民法ゼロから民法#267

借地権の対抗力と他人名義の登記

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第5章 契約 #267/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

長男名義の家は守られるか

冒頭の設例の関係図。Aは土地の持ち主で、Bに土地を貸している。Bは借りた土地に家を建て、建物の登記は長男Cの名義。AはDに土地を売り、Dは所有権の登記を備えた。DからBへ「建物を壊して出ていってください」の矢印に「?」。 図:冒頭の設例の関係図

  • Aは土地の持ち主で、Bに土地を貸している
  • Bは借りた土地に家を建て、建物の登記は長男Cの名義
  • AはDに土地を売り、Dは所有権の登記を備えた
  • DからBへ「建物を壊して出ていってください」の矢印に「?」

登場人物に記号を付けます。Aが、元の地主です。Bが、土地を借りて家を建てた人です。Cが、Bの長男で、建物の登記の名義人です。Dが、Aから土地を買った新しい地主です。先に答えの方向を言います。判例は、Bの負けとします。建物の登記が、借りているBではなく、長男Cの名義だったからです。借地の権利を、新しい地主に主張できません。登記がある、というだけでは足りないのです。今日は、借地をめぐる3つの場面を、順番に見ます。借地が売られたとき、借地を人に譲るとき、地代を動かすときです。そして、冒頭の問いに、もう一度答えます。

今日の地図(保存版)

今日の地図。1=借地が売られたとき(対抗力と他人名義の登記)。2=借地を人に譲るとき(承諾に代わる許可)。3=地代を動かすとき(増減請求)。 図:今日の地図

  • 1=借地が売られたとき(対抗力と他人名義の登記)
  • 2=借地を人に譲るとき(承諾に代わる許可)
  • 3=地代を動かすとき(増減請求)

順番は3つです。借地が売られたときの対抗力が、最初です。次に、借地を人に譲るときの許可です。最後に、地代の増減です。条文では、借り手を借地権者、貸している地主を借地権設定者と呼びます。軸は1本です。借地は、土地を借りるだけの契約ではありません。建物という大きな投資を、土地に埋める契約です。売られるときも、人に譲るときも、地代が合わなくなったときも、その投資をどう守るかが問われます。ただし、守る条件があります。権利が、新しい地主から見える形になっていること。この点が、今日の分かれ目です。

借地が売られたとき——対抗力と他人名義の登記

借地が売られたときの入口。地主Aが土地をDに売った。Dは借り手Bに出ていけと言えるか。賃借権は債権=原則はDに対抗できない。605条・借借10条1項・605条の2が、その例外をつくる。 図:借地が売られたときの入口

  • 地主Aが土地をDに売った
  • Dは借り手Bに出ていけと言えるか
  • 賃借権は債権=原則はDに対抗できない
  • 605条・借借10条1項・605条の2が、その例外をつくる

ここから、冒頭の問いの本題です。借りている土地が、他人に売られた場面です。まず、賃貸借の対抗要件を扱った回で見た土台を、思い出してください。不動産の賃借権が対抗要件を備える方法は、借りる物によって3つありました。借地の場合は、そのうちのどれでしたか?借地借家法10条1項の、借地上の建物の登記です。民法の条文から確認します。

条文民法605条

民法第605条 不動産の賃貸借は、これを登記したときは、その不動産について物権を取得した者その他の第三者に対抗することができる。

読み方です。賃貸借は、登記すれば、土地を買った人にも対抗できます。しかし、賃貸人には、賃貸借の登記に協力する義務が無いので、実際には、ほとんど登記されません。そこで、借地借家法が、建物の登記で代える道を作りました。

条文借地借家法10条

借地借家法第10条 1 借地権は、その登記がなくても、土地の上に借地権者が登記されている建物を所有するときは、これをもって第三者に対抗することができる。 2 前項の場合において、建物の滅失があっても、借地権者が、その建物を特定するために必要な事項、その滅失があった日及び建物を新たに築造する旨を土地の上の見やすい場所に掲示するときは、借地権は、なお同項の効力を有する。ただし、建物の滅失があった日から二年を経過した後にあっては、その前に建物を新たに築造し、かつ、その建物につき登記した場合に限る。

読み方です。借地権は、借地権そのものの登記が無くても、土地の上に、借地権者が登記されている建物を持っていれば、第三者に対抗できます。建物の登記が、借地権の登記の代わりを務める、というイメージです。2項は、建物が滅失しても、その建物を特定する事項などを、土地の見やすい場所に掲示すれば、対抗力が残る、という規定です。ただし、滅失から2年を過ぎたら、その前に新築して登記しておく必要があります。数字は、2年です。

条文民法605条の2第1項

民法第605条の2第1項 前条、借地借家法(平成三年法律第九十号)第十条又は第三十一条その他の法令の規定による賃貸借の対抗要件を備えた場合において、その不動産が譲渡されたときは、その不動産の賃貸人たる地位は、その譲受人に移転する。

読み方です。対抗要件の回で見たとおり、対抗要件があれば、地主の立場は新しい地主にそのまま移り、借地は続きます。ここで、冒頭の問いに戻ります。借地権者のBが、借地上の建物を、Bの名義で登記していたなら、10条1項により、BはDに借地権を対抗できます。ところが、冒頭の建物の登記は、長男のCの名義でした。これも、10条1項の、借地権者が登記されている建物にあたるのでしょうか。

登記名義と対抗力。B自身の名義の登記(所有権の登記)=対抗できる(10条1項)。Bを所有者と記載した表示の登記=対抗できる。長男C名義の登記=対抗できない。 図:登記名義と対抗力

  • B自身の名義の登記(所有権の登記)=対抗できる(10条1項)
  • Bを所有者と記載した表示の登記=対抗できる
  • 長男C名義の登記=対抗できない

先に、足りる登記の側を見ます。所有権の保存登記、つまり、建物について初めてする所有権の登記だけでなく、建物の表示の登記、つまり、所有者を自分と記載した登記でも足ります。判例は、表示の登記について、こう述べています。

判例最判昭50・2・13 民集29巻2号83頁

表示の登記でも足りるか この法意に照らせば、借地権のある土地の上の建物についてなさるべき登記は権利の登記にかぎられることなく、借地権者が自己を所有者と記載した表示の登記のある建物を所有する場合もまた同条にいう「登記シタル建物ヲ有スルトキ」にあたり、当該借地権は対抗力を有するものと解するのが相当である。

読み方です。同条とは、今の10条1項の前身にあたる条文で、古い言い回しが残っています。借地権者が、自分を所有者と記載した、表示の登記のある建物を持つ場合も、登記した建物を持つときにあたり、借地権は対抗力を持つ、という判断です。ここまでは、借地権者自身の名義の話です。では、他人名義はどうでしょうか。その前に、1問です。建物を登記することの意味は、そもそも何でしょうか?借地権の登記の代わりになることです。つまり、建物の登記を見た人に、ここには、土地を借りて建物を持っている人がいる、と分かることに意味があります。この点を頭に置いて、判例の事案を見ます。

昭41大の事案。借地人Bが、自らの意思で、同居する未成年の長男C名義で、借地上の建物の保存登記をした。Cには無断だった。その後に土地を取得したDが、建物収去土地明渡しを請求。原審はBが勝ち、最高裁大法廷は破棄して、Bに建物を収去して土地を明け渡せと命じた。 図:昭41大の事案

  • 借地人Bが、自らの意思で、同居する未成年の長男C名義で、借地上の建物の保存登記をした
  • Cには無断だった
  • その後に土地を取得したDが、建物収去土地明渡しを請求
  • 原審はBが勝ち、最高裁大法廷は破棄して、Bに建物を収去して土地を明け渡せと命じた

事案です。借地人のBは、土地を借りて、建物を建てました。その建物を、Bは、自分の意思で、長男のC名義で保存登記しました。Cは、Bと氏を同じくする未成年で、同居し、共同で建物を利用していました。Cに無断で、登記したという事情もありました。その後、土地を取得したDが、Bに、建物を壊して土地を明け渡せ、と請求しました。原審はBを勝たせましたが、最高裁大法廷は、これを破棄して、明渡しを命じました。理由は、大きく2段に分かれます。1段目は、建物の登記は何を知らせるためのものか。2段目は、他人名義の登記に、そもそも効力があるのか。順に読みます。

判例最大判昭41・4・27 民集20巻4号870頁

第1の理由——登記は何のために借地権の代わりになるのか 建物保護ニ関スル法律(以下建物保護法と略称する。)一条は、建物の所有を目的とする土地の賃借権により賃借人がその土地の上に登記した建物を所有するときは、土地の賃貸借につき登記がなくとも、これを以つて第三者に対抗することができる旨を規定している。このように、賃借人が地上に登記した建物を所有することを以つて土地賃借権の登記に代わる対抗事由としている所以のものは、当該土地の取引をなす者は、地上建物の登記名義により、その名義者が地上に建物を所有し得る土地賃借権を有することを推知し得るが故である。

読み方です。この判決が扱ったのは、今の10条1項の前身にあたる、建物保護に関する法律の1条です。事件が違っても、10条1項の登記の読み方として、今も引き継がれています。ここで、登記が借地権の登記の代わりになる理由が示されています。土地の取引をする人は、地上建物の登記の名義を見て、その名義の人が、借地権を持っていると推測できるからです。表札と同じです。表札を見れば、ここが誰の家なのかが、通りがかりの人にも分かります。

判例最大判昭41・4・27 民集20巻4号870頁

他人名義の登記では、なぜ対抗できないのか 従つて、地上建物を所有する賃借権者は、自己の名義で登記した建物を有することにより、始めて右賃借権を第三者に対抗し得るものと解すべく、地上建物を所有する賃借権者が、自らの意思に基づき、他人名義で建物の保存登記をしたような場合には、当該賃借権者はその賃借権を第三者に対抗することはできないものといわなければならない。けだし、他人名義の建物の登記によつては、自己の建物の所有権さえ第三者に対抗できないものであり、自己の建物の所有権を対抗し得る登記あることを前提として、これを以つて賃借権の登記に代えんとする建物保護法一条の法意に照し、かかる場合は、同法の保護を受けるに値しないからである。

読み方です。借地権者が、自分の意思で他人名義の保存登記をした場合、その借地権は第三者に対抗できません。理由は、他人名義の建物の登記では、自分の建物の所有権さえ第三者に対抗できないからです。自分の建物の所有権を対抗できる登記があることを前提に、それで借地権の登記に代える、という仕組みなので、その前提を欠く場合は、保護に値しません。続けて、この事件の事実への当てはめです。

判例最大判昭41・4・27 民集20巻4号870頁

同居の未成年の長男名義でも結論は変わらない 原判決の確定した事実関係によれば、被上告人は、自らの意思により、長男Dに無断でその名義を以つて建物の保存登記をしたものであるというのであつて、たとえ右Dが被上告人と氏を同じくする未成年の長男であつて、自己と共同で右建物を利用する関係にあり、また、その登記をした動機が原判示の如きものであつたとしても、これを以つて被上告人名義の保存登記とはいい得ないこと明らかであるから、被上告人が登記ある建物を有するものとして、右建物保護法により土地賃借権を第三者に対抗することは許されないものである。

読み方です。同居の未成年の長男名義で、共同で利用している場合や、登記した動機に事情があった場合でも、借地権者名義の登記とは言えない、と結論づけています。なお、判決文では、長男がDと書かれています。今日の記号では、長男はC、土地を買った人がDなので、混同しないでください。

判例最大判昭41・4・27 民集20巻4号870頁

登記制度の趣旨 元来登記制度は、物権変動の公示方法であり、またこれにより取引上の第三者の利益を保護せんとするものである。すなわち、取引上の第三者は登記簿の記載によりその権利者を推知するのが原則であるから、本件の如くD名義の登記簿の記載によつては、到底被上告人が建物所有者であることを推知するに由ないのであつて、かかる場合まで、被上告人名義の登記と同視して建物保護法による土地賃借権の対抗力を認めることは、取引上の第三者の利益を害するものとして、是認することはできない。

読み方です。登記は、権利の公示方法であり、取引する第三者の利益を守る仕組みです。第三者は、登記簿の記載から権利者を推測します。長男名義の登記簿からは、借地人のBが建物の所有者だとは、到底推測できません。それでも借地権を認めると、第三者の利益を害します。

判例最大判昭41・4・27 民集20巻4号870頁

更正登記による治癒の否定 また、登記が対抗力をもつためには、その登記が少くとも現在の実質上の権利状態と符合するものでなければならないのであり、実質上の権利者でない他人名義の登記は、実質上の権利と符合しないものであるから、無効の登記であつて対抗力を生じない。そして本件事実関係においては、Dを名義人とする登記と真実の権利者である被上告人の登記とは、同一性を認められないのであるから、更正登記によりその瑕疵を治癒せしめることも許されないのである。叙上の理由によれば、本件において、被上告人は、D名義の建物の保存登記を以つて、建物保護法により自己の賃借権を上告人に対抗することはできないものといわねばならない。

読み方です。登記が対抗力を持つには、実質の権利と合っていなければなりません。他人名義の登記は、実質に合わない無効の登記で、対抗力が生じません。名義を直す更正登記による救済も、同一性がないため、許されません。

判例最大判昭41・4・27 民集20巻4号870頁

結論——収去と明渡しの義務 原判決の確定した事実によれば、本件土地が上告人の所有であり、被上告人がその地上に本件建物を所有し、本件土地を占有しているというのであり、被上告人の主張する本件土地の賃借権は上告人に対抗することができないことは前説示のとおりであるから、被上告人は上告人に対し、本件土地を地上の本件建物を収去して明け渡すべき義務あるものといわねばならない。

読み方です。借地権をDに対抗できない以上、Bは、建物を壊して土地を明け渡す義務を負う、という結論です。なお、判決は、相続人が相続登記をしなくても対抗力を認めた古い判例も、引用していました。亡くなった人の名義で登記された建物を、相続人が、相続登記をしないまま持っていた事案です。しかし、被相続人名義の登記が初めから無効ではなかった事案であり、初めから無効な本件とは違うとして、当てはめを退けています。

昭41大の理由づけ2段。第1段=公示の趣旨。取引する第三者は、建物の登記名義から、その名義者が借地権を持つと推測する。名義が借地権者でなければ、公示にならない。第2段=登記の効力。他人名義の登記では、自己の建物所有権すら対抗できない。借地権の登記に代える10条1項の趣旨に照らし、借地権も対抗できない。 図:昭41大の理由づけ2段

  • 第1段=公示の趣旨
  • 取引する第三者は、建物の登記名義から、その名義者が借地権を持つと推測する
  • 名義が借地権者でなければ、公示にならない
  • 第2段=登記の効力
  • 他人名義の登記では、自己の建物所有権すら対抗できない
  • 借地権の登記に代える10条1項の趣旨に照らし、借地権も対抗できない

理由を、板の2段に整理しておきます。第1段が公示の趣旨、第2段が登記の効力です。立ち止まって考えてみましょう。長男が、未成年で、同居して、共同で建物を使っている場合でも、結論は変わりませんでした。その理由を、2段で言えるでしょうか?第三者は、登記簿の名義から権利者を推測するので、長男名義では借地人Bの存在が分からないからです。また、他人名義の登記では、自分の建物の所有権すら対抗できず、借地権の登記に代わる前提を欠くからです。決め手は、同居かどうかではなく、登記簿を見る第三者から見えるかどうか、です。ここは、論文で論点になりうるところです。

現地の様子をどこまで考えに入れるか、という問題です。学説には、同居の家族名義などなら、土地を買う人は現地を見るから、借地権の存在を十分に推測できる、として、対抗力を認める有力な考えがあります。判例は、その立場を取りませんでした。登記簿という、誰にでも同じに見える情報を基準にするからです。実際の判決でも、裁判官6名の反対意見が、居住権を守る観点から、長男が当時15、6歳で、家族として共同生活をしていた事情を重く見ました。それでも、多数意見は、借地権の対抗力を否定しました。答案では、判例の立場で書き、反対の考えには、一言触れる程度で足ります。付け加えます。この判決は、Bに明渡しを命じました。ただし、実際の事件では、土地を買った人の明渡し請求が、権利の濫用、信義則違反にあたるとして、退けられることもあります。救済の余地は、事案次第です。冒頭の問いに、答えを出します。長男名義の登記では、Bは借地権をDに対抗できません。Dから出ていけと言われたら、原則として、建物を壊して明け渡す義務を負います。実務の教訓は、借りている本人の名義で、建物を登記しておくことです。相続の準備は、登記の名義を変える形ではなく、相続の手続きで行う、ということです。

借地を人に譲るとき——承諾に代わる許可

借地を人に譲るときの入口。民法612条=賃借人は賃貸人の承諾なしに、賃借権の譲渡・転貸ができない。無断なら解除できる。ただし、信頼関係を裏切ると言えない特段の事情があれば、解除できない(判例)。借地借家法19条=裁判所の許可で、承諾に代えられる。 図:借地を人に譲るときの入口

  • 民法612条=賃借人は賃貸人の承諾なしに、賃借権の譲渡・転貸ができない
  • 無断なら解除できる
  • ただし、信頼関係を裏切ると言えない特段の事情があれば、解除できない(判例)
  • 借地借家法19条=裁判所の許可で、承諾に代えられる

次は、借地を人に譲る場面です。民法の原則を、条文で確認します。

条文民法612条

民法第612条 1 賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。 2 賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。

読み方です。賃借権を譲るには、賃貸人の承諾が要ります。無断で第三者に使わせたら、賃貸人は解除できます。ただし、無断譲渡の回で見たとおり、信頼関係を裏切ると言えない特段の事情があれば、解除はできません。これは、譲った後に解除を争う話です。同じ回で見たとおり、建物を売れば、敷地の賃借権も一緒に譲ることになるので、地主の承諾が要ります。承諾してもらえないと、建物は売れず、投資を回収できなくなります。そこで、借地借家法が、民法を修正しています。まず、1項です。

条文借地借家法19条1項

借地借家法第19条第1項 借地権者が賃借権の目的である土地の上の建物を第三者に譲渡しようとする場合において、その第三者が賃借権を取得し、又は転借をしても借地権設定者に不利となるおそれがないにもかかわらず、借地権設定者がその賃借権の譲渡又は転貸を承諾しないときは、裁判所は、借地権者の申立てにより、借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。この場合において、当事者間の利益の衡平を図るため必要があるときは、賃借権の譲渡若しくは転貸を条件とする借地条件の変更を命じ、又はその許可を財産上の給付に係らしめることができる。

読み方です。借地権者が、借地上の建物を第三者に譲渡しようとする場合に、その第三者が賃借権を取得しても、地主に不利となるおそれがないのに、地主が承諾しないとします。このとき、裁判所は、借地権者の申立てにより、地主の承諾に代わる許可を与えられます。これが、612条の修正です。地主の承諾が、絶対の条件では無くなります。冒頭とは別の場面で考えます。地主はA、借地人はBです。Bが転勤することになり、借地の上の家を、Eに売りたいとします。Eは地代をきちんと払える人で、Aに不利になる事情は見当たりません。それでもAが承諾しないなら、Bは、Eに売る前に、裁判所に許可を求めて申し立てられます。続けて、2項です。

条文借地借家法19条2項

借地借家法第19条第2項 裁判所は、前項の裁判をするには、賃借権の残存期間、借地に関する従前の経過、賃借権の譲渡又は転貸を必要とする事情その他一切の事情を考慮しなければならない。

読み方です。裁判所は、残りの期間、これまでの経過、譲渡を必要とする事情などの、一切の事情を考えます。3項は、名前だけで足ります。地主が、自分で建物と賃借権を譲り受ける、という制度です。

条文借地借家法19条3項

借地借家法第19条第3項 第一項の申立てがあった場合において、裁判所が定める期間内に借地権設定者が自ら建物の譲渡及び賃借権の譲渡又は転貸を受ける旨の申立てをしたときは、裁判所は、同項の規定にかかわらず、相当の対価及び転貸の条件を定めて、これを命ずることができる。この裁判においては、当事者双方に対し、その義務を同時に履行すべきことを命ずることができる。

読み方です。地主が、裁判所の定める期間内に、自分で建物と賃借権を譲り受けたいと申し立てると、裁判所は、相当の対価を定めて、それを命じられます。これを、介入権と呼びます。4項から7項は、申立ての取下げや、鑑定委員会など、手続の規定です。これも、名前だけで足ります。

条文借地借家法19条4項〜7項

借地借家法第19条第4項から第7項 4 前項の申立ては、第一項の申立てが取り下げられたとき、又は不適法として却下されたときは、その効力を失う。 5 第三項の裁判があった後は、第一項又は第三項の申立ては、当事者の合意がある場合でなければ取り下げることができない。 6 裁判所は、特に必要がないと認める場合を除き、第一項又は第三項の裁判をする前に鑑定委員会の意見を聴かなければならない。 7 前各項の規定は、転借地権が設定されている場合における転借地権者と借地権設定者との間について準用する。ただし、借地権設定者が第三項の申立てをするには、借地権者の承諾を得なければならない。

読み方です。介入権の申立ては、元の申立てが取り下げられたり、却下されたりすると、効力を失います。残りの項は、板で確かめる程度で足ります。

19条の流れ。建物を第三者に譲渡しようとする→地主が賃借権の譲渡を承諾しない→第三者が賃借しても地主に不利となるおそれがあるか→おそれが無い→借地権者が裁判所に申立て→承諾に代わる許可(借地条件の変更・財産上の給付=承諾料を伴うことがある)。考慮=残存期間・従前の経過・必要とする事情・一切の事情。 図:19条の流れ

  • 建物を第三者に譲渡しようとする→地主が賃借権の譲渡を承諾しない→第三者が賃借しても地主に不利となるおそれがあるか→おそれが無い→借地権者が裁判所に申立て→承諾に代わる許可(借地条件の変更・財産上の給付=承諾料を伴うことがある)
  • 考慮=残存期間・従前の経過・必要とする事情・一切の事情

流れを整理します。申立てをするのは、借地権者です。譲渡しようとする場合、つまり、譲渡の前に申し立てます。許可を出すときは、公平のために、借地条件の変更や、承諾料のような財産上の給付を、条件に付けられます。14条の買取請求と、19条の許可の違いは、順番の問題です。19条は、事前の手当てです。譲渡の前に、裁判所の許可を取ります。それでも、承諾を得ずに建物を譲渡してしまった後に、買った人を守るのが、前の回で見た14条の買取請求です。地主が賃借権の譲渡を承諾しないとき、建物を取得した第三者が、地主に建物を時価で買い取れと請求できる規定でした。14条は事後、19条は事前、と覚えてください。また、19条も、対象は賃借権の場合です。地上権は譲渡が自由なので、許可を取る必要がありません。

地代を動かすとき——増減請求権

地代増減請求の入口。借地は何十年も続く。地代が土地の値段や経済事情に合わなくなる。契約で決めた額に縛られると、どちらかが損をする。11条は、将来に向かって増減を請求できるとする。 図:地代増減請求の入口

  • 借地は何十年も続く
  • 地代が土地の値段や経済事情に合わなくなる
  • 契約で決めた額に縛られると、どちらかが損をする
  • 11条は、将来に向かって増減を請求できるとする

最後は、地代です。借地は、何十年も続きます。その間に、土地の値段や、世の中の事情が変わります。契約で決めた地代に縛られると、どちらかが損をします。そこで、条文は、地代を調整する権利を認めています。まず、1項です。

条文借地借家法11条1項

借地借家法第11条第1項 地代又は土地の借賃(以下この条及び次条において「地代等」という。)が、土地に対する租税その他の公課の増減により、土地の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍類似の土地の地代等に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって地代等の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間地代等を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。

読み方です。1項は、増減を請求できる場合です。租税などの公課の増減、土地の価格や経済事情の変動、近所の似た土地の地代との比較。この3つのどれかで、地代が不相当になったとき、当事者は、将来に向かって増額か減額を請求できます。過去の分は、さかのぼりません。この請求も、前の回の買取請求と同じく、形成権です。請求が相手に届いた時点で、地代は、客観的に相当な額に変わります。請求した額そのものに変わるのではありません。裁判は、その相当な額がいくらかを確かめる手続です。ただし書は、一定の期間増額しない、という特約は、その定めに従う、という意味です。借り手に有利な特約は、有効です。逆に、一定の期間は減額しない、という特約は、無効と解されています。1項の本文は、契約の条件にかかわらず請求できる、と書いています。その例外として残しているのは、増額しない特約だけだからです。2項と3項は、話し合いがまとまらない間の扱いです。まず、2項の、増額です。

条文借地借家法11条2項

借地借家法第11条第2項 地代等の増額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の地代等を支払うことをもって足りる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払った額に不足があるときは、その不足額に年一割の割合による支払期後の利息を付してこれを支払わなければならない。

読み方です。増額なら、請求を受けた借地権者が、増額を正当とする裁判が確定するまで、自分が相当と認める額を払えば足ります。確定して不足があれば、年一割の利息を付けて払います。数字で見ます。月5万円の地代について、地主が月8万円への増額を請求し、話し合いがまとまらないとします。借り手は、自分が相当と思う月6万円を払っていれば足ります。裁判で月7万円が正当と確定したら、不足の月1万円に、年一割の利息を付けて払います。続けて、3項の、減額です。

条文借地借家法11条3項

借地借家法第11条第3項 地代等の減額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、減額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の地代等の支払を請求することができる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払を受けた額が正当とされた地代等の額を超えるときは、その超過額に年一割の割合による受領の時からの利息を付してこれを返還しなければならない。

暫定払いの向き。増額請求=請求を受けた借地権者は、増額を正当とする裁判が確定するまで、相当と認める額を払えば足りる。確定して不足があれば年一割の利息を付けて払う。減額請求=請求を受けた地主は、減額を正当とする裁判が確定するまで、相当と認める額を請求できる。確定して超過があれば年一割の利息を付けて返す。 図:暫定払いの向き

  • 増額請求=請求を受けた借地権者は、増額を正当とする裁判が確定するまで、相当と認める額を払えば足りる
  • 確定して不足があれば年一割の利息を付けて払う
  • 減額請求=請求を受けた地主は、減額を正当とする裁判が確定するまで、相当と認める額を請求できる
  • 確定して超過があれば年一割の利息を付けて返す

読み方です。減額なら、請求を受けた地主が、減額を正当とする裁判が確定するまで、自分が相当と認める額を請求できます。確定して取りすぎがあれば、年一割の利息を付けて返します。向きを1つにまとめます。請求を受けた側が、自分で相当だと思う額で動ける、と覚えてください。増額を請求されたのは借り手です。借り手は、自分が相当と思う、低めの額を払えます。減額を請求されたのは地主です。地主は、自分が相当と思う、高めの額を請求できます。請求した側の言い値で、いきなり動かされないための仕組みです。

確かめる

確かめるその1。借地人Bが、自分を所有者と記載した建物の表示の登記だけを備えている。BはDに借地権を対抗できるか。 図:確かめるその1

  • 借地人Bが、自分を所有者と記載した建物の表示の登記だけを備えている
  • BはDに借地権を対抗できるか

事例で確かめます。1つめ。借地人のBは、建物について、自分を所有者と記載した表示の登記だけを備えています。BはDに、借地権を対抗できるでしょうか?

答えその1。借地権者が自己を所有者と記載した表示の登記のある建物を所有していれば、借地権を対抗できる。 図:答えその1

対抗できます。表示の登記でも、借地権者が登記されている建物にあたるからです。自分の名義であることが、肝心でした。

確かめるその2。地主が賃借権の譲渡を承諾しない。裁判所の許可を求める申立てをするのは誰で、いつか。 図:確かめるその2

  • 地主が賃借権の譲渡を承諾しない
  • 裁判所の許可を求める申立てをするのは誰で、いつか

2つめ。借地上の建物を第三者に譲りたいのに、地主が賃借権の譲渡を承諾しません。裁判所に、承諾に代わる許可を求める申立てをするのは、誰で、いつでしょうか?

答えその2。申立てをするのは借地権者。時期は譲渡しようとする場合=譲渡の前。 図:答えその2。申立てをするのは借地権者。時期は譲渡しようとする場合=譲渡の前。

借地権者が、建物を譲渡する前に申し立てます。

確かめるその3。地代の増額を請求された借地権者は、協議が調わないあいだ、いくら払えばよいか。 図:確かめるその3

3つめ。地主から地代の増額を請求されて、話し合いがまとまりません。そのあいだ、借地権者は、いくら払えばよいでしょうか?

答えその3。増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額で足りる。不足額には年一割の利息を付ける。 図:答えその3

  • 増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額で足りる
  • 不足額には年一割の利息を付ける

増額を正当とする裁判が確定するまでは、自分が相当と認める額を払えば足ります。確定して不足があれば、年一割の利息を付けて払います。

冒頭の問いの答え合わせ

今日のまとめ。1=借地権の対抗力は、借地権者自身の名義で登記された建物の所有で備わる(10条1項・表示の登記でも可・他人名義は不可)。2=譲渡は、裁判所の許可が地主の承諾に代わる(19条・譲渡の前に借地権者が申立て)。3=地代増減は将来に向かう形成権、暫定払いは請求を受けた側が相当額で。 図:今日のまとめ

  • 1=借地権の対抗力は、借地権者自身の名義で登記された建物の所有で備わる(10条1項・表示の登記でも可・他人名義は不可)
  • 2=譲渡は、裁判所の許可が地主の承諾に代わる(19条・譲渡の前に借地権者が申立て)
  • 3=地代増減は将来に向かう形成権、暫定払いは請求を受けた側が相当額で

今日の話を整理します。借地が売られたときの対抗力は、借地権者自身の名義で登記された建物があるかどうかで決まります。他人名義の登記では、自分の建物の所有権さえ対抗できないので、借地権も対抗できません。借地を譲るときは、裁判所の許可が、地主の承諾に代わります。地代の増減は、将来に向かって請求でき、協議が調わないあいだは、請求を受けた側が相当と認める額で動けます。

冒頭の答え合わせ。長男C名義の登記では、Bは借地権をDに対抗できない。Dから出ていけと言われたら、原則として建物を収去して土地を明け渡す義務を負う。借地権者自身の名義で登記しておくことが分かれ目。 図:冒頭の答え合わせ

  • 長男C名義の登記では、Bは借地権をDに対抗できない
  • Dから出ていけと言われたら、原則として建物を収去して土地を明け渡す義務を負う
  • 借地権者自身の名義で登記しておくことが分かれ目

冒頭の問いの答えです。借地に建てた家を長男の名義で登記しても、借りていたBは、新しい地主のDに、借地権を対抗できません。出ていけと言われたら、原則として、建物を壊して明け渡す義務を負います。分かれ目は、借地権者自身の名義かどうか、でした。家という大きな投資を守る仕組みも、新しい地主から見える形になっていなければ、働かないのでした。

参照条文

  • 民法605条
  • 借地借家法10条
  • 民法605条の2第1項
  • 民法612条
  • 借地借家法19条1項
  • 借地借家法19条2項
  • 借地借家法19条3項
  • 借地借家法19条4項〜7項
  • 借地借家法11条1項
  • 借地借家法11条2項
  • 借地借家法11条3項

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