そのものをしていないのです。根拠は、561条の義務の不履行です。使える手段は、一般の債務不履行になります。たとえ話を置きます。箱詰めの商品を注文したとします。箱を1つも届けないのは、そもそも履行をしていない場合です。箱は届いたけれど、中身が一部足りないのは、届けた物が契約に合っていない場合です。前者は一般の債務不履行、後者は565条、という対応です。

一般の債務不履行の条文。415条1項=損害賠償(売主の帰責事由が要る)。541条=催告による解除。542条1項=催告なしの解除(1号=全部の履行が不能。2号から5号は板で確認)。 図:一般の債務不履行の条文

  • 415条1項=損害賠償(売主の帰責事由が要る)
  • 541条=催告による解除
  • 542条1項=催告なしの解除(1号=全部の履行が不能。2号から5号は板で確認)

実益を、条文から言える範囲で見ます。全部他人物は、一般の債務不履行です。帰責事由とは、契約と取引上の社会通念に照らして、責任を負わせてよい事情があることです。解除は、帰責事由が要りません。権利の全部を移せないと決まれば、履行はもうできません。これが不能です。催告して待っても意味が無いので、催告なしで解除できます。損害賠償は、売主に帰責事由が要ります。415条1項のただし書があるからです。565条も、損害賠償は売主の帰責事由が要ります。564条が、415条を妨げない、と書いているからです。解除、代金減額、追完は、帰責事由は要りません。ここは、前に見た4つの救済と同じ数え方です。違いが出るのは、代金減額です。減額請求は563条の手段で、権利の不適合では、565条を通じてしか使えません。全部他人物は、565条の入口に立てないので、減額の出番がありません。代金から解放されたいなら、解除で足ります。一部他人物では、減額で、残りの部分の代金は払う、という調整ができます。

当てはめ。1=AがCの土地を丸ごと自分のものと偽って売り、移せなかった=全部他人物=一般の債務不履行。2=同じ土地の北側3分の1だけがCの名義だった=一部他人物=565条=4つの救済。 図:当てはめ

  • 1=AがCの土地を丸ごと自分のものと偽って売り、移せなかった=全部他人物=一般の債務不履行
  • 2=同じ土地の北側3分の1だけがCの名義だった=一部他人物=565条=4つの救済

別の設例で、1回当てはめます。1つめ、AがCの土地を、丸ごと自分のものだと偽って、Bに売りました。Aは結局、取得できませんでした。全部他人物で、移転した権利が無い場合です。565条ではなく、一般の債務不履行です。2つめ、同じ土地ですが、北側の3分の1だけがCの名義でした。Aは、残りの3分の2は移せます。一部他人物で、一部を移せない場合です。565条で、4つの救済が使えます。北側の3分の1の分は、代金減額で調整できます。2つを分けたのは、買主が手にした権利です。一部でも移していれば565条、全く移していなければ一般の債務不履行です。全部他人物と一部他人物の振り分けは、論文で論点になりうるところです。

柱3 効果は4つの救済と費用の償還

3つめの柱の入口。4つの救済の一覧(追完請求=562条、代金減額請求=563条、損害賠償請求=564条・415条、解除=564条・541条・542条)。565条は4つを全部借りてくる。条文=562条1項・563条1項・564条(全文)。 図:3つめの柱の入口

  • 4つの救済の一覧(追完請求=562条、代金減額請求=563条、損害賠償請求=564条・415条、解除=564条・541条・542条)
  • 565条は4つを全部借りてくる
  • 条文=562条1項・563条1項・564条(全文)

3つめの柱です。まず、4つの救済です。前の回と同じ並びです。追完請求が562条、代金減額請求が563条、損害賠償請求が564条と415条、解除が564条と541条と542条です。565条は、この4つを全部借りてきます。権利の不適合なら、中身はたとえば、こうなります。追完は、付いている負担を消してもらう、つまり地上権や抵当権を抹消してもらうことです。あるいは、欠けた権利を移してもらうことです。562条の追完は、物なら、直す、代わりを渡す、足りない分を渡す、です。これを権利に当てはめると、余計な負担を消す、足りない権利を移す、になります。代金減額なら、付いていた負担や欠けた分だけ、代金を下げてもらいます。帰責事由の対比も、前の回のままです。損害賠償だけ、売主の帰責事由が要ります。追完、代金減額、解除は要りません。反対に、買主に帰責事由があるときは、追完と代金減額は使えません。562条2項と563条3項が、565条を通じて同じように働きます。解除と損害賠償も、買主の帰責事由で生じた不適合なら認められないことは、前の回で見たとおりです。もう1つ、権利の不適合のときは、4つの救済と並んで、別の道があります。担保物権が付いていた不動産の場合の、費用の償還です。条文を出します。

条文民法570条

民法第570条 買い受けた不動産について契約の内容に適合しない先取特権、質権又は抵当権が存していた場合において、買主が費用を支出してその不動産の所有権を保存したときは、買主は、売主に対し、その費用の償還を請求することができる。

順に読みます。対象は、不動産です。付いていたのは、先取特権、質権、抵当権という担保物権です。それが、契約の内容に適合しないものでした。買主が、費用を出して、その不動産の所有権を保存しました。すると、売主に、その費用の償還を請求できます。担保物権が付いていた不動産の買主を、守る条文です。注意してください。これは、損害賠償とは別の請求です。570条の文言に、帰責事由はありません。4つの救済のうちの損害賠償と並ぶ道で、帰責事由の話に混ぜないでください。なぜ帰責事由が要らないのか。買主が払ったのは、本来は売主の側で消しておくべき負担です。それを買主が代わりに片づけたので、かかった分を戻してもらう、という仕組みだからです。

所有権を保存する代表的な3つの手段。1=被担保債権を自分で払う(第三者弁済・474条1項)。2=抵当権者の求めに応じて代価を弁済する(代価弁済・378条)。3=買主の側から言い出して抵当権を消す(抵当権消滅請求・379条)。 図:所有権を保存する代表的な3つの手段

  • 1=被担保債権を自分で払う(第三者弁済・474条1項)
  • 2=抵当権者の求めに応じて代価を弁済する(代価弁済・378条)
  • 3=買主の側から言い出して抵当権を消す(抵当権消滅請求・379条)

所有権を保存する代表的な手段を、3つ挙げます。どれも、前に見た仕組みです。1つめは、被担保債権を自分で払って、抵当権を消す道です。第三者弁済で、474条です。抵当不動産を買った買主は、弁済について正当な利益のある側です。抵当権が実行されれば、自分の土地を失う立場だからです。債務者の意思に反しても、有効に弁済できます。2つめは、抵当権者の求めに応じて、代価を弁済する道です。代価弁済で、378条です。抵当権者の請求に応じて代価を払うと、抵当権は、買主のために消滅します。3つめは、買主の側から言い出す道です。抵当権消滅請求で、379条です。いずれも、買主が自腹で、担保を消すやり方です。570条は、抵当権のほか、先取特権と質権にも同じように働きます。条文が挙げる、この3つの担保物権に広げる、とだけ押さえてください。前に見たとおり、代金を払う前なら、買主は払いを拒めます。ただ、払ってしまったあとや、自腹で片づけたあとは、その費用を、570条で取り返す、という整理になります。

570条の手段の関係図。B(買主)が抵当権者Dに200万円を払う。Dの抵当権が消える。BがA(売主)に200万円の償還を請求する。 図:570条の手段の関係図

  • B(買主)が抵当権者Dに200万円を払う
  • Dの抵当権が消える
  • BがA(売主)に200万円の償還を請求する

設例で見ます。BがAから買った土地に、Aの借金の担保として、Dの抵当権が付いていました。実行されそうになったので、BがDに200万円を払って、抵当権を消しました。BはAに、200万円の償還を請求できます。570条です。権利の不適合の救済と、570条の使い分けは、論文で論点になりうるところです。

柱4 1年の通知がかからない

4つめの柱の入口。565条が準用するのは前三条(562条から564条)だけ。566条は含まれない。 図:4つめの柱の入口

  • 565条が準用するのは前三条(562条から564条)だけ
  • 566条は含まれない

4つめの柱です。ここで1つ、思い出してください。566条の1年の通知は、種類又は品質の不適合と、数量の不適合のうち、どちらにかかるのでしたか?種類又は品質の不適合にかかります。数量の不適合には、かかりませんでした。前回、権利の不適合も、566条の対象外だと言いました。今日は、その理由です。条文を、もう一度出します。

条文民法566条

民法第566条 売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から一年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りでない。

566条の対象は、種類又は品質だけです。そして、565条が準用するのは、前三条、つまり562条、563条、564条だけです。566条は、準用の中に含まれていません。条文の構造から、権利の不適合には、1年の通知がかからないのです。趣旨からも言えます。前回見たとおり、1年の通知があるのは、引き渡した売主に、もう終わったという期待が生じ、時間がたつと、元からの傷か使ったせいかを見分けにくくなるからでした。数量は、届いた日に数えれば分かるので、この2つが当てはまりません。権利も、同じです。1つめ、売主には、履行は終わった、という期待が生じにくいことです。自分が権利を移せたかどうかは、売主が自分で知りうるからです。2つめ、時間がたって、不適合の有無を判断しにくくなるわけでもないことです。権利の有無は、登記簿などで確かめられます。ですから、通知で救済を失わせる仕組みは、当てはまりにくいのです。

1年の通知がかかる範囲。種類・品質=かかる。数量・権利=かからない。全員=消滅時効(166条1項=知った時から5年、行使できる時から10年。先に満了したほうで完成)。条文=166条1項(全文)。 図:1年の通知がかかる範囲

  • 種類・品質=かかる
  • 数量・権利=かからない
  • 全員=消滅時効(166条1項=知った時から5年、行使できる時から10年。先に満了したほうで完成)
  • 条文=166条1項(全文)

では、何でいつまで言えるのか。消滅時効だけです。166条1項で、知った時から5年、権利を行使できる時から10年で、先に満了したほうで完成します。冒頭の設例に戻ります。Bが、地上権を知って、2年たってから初めて売主に言いました。1年の通知の関門は、ありません。消滅時効の範囲内なら、言えます。知った時から5年の内側です。次に、品質の不適合と権利の不適合の境目にある話です。前に、法令上の制限を見ました。たとえば、買った土地が都市計画で道路の予定地に入っていて、家を建てられない場合です。これを、品質の不適合と見るか、権利の不適合と見るか。この区別に、実益はあるのでしょうか。実益は、566条がかかるかどうか、だけです。品質と見れば、1年の通知があります。権利と見れば、1年の通知はありません。4つの救済など、そのほかの点は、どちらで見ても違いません。答案は、前に見た判例の流れに沿って、品質の不適合として書くのが素直です。

応用 敷地の欠陥と賃借権付きの建物

応用の設例の関係図。左が売主A、右が買主B。AはBに、借地上の建物と敷地の賃借権を売った。敷地の水はけが悪く、雨のたびに地面がぬかるむ。敷地の貸主は地主E。 図:応用の設例の関係図

  • 左が売主A、右が買主B
  • AはBに、借地上の建物と敷地の賃借権を売った
  • 敷地の水はけが悪く、雨のたびに地面がぬかるむ
  • 敷地の貸主は地主E

応用です。権利の不適合の外縁として、敷地の話を見ます。設例です。売主のAが、買主のBに、借地の上の建物と、敷地の賃借権を売りました。敷地は地主Eから借りています。ところが、敷地の水はけが悪く、雨のたびに地面がぬかるみます。BはAに、売主の責任を言えるでしょうか?参考になる判例があります。ただし、この判例は旧法の下のものです。当時の言葉で、欠陥のことを、瑕疵と言いました。売主の責任も、瑕疵担保責任という名前でした。その言葉のまま、読みます。

判例最判平3・4・2 民集45巻4号349頁

建物と敷地の賃借権の売買と敷地の欠陥 建物とその敷地の賃借権とが売買の目的とされた場合において、右敷地についてその賃貸人において修繕義務を負担すべき欠陥が右売買契約当時に存したことがその後に判明したとしても、右売買の目的物に隠れた瑕疵があるということはできない。けだし、右の場合において、建物と共に売買の目的とされたものは、建物の敷地そのものではなく、その賃借権であるところ、敷地の面積の不足、敷地に関する法的規制又は賃貸借契約における使用方法の制限等の客観的事由によって賃借権が制約を受けて売買の目的を達することができないときは、建物と共に売買の目的とされた賃借権に瑕疵があると解する余地があるとしても、賃貸人の修繕義務の履行により補完されるべき敷地の欠陥については、賃貸人に対してその修繕を請求すべきものであって、右敷地の欠陥をもって賃貸人に対する債権としての賃借権の欠陥ということはできないから、買主が、売買によって取得した賃借人たる地位に基づいて、賃貸人に対して、右修繕義務の履行を請求し、あるいは賃貸借の目的物に隠れた瑕疵があるとして瑕疵担保責任を追求することは格別、売買の目的物に瑕疵があるということはできないのである。

判旨の読み方。売買の目的は敷地そのものではなく賃借権。賃貸人の修繕義務で補う敷地の欠陥は、賃貸人に修繕を請求するもので、賃借権の欠陥ではない。ただし、敷地の面積の不足・法的規制・使用方法の制限などで賃借権が制約されて目的を達しないときは、賃借権に瑕疵がある余地。 図:判旨の読み方

  • 売買の目的は敷地そのものではなく賃借権
  • 賃貸人の修繕義務で補う敷地の欠陥は、賃貸人に修繕を請求するもので、賃借権の欠陥ではない
  • ただし、敷地の面積の不足・法的規制・使用方法の制限などで賃借権が制約されて目的を達しないときは、賃借権に瑕疵がある余地

判旨は、2つに分かれます。原則と、その例外です。まず原則です。売買の目的は、敷地そのものではなく、敷地の賃借権です。敷地に、賃貸人が直す義務を負う欠陥があっても、それは賃借権の欠陥ではありません。賃貸人に、直してほしい、と求めるべきものです。ただし判旨は、敷地の面積の不足や、法律上の規制、使用方法の制限などで、賃借権そのものが制約を受けて、目的を達しないときは、賃借権に瑕疵がある余地も認めています。なぜ、賃借権の欠陥ではないのか。ここまでと同じく、Bが手にした権利を見ます。Bが手にした賃借権には、地主に直してもらう力が、もともと含まれています。その力ごと移っているので、権利としては欠けていない、という見方です。

敷地の欠陥の関係図。A(売主)→B(買主)に建物と賃借権を売る。地主E(賃貸人)にBが修繕を請求する。賃貸人の修繕義務(606条1項)。条文=606条1項(全文)。 図:敷地の欠陥の関係図

  • A(売主)→B(買主)に建物と賃借権を売る
  • 地主E(賃貸人)にBが修繕を請求する
  • 賃貸人の修繕義務(606条1項)
  • 条文=606条1項(全文)

設例のBは、賃借人の立場を引き継いでいます。ですから、賃貸人のEに、修繕を求める道があります。賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負うからです。606条1項です。賃貸人の修繕義務は、別の回で見ます。では、現行法ではどう書くか。答案の筋は1本です。水はけのような敷地の欠陥は、権利の不適合ではなく、地主に直してもらう話として書きます。賃借権そのものは欠けていない、というこの判例の見方が、現行法の下でも参考にされると考えられているからです。ただ、建物を使うには敷地が欠かせないので、敷地の欠陥を、建物の品質の不適合と見る見解もあります。現行法の判例は、まだ確立していません。ですから、答案では、判例の筋で、地主に修繕を求める道を本線に書きます。そのうえで、建物の品質の不適合と見る見解もある、と一言添えれば足ります。

確かめる

確かめるその1。買った土地に他人の抵当権の登記があった。買主は自分で被担保債権を払って抵当権を消した。売主に何が言えるか。 図:確かめるその1

  • 買った土地に他人の抵当権の登記があった
  • 買主は自分で被担保債権を払って抵当権を消した
  • 売主に何が言えるか

事例で確かめます。1つめ。買った土地に、他人の抵当権の登記がありました。Bは自分で、被担保債権を払って、抵当権を消しました。Bは、売主に何を言えるでしょうか?

答えその1。余計な権利が付いている型。570条で費用の償還を請求できる。 図:答えその1。余計な権利が付いている型。570条で費用の償還を請求できる。

余計な権利が付いている型の権利の不適合です。570条で、費用の償還を売主に請求できます。損害賠償とは別の道で、帰責事由は要りません。

確かめるその2。10区画の分譲地のうち2区画が他人の土地で、売主が取得できず移せなかった。 図:確かめるその2

2つめ。10区画の分譲地のうち、2区画が他人の土地で、売主が取得できず、移せませんでした。どの条文で、何が言えるでしょうか?

答えその2。一部他人物。565条で4つの救済。2区画分の代金減額が効く。 図:答えその2。一部他人物。565条で4つの救済。2区画分の代金減額が効く。

一部他人物なので、565条により4つの救済が使えます。その2区画分の代金減額が効きます。残りの8区画の代金は、払う調整になります。

確かめるその3。売主が他人の土地を丸ごと売り、結局取得できず移せなかった。 図:確かめるその3。売主が他人の土地を丸ごと売り、結局取得できず移せなかった。

3つめ。売主が、他人の土地を丸ごと売りました。結局、取得できず、移せませんでした。どの条文で、何が言えるでしょうか?

答えその3。全部他人物。565条ではなく一般の債務不履行。解除は帰責事由不要。損害賠償は売主の帰責事由が要る。 図:答えその3

  • 全部他人物
  • 565条ではなく一般の債務不履行
  • 解除は帰責事由不要
  • 損害賠償は売主の帰責事由が要る

全部他人物なので、565条ではなく、一般の債務不履行です。解除は帰責事由が要らず、損害賠償は帰責事由が要ります。不能ですので、催告なしで解除できます。

確かめるその4。土地に他人の地上権が付いているのを知ってから2年たって初めて売主に言った。 図:確かめるその4

4つめ。土地に他人の地上権が付いているのを知ってから、2年たって初めて、売主に言いました。まだ言えるでしょうか?

答えその4。言える。権利の不適合に1年の通知はない。消滅時効(知って5年)の範囲内。 図:答えその4

  • 言える
  • 権利の不適合に1年の通知はない
  • 消滅時効(知って5年)の範囲内

言えます。権利の不適合には、あの1年の通知がありません。消滅時効の、知った時から5年の範囲内です。時効の範囲内なら、言えます。

4つの柱のまとめと、冒頭の問い

今日の4つの柱。1=権利の不適合とは(余計な権利が付いている/あるはずの権利が無い/一部を移せない)。2=全部他人物は別ルート(移転した権利が有るか無いか)。3=効果(4つの救済と費用の償還)。4=1年の通知がかからない(消滅時効だけ)。 図:今日の4つの柱

  • 1=権利の不適合とは(余計な権利が付いている/あるはずの権利が無い/一部を移せない)
  • 2=全部他人物は別ルート(移転した権利が有るか無いか)
  • 3=効果(4つの救済と費用の償還)
  • 4=1年の通知がかからない(消滅時効だけ)

今日の話を整理します。1つめ、権利の不適合とは、売主が移した権利が、契約の内容に合わないことです。余計な権利が付いている、あるはずの権利が無い、一部を移せない、の3つの型があります。2つめ、全部他人物は別ルートです。移転した権利が無いので、565条ではなく、一般の債務不履行です。一部他人物は、565条です。3つめ、効果です。565条が、4つの救済をそのまま借りてきます。さらに、担保物権を自腹で消したときは、570条で費用の償還を請求できます。4つめ、1年の通知はかかりません。消滅時効だけです。法令上の制限を、品質と見るか、権利と見るかの実益は、1年の通知がかかるかどうか、だけでした。

冒頭の答え合わせ。物ではなく、権利の側の不適合。565条で4つの救済がそのまま使える。1年の通知は要らず、消滅時効だけ。 図:冒頭の答え合わせ

  • 物ではなく、権利の側の不適合
  • 565条で4つの救済がそのまま使える
  • 1年の通知は要らず、消滅時効だけ

冒頭の問いの答えです。Bは、Aに言えます。地上権は、物の傷ではなく、権利の不適合です。565条で、追完、代金減額、損害賠償、解除の4つが使えます。1年の通知は要らず、消滅時効が完成するまでは、言えます。

参照条文

  • 民法565条
  • 民法561条
  • 民法570条
  • 民法566条

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