賃借権の譲渡・転貸と612条の解除の制限
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第5章 契約 #262/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
黙って弟に住んでもらったら
図:冒頭の設例の関係図
- 大家のAは、部屋をBに貸している
- Bは海外赴任で1年間家を空ける
- 弟のDに住んでもらうことにしたが、Aには言っていない
図:冒頭の問いの答えの方向
- 原則=解除できる(黙って又貸しし、実際にDが住んでいるから)
- 例外=Aとの信頼関係を裏切る行為と言えない特段の事情があれば、解除できない
- この設例で特段の事情があるかは、事情しだい
先に答えの方向を言います。原則として、解除できます。黙って又貸しをして、実際にDが住んでいるからです。ただし、Aとの信頼関係を裏切る行為とは言えない、特段の事情があれば、解除はできません。この設例で特段の事情があると言えるかは、事情しだいです。どんな事情が材料になるのかは、3つめの柱で見ます。前の2回は、大家の側が替わる話でした。今回は、借り手の側が替わる、または増える話です。向きが逆になります。以前、契約上の地位の移転の回で、大家の側の交代は承諾が要らず、借り手の側の交代は承諾が要る、と見ました。その理由が、今日の入口になります。
柱1 転貸と賃借権の譲渡
図:1つめの柱の入口
- 借り手が替わる、または増える形は2つ
- BがAとの契約を持ち続けたままDに貸す形と、Bが借りる権利をDに譲る形
1つめの柱です。最初に、転貸から。転貸とは、借りた物を、さらに別の人に貸すことです。いわゆる、又貸しです。冒頭の例で、BがAとの契約はそのまま持ち続けながら、Dにも部屋を貸す形です。
図:転貸の関係図
- AがBに貸す(元の賃貸借)
- BがDに又貸しする(転貸借)
- Bは借り手のまま残る
- 矢印は貸す向き
図の矢印は、貸す向きです。AがBに貸し、BがDに貸します。契約が2本あります。AとBの元の契約を原賃貸借、BとDの新しい契約を転貸借といいます。呼び名も確認します。Aは賃貸人です。Bは賃借人であり、Dに貸す側でもあるので、転貸人といいます。Dは転借人です。無償で使わせても、転貸に当たります。お金を取るかどうかは問いません。借りた物を別の人に使わせる点は、タダでも同じだからです。次に、賃借権の譲渡です。賃借権とは、借り手が大家に対して持っている、借りる権利のことです。Bがこの権利をDに譲ると、Dが借り手になり、Bは契約から抜けます。権利を譲り渡す人を譲渡人、譲り受ける人を譲受人といいます。
図:対の関係図
- 転貸=A→B→Dの3人が並び、Bは借り手のまま残る
- 譲渡=A→Dの2人になり、Bは外れる
- 言い分ける軸=Bが借り手のまま残るか、抜けるか
対にして見てください。転貸は、Bが借り手のまま残り、Dが間に加わって、3人が一列に並びます。譲渡は、Bが抜けて、AとDの2人になります。言い分ける軸は、Bが借り手のまま残るか、抜けるか、です。敷金の権利義務は、新しい借り手に引き継がれません。大家は、抜けた前の借り手に、残りを返します。引き継ぐと、Bは、Dがこれから負う家賃などまで、自分の敷金で担保させられてしまうからです。敷金の回で見た、622条の2の第1項2号です。借り手が適法に賃借権を譲り渡したときの規定で、黙って譲ったときの話とは別の場面です。
図:1つめの柱の整理板
- 転貸=借りた物をさらに別の人に貸す・Bは借り手のまま残る・有償でも無償でも転貸
- 譲渡=借りる権利をDに譲る・Bは抜ける・敷金は新しい借り手に引き継がれない
1つめの柱をまとめます。転貸は、Bが借り手のまま、Dに貸す形です。タダで使わせても転貸です。譲渡は、Bが借りる権利をDに譲り、Bが抜ける形です。分かれ目は、Bが残るか、抜けるか、です。
柱2 借地の上の建物を売る・貸す
図:2つめの柱の入口
- AはBに土地を貸し、Bはその上に建物を建てて持っている
- Bがその建物をDに売る場合と、Dに貸す場合
2つめの柱です。場面を変えます。Aは土地の持ち主で、Bに土地を貸しています。Bは、その土地の上に建物を建てて、持っています。このBが、建物をDに売った場合と、Dに貸した場合で、敷地を借りる権利がどうなるかを見ます。まず、売る場合です。建物を買ったDは、敷地を使う権利が無ければ、その建物を使い続けられません。結論から言うと、建物をDに売ると、敷地の賃借権もDに移ります。つまり、賃借権の譲渡に当たります。売ったのは建物だけです。土地を借りる権利まで、どうして一緒に移るのですか?敷地の賃借権は、建物を持つために必要な権利だからです。建物と一体のもので、建物に付いて回る権利です。こういう権利を、従たる権利といいます。物の回で、従物は主物の処分に従う、という87条2項を見ました。主物を売れば、従物も一緒に売買の対象になる、という規定です。主物と従物を別々の人に分けると、一緒に役立っていた組み合わせが崩れるからです。ただし、借地の権利は、物ではなく権利です。だから、条文そのものではなく、87条2項を類推して、建物に従う、と考えます。建物の所有権を主物の側、敷地の賃借権を従物の側とみなすわけです。類推とは、似た場面に、同じ考え方を当てはめることです。抵当権の回で、建物が競売されると、借地権、つまり建物を持つために土地を借りる権利も、付いてくると見ました。売買でも、同じ筋です。
図:売る・貸すの対の図
- 売る=敷地の借り手がBからDに替わる(敷地の賃借権の譲渡)
- 貸す=敷地の借り手はBのまま(Dは建物を使うだけ)
次に、貸す場合です。BがDに、その建物を貸します。売ってはいません。この場合は、敷地の転貸に当たりません。敷地の賃借権の譲渡にも、当たりません。土地を借りている人は、Bのままです。建物の賃貸は、土地の転貸には当たりません。Dは、建物の中にいるだけで、建物を持つわけではありません。敷地を使う権利が要るのは、建物を持つ人、つまりBだけです。Dが借りたのは建物であって、Bの敷地の賃借権は、Dにとって従たる権利でもありません。だから、87条2項を類推する場面でもありません。見分けるポイントを、1文にします。売るなら借り手がBからDに替わり、貸すなら借り手はBのままです。建物の賃貸が土地の転貸だ、と言わないように気をつけてください。
売った場合は、敷地の賃借権の譲渡になるのですね。では、いつでも自由にできるのですか?そこが次の柱の入口です。売るなら、Bが借りる権利をDに譲ることになるので、Aの承諾が無ければ、民法612条1項に引っかかります。なお、敷地を使う権利が、賃借権ではなく、物権である地上権なら、譲渡は自由です。賃借権のときだけ、承諾が問題になります。借地には、承諾の代わりに、裁判所の許可をもらう仕組みもあります。借地借家法の定めで、中身は別の回で扱います。
図:2つめの柱の整理板
- 売る=敷地の賃借権もDに移る(従たる権利・87条2項の類推)・Aの承諾が無ければ譲渡の問題
- 貸す=敷地の借り手はBのまま・敷地の転貸に当たらない
2つめの柱をまとめます。借地の上の建物を売ると、敷地の賃借権の譲渡も伴います。建物と敷地を借りる権利は、一体だからです。貸すだけなら、敷地の借り手はBのままで、敷地の転貸に当たりません。
柱3 612条 承諾が要る、無断なら解除、ただし特段の事情
図:3つめの柱の入口
- 借り手が譲渡や転貸をするには、大家の承諾が要る
- 黙ってやったらどうなるか
3つめの柱が、今日の中心です。条文は、民法612条です。まず、1項から。
条文民法612条1項
民法第612条第1項 賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。
読み方です。借り手は、大家の承諾を得なければ、賃借権を譲り渡すことも、借りた物を転貸することもできません。柱1で見た2つの形が、どちらも並んでいます。続けて、2項です。
条文民法612条2項
民法第612条第2項 賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。
読み方です。借り手が、1項の規定に違反して、第三者に、借りた物を使用または収益させたときは、大家は契約を解除できます。収益とは、その物から利益を得ることです。要件は2つです。1つめ、1項に違反していること。つまり、承諾が無いのに、譲渡や転貸をしたことです。2つめ、第三者に、実際に使わせたことです。以上の2つは、条文を読めば出てくる要件です。立ち止まって考えてみましょう。Bが、友人のDに、黙って部屋を貸す契約を結びました。でも、Dはまだ入居していません。Aは、2項で解除できるでしょうか?
図:612条2項の要件の板
- 要件=(a)承諾が無い譲渡・転貸(b)第三者に実際に使わせた
- 契約を結んだだけで、まだ使わせていない場合は、2項の解除はまだできない
まだできません。契約を結んだだけで、第三者に使わせていないからです。契約を結んだだけでは足りません。実際に使わせて初めて、解除の道が開きます。無断の譲渡や転貸で解除まで認められるのは、賃貸借が、貸し借りの関係が長く続く契約だからです。貸す側は、この人なら大切に使うし、家賃もきちんと払う、と見て貸しています。前に、借り手側の交代に承諾が要る理由を、誰が借りるかで、家賃の払われ方も物の扱いも変わるから、と見ました。黙って借り手を替えたり増やしたりするのは、その見込みを裏切る行為です。最高裁も、同じ考え方をとっています。賃貸借は、貸す人と借りる人の個人的な信頼を基礎とする継続的な関係なので、承諾なく使わせたときは、関係を続けるに堪えない背信的な行為があったものとして、大家が一方的に終わらせられる、と述べています。注意してほしいのは、背信という言葉も、信頼という言葉も、612条の文言ではないことです。背信は、判例の言葉です。ここで、以前の回の話を思い出してください。家賃を滞納されて、催告までしたのに、大家が解除できないことがある、と見ました。それは、どんな場合でしたか?
滞納が、信頼関係を破壊するに足りないときでした。賃貸借は、信頼関係を基礎とする継続的な契約です。だから、信頼を壊すほどの不履行でなければ、解除は認められませんでした。実は、今日の612条にも、似た壁があります。
図:612条2項の原則と例外の板
- 原則=要件(無断+実際に使わせた)を満たせば、解除できる
- 例外=背信的行為と認めるに足りない特段の事情があれば、解除できない
- 特段の事情を示すのは借り手の側(最判昭41・1・27)
結論から言います。原則は、2項の要件を満たせば、解除できる、です。例外として、大家に対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情があれば、解除できません。この例外は、条文には書いてありません。判例が立てた基準です。解除を認める理由が、見込みを裏切ったことにあるなら、実態が従来と変わらず、見込みが崩れていない場合にまで、解除させる理由はないからです。最高裁の判決を読みます。
判例最判昭28・9・25 民集7巻9号979頁
無断使用と解除の制限 賃借人が賃貸人の承諾なく第三者をして賃借物の使用収益を為さしめた場合においても、賃借人の当該行為が賃貸人に対する背信的行為と認めるに足らない特段の事情がある場合においては、同条の解除権は発生しないものと解するを相当とする。
読み方です。同条とは、民法612条のことです。借り手が、大家の承諾なく、第三者に借りた物を使わせた場合でも、借り手のその行為が、大家に対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情があるときは、解除権は生じない、と言っています。事案は、借地人が、すでに借地権を譲り受けていた第三者に、同じ借地の範囲内なら別の場所に建物を建ててもよいだろうと考えて、建築を認めた、というものです。地主は、これを理由に612条2項で解除しましたが、最高裁は、解除を認めませんでした。どんな事情が特段の事情に当たるかは、このあと別の判決で、材料を整理します。
原則と例外の向きを、確認させてください。背信的行為と認められたら解除できる、ではないのですか?逆です。2項の要件に、背信は入っていません。背信を要件にすると、大家の側が背信性を示さなければ、解除できないことになってしまいます。向きは、要件を満たせば解除できるのが原則で、特段の事情があれば解除できないのが例外です。そして、特段の事情を示すのは、借り手の側です。最高裁は、のちの判決で、特段の事情の存在は、借り手が主張し、立証すべきだ、と明言しています。では、特段の事情が認められたのは、どんな場合でしょうか。典型的な判決を見ます。事案を、AとBとDで言い直します。Aは土地の持ち主です。Bは、Aから土地を借りて、その上の建物で、鮨屋を営んでいた男性です。Dは、Bと事実上の夫婦として同棲し、協力してその店を営んでいた女性です。Bが亡くなったあと、Dは、Bの相続人から、建物と一緒に借地権の譲渡を受けて、同じ店を続けました。Aは、DがBと事実上の夫婦として同棲していたことを、知っていました。Aの承諾は、得られませんでした。
図:昭39の事案の関係図
- A=地主・B=借り手(男性・鮨屋)・D=事実上の夫婦として同棲し店を協力して営んでいた女性
- Bの死亡後、相続人から借地権の譲渡を受けて同じ店を続けた
- Aは同棲の事実を知っていた
- 承諾は無い
判例最判昭39・6・30 民集18巻5号991頁
背信性が否定された事案 右認定事実のもとでは、本件借地権譲渡は、これについて賃貸人である上告人の承諾が得られなかったにせよ、従来の判例にいわゆる「賃貸人に対する背信行為と認めるに足らない特段の事情がある場合」に当るものと解すべく、従って上告人は民法六一二条二項による賃貸借の解除をすることができないものであり、……このような場合は、上告人は、借地権譲受人である被上告人に対し、その譲受について承諾のないことを主張することが許されず、その結果として被上告人は、上告人の承諾があったと同様に、借地権の譲受をもって上告人に対抗できるものと解するのが相当であるからである。
読み方です。上告人とは、ここでは大家、被上告人とは、借地権の譲受人のことです。前半は、承諾が得られなかったとしても、これは特段の事情がある場合に当たるので、大家は612条2項で解除できない、と言っています。点々の後ろの後半は、4つめの柱で読みます。この判決が挙げている事情を整理します。材料は2つです。1つめ、使う人が替わっても、使い方や生活の実態が、従来とほぼ変わらないこと。Dは、Bと一緒に営んでいた同じ鮨屋を、続けました。事実上、それまでの借地関係の続きでした。2つめ、大家が、その人が使っていた事情を知っていたことです。Aは、DがBと同棲していたことを、知っていました。信頼関係を破壊するとは言えない、という評価につながります。
図:特段の事情の材料の板
- 判決の事案=使い方・生活の実態が従来と変わらない(従来の関係の続き)+大家がその人の事情を知っていた→特段の事情あり
- 実態が大きく変わる場合は、材料として弱い
一緒に暮らしていたというだけで、特段の事情があると決まるわけではありません。見るのは、実態が従来と変わらないか、大家がその事情を知っていたか、です。たとえば、同じ店を続けるのではなく、まったく別の商売を始める人に渡したなら、実態が変わるので、材料としては弱くなる、と考えられます。逆に、大家がずっと承知していた同居の事情なら、材料として強くなります。冒頭の設例に戻ります。海外赴任の間だけ、弟が住みます。Aが弟の存在を知っていたか、住み方が従来と変わるのか、期間は1年か、といった事情しだいです。Bのほうが、そうした事情を示して、特段の事情があると言えるかが勝負になります。
図:2つの解除の制限の対の板
- 同じ根っこ=賃貸借は信頼関係を基礎とする継続的な契約
- 債務不履行解除の制限=債務不履行があっても信頼関係を破壊するに足りないときは解除できない
- 612条2項の解除の制限=要件を満たしても背信的行為と認めるに足りない特段の事情があれば解除できない(示すのは借り手)
滞納の回の話と並べます。どちらも、賃貸借は信頼関係を基礎とする継続的な契約、という同じ根っこから出ています。ただ、定式は別です。滞納のほうは、債務不履行があっても、信頼関係を破壊するに足りないなら、解除できません。今日のほうは、無断で使わせても、背信的行為と認めるに足りない特段の事情があるなら、解除できません。同じ根っこから出た、定式の違う2つの解除の制限、と覚えてください。3つめの柱をまとめます。借り手は、承諾なく譲渡も転貸もできません。無断で、実際に使わせたら、大家は解除できるのが原則です。例外として、背信的行為と認めるに足りない特段の事情があれば、解除できません。その事情を示すのは、借り手です。
柱4 解除しなくても明渡しを求められる
図:4つめの柱の入口
4つめの柱です。ここまでは、大家が借り手との契約を解除できるか、という話でした。では、解除しなかったらどうでしょうか。大家は、無断で使っているDに、出て行ってほしい、と言えるでしょうか。
判例最判昭26・4・27 民集5巻5号325頁
解除しなくても明渡しを求められる 土地所有者である賃貸人がその承諾のない転貸借によつてこれを占有する転借人に対して直接土地の返還を請求するについては、賃貸借契約を解除しまたは賃借人の承諾を得るを要しない。
読み方です。土地の所有者である賃貸人が、承諾のない転貸借によって土地を占有している転借人に、直接、土地の返還を請求するときは、賃貸借を解除する必要も、賃借人の承諾を得る必要も、ありません。このカードが直接扱ったのは、無断の転借人です。この判決は、借りる権利を譲り受けたという主張も、承諾が無いのでAに言えない、として退けています。無断で譲り受けた人にも、同じ筋で明渡しを求められます。
図:4つめの柱の図
- Aは部屋の持ち主
- 無断で使っているDに、所有権に基づいて直接返還を請求できる
- 解除するかどうかと、Dに出て行ってもらうかは、別々に選べる
筋は、所有権です。Aは、その物の持ち主です。物権的請求権の回で、自分の物が他人のところにあるときの、返還を求める権利を見ました。無断で使っているDの使う権利は、Bから得たもので、Aとの間には、使ってよいという約束がありません。だから、Dは、その権利をAに主張できません。Aから見れば、権利なく自分の物を使っている人です。だから、Aは持ち主として、直接返還を求められます。ここで大事なのは、解除と明渡しが、別の問題だということです。Aは、解除するかどうかと、Dに出て行ってもらうかどうかを、別々に選べます。解除しなければならない、わけではありません。
先ほどの鮨屋の判決では、Dは出て行かなくてよかったのですよね。矛盾しませんか?矛盾しません。さきほどの判決の後半を、思い出してください。特段の事情があって、大家が解除できないときは、譲受人は、承諾が無いことを主張されません。承諾があったのと同じように、借地権を譲り受けたことを大家に対抗できます。つまり、自分が借り手だと、大家本人に言えます。判決が述べているのは、承諾が無いことを主張できない、という結論までです。そう考える筋は、解除はできないのに、承諾が無いことを理由に追い出せるとしたら、解除を制限した意味がなくなる、ということです。前の2回の、新しい持ち主に言うための対抗要件の話とは、別の場面です。ですから、原則は、持ち主として明渡しを求められる。でも、特段の事情があるなら、譲受人は対抗できる、という向きになります。なお、この後半の判決は、借地権の譲受人の事案です。特段の事情があるときに、転借人も同じように大家に言えるかまでは、この判決は述べていません。ここでは、譲受人についてだけ押さえてください。
図:4つめの柱の整理板
- 原則=無断の転借人には、解除しなくても所有権に基づいて直接明渡しを求められる
- 例外=特段の事情があって解除できない場合、賃借権の譲受人は、承諾が無いことを主張されず、大家に対抗できる
4つめの柱をまとめます。大家は、解除しなくても、持ち主として、無断で使っている人に明渡しを求められます。解除と明渡しは、別々に選べます。ただし、特段の事情があって解除できないときは、賃借権の譲受人は、大家に対抗できます。
確かめる
図:確かめるその1
- Bが友人のDに、黙って部屋を貸す契約を結んだ
- Dはまだ入居していない
- Aは612条2項で解除できるか
事例で確かめます。1つめ。Bが、友人のDに、黙って部屋を貸す契約を結びました。Dはまだ入居していません。Aは、612条2項で解除できるでしょうか?
図:答えその1
- 2項の要件=無断+第三者に実際に使わせた
- 契約だけでは、まだ解除できない
- 入居して使い始めたら、解除の道が開く
まだできません。第三者に、実際に使わせていないからです。Dが使い始めて初めて、解除の道が開きます。
図:確かめるその2
- 借地の上の建物を、BがDに売った
- Aは承諾していない
- 敷地の賃借権について、何の問題になるか
2つめ。借地の上の建物を、BがDに売りました。Aは承諾していません。敷地の賃借権について、何の問題になるでしょうか?
図:答えその2
- 建物を売る=敷地の賃借権の譲渡も伴う(従たる権利・87条2項の類推)
- Aの承諾が無いので、612条1項の無断譲渡の問題
敷地の賃借権も建物と一緒にDに移るので、承諾の無い譲渡に当たります。売るなら、借り手がBからDに替わる、と覚えてください。
図:確かめるその3
- 借地の上の建物を、BがDに貸した
- 敷地の転貸に当たるか
- 612条の問題になるか
3つめ。借地の上の建物を、BがDに貸しました。敷地の転貸に当たるでしょうか? 敷地について、612条の問題になるでしょうか?
図:答えその3
- 建物を貸す=敷地の転貸に当たらない
- Dは建物を使うだけ
- 敷地の借り手はBのまま
- 敷地について612条の問題にならない
敷地の転貸には当たりません。敷地の借り手はBのままなので、敷地について612条の問題にはなりません。貸すだけなら、土地を使う権利が要るのは、建物を持つBだけです。
図:確かめるその4
- 無断で転貸し、実際に使わせた
- ただし、特段の事情に当たりうる事情がある
- Aは解除できるか
- その事情を示すのは誰か
4つめ。Bは、Aに無断で転貸して、Dに実際に使わせました。ただし、実態は従来とほぼ変わらず、Aもその事情を知っていた、など、特段の事情に当たりうる事情があります。Aは解除できるでしょうか? その事情を示すのは、誰でしょうか?
図:答えその4
- この設例=使い方の実態は従来とほぼ変わらず、Aも事情を知っていた
- 結論=特段の事情が認められれば、Aは解除できない
- 示すのは借り手B
特段の事情が認められれば、解除できません。その事情を示すのは、借り手のBです。向きは、解除できるのが原則、できないのが例外です。
図:確かめるその5。Aは解除せずに、無断で使っているDに、出て行ってと言えるか。
5つめ。Aは、解除せずに、無断で使っているDに、出て行ってほしい、と言えるでしょうか?
図:答えその5
- 解除しなくても、持ち主として、無断の転借人に直接明渡しを求められる
- 解除と明渡しは別々に選べる
言えます。Aは持ち主なので、所有権に基づいて、直接返還を求められます。解除するかどうかと、出て行ってもらうかどうかは、別々に選べます。
4つの柱のまとめと、冒頭の問い
図:今日のまとめ
- 1=転貸はBが残る・譲渡はBが抜ける
- 2=借地の上の建物を売る=敷地の賃借権も移る・貸す=敷地の借り手はBのまま
- 3=612条は、1項で承諾が要り、2項で無断+使用収益なら解除できる
- 例外=特段の事情(示すのは借り手)
- 4=解除しなくても所有権で明渡しを求められる
今日の話を整理します。1つめ、転貸は、Bが借り手のまま、Dに貸す形です。譲渡は、Bが借りる権利をDに譲って、抜ける形です。2つめ、借地の上の建物を売ると、敷地の賃借権の譲渡も伴います。貸すだけなら、敷地の借り手はBのままで、敷地の転貸には当たりません。3つめ、612条は、承諾が無ければ譲渡も転貸もできない、と定めます。無断で、実際に第三者に使わせたら、大家は解除できるのが原則です。例外として、背信的行為と認めるに足りない特段の事情があれば、解除できません。その事情を示すのは、借り手です。4つめ、解除しなくても、大家は持ち主として、無断で使っている人に明渡しを求められます。
図:冒頭の答え合わせ
- 原則=解除できる(黙って又貸しし、実際にDが住んでいるから)
- 例外=特段の事情があれば、解除できない
- この設例では事情しだい
- 解除しなくても、持ち主として明渡しは求められる
冒頭の問いの答えです。弟に黙って住んでもらったBに対して、Aは、原則として契約を解除できます。実際に弟が住んでいるからです。ただし、実態が従来と変わらず、Aもその事情を知っていた、といった特段の事情があれば、解除できません。この設例で認められるかは、事情しだいです。解除しなくても、Aは持ち主として、弟に出て行ってもらうことも考えられます。612条2項の解除の制限は、論文で論点になりうるところです。
参照条文
- 民法612条1項
- 民法612条2項