民法ゼロから民法#230

定型約款のみなし合意と不当条項

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第5章 契約 #230/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

読んでいない利用規約に、縛られるのか

冒頭の設例の時系列。A(約款を用意した人・動画配信サービスの会社)、B(登録した利用者)。1 Bが、A社のサービスに登録する。月額料金が表示され、「利用規約に同意して登録する」のボタンを押した。規約は1行も読んでいない。2 規約には3つの条項がある。月の途中で解約しても日割りでは返金しない/A社は料金を変更することがある/解約するときは違約金として1年分の料金を払う。問い=読んでいない日割り返金なしの条項に縛られるか。違約金の条項にも縛られるか。契約のあとで規約を変える話は、次回。 図:冒頭の設例の時系列

  • A(約款を用意した人・動画配信サービスの会社)、B(登録した利用者)
  • 1 Bが、A社のサービスに登録する
  • 月額料金が表示され、「利用規約に同意して登録する」のボタンを押した
  • 規約は1行も読んでいない
  • 2 規約には3つの条項がある
  • 月の途中で解約しても日割りでは返金しない/A社は料金を変更することがある/解約するときは違約金として1年分の料金を払う
  • 問い=読んでいない日割り返金なしの条項に縛られるか
  • 違約金の条項にも縛られるか
  • 契約のあとで規約を変える話は、次回

先に、答えの方向を言います。契約の中身は、本来、当事者が合意したことで決まります。けれども、条文の要件を満たせば、読んでいなくても、規約の個別の条項に合意したものとみなされます。ただし、一方的に不利な条項は外れます。違約金の条項が外れるかどうかは、評価しだいです。断定はせず、本編で、条文を読みながら積み上げます。登場するのは、規約を用意したA社と、登録したBです。

今日の位置と、3つの柱

今日の地図。位置=契約の基礎と成立の最後のテーマ(前半)。契約が成立するまで(申込み・承諾)→成立した契約の中身。背骨=契約の中身は、本来は合意したことで決まる。読んでいない約款の条項が中身になるのは、条文の要件を満たしたときだけ。3つの柱=1 定型約款はどうやって契約の中身になるか(548条の2第1項)/2 不当な条項は外れる(548条の2第2項と消費者契約法10条)/3 内容の表示の請求と、拒んだとき(548条の3)。契約のあとで約款を変える話は次回。似た事例の練習は柱の外。 図:今日の地図

  • 位置=契約の基礎と成立の最後のテーマ(前半)
  • 契約が成立するまで(申込み・承諾)→成立した契約の中身
  • 背骨=契約の中身は、本来は合意したことで決まる
  • 読んでいない約款の条項が中身になるのは、条文の要件を満たしたときだけ
  • 3つの柱=1 定型約款はどうやって契約の中身になるか(548条の2第1項)/2 不当な条項は外れる(548条の2第2項と消費者契約法10条)/3 内容の表示の請求と、拒んだとき(548条の3)
  • 契約のあとで約款を変える話は次回
  • 似た事例の練習は柱の外

位置づけです。ここまでの数回で、契約が成立するまでを見てきました。申込みがあり、承諾が届いた時に、契約は成立します。今日は、成立した契約の中身の話です。契約の基礎と成立、というまとまりの、最後のテーマで、2回に分けます。今日は、その前半です。契約の中身は、本来、当事者が合意したことで決まります。契約の当事者は、契約の内容を自由に決められる。521条の2項でした。ところが、利用規約のようなものでは、中身を知らず、直す余地もないまま、同じ内容で契約します。内容を決める自由が、事実上、用意した人にしか無い場面です。

約款の利点と、問題の所在。利点=大量の取引を、同じ内容で、速く安く処理できる。問題=相手方は中身を知らない・交渉もできない・用意した側に有利な条項が入りやすい。民法にはこれまで基本的なルールが無く、解釈に委ねられていた。2017年の民法改正で、定型約款の3か条(548条の2・548条の3・548条の4)が新設され、2020年4月1日に施行された。札=改正の説明。 図:約款の利点と、問題の所在

  • 利点=大量の取引を、同じ内容で、速く安く処理できる
  • 問題=相手方は中身を知らない・交渉もできない・用意した側に有利な条項が入りやすい
  • 民法にはこれまで基本的なルールが無く、解釈に委ねられていた
  • 2017年の民法改正で、定型約款の3か条(548条の2・548条の3・548条の4)が新設され、2020年4月1日に施行された
  • 札=改正の説明

こうした規約には、利点もあります。大量の取引を、同じ内容で、速く安く処理できることです。一方で、問題もあります。相手は中身を知らず、交渉もできず、用意した人に有利な条項が入りやすいことです。民法には、これまで、この種のルールの基本が書かれておらず、解釈に委ねられていました。しかも、民法の原則どおりなら、中身を認識していない条項に拘束される理由が、説明しにくいのです。そこで、2017年の民法改正で、3か条が新設されました。548条の2 から 548条の4 までです。施行は、2020年4月1日です。柱は3つです。1つめ、定型約款は、どうやって契約の中身になるのか。2つめ、一方的に不利な条項は外れる、ということ。3つめ、内容を見せてほしいという請求と、それを断ったときです。似た事例の練習は、柱の外に置きます。今日も、言えることを、根拠の札を貼るように言い分けます。条文とは、法律に書いてあることです。こちらの説明とは、この動画が理解のために整理したことです。ほかの根拠の札は、使う場面の直前で、一言ずつ確認します。今日は、条文が主役です。

柱1——定型取引と、定型約款の定義

定型取引の2つの要素。定型取引=ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの。1 不特定多数の者を相手方とする(相手の個性に着目しない取引)。2 内容の全部又は一部が、画一的であることがその双方にとって合理的。条文=民法548条の2第1項柱書。 図:定型取引の2つの要素

  • 定型取引=ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの
  • 1 不特定多数の者を相手方とする(相手の個性に着目しない取引)
  • 2 内容の全部又は一部が、画一的であることがその双方にとって合理的
  • 条文=民法548条の2第1項柱書

1つめの柱です。まず、約款が契約の中身になるための入口を、条文で読みます。民法548条の2 の1項です。長い文なので、前半と後半の2枚に割ります。前半は、定型取引の定義と、定型取引合意の定義が入っています。

条文民法548条の2第1項

民法第548条の2第1項柱書(前半)(定型約款の合意) 1 定型取引(ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものをいう。以下同じ。)を行うことの合意(次条において「定型取引合意」という。)をした者は、

括弧の中を、2つに割って読みます。定型取引とは、1つめ、ある特定の者が、不特定多数の者を相手方として行う取引です。相手の個性に着目しない取引、ということです。2つめ、その内容の全部または一部が、画一的であることが、その双方にとって合理的なものです。

画一的であることが双方にとって合理的、の線の引き方。画一的であることが、用意した人にだけでなく、相手にとっても合理的であること。当たる=大量の取引を速く安く処理できる利点が相手にも届き、条項を1つずつ交渉で直すことを予定していない取引。当たらない=交渉で直すことが前提なのに、直させてもらえないだけの取引。 図:画一的であることが双方にとって合理的、の線の引き方

  • 画一的であることが、用意した人にだけでなく、相手にとっても合理的であること
  • 当たる=大量の取引を速く安く処理できる利点が相手にも届き、条項を1つずつ交渉で直すことを予定していない取引
  • 当たらない=交渉で直すことが前提なのに、直させてもらえないだけの取引

画一的であることが、双方にとって合理的、というのが、よく分かりません。同じ内容の契約なら、なんでも当たるのではないのですか?当たりません。画一的、つまり全員同じ内容であることが、用意した人にとってだけでなく、相手にとっても合理的であることが要ります。同じ内容なのが、単に力関係で交渉できないからにすぎないときは、相手にとって合理的とは言えません。ここまでは、2017年の改正のときの資料にある読み方です。根拠の札の名前は、このあと、例を見る前に確認します。線の引き方を、こちらの説明の札で言い直します。全員同じ内容にすると、大量の取引を速く安く処理できる、という利点を先ほど見ました。その利点が相手にも届いていて、条項を1つずつ交渉で直すことを予定していない取引か。それとも、交渉で直すことが前提なのに、直させてもらえないだけか。前のほうだけが、当たります。

定型取引合意。定型取引合意=定型取引を行うことの合意(その取引をすることの合意)。設例=Bが「月額いくらで、このサービスに登録する」と合意したこと。規約の細かい条項まで了解した合意ではない。この合意をした人が、1号か2号に当たると、個別の条項にも合意したものとみなされる。 図:定型取引合意

  • 定型取引合意=定型取引を行うことの合意(その取引をすることの合意)
  • 設例=Bが「月額いくらで、このサービスに登録する」と合意したこと
  • 規約の細かい条項まで了解した合意ではない
  • この合意をした人が、1号か2号に当たると、個別の条項にも合意したものとみなされる

もう一つ、括弧書きの定型取引合意です。定型取引を行うことの合意、つまり、その取引をすることの合意です。設例で言うと、Bが「月額いくらで、このサービスに登録する」と合意したことです。規約の細かい条項まで了解した、という合意ではありません。ここが大事です。この合意をした人が、さらに、このあと条文で読む2つの場合のどちらかに当たると、規約の個別の条項にも合意したことになる、という作りです。

後半。定型約款の定義=定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体。定型約款準備者=定型約款を準備した者(条文の語)。設例の対応=A社が定型約款準備者、Bが相手方。 図:後半

  • 定型約款の定義=定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体
  • 定型約款準備者=定型約款を準備した者(条文の語)
  • 設例の対応=A社が定型約款準備者、Bが相手方

条文民法548条の2第1項

民法第548条の2第1項柱書(後半) 次に掲げる場合には、定型約款(定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体をいう。以下同じ。)の個別の条項についても合意をしたものとみなす。

後半です。定型約款とは、定型取引において、契約の内容とすることを目的として、その特定の者により準備された、条項の総体です。条項の総体とは、条項を全部まとめたもの、ということです。契約の中身にするつもりで用意した、という点が要件です。条文は、約款を用意した人を、定型約款準備者と呼びます。設例では、A社が定型約款準備者、Bが相手方です。

柱1——定型取引に当たる例、当たらない例

定型取引に当たる例と当たらない例。当たる例=鉄道・バスの運送約款/電気・ガスの供給約款/保険約款/預金規定/インターネットサイトの利用規約(設例の動画サービスの規約も同類)。当たらない例=事業者どうしの取引で使う契約書のひな形(条項を直して交渉することが前提)/労働契約のひな形(相手の個性に着目して結ぶ取引)。注記=事業者どうしだから当たらない、のではない。 図:定型取引に当たる例と当たらない例

  • 当たる例=鉄道・バスの運送約款/電気・ガスの供給約款/保険約款/預金規定/インターネットサイトの利用規約(設例の動画サービスの規約も同類)
  • 当たらない例=事業者どうしの取引で使う契約書のひな形(条項を直して交渉することが前提)/労働契約のひな形(相手の個性に着目して結ぶ取引)
  • 注記=事業者どうしだから当たらない、のではない

ここで、根拠の札を、1枚確認します。改正の説明とは、2017年の改正のときに、法務省や法制審議会が出した資料や、国会での政府の説明に出てくる、改正の理由や具体例のことです。条文は、定型取引に当たる例を、書いていません。例は、改正の説明の札で言います。当たる例です。鉄道やバスの運送約款。電気やガスの供給約款。保険約款。預金規定。そして、インターネットサイトの利用規約です。不特定多数の人を相手に、全員に同じ内容で結ぶことが、双方にとって合理的な取引です。当たらない例も、2つ挙がっています。1つめは、事業者どうしの取引で使う、契約書のひな形です。条項を直して、交渉することが前提だからです。画一的であることが、双方にとって合理的とまでは言えません。2つめは、労働契約のひな形です。相手の個性に着目して結ぶ取引で、不特定多数の者を相手方とする取引には、当たりません。

決め手は事業者かどうかではない。引っかかる覚え方=事業者どうしの取引は定型取引にならない。事業者どうしでも、画一的であることが双方にとって合理的なものは当たりうる(企業が市販のソフトウェアを購入するときの利用規約)。当たらないのは、ひな形のように交渉で直すことが前提のもの。設例=A社の動画サービスの規約は定型約款に当たる。 図:決め手は事業者かどうかではない

  • 引っかかる覚え方=事業者どうしの取引は定型取引にならない
  • 事業者どうしでも、画一的であることが双方にとって合理的なものは当たりうる(企業が市販のソフトウェアを購入するときの利用規約)
  • 当たらないのは、ひな形のように交渉で直すことが前提のもの
  • 設例=A社の動画サービスの規約は定型約款に当たる

事業者どうしかどうかで分ける、と覚えると、短答で引っかかります。事業者どうしでも、画一的であることが双方にとって合理的なものは、当たりえます。たとえば、企業が市販のソフトウェアを購入するときの利用規約です。当たらないのは、ひな形のように、交渉で直すことが前提のものです。決め手は、事業者かどうかではなく、直すことが前提かどうかです。設例に当てます。A社の動画サービスの規約は、不特定多数の利用者を相手方として、全員に同じ内容です。インターネットサイトの利用規約と同類なので、定型約款に当たります。これは、こちらの説明の札です。

柱1——みなし合意の2つの入口

548条の2第1項の2つの入口。前提=定型取引合意をした者。入口は2つ。1号=定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき。2号=定型約款準備者があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき。どちらかを満たすと、個別の条項についても合意をしたものとみなす。 図:548条の2第1項の2つの入口

  • 前提=定型取引合意をした者
  • 入口は2つ
  • 1号=定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき
  • 2号=定型約款準備者があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき
  • どちらかを満たすと、個別の条項についても合意をしたものとみなす

さて、復習です。契約は、承諾がどうなった時に成立するのでしたか? そして、その契約の中身は、本来、何で決まるのでしたか?承諾の通知が、申込者に届いた時に成立します。中身は、当事者が合意したことで決まります。ですから、読んでいない条項が中身になるには、特別な根拠が要ります。それが、548条の2 の1項の各号です。2つの入口を、読みます。

条文民法548条の2第1項

民法第548条の2第1項各号  一 定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき。  二 定型約款を準備した者(以下「定型約款準備者」という。)があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき。

柱書とつなげて読みます。定型取引合意をした者は、次の場合には、定型約款の個別の条項についても、合意をしたものとみなす。その場合の1つめ、定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき。2つめ、定型約款準備者が、あらかじめ、その定型約款を契約の内容とする旨を、相手方に表示していたときです。

設例に当てる1号と2号。1号=ボタンを押して登録した(規約を契約の内容とする旨の合意をしている)。2号=設例を変えて、ボタンは無く、選択画面に「ご利用には利用規約が適用されます」と表示されているだけ(A社があらかじめ表示していた)。2号の表示=「この約款を契約の内容とします」という旨でよく、中身まで示すことは求められていない。取引をしようとする相手に個別に示す必要がある。 図:設例に当てる1号と2号

  • 1号=ボタンを押して登録した(規約を契約の内容とする旨の合意をしている)
  • 2号=設例を変えて、ボタンは無く、選択画面に「ご利用には利用規約が適用されます」と表示されているだけ(A社があらかじめ表示していた)
  • 2号の表示=「この約款を契約の内容とします」という旨でよく、中身まで示すことは求められていない
  • 取引をしようとする相手に個別に示す必要がある

設例で言うと、「利用規約に同意して登録する」のボタンは、1号です。規約を契約の内容とする旨の合意を、ボタンでしているからです。これは、こちらの説明の札です。2号は、設例を変えます。ボタンは無く、有料プランの選択画面に、「ご利用には利用規約が適用されます」と表示されているだけだったとします。A社が、あらかじめ、規約を契約の内容とする旨を表示していたので、2号です。これも、こちらの説明の札です。2号の表示は、約款の中身まで、見せないといけないのですか?求められていません。改正の説明の札で言えます。表示するのは、「この約款を契約の内容とします」という旨であって、約款の中身まで示すことは求められていません。ただし、取引を実際に行おうとするときに、相手方に個別に示されている必要があります。個別に示すとは、誰にでも向けて一般的に載せておくのではなく、取引をしようとするその相手に向けて示す、ということです。中身を知る手段は、請求すれば示してもらえる、548条の3 です。あとで読みます。

みなすとみなし合意。条文の言葉=合意をしたものとみなす。意味=読んでいなくても、個別の条項を認識していなくても、合意をしたことになる。設例=Bは読んでいない日割り返金なしの条項に、こうして合意をしたものとみなされる。問い=サイトの片隅に利用規約へのリンクを置いているだけで、2号の表示になるか。ならない(取引をしようとする相手に個別に示していない)。 図:みなすとみなし合意

  • 条文の言葉=合意をしたものとみなす
  • 意味=読んでいなくても、個別の条項を認識していなくても、合意をしたことになる
  • 設例=Bは読んでいない日割り返金なしの条項に、こうして合意をしたものとみなされる
  • 問い=サイトの片隅に利用規約へのリンクを置いているだけで、2号の表示になるか
  • ならない(取引をしようとする相手に個別に示していない)

ここで、条文の言葉を、1つ確認します。みなす、です。読んでいなくても、個別の条項を認識していなくても、合意をしたことになる、という意味です。この動画では、この仕組みを、みなし合意と呼びます。条文の文言は、合意をしたものとみなす、です。冒頭のBも、読んでいない日割り返金なしの条項に、こうして合意をしたものとみなされます。問いです。A社が、サイトの片隅に「利用規約はこちら」とリンクを置いているだけで、2号の表示になるでしょうか?ならないと思います。取引をしようとするBさんに、示していないからです。ならない、と考えます。リンクが片隅にあるだけでは、相手方に個別に示したことになりません。ただし、電車やバスのように、乗るたびに表示するのが難しい取引には、特則があります。このあと、一言だけ触れます。

柱1——なぜ読んでいなくても拘束されるのか、改正前、公表の特則

なぜ読んでいなくても拘束されるか(改正の説明)。1 実際にその取引をしたなら、通常は約款を契約の内容とする旨の黙示の合意があったと言える。2 細部まで読んでいなくても、合意があるか、その旨が表示された状態で取引がされているなら、拘束しても不都合は少ない。3 大量の取引では、顧客も契約書面の細部まで認識して取引することを望まないのが実情で、取引の安定を図る必要がある。ただし相手方の保護は別にある=不当な条項は外れ(548条の2第2項)、内容は請求すれば示してもらえる(548条の3)。 図:なぜ読んでいなくても拘束されるか

  • 改正の説明
  • 1 実際にその取引をしたなら、通常は約款を契約の内容とする旨の黙示の合意があったと言える。2 細部まで読んでいなくても、合意があるか、その旨が表示された状態で取引がされているなら、拘束しても不都合は少ない。3 大量の取引では、顧客も契約書面の細部まで認識して取引することを望まないのが実情で、取引の安定を図る必要がある。ただし相手方の保護は別にある=不当な条項は外れ(548条の2第2項)、内容は請求すれば示してもらえる(548条の3)。

改正の説明の札で言えます。理由は3つです。1つめ、当事者が実際にその取引をしたのなら、通常は、約款を契約の内容とする旨の、黙示の合意があったと言えます。2つめ、細部まで読んでいなくても、合意があるか、その旨が表示された状態で取引がされているなら、拘束しても不都合は少ないことです。3つめ、大量の取引では、顧客も、契約書面の細部まで認識して取引することを望まないのが実情で、取引の安定を図る必要があることです。ただし、これで終わりではありません。相手方の保護は、別に用意されています。不当な条項は外れます。内容は、請求すれば示してもらえます。これが、2つめと3つめの柱です。

みなすと推定の違い。推定=反証で覆せる。みなす=反証を許さず、合意があったことにする。だから、要件を満たしたあとで「読んでいないから合意していない」とは言えない。合意を争う道は、要件を満たしていない(柱1)か、条項が外れる(柱2・柱3)か。条項が有効かは別の問題。札=こちらの説明(法令用語の一般的な意味)。 図:みなすと推定の違い

  • 推定=反証で覆せる
  • みなす=反証を許さず、合意があったことにする
  • だから、要件を満たしたあとで「読んでいないから合意していない」とは言えない
  • 合意を争う道は、要件を満たしていない(柱1)か、条項が外れる(柱2・柱3)か
  • 条項が有効かは別の問題
  • 札=こちらの説明(法令用語の一般的な意味)

みなすと、推定の違いも、思い出しておきます。失踪宣告のところで比べた、法令用語の一般的な意味で、こちらの説明の札です。推定は、反証、つまり違う事実の証明があれば、覆せます。みなすは、反証を許さず、合意があったことにします。ですから、要件を満たしたあとで、読んでいないから合意していない、とは言えません。合意があったかどうかを争うなら、そもそも要件を満たしていない、と言うか、条項が外れる場合に当たる、と言うかです。合意があったとされた条項が有効かどうかは、別の問題として残ります。

改正前の約款の扱い。民法に約款の規定は無く、解釈に委ねられていた(札=改正の説明)。古い判決=約款によらない旨の意思を示さずに契約したときは、反証がない限り、約款による意思で契約したものと推定する(火災保険の契約についての判断)。現行=推定ではなく、要件を条文で定めて「みなす」。出典=大判大正4・12・24 民録21輯2182頁。 図:改正前の約款の扱い

  • 民法に約款の規定は無く、解釈に委ねられていた(札=改正の説明)
  • 古い判決=約款によらない旨の意思を示さずに契約したときは、反証がない限り、約款による意思で契約したものと推定する(火災保険の契約についての判断)
  • 現行=推定ではなく、要件を条文で定めて「みなす」
  • 出典=大判大正4・12・24 民録21輯2182頁

では、改正の前は、どう考えられていたのか。根拠の札を、もう1枚確認します。判例とは、最高裁の判決文に書いてあることでした。最高裁ができる前の、大審院の判決文も、同じ、判例の札で扱います。今日は、その大審院の古い判決を1つだけ、範囲を絞って使います。民法には、約款の規定が無く、解釈に委ねられていました。古い判決に、火災保険の契約について、約款によらない旨の意思を示さずに契約したときは、反証がない限り、約款による意思で契約したものと推定する、と述べたものがあります。出典は、板の下に出しています。現行は、推定ではありません。要件を条文で定めたうえで、みなす、としたのです。

公表の特則(薄く)。電車・バス・飛行機・船のように、乗るたびに約款を契約の内容とする旨を表示することが難しい取引には、別の法律の特則がある。2号の「表示していた」が「表示し、又は公表していた」となる。法令名と条番号=鉄道営業法18条ノ2・道路運送法87条・航空法134条の4・海上運送法32条の2。理由=公共性が高く、多数の利用者と速やかに契約する必要があり、表示を厳格に求めるのは現実的でない。公表の方法の例=事業者のホームページに明示すること。 図:公表の特則

  • 薄く
  • 電車・バス・飛行機・船のように、乗るたびに約款を契約の内容とする旨を表示することが難しい取引には、別の法律の特則がある。2号の「表示していた」が「表示し、又は公表していた」となる。法令名と条番号=鉄道営業法18条ノ2・道路運送法87条・航空法134条の4・海上運送法32条の2。理由=公共性が高く、多数の利用者と速やかに契約する必要があり、表示を厳格に求めるのは現実的でない。公表の方法の例=事業者のホームページに明示すること。

片隅のリンクの問いで残しておいた、特則です。電車、バス、飛行機、船のように、乗るたびに表示することが難しい取引には、別の法律に特則があり、2号の、表示していた、が、表示し、または公表していた、とされます。鉄道営業法、道路運送法、航空法、海上運送法です。条番号は、板に出しています。理由は、改正の説明の札で、公共性が高く、多数の利用者と速やかに契約する必要があるため、表示を厳格に求めるのは現実的でないからです。公表の方法の例は、事業者のホームページに明示することです。

柱2——一方的に害する不当な条項は外れる

2つめの柱の入口。柱2=不当な条項は外れる(548条の2第2項と消費者契約法10条)。外れるのはその条項だけ。設例の違約金の条項は、どちらの見方で外れうるか。次の柱3=内容の表示の請求と、拒んだとき(548条の3)。 図:2つめの柱の入口

  • 柱2=不当な条項は外れる(548条の2第2項と消費者契約法10条)
  • 外れるのはその条項だけ
  • 設例の違約金の条項は、どちらの見方で外れうるか
  • 次の柱3=内容の表示の請求と、拒んだとき(548条の3)

2つめの柱です。読んでいなくても、みなし合意で、条項は中身になります。では、どんな条項でも、中身になるのでしょうか。ならないものがあります。548条の2 の2項です。

条文民法548条の2第2項

民法第548条の2第2項 2 前項の規定にかかわらず、同項の条項のうち、相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして第一条第二項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったものとみなす。

548条の2第2項を3つに割る。1 どんな条項か=相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項。2 何に照らすか=その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念。3 どう評価されたら外れるか=第一条第二項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められる。効果=合意をしなかったものとみなす(その条項だけ)。 図:548条の2第2項を3つに割る

  • 1 どんな条項か=相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項
  • 2 何に照らすか=その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念
  • 3 どう評価されたら外れるか=第一条第二項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められる
  • 効果=合意をしなかったものとみなす(その条項だけ)

3つに割って読みます。1つめ、どんな条項か。相手方の権利を制限するか、相手方の義務を加重する条項です。2つめ、何に照らして見るか。その定型取引の態様、その実情、そして取引上の社会通念です。態様とは、その取引が、どんなやり方で行われているか、ということです。そして3つめ、どう評価されたら外れるか。1条2項の基本原則に反して、相手方の利益を一方的に害すると認められることです。1条2項は、信義則という原則でした。相手の正当な期待を裏切らない、という考え方です。効果は、合意をしなかったものとみなす、です。みなし合意の対象から外れます。外れるのは、その条項だけです。約款全体が外れるわけではありません。

条文民法1条2項

民法第1条第2項(基本原則) 2 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。

無効ではなく、合意をしなかったものとみなす。みなし合意=合意があったものとみなす仕組み。そこから一定の条項を除外する作りにしてある。無効=合意があったことを前提に、あとから効力を否定する。構造が違うので、条文の言葉で言う。外れるのは、その条項だけ。 図:無効ではなく、合意をしなかったものとみなす

  • みなし合意=合意があったものとみなす仕組み
  • そこから一定の条項を除外する作りにしてある
  • 無効=合意があったことを前提に、あとから効力を否定する
  • 構造が違うので、条文の言葉で言う
  • 外れるのは、その条項だけ

条文の言葉は、合意をしなかったものとみなす、です。改正の説明の札で言えます。みなし合意は、合意があったものとみなす仕組みです。そこから、一定の条項を除外する作りにしてあります。合意があったことを前提に、あとから効力を否定する、無効とは、構造が違うのです。ですから、無効とは言わず、条文の言葉で言います。

2項の見方。条項の中身だけでなく、取引の態様、実情、社会通念を広く見る(90条のように厳しい基準でなければ外れない、というものではない)。不意打ち的な条項=相手方にとって客観的に予測しにくく、大きな負担を課す条項は、知りうるようにする措置をとっていなければ、信義則に反する可能性が高い。措置をとったかどうかは態様の話。例=動画サービスの規約に、利用者が全く予想していない別の有料サービスへの加入義務が書いてある場合。 図:2項の見方

  • 条項の中身だけでなく、取引の態様、実情、社会通念を広く見る(90条のように厳しい基準でなければ外れない、というものではない)
  • 不意打ち的な条項=相手方にとって客観的に予測しにくく、大きな負担を課す条項は、知りうるようにする措置をとっていなければ、信義則に反する可能性が高い
  • 措置をとったかどうかは態様の話
  • 例=動画サービスの規約に、利用者が全く予想していない別の有料サービスへの加入義務が書いてある場合

なぜ信義則なのか。これも改正の説明の札です。約款では、相手方が、条項の中身を認識しないまま取引が行われます。その特質を踏まえて、条項の中身だけでなく、取引の態様、実情、社会通念を広く見て判断します。公序良俗の90条のように、厳しい基準でなければ外れない、というものではありません。90条は、不当な条項を無効にする一般の道具として、別にあります。改正の説明は、不意打ち的な条項にも触れています。相手方にとって客観的に予測しにくい条項で、しかも相手方に大きな負担を課すものは、相手方がその中身を知りうるようにする措置をとっていなければ、信義則に反する可能性が高いとされます。知りうるようにする措置をとったかどうかは、取引がどんなやり方で行われたか、つまり態様の話です。ですから、不意打ち的な条項は、態様という考慮要素を通して、2項で排除されうるのです。こちらで作った例で言うと、動画サービスの規約に、利用者が全く予想していない、別の有料サービスへの加入義務が書いてある場合です。

設例への当てはめ(こちらの説明)。違約金の条項=解約するときは違約金として1年分の料金を払う=相手方の義務を加重する条項。態様=読まないまま同意ボタンで登録している。実情=月額制サービスで解約の自由はどのくらい重いか。社会通念に照らして一方的に害するか。結論=事情しだい(断定しない)。日割り返金なしの条項も、同じ見方で当てはめる(評価は事情しだい)。 図:設例への当てはめ

  • こちらの説明
  • 違約金の条項=解約するときは違約金として1年分の料金を払う=相手方の義務を加重する条項。態様=読まないまま同意ボタンで登録している。実情=月額制サービスで解約の自由はどのくらい重いか。社会通念に照らして一方的に害するか。結論=事情しだい(断定しない)。日割り返金なしの条項も、同じ見方で当てはめる(評価は事情しだい)。

設例の違約金の条項に当てます。こちらの説明の札です。解約するときに1年分の料金を払う条項は、相手方の義務を加重する条項です。次に、何に照らすか。態様は、読まないまま、同意ボタンで登録を済ませていることです。実情は、月額制のサービスで、解約の自由がどのくらい重いか、です。そのうえで、社会通念に照らして、一方的に害するかを見ます。結論は、事情しだいです。断定はしません。日割り返金なしの条項も、同じ見方で当てはめます。評価は、事情しだいです。ここは、論文で論点になりうる所です。考慮要素を、条文の言葉で言えるようにしておいてください。冒頭の答えの方向に戻すと、読んでいなくても、条項は、みなし合意で契約の中身になります。ただし、一方的に害すると評価された条項は、その条項だけ外れます。

柱2——消費者契約法10条との関係

消費者契約法10条との関係。消費者契約法=消費者と事業者の間に格差があることを理由に、保護を広げた法律。Bは個人の利用者=消費者契約でもある。違約金の条項は、民法548条の2第2項でも消費者契約法10条でも争える。 図:消費者契約法10条との関係

  • 消費者契約法=消費者と事業者の間に格差があることを理由に、保護を広げた法律
  • Bは個人の利用者=消費者契約でもある
  • 違約金の条項は、民法548条の2第2項でも消費者契約法10条でも争える

似た規定が、もう一つあります。消費者契約法10条です。消費者契約法は、消費者と事業者の間に格差があることを理由に、保護を広げた法律でした。設例のBは、商売と関係なく契約した個人なので、消費者契約でもあります。ですから、違約金の条項は、民法でも、消費者契約法でも、争えます。条文を読みます。

条文消費者契約法10条

消費者契約法第10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効) 消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

要点を読みます。法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して、消費者の権利を制限し、または消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法1条2項の基本原則に反して、消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。公の秩序に関しない規定とは、91条で読んだ、当事者が合意で変えてよい規定、任意規定のことです。条文の初めの、消費者の不作為をもって、から始まる部分は、対象になる条項の例です。消費者が何もしないでいると、新しい契約の申込みや承諾をしたことにする条項、という意味です。

比較板。民法548条の2第2項と消費者契約法10条。対象=定型取引(事業者どうしでも当たりうる)/消費者契約(消費者と事業者の契約)。効果=合意をしなかったものとみなす(そもそも契約の中身にならない)/無効。何と比べ何に照らすか=その定型取引の態様・実情・取引上の社会通念に照らして/法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して。共通=権利を制限し、又は義務を加重する条項/1条2項の基本原則に反して一方的に害する。出典=民法548条の2第2項、消費者契約法10条。 図:比較板

  • 民法548条の2第2項と消費者契約法10条
  • 対象=定型取引(事業者どうしでも当たりうる)/消費者契約(消費者と事業者の契約)
  • 効果=合意をしなかったものとみなす(そもそも契約の中身にならない)/無効
  • 何と比べ何に照らすか=その定型取引の態様・実情・取引上の社会通念に照らして/法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して
  • 共通=権利を制限し、又は義務を加重する条項/1条2項の基本原則に反して一方的に害する
  • 出典=民法548条の2第2項、消費者契約法10条

並べます。条文の文言から言えることなので、条文の札です。対象が違います。消費者契約法10条は、消費者契約、つまり消費者と事業者の契約の条項に限られます。民法の2項には、その限定が書かれていません。事業者どうしの取引でも当たりえます。ここだけは、改正の説明の札です。先ほど例に出した、企業が市販のソフトウェアを購入する契約でも適用されうる、と政府が説明しています。効果が違います。民法は、合意をしなかったものとみなす。そもそも契約の中身になりません。消費者契約法は、無効です。物差しも違います。民法は、その定型取引の態様、実情、取引上の社会通念に照らして見ます。消費者契約法は、法令中の公の秩序に関しない規定を適用した場合と比べます。共通するのは、権利を制限し、または義務を加重する条項であること、そして、1条2項の基本原則に反して、一方的に害することです。

両方に当たるときの選び方。選べる(政府の説明では選択的に主張できる)。民法の2項=ある条項について合意があるかどうかを定める。消費者契約法10条=合意が成立していることを前提に、その条項の有効性を判断する。どちらを先に判断しなければならない関係でもない。別に置いた理由=適用範囲も重く見る考慮要素も違い、結論が違うこともありうる。 図:両方に当たるときの選び方

  • 選べる(政府の説明では選択的に主張できる)
  • 民法の2項=ある条項について合意があるかどうかを定める
  • 消費者契約法10条=合意が成立していることを前提に、その条項の有効性を判断する
  • どちらを先に判断しなければならない関係でもない
  • 別に置いた理由=適用範囲も重く見る考慮要素も違い、結論が違うこともありうる

両方に当たる場面では、どちらを主張すればいいのですか?選べます。改正の説明の札で言えます。政府の説明では、選択的に主張できるとされています。民法の2項は、ある条項について合意があるかどうかを定めます。消費者契約法10条は、合意が成立していることを前提に、その条項の有効性を判断します。どちらを先に判断しなければならない関係でもありません。なぜ別に置いたのか。これも改正の説明の札です。約款では、相手方が内容を認識しないまま取引します。合意があったとみなすのが適切でない条項を、定型取引の特質を重視して防ぐのが、民法の2項です。消費者契約法10条は、消費者と事業者の間にある、様々な格差を踏まえて判断します。要件は似て見えても、適用範囲も、重く見る考慮要素も違い、結論が違うこともありえます。

柱3——内容の表示の請求と、拒んだとき

548条の3の流れ。1項=約款を用意した人は、定型取引合意の前、又は合意の後相当の期間内に、相手方から請求があった場合には、遅滞なく、相当な方法で約款の内容を示さなければならない。ただし書=既に書面を交付し、又は電磁的記録を提供していたときは不要。請求が無ければ示さなくても、みなし合意は働く。 図:548条の3の流れ

  • 1項=約款を用意した人は、定型取引合意の前、又は合意の後相当の期間内に、相手方から請求があった場合には、遅滞なく、相当な方法で約款の内容を示さなければならない
  • ただし書=既に書面を交付し、又は電磁的記録を提供していたときは不要
  • 請求が無ければ示さなくても、みなし合意は働く

3つめの柱は、548条の3 です。見出しの言葉は、定型約款の内容の表示です。みなし合意で、読んでいない条項が中身になるのなら、せめて、中身を見せてもらえる権利が要ります。その権利を保障するのが、この条文です。1項から読みます。

条文民法548条の3第1項

民法第548条の3第1項(定型約款の内容の表示) 1 定型取引を行い、又は行おうとする定型約款準備者は、定型取引合意の前又は定型取引合意の後相当の期間内に相手方から請求があった場合には、遅滞なく、相当な方法でその定型約款の内容を示さなければならない。ただし、定型約款準備者が既に相手方に対して定型約款を記載した書面を交付し、又はこれを記録した電磁的記録を提供していたときは、この限りでない。

読みます。定型取引を行い、または行おうとする定型約款準備者は、定型取引合意の前、または合意の後相当の期間内に、相手方から請求があった場合には、遅滞なく、相当な方法で、その定型約款の内容を示さなければならない。ただし書です。すでに書面を交付し、または電磁的記録を提供していたときは、この限りでない。電磁的記録とは、データの形で記録したもののことです。作りに注意してください。請求があれば示す、という作りです。請求が無ければ、示さなくても、みなし合意は働きます。趣旨は、改正の説明の札で、相手方に、約款の内容を知る機会を保障することです。相当の期間についても、改正の説明は、たとえば継続的な契約なら、契約が続いている間は請求でき、終わったあとも、一定の期間は請求できると考えられる、としています。

548条の3第2項。定型約款準備者が定型取引合意の前において請求を拒んだときは、前条の規定(548条の2)は適用しない=みなし合意が働かない=約款全体が契約の中身にならない。ただし、一時的な通信障害が発生した場合その他正当な事由がある場合は除く。合意のあとの請求を拒んだときは2項の対象外。 図:548条の3第2項

  • 定型約款準備者が定型取引合意の前において請求を拒んだときは、前条の規定(548条の2)は適用しない=みなし合意が働かない=約款全体が契約の中身にならない
  • ただし、一時的な通信障害が発生した場合その他正当な事由がある場合は除く
  • 合意のあとの請求を拒んだときは2項の対象外

条文民法548条の3第2項

民法第548条の3第2項 2 定型約款準備者が定型取引合意の前において前項の請求を拒んだときは、前条の規定は、適用しない。ただし、一時的な通信障害が発生した場合その他正当な事由がある場合は、この限りでない。

2項です。定型約款準備者が、定型取引合意の前に、請求を拒んだときは、前条の規定は、適用しない。前条とは、548条の2 です。つまり、みなし合意が働かず、約款全体が、契約の中身にならないのです。なぜ、条項1つではなく、全体なのか。条文の作りは、こうです。読んでいない条項が中身になるのは、548条の2 が適用されるからでした。その適用が止まれば、どの条項についても、合意をしたものとみなされません。改正の説明では、取引を行うか決める前に約款の内容を知ることが重要なので、知る機会を失わせた準備者には強い不利益を課した、とされています。合意の前に請求を拒まれた人は、中身を知る機会を求めたのに、得られないまま、合意するかどうかを決めることになります。知る機会を保障する、という1項の趣旨が、果たされていない場面です。ただし、一時的な通信障害が発生した場合、その他正当な事由がある場合は、この限りではありません。拒んでも、2項の効果は出ません。

合意のあとに請求を拒んだとき。2項が書くのは、定型取引合意の前に拒んだときだけ。みなし合意は残る(548条の2の適用を止める、とは書いていない)。約款を外すのではなく、示す義務の違反として扱う。履行の請求・損害賠償・解除などが問題になりうる(強制的な履行の請求が414条、損害賠償が415条、解除が541条)。 図:合意のあとに請求を拒んだとき

  • 2項が書くのは、定型取引合意の前に拒んだときだけ
  • みなし合意は残る(548条の2の適用を止める、とは書いていない)
  • 約款を外すのではなく、示す義務の違反として扱う
  • 履行の請求・損害賠償・解除などが問題になりうる(強制的な履行の請求が414条、損害賠償が415条、解除が541条)

合意のあとの請求を拒んだときは、2項の対象外です。条文は、合意の前に拒んだときだけを書いています。合意のあとに拒んだときに、548条の2 の適用を止める、とは書いていません。ですから、みなし合意は残ります。こちらの説明の札で言うと、合意のあとの請求は、合意するかどうかを決めたあとで、中身を確かめるためのものです。そこで、約款を外すのではなく、示す義務の違反として扱います。改正の説明の札で言うと、履行の請求や、損害賠償、解除などが問題になりうる、とされています。条文は、強制的な履行の請求が414条、損害賠償が415条、解除が541条です。

柱2と柱3のまとめ。中身にならない2種の違い。不当な条項(548条の2第2項)=外れるのはその条項だけ/例外なし/問題になるのは条項の中身が一方的に害するか。合意の前の請求を拒んだとき(548条の3第2項)=外れるのは約款全体(みなし合意が働かない)/例外=一時的な通信障害その他正当な事由/問題になるのは請求を拒んだ事実。合意のあとの請求を拒んだとき=外れない(みなし合意は残る)/問題になるのは示す義務の不履行。 図:柱2と柱3のまとめ

  • 中身にならない2種の違い
  • 不当な条項(548条の2第2項)=外れるのはその条項だけ/例外なし/問題になるのは条項の中身が一方的に害するか
  • 合意の前の請求を拒んだとき(548条の3第2項)=外れるのは約款全体(みなし合意が働かない)/例外=一時的な通信障害その他正当な事由/問題になるのは請求を拒んだ事実
  • 合意のあとの請求を拒んだとき=外れない(みなし合意は残る)/問題になるのは示す義務の不履行

違いを、一枚で整理します。不当な条項は、外れるのが、その条項だけです。問題になるのは、条項の中身が、一方的に害するかどうかです。合意の前の請求を拒んだときは、外れるのが、約款全体です。例外は、一時的な通信障害その他正当な事由です。問題になるのは、請求を拒んだという事実です。合意のあとの請求を拒んだときは、外れません。示す義務の不履行の問題です。

弁別の練習

練習問題1。1 取引先どうしが、交渉のたたき台に使う契約書のひな形。2 通販サイトの利用規約。問い=定型約款に当たるのはどちらか。理由は、定型取引の2つの要素に当てて言う。 図:練習問題1

  • 1 取引先どうしが、交渉のたたき台に使う契約書のひな形
  • 2 通販サイトの利用規約
  • 問い=定型約款に当たるのはどちらか
  • 理由は、定型取引の2つの要素に当てて言う

ここからは、練習です。問1です。取引先どうしが、交渉のたたき台に使う契約書のひな形と、通販サイトの利用規約があります。定型約款に当たるのは、どちらでしょうか? 定型取引の2つの要素に当てて、理由も考えてください。当たるのは、通販サイトの利用規約のほうです。ひな形は当たりませんが、理由に注意してください。ひな形が当たらないのは、事業者どうしだからではありません。条項を直して、交渉することが前提で、画一的であることが双方にとって合理的とは言えないからです。通販サイトの利用規約は、不特定多数の利用者を相手方とし、全員同じ内容なので、当たります。決め手は、交渉で直すことが前提かどうか、です。

練習問題2。1 ある条項が、信義則に反して、Bの利益を一方的に害する。2 Bが登録の前に「規約を見せてほしい」と頼んだのに、A社が断った(正当な事由はない)。問い=外れる範囲は、それぞれどう違うか。 図:練習問題2

  • 1 ある条項が、信義則に反して、Bの利益を一方的に害する
  • 2 Bが登録の前に「規約を見せてほしい」と頼んだのに、A社が断った(正当な事由はない)
  • 問い=外れる範囲は、それぞれどう違うか

問2です。1つめは、ある条項が、信義則に反して、Bの利益を一方的に害する場合。2つめは、Bが登録の前に、規約を見せてほしいと頼んだのに、A社が断った場合で、正当な事由はありません。外れる範囲は、それぞれどう違うでしょうか?どちらも、約款の全体が外れる、のではないでしょうか。違います。1つめは、548条の2 の2項です。外れるのは、その条項だけで、ほかの条項は、みなし合意で中身のままです。2つめは、548条の3 の2項で、548条の2 が適用されません。みなし合意が働かず、約款全体が、契約の中身になりません。決め手は、問題なのが条項の中身か、請求を拒んだことか、です。

冒頭の問いに戻る——まとめ

今日のまとめ。3つの柱=1 定型約款は、定型取引合意をした者が、1号(合意)か2号(あらかじめ表示)を満たすと、個別の条項まで合意したものとみなされて、契約の中身になる(548条の2第1項)。2 一方的に害する不当な条項は、その条項だけ外れる(548条の2第2項と消費者契約法10条)。3 合意の前の表示の請求を拒むと、約款全体が中身にならない(548条の3第2項)。 図:今日のまとめ

  • 3つの柱=1 定型約款は、定型取引合意をした者が、1号(合意)か2号(あらかじめ表示)を満たすと、個別の条項まで合意したものとみなされて、契約の中身になる(548条の2第1項)
  • 2 一方的に害する不当な条項は、その条項だけ外れる(548条の2第2項と消費者契約法10条)
  • 3 合意の前の表示の請求を拒むと、約款全体が中身にならない(548条の3第2項)

3つの柱で整理します。1つめ、定型約款は、定型取引合意をした人が、1号の合意か、2号のあらかじめの表示を満たすと、個別の条項まで合意したものとみなされて、契約の中身になります。2つめ、ただし、一方的に害する不当な条項は、その条項だけ外れます。民法の2項と、消費者契約法10条です。3つめ、合意の前に請求を拒むと、約款全体が中身になりません。548条の3 の2項です。

冒頭の問いの答え。読んでいない日割り返金なしの条項=みなし合意で契約の中身になる(1号。ボタンで同意)。外れるかは評価しだい。違約金の条項=外れるかは評価しだい(548条の2第2項・消費者契約法10条)。 図:冒頭の問いの答え

  • 読んでいない日割り返金なしの条項=みなし合意で契約の中身になる(1号。ボタンで同意)
  • 外れるかは評価しだい
  • 違約金の条項=外れるかは評価しだい(548条の2第2項・消費者契約法10条)

冒頭の問いに戻ります。読んでいない日割り返金なしの条項も、ボタンで同意しているので、1号を満たし、みなし合意で契約の中身になります。設例では請求の拒否はありませんから、この条項が外れるかどうかは、一方的に害すると評価されるかどうかで決まります。違約金の条項も、入口は同じで、外れるかどうかが、評価しだいです。民法の2項でも、消費者契約法10条でも争えます。論文で論点になりうるのは、画一的であることが双方にとって合理的か、一方的に害すると言えるか、の当てはめです。ここは評価の問題で、考慮要素を、条文の言葉で言います。548条の2 と 548条の3 は、条文どおりの要件で、条文番号で言えます。

参照条文

  • 民法548条の2第1項
  • 民法548条の2第2項
  • 民法1条2項
  • 消費者契約法10条
  • 民法548条の3第1項
  • 民法548条の3第2項

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