競売の担保責任と免責特約・交換
印刷のコツ
プリンターでは次の設定がおすすめです。
- 用紙:A4 / 向き:縦
- 拡大縮小:「実際のサイズ」(フィット縮小しない)
- 両面印刷:オン、とじ方は「長辺をとじる」(左綴じ)
- モノクロ印刷OK(強調は色でなく太字なので白黒でも読めます)
第5章 契約 #253/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
現状のままの中古住宅
図:冒頭の設例の関係図
- 左が売主A、右が買主B
- AはBに築年数の古い中古住宅を売った
- 契約書には「現状のまま引き渡す。売主は一切責任を負わない」と書いてある
- 入居後、床下にシロアリの被害が見つかった
- Aは売る前から被害を知っていたが、Bには何も言っていなかった
図:冒頭の問いの答えの方向
- 免責の特約は有効
- ただし知りながら告げなかった事実には使えない(572条)
- 4つの救済が使える
先に、答えの方向を言います。責任を負わない旨の特約は、原則として有効です。ただし、売主が知っていて黙っていた事実には、その特約を使えません。条文で言える結論です。ですから、Bは追完、代金減額、損害賠償、解除という4つの救済を、Aに言えます。理由と中身は、後半で条文を読みながら見ます。前回までに、4つの救済と、権利の不適合まで見ました。今日は、その4つの救済が、場面によって削られたり、合意で外されたりする話です。最初は、競売で買った家の場合から入ります。
柱1 競売で買ったら
図:1つめの柱の入口
- 競売=抵当権の実行など
- 債務者の意思によらず強制的に売られる
- 競売で買った人=買受人
1つめの柱の前に、前回までの復習です。4つの救済のうち、追完請求と代金減額請求のほかの2つは、何だったでしょうか?損害賠償請求と、解除です。この4つが、競売でどうなるかを見ます。競売には、抵当権の実行のほか、判決などを取った債権者が申し立てる強制競売もあります。条文の競売は、民事執行法などに基づく競売全部です。ここでは、抵当権の実行で見ます。抵当権は、借金が返されないときに、土地を競売にかけて回収できる権利でした。競売にかけられた不動産を、買って落札する人を、買受人と言います。競売で買った人、のことです。売る側は、元の所有者で、債務者です。普通の売買と違うのは、債務者が自分の意思で売るのではないことです。借金を返せず、強制的に売られます。この違いが、全部の出発点になります。設例です。債務者Aの中古の一戸建てが競売にかかり、買受人のBが落札して、代金を納めました。なお、この図では左のAは売主ではなく債務者です。入居後に、2つのことが分かりました。1つめは、雨漏りです。2つめは、競売の物件情報にあった面積より、土地が狭かったことです。1つめと2つめで、扱いが違います。
図:競売の設例の関係図
- 左が債務者A、右が買受人B
- Aの一戸建てが競売にかかり、Bが落札して代金を納めた
- 入居後、雨漏りと、面積不足が見つかった
条文を出します。568条です。
条文民法568条
民法第568条 1 民事執行法その他の法律の規定に基づく競売(以下この条において単に「競売」という。)における買受人は、第五百四十一条及び第五百四十二条の規定並びに第五百六十三条(第五百六十五条において準用する場合を含む。)の規定により、債務者に対し、契約の解除をし、又は代金の減額を請求することができる。 2 前項の場合において、債務者が無資力であるときは、買受人は、代金の配当を受けた債権者に対し、その代金の全部又は一部の返還を請求することができる。 3 前二項の場合において、債務者が物若しくは権利の不存在を知りながら申し出なかったとき、又は債権者がこれを知りながら競売を請求したときは、買受人は、これらの者に対し、損害賠償の請求をすることができる。 4 前三項の規定は、競売の目的物の種類又は品質に関する不適合については、適用しない。
図:568条を項ごとに分解した板
- 1項=解除・代金減額(債務者に対して)
- 2項=債務者が無資力なら、配当を受けた債権者に返還請求
- 3項=損害賠償は例外だけ
- 4項=種類又は品質の不適合には適用しない
4つの項に分けて読みます。1項は、買受人が使える救済です。541条と542条は、解除の条文です。563条は、代金減額の条文です。これらによって、債務者に対し、解除か代金減額を請求できる、とあります。なお、権利の不適合の場合は、565条が563条を準用するので、同じように使えます。ここで、追完の562条が挙がっていないことに注目してください。競売では、追完は認められません。2項は、債務者が無資力のときです。無資力とは、お金がなくて、返せない状態のことです。その場合、買受人は、代金の配当を受けた債権者に対して、代金の全部または一部の返還を請求できます。この流れは、あとで図で見ます。3項は、損害賠償です。債務者が、物や権利が無いことを知りながら申し出なかったとき、または債権者が、それを知りながら競売を請求したときに限って、損害賠償を請求できます。4項は、最も大きな削りです。競売の目的物の種類または品質に関する不適合には、前の3項が適用されません。品質については、4つとも使えないということです。
図:立ち止まる問い
- 競売で買った家に雨漏りがあった
- 追完・代金減額・損害賠償・解除の4つのうち、どれが使えるか
ここで、立ち止まって考えてください。競売で買った家に、雨漏りがありました。追完、代金減額、損害賠償、解除の4つのうち、どれが使えるでしょうか?
図:答え。雨漏りは品質の不適合。568条4項で、4つとも使えない。
品質の不適合になりますから、568条4項で、どれも使えないと思います。では、整理します。行は、種類・品質、数量、権利の3つです。列は、4つの救済です。
図:競売の表(主役)。行=種類・品質/数量/権利。列=追完/代金減額/損害賠償/解除。種類・品質=4つとも×(4項)。数量・権利=追完×/代金減額○/損害賠償△(3項の場合だけ)/解除○。脚注=減額・解除は債務者に言う。債務者が無資力なら配当を受けた債権者に返還請求。
種類と品質の行は、4つとも×です。数量と権利の行は、追完が×、代金減額が○、損害賠償が三角、解除が○です。三角は、3項の場合だけ認められる、という意味です。減額と解除は、債務者に言います。債務者が無資力なら、配当を受けた債権者に返還を請求します。競売の値段は、買う人が現況を見たうえで付けるからです。傷みや古さを織り込んで、入札するのが前提の手続です。後から品質が悪いと言えるなら、その値の付け方が崩れます。一方、数量や権利は、現況を見ても分からない部分です。それが違えば、買った前提が崩れるので、解除と減額は残すと説明されます。
追完と損害賠償が原則ないのは、なぜですか?売却が、債務者の意思に関係なく、強制的に行われるからです。自分の意思で売ったわけではない債務者に、直す義務や、損害を賠償する義務まで負わせるのは酷です。そこで、減額と解除に絞られています。損害賠償が出るのは、債務者や債権者が知っていて黙っていたような、非難されるべき場面だけです。
図:配当を受けた債権者への返還の関係図
- 左が債務者A(無資力)、右が買受人B、下が配当を受けた債権者C
- Bの代金は、Cら債権者への配当に回り、Aの手元には残っていない
- BがAに減額分の返還を求めても取れない
- そこで、2項でCに請求する
- 解除なら代金の全部、減額なら一部
2項の流れを、図で見ます。Bが納めた代金は、Aの手元に残っていません。借金を返すために、Cら債権者への配当に回っています。Aは無資力です。ですから、Aに代金や減額分を戻してほしいと言っても、取れません。そこで条文は、配当を受けた債権者に、直接請求する道を足しました。解除なら代金の全部、代金減額なら一部です。設例に当てはめます。雨漏りは、品質の不適合です。4項によって、救済はありません。土地が狭かったのは、数量の不適合です。Bは、債務者のAに、代金の減額か、解除を言えます。Aが無資力なら、配当を受けた債権者のCに、返還を請求します。損害賠償は、Aが不存在を知りながら申し出なかったときなど、3項の場合だけです。競売で、どの救済が残るかは、論文で論点になりうるところです。
柱2 債権を買ったら
図:2つめの柱の入口
- 債権譲渡の契約の中身が売買なら、債権の売主(譲渡人)と買主(譲受人)の関係になる
- 債権があるかどうかは別の話
- 今回の問いは、債務者が払えるか
2つめの柱です。債権譲渡では、債権者が替わります。その契約の中身が売買なら、債権の売主と買主の関係になります。売主が譲渡人、買主が譲受人です。区別すべきことが1つあります。今回は、債権は確かに有る前提で、債務者が払ってくれるかどうか、つまり債務者の資力を問題にします。
図:債権の売買の設例の関係図
- 左が売主A、右が買主B、上が債務者D
- AはBに、Dに対する額面100万円の貸金債権を80万円で売った
- 後でDが無資力と分かり、ほとんど回収できなかった
原則として、Bは、Aに責任を言えません。債権の売主は、債務者の資力まで、当然には担保しないからです。Bは、80万円という割引価格で買っています。回収できないかもしれないリスクは、買う側が引き受けて、値段を決めたのです。額面より安いのは、そのためです。ただし、売主が資力を担保した場合は別です。条文を出します。569条です。
条文民法569条
民法第569条 1 債権の売主が債務者の資力を担保したときは、契約の時における資力を担保したものと推定する。 2 弁済期に至らない債権の売主が債務者の将来の資力を担保したときは、弁済期における資力を担保したものと推定する。
図:569条の板
- 原則=債務者の資力は担保しない
- 担保したとき=契約の時の資力と推定(1項)
- 弁済期前の債権で将来の資力を担保=弁済期の資力と推定(2項)
資力を担保した、とは、売主が、債務者は払える、と保証する約束をしたということです。その約束があるときに、いつの資力を保証したのかが、曖昧になりがちです。条文は、それを補います。1項は、契約の時の資力を担保したものと推定します。2項は、弁済期前の債権について、将来の資力を担保したときは、弁済期における資力を担保したものと推定します。推定ですから、反対の事情を示せば覆せます。設例で言えば、Aが「Dは必ず払える」と保証していたとします。契約の時に、Dがすでに無資力だったなら、Aは責任を負います。弁済期がまだ先の債権で、Aが将来の資力を保証していたなら、弁済期の資力が基準です。保証がなければ、Dが払えなくても、Aは責任を負いません。
柱3 免責の特約と、その限界
図:3つめの柱の入口
- 冒頭の中古住宅(シロアリ・特約・Aは知っていた)
- 特約はどこまで効くか
3つめの柱です。この回の主役です。冒頭の中古住宅に戻ります。まず、特約の効力です。売主の責任の規定は、当事者の合意で変えられる、任意規定です。契約自由の原則から、責任を負わない旨の特約、つまり免責の特約は、原則として有効です。売主は、リスクを買主に移す代わりに、値段を下げられます。この合意は、普通に意味があります。問題は、その限界です。条文を出します。572条です。
条文民法572条
民法第572条 売主は、第五百六十二条第一項本文又は第五百六十五条に規定する場合における担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については、その責任を免れることができない。
図:572条の分解板
- 特約=562条1項本文(物の不適合)又は565条(権利の不適合)の場合の担保の責任を負わない旨
- 免れない2つ=1知りながら告げなかった事実/2自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利
順に読みます。前半は、担保の責任を負わない旨の特約をしたときでも、とあります。562条1項本文は、物の契約不適合の場合です。565条は、権利の不適合の場合です。つまり、どちらの責任についても、免責の特約を入れられる、という前提です。後半に、免れない2つがあります。1つめが、知りながら告げなかった事実です。2つめが、自ら第三者のために設定し、または第三者に譲り渡した権利です。1つめから見ます。冒頭の設例です。シロアリの被害を、Aは知っていて、Bには告げませんでした。知りながら告げなかった事実です。ですから、免責の特約があっても、Aは責任を免れません。告げてあれば、Bは承知で買ったことになり、契約の内容の問題になります。告げなかったから、免れないのです。前に見た566条ただし書と、語が少し違います。1年の通知のただし書は、売主が引渡しの時に、不適合を知っていた場合、または重大な過失で知らなかった場合に、通知がなくても4つの救済を失わない、つまり失権しない、というものでした。572条は、知りながら告げなかった、が要件です。重大な過失で知らなかった場合までは、含まれません。
図:566条の板
- 全文の再掲
- 種類又は品質の不適合は、知った時から1年以内の通知。ただし、売主が引渡しの時に不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは通知不要。
ここで、前回までの復習です。売主が引渡しの時に、不適合を知っていたとき、1年の通知は必要だったでしょうか?必要ありません。566条のただし書で、通知しなくても失権しません。冒頭の設例のAは、引渡しの時に、シロアリを知っていました。ですから、Bは1年の通知をしていなくても、失権しません。免責の特約でも、1年の通知でも、知っていて黙っていた売主は、守られないということです。冒頭の問いの答えです。Bは、特約があっても、Aに責任を言えます。572条です。使えるのは、追完として修繕、代金減額、損害賠償、解除の4つです。損害賠償は、売主の帰責事由が必要でした。知っていて黙っていたのですから、通常は帰責事由が認められます。
図:冒頭の答え合わせ
- 免責の特約があっても、知りながら告げなかった事実には使えない(572条)
- 4つの救済が使える
- 損害賠償は売主の帰責事由が必要(知っていて黙っていたので通常は認められる)
- 1年の通知も、売主が引渡しの時に知っていたので失権しない
2つめに進む前に、立ち止まって考えてください。売主が、自分の借金の担保として、売る前に抵当権を設定していたのを、黙って売りました。免責の特約付きです。この特約は、効くでしょうか?
図:2つめの例の板
- 設定=売主Aが売る前に自分の借金の担保として、土地に第三者Cのために抵当権を設定していた
- 譲渡=売主Aが、売る土地の北側部分を、先にCに譲り渡していたのに、全体をBに売った
- どちらも免責の特約付きでも免れない
黙っていたことだけを見れば1つめですが、売主が自分で設定した権利なので、2つめに当たると思います。特約は効かない、と考えます。2つめは、売主が自分でしたことの結果です。具体例を2つ挙げます。1つめは、設定です。売主のAが、売る前に、自分の借金の担保として、第三者Cのために土地に抵当権を設定していた場合です。前回の、余計な権利が付いている型です。2つめは、譲渡です。売主のAが、売る土地の北側部分を、先にCに譲り渡していたのに、全体をBに売った場合です。前回の、一部を移せない型です。どちらも、免責の特約があっても、Aは責任を免れません。1つめとの違いは、知っていたかどうかではないことです。Aが自分でした行為の結果なので、知らなかったという言い訳も通りません。
特約が有効なのは、売主が知らない、あるいは予想できないリスクを、値段と引き換えに買主へ移す合意だからです。知っていて黙っていたり、自分で権利を設定、譲渡したりしたことまで買主に押し付けるのは、その枠を超えます。そこだけ責任を負わない、という約束は、信義に反します。1条2項の信義則の発想です。
図:消費者契約法8条1項
- 次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする
- 一 事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項
1つ、付け加えます。前に見た消費者契約法は、取消しを認める法律でした。同じ法律は、事業者の損害賠償の責任を全部免除する条項そのものも、無効にします。売主が事業者で、買主が消費者の売買では、免責の特約を入れても、別の法律で制限が入りえます。個別法ですから、内容を暗記する必要はありません。ここでは、事業者の損害賠償の責任を全部免除する条項は無効、と骨格だけ押さえてください。
図:錯誤との関係の板
- 欠陥のある家を買った買主=欠陥がないと思って買った勘違いでもある
- 契約不適合責任(4つの救済)と、錯誤取消し(95条)
- どちらを主張できるか
- 95条1項2号・2項
続いて、錯誤との関係です。欠陥のある家を買った買主は、欠陥はないと思って買った、という勘違いをした人でもあります。前に見た、基礎事情の錯誤です。95条1項2号は、表意者が法律行為の基礎とした事情についての認識が、真実に反する錯誤を取消しの対象にしています。ただし2項によって、その事情が法律行為の基礎とされていることが、表示されていたときに限ります。
図:95条の板
- 全文
- 1項=意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤。二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤。2項=前項第二号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。3項=錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第一項の規定による意思表示の取消しをすることができない。一 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。
設例に当ててみます。買主は、欠陥のない家だという前提で、それに見合う値段を払い、売主もその値段で受け取っています。欠陥のない家という前提は、契約の内容として、値段にも表れています。表示は、黙示でも足りるのでした。ですから、2項の表示はあると言える場合が多いのです。あとは、その勘違いが重要なもので、買主に重大な過失がなければ、取り消せる余地があります。すると、契約不適合責任と錯誤取消しの要件が、どちらも満たされることがあります。そのとき、どちらを主張してもよいのか。現行法の整理では、買主がどちらでも選べるとする見解が有力です。もっとも、争いがあります。選べるとすると、契約不適合責任の期間制限である1年の通知を、錯誤取消しで逃れられてしまうのではないか、と考える見解もあるからです。旧法の下の判例を1つ、参考に見ます。前回も見たとおり、当時の言葉で、欠陥のことを瑕疵と言い、売主の責任は、瑕疵担保責任という名前でした。この事案は、売買ではありません。支払うべき金額をめぐる争いを、訴訟上の和解で収め、お金の代わりに、品質の良い苺ジャムを渡すと決めたところ、粗悪品だった、という事案です。錯誤を主張したのは、ジャムを受け取った側です。代物弁済とは、お金の代わりに、別の物で払うことです。
判例最判昭33・6・14 民集12巻9号1492頁
代物弁済の目的物の瑕疵と錯誤 しかし、原判決は、本件代物弁済の目的物であるD印苺ジヤムに所論のごとき暇疵があつたが故に契約の要素に錯誤を来しているとの趣旨を判示しているのであり、このような場合には、民法瑕疵担保の規定は排除されるのであるから……所論は採るを得ない。
この判決は、旧法の下で、要素の錯誤が成立するなら、瑕疵担保の規定は排除される、と言いました。要素の錯誤とは、旧法の言葉で、契約の大事な部分についての勘違いのことです。当時、錯誤は取消しではなく、無効でした。契約が無効なら、有効な契約を前提にする担保責任は、出番がありません。錯誤が優先した例と説明されるのは、このためです。他方で、錯誤と担保責任のどちらも主張できる、という立場から読む見解もあるとされます。そして、現行法で同じ結論になるかは、判例がまだ定まっていません。ですから、旧法の判決の言い回しを、そのまま現行法に当てはめないでください。現行法では、契約不適合責任が債務不履行の特則に整理され、錯誤も無効から取消しに変わりました。取り消すまでは、契約は有効です。そのため、契約不適合責任と錯誤取消しは並び立ちうる、と考えやすくなりました。このような理由から、選べるとする見解が有力とされます。旧法の判例は、参考にとどめます。
図:126条の板
- 全文
- 取消権は、追認をすることができる時から五年間行使しないときは、時効によって消滅する。行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。
両者の差が、実益になります。契約不適合責任には、1年の通知がありました。錯誤取消しには、この1年の通知がありません。取消権は、前に見た126条で、追認できる時から5年、行為の時から20年で消えます。この差を使えるかどうかが、争いの実益です。免責の特約と、572条の2つの例外は、論文で論点になりうるところです。契約不適合責任と錯誤取消しの関係も、同じです。
柱4 交換と、売買ブロックのまとめ
図:4つめの柱の入口。交換=財産権と財産権を互いに移転する契約。売買=財産権と代金。
4つめの柱です。売買のルールが、交換にもそのまま使われる話です。条文を出します。586条です。
条文民法586条
民法第586条 1 交換は、当事者が互いに金銭の所有権以外の財産権を移転することを約することによって、その効力を生ずる。 2 当事者の一方が他の権利とともに金銭の所有権を移転することを約した場合におけるその金銭については、売買の代金に関する規定を準用する。
1項から読みます。交換は、当事者が互いに、金銭の所有権以外の財産権を移転することを約すれば、成立します。約束だけで成立するので、諾成契約です。互いに債務を負うので双務契約です。互いの給付が対価関係にあるので有償契約です。売買は、財産権と代金の取引ですが、交換は、財産権と財産権の取引です。
図:交換の設例の関係図
- 左がA、右がB
- Aの土地とBの土地を交換する
- 時価が違うので、AがBに差額300万円を払う約束をした
- この300万円が補足金
設例です。AとBが、それぞれの土地を交換します。時価が違うので、AがBに差額の300万円を払う約束をしました。この差額の金銭を、補足金と呼びます。2項は、補足金に、売買の代金に関する規定を準用する、と定めます。たとえば、代金の支払の期限や場所の規定が、そのまま使われます。交換全体には、559条が働きます。前に読んだ条文を、もう一度出します。
条文民法559条
民法第559条 この節の規定は、売買以外の有償契約について準用する。ただし、その有償契約の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
交換は有償契約ですから、売買の規定が準用されます。契約不適合責任も、そのまま使えます。また、双務契約ですから、同時履行の抗弁権のような、契約総則の規定も適用されます。ただし書は、準用の限界を示します。契約の性質が許さない場合は、準用されません。
図:交換の応用例の関係図
- 左がA、右がB
- Aの土地とBの中古車を交換した
- 車に故障があった
- 559条で売買の規定を準用
559条で、売買の規定が準用されます。Aは、修理という追完、損害賠償、解除などを言えます。1年の通知も、準用の対象です。ただし、代金減額は、代金を前提にした救済です。補足金のない純粋な交換に、そのまま当てはまるかは、読み替えが要ります。
図:売買ブロックのまとめ表その1
- 成立・効力
- 手付=解約手付と履行の着手。買戻し=売買と同時の特約。売買の効力=他人の権利の売買(561条)と、代金の支払の期限・場所。
ここで、売買ブロック全体を、表で振り返ります。前半は、成立と効力です。手付は、特に定めがなければ解約手付で、相手が履行に着手するまでは、手付を捨てるか倍額を出して抜けられます。買戻しは、売買と同時の特約で、代金と契約の費用を返して、最初の売買を解除する仕組みでした。他人の権利の売買も有効で、売主は、その権利を取得して買主に移す義務を負いました。
図:売買ブロックのまとめ表その2
- 契約不適合責任
- 要件=種類・品質・数量が契約の内容に適合しない。救済=追完・代金減額・損害賠償・解除。期間=種類・品質は知って1年以内の通知。消滅時効。権利の不適合=565条、1年の通知なし。今日=競売(568条)・債権(569条)・免責の特約(572条)・錯誤・交換(586条・559条)。
後半は、契約不適合責任です。要件は、引き渡された物が、種類、品質、数量で、契約の内容に合わないことでした。救済は、追完、代金減額、損害賠償、解除の4つです。種類と品質の不適合は、知ってから1年以内に通知しないと4つの救済を失い、それとは別に消滅時効も進みます。権利の不適合には、この1年の通知はありません。そして今日、競売、債権、免責の特約、錯誤、交換を見ました。これで、売買のブロックが終わります。
確かめる
図:確かめるその1。競売で買った中古の一戸建てに雨漏りがあった。
事例で確かめます。1つめ。競売で買った中古の一戸建てに、雨漏りがありました。買受人は、何を言えるでしょうか?
図:答えその1。品質の不適合。568条4項で、競売では救済なし。
品質の不適合になりますから、568条4項で、競売では救済はありません。4つとも使えません。
図:確かめるその2
- 競売で買った土地が、競売の物件情報の面積より狭かった
- 債務者は無資力
2つめ。競売で買った土地が、物件情報の面積より狭かったとします。債務者は無資力です。買受人は、誰に何を言えるでしょうか?
図:答えその2
- 数量の不適合
- 債務者に代金減額
- 無資力なら配当を受けた債権者に返還請求(568条1項・2項)
数量の不適合なので、債務者に代金減額を言えます。無資力なら、配当を受けた債権者に、減額分の返還を請求できます。568条1項と2項です。解除でも同じ流れで、その場合は代金の全部です。
図:確かめるその3
- 売主は一切責任を負わない特約付きで土地を売った
- 売る前に自分で設定した抵当権が付いていた
3つめ。売主は一切責任を負わないという特約付きで、土地を売りました。その土地には、売主が売る前に自分で設定した抵当権が付いていました。特約は、効くでしょうか?
図:答えその3。自ら第三者のために設定した権利。572条で免れない。
自ら第三者のために設定した権利なので、572条で免れません。知っていたかどうかは関係ありません。
図:確かめるその4。土地と車を交換したら、車が故障していた。
4つめ。土地と車を交換したら、車が故障していました。どの条文で、何が言えるでしょうか?
図:答えその4
- 559条で売買の規定を準用
- 契約不適合責任の救済(追完・損害賠償・解除)が使える
559条で売買の規定が準用されます。修理という追完、損害賠償、解除などの契約不適合責任の救済が使えます。交換にも、売買のルールが使われます。
4つの柱のまとめと、冒頭の問い
図:今日の4つの柱
- 1=競売で買ったら(568条)
- 2=債権を買ったら(569条)
- 3=免責の特約と、その限界(572条)と錯誤との関係
- 4=交換と、売買ブロックのまとめ
今日の話を整理します。1つめ、競売で買ったら、種類と品質の不適合には救済がありません。数量と権利の不適合は、債務者に代金減額か解除を言えます。債務者が無資力なら、配当を受けた債権者に返還を請求します。2つめ、債権を買ったら、債務者の資力は原則として担保されません。担保したら、契約の時の資力と推定されます。3つめ、免責の特約は有効ですが、知りながら告げなかった事実と、自ら設定または譲渡した権利は免れません。錯誤取消しとは、選べるとする見解が有力ですが、争いがあります。4つめ、交換は、586条で成立し、559条で売買の規定が準用されます。
図:冒頭の答え合わせ
- 免責の特約は有効
- ただし、知りながら告げなかった事実には使えない(572条)
- 4つの救済が使える
冒頭の問いの答えです。Bは、Aに言えます。特約はありますが、シロアリの被害は、Aが知りながら告げなかった事実です。572条によって、Aは責任を免れません。追完、代金減額、損害賠償、解除の4つが使えます。
参照条文
- 民法568条
- 民法569条
- 民法572条
- 民法586条
- 民法559条