適法な転貸の効果と転貸借の帰すう
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第5章 契約 #263/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
家賃を払っていた入居者の立場
図:冒頭の設例の関係図
- オーナーのAは、マンションを丸ごとサブリース会社のBに貸している
- BはAから借りた部屋の一つを、入居者のDに又貸ししている
- 矢印は貸す向き
- BはAへの賃料を払わず、Dは家賃を払っている
図:冒頭の問いの答えの方向
- 原則=Bの債務不履行による解除で元の契約が終わったときは、AはDに終了を言える
- ただし結論は、元の契約の終わり方で変わる
- 合意解除なら原則言えない
- 期間満了でも例外がある
先に答えの方向を言います。原則として、Dは出て行くことになります。Dが家賃を払っていても、元の契約がBの債務不履行による解除で終わったときは、AはDに、その終了を言えます。ただし、結論は、元の契約の終わり方で変わります。AとBが2人で話し合って終わらせたのなら、原則としてDには言えません。期間満了で終わった場合にも、例外があります。今日は、終わり方ごとに整理して、最後に一覧表にまとめます。用語は前回のとおりです。AとBの元の契約が原賃貸借、BとDの契約が転貸借です。Bは賃借人であり転貸人、Dは転借人です。サブリースとは、会社が建物を丸ごと借りて、各部屋を入居者に又貸しする形のことです。
今日の4つの柱
図:今日の地図
- 転貸借は、原賃貸借という足場の上に乗っている
- 1=転借人が大家に直接負う義務
- 2=足場が消えるとき、期間満了
- 3=足場が消えるとき、債務不履行解除
- 4=足場が消えるとき、合意解除、そして一覧表
柱は4つです。1つめ、転借人が大家に直接負う義務。適法な転貸のときだけ、DとAの間に、民法613条がDの義務をつくります。2つめから4つめは、元の賃貸借が終わるときの話で、終わり方ごとに見ます。2つめが期間満了、3つめが債務不履行解除、4つめが合意解除です。4つめの最後に、一覧表を作ります。軸は1本です。転貸借は、原賃貸借の上に乗っています。足場が消えれば、乗っているDの立場も危うくなります。ただし、足場が消えた理由によって、AがDに「終わった」と言える、つまり対抗できるかが変わります。対抗できるとは、相手に向かって主張して、それが通るということです。今日も、Aは大家、Bは借り手、Dは又借りしている人です。判決の事案には、又貸しのさらに先の入居者が出てきます。その人だけEと呼びます。
柱1 転借人が大家に直接負う義務
図:1つめの柱の入口
- 契約は2本
- AとBの原賃貸借、BとDの転貸借
- AとDの間に契約は無い
- それでも適法な転貸のときだけ、Dに、Aへの義務が生じる
1つめの柱です。契約は2本あります。AとBの原賃貸借と、BとDの転貸借です。AとDの間には、契約がありません。それでも、転貸が適法なときだけは、民法613条が、DとAの間にDの義務を直接つくります。適法な転貸とは、まず、Aの承諾があった場合です。承諾に代わる裁判所の許可を得た場合もあります。この許可は借地借家法の仕組みで、中身は別の回で扱います。無断の転借人には、この条文は働きません。前回の話です。条文を読みます。1項です。
条文民法613条1項
民法第613条第1項 賃借人が適法に賃借物を転貸したときは、転借人は、賃貸人と賃借人との間の賃貸借に基づく賃借人の債務の範囲を限度として、賃貸人に対して転貸借に基づく債務を直接履行する義務を負う。この場合においては、賃料の前払をもって賃貸人に対抗することができない。
前段から読みます。賃借人Bが適法に転貸したときは、転借人Dは、AとBの賃貸借に基づくBの債務の範囲を限度として、Aに対して、転貸借に基づく債務を直接履行する義務を負います。たとえば、BD間の賃料を、Dは、Bを通さずにAへ直接払う義務を負う、ということです。
図:613条の直接義務の図
- A・B・Dの三角形(Aが上、Bが左下、Dが右下)
- DからAへの直接の線に、転貸借に基づく債務(たとえば賃料)を払う義務と書く
- 上限の例=AB間の賃料が月12万円、BD間の賃料が月18万円
上限に注意してください。上限は2つあります。1つめは、条文にある上限で、AとBの賃貸借に基づく、Bの債務の範囲です。2つめは、条文の文字ではなく、考え方から出てくる上限で、Dが転貸借で負っている債務の範囲です。Dが自分の契約で負っていない分まで、払う義務はありません。だから、2つのうち小さいほうまで、と整理できます。数字で見ます。AB間の賃料が月12万円で、BD間の賃料が月18万円なら、DがAに負うのは、12万円までです。立ち止まって考えてみましょう。AB間の賃料が月12万円で、BD間の賃料が月9万円です。AはDに、いくらまで直接払うよう求められるでしょうか?
9万円までです。Dが転貸借で負っているのが、9万円だけだからです。そして、DがAに払えば、その分、Dは、Bへの転貸借の賃料を払わなくてよくなります。二重に払うことにはなりません。義務を負うのはDだけですか? Dのほうから、Aに、何かを求められることはないのでしょうか?ありません。613条1項が定めるのは、Dの義務だけで、Dの権利ではありません。たとえば、屋根が雨漏りするとき、DがAに直接「直してください」と求めることはできません。修繕を求める相手は、転貸借の相手のBです。Aに義務を負わされる、でもAには権利を持てない、という片方向の規定です。
図:前払の時間軸
- BD間の賃料は毎月末日払い
- 11月1日にDがBへ11月分を前払したとき=Aに対抗できない
- 11月末の支払日が過ぎたあとにBへ払った分=Aに対抗できる
次に、1項の後段です。賃料の前払をもって賃貸人に対抗することができない、とあります。前払とは、弁済期より前に払うこと、と理解します。設例です。BD間の賃料は、毎月末日が支払日です。Dは、11月分を、11月1日に、前払でBへ払っていました。ここでAが、11月分を直接払うよう、Dに求めました。Dは、11月1日にBへ払い済みだと言って、断れません。一方、11月末の支払日が過ぎたあとに、Bへ払った分は、前払ではありません。Aに対して、払い済みだと言えます。二重払いは気の毒です。ただ、前払を認めると、BとDが示し合わせて、早めに払ったことにするだけで、Aの直接の請求が空振りになってしまいます。条文は、Aの請求権を、BとDの間の前払で、からっぽにさせないために、ここを割り切っています。続けて、2項です。
条文民法613条2項
民法第613条第2項 前項の規定は、賃貸人が賃借人に対してその権利を行使することを妨げない。
読み方です。1項があるからといって、AがBに権利を行使できなくなるわけではありません。AはBにも、Dにも、請求できます。ただし、どちらかが払えば、その分、もう一方の義務も減ります。二重に取ることはできません。一言だけ付け加えます。大家は転借人から、直接、賃料を取れます。これは、賃貸人の特別な地位です。抵当権者が転貸賃料を取れるかは、別の話です。それは、物上代位の回で見たとおり、原則として取れません。大家と抵当権者を、混ぜないようにしてください。1つめの柱をまとめます。適法な転貸なら、DはAに直接払う義務を負います。上限は、Bの債務の範囲と、転貸借の債務のうち、小さいほうです。義務だけで、権利はありません。前払は、Aに対抗できません。AはBにも請求できます。
柱2 元の賃貸借が終わるとき 期間満了
図:2つめの柱の入口
- 転貸借は、原賃貸借の上に乗る
- AB間の賃貸借が期間満了で終わったとき、Dはどうなるか
2つめの柱です。ここからは、元の賃貸借が終わったとき、Dがどうなるかを見ます。まず、前提を1つ置きます。転貸借は、AB間の賃貸借とは別個の契約です。たとえば、Dが亡くなって、AがDの相続人になり、大家と転借人が同一人物になっても、転貸借は、当事者の間で消す合意が無い限り、消えません。それでも、転貸借は、原賃貸借の上に乗っています。以前、賃貸人の地位の留保の回で、元の賃貸借が終わったとき、留保されていた役目が新しい持ち主へ移り、借り手が守られると見ました。ただ、普通の又貸しには、そういう条文はありません。だから、元の賃貸借の終わり方ごとに、AがDに「終わった」と言えるかを見ていきます。今日の終わり方は3つです。期間満了、債務不履行解除、合意解除です。最初は、期間満了です。原則は、AB間の賃貸借が期間満了で終わると、AはDに、その終了を対抗できます。Dは、Aに対して、転借権を主張できなくなります。転借権とは、転借人の使う権利のことです。
筋はこうです。Dの権利は、Bの賃借権の上に乗っています。Bは、自分がAから借りている以上の権利を、Dに渡すことはできません。Dが、Aに向かって使っていいと言える根拠は、Bの賃借権しかないのです。その賃借権が、期間の満了で無くなれば、Dは、その根拠を失います。Dに落ち度があるかどうかは、関係ありません。この結論は、Bの不履行で終わるときだけの話ではありません。Bが更新しないと決めただけでも、Aは、Dに終了を言えます。
図:期間満了の原則の板
- AB間の賃貸借が期間満了で終了→AはDに終了を対抗できる
- DはAに転借権を主張できない
- ただし例外あり
ただし、例外があります。事案から説明します。Aは、ビルの所有者です。Bは、ビルの賃貸や管理を仕事にしている会社です。AはBに、事業用のビル1棟を一括して貸しました。期間は20年でした。AはBが、ビルの各室を第三者に転貸することを、あらかじめ承諾していました。BはDに転貸しました。DはAとBの承諾を得て、さらにEに、又貸しをしました。これが再転貸です。Eは、その部屋で、寿司の販売店を営んでいました。ところがBは、転貸方式では採算に合わないとして、更新しない、とAに通知しました。AはDとEに、期間満了で賃貸借が終わると通知し、Eに対して、所有権に基づいて明渡しなどを求めました。原審は、AはEに終了を対抗できる、と判断しました。最高裁は、AはEに対抗できない、としました。
図:期間満了と信義則の関係図
- A=ビルの所有者→B=ビルを一括して借りた会社→D=転借人→E=再転借人の一列
- AはDとEの転貸を承諾し、締結に加功した(下の帯に書く)
- Bが更新しないと通知して期間満了
- Eは使い続けられる
この判決が扱ったのは、又貸しのさらに先の入居者、Eです。判旨を読みます。カードの中の、被上告人はA、訴外会社はB、Gは再転借人のEです。本件賃貸借は、AとBの原賃貸借のことです。カードの中の加功は、関与した、という意味です。
判例最判平14・3・28 民集56巻3号662頁
期間満了と信義則 このような事実関係の下においては、本件再転貸借は、本件賃貸借の存在を前提とするものであるが、本件賃貸借に際し予定され、前記のような趣旨、目的を達成するために行われたものであって、被上告人は、本件再転貸借を承諾したにとどまらず、本件再転貸借の締結に加功し、Gによる本件転貸部分二の占有の原因を作出したものというべきであるから、訴外会社が更新拒絶の通知をして本件賃貸借が期間満了により終了しても、被上告人は、信義則上、本件賃貸借の終了をもってGに対抗することはできず、Gは、本件再転貸借に基づく本件転貸部分二の使用収益を継続することができると解すべきである。
読み方です。AとBの賃貸借が期間満了で終わっても、Aは、信義則上、その終了をEに対抗できず、Eは、使用収益を続けられる、と言っています。信義則とは、お互いに誠実に行動すべきだ、という民法の大原則です。更新しないと決めたのは、借り手のBです。Aの意思は関わっていません。それでも結論は変わらない、と判決は述べています。例外が働いた要素を、3つに分けます。1つめ、元の賃貸借が、最初から転貸を予定して結ばれていたことです。Aが自分で使う予定は無く、Bに転貸で収益を上げさせて、安定した賃料を得る仕組みでした。2つめ、Aが、転貸や再転貸を、承諾したにとどまらず、締結に加功したことです。3つめ、Eの占有の原因を、作り出したことです。なぜ、ここまでそろうと言えなくなるのか。Aは、転貸で賃料を得る仕組みを自分で作り、Eがそこで使うことまで呼び込みました。Bが降りたことを理由に、自分で呼び込んだEを追い出すのは、自分のしたことと食い違う振る舞いだからです。
Aが転貸を承諾しただけでは、足りません。判旨は、承諾したにとどまらず、と言っています。承諾した、というだけの事情では、期間満了の原則が働いて、AはDに終了を言えます。そして、サブリースの形なら、いつも対抗できない、という判決でもありません。判決は、この事実関係のもとで、と限定しています。なお、建物の賃貸借には、期間満了のときの転借人の保護について、借地借家法に特別な定めがあります。今日見たのは、民法の一般論です。2つめの柱をまとめます。期間満了なら、原則として、AはDに終了を対抗できます。例外として、賃貸借が最初から転貸を予定し、Aが承諾にとどまらず、転貸借の締結に加功して、占有の原因を作ったようなときは、信義則上、対抗できません。
柱3 元の賃貸借が終わるとき 債務不履行解除
図:3つめの柱の入口
- Bの賃料不払→Aが催告して解除
- AはDに終了を言えるか
- Dへの通知は要るか
- 転貸借はいつ終わるか
3つめの柱です。冒頭の設例の場面です。ここは、今日の芯になります。立ち止まって思い出してください。前に、家賃を滞納されて、催告までしたのに、大家が解除できないことがある、と見ました。それは、どんな場合でしたか?滞納が、信頼関係を破壊するに足りないときでした。今日は、その先の話です。解除が有効に成立した場合に、転借人がどうなるかを見ます。原則は、債務不履行解除なら、AはDに、その終了を対抗できます。Bが賃料を払わず、Aが催告して解除すると、賃貸借は終わります。Dは、Aに転借権を主張できなくなります。古くから、判例が認めている結論です。期間満了より、結論はいっそう素直です。Dの足場がなくなったのは、Bの不履行のせいで、Aのせいではないからです。ここから、2つの論点が出ます。1つめは、Aが解除するとき、Dにも通知をして、賃料を代わりに払う機会を与えなければならないか、です。
転借人にも知らせて、代わりに払う機会を与えるべきだ、という考え方も、有力な見解としてあります。ただ、判例は、不要としました。なお、第三者弁済の回で見たとおり、Dは、第三者として弁済できます。474条1項の、債務の弁済は、第三者もすることができる、という規定です。Dが自分で動いて払う道は、一般のルールとして閉ざされていません。事案を言います。土地の賃貸借に、適法な転貸借がありました。賃借人が賃料を払わず、賃貸人が賃貸借を解除し、転借人に、建物の収去と土地の明渡しを求めました。最高裁は、解除は有効で、請求を認めました。裁判官1名の反対意見が付いています。反対意見は、賃貸人は転借人にも通知等をして、代払の機会を与える信義則上の義務がある、という立場です。
判例最判平6・7・18 集民172号1007頁
解除と転借人への通知 土地の賃貸借契約において、適法な転貸借関係が存在する場合に、賃貸人が賃料の不払を理由に契約を解除するには、特段の事情のない限り、転借人に通知等をして賃料の代払の機会を与えなければならないものではない。
読み方です。土地の賃貸借で、適法な転貸借があるとき、賃貸人が賃料の不払を理由に解除するには、特段の事情のない限り、転借人に通知等をして、賃料の代払の機会を与えなければならないものではない、と言っています。
図:平6の判旨の整理板
- 前提=賃料不払を理由とする解除・適法な転貸借
- 結論=特段の事情のない限り、転借人に通知等をして代払の機会を与える必要は無い
- 特段の事情が何かは、判決は示していない
落とせないのは、特段の事情のない限り、という部分です。特段の事情が何かは、判決は示していません。答案では、判決の形のまま、特段の事情のない限り、通知して代払の機会を与える必要は無い、と書きます。前提は、賃料不払を理由とする解除です。判決自身は、理由を述べていません。ここからは、考え方の整理です。なぜ通知が要らないのか、筋を3つ挙げます。1つめ、Aは、賃料を払ってもらえなかった側で、541条の要件を満たせば、解除できる立場です。そこに、条文に無い、Dへの通知という手順を足すと、落ち度のないAの解除を、それだけ難しくしてしまいます。2つめ、Aは、Dに対して何の義務も負っていません。613条1項は、Dの義務だけを、定めています。Aに、Dへ知らせる義務を負わせる根拠が、条文の側に無いのです。3つめ、Dの地位は、もともとBの賃貸借の運命に左右される足場の上にあります。又借りは、Bが借りている物を借りる契約ですから、Bの契約が終われば使えなくなる危険は、又借りという形そのものに含まれています。2つめの論点です。AがBとの賃貸借を解除しました。それだけで、BとDの転貸借も終わるのでしょうか。いつ終わるのでしょうか。
原賃貸借を解除したら、転貸借もその場で終わるのか。そこが論点です。転貸借は、別個の契約です。解除しただけでは終わりません。BがDに負っているのは、Dに使わせる債務です。解除のあとも、Dがそのまま使えていて、BがAと契約を結び直せば、Dの足場は戻ります。まだ、Bの債務が果たせなくなった、とは言えないのです。判例の事案から見ます。建物の所有者の会社Aが、Bに建物を貸し、BはAの承諾を得て、その建物をDらに転貸していました。Dらは、そこでスイミングスクールを営業していました。Bが賃料を払わず、Aは催告のうえ解除し、その後、Dらに明渡しを求める訴えを起こしました。Dらは、その後、Bに転借料を払わなくなりました。そこで、Bが、Dらに転借料を請求しました。原審は、転貸借は終わっていないとして、Bの請求を認めました。最高裁は、転貸借は、Aが明渡しを求める訴えを起こした時に、既に終わっていたとして、Bの請求を退けました。
図:債務不履行解除の時間軸
- Bの賃料不払→Aが解除→Aが「Dに」返還を請求→その時に、Bの債務が履行不能となって、転貸借が終わる
- Dへの通知は、特段の事情が無い限り不要
判例最判平9・2・25 民集51巻2号398頁
転貸借の終了時期 賃貸人の承諾のある転貸借においては、転借人が目的物の使用収益につき賃貸人に対抗し得る権原(転借権)を有することが重要であり、転貸人が、自らの債務不履行により賃貸借契約を解除され、転借人が転借権を賃貸人に対抗し得ない事態を招くことは、転借人に対して目的物を使用収益させる債務の履行を怠るものにほかならない。 …… したがって、賃貸借契約が転貸人の債務不履行を理由とする解除により終了した場合、賃貸人の承諾のある転貸借は、原則として、賃貸人が転借人に対して目的物の返還を請求した時に、転貸人の転借人に対する債務の履行不能により終了すると解するのが相当である。
読み方です。1つめの文は、転貸人が、自分の債務不履行で解除されて、転借人が転借権を大家に対抗できなくなるのは、使わせる債務の履行を怠ることにほかならない、と言っています。点々の後の文が結論です。賃貸借が転貸人の債務不履行を理由とする解除で終わった場合、承諾のある転貸借は、原則として、賃貸人が転借人に目的物の返還を請求した時に、転貸人の転借人に対する債務の履行不能により終了する、と言っています。履行不能とは、債務が、社会通念に照らして、できなくなることです。物が壊れていなくても、不能になります。前に、二重譲渡で登記が完了した時に、売り主の債務が不能になると見たのと、同じ筋です。判決は、間の理由で、Aが転借人に直接返還を請求するに至った以上、Bが再びAと賃貸借を結ぶなどして、Dが転借権をAに対抗できる状態を回復することは、もはや期待できない、と述べています。整理します。解除しただけでは、転貸借は終わりません。Aが、Dに目的物の返還を請求した時に、Bの債務が履行不能になって、転貸借が終わります。事案では、Aが明渡しを求める訴えを起こした時でした。そのあとの転借料は、Bに払わなくてよい、という結論です。
冒頭のDは、Aから返還を請求されれば出て行きます。その時に、BD間の転貸借は終わります。Dは、Bに対しては、使わせてもらう債務を履行されなかった、と言える立場です。Bの債務不履行ですから、Bに、責任を免れる事情がない限り、Dは、Bに、損害の賠償を求めることができます。415条の一般のルールです。解除と違って、賠償では、この事情があるかどうかが効いてきます。3つめの柱をまとめます。債務不履行解除なら、AはDに終了を対抗できます。転借人への通知や代払の機会は、賃料不払の解除では、特段の事情のない限り、不要です。転貸借は、Aが転借人に返還を請求した時に、Bの債務の履行不能で終わります。
柱4 元の賃貸借が終わるとき 合意解除
図:4つめの柱の入口
- AとBが2人で話し合って、賃貸借を終わらせた
- Dは話し合いに入っていない
- AはDに終了を言えるか
4つめの柱です。AとBが、2人で話し合って、賃貸借を終わらせた場面です。その前に確認です。前に、合意解除と約定解除は、どう見分けましたか?合意解除は、契約を終わらせること自体を合意する、新しい契約でした。約定解除は、契約で決めておいた解除権を使うことでした。合意解除は、解除権の行使ではなく、契約を終わらせるための新しい契約です。結ぶのは、AとBの2人です。Dは、その契約に入っていません。条文を読みます。3項です。
条文民法613条3項
民法第613条第3項 賃借人が適法に賃借物を転貸した場合には、賃貸人は、賃借人との間の賃貸借を合意により解除したことをもって転借人に対抗することができない。ただし、その解除の当時、賃貸人が賃借人の債務不履行による解除権を有していたときは、この限りでない。
読み方です。本文は、適法に転貸した場合、AがBとの賃貸借を合意で解除したことを、Dに対抗できない、という意味です。趣旨は、Dの権利は、適法に成立した権利だから、AとBの2人の話し合いだけで、Dの権利を無くすことはできない、ということです。第三者を守る向きは、解除の回で見た、545条1項ただし書の、第三者の権利を害することはできない、と同じです。この規定は、判例が認めてきた結論を、民法の改正で、条文にしたものです。
図:合意解除の図
- AとBを点線で結んで「2人で合意解除」
- Dは線の外
- 本文=合意解除をDに対抗できない
- ただし書=合意解除の当時、Bの債務不履行による解除権があったときは、対抗できる
例外は、ただし書です。合意解除の当時、AがBの債務不履行による解除権を持っていたときは、対抗できます。実質的には、債務不履行解除と同じに見られるからです。対の設例で確かめます。1つめ。Bが何か月も賃料を滞納し、Aが催告して、期間が過ぎました。そのあと、AとBが話し合って、契約を終わらせました。この場合は、解除権が既にあったので、AはDに対抗できます。2つめ。Bは賃料を滞納していないのに、Aが、建て替えたいと言って、Bと合意解除しました。この場合は、解除権が無いので、AはDに対抗できません。
図:ただし書の対の設例
- (ア)滞納→催告→期間経過のあとの合意解除=対抗できる(解除権があった)
- (イ)滞納も無く、建て替えのための合意解除=対抗できない
解除の意思表示までは、要りません。条文は、解除権を有していたとき、と書いています。解除権が生じていれば足り、現に解除の意思表示をしていなくても構いません。ただし、解除権が発生していたかどうかは、541条の要件で見ます。相当の期間を定めた催告をして、その期間内に履行がなかったか、です。次に、宿題を回収します。前回、無断の転貸でも、背信的行為と認めるに足りない特段の事情があれば、大家は解除できない、と見ました。その場合の転借人は、承諾があった場合と同じように守られるのか。それを扱った判決を読みます。事案は、土地の賃貸借で、賃借人が賃貸人の承諾なく、土地をさらに転貸しました。のちに、賃貸人と賃借人が、賃貸借を合意解除しました。賃貸人の側、つまり相続人らは、所有権に基づいて、転借人らに、建物からの退去と土地の明渡しなどを求めました。原審は、合意解除を認めたまま、転借人らの特段の事情の主張を審理せずに、請求を認めました。最高裁は、原判決を破棄して、差し戻しました。
判例最判昭62・3・24 集民150号509頁
無断転貸と合意解除 土地の賃借人が賃貸人の承諾を得ることなく右土地を他に転貸しても、転貸について賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるため賃貸人が民法六一二条二項により賃貸借を解除することができない場合において、賃貸人が賃借人(転貸人)と賃貸借を合意解除しても、これが賃借人の賃料不払等の債務不履行があるため賃貸人において法定解除権の行使ができるときにされたものである等の事情のない限り、賃貸人は、転借人に対して右合意解除の効果を対抗することができず、したがつて、転借人に対して賃貸土地の明渡を請求することはできないものと解するのが相当である。
読み方です。無断で転貸しても、背信行為と認めるに足りない特段の事情があって、賃貸人が612条2項で解除できない場合に、賃貸人と賃借人が合意解除をしても、賃料不払などで法定解除権を行使できるときにされたものである等の事情のない限り、賃貸人は、転借人に合意解除の効果を対抗できません。したがって、転借人に土地の明渡しを求めることもできません。判決は、理由の中で、こうも述べています。特段の事情があって解除できない場合には、転借人は、承諾を得た場合と同様に、転借権を賃貸人に対抗できる、という判示です。そう考える筋は、こうです。解除はできないのに、承諾が無いことを理由に追い出せるとしたら、解除を制限した意味がなくなります。前回、譲受人について見たのと同じ筋です。射程には注意してください。この判決が直接扱ったのは、合意解除の場面です。特段の事情のある転借人が、あらゆる場面で、適法な転借人と同じ、とまでは言っていません。なお、借地の上の建物の借家人については、別の保護があります。
図:一覧表
- 終わり方×AはDに終了を対抗できるか×補足
- 期間満了=原則できる、例外=最初から転貸を予定しAが承諾にとどまらず締結に加功したときは信義則上できない
- 債務不履行解除=できる、通知や代払の機会は特段の事情が無い限り不要、転貸借はAの返還請求の時に履行不能で終わる
- 合意解除=できない(613条3項本文)、ただし書=合意解除の当時Bの債務不履行による解除権があればできる
今日の主役の一覧表です。向きは、いつも、AがDに言えるか、です。期間満了は、原則として、できます。例外は、最初から転貸を予定し、Aが承諾にとどまらず締結に加功したときで、信義則上できません。債務不履行解除は、できます。Dへの通知や代払の機会は、特段の事情のない限り不要で、転貸借は、Aが返還を請求した時に、履行不能で終わります。合意解除は、原則できません。ただし書で、合意解除の当時、Bの債務不履行による解除権があったときは、できます。4つめの柱をまとめます。合意解除は、AとBの2人の契約で、Dは入っていません。だから、原則として、Dに対抗できません。例外は、合意解除の当時、解除権があったときです。無断転貸でも、背信的行為と認めるに足りない特段の事情があって解除できない転借人は、承諾があった場合と同様に守られます。
確かめる
図:確かめるその1
- AB間の賃料が月12万円、BD間の賃料が月18万円
- AはDにいくらまで直接払うよう求められるか
- BD間が月9万円ならどうか
事例で確かめます。1つめ。AB間の賃料が月12万円、BD間の賃料が月18万円です。AはDに、いくらまで直接払うよう求められるでしょうか? BD間が月9万円なら、どうでしょうか?
図:答えその1
- 上限=Bの債務の範囲と転貸借の債務のうち、小さいほう
- 18万円のとき=12万円まで
- 9万円のとき=9万円まで
月18万円なら12万円までです。月9万円なら9万円までです。2つの上限のうち、小さいほうまでです。
図:確かめるその2
- 毎月末日払いの賃料を、DがBへ月初に前払していた
- AがDに直接払うよう求めたとき、Dは払済みだと断れるか
- 支払日の末日が過ぎたあとにBへ払った分ならどうか
2つめ。毎月末日が支払日の賃料を、Dは、月初にBへ前払していました。AがDに直接払うよう求めたとき、Dは「Bに払い済みだ」と断れるでしょうか? 支払日の末日が過ぎたあとに、Bへ払った分なら、どうでしょうか?
図:答えその2
- 前払=弁済期より前の支払い=Aに対抗できない
- 弁済期のあとに払った分=前払ではない=Aに対抗できる
月初の前払は、断れません。末日が過ぎたあとに払った分なら、Aに払い済みだと言えます。前払はAに対抗できません。弁済期のあとの支払いは、前払ではありません。
図:確かめるその3
- Dは、屋根が雨漏りする
- Aに直接「直してください」と求められるか
3つめ。Dの部屋の屋根が雨漏りします。Dは、Aに直接「直してください」と求められるでしょうか?
図:答えその3
- 613条1項は転借人の義務だけを定める
- 修繕を求める相手は、転貸借の相手のB
求められません。613条1項はDの義務を定めるだけで、権利は定めていないからです。修繕を求める相手は、転貸借の相手のBです。
図:確かめるその4
- AB間の賃貸借が期間満了で終わった
- Aは、承諾済みのDに、出て行ってと言えるか
4つめ。AB間の賃貸借が期間満了で終わりました。Aは、承諾済みのDに、出て行ってと言えるでしょうか?
図:答えその4
- 原則=期間満了なら、AはDに終了を対抗できる
- 例外=最初から転貸を予定し、Aが承諾にとどまらず加功して占有の原因を作ったときは、信義則上できない
原則として言えます。ただし、最初から転貸が予定されていて、Aが承諾にとどまらず締結に加功したようなときは、信義則上言えない場合があります。承諾しただけでは、例外になりません。
図:確かめるその5
- AがBの賃料不払を理由に賃貸借を解除した
- その前に、Dにも通知して、代わりに払う機会を与えなければならなかったか
5つめ。AがBの賃料不払を理由に、賃貸借を解除しました。Aは、その前に、Dにも通知して、代わりに払う機会を与えなければならなかったでしょうか?
図:答えその5
特段の事情のない限り、不要です。特段の事情のない限り、という形のまま覚えてください。
図:確かめるその6
- Bの賃料の滞納も無いのに、AとBが合意で賃貸借を終わらせた
- Aは、Dに出て行ってと言えるか
- 滞納して催告期間が過ぎたあとの合意解除ならどうか
6つめ。Bの賃料の滞納も無いのに、AとBが、合意で賃貸借を終わらせました。Aは、Dに出て行ってと言えるでしょうか? Bが滞納して、催告の期間が過ぎたあとの合意解除なら、どうでしょうか?
図:答えその6
- 滞納も無い合意解除=613条3項本文により対抗できない
- 滞納+催告期間経過のあとの合意解除=ただし書により対抗できる
滞納も無い合意解除は、原則言えません。滞納して催告期間が過ぎたあとなら、ただし書で言えます。合意解除の当時、解除権があったかどうかで分かれます。
4つの柱のまとめと、冒頭の問い
図:今日のまとめ
- 1=適法な転貸なら、DはAに直接払う義務を負う
- 上限は小さいほう
- 義務だけ
- 前払は対抗できない
- 2=期間満了は原則対抗できる
- 例外は信義則
- 3=債務不履行解除は対抗できる
- 通知は特段の事情のない限り不要
- 転貸借は返還請求の時に履行不能で終わる
- 4=合意解除は原則対抗できない
- ただし書は解除権があったとき
今日の話を整理します。1つめ、適法な転貸なら、DはAに直接払う義務を負います。上限は、Bの債務の範囲と、転貸借の債務のうち、小さいほうです。義務だけで、権利はありません。前払は、Aに対抗できません。2つめ、期間満了なら、原則としてAはDに終了を対抗できます。例外は、Aが承諾にとどまらず加功したときで、信義則上対抗できません。3つめ、債務不履行解除なら、対抗できます。通知や代払の機会は、特段の事情のない限り不要で、転貸借は、返還請求の時に履行不能で終わります。4つめ、合意解除は、原則として対抗できません。ただし書は、合意解除の当時、解除権があったときです。
図:冒頭の答え合わせ
- Bの賃料不払でAが催告して解除=債務不履行解除=AはDに対抗できる
- Dは払っていても、Aから返還を請求されれば出て行く
- その時に転貸借は終わる
- 合意解除なら原則言えない
- 期間満了は原則言える
冒頭の問いの答えです。Bの賃料不払でAが催告して解除したのは、債務不履行解除です。AはDに、その終了を対抗できます。Dは家賃を払っていても、Aから返還を請求されれば、出て行きます。その時に、BD間の転貸借は終わります。もし、AとBが合意で終わらせたのなら、原則としてDには言えません。ただし、その当時すでに解除権があれば言えます。期間満了なら、原則として言えます。例外は、信義則です。期間満了の信義則と、転借人への通知の要否と、613条3項は、論文で論点になりうるところです。
参照条文
- 民法613条1項
- 民法613条2項
- 民法613条3項