民法ゼロから民法#264

第三者による賃借権侵害と他人物賃貸借

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第5章 契約 #264/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

借りた駐車場を塞がれたとき

冒頭の設例の関係図。Aは大家で、駐車場の区画をBに貸している。BはAに賃料を払って借りている。そこへ、契約のないCの車が毎晩止まっていて、Bは自分の区画に入れない。BからCへ「どけてください」の矢印に「?」。 図:冒頭の設例の関係図

  • Aは大家で、駐車場の区画をBに貸している
  • BはAに賃料を払って借りている
  • そこへ、契約のないCの車が毎晩止まっていて、Bは自分の区画に入れない
  • BからCへ「どけてください」の矢印に「?」

今日は、Aが大家、Bが借り手、Cが勝手に車を止めている第三者です。前回までの回とは、A・B・Cの割り当てが違います。BとCの間には、契約がありません。先に答えの方向を言います。BがCに言える道は、条件つきで複数あります。ただし、どれも万能ではありません。道は4つあるので、条件を並べて、使い分けを整理します。そのあと、後半で、もう一つの場面を見ます。貸していた大家が、実は、その物の持ち主ではなかった場合です。他人のものを貸す契約は、どうなるのか。借り手は、持ち主に何を言えるのか。賃料は、誰が誰に返すのか。三者の関係を、図で整理します。

柱1 借り手がとれる4つの手段

1つめの柱の入口。債権は契約の相手にしか言えない。BはCと契約していない。それでもBが動ける道を、4つ見る。 図:1つめの柱の入口

  • 債権は契約の相手にしか言えない
  • BはCと契約していない
  • それでもBが動ける道を、4つ見る

1つめの柱です。入場券にたとえます。Bの賃借権は、大家が発行した入場券のようなもので、効くのは、発行した大家に対してです。Cは、その券と関係のない人なので、券を見せても「知りません」と言えてしまいます。それでも、Bが動ける道があります。大家を動かす、占有という事実を使う、大家の持ち主としての力を借りる、券に登録の印を押して全員に見せる。この4つです。1つめは、大家への請求です。条文を読みます。

条文民法601条

民法第601条 賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。

道その1。大家への請求。根拠=601条。条件=有効な賃貸借があること。引渡し前でも使える。向ける相手は大家A。Cに直接は言えない。 図:道その1

  • 大家への請求
  • 根拠=601条
  • 条件=有効な賃貸借があること
  • 引渡し前でも使える
  • 向ける相手は大家A
  • Cに直接は言えない

読み方です。賃貸人は、借り手に、物を使わせ、収益させる義務を負います。Cの車で区画が塞がれていれば、Aは、その義務を果たせていません。だからBは、Aに「使える状態にしてください」と請求できます。条件は、有効な賃貸借があることだけです。まだ使い始めていなくても、請求できます。ただし、この道で動かせるのは、あくまで大家のAです。Cに直接どけろと言う道ではありません。そこで次の道です。2つめは、占有の訴えです。前に占有の回で見ました。占有の訴えは、物を占有している人が、占有という事実そのものを守るための訴えです。借り手は、借りた区画を使っている以上、占有者です。条文を読みます。

条文民法198条

民法第198条 占有者がその占有を妨害されたときは、占有保持の訴えにより、その妨害の停止及び損害の賠償を請求することができる。

読み方です。占有を妨害されたら、占有保持の訴えで、妨害の停止と損害賠償を求められます。Cの車が区画に居座っていて、Bが使えない。これは妨害です。もう一つ、奪われた場合の条文です。

条文民法200条1項

民法第200条第1項 占有者がその占有を奪われたときは、占有回収の訴えにより、その物の返還及び損害の賠償を請求することができる。

道その2。占有の訴え。根拠=198条・200条。条件=自分が占有していること。妨害されたら占有保持、奪われたら占有回収。契約しただけで引渡しを受けていない借り手は使えない。 図:道その2

  • 占有の訴え
  • 根拠=198条・200条
  • 条件=自分が占有していること
  • 妨害されたら占有保持、奪われたら占有回収
  • 契約しただけで引渡しを受けていない借り手は使えない

読み方です。占有を奪われたら、占有回収の訴えで、その物の返還と損害賠償を求められます。たとえば、Cが区画をロープで囲って、自分の場所のように使い始めたなら、奪われた場合に近くなります。単に車が止まっているだけで、Bがまだ使い続けられるなら、妨害の場合です。大事なのは条件です。占有していることです。契約を結んだだけで、まだ引渡しを受けていない借り手は、占有者ではありません。この道は使えません。Cも別に権利を持っているとき、占有の訴えの中で、Cがその権利を持ち出せるのか。条文を読みます。

条文民法202条

民法第202条 1項 占有の訴えは本権の訴えを妨げず、また、本権の訴えは占有の訴えを妨げない。 2項 占有の訴えについては、本権に関する理由に基づいて裁判をすることができない。

読み方です。本権とは、所有権や賃借権のように、占有を正当化する権利のことです。2項は、占有の訴えについては、その本権を理由にして裁判をしてはならない、と言っています。つまり、Cが「自分にも借りる権利がある」と言い返しても、それを理由に、占有の訴えを退けることはできません。占有の訴えは、占有しているという事実を守る訴えだからです。3つめは、代位です。前に代位権の転用の回で見ました。Aは、区画の持ち主です。持ち主には、所有権に基づいて、Cに「どけてください」と言える権利があります。Aが動いてくれないとき、Bは、Aの権利をAに代わって使えます。条文を読みます。

条文民法423条1項

民法第423条第1項 債権者は、自己の債権を保全するため必要があるときは、債務者に属する権利(以下「被代位権利」という。)を行使することができる。ただし、債務者の一身に専属する権利及び差押えを禁じられた権利は、この限りでない。

道その3。大家の所有権を借りる代位。根拠=423条の転用。BがAに代わって、Aの所有権に基づく妨害排除の請求をCに向ける。条件=賃借権を持っていること。引渡し前でも仕組みの上では使える。判例が認めてきた道。 図:道その3

  • 大家の所有権を借りる代位
  • 根拠=423条の転用
  • BがAに代わって、Aの所有権に基づく妨害排除の請求をCに向ける
  • 条件=賃借権を持っていること
  • 引渡し前でも仕組みの上では使える
  • 判例が認めてきた道

読み方です。債権者は、自分の債権を守るために必要なら、債務者の権利を行使できます。本来は、お金の債権を守るための制度で、債務者にお金が無いことが要件でした。しかし、お金でない債権、たとえば借りて使う権利を守るときには、債務者に資力が無くても使えます。Aにいくらお金があっても、Cの車がある限り、Bは区画を使えないからです。前に見た、転用です。Bの債権は、区画を使う権利です。AがCに言える所有権の力を、Bが借りて、Cに「どけてください」と言います。Bが自分の権利として言うのではなく、Aの権利を代わりに使う形です。判例は、Bが自分に引き渡すよう求めることも認めてきました。対抗要件を備えていない借り手が、自分の権利としてCに直接言えるかは、前に見たとおり、条文が何も言っていません。だから、備えていない借り手にとって、この代位は大事な道です。4つめが、605条の4です。前に、第三者が債権を害する場面の回で見た条文を、今日は4つの道の中に置き直します。

条文民法605条の4

民法第605条の4 不動産の賃借人は、第六百五条の二第一項に規定する対抗要件を備えた場合において、次の各号に掲げるときは、それぞれ当該各号に定める請求をすることができる。 一 その不動産の占有を第三者が妨害しているとき その第三者に対する妨害の停止の請求 二 その不動産を第三者が占有しているとき その第三者に対する返還の請求

読み方です。不動産の賃借人が、対抗要件を備えたとき、第三者が占有を妨害していれば、その妨害の停止を請求できます。第三者が不動産を占有していれば、その返還を請求できます。借り手が、自分の権利として、Cに直接言える道です。対抗要件とは、前に見たとおり、借り手が「この物は私が借りている」と、新しい持ち主などに言い張れるための印です。建物の借り手なら、引渡しを受けること。建物を建てる目的の土地なら、借り手名義で登記した建物を持つこと。それ以外の不動産なら、賃貸借の登記です。冒頭の駐車場は、建物を建てる目的の土地ではありません。使える印は、賃貸借の登記だけです。賃貸借の登記は、大家と借り手が一緒に申請する必要があるので、大家が協力してくれなければ、できません。だから、設例のBは、普通は、この道を使えません。他の3つの道が大事になる理由が、ここです。

物権と債権の最大の違いは、誰にでも言えるかどうかでした。対抗要件を備えた賃借権は、後から現れた人に、「私が先に借りています」と言い張れます。この意味で、物権に近づきます。605条の4は、物権的な請求権のうち、返還と妨害排除に当たるものを、備えた借り手に認めました。

605条の4の限界の図。物権的請求権の3類型=返還・妨害排除・妨害予防。605条の4に書かれているのは、妨害の停止と返還の2つだけ。まだ起きていない妨害に先回りして止める請求は、条文に無い。 図:605条の4の限界の図

  • 物権的請求権の3類型=返還・妨害排除・妨害予防
  • 605条の4に書かれているのは、妨害の停止と返還の2つだけ
  • まだ起きていない妨害に先回りして止める請求は、条文に無い

ここで限界を確認します。前に、物権的請求権は、返還・妨害排除・妨害予防の3つだと見ました。605条の4の請求は、妨害の停止と返還の2つだけです。妨害予防に当たるものは、書かれていません。まだ起きていない妨害に先回りして、やめさせる請求は、この条文からは出てきません。対抗要件を備えても、賃借権は債権のままだからです。同じ区画を二重に貸していて、借り手どうしがぶつかったときは、先に対抗要件を備えた借り手が、言い分を通せます。前に見た、二重に貸した場面の整理です。605条の4も、その延長にあります。

4つの手段の比較表。1=大家への請求(601条)・有効な賃貸借・Aに向ける。2=占有の訴え(198条・200条)・自分が占有していること・Cに向ける・引渡し前は不可。3=代位(423条の転用)・賃借権があること・Aの所有権を借りてCに向ける。4=605条の4・対抗要件を備えたこと・Cに向ける・妨害の停止と返還だけ。 図:4つの手段の比較表

  • 1=大家への請求(601条)・有効な賃貸借・Aに向ける
  • 2=占有の訴え(198条・200条)・自分が占有していること・Cに向ける・引渡し前は不可
  • 3=代位(423条の転用)・賃借権があること・Aの所有権を借りてCに向ける
  • 4=605条の4・対抗要件を備えたこと・Cに向ける・妨害の停止と返還だけ

4つの道を、並べます。1つめ、大家への請求は、有効な賃貸借があればよく、向ける相手は大家です。2つめ、占有の訴えは、自分が占有していることが要件で、相手はCです。3つめ、代位は、賃借権があればよく、大家の所有権を借りて、Cに向けます。最後に4つめ、605条の4は、対抗要件を備えたことが要件で、請求できるのは、妨害の停止と返還だけです。立ち止まって考えてみましょう。駐車場の契約をしただけで、まだ引渡しを受けていないBがいます。Cが、区画を塞いでいます。この段階で、占有の訴えは使えるでしょうか?使えません。占有していることが要件だからです。この段階でも使えるのは、大家に請求する道です。仕組みの上では、代位も使えます。1つめの柱をまとめます。借り手の権利は債権なので、Cには直接言えないのが原則です。それでも、4つの道があります。大家への請求、占有の訴え、代位、605条の4です。占有の訴えは占有が要件、605条の4は対抗要件が要件で、請求できるのは妨害の停止と返還だけ、予防は書かれていません。Cへの損害賠償は不法行為です。債権が第三者に害された場面として、前に見ました。不法行為の要件の本体は、あとの章で見ます。

柱2 他人物賃貸借の法律関係

2つめの柱の入口。貸主Aが、実は持ち主ではなかった。持ち主はE。AはEの区画をBに貸している。契約は有効か。BはEに何を言えるか。賃料は誰が誰に返すか。 図:2つめの柱の入口

  • 貸主Aが、実は持ち主ではなかった
  • 持ち主はE
  • AはEの区画をBに貸している
  • 契約は有効か
  • BはEに何を言えるか
  • 賃料は誰が誰に返すか

2つめの柱に入る前に、思い出してください。前に、他人のものを売る契約は有効か、そして、売主が持ち主から権利を取れなかったとき、買主はどうできましたか?契約は有効です。売主が権利を取れなかったときは、解除ができて、損害賠償も求められます。解除には落ち度は要りませんが、損害賠償は売主に落ち度が必要でした。賃貸借でも、同じ筋になります。ただし、売買と違って、貸すのは、物そのものではなく、物の使い方です。設例を置きます。Aは、実は持ち主ではない駐車場の区画を、自分の区画のようにして、Bに貸しました。本当の持ち主は別にいます。Bは、毎月、Aに賃料を払って、その区画を使っています。これが、他人物賃貸借です。まず、この契約は有効でしょうか。Aは今、区画を使わせる権限を持っていません。それでも、持ち主から借りてくるなどして、Bに使わせると約束することはできます。だから、契約は有効です。売買以外の有償契約には、売買の規定が準用されます。条文を読みます。

条文民法559条

民法第559条 この節の規定は、売買以外の有償契約について準用する。ただし、その有償契約の性質がこれを許さないときは、この限りでない。

読み方です。有償契約とは、対価を払う契約のことで、賃貸借も含まれます。代金を払ったのに約束の物を受け取れない、という困りごとは、賃料を払ったのに使わせてもらえない、という形で、賃貸借にも起きます。だから、売買のために作った決まりを、賃貸借にも使い回します。これが準用です。他人のものを売る契約の条文を読みます。

条文民法561条

民法第561条 他人の権利(権利の一部が他人に属する場合におけるその権利の一部を含む。)を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う。

他人物賃貸借の契約の効力。契約は有効。AはBに使わせる義務を負う(持ち主から使える状態にする義務)。BはAに賃料を払う義務を負う。ただし契約だけでは区画は動かない。 図:他人物賃貸借の契約の効力

  • 契約は有効
  • AはBに使わせる義務を負う(持ち主から使える状態にする義務)
  • BはAに賃料を払う義務を負う
  • ただし契約だけでは区画は動かない

読み方です。他人のものを売る契約をしたら、売主は、その権利を取得して、買主に移す義務を負います。賃貸借なら、貸主のAは、持ち主から使える状態にして、Bに使わせる義務を負います。契約は有効で、AはBに使わせる義務を、BはAに賃料を払う義務を負います。前に、賃借権も時効で取れる、という回でも、他人の土地を貸す契約は有効、と確認しました。ここで大事なのは、契約が有効なことと、持ち主に勝てることは、別です。Bの賃借権は、債権です。契約の相手のAにしか言えません。持ち主は、契約の当事者ではありません。対抗要件を備えていても、同じです。対抗要件は、あとから物権を取得した人に言い張るための印で、最初から持ち主の人には、働きません。ですから、持ち主が、所有権に基づいて、区画の返還を求めてきたら、Bは、拒めません。出て行くことになります。

持ち主から明渡しを求められたときの賃料の拒絶。時間軸=BがAに賃料を払う→持ち主がBに明渡しを求める→この請求を受けた以後は、Aへの賃料を拒める。請求を受ける前から拒める、とは言わない。根拠=559条で準用する576条。 図:持ち主から明渡しを求められたときの賃料の拒絶

  • 時間軸=BがAに賃料を払う→持ち主がBに明渡しを求める→この請求を受けた以後は、Aへの賃料を拒める
  • 請求を受ける前から拒める、とは言わない
  • 根拠=559条で準用する576条

ただ、出て行かされるBが、その前から、賃料を払い続けるのは酷です。そこで、判例が出ています。まず、売買で見た条文を、もう一度読みます。

条文民法576条

民法第576条 売買の目的について権利を主張する者があることその他の事由により、買主がその買い受けた権利の全部若しくは一部を取得することができず、又は失うおそれがあるときは、買主は、その危険の程度に応じて、代金の全部又は一部の支払を拒むことができる。ただし、売主が相当の担保を供したときは、この限りでない。

読み方です。売買の目的について、権利を主張する者がいて、買主が権利を失うおそれがあるとき、買主は代金の支払を拒めます。他人物売買で、持ち主が現れたときの条文でした。判例は、これを賃貸借にも当てはめました。事案は、所有者でも、貸す権限のある人でもない人から、店舗を借りた借り手が、その店舗の権利者から、明渡しを求められた、というものです。

判例最判昭50・4・25 民集29巻4号556頁

権利者から明渡しを求められた借り手の賃料 所有権ないし賃貸権限を有しない者から不動産を貸借した者は、その不動産につき権利を有する者から右権利を主張され不動産の明渡を求められた場合には、貸借不動産を使用収益する権原を主張することができなくなるおそれが生じたものとして、民法五五九条で準用する同法五七六条により、右明渡請求を受けた以後は、賃貸人に対する賃料の支払を拒絶することができるものと解するのが相当である。

読み方です。所有権や貸す権限のない人から借りた人が、権利者から明渡しを求められたら、使う権原を言えなくなるおそれが生じたものとして、559条で準用する576条により、明渡請求を受けた以後は、貸主に対する賃料の支払を拒絶できる、と言っています。落とせない言葉は、明渡請求を受けた以後は、です。請求を受ける前から拒める、とは言っていません。576条が支払を拒ませるのは、権利を失うおそれがあるときで、そのおそれは、権利者が名乗り出て明渡しを求めたときに生じるからです。根拠も、559条で準用する576条です。他人物売買の、買主が代金を拒める条文を、賃貸借に当てはめたものです。拒める額は、576条のとおり、権利を失う危険の程度に応じて考えます。

損害賠償を、Aに求められます。債務不履行の415条1項です。ただし、損害賠償は、貸主に責めに帰することができない事由があれば、免れます。たとえば、Aが、親から相続した自分の区画だと信じて貸していた場合でも、それだけで当然に免れるのではなく、帰責事由があるかどうかで決まります。他人物売買で見た整理と同じです。解除は、貸主に落ち度が無くてもできます。ここも、売買のときと同じです。もう一つ、賃借物の全部が使えなくなったときは、賃貸借は、当然に終了します。616条の2です。持ち主に明渡しをして、区画の全部が使えなくなれば、これに当たります。次に、お金の流れを見ます。登場するのは、持ち主、貸主のA、借り手のBです。誰が誰に、何を返せと言えるかを、順に見ます。

三者の関係図。持ち主は区画の持ち主。AはBに貸して賃料を受け取る。BはAに賃料を払う。持ち主→B「返還請求」(Bは対抗できない)。持ち主→A「賃料を返せ」(Aが善意なら不可・悪意なら可)。持ち主→B「使用の価値を返せ」(Bが善意なら不可・悪意なら可)。 図:三者の関係図

  • 持ち主は区画の持ち主
  • AはBに貸して賃料を受け取る
  • BはAに賃料を払う
  • 持ち主→B「返還請求」(Bは対抗できない)
  • 持ち主→A「賃料を返せ」(Aが善意なら不可・悪意なら可)
  • 持ち主→B「使用の価値を返せ」(Bが善意なら不可・悪意なら可)

まず、持ち主とAの間です。Aが受け取った賃料は、果実です。前に果実の回で見たとおり、家賃のように、物を貸して得るお金は、法定果実と呼ばれます。そして、Aは、自分で区画を使っていなくても、借り手のBを通じて区画を占有していると扱われます。前に占有の回で見た、代理占有です。だから、Aも占有者です。占有者の果実については、2つの条文があります。

条文民法189条

民法第189条 1項 善意の占有者は、占有物から生ずる果実を取得する。 2項 善意の占有者が本権の訴えにおいて敗訴したときは、その訴えの提起の時から悪意の占有者とみなす。

条文民法190条

民法第190条 1項 悪意の占有者は、果実を返還し、かつ、既に消費し、過失によって損傷し、又は収取を怠った果実の代価を償還する義務を負う。 2項 前項の規定は、暴行若しくは強迫又は隠匿によって占有をしている者について準用する。

読み方です。善意の占有者は、果実を自分のものにできます。悪意の占有者は、果実を返還する義務を負います。ここでの善意は、自分に使う権限があると信じていた、悪意は、そう信じていなかった、という意味です。

持ち主とAの間。Aは占有者で、賃料は果実。Aが自分に貸す権限があると信じていた(善意)=賃料を取得できる(189条1項)=持ち主は返還を求められない。信じていなかった(悪意)=賃料を返還する義務(190条1項)=持ち主は賃料の返還を求められる。 図:持ち主とAの間

  • Aは占有者で、賃料は果実
  • Aが自分に貸す権限があると信じていた(善意)=賃料を取得できる(189条1項)=持ち主は返還を求められない
  • 信じていなかった(悪意)=賃料を返還する義務(190条1項)=持ち主は賃料の返還を求められる

当てはめます。Aが、自分の区画だと信じて貸していた、つまり善意なら、Aは賃料を取得できます。持ち主は、Aに賃料の返還を求められません。Aが、自分の物でないと知りながら貸していた、つまり悪意なら、Aは賃料を返す義務を負います。持ち主は、Aから賃料を取り戻せます。この場面は、AがBを通じて持っている占有者なので、189条1項と190条1項を、そのまま使います。貸主のAが善意で賃料を取得できる場合、持ち主は、その分を取り戻せず損をします。ただ、善意の占有者は、果実を自分のものとして使って生活しているのが普通です。それを後から全部返せと言うと、酷です。そこで、前に見たとおり、善意の占有者には、果実を全部取得させて、有利に扱っています。なお、悪意のAが、相場より安く貸していた場合には、相場の賃料相当額を返す義務まで認める有力な見解がありますが、ここでは、あることを知っておく程度で足ります。次は、持ち主とBの間です。Bは、持ち主の区画を使って、利益を得ています。使った得を、持ち主に返さなければならないのか。ここでも、Bの善意と悪意で分かれます。

持ち主とBの間。Bは直接使っている占有者。使用の利益(客観的な使用の価値=平均的な賃料相当額)の返還は、Bが善意なら不可(189条1項の類推)、悪意なら請求できる(190条1項の類推)。賃料をAに払い済みでも、悪意のBは全額返す義務があると考える。 図:持ち主とBの間

  • Bは直接使っている占有者
  • 使用の利益(客観的な使用の価値=平均的な賃料相当額)の返還は、Bが善意なら不可(189条1項の類推)、悪意なら請求できる(190条1項の類推)
  • 賃料をAに払い済みでも、悪意のBは全額返す義務があると考える

持ち主は、Bに、客観的な使用の価値、つまり平均的な賃料の額の返還を請求できるか。Bが、Aに使う権限があると信じていた、善意なら、189条1項の類推で、請求できません。Bが、そう信じていなかった、悪意なら、190条1項の類推で、請求できます。賃料は、果実そのものです。ですから、Aの場面では、条文をそのまま使えます。一方、Bが得ているのは、区画を使う利益で、果実そのものではありません。果実に準じるものとして、条文を類推して使います。ここを取り違えないでください。持ち主とAの間は、そのまま使う、持ち主とBの間は、類推です。

悪意のBは、返さなくてよくなりません。賃料を払い済みでも、持ち主との関係では考慮されず、客観的な使用の価値の全額を、持ち主に返す義務がある、と考えます。Bが払った賃料は、Aに渡っただけで、持ち主に払われたものではありません。持ち主は、AとBの契約の当事者でもありません。だから、賃料を払ったことの危険は、貸主のAと借り手のBの間で処理するもので、持ち主に負わせないのです。Bは、払った賃料について、Aに対して、損害賠償や不当利得の返還、不法行為の責任などを求めて処理します。

三者の整理表。持ち主→A(賃料)=Aが善意なら請求できない(189条1項)、悪意なら請求できる(190条1項)=条文をそのまま使う。持ち主→B(使用の価値)=Bが善意なら請求できない(189条1項の類推)、悪意なら請求できる(190条1項の類推)、賃料払済みでも全額と考える。B→A=賃料の拒絶(明渡請求を受けた以後)・損害賠償(415条1項)。持ち主→B=返還請求は拒めない。 図:三者の整理表

  • 持ち主→A(賃料)=Aが善意なら請求できない(189条1項)、悪意なら請求できる(190条1項)=条文をそのまま使う
  • 持ち主→B(使用の価値)=Bが善意なら請求できない(189条1項の類推)、悪意なら請求できる(190条1項の類推)、賃料払済みでも全額と考える
  • B→A=賃料の拒絶(明渡請求を受けた以後)・損害賠償(415条1項)
  • 持ち主→B=返還請求は拒めない

整理表です。持ち主から見て、Aに賃料を、Bに使用の価値を請求する場面で、それぞれ、善意なら請求できず、悪意なら請求できます。Aは条文をそのまま、Bは類推です。Bに対する返還請求は、Bは拒めません。BがAに対しては、明渡請求を受けた以後は賃料を拒め、損害賠償も求められます。

確かめる

確かめるその1。月極駐車場の契約だけして、まだ引渡しを受けていない借り手の区画を、第三者が塞いだ。占有の訴えは使えるか。使える道は。 図:確かめるその1

  • 月極駐車場の契約だけして、まだ引渡しを受けていない借り手の区画を、第三者が塞いだ
  • 占有の訴えは使えるか
  • 使える道は

事例で確かめます。1つめ。月極駐車場の契約だけして、まだ引渡しを受けていない借り手の区画を、第三者が塞ぎました。占有の訴えは使えるでしょうか? 使える道は、何でしょうか?

答えその1。占有の訴えは占有が要件で、引渡し前は使えない。大家への請求は有効な賃貸借があればよい。 図:答えその1

  • 占有の訴えは占有が要件で、引渡し前は使えない
  • 大家への請求は有効な賃貸借があればよい

占有の訴えは使えません。占有していることが要件だからです。大家への請求なら使えます。代位も仕組みの上では使えます。占有前でも使えるのは、大家への請求です。

確かめるその2。対抗要件を備えた借り手は、第三者が邪魔しそうな気配があるだけで、事前にやめさせる請求ができるか。 図:確かめるその2

2つめ。対抗要件を備えた借り手は、第三者が邪魔をしそうな気配があるだけで、事前にやめさせる請求をできるでしょうか?

答えその2。605条の4は妨害の停止と返還だけ。妨害予防は条文に無い。対抗要件を備えても債権のまま。 図:答えその2

  • 605条の4は妨害の停止と返還だけ
  • 妨害予防は条文に無い
  • 対抗要件を備えても債権のまま

できません。605条の4が定めるのは、妨害の停止と返還だけで、予防は書かれていないからです。賃借権は債権のままだからです。

確かめるその3。他人の物を貸す契約は、無効か。 図:確かめるその3。他人の物を貸す契約は、無効か。

3つめ。他人のものを貸す契約は、無効でしょうか?

答えその3。他人物賃貸借は有効(559条・561条)。借り手の賃借権は債権で、持ち主には言えない。 図:答えその3

  • 他人物賃貸借は有効(559条・561条)
  • 借り手の賃借権は債権で、持ち主には言えない

有効です。ただ、借り手は、持ち主に賃借権を言えません。有効なことと、持ち主に勝てることは、別です。

確かめるその4。持ち主から明渡しを求められた借り手は、賃料を拒めるか。いつからか。 図:確かめるその4

  • 持ち主から明渡しを求められた借り手は、賃料を拒めるか
  • いつからか

4つめ。持ち主から明渡しを求められた借り手は、貸主への賃料を拒めるでしょうか? いつからでしょうか?

答えその4。明渡請求を受けた以後は賃料の支払を拒める(559条で準用する576条)。請求を受ける前からとは言わない。 図:答えその4

  • 明渡請求を受けた以後は賃料の支払を拒める(559条で準用する576条)
  • 請求を受ける前からとは言わない

拒めます。明渡請求を受けた以後です。559条で準用する576条が根拠です。以後は、という形のまま覚えてください。

確かめるその5。悪意の借り手が、賃料を貸主に払い済み。持ち主への使用の価値の返還を免れるか。 図:確かめるその5

  • 悪意の借り手が、賃料を貸主に払い済み
  • 持ち主への使用の価値の返還を免れるか

5つめ。悪意の借り手が、賃料を貸主に払い済みです。持ち主への使用の価値の返還を、免れるでしょうか?

答えその5。悪意の借り手は、賃料払済みでも全額返す義務があると考える。賃料のリスクは貸主と借り手の間で処理する。 図:答えその5

  • 悪意の借り手は、賃料払済みでも全額返す義務があると考える
  • 賃料のリスクは貸主と借り手の間で処理する

免れません。全額を返す義務がある、と考えます。払った分は、貸主に求めて処理します。

確かめるその6。貸主が善意(自分を持ち主と信じていた)のとき、持ち主は貸主から賃料を取り戻せるか。 図:確かめるその6

6つめ。貸主が善意、つまり自分を持ち主だと信じていたとき、持ち主は、貸主から賃料を取り戻せるでしょうか?

答えその6。貸主が善意なら、賃料は果実として取得できる(189条1項)。持ち主は取り戻せない。 図:答えその6

  • 貸主が善意なら、賃料は果実として取得できる(189条1項)
  • 持ち主は取り戻せない

取り戻せません。189条1項で、善意の占有者は果実を取得できるからです。悪意なら、190条1項で、取り戻せます。

2つの柱のまとめと、冒頭の問い

今日のまとめ。1=借り手の権利は債権。第三者に動く道は4つ(大家への請求・占有の訴え・代位・605条の4)。605条の4は妨害の停止と返還だけ。2=他人物賃貸借は有効だが持ち主には負ける。明渡請求を受けた以後は賃料を拒める。持ち主の請求は、貸主に賃料を、借り手に使用の価値を、善意なら不可・悪意なら可。 図:今日のまとめ

  • 1=借り手の権利は債権
  • 第三者に動く道は4つ(大家への請求・占有の訴え・代位・605条の4)
  • 605条の4は妨害の停止と返還だけ
  • 2=他人物賃貸借は有効だが持ち主には負ける
  • 明渡請求を受けた以後は賃料を拒める
  • 持ち主の請求は、貸主に賃料を、借り手に使用の価値を、善意なら不可・悪意なら可

今日の話を整理します。1つめ、借り手の権利は債権なので、第三者には直接言えないのが原則です。それでも道が4つあります。大家への請求、占有の訴え、代位、605条の4です。占有の訴えは占有が要件で、605条の4は対抗要件が要件です。請求できるのは妨害の停止と返還だけで、予防は書かれていません。2つめ、他人物賃貸借の契約は有効です。ただし、借り手は持ち主に賃借権を言えず、返還請求を拒めません。明渡請求を受けた以後は、貸主への賃料を拒めます。持ち主は、貸主に賃料を、借り手に使用の価値を、それぞれ善意なら取り戻せず、悪意なら取り戻せます。借り手については、賃料を払い済みでも、全額を返す義務がある、と考えます。

冒頭の答え合わせ。月極駐車場を塞がれた借り手Bは、自分で言える道がある。大家への請求・占有の訴え(占有が要件)・代位・605条の4(対抗要件が要件。更地の駐車場は賃貸借の登記だけで、大家の協力が要る)。 図:冒頭の答え合わせ

  • 月極駐車場を塞がれた借り手Bは、自分で言える道がある
  • 大家への請求・占有の訴え(占有が要件)・代位・605条の4(対抗要件が要件。更地の駐車場は賃貸借の登記だけで、大家の協力が要る)

冒頭の問いの答えです。月極駐車場を塞がれた借り手は、大家に頼むしかないわけではありません。大家への請求、占有していれば占有の訴え、代位、対抗要件を備えていれば、605条の4。道が複数あり、条件が違います。更地の駐車場では、対抗要件が賃貸借の登記だけで、大家の協力が要るので、605条の4は使いにくいのでした。借り手の権利は債権でも、動ける道がある。ここは、論文で論点になりうるところです。

参照条文

  • 民法601条
  • 民法198条
  • 民法200条1項
  • 民法202条
  • 民法423条1項
  • 民法605条の4
  • 民法559条
  • 民法561条
  • 民法576条
  • 民法189条
  • 民法190条

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