建物買取請求権
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第5章 契約 #266/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
借地が終わったら家は壊すのか
図:冒頭の設例の関係図
- Aは土地の持ち主で、30年の約束でBに土地を貸している
- Bは借りた土地に家を建てて暮らしてきた
- 期間が満了し、Aは更新に異議を述べて、借地は更新されずに終わる
- BからAへ「この家はどうなるのか」の矢印に「?」
登場人物に記号を付けます。Aが、土地の持ち主です。Bが、土地を借りて家を建てた人です。先に答えの方向を言います。Bは、家を壊して返す必要はありません。Aに対して、家を時価で買い取るよう、請求できます。ただし、この請求を使える人と、使えない人がいます。分かれ目は、借り手が誠実だったかどうかです。今日は、借地が終わるときの手当てを、順番に見ます。そして、冒頭の問いに、もう一度答えます。
借地が終わるとき——建物買取請求権
図:借地が終わるときの入口
- 期間が満了し、更新も無い
- 借り手の建物はどうなるか
- 更地にして返す、では投資が無駄になる
- そこで、借り手は地主に建物を時価で買い取れと請求できる
冒頭の場面です。地主のAが、前回見た正当事由のある異議を述べて、借地は更新されずに終わりました。Bは、建物を壊して更地で返すしかないのでしょうか。それでは、30年かけて使ってきた家という財産が、ゼロになります。条文は、そこで、借り手に権利を与えています。
条文借地借家法13条
借地借家法第13条 1 借地権の存続期間が満了した場合において、契約の更新がないときは、借地権者は、借地権設定者に対し、建物その他借地権者が権原により土地に附属させた物を時価で買い取るべきことを請求することができる。 2 前項の場合において、建物が借地権の存続期間が満了する前に借地権設定者の承諾を得ないで残存期間を超えて存続すべきものとして新たに築造されたものであるときは、裁判所は、借地権設定者の請求により、代金の全部又は一部の支払につき相当の期限を許与することができる。 3 前二項の規定は、借地権の存続期間が満了した場合における転借地権者と借地権設定者との間について準用する。
読み方です。要件は2つです。借地権の存続期間が満了したこと。そして、契約の更新がないこと。更新がない、とは、前回見た、請求や使用の継続による法定更新もなく、合意による更新もない、という意味です。効果は、借地権者が、借地権設定者、つまり地主に、建物を時価で買い取れと請求できることです。言葉を二つ確かめます。権原により、とは、借地権という正当な権利に基づいて、という意味です。借地権に基づいて建てた家は対象になり、無断で勝手に付けた物は対象になりません。そして、2項は、地主の承諾なく、残りの期間を超えて長持ちする建物を新築していたとき、裁判所が代金の支払に期限を認められる、という調整です。3項は、転借地権者、つまり借地権者から土地を又貸しされた人にも、同じ請求を認める準用です。この二つは、名前だけ押さえれば足ります。
地主の承諾は要りません。この請求は、形成権だからです。形成権とは、一方的な意思表示だけで、法律関係を変える効果が生じる権利のことです。取消しや解除と同じ型です。借り手が「買い取ってください」と意思表示をした時点で、建物の売買が成立したのと同じ効果が生じます。電気のスイッチのようなもので、押せば、相手の同意なしに、点きます。例で見ます。Bが30年の借地で家を建てて住み、更新されずに終わったとします。Bは、Aに「この家を時価で買い取ってください」と意思表示をします。これでAとBの間に、建物の売買が成立します。Bには建物の代金が入り、Aは建物を自分のものとして、土地を使えます。
図:時価の中身
- 建物が現存するままの状態における価格
- 建物を壊した動産としての価格ではない
- 敷地の借地権そのものの価格は加算しない
- 建物の存在する場所的環境は参酌する(最判昭35・12・20)
時価の中身も押さえます。判例は、建物が現存するままの状態における価格だと言います。壊して材木にした値段ではありません。敷地の借地権そのものの価格は足しません。ただし、その建物が、どんな場所にあるかは、考えに入れます。駅前の家とへんぴな場所の家では、値段が違ってよいからです。契約の時に「買取請求はしない」と書いてあったら、使えなくなりますか?使えなくなりません。次の条文があるからです。
条文借地借家法16条
借地借家法第16条 第十条、第十三条及び第十四条の規定に反する特約で借地権者又は転借地権者に不利なものは、無効とする。
読み方です。10条、13条、14条に反する特約で、借り手に不利なものは、無効です。買取請求はしない、という特約は、借り手に不利なので、無効です。前に見た9条と同じ、借り手だけを守る片面的な強行規定です。13条を外せるのは、前回見た、更新されない借地である定期借地権のように、条文自身が外すことを認めている場面だけです。ただし、この請求にも限界があります。誰でも使えるわけではありません。長く滞納した借り手は、債務不履行を理由に、地主から契約を解除されたとします。判例は、借地人の債務不履行で土地の賃貸借が解除された場合には、買取請求権は認められない、としました。判旨を読みます。
判例最判昭35・2・9 民集14巻1号108頁
債務不履行による解除と買取請求権 借地法四条二項の規定は誠実な借地人保護の規定であるから、借地人の債務不履行による土地賃貸借解除の場合には借地人は同条項による買取請求権を有しないものと解すべきである。
読み方です。借地法4条2項は、今の13条1項にあたる規定です。この規定は、誠実な借地人を守る規定だから、債務不履行で解除された借地人には、買取請求権が無い、という判断です。決め手は、誠実さです。約束を破られて契約を終わらせた地主に、さらに家の代金まで払わせるのは、筋が通りません。家を手放すことになったのは、借り手が自分で招いた結果だからです。境目のペアで考えます。契約の期間が満了して、更新されずに終わった借り手は、約束を守ってきた人なので、買取請求ができます。一方、地代を長く滞納して、解除された借り手は、約束を破った人なので、できません。期間満了で終わる場合と、債務不履行で終わる場合が、分かれ目です。冒頭のBは、期間満了型なので、使える側です。
請求したあとの関係
図:買取請求のあとの問い
- 借り手Bは、地主Aから代金を受け取るまで、建物を引き渡さずに敷地に居続けられるか
- 居続けるあいだの敷地の使用料はどうなるか
ここで、前に学んだ同時履行と留置権を、思い出してください。建物買取請求を行使した借地人は、代金を受け取るまで、敷地に居続けられるでしょうか。その間の敷地の使用料は、どうなるでしょうか?居続けられる、という点は、そのとおりです。使用料の扱いも含めて、順に整理します。請求で建物の売買が成立しました。売買の代金の支払と、建物の引渡しは、同時履行の関係に立ちます。代金をまだ払わない相手に、建物だけ先に渡させるのは、不公平だからです。だから、Bは、代金を受け取るまで、建物の引渡しを拒めます。また、代金債権は、建物に関して生じた債権なので、代金を払ってもらうまで建物を手元に留めておける、留置権を主張しても、同じ結論になります。建物を引き渡さずに住み続ければ、建物が建っている敷地も、反射的に使い続けることになります。そこで、判例が、次の点を判断しています。
判例最判昭35・9・20 民集14巻11号2227頁
買取請求後の敷地の占有と賃料相当額 建物買取請求権を行使した後は、買取代金の支払あるまで右建物の引渡を拒むことができるけれども、右建物の占有によりその敷地をも占有するかぎり、敷地占有に基く不当利得として敷地の賃料相当額を返還すべき義務あることは、大審院の判例とするところであり……いまこれを変更する要を見ない。
読み方です。代金をもらうまで、建物の引渡しは拒める。しかし、その建物の占有で敷地も占有しているかぎり、敷地を使った分の賃料相当額は、不当利得として返す義務がある、ということです。この事件は、14条の買取請求にあたる場面でしたが、買取請求のあとの関係は、13条の場合も同じです。
図:買取請求のあとの関係
- 請求で売買が成立
- 代金と建物の引渡しは同時履行(533条)
- 建物の代金債権は、建物に関して生じた債権として留置権の被担保債権になる
- 建物の引渡しを拒める
- 敷地も反射的に占有
- ただし敷地を使う分の賃料相当額は不当利得として返す
- 居続けられる≠タダ
居続けてよいなら、使用料も払わなくてよさそうなのに、なぜ払うのですか?居続けられることと、タダで使えることは別だからです。建物の引渡しを拒めるのは、代金をまだ受け取っていないから、公平のために認められた拒絶です。敷地を使う権利が、新しく生まれたわけではありません。土地を使えば、その分の利益を地主は失います。その利益を返すのが不当利得です。留置権の回で見たのと、同じです。たとえば地代がひと月3万円なら、Bは居続けた月ごとに、3万円分をAに返します。一つ補足です。請求の前の期間については、借りていた期間の賃料の請求は、そのまま残ります。請求の後に、不当利得が始まる、という流れです。答案では、請求、売買の成立、同時履行と留置、不当利得、の順に書きます。ここは、論文で論点になりうるところです。
買い取らせるのは誰か——14条と25条
図:14条の事例
- Aは地主
- Bは借地権者で、借地上の建物をEに売った
- Eは賃借権も一緒に譲り受けたが、Aは承諾しない
- 民法612条なら解除と明渡しの話だが、Eは借地借家法14条でAに建物を時価で買い取れと請求できる
もう1つ、買い取らせる場面があります。13条は、借地が終わるときでした。次は、借地が続いている途中の話です。借地権者のBが、借地上の建物を、Eに売りました。Eは、建物と一緒に、借地の賃借権も譲り受けました。ところが、地主のAは、その賃借権の譲渡を承諾しません。無断譲渡の回で見たとおり、民法612条では、賃借権を譲るには地主の承諾が要り、無断で譲れば、地主は解除できます。そうなると、Eは建物を持ったまま追い出されます。そこで、次の条文があります。
条文借地借家法14条
借地借家法第14条 第三者が賃借権の目的である土地の上の建物その他借地権者が権原によって土地に附属させた物を取得した場合において、借地権設定者が賃借権の譲渡又は転貸を承諾しないときは、その第三者は、借地権設定者に対し、建物その他借地権者が権原によって土地に附属させた物を時価で買い取るべきことを請求することができる。
読み方です。第三者が、借地上の建物を取得したとします。借地権設定者、つまり地主が、賃借権の譲渡を承諾しないとき、その第三者が、地主に建物を時価で買い取れと請求できます。これも形成権で、16条により、これを排除する特約は無効です。
図:13条と14条の比較
- 13条=請求する人は借地権者、場面は期間満了で更新が無いとき、地主の意思は問わない
- 14条=請求する人は建物を取得した第三者、場面は賃借権の譲渡・転貸を地主が承諾しないとき、賃借権の場合だけ(地上権は譲渡が自由)
13条と並べます。13条は、請求する人が借地権者です。場面は、期間満了で、更新がないときです。14条は、請求する人が、建物を取得した第三者です。場面は、賃借権の譲渡や転貸を、地主が承諾しないときです。つまり、誰が請求するか、どんな場面か、の2点で区別します。14条の対象は、賃借権の場合だけです。地上権は、地主の承諾が無くても自由に譲渡できるので、承諾しない、という場面が生まれません。立ち止まって考えてみましょう。建物を買った第三者のEが、地主に賃借権の譲渡を承諾されなかったとき、Eは、誰に何を請求できるでしょうか?
地主のAに、建物を時価で買い取るよう請求できます。13条を使える借地権者のBではなく、建物を取得したEが請求する点が違います。なお、Eがこの建物を誰かに貸していても、その借りている人が、Eに代わって買取請求をすることはできません。債権者代位、つまり自分の権利を守るために相手の権利を代わりに使う仕組みは、それで自分の権利が守られるときにしか使えないと、その回で見ました。Eが受け取るのは代金というお金だけで、建物を借りる権利は守れません。もう1つ、13条が使えない借地があります。25条です。
条文借地借家法25条
借地借家法第25条 第三条から第八条まで、第十三条、第十七条、第十八条及び第二十二条から前条までの規定は、臨時設備の設置その他一時使用のために借地権を設定したことが明らかな場合には、適用しない。
読み方です。臨時設備の設置など、一時使用のために借地権を設定したことが明らかなときは、存続期間や更新の規定、13条の買取請求、定期借地権の規定などが、適用されません。
図:25条の適用関係
- 適用しない=3条から8条(存続期間・更新)、13条(買取請求)、17条・18条、22条から24条(定期借地権)
- 適用される=10条(対抗力)、14条(第三者の買取請求)、19条(承諾に代わる許可)
- 例=期間限定の催事の仮設建物のための借地
たとえば、期間限定の催事のための、仮設の建物を建てる借地です。家を建てて暮らす借地とは違い、守るべき大きな投資が無いので、更新や買取請求は要りません。ただし、条文の列挙に無い、10条、14条、19条は、適用されます。10条は借地権の対抗力、19条は、地主の承諾に代わる、裁判所の許可です。この列挙が、短答の出題ポイントです。
確かめる
図:確かめるその1
事例で確かめます。1つめ。13条と14条で、買取請求をする人は、それぞれ誰でしょうか?
図:答えその1
- 13条=借地権者(期間満了・更新なし)
- 14条=建物を取得した第三者(賃借権の譲渡・転貸を地主が承諾しない)
13条は、期間満了で更新がないときの借地権者です。14条は、地主が賃借権の譲渡を承諾しないときの、建物を取得した第三者です。
図:確かめるその2
2つめ。地代を長く滞納して、土地の賃貸借を解除された借地人は、建物買取請求ができるでしょうか?
図:答えその2
- 債務不履行による解除の場合は、借地人は買取請求権を持たない
- 誠実な借地人保護の規定だから
できません。13条は誠実な借地人を守る規定だからです。
図:確かめるその3
- 期間限定の催事のための仮設建物の借地で、期間が終わった
- 借地人は13条の買取請求ができるか
3つめ。期間限定の催事のために、仮設の建物を建てる借地が、期間満了で終わりました。借地人は、13条の買取請求ができるでしょうか?
図:答えその3
- 一時使用が明らかな借地は、25条で13条が適用されない
- 買取請求はできない
- ただし14条は適用される
できません。一時使用のための借地だと明らかなので、25条で13条は適用されないからです。ただし、25条の列挙に無い14条は、一時使用の借地でも適用されます。
冒頭の問いの答え合わせ
図:今日のまとめ
- 1=借地が終わるとき、借地権者は地主に建物を時価で買い取れと請求できる(13条・形成権・特約で排除不可・債務不履行解除では不可)
- 2=請求後は同時履行・留置、敷地の賃料相当額は不当利得
- 3=建物を買った第三者は、地主が賃借権の譲渡を承諾しないとき14条で請求できる
- 4=一時使用の借地は25条で13条が外れる
今日の話を整理します。借地が更新されずに終わったとき、借地権者は、地主に、建物を時価で買い取れと請求できます。形成権で、特約でも排除できません。ただし、債務不履行で解除された人には使えません。請求のあとは、代金と建物の引渡しが同時履行で、敷地に居続けられても、賃料相当額は不当利得として返します。借地権者から建物を買った第三者は、地主が賃借権の譲渡を承諾しないとき、14条で買取りを請求できます。一時使用のための借地には、13条は適用されません。
図:冒頭の答え合わせ
- Bは建物を壊して更地で返す必要はない
- 期間満了で更新がないので、Aに建物を時価で買い取れと請求できる(Aの承諾は不要)
- ただし、地代の滞納などで解除された場合は使えない
冒頭の問いの答えです。借地が更新されずに終わっても、Bは、家を壊して更地で返す必要はありません。Aに、建物を時価で買い取れと請求できます。Aの承諾は要りません。ただし、Bが約束を守ってきた誠実な借り手であることが条件で、地代の滞納などで解除された場合には、使えないのでした。建物という大きな投資は、最後の場面でも、誠実な借り手には、守られます。
参照条文
- 借地借家法13条
- 借地借家法16条
- 借地借家法14条
- 借地借家法25条