民法ゼロから民法#228

契約の成立と申込みの効力

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第5章 契約 #228/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

「売ります」と言ってしまったら

冒頭の設例の時系列。A(申込みをした人・売る側)、B(申込みを受けた人)、C(後から現れた高値の買い手)。1 月の初め、AはBにメールで「今月末までに返事をくれれば、100万円で売ります」と送る。品物は使わなくなった中古の業務用コーヒー焙煎機。2 翌日、Cが「120万円出す」と言ってくる。3 問い=AはBに「あの話は無かったことに」と送れるか。Bが月末までに「買います」と返したらどうなるか。 図:冒頭の設例の時系列

  • A(申込みをした人・売る側)、B(申込みを受けた人)、C(後から現れた高値の買い手)
  • 1 月の初め、AはBにメールで「今月末までに返事をくれれば、100万円で売ります」と送る
  • 品物は使わなくなった中古の業務用コーヒー焙煎機
  • 2 翌日、Cが「120万円出す」と言ってくる
  • 3 問い=AはBに「あの話は無かったことに」と送れるか
  • Bが月末までに「買います」と返したらどうなるか

先に、答えの方向を言います。Aは、この申込みを引っ込めること、つまり撤回が、できません。そしてBの承諾が期限内にAに届けば、契約は成立します。AがそのあとCに売って、Bに引き渡せなくなれば、Bに対する債務不履行になります。理由は、本編で積み上げます。条文の言葉との対応を置いておきます。条文は、申込みをした人を申込者、その相手を相手方と書きます。この設例では、申込者がAで、相手方がBです。最後まで、この3人で通します。そして条件を、1つずつ変えます。期限を付けなかったら。電話で話していたら。Aが亡くなったら。結論がどう動くかを、条文で追います。

今日の位置と、3つの柱

今日の地図。位置=契約を結ぶ前の段階→契約が成立する瞬間と、申込みの効力。背骨=契約は、申込みに承諾が届いた時に成る。その手前で、申込みはいつまで引っ込められず、いつまで生きているのか。3つの柱=1 契約の成立(申込みと申込みの誘引の区別を含む)/2 申込みの効力(承諾期間あり・なし・対話者)/3 申込者が亡くなったら。そのあとに、似た事例の分け目を練習する。 図:今日の地図

  • 位置=契約を結ぶ前の段階→契約が成立する瞬間と、申込みの効力
  • 背骨=契約は、申込みに承諾が届いた時に成る。その手前で、申込みはいつまで引っ込められず、いつまで生きているのか
  • 3つの柱=1 契約の成立(申込みと申込みの誘引の区別を含む)/2 申込みの効力(承諾期間あり・なし・対話者)/3 申込者が亡くなったら
  • そのあとに、似た事例の分け目を練習する

位置づけです。契約を結ぶ前の話は、これまで見てきました。今日は、契約が成立する瞬間と、成立の手前で申込みがどう扱われるかの話です。契約は、申込みと承諾という2つの意思表示でできている、という点は、意思表示の総論で見たとおりです。

今日の背骨は、この一文です。契約は、申込みに承諾が届いた時に成る。その手前で、申込みは、いつまで引っ込められず、いつまで生きているのか。条文は、場面ごとに答えを置いています。

柱は3つです。1つめ、契約の成立。申込みと、申込みの誘引の区別も入ります。2つめ、申込みの効力。承諾期間があるとき、ないとき、相手が、対話者のときの3場面です。3つめ、申込者が亡くなったらどうなるか。柱のあとに、似た事例を3問、練習します。

今日も、言えることを、根拠の札を貼るように言い分けます。根拠の札は4枚です。条文、判例、学説、こちらの説明。意味は、使う場面の直前で、一言ずつ確認します。ただし判例の札は、今日は出番がありません。今日は、条文が主役です。

柱1——申込みと承諾、そして成立の時

契約の成立と、申込みの定義。契約=申込みに対して相手方が承諾をしたときに成立する(522条1項)。申込み=契約の内容を示して、その締結を申し入れる意思表示(条文の括弧書き)。承諾=それに応じる意思表示(こちらの説明)。設例=Aのメール(物=焙煎機、値段=100万円、相手=B、返事の期限)が申込み。Bの「買います」が承諾。 図:契約の成立と、申込みの定義

  • 契約=申込みに対して相手方が承諾をしたときに成立する(522条1項)
  • 申込み=契約の内容を示して、その締結を申し入れる意思表示(条文の括弧書き)
  • 承諾=それに応じる意思表示(こちらの説明)
  • 設例=Aのメール(物=焙煎機、値段=100万円、相手=B、返事の期限)が申込み
  • Bの「買います」が承諾

1つめの柱です。まず、根拠の札の1枚めを確認します。条文とは、法律に書いてあることです。今日の山場は、ほとんどが条文の札で話せます。契約の成立を定めた条文は、これです。

条文民法522条

民法第522条(契約の成立と方式) 1 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。 2 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。

1項を読みます。契約は、申込みに対して相手方が承諾をしたときに成立する。そして括弧書きが、申込みの定義になっています。契約の内容を示して、その締結を申し入れる意思表示。これが申込みです。2項の方式の自由は、契約自由の話で読んだので、今日は繰り返しません。申込みの中身は、承諾の一言だけで契約が成り立つ程度に示されていれば足りる、と読めます。承諾の側は、条文が定義を書いていません。ここは、こちらの説明の札です。こちらの説明とは、この動画が理解のために整理したことです。承諾とは、その申込みに応じる意思表示、と整理します。設例に当てはめます。Aのメールには、物が焙煎機であること、値段が100万円であること、相手がBであること、返事の期限が月末であることが、書かれています。Bが「買います」と言えば、それだけで成り立つ中身です。だから申込みです。Bの「買います」が、承諾です。

柱1——契約はいつ成立するのか

成立の時。Bが「買います」と送信した時では成立しない。その承諾の通知がAに届いた時に成立する。承諾も意思表示=97条1項(意思表示は、その通知が相手方に到達した時から効力を生ずる)が及ぶ。メールが途中で消えてAに届かなければ、契約は成立しない。 図:成立の時

  • Bが「買います」と送信した時では成立しない
  • その承諾の通知がAに届いた時に成立する
  • 承諾も意思表示=97条1項(意思表示は、その通知が相手方に到達した時から効力を生ずる)が及ぶ
  • メールが途中で消えてAに届かなければ、契約は成立しない

ここで、総則で学んだことを思い出してください。意思表示は、いつ効力を生じるのでしたか?相手方に到達した時、でした。97条1項の規定です。承諾も、1つの意思表示です。ですから、この規定が及びます。承諾の通知が、申込者であるAに届いた時に、契約は成立します。Bが「買います」と送信した時ではありません。送信しても、メールが途中で消えて、Aに届かなければ、契約は成立しません。なぜ届いた時なのでしょうか。申込みを出したAが、承諾が来たかどうかを知らないまま、成立したことにされると、Aは、買い手が決まったのかどうか、分からなくなってしまいます。到達で区切るのは、そのためです。承諾の効力が生じる時期について、もう少し詳しい話は、承諾の側の話として、あとで改めて扱います。今日は、届いた時に成立する、というところまでです。

柱1——合致は外から見て足りる

合致は外から見た合致で足りる(こちらの説明)。申込みと承諾が合っているかは、表に出た意思表示の中身で見る。内心の気持ちまで一致している必要はない。内心と表示がずれていたら、成立の問題ではなく錯誤の問題。例=メールに書かれた機種を別の機種と思い込んで「買います」と送ったB。 図:合致は外から見た合致で足りる

  • こちらの説明
  • 申込みと承諾が合っているかは、表に出た意思表示の中身で見る。内心の気持ちまで一致している必要はない。内心と表示がずれていたら、成立の問題ではなく錯誤の問題。例=メールに書かれた機種を別の機種と思い込んで「買います」と送ったB。

申込みと承諾が合っているかどうかは、何を見て決めるのでしょう。ここは、こちらの説明の札です。おもてに出た意思表示の中身を、外から見て決めます。内心の気持ちまで、ぴったり重なっている必要はありません。相手の内心は、外からは見えないからです。Aが手がかりにできるのは、Bから届いた「買います」という言葉だけです。内心が合っていることまで求めると、契約が成立したのかどうかを、AもBも確かめられません。だから、おもてに出た言葉のほうで決めます。たとえば、Bが、メールに書かれた機種を、別の機種だと思い込んだまま、「買います」と送ったとします。おもてに出た中身は、申込みと承諾で合っています。ですから、契約は成立しています。そのうえで、Bの思い込みは、成立するかどうかの問題ではなく、錯誤で取り消せるかの問題になります。錯誤の要件は、すでに見たので、ここでは繰り返しません。

柱1——申込みと申込みの誘引

申込みと申込みの誘引の分け目。申込みの誘引=相手に申込みをさせようとする行為(学説の整理)。分け目1=承諾だけで成立させられる程度に内容が示されているか(条文の括弧書き+こちらの読み)。分け目2=相手方の個性が問題になるか、相手を選びたいか(学説の整理)。例=求人広告、貸家の入居者募集(誘引)。 図:申込みと申込みの誘引の分け目

  • 申込みの誘引=相手に申込みをさせようとする行為(学説の整理)
  • 分け目1=承諾だけで成立させられる程度に内容が示されているか(条文の括弧書き+こちらの読み)
  • 分け目2=相手方の個性が問題になるか、相手を選びたいか(学説の整理)
  • 例=求人広告、貸家の入居者募集(誘引)

次に、似たものとの区別です。根拠の札の3枚めを確認します。学説とは、学者の整理のことです。その中で多くの支持を集めるものを、通説と呼びます。ここから先は、学説の札で話す所があります。申込みの誘引とは、相手に申込みをさせようとする行為です。それ自体は、申込みではありません。条文に、誘引という言葉は出てきません。学説の整理です。区別の軸は、2つあります。1つめは、承諾だけで成立させられる程度に、内容が示されているかどうかです。先ほどの522条1項の括弧書きの、契約の内容を示して、という言葉から導ける軸です。条文の言葉に、こちらの読みを足しています。2つめは、相手方の個性が問題になるかどうかです。誰が相手でもよいのか、相手を選んだうえで契約したいのか。相手を選びたいなら、はい、と言われただけで契約を成立させるつもりがある、とは言えません。この2つめは学説の整理で、条文に分け目の基準は書かれていません。

典型例と、設例への当てはめ。求人広告=応募した人が申込みをし、会社が採用を決めて承諾する。貸家・貸間の入居者募集=借り手を選びたい。設例=Aが広告に「焙煎機を手放します。希望の方はご連絡ください」とだけ出した場合は誘引。Bに宛てた「今月末までに返事をくれれば、100万円で売ります」は申込み。 図:典型例と、設例への当てはめ

  • 求人広告=応募した人が申込みをし、会社が採用を決めて承諾する
  • 貸家・貸間の入居者募集=借り手を選びたい
  • 設例=Aが広告に「焙煎機を手放します。希望の方はご連絡ください」とだけ出した場合は誘引
  • Bに宛てた「今月末までに返事をくれれば、100万円で売ります」は申込み

学説が典型として挙げるのは、求人広告です。応募者が誰でもよい会社は、ふつう無いので、広告は誘引です。応募した人が申込みをし、会社が採用を決めて承諾を伝える、という順になります。貸家や貸間の入居者募集も同じで、借り手を選びたいからです。設例で対比します。Aが、広告に「焙煎機を手放します。希望のかたはご連絡ください」とだけ出したなら、値段も相手も決まっていません。これは誘引です。Bが「買います」と返しても、Aは「いまの話は無かったことに」と言えます。これに対して、Bに宛てた「今月末までに返事をくれれば、100万円で売ります」は、相手が決まり、物と値段と期限が示されています。Bの承諾だけで成立するので、申込みです。ここは、こちらの当てはめです。

この区別の実益は、誘引なら、応じてきた人を断れる、という点にあります。契約を結ぶかどうか、誰と結ぶかを選ぶ自由が、残るのです。申込みにしてしまうと、誰が承諾しても、成立してしまいます。ここは、こちらの説明の札です。申込みか誘引かの区別は、条文に基準が無く、解釈になります。論文で論点になりうる所です。

柱2——申込みの効力、問いは2つ

柱2の問いは2つ。問1=申込みをした人は、撤回できるか。問2=相手は、いつまで承諾できるか(申込みはいつ効力を失うか)。撤回=到達した後の申込みを引っ込めること。場面は3つ=承諾期間の定めがある/承諾期間の定めがない/相手が対話者。 図:柱2の問いは2つ

  • 問1=申込みをした人は、撤回できるか
  • 問2=相手は、いつまで承諾できるか(申込みはいつ効力を失うか)
  • 撤回=到達した後の申込みを引っ込めること
  • 場面は3つ=承諾期間の定めがある/承諾期間の定めがない/相手が対話者

2つめの柱は、今日の山場です。問いを2つに割ります。問1、申込みをした人は、撤回できるか。問2、相手は、いつまで承諾できるのか。言い換えると、申込みは、いつ効力を失うのか。撤回という言葉の意味を、先に確認します。ここでの撤回は、すでに相手に届いた申込みを、引っ込めることです。到達の回で見た、届く前に止めるという撤回とは、場面が違います。取消しや無効とも、別のものです。そして場面は3つあります。承諾期間の定めがある申込み、ない申込み、そして相手が対話者の申込みです。承諾期間とは、条文でいう承諾の期間、つまり、いつまでに返事をください、という期限のことです。

柱2——承諾期間のある申込み

承諾期間のある申込み(523条)。1項=撤回できない。ただし、申込者が撤回をする権利を留保したときは別。留保=あらかじめ「状況次第では撤回する」と言っておくこと。2項=期間内に承諾の通知を受けなかったときは、効力を失う。受けなかった=届かなかった。 図:承諾期間のある申込み

  • 523条
  • 1項=撤回できない。ただし、申込者が撤回をする権利を留保したときは別。留保=あらかじめ「状況次第では撤回する」と言っておくこと。2項=期間内に承諾の通知を受けなかったときは、効力を失う。受けなかった=届かなかった。

まず、期限のある申込みです。冒頭の設例が、この場面です。条文はこれです。

条文民法523条

民法第523条(承諾の期間の定めのある申込み) 1 承諾の期間を定めてした申込みは、撤回することができない。ただし、申込者が撤回をする権利を留保したときは、この限りでない。 2 申込者が前項の申込みに対して同項の期間内に承諾の通知を受けなかったときは、その申込みは、その効力を失う。

1項を読みます。承諾の期間を定めてした申込みは、撤回することができない。ただし、申込者が撤回をする権利を留保したときは、この限りでない。留保とは、あらかじめ「状況次第では撤回します」と言っておくことです。

設例への当てはめ(承諾期間のある申込み)。留保を付けていれば=「それ以上の値段で買う人が出たら撤回します」と付けてあれば、Aは撤回できる。付けていなければ(冒頭の設例)=撤回できない。Aが「無かったことに」と送っても、その撤回は効力がない。Bが期限内に承諾を届ければ契約は成立する。そのあとAがCに引き渡してBに引き渡せなくなれば、Bに対する債務不履行。撤回できない理由=相手は期限まで考えてよいと信じて、調べたり資金を用意したりする。その信頼を守るため(こちらの説明)。 図:設例への当てはめ

  • 承諾期間のある申込み
  • 留保を付けていれば=「それ以上の値段で買う人が出たら撤回します」と付けてあれば、Aは撤回できる。付けていなければ(冒頭の設例)=撤回できない。Aが「無かったことに」と送っても、その撤回は効力がない。Bが期限内に承諾を届ければ契約は成立する。そのあとAがCに引き渡してBに引き渡せなくなれば、Bに対する債務不履行。撤回できない理由=相手は期限まで考えてよいと信じて、調べたり資金を用意したりする。その信頼を守るため(こちらの説明)。

設例に当てます。Aのメールに、「100万円で売ります。ただし、それ以上の値段で買う人が出たら撤回します」と付けてあれば、撤回できます。付けていなければ、撤回できません。ですから、冒頭の問いの答えが出ます。Aが「無かったことに」と送っても、その撤回は効力がありません。Bが期限内に承諾を届ければ、契約は成立します。そのあとAがCに引き渡してしまい、Bに引き渡せなくなれば、Bに対する債務不履行になります。期限つきの申込みを撤回できないのは、相手が、期限まで考えてよいと信じるからです。その間に、中身を調べたり、買うための資金を用意したりします。その信頼を守るためです。ここは、こちらの説明の札です。条文は、趣旨を書いていません。

523条2項。期間内に承諾の通知を受けなかったときは、申込みは効力を失う。受けなかった=申込者(A)に届かなかった。設例(期限は月末)=Bの承諾メールが月末までにAに届かなければ、申込みは効力を失う。期限を過ぎて届いた承諾は、契約を成立させない。遅れて届いた承諾の扱いは承諾の側の話。 図:523条2項

  • 期間内に承諾の通知を受けなかったときは、申込みは効力を失う
  • 受けなかった=申込者(A)に届かなかった
  • 設例(期限は月末)=Bの承諾メールが月末までにAに届かなければ、申込みは効力を失う
  • 期限を過ぎて届いた承諾は、契約を成立させない
  • 遅れて届いた承諾の扱いは承諾の側の話

2項は、期間内に承諾の通知を受けなかったときは、申込みが効力を失う、と定めています。受けなかった、とは、申込者に届かなかった、ということです。柱1の、届いた時に成立する、という話とつながります。期限が月末なら、Bの承諾メールが月末までにAに届かなければ、申込みは効力を失います。期限を過ぎて届いた承諾は、契約を成立させません。遅れて届いた承諾をどう扱うかは、承諾の側の話です。

柱2——承諾期間のない申込み

承諾期間のない申込み(525条1項)。設例の変種1=Aのメールに期限が付いていなかったら。条文=承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは、撤回できない。ただし、留保したときは別。相当な期間の中身(学説の整理)=Bが考える時間+Bの承諾の通知がAに届くまでに通常かかる時間。 図:承諾期間のない申込み

  • 525条1項
  • 設例の変種1=Aのメールに期限が付いていなかったら。条文=承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは、撤回できない。ただし、留保したときは別。相当な期間の中身(学説の整理)=Bが考える時間
  • Bの承諾の通知がAに届くまでに通常かかる時間。

設例を変えます。変種1、Aのメールに、期限が付いていなかったら、どうなるでしょう。条文はこれです。1項から3項まで、全部を見ます。

条文民法525条

民法第525条(承諾の期間の定めのない申込み) 1 承諾の期間を定めないでした申込みは、申込者が承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは、撤回することができない。ただし、申込者が撤回をする権利を留保したときは、この限りでない。 2 対話者に対してした前項の申込みは、同項の規定にかかわらず、その対話が継続している間は、いつでも撤回することができる。 3 対話者に対してした第一項の申込みに対して対話が継続している間に申込者が承諾の通知を受けなかったときは、その申込みは、その効力を失う。ただし、申込者が対話の終了後もその申込みが効力を失わない旨を表示したときは、この限りでない。

まず1項です。承諾の期間を定めないでした申込みは、申込者が承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは、撤回することができない。留保のただし書は、523条と同じ型です。期限が付いていなくても、相当な期間が過ぎるまでは、Aは撤回できません。

期限が無くても撤回できない理由(こちらの説明)。期限つきのときと同じ信頼が、Bにある。返事が届くまでは待ってもらえると考えて、焙煎機の状態を確かめたり、置き場所を考えたりする。期限が書いていないだけで、その信頼は育っている。だから相当な期間は撤回できない。 図:期限が無くても撤回できない理由

  • こちらの説明
  • 期限つきのときと同じ信頼が、Bにある。返事が届くまでは待ってもらえると考えて、焙煎機の状態を確かめたり、置き場所を考えたりする。期限が書いていないだけで、その信頼は育っている。だから相当な期間は撤回できない。

期限の無い申込みでも撤回が制限されるのは、期限つきのときと同じ信頼が、Bにあるからです。メールを受け取ったBは、返事が届くまでのあいだは待ってもらえると考えて、焙煎機の状態を確かめたり、置き場所を考えたりします。期限が書いていないだけで、その信頼は育っています。だから、相当な期間は撤回できません。ここは、こちらの説明の札です。

相当な期間とは(学説の整理)。条文は相当な期間としか書いていない。学説=2つの時間の合計(Bが承諾か断るかを決めるために考える時間+Bの承諾の通知がAに届くまでに通常かかる時間)。長さは取引の中身で変わる(100万円の機械なら少し調べる時間が要る。返事がすぐ届く手段なら、届くまでの時間は短い)。何日と決まった数字はない。 図:相当な期間とは

  • 学説の整理
  • 条文は相当な期間としか書いていない。学説=2つの時間の合計(Bが承諾か断るかを決めるために考える時間+Bの承諾の通知がAに届くまでに通常かかる時間)。長さは取引の中身で変わる(100万円の機械なら少し調べる時間が要る。返事がすぐ届く手段なら、届くまでの時間は短い)。何日と決まった数字はない。

条文は、相当な期間としか書いていません。学説は、2つの時間の合計だと整理します。1つは、Bが、承諾するか断るかを決めるために考える時間。もう1つは、Bの承諾の通知がAに届くまでに、通常かかる時間です。長さは、取引の中身で変わります。値段が100万円の機械なら、少し調べる時間が要ります。返事がすぐ届く手段なら、届くまでの時間は短くなります。ですから、何日、と決まった数字があるわけではありません。

撤回されないまま放っておかれた申込みは、いつ効力を失うのか。525条1項=撤回の制限だけを定めていて、効力を失う時期は民法の条文に書いていない。学説=撤回できるようになったあと、さらに相当な期間が過ぎれば効力を失う、と整理する。長さは申込みの趣旨や取引の慣行でも変わる、という整理もある。札=学説。 図:撤回されないまま放っておかれた申込みは、いつ効力を失うのか

  • 525条1項=撤回の制限だけを定めていて、効力を失う時期は民法の条文に書いていない
  • 学説=撤回できるようになったあと、さらに相当な期間が過ぎれば効力を失う、と整理する
  • 長さは申込みの趣旨や取引の慣行でも変わる、という整理もある
  • 札=学説

問2に当たる所です。撤回されないまま放っておかれた申込みは、いつ効力を失うのか。実は、525条1項は、撤回の制限だけを書いていて、効力を失う時期は、条文に書いていません。ここは、学説の札です。学説は、撤回できるようになったあと、さらに相当な期間が経過すれば、申込みは効力を失う、と整理します。ただ、その長さは、申込みの趣旨や取引の慣行でも変わる、という整理もあります。条文には無く、学説が整理している、と押さえてください。

柱2——相手が対話者のとき

相手が対話者のとき(525条2項・3項)。対話者=電話の相手のように、意思表示が届くのに時間がかからない相手(距離ではなく時間で見る)。2項=対話が継続している間は、いつでも撤回できる。3項=対話が継続している間に承諾の通知を受けなかったときは、効力を失う。ただし、申込者が対話の終了後も効力を失わない旨を表示したときは別。 図:相手が対話者のとき

  • 525条2項・3項
  • 対話者=電話の相手のように、意思表示が届くのに時間がかからない相手(距離ではなく時間で見る)。2項=対話が継続している間は、いつでも撤回できる。3項=対話が継続している間に承諾の通知を受けなかったときは、効力を失う。ただし、申込者が対話の終了後も効力を失わない旨を表示したときは別。

続いて、変種2です。Aが、電話で話しながら申し込んでいたら、どうなるか。先ほど読んだ525条の、2項と3項です。対話者とは、電話の相手のように、すぐに返事ができる相手のことです。距離ではなく、意思表示が届くのに時間がかからないかどうかで見ます。2項は、対話者に対してした申込みは、その対話が継続している間は、いつでも撤回することができる、と定めます。3項は、対話が継続している間に承諾の通知を受けなかったときは、申込みが効力を失う、と定めます。ただし、申込者が、対話の終了後も効力を失わない旨を表示したときは、別です。

設例への当てはめ(変種2・電話)。Aが電話で「100万円で売る」と言っている最中=電話を切るまで、Aはいつでも撤回できる。Bがその場で承諾しないまま電話が終われば=申込みは効力を失う。Aが「このあとも有効にしておきます」と言っていれば=別(効力を失わない)。 図:設例への当てはめ

  • 変種2・電話
  • Aが電話で「100万円で売る」と言っている最中=電話を切るまで、Aはいつでも撤回できる。Bがその場で承諾しないまま電話が終われば=申込みは効力を失う。Aが「このあとも有効にしておきます」と言っていれば=別(効力を失わない)。

設例に当てます。Aが電話で「100万円で売る」と言っている最中は、電話を切るまで、Aはいつでも撤回できます。Bがその場で承諾しないまま電話が終われば、申込みは効力を失います。Aが「このあとも有効にしておきます」と言っていれば、別です。

対話の最中は撤回できる理由(こちらの説明)。1つめ=その場で返事ができる(Bに考える時間を確保する必要が弱い)。2つめ=交渉の最中で、Bはまだ何の準備も始めていない(守るべき信頼が育っていない)。3つめ=対話が終われば、ふつうは交渉が決裂したということ。2項・3項は2017年の改正で置かれた(それまで有力だった解釈を条文にした)。対象は承諾期間を定めない申込み。対話者に承諾期間を定めたなら523条。 図:対話の最中は撤回できる理由

  • こちらの説明
  • 1つめ=その場で返事ができる(Bに考える時間を確保する必要が弱い)。2つめ=交渉の最中で、Bはまだ何の準備も始めていない(守るべき信頼が育っていない)。3つめ=対話が終われば、ふつうは交渉が決裂したということ。2項・3項は2017年の改正で置かれた(それまで有力だった解釈を条文にした)。対象は承諾期間を定めない申込み。対話者に承諾期間を定めたなら523条。

対話の最中ならいつでも撤回できる、とされる理由は、3つあります。1つめ、その場で返事ができるので、Bに考える時間を確保する必要が弱い。2つめ、交渉の最中で、Bはまだなんの準備も始めていないので、守るべき信頼が育っていない。そして3つめ、対話が終われば、ふつうは交渉が決裂したということです。ここは、こちらの説明の札です。2項と3項は、2017年の改正で置かれた規定です。それまで有力だった解釈を、条文にしたものです。もう1つ、条文の読みです。この2項と3項は、前項の申込みを対象にしているので、承諾期間を定めない申込みの話です。対話者に、承諾期間を定めて申し込んだなら、523条で読みます。

柱2——3つの場面を並べる

3つの場面の表。承諾期間あり=撤回できない(留保したときを除く)/期間内に承諾の通知を受けなかったとき効力を失う/523条1項・2項。承諾期間なし(返事が届くまでに時間がかかる場合)=相当な期間が過ぎるまでは撤回できない(留保を除く)/効力を失う時期は民法の条文に無い(学説が整理する)/525条1項。承諾期間なし(対話者)=対話が継続している間はいつでも撤回できる/対話の継続中に承諾の通知を受けなかったとき効力を失う(終了後も有効と表示したときを除く)/525条2項・3項。 図:3つの場面の表

  • 承諾期間あり=撤回できない(留保したときを除く)/期間内に承諾の通知を受けなかったとき効力を失う/523条1項・2項
  • 承諾期間なし(返事が届くまでに時間がかかる場合)=相当な期間が過ぎるまでは撤回できない(留保を除く)/効力を失う時期は民法の条文に無い(学説が整理する)/525条1項
  • 承諾期間なし(対話者)=対話が継続している間はいつでも撤回できる/対話の継続中に承諾の通知を受けなかったとき効力を失う(終了後も有効と表示したときを除く)/525条2項・3項

3つの場面を、表に並べます。承諾期間があれば、撤回できず、期間内に承諾の通知を受けなければ効力を失う。523条です。承諾期間がなく、相手が対話者でなければ、相当な期間が過ぎるまで撤回できず、効力を失う時期は民法の条文に無い。525条1項です。承諾期間がなく、相手が対話者なら、対話の継続中はいつでも撤回でき、継続中に承諾を受けなければ効力を失う。525条の2項と3項です。525条1項の条文には、隔地者という言葉は出てきません。ただ、返事が届くまでに時間がかかる相手を、隔地者と呼ぶことがあります。メールや手紙のように、時間のかかる場合が、対話者でない場合です。

結論の分かれ目はBの信頼(こちらの説明)。承諾期間がある=期限まで考えてよいと信じて準備を始める→撤回できない。承諾期間がない(返事が届くまでに時間がかかる場合)=返事が届くまでの相当な期間は同じ→撤回できない。対話の最中=その場で返事ができ、準備もまだ始めていない。守るべき信頼が育っていない→いつでも撤回できる。冒頭のAは期限つき。 図:結論の分かれ目はBの信頼

  • こちらの説明
  • 承諾期間がある=期限まで考えてよいと信じて準備を始める→撤回できない。承諾期間がない(返事が届くまでに時間がかかる場合)=返事が届くまでの相当な期間は同じ→撤回できない。対話の最中=その場で返事ができ、準備もまだ始めていない。守るべき信頼が育っていない→いつでも撤回できる。冒頭のAは期限つき。

こちらの説明では、3つの場面の結論を分けているのは、Bの信頼が、どこまで育っているかです。期限つきなら、Bは期限まで考えてよいと信じて、準備を始めます。期限が無くても、返事が届くまでの相当な期間は、同じです。だから、この2つは撤回できません。対話の最中は、Bはその場で返事ができ、準備もまだ始めていません。守るべき信頼が育っていないので、いつでも撤回できます。冒頭のAは、期限つきでした。Bの信頼がいちばんはっきりしている場面なので、撤回できないのです。

柱3——申込者が亡くなったら

申込者が亡くなったら。原則=97条3項。意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、意思能力を喪失し、又は行為能力の制限を受けたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。例外=申込みについては526条がある。設例の変種3=Aが月の半ばに亡くなった。 図:申込者が亡くなったら

  • 原則=97条3項
  • 意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、意思能力を喪失し、又は行為能力の制限を受けたときであっても、そのためにその効力を妨げられない
  • 例外=申込みについては526条がある
  • 設例の変種3=Aが月の半ばに亡くなった

3つめの柱です。変種3、Aが月の半ばに亡くなったら、どうなるか。まず、原則です。意思表示を発した後に、表意者が亡くなったとき。97条3項です。

条文民法97条3項

民法第97条第3項(意思表示の効力発生時期等) 3 意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、意思能力を喪失し、又は行為能力の制限を受けたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。

意思表示は、発した後に表意者が死亡しても、そのために効力を妨げられません。これは、到達の回で見たとおりです。ただ、申込みだけは、この原則に例外があります。それが526条です。

申込みの一生と、死亡等の時点。申込みの通知を発する→〔Aの死亡等〕→Bがそれを知る→Bが承諾の通知を発する。知ったのが承諾の通知を発する前か後かで、結論が分かれる。前に知った=申込みは効力を有しない。承諾の通知を発するまでに知らなかった=申込みは効力を有する。 図:申込みの一生と、死亡等の時点

  • 申込みの通知を発する→〔Aの死亡等〕→Bがそれを知る→Bが承諾の通知を発する
  • 知ったのが承諾の通知を発する前か後かで、結論が分かれる
  • 前に知った=申込みは効力を有しない
  • 承諾の通知を発するまでに知らなかった=申込みは効力を有する

時間の流れで見ます。Aが申込みの通知を発する。そのあとで、Aが亡くなる。Bがそれを知る。Bが承諾の通知を発する。この順が基本です。条文は、Aが申込みの通知を発した後に、死亡等をした場合を扱っています。

条文民法526条

民法第526条(申込者の死亡等) 申込者が申込みの通知を発した後に死亡し、意思能力を有しない常況にある者となり、又は行為能力の制限を受けた場合において、申込者がその事実が生じたとすればその申込みは効力を有しない旨の意思を表示していたとき、又はその相手方が承諾の通知を発するまでにその事実が生じたことを知ったときは、その申込みは、その効力を有しない。

読みます。申込者が申込みの通知を発した後に、死亡し、意思能力を有しない常況にある者となり、または行為能力の制限を受けた場合です。常況とは、その状態が、ふだんの状態になっていることです。この場合に、2つのどちらかに当たれば、申込みは効力を有しません。

526条の2つの場面。1 申込者が「その事実が生じたとすれば、その申込みは効力を有しない」旨の意思を表示していたとき(例=「私に万一のことがあったら、この話は無かったことに」と書いてあった)。2 相手方が、承諾の通知を発するまでに、その事実が生じたことを知ったとき。 図:526条の2つの場面

  • 1 申込者が「その事実が生じたとすれば、その申込みは効力を有しない」旨の意思を表示していたとき(例=「私に万一のことがあったら、この話は無かったことに」と書いてあった)
  • 2 相手方が、承諾の通知を発するまでに、その事実が生じたことを知ったとき

1つめの場面は、申込者自身が、そうなったら効力を失う、と表示していたときです。たとえば、Aが「私に万一のことがあったら、この話は無かったことに」と書いていた場合です。2つめの場面は、相手方が、承諾の通知を発するまでに、その事実が生じたことを知ったときです。

設例への当てはめ(変種3)。月の初め=Aが申込みの通知を発し、メールがBに届く。月の半ば=Aが亡くなる。月末まで=Bが承諾の通知を発する。条文が見る期間=申込みの通知を発した後〜承諾の通知を発するまで。申込みが届く前か、届いたあとかでは分けていない。 図:設例への当てはめ

  • 変種3
  • 月の初め=Aが申込みの通知を発し、メールがBに届く。月の半ば=Aが亡くなる。月末まで=Bが承諾の通知を発する。条文が見る期間=申込みの通知を発した後〜承諾の通知を発するまで。申込みが届く前か、届いたあとかでは分けていない。

設例に当てます。Aのメールは、月の初めに、もうBに届いています。Aが亡くなったのは、そのあとの、月の半ばです。それでも、526条の場面です。条文が見ているのは、申込みの通知を発した後から、相手方が承諾の通知を発するまでの間です。申込みが届く前か、届いたあとかでは、分けていません。

Bがいつ知ったかで分ける。承諾の通知を発する前にAの死亡を知った=申込みは効力を有しない(Bが「買います」と返しても成立しない)。知らないまま月末までに「買います」と発し、期限内に届いた=申込みは生きている(届いた承諾で成立し、Aの相続人が売主になる)。知ったのが承諾の通知を発したあと=申込みは生きたまま(526条の2つめの場面に当たらない)。分かれ目は、知った時が承諾の通知を発する前か後か。 図:Bがいつ知ったかで分ける

  • 承諾の通知を発する前にAの死亡を知った=申込みは効力を有しない(Bが「買います」と返しても成立しない)
  • 知らないまま月末までに「買います」と発し、期限内に届いた=申込みは生きている(届いた承諾で成立し、Aの相続人が売主になる)
  • 知ったのが承諾の通知を発したあと=申込みは生きたまま(526条の2つめの場面に当たらない)
  • 分かれ目は、知った時が承諾の通知を発する前か後か

そのうえで、Bがいつ知ったかで分けます。亡くなったのは、どの場合もAです。まず、Bが、承諾の通知を発する前に、Aの亡くなったことを知った場合です。申込みは効力を有しません。Bが「買います」と返しても、契約は成立しません。次に、Bが、Aの亡くなったことを知らないまま、月末までに「買います」と発し、それが期限内に届いた場合です。申込みは生きているので、届いた承諾で契約は成立し、Aの相続人が売主になります。Bが知ったのが、承諾の通知を発したあとであれば、526条の2つめの場面には当たらず、申込みは生きたままです。分かれ目は、Bが知った時が、承諾の通知を発する前か後かです。

申込みだけが例外になっている理由(こちらの説明)。申込みは、相手が乗ってくることを予定した、まだ片道の意思表示。承諾が返ってくるまで契約は完成していない。途中でAが亡くなると、契約を引き受けることになるのはAの相続人。Bが知らずに承諾を発した=Bは契約が成り立つと考えて動いている。申込みを生かして相続人に引き受けてもらう。Bが知ったうえで承諾する=守るものが無い。まだ完成していない契約を、相続人に負わせる理由が無い。 図:申込みだけが例外になっている理由

  • こちらの説明
  • 申込みは、相手が乗ってくることを予定した、まだ片道の意思表示。承諾が返ってくるまで契約は完成していない。途中でAが亡くなると、契約を引き受けることになるのはAの相続人。Bが知らずに承諾を発した=Bは契約が成り立つと考えて動いている。申込みを生かして相続人に引き受けてもらう。Bが知ったうえで承諾する=守るものが無い。まだ完成していない契約を、相続人に負わせる理由が無い。

到達の回で、申込みは、相手が乗ってくることを予定した、まだ片道の意思表示だ、と言いました。承諾が返ってくるまで、契約はまだ完成していません。その途中でAが亡くなると、契約を引き受けることになるのは、Aの相続人です。Bが、Aの亡くなったことを知らずに承諾を発したなら、Bは、契約が成り立つと考えて動いています。だから申込みを生かして、相続人に引き受けてもらいます。けれども、Aがもういないと知ったうえで承諾するBには、そうして守るものがありません。まだ完成していない契約を、相続人に負わせる理由が無いのです。ここは、こちらの説明の札です。条文は、趣旨を書いていません。

反対の側、承諾をするBが亡くなったら。Bが承諾の通知を発した後に亡くなった=例外は無い。97条3項の原則どおり。承諾がAに届けば、契約は成立する。理由=承諾は、契約を完成させる側の意思表示だから。 図:反対の側、承諾をするBが亡くなったら

  • Bが承諾の通知を発した後に亡くなった=例外は無い
  • 97条3項の原則どおり
  • 承諾がAに届けば、契約は成立する
  • 理由=承諾は、契約を完成させる側の意思表示だから

反対の側も、確かめておきます。今度は、承諾をするBの身に起きた場合です。Bが、承諾の通知を発した後に亡くなったら、どうなるか。こちらには例外がありません。97条3項の原則どおりで、承諾がAに届けば、契約は成立します。承諾は、契約を完成させる側の意思表示だからです。

弁別——似た事例を3問

練習問題1。月末までと期限を付けたAのメール。Bの承諾メールがAに届いたのは、期限の翌日だった。問い=契約は成立するか。 図:練習問題1

  • 月末までと期限を付けたAのメール
  • Bの承諾メールがAに届いたのは、期限の翌日だった
  • 問い=契約は成立するか

ここからは練習です。答えは、そのつど言います。問1です。Aは、「今月末まで」と期限を付けてBに申し込みました。Bの承諾メールがAに届いたのは、翌月のついたちでした。契約は成立するでしょうか?成立しません。場面は、承諾期間のある申込みです。条文は523条2項で、期間内に承諾の通知を受けなかったので、申込みは効力を失っています。決め手は、見るのが、送った日ではなく、届いた日だということです。

練習問題2。期限を付けなかったAのメール。同じ日の夕方、Aが「やはり売りません」と送った。問い=撤回できるか。 図:練習問題2

  • 期限を付けなかったAのメール
  • 同じ日の夕方、Aが「やはり売りません」と送った
  • 問い=撤回できるか

問2です。Aは、期限を付けずにBへメールしました。同じ日の夕方、Aは「やはり売りません」と送りました。この撤回は、できるでしょうか?この撤回は、できません。場面は、承諾期間のない申込みで、相手は対話者ではありません。525条1項で、相当な期間が過ぎるまでは、撤回できません。100万円の機械を考える時間と、返事が届く時間を考えると、同じ日の夕方では、相当な期間は、まだ過ぎていないと見られます。ただし、相当な期間は、取引の中身や通信手段で変わります。何日、と決まっているわけではありません。

練習問題3。電話で「100万円で売る」と話していたAが、通話を切る前に撤回した。別の場面=Bが「考えさせて」と言って電話が終わり、翌日Bが「買います」と返した。問い=それぞれ、どうなるか。 図:練習問題3

  • 電話で「100万円で売る」と話していたAが、通話を切る前に撤回した
  • 別の場面=Bが「考えさせて」と言って電話が終わり、翌日Bが「買います」と返した
  • 問い=それぞれ、どうなるか

問3です。Aは、電話でBに「100万円で売る」と話していました。通話を切る前に、Aは撤回しました。これは、できるでしょうか? もう1つの場面もあります。Bが「考えさせて」と言って電話が終わり、翌日、Bが「買います」と返しました。こちらは、どうなるでしょう?前の場面は、電話の最中なので撤回できて、後の場面は、もう通話が終わっているので、申込みは効力を失っていると思います。前の場面は、525条2項です。対話が継続している間は、いつでも撤回できます。問2と同じく期限は無いのに、結論が逆になるのは、相手が対話者だからです。こちらの説明では、その場で返事ができ、Bはまだなんの準備も始めていない場面だからです。後の場面は、525条3項です。対話が継続している間に承諾の通知を受けていないので、申込みは効力を失いました。Aが、対話の終了後も有効だと表示していた場合は、別です。

冒頭の問いに戻る——まとめ

今日のまとめ。3つの柱=1 契約は、申込みに承諾が届いた時に成立する(522条1項・97条1項)。申込みと申込みの誘引は、承諾だけで成立させられる程度に内容が示されているか/相手を選びたいかで分ける/2 申込みの効力=承諾期間あり(撤回できず、期間内に承諾の通知を受けなければ効力を失う)、なし(相当な期間は撤回できない)、対話者(対話の継続中はいつでも撤回できる)。 図:今日のまとめ

  • 3つの柱=1 契約は、申込みに承諾が届いた時に成立する(522条1項・97条1項)
  • 申込みと申込みの誘引は、承諾だけで成立させられる程度に内容が示されているか/相手を選びたいかで分ける/2 申込みの効力=承諾期間あり(撤回できず、期間内に承諾の通知を受けなければ効力を失う)、なし(相当な期間は撤回できない)、対話者(対話の継続中はいつでも撤回できる)

3つの柱で整理します。1つめ、契約は、申込みに承諾が届いた時に成立します。522条1項と97条1項です。申込みと誘引の区別は、承諾だけで成立させられる程度に内容が示されているか、相手を選びたいか、で見ます。2つめ、申込みの効力です。承諾期間があれば、撤回できず、期間内に承諾の通知を受けなければ、効力を失います。期間がなければ、相当な期間が過ぎるまで撤回できません。対話者なら、対話が継続している間は、いつでも撤回できます。

今日のまとめ。3つの柱=3 申込者が亡くなったら=申込みの通知を発した後に亡くなっても、効力は原則として妨げられない(97条3項)。ただし526条の2場面は別(表示していたとき/相手方が承諾の通知を発するまでに知ったとき)。冒頭の問いの答え=Aは撤回できない。Bの承諾が期限内に届けば契約は成立する。 図:今日のまとめ

  • 3つの柱=3 申込者が亡くなったら=申込みの通知を発した後に亡くなっても、効力は原則として妨げられない(97条3項)
  • ただし526条の2場面は別(表示していたとき/相手方が承諾の通知を発するまでに知ったとき)
  • 冒頭の問いの答え=Aは撤回できない
  • Bの承諾が期限内に届けば契約は成立する

3つめ、申込者が亡くなったときです。発した後に亡くなっても、効力は原則として妨げられません。ただし、526条の2つの場面は別で、相手方が承諾の通知を発するまでに知ったかどうかが分かれ目でした。冒頭の問いに戻ります。Aは、期限つきの申込みを撤回できません。Bの承諾が期限内にAに届けば、契約は成立します。AがCに引き渡してしまい、Bに引き渡せなくなれば、Bに対する債務不履行になります。期限が無ければ、相当な期間が過ぎるまでは撤回できません。電話なら、切るまでは撤回できます。Aが亡くなったなら、Bが知ったのが、承諾の通知を発する前か後かで分かれます。

参照条文

  • 民法522条
  • 民法523条
  • 民法525条
  • 民法97条3項
  • 民法526条

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