賃貸借の成立・存続期間・賃貸人の義務
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第5章 契約 #257/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
天井の雨漏りは誰が直す
図:冒頭の設例の関係図
- 左が大家A、右が借り手B
- AはBに部屋を貸し、Bは毎月家賃を払っている
- 部屋の天井から雨漏りがしている
- BはAに「直して」と連絡したが、返事がない
- 下に業者C
図:冒頭の問いの答えの方向
- 大家には直す義務がある(修繕義務)
- 連絡して相当の期間が過ぎても直さない、または急ぎなら、借り手が自分で直せる
- 費用は直ちに大家へ請求できる
- ただし借り手の帰責事由で壊れたなら、大家は直さなくてよい
先に、答えの方向を言います。大家には、直す義務があります。連絡して、相当の期間が過ぎても直さないか、待っていられないほど急ぎなら、借り手は自分で直せます。かかった費用は、直ちに大家に請求できます。ただし、窓の開けっぱなしのように、借り手の帰責事由で壊れたのなら、大家は直さなくてかまいません。帰責事由とは、催告による解除の回で見た、その人のせいだと言える事情のことです。条文と細かい要件は、3つめと、4つめの柱で確かめます。手前の2つの柱で、そもそも賃貸借とは何か、何年まで貸せるのかを押さえます。
今日の4つの柱
図:今日の地図
- 1=賃貸借とは何か(601条・成立・民法と借地借家法)
- 2=存続期間(604条の上限・602条の短期賃貸借)
- 3=貸す側の修繕義務と、借りる側が自分で直せる場面(606条・607条の2)
- 4=費用の返ってき方と、担保責任(608条ほか)
- 軸=お金をもらって使わせるから、使える状態を保つ義務がある
今日は4つの柱です。1つめ、賃貸借とは何か。約束の中身と、成立と、民法のほかに別の法律が加わる場面の地図です。2つめ、存続期間。何年まで貸せるのか、貸す人によっては期間が縛られる、という話です。3つめ、貸す側の修繕義務と、借りる側が自分で直せる場面。冒頭の答えは、ここで出てきます。4つめ、借りる側が払った費用の返ってき方と、貸す側の担保責任です。
図:用語の板
- 貸す側=賃貸人=大家のA
- 借りる側=賃借人=借り手のB
- 使用貸借の貸主・借主に当たる
先に、2つの呼び名です。賃貸借で、貸す側を賃貸人、借りる側を賃借人と呼びます。前回の使用貸借の、貸主と借主に当たる人たちです。貸す側が賃貸人で大家のA、借りる側が賃借人で借り手のB、と結び付けてください。
図:賃貸借の全体の位置
賃貸借の話は、全体で見ると、大きく3つの層に分かれます。AとBの間の内部の関係。AやBと第三者との関係。そして、借地借家法の特別なルールです。今日は、内部の関係のうち、貸す側の義務を見ます。軸は1本です。お金をもらって使わせる契約だから、貸す側は、使える状態を保つところまで責任を負う。結論を先に言うと、ただし壊した側にまで負わせはしない、そして、貸す側が動かないときは、借りる側が自分で直して、費用を返してもらえます。
柱1 賃貸借とは何か
図:1つめの柱の入口
- 賃貸借=使わせる約束+賃料を払う約束+終わったら返す約束
- 諾成・双務・有償
1つめの柱です。賃貸借の条文は、601条です。
条文民法601条
民法第601条 賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。
約束は3つに分かれます。貸す側の、使わせる約束。借りる側の、賃料を払う約束。そして借りる側の、終わったら借りた物を返す約束です。返す約束は、2017年の改正で条文に書き込まれました。それ以前も、そう考えられていました。契約の種類を整理した回で見たとおり、対価として向き合う債務を双方が負う契約が双務、双方が自分の財産を減らす負担をする契約が有償でした。賃貸借では、使わせることと賃料を払うことが、対価として向き合います。貸す側は物を使わせ、借りる側はお金を払うので、どちらも負担をしています。だから、賃貸借は、双務で有償です。この、お金をもらって使わせる、という点が、3つめの柱の修繕義務の根っこになります。
借りた物を返す債務もありますよね。それも、使わせる債務と向き合うのですか?向き合いません。返す債務は、使用貸借のときと同じで、使わせてもらったことの見返りではないので、双務かどうかには関係しません。向き合っているのは、使わせる債務と、賃料を払う債務の2つです。条文の最後は、約することによって、効力を生ずる、です。約束だけで成立する契約なので、賃貸借は諾成です。物を渡すことは、成立の要件ではありません。引き渡して使わせることは、成立したあとの、貸す側の義務の中身です。目的になる物は、動産でも、土地でも、建物でもかまいません。実際に重要なのは、土地と建物の賃貸借です。なお、貸す人が、その物の所有者である必要はありません。賃貸借は債権を生む契約で、物の所有を条件にしないからです。
図:民法と借地借家法の地図(主役)。行=動産の賃貸借/建物を建てない土地の賃貸借(駐車場など)/建物を建てるための土地の賃貸借(借地権)/建物の賃貸借(借家)。列=適用される法。動産・建物を建てない土地=民法だけ。借地・借家=民法に加えて借地借家法。
次に、何を借りるかで、どの法律が当たるかを並べます。動産の賃貸借は、民法だけです。駐車場のように、建物を建てない目的の土地の賃貸借も、民法だけです。建物を建てるために土地を借りるなら、借地権といって、民法に加えて借地借家法が当たります。建物を借りる、借家も同じです。借地借家法が加わると、借りる側が強く守られます。その中身は、また別の回で見ます。土地の賃借権は、債権のままです。ただ、建物を建てる目的なら、借地借家法という別の法律が、債権の弱さを補います。民法だけの賃貸借と、借地借家法が加わる賃貸借がある、と分けて頭に置いてください。
柱2 存続期間
図:2つめの柱の入口
- 賃貸借の期間の上限=50年(604条)
- 権限の限られた者が貸すときは、さらに短い上限(602条)
- 軸=あまりに長く縛らない
2つめの柱です。1つめの柱で、貸す側は、使わせる義務を負うと見ました。では、その義務を、何年まで負わせてよいのでしょうか。軸は、あまりに長く縛りすぎない、です。まず、604条です。
条文民法604条
民法第604条 1 賃貸借の存続期間は、五十年を超えることができない。契約でこれより長い期間を定めたときであっても、その期間は、五十年とする。 2 賃貸借の存続期間は、更新することができる。ただし、その期間は、更新の時から五十年を超えることができない。
1項です。上限は50年です。下限は書かれていません。1年未満でも、1日でもかまいません。100年と約束したら、契約そのものが無効になるのですか?なりません。50年を超えた部分が、50年に縮まるだけです。貸す側は、50年は貸す義務を負います。上限の趣旨は、あまりに長く貸すと、所有権が長く縛られ、物の傷みも顧みられにくくなる、というところにあります。2項です。更新はできますが、更新の時から、また50年までです。なお、この上限は、2017年の改正で、それまでの20年から50年に伸びました。たとえば、ゴルフ場の敷地のように、長く借りたい場面が増えたからです。ここで、1つだけ注意します。建物を建てる借地や、借家には、借地借家法が期間の特別ルールを置いています。民法の50年は、その外側の、一般のルールです。
図:602条の短期賃貸借
- 主役
- 処分の権限を有しない者が貸すとき。山林(樹木を植える・切る目的)=10年。それ以外の土地=5年。建物=3年。動産=6か月。超える約定はその期間に縮む。
次は、貸す人によって、上限がさらに短くなる場合です。602条です。
条文民法602条
民法第602条 処分の権限を有しない者が賃貸借をする場合には、次の各号に掲げる賃貸借は、それぞれ当該各号に定める期間を超えることができない。契約でこれより長い期間を定めたときであっても、その期間は、当該各号に定める期間とする。 一 樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃貸借 十年 二 前号に掲げる賃貸借以外の土地の賃貸借 五年 三 建物の賃貸借 三年 四 動産の賃貸借 六箇月
数字は、山林が10年、それ以外の土地が5年、建物が3年、動産が6か月です。山林とは、樹木を植えたり、切ったりする目的で貸す山林のことです。超える約束をしても、その期間に縮みます。処分の権限を有しない者とは、その物を管理する権限しか持たない人です。たとえば、不在者と失踪宣告の回で見た、行方の分からない人に代わって財産を管理する、不在者の財産管理人です。代理人でも、代理する範囲を決められていない人は、管理の範囲でしか動けません。こうした人は、物を売ったり、手放したりする処分は、できません。賃貸借は、処分行為そのものではないので、管理の権限でもできます。ただ、本人にとっては、長く貸してしまうと、物が自由に使えなくなります。そこで、管理しかできない人が貸すなら、この期間までに縛ります。自分の物を、自分で長く貸すのは自由ですが、人から財産を預かって管理する人が、本人の物を長く縛るのは困る、という筋です。付け加えると、被保佐人は、この期間を超える賃貸借をするときだけ、保佐人の同意が要ります。
図:別の条文との比較板
- 共有物の賃貸(252条4項)=山林10年・土地5年・建物3年・動産6か月
- 短期賃貸借(602条)=同じ数字
- 局面は別
- 252条4項=共有者が過半数でする場合
- 602条=処分の権限を有しない者が貸す場合
共有物の回で見た、252条4項の数字と同じだと気づいたと思います。山林10年、土地5年、建物3年、動産6か月で、同じです。ただ、別の条文で、局面が違います。252条4項は、共有者が、過半数の決定で共有物を貸すときの上限でした。602条は、処分の権限を持たない人が、貸すときの上限です。数字が同じなので、どちらの場面の話かを分けて覚えてください。
柱3 修繕義務と、借りる側が直せる場面
図:3つめの柱の入口
- 冒頭の設例に戻る
- 雨漏り
- 大家Aに直す義務はあるか
- 使用貸借との違い
3つめの柱です。冒頭の雨漏りに戻ります。賃貸借の貸す側は、使える状態を保つ義務を負います。これを修繕義務といいます。軸は、お金をもらって使わせる契約だから、です。ここで、前回の使用貸借を思い出してください。使用貸借の貸主は、借りた物が壊れたら、直す義務を負ったでしょうか?
条文民法606条1項
民法第606条 1 賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。
そこが違います。606条1項です。賃貸人は、使用と収益に必要な修繕をする義務を負います。タダで貸した使用貸借の貸主は、妨げないだけでよかった。賃貸借の貸主は、賃料をもらっているので、使える状態を保つところまで責任を負います。雨漏りした天井は、大家のAが直す義務を負います。ただし書です。賃借人の帰責事由によって修繕が必要になったときは、貸す側は修繕義務を負いません。たとえば、借り手のBが壁に大きな穴を開けてしまったなら、その穴を直すのは、大家のAではありません。冒頭の、窓を開けっぱなしにして、大雨を吹き込ませた場合も、同じ筋です。自分の落ち度で壊した分まで、貸す側に直させるのは、筋が通らないからです。この明文は、2017年の改正で入りました。
台風で屋根が壊れたような、借り手のせいではない場合は、借り手に帰責事由が無いので、ただし書にはあたらず、本文のとおり、大家が直す義務を負います。なお、この修繕義務は、特約で排除できます。当事者が決めた約束が、条文より優先する規定です。特約の限界は、ここでは扱いません。次は、大家が動かないときです。大家に連絡しても、返事がありません。借り手のBは、自分で直せるのでしょうか。2017年の改正で、条文が入りました。
条文民法607条の2
民法第607条の2 賃借物の修繕が必要である場合において、次に掲げるときは、賃借人は、その修繕をすることができる。 一 賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、又は賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき。 二 急迫の事情があるとき。
図:借りる側が自分で修繕できる場面の分岐
- 主役
- 修繕が必要→大家に通知(または大家が知る)→相当の期間内に直さない→借り手が修繕できる。ただし通知しただけでは足りない。急迫の事情があるなら、待たずに修繕できる。
答えは、条文の1号と2号です。1号。借り手が、直してほしいと通知したか、貸す側が壊れていることを知っていて、それでも大家が、相当の期間内に直さないとき、借り手は自分で直せます。2号。急迫の事情があるときは、待たずに、すぐ直せます。注意点は、通知しただけでは足りない、というところです。通知してから、相当の期間が過ぎるまでは、1号の場面ではありません。その間に待てない事情があれば、2号の急迫の事情として直せます。急迫の事情とは、待っていられない事情のことです。たとえば、天井から水が噴き出していて、放っておくと、部屋が水浸しになる、というような場合です。なぜ、通知してすぐには直せないのでしょうか。直すのは、もともと大家の義務で、部屋も大家の物です。まず大家に、自分の物を自分で直す機会を渡します。それでも動かないときに、初めて借り手が手を出せる、という順番です。直した借り手が、かかった費用をどうできるかは、次の柱です。
図:使用貸借と賃貸借の対比板(主役)。列=使用貸借/賃貸借。行=対価(無し/賃料)・貸す側の修繕義務(無し/あり・借りる側の帰責事由が原因なら除く)・通常の必要費(借りる側が負担/貸す側の負担に属する必要費は貸す側へ請求できる)。
使用貸借と並べます。対価は、使用貸借は無し、賃貸借は賃料です。貸す側の修繕義務は、使用貸借には無く、賃貸借にはあります。ただし、借りる側の帰責事由で壊れたなら除きます。そして費用です。使用貸借では、通常の必要費は借主の負担でした。賃貸借では、直す義務は貸す側にあるので、借りる側が代わりに出したら、貸す側に請求できます。
柱4 費用の返ってき方と担保責任
図:4つめの柱の入口
- 借り手が支出した費用
- 必要費=雨漏りの修理
- 有益費=自費でベランダに屋根を付ける
4つめの柱です。借り手のBが、自分でお金を出したときの話です。雨漏りの修理に払ったお金と、ベランダに自費で屋根を付けたお金では、返ってくる時期が違います。608条です。
条文民法608条
民法第608条 1 賃借人は、賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができる。 2 賃借人が賃借物について有益費を支出したときは、賃貸人は、賃貸借の終了の時に、第百九十六条第二項の規定に従い、その償還をしなければならない。ただし、裁判所は、賃貸人の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。
1項です。必要費は、物を保存し、使える状態に保つための費用です。雨漏りの修理が、その例です。賃貸人の負担に属する必要費を、借り手が払ったなら、直ちに償還を請求できます。賃貸借が続いている間でも、請求できます。償還とは、払った分を返してもらうことです。借り手が払った理由は、使える状態を保つ修繕が、もともと大家の義務だからです。大家が本来払うはずのお金を、借り手が立て替えたので、すぐに返してもらえます。前の使用貸借では、通常の必要費は借主の負担でした。対価をもらう賃貸借では、逆の形になります。2項です。有益費は、物の価値を高めるための費用です。たとえば、借り手が自費で、ベランダに屋根を付けた場合です。有益費は、賃貸借の終了の時に償還されます。賃貸借が続いている間は、請求できません。そして、196条2項に従います。ここで、占有物の果実と費用の回で見た、196条2項を思い出してください。有益費を払った人が請求するとき、支払った金額と増えた価値のどちらで償還するかを、選ぶのは誰だったでしょうか?
物を取り戻して、費用を返す側の、回復者です。賃貸借なら、賃貸人の大家が選びます。そして、価値の増加が今も残っている場合に限られます。屋根を付けたことで、増えた価値が、終了のときに残っているなら、大家は、払った金額か、増えた価値の、どちらかを選んで返します。残っていなければ、返す必要はありません。ただし書があって、裁判所は、賃貸人の請求により、払う期限を相当の期間、猶予できます。
図:費用の整理板(主役)。行=通常の必要費(使用貸借)/必要費(賃貸借)/有益費(賃貸借)。列=誰が負担するか・いつ請求できるか・条文。通常の必要費(使用貸借)=借主・請求なし・595条。必要費(賃貸借)=貸す側の負担に属するもの・直ちに・608条1項。有益費(賃貸借)=増えた価値が残れば賃貸人が選んで償還・終了の時・608条2項、196条2項。
3場面を、1枚に並べます。使用貸借の通常の必要費は、借主の負担です。賃貸借の必要費は、貸す側の負担に属するものなら、直ちに請求できます。賃貸借の有益費は、賃貸借の終了の時で、増えた価値が残っているときに、賃貸人が選んで償還します。必要費は今すぐ、有益費は終わるとき。この違いは、必要費は使える状態を保つ義務を代わりに果たしたお金、有益費は物の値打ちが増した分だからです。有益費は、大家の義務を代わりに果たしたお金ではありません。値打ちの増えた物が大家の手に戻るのは、賃貸借が終わるときなので、そこで清算します。
図:請求の期間
請求の期間にも、注意があります。必要費も有益費も、償還の請求は、大家が物を返してもらった時から、1年以内にしなければなりません。622条が、前回の使用貸借で見た600条1項を、賃貸借にも準用しているからです。物が返ってから時間がたつと、費用が本当にかかったのか、分からなくなるからです。そこで、この1年は、時効ではなく、除斥期間だと考えるのが通説です。1年がたてば、当然に権利が消えます。これとは別に、償還請求権そのものの消滅時効も進みます。その起算点は、必要費は費用を投じた時、有益費は契約が終了した時です。もうひとつ、結び付けておきます。借り手の必要費や有益費の償還請求権は、その物そのものにかけたお金の請求なので、その物とつながりがある債権です。そのため、留置権の回で、費用を払ってもらうまで物を返さないでおける例として、出てきました。最後に、貸す側の担保責任です。賃貸物が、契約の内容に適合しないとき、貸す側は、売主と同じ責任を負います。前に、売買の規定が、売買以外の有償契約にも準用されると見ました。その行き先のひとつが、賃貸借です。売主の責任の中身は、契約不適合責任の回で見たとおり、直させる追完請求や、代金減額請求などでした。ただ、賃貸借には、固有の規定があります。直させる場面は、この回で見た606条や607条の2が受け持ちます。賃料を減らす場面にも、611条という固有の規定があります。そのため、売買の規定が準用される場面は、実際にはほとんどありません。
確かめる
図:確かめるその1
- 借り手が、天井の雨漏りを大家に通知した
- 翌日、大家の返事を待たずに業者を呼んで直した
- 急を要する事情は無かった
- 607条の2の要件を満たすか
事例で確かめます。1つめ。借り手が、雨漏りを大家に通知しました。その翌日、大家の返事を待たずに、業者を呼んで直しました。急ぐ事情は、ありませんでした。借り手が自分で修繕できる場面でしょうか?
図:答えその1
- 通知しただけでは足りない
- 相当の期間の経過か、急迫の事情が要る=607条の2を満たさない
通知しただけでは足りません。相当の期間が過ぎていないし、急迫の事情も無いので、要件を満たしません。相当の期間を待つのは、大家に直す機会を渡すためでした。翌日では、その機会がまだ渡っていません。
図:確かめるその2。借り手が、壁に大きな穴を開けた。大家は直す義務を負うか。
2つめ。借り手が、壁に大きな穴を開けてしまいました。大家は、直す義務を負うでしょうか?
図:答えその2
借り手の帰責事由で修繕が必要になったので、大家は修繕義務を負いません。台風で屋根が壊れた場合と違って、原因が借り手の側にあります。
図:確かめるその3
- 借り手が、自費でベランダに屋根を付けた
- いつ、誰が、どう償還するか
3つめ。借り手が、自費で、ベランダに屋根を付けました。その費用は、いつ、どのように返ってくるでしょうか?
図:答えその3
有益費なので、賃貸借の終了の時です。価値の増加が残っていれば、大家が、払った金額か増えた価値かを選んで償還します。屋根の価値が、賃貸借の終わりに残っていないなら、返す必要はありません。
図:確かめるその4。契約で、存続期間を100年と定めた。
4つめ。契約で、存続期間を、100年と定めました。この約束は、どうなるでしょうか?
図:答えその4
- 50年を超える約定=50年に縮む(604条1項)
- 無効になるのではない
契約は無効にならず、50年に縮みます。更新すれば、更新の時から、また50年まで続けられます。
図:確かめるその5。不在者の財産管理人が、建物を10年の約束で貸した。
5つめ。不在者の財産管理人が、建物を、10年の約束で貸しました。この賃貸借は、どうなるでしょうか?
図:答えその5
- 処分の権限を有しない者の建物の賃貸借=3年が上限(602条3号)
- 超える約定は3年に縮む
処分の権限を有しない者の賃貸借なので、建物は3年が上限です。10年の約束は、3年に縮みます。山林なら10年、建物なら3年と、貸す物によって上限が変わる点も、一緒に思い出してください。
4つの柱のまとめと、冒頭の問い
図:今日のまとめ
- 1=賃貸借は使わせる約束・賃料を払う約束・終わったら返す約束
- 諾成・双務・有償
- 2=存続期間の上限は50年
- 権限の限られた者が貸すときは、山林10年・土地5年・建物3年・動産6か月
- 3=貸す側は修繕義務を負う
- 借りる側の帰責事由が原因なら負わない
- 通知して相当期間が過ぎても直さない、または急迫の事情があるなら、借りる側が修繕できる
- 4=必要費は直ちに、有益費は終了の時に償還
- 請求は返還から1年以内
今日の話を整理します。1つめ、賃貸借は、使わせる約束、賃料を払う約束、終わったら返す約束で成り立ち、諾成、双務、有償です。2つめ、存続期間の上限は50年で、超える約定は50年に縮みます。処分の権限を有しない者が貸すときは、山林が10年、その他の土地が5年、建物が3年、動産が6か月までです。3つめ、貸す側は、使える状態を保つ修繕義務を負いますが、借りる側の帰責事由で必要になったときは負いません。通知して相当の期間が過ぎても直さないとき、または急迫の事情があるときは、借りる側が自分で修繕できます。4つめ、必要費は直ちに、有益費は賃貸借の終了の時に償還され、請求は返還から1年以内です。
図:冒頭の答え合わせ
- 大家に直す義務がある
- 通知して相当の期間が過ぎても直さない・または急迫の事情があるなら、借り手が自分で直せる
- 費用は必要費として直ちに請求できる
- ただし借り手の帰責事由で壊れたなら、大家は直す義務を負わない
冒頭の問いの答えです。雨漏りは、大家のAが直す義務を負います。Aが応じないなら、借り手のBは、通知して相当の期間が過ぎたあとに、または急迫の事情があれば待たずに、自分で業者を呼べます。かかった費用は、必要費として、直ちにAに請求できます。ただし、Bが窓を開けっぱなしにして大雨を吹き込ませたのなら、Bの帰責事由なので、Aは直す義務を負いません。修繕義務と、借りる側による修繕は、論文で論点になりうるところです。
参照条文
- 民法601条
- 民法604条
- 民法602条
- 民法606条1項
- 民法607条の2
- 民法608条