民法ゼロから民法#254

消費貸借の成立と返還債務

印刷用PDFを開く

第5章 契約 #254/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

貸すと約束したのに

冒頭の設例の関係図。左が貸主A、右が借主B。Aは友人のBに「来月、100万円貸すよ」と約束した。お金はまだ渡っていない。Bはそれをあてにして、来月の店の仕入れを予定している。 図:冒頭の設例の関係図

  • 左が貸主A、右が借主B
  • Aは友人のBに「来月、100万円貸すよ」と約束した
  • お金はまだ渡っていない
  • Bはそれをあてにして、来月の店の仕入れを予定している

冒頭の問いの答えの方向。口約束だけなら、受け取る前は契約が成立していない。書面で約束していたなら、貸す債務が生じる(587条の2)。 図:冒頭の問いの答えの方向

  • 口約束だけなら、受け取る前は契約が成立していない
  • 書面で約束していたなら、貸す債務が生じる(587条の2)

先に、答えの方向を言います。どんな約束だったかで分かれます。書面のない口約束だけなら、お金を受け取る前は契約がまだ成立していないので、Bは貸すよう求められません。他方、書面で約束していたなら、Aには貸す債務が生じるので、求められます。理由と中身は、条文を読みながら見ていきます。売買のブロックは前回で終わりました。今日は別の契約として、お金を借りる契約の、成立と返し方を見ます。以前に契約の分け方を見たとき、587条は、受け取ることで効力が生じる要物契約の代表だと確認しました。今日は、その中身をほどきます。

柱1 貸す約束はいつ契約になるか

1つめの柱の入口。消費貸借=借りた物を使い、同じ種類・品質・数量の物を返す契約。借りた100万円は仕入れで使い切り、後で別の100万円を用意して返す。 図:1つめの柱の入口

  • 消費貸借=借りた物を使い、同じ種類・品質・数量の物を返す契約
  • 借りた100万円は仕入れで使い切り、後で別の100万円を用意して返す

1つめの柱です。まず、消費貸借の意味を押さえます。消費貸借は、借りた物を使ってしまい、後で、同じ種類、同じ品質、同じ数量の物を返す契約です。典型はお金です。Bが借りた100万円を仕入れで使い切り、あとで別の100万円を用意して返す。これが消費貸借です。ここが、使用貸借や賃貸借と違うところです。それらは、借りた物そのものを返します。消費貸借は、使ってしまうので、その物は返せません。返すのは、同じ種類、同じ品質、同じ数量の別の物です。使用貸借と賃貸借は、別の回で詳しく見ます。条文を出します。587条です。

条文民法587条

民法第587条 消費貸借は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる。

587条の分解板。成立に必要なもの=1返還の合意(同じ種類・品質・数量の物を返す約束)/2目的物の受け取り。2つそろって初めて効力が生じる。 図:587条の分解板

  • 成立に必要なもの=1返還の合意(同じ種類・品質・数量の物を返す約束)/2目的物の受け取り
  • 2つそろって初めて効力が生じる

読みどころは2つです。ひとつは、返すことを約して、とあるところです。同じ種類、品質、数量の物を返す、という合意です。もうひとつは、受け取ることによって、とあるところです。合意だけでは足りません。お金を受け取って、初めて効力が生じます。以前、契約の分け方で、売買の555条は約することによって効力が生じる、と見ました。587条は、受け取ることによって、です。この違いが、要物契約と諾成契約の違いでした。売買は約束しただけで成立したのに、どうしてお金を借りる契約は、受け取るまで成立しないのですか?587条は、お金を渡すまで、貸主を契約で縛らない作りになっているからです。口で「貸すよ」と言っただけで縛ると、軽い気持ちの約束まで義務になってしまいます。実際にお金を渡したところで、初めて契約として扱うのです。その結果、要物契約としての消費貸借では、成立の時に、貸主はもうお金を渡し終えています。ですから、貸主に、これから貸す、という債務は残りません。契約が成立した時点で残るのは、借主が同じ額を返す返還債務だけです。契約の分け方で見たとおり、片務か双務かは、債務の数ではなく、互いに対価として向き合う債務があるかで決まります。ここで残るのは借主の返還債務だけで、向き合う相手の債務がありません。ですから、片務契約です。利息の約束がなければ、タダの契約、つまり無償です。利息の約束があれば、貸す側は利息という対価を受け取るので、有償になります。書面は要りません。

冒頭の設例に戻ります。Aは口で「貸すよ」と言っただけで、お金は渡っていません。書面もありません。ですから、要物契約としての消費貸借は、まだ成立していません。契約が無いので、Aに貸す債務は生じていません。Bは、貸すよう求められません。消費貸借の成立は、論文で論点になりうるところです。

柱2 書面でする消費貸借と比較表

2つめの柱の入口。書面(借用書・契約書)で約束した場合。お金が渡る前でも契約が成立するのか。 図:2つめの柱の入口

  • 書面(借用書・契約書)で約束した場合
  • お金が渡る前でも契約が成立するのか

2つめの柱です。冒頭の設例を、少し変えます。AとBは、借用書の形で、来月に100万円を貸す、返す、という約束を書面にしていました。お金はまだ渡っていません。この場合は、どうなるでしょうか。条文を出します。587条の2です。2017年の改正で新しく置かれました。

条文民法587条の2

民法第587条の2 1 前条の規定にかかわらず、書面でする消費貸借は、当事者の一方が金銭その他の物を引き渡すことを約し、相手方がその受け取った物と種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約することによって、その効力を生ずる。 2 書面でする消費貸借の借主は、貸主から金銭その他の物を受け取るまで、契約の解除をすることができる。この場合において、貸主は、その契約の解除によって損害を受けたときは、借主に対し、その賠償を請求することができる。 3 書面でする消費貸借は、借主が貸主から金銭その他の物を受け取る前に当事者の一方が破産手続開始の決定を受けたときは、その効力を失う。 4 消費貸借がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その消費貸借は、書面によってされたものとみなして、前三項の規定を適用する。

587条の2の分解板。1項=書面でする消費貸借は、貸す約束と返す約束だけで効力が生じる(受け取り不要)。4項=電磁的記録も書面とみなす。2項・3項=受け取る前の解除と破産(別の回)。 図:587条の2の分解板

  • 1項=書面でする消費貸借は、貸す約束と返す約束だけで効力が生じる(受け取り不要)
  • 4項=電磁的記録も書面とみなす
  • 2項・3項=受け取る前の解除と破産(別の回)

読み上げるのは1項と4項です。1項は、書面でする消費貸借は、一方が金銭を引き渡すことを約し、相手方が同じ種類、品質、数量の物を返すことを約すれば、効力を生ずる、と言っています。587条にあった、受け取り、が要りません。お金が渡る前、合意の時点で、契約が成立します。4項は、メールや電子契約サービスのように、電磁的記録で合意した場合も、書面でしたものとみなす、という定めです。紙の借用書でなくても、同じ扱いです。2項と3項は、受け取る前に借主が解除できることや、受け取る前に破産したときの扱いです。ここは、別の回で見ます。ここで、立ち止まって考えてください。書面のない口約束の「貸すよ」と、書面のある約束。貸す債務が生じるのは、どちらでしょうか?

答え。書面でする消費貸借の債務。貸主=書面があれば、貸す債務を負う。借主=返還債務を負う。2つの債務=対価の関係に立たない→なお片務契約。 図:答え

  • 書面でする消費貸借の債務
  • 貸主=書面があれば、貸す債務を負う
  • 借主=返還債務を負う
  • 2つの債務=対価の関係に立たない→なお片務契約

書面のある約束の方だと思います。書面でする消費貸借では、合意の時に契約が成立するので、貸主は、お金を引き渡す債務、つまり貸す債務を負います。借主は、返還債務を負います。ただし、2つの債務は、互いに対価の関係に立ちません。ですから、なお片務契約と考えられています。利息の約束がなければ、無償です。

比較表(主役)。列=要物契約としての消費貸借/書面でする消費貸借。行=成立に必要なもの(返還の合意+受け取り/書面による貸す約束と返す約束)/成立の時期(受け取った時/合意の時)/貸す債務(生じない/貸主が負う)/書面(要らない/要る)/片務・双務(どちらも片務)。 図:比較表(主役)。列=要物契約としての消費貸借/書面でする消費貸借。行=成立に必要なもの(返還の合意+受け取り/書面による貸す約束と返す約束)/成立の時期(受け取った時/合意の時)/貸す債務(生じない/貸主が負う)/書面(要らない/要る)/片務・双務(どちらも片務)。

2つの成立の仕方を、1枚に並べます。列は、要物契約としての消費貸借と、書面でする消費貸借です。成立に必要なものは、前者が返還の合意と受け取り、後者が書面による貸す約束と返す約束です。成立の時は、前者が受け取った時、後者が合意の時です。貸す債務は、前者では生じず、後者では貸主が負います。書面は、前者では要らず、後者では要ります。そして、どちらも片務契約です。合意だけで貸す債務が生じるとすると、軽い気持ちで言った「貸すよ」まで、法律上の義務になってしまいます。貸す債務は、貸主にとって重い責任です。そこで、書面を求めて、約束の重みを自覚させ、軽率な約束から当事者を守ります。副次的に、書面があれば、約束の中身も、後で争いになりにくくなります。抵当権の回の疑問にも、ここで答えます。お金を受け取る前に、抵当権を付けられるのか、という疑問でした。要物契約としての消費貸借を前提にしても、付けられます。あの回で見たとおり、付従性が緩やかに解されるからです。書面でする消費貸借なら、合意の時点で契約が成立しているので、この疑問自体が生じにくくなります。

冒頭の設例の答えの板。口約束だけ=受け取り前は契約が成立していないので、Bは貸すよう求められない。書面あり=書面でする消費貸借が成立し、Aに貸す債務。「やっぱり貸さない」は債務不履行。Bは求められる。 図:冒頭の設例の答えの板

  • 口約束だけ=受け取り前は契約が成立していないので、Bは貸すよう求められない
  • 書面あり=書面でする消費貸借が成立し、Aに貸す債務
  • 「やっぱり貸さない」は債務不履行
  • Bは求められる

冒頭の問いに、ここで答えます。借用書などの書面があれば、書面でする消費貸借が成立しています。Aは貸す債務を負うので、「やっぱり貸さない」は債務不履行です。Bは、貸すよう求められます。書面のない口約束なら、先ほどのとおり、求められません。なお、書面で約束していても、受け取る前なら、借主の側からは解除できる定めがあります。その細部は別の回です。書面でする消費貸借の成立も、論文で論点になりうるところです。

柱3 返還債務 返す時期・催告・期限前の返還

3つめの柱の入口。返還債務は2つの消費貸借に共通。借りた物と同じ種類・品質・数量の物を返す。返還時期の定めがあるか、ないかで分かれる。 図:3つめの柱の入口

  • 返還債務は2つの消費貸借に共通
  • 借りた物と同じ種類・品質・数量の物を返す
  • 返還時期の定めがあるか、ないかで分かれる

3つめの柱です。ここから先は、要物契約としての消費貸借でも、書面でする消費貸借でも、同じです。借主は、借りた物と同じ種類、品質、数量の物を返します。いつ返すのか。条文を出します。591条です。

条文民法591条

民法第591条 1 当事者が返還の時期を定めなかったときは、貸主は、相当の期間を定めて返還の催告をすることができる。 2 借主は、返還の時期の定めの有無にかかわらず、いつでも返還をすることができる。 3 当事者が返還の時期を定めた場合において、貸主は、借主がその時期の前に返還をしたことによって損害を受けたときは、借主に対し、その賠償を請求することができる。

3項まであります。順に見ます。まず、返還時期を定めていたときです。たとえば、6月末に返す、と決めていたなら、その日が来れば、借主は遅れた扱いになります。確定期限の定めがある債務の、普通の扱いです。

412条の板(全文)。1項=確定期限は、到来した時から遅滞の責任。2項=不確定期限は、到来後に請求を受けた時又は到来を知った時のいずれか早い時から。3項=期限を定めなかったときは、履行の請求を受けた時から。 図:412条の板

  • 全文
  • 1項=確定期限は、到来した時から遅滞の責任。2項=不確定期限は、到来後に請求を受けた時又は到来を知った時のいずれか早い時から。3項=期限を定めなかったときは、履行の請求を受けた時から。

ここで、前に見た履行遅滞を思い出します。返す日を決めていない債務は、412条3項で、いつから遅滞になるのだったでしょうか?履行の請求を受けた時からです。では、消費貸借はどうでしょうか。返す日を決めずに貸したお金を、貸主が今日「返して」と言いました。借主は、今日から遅れた扱いになるでしょうか?

流れ図(主役)。一般の期限の定めのない債務=請求を受けた時から遅滞(412条3項)。消費貸借の返還債務=返還の催告→相当の期間の経過→遅滞(591条1項)。理由=借りた物は使い切っているので、同じ物を調達する猶予が要る。 図:流れ図

  • 主役
  • 一般の期限の定めのない債務=請求を受けた時から遅滞(412条3項)。消費貸借の返還債務=返還の催告→相当の期間の経過→遅滞(591条1項)。理由=借りた物は使い切っているので、同じ物を調達する猶予が要る。

412条3項なら、請求を受けた今日から遅滞になると思うのですが、違うのでしょうか?違います。それが、591条1項の特則です。返還時期を定めなかったとき、貸主は、相当の期間を定めて催告できます。そして、催告をして相当の期間が過ぎて初めて、遅滞になります。請求を受けた時から、ではありません。412条3項の例外です。なぜ猶予があるのか。借りた物は、もう使い切っているからです。仕入れに使ったお金は、請求されても、すぐには返せません。同じ種類と数量の物を、調達する時間が要ります。その猶予が、相当の期間です。設例です。AがBに、返す日を決めずに100万円を貸しました。Aが「1か月以内に返して」と催告したなら、1か月が過ぎた時から、Bは遅滞です。「すぐ返して」とだけ言った場合や、短すぎる期間で催告した場合でも、催告から客観的に見て相当な期間が過ぎた時に、遅滞になると解されています。判例も、そう解しています。借主に返還の準備をする猶予を与える、という趣旨が理由です。

判例の結論の板。返還時期の定めのない貸金で、期間を示さない催告や相当でない期間の催告でも、催告から客観的に相当な期間が経過した時に遅滞となる。出典=大判昭5・1・29 図:判例の結論の板

  • 返還時期の定めのない貸金で、期間を示さない催告や相当でない期間の催告でも、催告から客観的に相当な期間が経過した時に遅滞となる
  • 出典=大判昭5・1・29

注意点が1つあります。催告と相当の期間の経過は、遅滞になるための要件です。貸主が返還を請求すること自体は、返還時期の定めがなければ、いつでもできます。ここで、弁済期と遅滞を分けます。弁済期は、払う時期、つまり貸主が「返して」と言える時期です。遅滞は、その時期を過ぎて、借主が遅れの責任を負う状態です。返還時期の定めのない貸金は、まだ催告していなくても、すでに弁済期が来ていると扱えます。遅滞にはまだなっていない、というだけです。判例は、そのような貸金を、貸主が相殺の自働債権、つまり相殺を言い出す側の債権にすることを認めました。相殺では、前に見たとおり、自働債権の弁済期が来ていることが必要ですが、遅滞になっていることまでは要りません。たとえば、BがAに、店の商品の代金50万円を請求してきたとします。Aは、返す日を決めずに貸していた100万円の返還債権で、催告をしないまま、その50万円と相殺できます。

相殺の判例の結論。返還時期の定めのない貸金返還債権は、催告をしていなくても自働債権として相殺できる。出典=大判昭17・11・19 図:相殺の判例の結論

  • 返還時期の定めのない貸金返還債権は、催告をしていなくても自働債権として相殺できる
  • 出典=大判昭17・11・19

次に、2項です。借主は、返還時期の定めの有無にかかわらず、いつでも返せます。時期を定めていない場合は、返す時期を縛るものが、そもそもありません。時期を定めていた場合に、期限の前でも返せる理由は、期限の利益の考え方で説明できます。

136条の板(全文)。1項=期限は、債務者の利益のために定めたものと推定する。2項=期限の利益は、放棄することができる。ただし、これによって相手方の利益を害することはできない。 図:136条の板

  • 全文
  • 1項=期限は、債務者の利益のために定めたものと推定する。2項=期限の利益は、放棄することができる。ただし、これによって相手方の利益を害することはできない。

期限は、債務者の利益のために定めたものと推定されます。債務者は、その期限の利益を放棄できます。借主は、返す時期が来る前に、期限の利益を放棄して返せるのです。ただし書きには、相手方の利益を害することはできない、とありました。それが3項に現れます。返還時期を定めていた場合に、借主が時期の前に返したことで、貸主が損害を受けたときは、貸主は賠償を請求できます。時期を定めていない場合は、いつでも返せるのですから、そもそも期限の前、という状態がありません。3項の対象外です。

期限前返還の設例の関係図。左が貸主A、右が借主B。AはBに100万円を、年6%の利息付きで、1年後に返す約束で貸した。Bが半年で全額を返した。Aは残り半年の利息を当てにしていた。 図:期限前返還の設例の関係図

  • 左が貸主A、右が借主B
  • AはBに100万円を、年6%の利息付きで、1年後に返す約束で貸した
  • Bが半年で全額を返した
  • Aは残り半年の利息を当てにしていた

設例です。AがBに100万円を、年利6%の利息付きで、1年後に返す約束で貸しました。Bが、半年で全額を返してきました。Aは、残り半年の利息を、当てにしていました。AはBに、損害賠償を請求できるでしょうか。当然にそうなる、とは言えません。条文は、損害を受けたとき、です。決め手は、貸主に実際に生じた損害です。残り半年の利息が、損害の候補にはなります。しかし、返された100万円を、すぐ別の人に貸し出せたなら、貸主の損害は小さくなる余地があります。利息分がそのまま損害になる、とは言い切れません。期限の定めのない消費貸借の遅滞と、期限前返還の損害賠償は、論文で論点になりうるところです。

柱4 利息は特約が無ければ付かない

4つめの柱の入口。利息のことを決めなかった消費貸借。無利息が原則。 図:4つめの柱の入口。利息のことを決めなかった消費貸借。無利息が原則。

4つめの柱です。利息の話です。ここで、前の話を1つ思い出します。利息付きの消費貸借が、片務なのに有償なのは、なぜだったでしょうか?対価として向き合う債務が無いので片務ですが、貸主は利息という対価を受け取るので、有償です。では、利息の条文を出します。589条です。

条文民法589条

民法第589条 1 貸主は、特約がなければ、借主に対して利息を請求することができない。 2 前項の特約があるときは、貸主は、借主が金銭その他の物を受け取った日以後の利息を請求することができる。

589条の板。1項=特約がなければ利息は請求できない(無利息が原則)。2項=特約があれば、受け取った日以後の利息を請求できる。例=4月1日に書面で合意、4月10日に受け取り→利息は10日以後。 図:589条の板

  • 1項=特約がなければ利息は請求できない(無利息が原則)
  • 2項=特約があれば、受け取った日以後の利息を請求できる
  • 例=4月1日に書面で合意、4月10日に受け取り→利息は10日以後

1項は、無利息が原則、という定めです。AがBに100万円を貸しました。契約のとき、利息のことは何も決めませんでした。1年後に、Aが「その間の利息ももらいたい」と言っても、特約がないので、請求できません。民法は、友人や家族のあいだのように、好意で貸す場面を基本に置いているからです。2項は、特約があるときの、利息の始まりです。受け取った日以後の利息を、請求できます。契約をした日からではありません。たとえば、4月1日に書面で貸付けの合意と利息の特約をしても、お金が渡ったのが4月10日なら、利息は10日以後です。書面でする消費貸借は、契約の日と受け取りの日が離れうるので、この区別が効きます。要物契約としての消費貸借は、成立が受け取りの時ですから、通常は、成立の日から利息が付きます。利率を決めなかったときは、前に見た法定利率が基準になります。

商法513条の板(全文・1項)。商人間において金銭の消費貸借をしたときは、貸主は、法定利息を請求することができる。 図:商法513条の板

  • 全文・1項
  • 商人間において金銭の消費貸借をしたときは、貸主は、法定利息を請求することができる。

民法の原則には、例外もあります。商法には、商人どうしの金銭の貸し借りなら、特約がなくても、貸主は法定利息を請求できる、という特則があります。商人は、もうけるために取引をするので、タダで貸すことは通常考えにくいからです。最初の回で、商人どうしの取引には、商法の特則が働くと見ました。その一例です。個別法ですから、暗記は要りません。骨格だけ押さえてください。

利息制限法の上限の板(#4-4の再利用)。10万円未満=年2割/10万円以上100万円未満=年1割8分/100万円以上=年1割5分。超過部分だけが無効。 図:利息制限法の上限の板

  • #4-4の再利用
  • 10万円未満=年2割
  • 10万円以上100万円未満=年1割8分
  • 100万円以上=年1割5分。超過部分だけが無効。

反対に、利息の特約があっても、利率には上限があります。前に見た利息制限法の上限です。超える部分だけが無効になるのでした。

確かめる

確かめるその1。「来月100万円貸す」と口頭で約束した。お金は未交付。 図:確かめるその1。「来月100万円貸す」と口頭で約束した。お金は未交付。

事例で確かめます。1つめ。「来月100万円貸す」と、口頭で約束しました。お金は、まだ渡していません。貸す債務は、生じているでしょうか?

答えその1。書面なし・未交付=消費貸借は成立せず、貸す債務は生じない。 図:答えその1。書面なし・未交付=消費貸借は成立せず、貸す債務は生じない。

書面がなく、受け取りもないので、消費貸借は成立していません。貸す債務も生じません。

確かめるその2。同じ約束を書面で交わした。お金は未交付。 図:確かめるその2。同じ約束を書面で交わした。お金は未交付。

2つめ。同じ約束を、書面で交わしました。お金は、やはり渡していません。今度は、どうでしょうか?

答えその2。書面あり・未交付=書面でする消費貸借が成立し、貸主に貸す債務が生じる(587条の2)。 図:答えその2

書面でする消費貸借が成立し、貸主に貸す債務が生じます。587条の2です。

確かめるその3。返す日を決めずに貸した。貸主が「1か月以内に返して」と催告した。 図:確かめるその3。返す日を決めずに貸した。貸主が「1か月以内に返して」と催告した。

3つめ。返す日を決めずに貸しました。貸主が「1か月以内に返して」と催告しました。借主は、いつから遅滞になるでしょうか?

答えその3。催告から相当の期間(この例では1か月)が過ぎた時から遅滞。591条1項(412条3項の例外)。 図:答えその3

  • 催告から相当の期間(この例では1か月)が過ぎた時から遅滞
  • 591条1項(412条3項の例外)

催告から相当の期間、この例では1か月が過ぎた時からです。591条1項で、412条3項の例外です。

確かめるその4。貸すときに、利息の約束を書き忘れた。商人どうしの取引ではない。 図:確かめるその4。貸すときに、利息の約束を書き忘れた。商人どうしの取引ではない。

4つめ。貸すときに、利息の約束を書き忘れました。商人どうしの取引ではありません。利息は、請求できるでしょうか?

答えその4。利息の特約なし(商人間でもない)=利息は請求できない(589条1項)。 図:答えその4

特約がないので、請求できません。589条1項です。

4つの柱のまとめと、冒頭の問い

今日のまとめ。1=返還の合意と受け取りで成立し、貸す債務は生じない(587条)。2=書面があれば合意だけで成立し、貸主に貸す債務(587条の2)。3=定めが無ければ催告と相当の期間の経過で遅滞、借主はいつでも返せる(591条)。4=特約が無ければ利息は請求できない(589条)。 図:今日のまとめ

  • 1=返還の合意と受け取りで成立し、貸す債務は生じない(587条)
  • 2=書面があれば合意だけで成立し、貸主に貸す債務(587条の2)
  • 3=定めが無ければ催告と相当の期間の経過で遅滞、借主はいつでも返せる(591条)
  • 4=特約が無ければ利息は請求できない(589条)

今日の話を整理します。1つめ、要物契約としての消費貸借は、返還の合意と受け取りで成立します。貸す債務は生じず、片務で、書面は要りません。2つめ、書面でする消費貸借は、書面があれば合意だけで成立し、貸主に貸す債務が生じます。3つめ、返還債務は、時期の定めがあればその時期に、無ければ催告と相当の期間の経過で、遅滞になります。借主はいつでも返せ、期限前に返して貸主に損害が出れば賠償です。4つめ、利息は特約が無ければ請求できず、特約があれば受け取った日以後の利息を請求できます。

冒頭の答え合わせ。口約束だけ=受け取り前は契約が成立せず、Bは貸すよう求められない。書面あり=貸す債務が生じ、Bは求められる(587条の2)。 図:冒頭の答え合わせ

  • 口約束だけ=受け取り前は契約が成立せず、Bは貸すよう求められない
  • 書面あり=貸す債務が生じ、Bは求められる(587条の2)

冒頭の問いの答えです。書面のない口約束なら、お金を受け取る前は契約が成立していないので、Bは貸すよう求められません。書面で約束していたなら、貸す債務が生じるので、求められます。消費貸借の成立は、論文で論点になりうるところです。

参照条文

  • 民法587条
  • 民法587条の2
  • 民法591条
  • 民法589条

民法 全体ロードマップへ →