民法ゼロから民法#231

定型約款の変更

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第5章 契約 #231/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

同意していないのに、料金が変わる

冒頭の設例の時系列。A(動画配信サービスの会社)、B(登録した利用者)。1 Bが、月額1000円でA社のサービスに登録している。2 ある日、A社から「来月から月額1200円にします」と通知が届く。3 Bは、この値上げに同意していない。問い=料金は変わるのか。 図:冒頭の設例の時系列

  • A(動画配信サービスの会社)、B(登録した利用者)
  • 1 Bが、月額1000円でA社のサービスに登録している
  • 2 ある日、A社から「来月から月額1200円にします」と通知が届く
  • 3 Bは、この値上げに同意していない
  • 問い=料金は変わるのか

先に、答えの方向を言います。同意が無くても、変わることがあります。ただし、条文の条件を満たしたときだけです。契約の中身は、本来、一方だけでは変えられません。定型約款には、その例外が置かれていて、例外には、中身と手続の両方で、歯止めがかかっています。値上げが条件を満たすかどうかは、事情しだいです。何を見て決めるのかを、条文を読みながら確かめます。登場するのは、規約を用意したA社と、登録したBです。

今日の位置と、3つの柱

今日の地図。位置=契約の基礎と成立の最終回。契約が成立するまで(申込み・承諾・規約が契約の中身になる入口)→今日=成立したあとに、規約の中身を変えられるか。背骨=契約の中身は、一方だけでは変えられない。なのに定型約款は、条文の条件を満たせば、相手方の同意なしに変えられる。だから民法は、変えてよい中身(1項)と、踏むべき手続(2項・3項)の両方で縛っている。3つの柱=1 なぜ変えられるのか、どんな中身なら変えられるのか(548条の4第1項)/2 どんな手続を踏むのか(2項・3項)/3 4項・経過措置と、設例への当てはめ。そのあとに、似た制度との分け目を練習する。 図:今日の地図

  • 位置=契約の基礎と成立の最終回
  • 契約が成立するまで(申込み・承諾・規約が契約の中身になる入口)→今日=成立したあとに、規約の中身を変えられるか
  • 背骨=契約の中身は、一方だけでは変えられない
  • なのに定型約款は、条文の条件を満たせば、相手方の同意なしに変えられる
  • だから民法は、変えてよい中身(1項)と、踏むべき手続(2項・3項)の両方で縛っている
  • 3つの柱=1 なぜ変えられるのか、どんな中身なら変えられるのか(548条の4第1項)/2 どんな手続を踏むのか(2項・3項)/3 4項・経過措置と、設例への当てはめ
  • そのあとに、似た制度との分け目を練習する

位置づけです。ここまで、契約の申込み、承諾、そして規約が契約の中身になる入口を見てきました。今日は、契約の基礎と成立というまとまりの、最後の回です。成立した契約の中身を、あとから変えられるのか、を見ます。前提を一つだけ確認します。利用規約のように、不特定多数の人を相手に、全員同じ内容で結ぶことが双方にとって合理的な取引があります。その取引のために用意されたルールの集まりを、条文の言葉で、定型約款と呼びます。それを用意した側が定型約款準備者、相手が相手方です。設例では、A社が定型約款準備者、Bが相手方です。定型約款は、読んでいなくても契約の中身になる入口が条文にありました。今日の背骨は、この一文です。契約の中身は、一方だけでは変えられない。それが原則。なのに、定型約款は、条文の条件を満たせば、相手方の同意なしに変えられる。だから民法は、変えてよい中身と、踏むべき手続の、両方で縛っています。柱は3つです。1つめ、なぜ変えられるのか、どんな中身なら変えられるのか。548条の4 の1項です。2つめ、どんな手続を踏むのか。2項と3項です。3つめ、4項と経過措置、そして設例への当てはめです。そのあとで、似た制度との分け目を練習します。根拠の札を、貼るように言い分けます。条文とは、法律に書いてあることです。こちらの説明とは、この動画が理解のために整理したことです。

柱1——原則と、例外を置く理由

原則。契約の中身を変えるには、相手方の個別の合意が要る。当事者が合意すれば、いつでも変えられる(Bが1200円に同意すれば変えられる)。問い=それなのに、定型約款は、同意なしに変えられるのはなぜか。 図:原則

  • 契約の中身を変えるには、相手方の個別の合意が要る
  • 当事者が合意すれば、いつでも変えられる(Bが1200円に同意すれば変えられる)
  • 問い=それなのに、定型約款は、同意なしに変えられるのはなぜか

柱1に入る前に、復習を一つ。読んでいない利用規約の条項が契約の中身になる入口は、いくつありましたか?2つです。合意をしたときと、あらかじめ表示されていたときです。そうして契約の中身になった条項を、あとから変えられるのか、が今日の問いです。まず原則です。契約を結べば、当事者は拘束されます。契約の拘束力でした。そして、契約の中身を変えるにも、相手方の個別の合意が要ります。当事者が話し合って合意し、料金を改めるのは自由です。Bが1200円に同意すれば、いつでも変えられます。こちらの説明の札です。ここで、根拠の札を、もう一つ確認します。改正の説明とは、2017年の改正のときに、法務省や法制審議会が出した資料や、国会での政府の説明に書かれている、理由や例のことです。いま見た原則は、改正の説明にも、そのまま書かれています。

同意なしの変更を認める理由(改正の説明)。1 法令の変更や経済情勢の変化に対応する必要がある。2 相手方は不特定多数で、所在の把握が難しく、承諾を得るのに時間とコストがかかる。3 一部が拒むと、全員同じ内容という画一性が保てない。設例=何十万人の利用者から1人ずつ同意を取るのは現実的でない。 図:同意なしの変更を認める理由

  • 改正の説明
  • 1 法令の変更や経済情勢の変化に対応する必要がある。2 相手方は不特定多数で、所在の把握が難しく、承諾を得るのに時間とコストがかかる。3 一部が拒むと、全員同じ内容という画一性が保てない。設例=何十万人の利用者から1人ずつ同意を取るのは現実的でない。

定型約款に、同意なしの変更を認める理由は、改正の説明に、3つ挙がっています。1つめ、長く続く取引では、法令の変更や、経済情勢の変化に対応して、約款を変える必要が出ます。法務省の説明資料の例は、保険法の制定に伴う保険約款の変更、犯罪収益移転防止法の改正に伴う預金規定の変更、電気料金の値上げに伴う電気供給約款の変更です。2つめ、相手方は不特定多数なので、所在の把握が難しく、承諾を得るのに、多大な時間とコストがかかります。3つめ、一部の相手方が変更を拒むと、全員に同じ内容で結ぶという、約款を使う目的、つまり画一性が保てなくなります。設例で言えば、A社が、何十万人もいる利用者の1人1人から同意を取るのは、現実的ではありません。Bだけが1000円のまま残れば、全員を同じ規約で扱うこともできなくなります。この言い直しは、こちらの説明の札です。

歯止め。実際に同意がなくても変更できるようにする必要がある一方、相手方の保護の観点から、合理的な場合に限定する→1項(中身)と2項・3項(手続)。注意=規約に変更条項(「変更することがあります」)があっても、自由に変えられるのではない。条文の要件を満たさなければ、一方的には変えられない。 図:歯止め

  • 実際に同意がなくても変更できるようにする必要がある一方、相手方の保護の観点から、合理的な場合に限定する→1項(中身)と2項・3項(手続)
  • 注意=規約に変更条項(「変更することがあります」)があっても、自由に変えられるのではない
  • 条文の要件を満たさなければ、一方的には変えられない

ただし、歯止めがあります。改正の説明では、実際に同意がなくても変更できるようにする必要がある一方で、相手方、つまり顧客の保護の観点から、合理的な場合に限定する必要がある、とされています。これが、1項の中身の要件と、2項、3項の手続です。注意点が一つあります。規約の中の「変更することがあります」という定めを、変更条項と呼びます。規約に、当社の都合で変更することがあります、と書いてあれば、自由に変えられる、のではありません。変更条項があっても、条文の要件を満たさなければ、一方的には変えられません。改正の説明の札です。

柱1——1項の入口、1号

548条の4第1項の入口は2つ。効果=変更後の条項について合意があったものとみなし、個別に相手方と合意をすることなく契約の内容を変更できる。1号=変更が、相手方の一般の利益に適合するとき。2号=契約をした目的に反せず、かつ、合理的なものであるとき。どちらかを満たせばよい。1号の例=料金の値下げ、サービスの拡充。 図:548条の4第1項の入口は2つ

  • 効果=変更後の条項について合意があったものとみなし、個別に相手方と合意をすることなく契約の内容を変更できる
  • 1号=変更が、相手方の一般の利益に適合するとき
  • 2号=契約をした目的に反せず、かつ、合理的なものであるとき
  • どちらかを満たせばよい
  • 1号の例=料金の値下げ、サービスの拡充

条文を読みます。548条の4 の1項は、柱書と、1号、2号でできています。まず、柱書と1号です。

条文民法548条の4第1項

民法第548条の4第1項柱書・第1号(定型約款の変更) 1 定型約款準備者は、次に掲げる場合には、定型約款の変更をすることにより、変更後の定型約款の条項について合意があったものとみなし、個別に相手方と合意をすることなく契約の内容を変更することができる。  一 定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合するとき。

効果は、2つの言い方で書かれています。変更後の条項について、合意があったものとみなす。個別に相手方と合意をすることなく、契約の内容を変更できる。みなす、は、反証を許さず、合意があったことにする、という意味です。入口は2つです。1号と2号の、どちらかを満たせばよいのです。かつ、でつながれているのは、2号の中だけです。1号の、相手方の一般の利益に適合する、とは、特定の相手方だけでなく、相手方全員の利益に適合する変更を指します。政府の説明です。同意なしで変えてよい理由は、通常、相手方が変更に合意すると言えるからです。例は、顧客が払う金額の減額や、サービス内容の拡充です。設例なら、月額を800円にする、見られる作品を増やす、という変更です。

柱1——2号を分解する

548条の4第1項2号を分解する。1 契約をした目的に反せず、かつ。2 次の事情に照らして合理的なものであるとき=変更の必要性/変更後の内容の相当性/この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定め(変更条項)の有無及びその内容/その他の変更に係る事情。変更条項は考慮要素の1つ=無ければ変更できない、ではない。有っても、それだけで変更できるわけでもない。 図:548条の4第1項2号を分解する

  • 1 契約をした目的に反せず、かつ
  • 2 次の事情に照らして合理的なものであるとき=変更の必要性/変更後の内容の相当性/この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定め(変更条項)の有無及びその内容/その他の変更に係る事情
  • 変更条項は考慮要素の1つ=無ければ変更できない、ではない
  • 有っても、それだけで変更できるわけでもない

設例の値上げは、1号に当たりません。2号の出番です。2号を読みます。

条文民法548条の4第1項

民法第548条の4第1項第2号  二 定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき。

分解します。1つめ、契約をした目的に反しないこと。そのうえで2つめ、次の事情に照らして、合理的なものであること。事情は4つ並んでいます。変更の必要性。なぜ変えなければならないのか、です。変更後の内容の相当性。変えたあとの中身が、行き過ぎていないか、です。この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容。これが、さきほどの変更条項です。そして、その他の変更に係る事情です。その他の変更に係る事情は、改正の説明で、相手方に与える不利益の内容や程度、不利益を軽くする措置の内容などが挙げられています。事業者の側の事情だけでなく、相手方の事情も含めて、総合的に見ます。政府の説明では、客観的に見て合理的でなければならず、事業者にとって合理的と言えればよい、わけではありません。

変更条項。意味=規約の中の、定型約款の変更をすることがある旨の定め。無くても2号の変更ができなくなるわけではない(考慮要素の1つ)。有っても、それだけで変更できるわけではない。変更の対象や要件が具体的に定められていれば、合理性は認められやすくなる。 図:変更条項

  • 意味=規約の中の、定型約款の変更をすることがある旨の定め
  • 無くても2号の変更ができなくなるわけではない(考慮要素の1つ)
  • 有っても、それだけで変更できるわけではない
  • 変更の対象や要件が具体的に定められていれば、合理性は認められやすくなる

変更条項が無くても、2号の変更ができなくなるわけではありません。変更条項は、考慮要素の1つです。条文が、有無及びその内容、と書いているからです。無ければ変更できない、という要件ではありません。逆に、有っても、それだけで変更できるわけでもありません。無いことは、合理性の判断で不利に働きうるだけです。こちらの説明の札です。変更条項が置かれていて、変更の対象や要件が具体的に定められているなら、合理性は認められやすくなります。改正の説明では、有利な事情として考慮される、とされています。

柱2——周知の手続と、効力

548条の4第2項。1号・2号どちらの変更でも、効力発生時期を定め、変更する旨・変更後の内容・効力発生時期を、インターネットの利用その他の適切な方法により周知しなければならない。周知=広く知らせること。 図:548条の4第2項

  • 1号・2号どちらの変更でも、効力発生時期を定め、変更する旨・変更後の内容・効力発生時期を、インターネットの利用その他の適切な方法により周知しなければならない
  • 周知=広く知らせること

柱2です。変えてよい中身が1項なら、踏むべき手続が、2項と3項です。2項から読みます。

条文民法548条の4第2項

民法第548条の4第2項 2 定型約款準備者は、前項の規定による定型約款の変更をするときは、その効力発生時期を定め、かつ、定型約款を変更する旨及び変更後の定型約款の内容並びにその効力発生時期をインターネットの利用その他の適切な方法により周知しなければならない。

読みます。定型約款準備者は、1項の規定による変更をするときは、その効力発生時期を定め、かつ、変更する旨、変更後の内容、効力発生時期を、インターネットの利用その他の適切な方法により、周知しなければならない。周知とは、広く知らせることです。1号の変更でも、2号の変更でも、周知しなければなりません。改正の説明の札で、周知の方法について、補足を一つだけ。インターネットを使えない相手方がいても、直ちに、個別の書面通知までは要りません。ただし、不利益を軽くする措置があるから合理的と言える変更では、各顧客に個別に書面で通知して、軽減措置を使う機会を与えなければならない場合も、あり得る、とされています。

548条の4第3項。第一項第二号の規定による変更は、効力発生時期が到来するまでに周知をしなければ、その効力を生じない。書いてあるのは2号だけ。1号の変更は、周知が遅れても、効力に影響しない。 図:548条の4第3項

  • 第一項第二号の規定による変更は、効力発生時期が到来するまでに周知をしなければ、その効力を生じない
  • 書いてあるのは2号だけ
  • 1号の変更は、周知が遅れても、効力に影響しない

次は3項です。周知をしなかったら、どうなるのか。

条文民法548条の4第3項

民法第548条の4第3項 3 第一項第二号の規定による定型約款の変更は、前項の効力発生時期が到来するまでに同項の規定による周知をしなければ、その効力を生じない。

読みます。1項2号の規定による変更は、2項の効力発生時期が到来するまでに、同項の規定による周知をしなければ、その効力を生じない。ここが読み分けです。条文が書いているのは、2号だけです。2号の変更は、効力発生時期が到来するまでに周知しなければ、効力を生じません。1号の変更は、周知が遅れても、効力に影響しません。ただし、2項の周知の義務は、1号にもあります。1号の反対読みは、こちらの説明の札です。なぜ2号だけなのか。政府の説明では、相手方の一般の利益に適合する場合に当たらない変更について、相手方保護の観点から、周知をしなかったときは効力を生じないとした、とされています。1号は相手方に利益になる変更なので、効力まで止める必要は小さい、というのは、こちらの説明です。

1号と2号の手続の表。実体の要件=1号は相手方の一般の利益に適合/2号は契約の目的に反せず、変更の必要性・相当性・変更条項の有無及び内容・その他の事情に照らして合理的。周知の義務(2項)=どちらもあり。周知しないと(3項)=1号は効力に影響しない/2号は効力を生じない。 図:1号と2号の手続の表

  • 実体の要件=1号は相手方の一般の利益に適合/2号は契約の目的に反せず、変更の必要性・相当性・変更条項の有無及び内容・その他の事情に照らして合理的
  • 周知の義務(2項)=どちらもあり
  • 周知しないと(3項)=1号は効力に影響しない/2号は効力を生じない

表で並べます。実体の要件は、1号と2号で違います。周知の義務は、どちらにもあります。違いが出るのは、周知をしなかったときで、効力を生じないのは、2号だけです。

柱3——4項は、変更に不当条項の規定を適用しない

548条の4第4項。前提=548条の2第2項は、相手方の義務を加重する等の条項で、信義則に反して相手方の利益を一方的に害するものは、合意をしなかったものとみなす(その条項だけ外れる)。4項=その規定は、1項の規定による定型約款の変更には、適用しない。変更の当否は1項の基準で見る。 図:548条の4第4項

  • 前提=548条の2第2項は、相手方の義務を加重する等の条項で、信義則に反して相手方の利益を一方的に害するものは、合意をしなかったものとみなす(その条項だけ外れる)
  • 4項=その規定は、1項の規定による定型約款の変更には、適用しない
  • 変更の当否は1項の基準で見る

柱3です。中身と手続、2つの歯止めを見ました。では、変更で足された条項が不当だと言いたいとき、不当な条項を外す規定も、使えるのでしょうか。答えは4項にあります。先に前提です。548条の2 の2項は、相手方の義務を加重する条項などで、信義則に反して、相手方の利益を一方的に害するものは、合意をしなかったものとみなす、という規定です。信義則は、民法1条2項にある、相手の正当な期待を裏切らない、という考え方です。その条項だけが外れます。

条文民法548条の4第4項

民法第548条の4第4項 4 第五百四十八条の二第二項の規定は、第一項の規定による定型約款の変更については、適用しない。

読みます。548条の2 の2項の規定は、1項の規定による定型約款の変更については、適用しない。条文の札です。変更には、不当な条項の規定を、重ねて使わない、ということです。

4項の趣旨(改正の説明)。立案の前提=定型約款の変更には不当条項の規定は適用されず、変更の当否は1項各号の規律による。両者の関係は必ずしもはっきりしないという指摘があり、確認のために4項を置いた。政府の説明=内容の不当性も含めて1項の要件で判断すれば足りる。 図:4項の趣旨

  • 改正の説明
  • 立案の前提=定型約款の変更には不当条項の規定は適用されず、変更の当否は1項各号の規律による。両者の関係は必ずしもはっきりしないという指摘があり、確認のために4項を置いた。政府の説明=内容の不当性も含めて1項の要件で判断すれば足りる。

趣旨は、改正の説明です。立案の資料は、定型約款の変更には不当条項の規定は適用されず、変更の当否は、より厳格であり、かつ考慮要素も異なる、1項各号の規律による、ということを前提にしていました。ところが、両者の関係は必ずしもはっきりしないという指摘があったので、確認のために4項を置いた、と説明されています。政府の説明では、変更された条項の相当性は、不当条項の規制よりも厳格な要件のもとで判断されるので、内容の不当性も含めて、1項の要件で判断すれば足り、548条の2 の2項を、あえて適用する必要がない、とされています。厳格な要件として挙げられているのは、契約をした目的に反しないこと、などです。

548条の2第2項と、変更(1項)の物差しの違い。2項が外すのは、信義則に反して相手方の利益を一方的に害する条項だけ。変更は、1号に当たらなければ、2号で目的に反せず合理的と言えてはじめて通る。試験では、変更後の条項が不利だという主張は、1項の基準で争う。4項は適用関係を確認する条文。

条文を並べます。こちらの説明の札です。548条の2 の2項が外すのは、信義則に反して、相手方の利益を一方的に害する条項だけです。変更のほうは、1号に当たらなければ、2号で、契約をした目的に反せず、かつ合理的と言えて、はじめて通ります。見る物差しが違うのです。ただし、より厳格、という評価は、立案した側と政府の説明です。条文に、厳格に判断する、と書いてあるわけではありません。答案で条文から言えるのは、変更の当否は1項の基準で見る、というところまでです。試験での使い方です。こちらの説明の札を一枚。変更後の条項が一方的に不利だ、という主張は、548条の2 の2項ではなく、1項の基準で争います。1号に当たるか、2号の合理性があるか、です。4項は、新しい制度を作る条文ではなく、適用関係を確認する条文です。

柱3——設例の値上げに当てる

設例の値上げ。1号に当たるか=値上げは相手方の一般の利益に適合しない→1号には当たらない。2号に当てはめる=【要件】1 契約をした目的に反しないか/【合理性の考慮要素】2 値上げの必要性(配信費・権利料の上昇など)3 上げ幅や内容は相当か(200円=2割) 4 変更条項の有無と内容(「料金を変更することがある」)5 その他の事情(猶予期間・値上げ前に解約できる期間など)。結論=事情しだい。 図:設例の値上げ

  • 1号に当たるか=値上げは相手方の一般の利益に適合しない→1号には当たらない
  • 2号に当てはめる=【要件】1 契約をした目的に反しないか/【合理性の考慮要素】2 値上げの必要性(配信費・権利料の上昇など)3 上げ幅や内容は相当か(200円=2割) 4 変更条項の有無と内容(「料金を変更することがある」)5 その他の事情(猶予期間・値上げ前に解約できる期間など)
  • 結論=事情しだい

設例の値上げに当てます。こちらの説明の札で、結論は、事情しだいです。まず、値上げは、相手方の一般の利益に適合しません。ですから、1号には当たりません。2号で考えます。2号に、1つずつ当てます。1つめは要件です。契約をした目的に反しないか。動画を見られる、という契約の目的が変わらないかを見ます。内容を大きく削っての値上げなら、話が別です。2つめからは、合理性を見るための考慮要素です。2つめ、値上げの必要性。配信費や権利料の上昇など、値上げを必要とする事情があるか。3つめ、変更後の内容の相当性。上げ幅は200円、2割です。この幅と内容がつり合っているか。

当てはめの続き。4 変更条項の有無と内容(「料金を変更することがある」)5 その他の事情(猶予期間・値上げ前に解約できる期間)。総合して合理的かを見る。合理的と言いやすい=理由がはっきり・上げ幅が小さい・解約できる期間がある。言いにくい=理由が示されず・上げ幅が大きく・解約の機会も無い。 図:当てはめの続き

  • 4 変更条項の有無と内容(「料金を変更することがある」)5 その他の事情(猶予期間・値上げ前に解約できる期間)
  • 総合して合理的かを見る
  • 合理的と言いやすい=理由がはっきり・上げ幅が小さい・解約できる期間がある
  • 言いにくい=理由が示されず・上げ幅が大きく・解約の機会も無い

4つめ、変更条項の有無と内容。A社の規約に、料金を変更することがある、という定めが入っているかを見ます。入っていれば、それも材料になります。変更の対象や要件が具体的に書かれているなら、合理性は認められやすくなります。5つめ、その他の事情。既存の利用者への影響を和らげる措置、たとえば猶予期間や、値上げ前に解約できる期間があるか、です。これらを総合して、合理的かどうかを見ます。たとえば、値上げの理由がはっきりしていて、上げ幅が小さく、値上げ前に解約できる期間もあるなら、合理的と言いやすくなります。逆に、理由が示されず、上げ幅が大きく、解約の機会も無いなら、言いにくくなります。

値上げの手続。効力発生時期=来月。来月が来るまでに、変更する旨・変更後の料金・効力発生時期をインターネットなどで周知していなければ、この値上げは効力を生じない(3項)。 図:値上げの手続

  • 効力発生時期=来月
  • 来月が来るまでに、変更する旨・変更後の料金・効力発生時期をインターネットなどで周知していなければ、この値上げは効力を生じない(3項)

手続です。効力発生時期が、来月からだったとします。その来月が来るまでに、変更する旨、変更後の料金、効力発生時期を、インターネットなどで周知していなければ、この値上げは、効力を生じません。3項です。

1号に当たる例と当たらない例。値下げ・見られる作品の追加は、1号に当たりうる。サービスの縮小(見られる画質を下げる)・A社の責任を軽くする免責条項の追加は、1号に当たらず、2号の合理性の判断で、変更の重さしだい。 図:1号に当たる例と当たらない例

  • 値下げ・見られる作品の追加は、1号に当たりうる
  • サービスの縮小(見られる画質を下げる)・A社の責任を軽くする免責条項の追加は、1号に当たらず、2号の合理性の判断で、変更の重さしだい

別の例です。値下げや、見られる作品の追加は、1号に当たりえます。改正の説明の札に挙げられた例です。一方、サービスの縮小、たとえば見られる画質を下げることや、A社の責任を軽くする免責条項の追加は、1号に当たりません。2号の合理性の判断で、変更の重さしだいです。ここは、こちらの説明の札です。

経過措置(短答知識)。平成29年法律第44号附則33条=548条の2〜548条の4は、施行日前に締結された定型取引に係る契約にも適用する(ただし旧法の規定によって生じた効力を妨げない)。契約の当事者の一方が書面(電磁的記録を含む)で反対の意思を表示したときは適用しない(解除権を現に行使できる者を除く)。その表示は施行日前にしなければならない。施行日=2020年4月1日。 図:経過措置

  • 短答知識
  • 平成29年法律第44号附則33条=548条の2〜548条の4は、施行日前に締結された定型取引に係る契約にも適用する(ただし旧法の規定によって生じた効力を妨げない)。契約の当事者の一方が書面(電磁的記録を含む)で反対の意思を表示したときは適用しない(解除権を現に行使できる者を除く)。その表示は施行日前にしなければならない。施行日=2020年4月1日。

短答向けに、経過措置を一言だけです。2017年の改正法の附則33条で、この3か条は、施行日の前に結ばれた、定型取引に係る契約にも適用されます。ただし、旧法の規定によって生じた効力は妨げません。契約の当事者の一方が、書面、電磁的記録を含みますが、これで反対の意思を表示したときは、適用されません。ただし、契約や法律の規定で、解除権を現に行使できる人は、この表示ができません。その表示は、施行日の前にしなければなりません。条文の札です。改正の説明では、施行日、2020年4月1日より前に結んだ契約でも、原則として、施行日のあとは新しい民法が適用される、とされています。

弁別の練習——契約の中身があとから変わる4つの道

契約の中身があとから変わる4つの道。個別の合意による変更=同意が要る(合意すればいつでも)・定型約款に限らない。定型約款の変更(548条の4)=同意は要らない・条文がある(1号・2号と周知)・定型約款だけ。事情変更の法理=相手が応じないとき・条文は無い(信義則)・きわめて狭い・定型約款に限らない。548条の2第2項=変更ではない・最初から契約の中身にならない条項の話。 図:契約の中身があとから変わる4つの道

  • 個別の合意による変更=同意が要る(合意すればいつでも)・定型約款に限らない
  • 定型約款の変更(548条の4)=同意は要らない・条文がある(1号・2号と周知)・定型約款だけ
  • 事情変更の法理=相手が応じないとき・条文は無い(信義則)・きわめて狭い・定型約款に限らない
  • 548条の2第2項=変更ではない・最初から契約の中身にならない条項の話

ここからは練習です。契約の中身があとから変わる道は、4つあります。分け目を確認します。1つめ、個別の合意による変更。同意が要ります。合意すれば、いつでも変えられます。定型約款でなくても使えます。2つめ、定型約款の変更。同意は要りません。条文があり、1号、2号と周知で縛られます。定型約款だけの道です。3つめ、事情変更の法理。契約を結んだあとに、前提にしていた事情が、当事者の予想できた範囲を超えて大きく変わり、契約どおりに守らせるのが著しく不当になる場合に、相手が応じなくても、拘束から解かれたり、中身を改められたりする道です。条文は無く、学説と実務の整理では、信義則から立てる法理で、扉はきわめて狭いです。固定の値段で売ると約束したあとに、仕入れ値が上がって赤字になった、というだけでは足りません。定型約款に限りません。4つめ、548条の2 の2項。これは変更の道ではありません。最初から契約の中身にならない条項の話で、変更には適用されません。

練習問題1。製粉所のC社と食品会社のD社が、1対1で交渉して、10年間の小麦粉の供給契約を結んだ。原料が値上がりして、C社が「来月から値段を上げる」とD社に通知した。D社は同意していない。問い=C社は548条の4で値段を変えられるか。 図:練習問題1

  • 製粉所のC社と食品会社のD社が、1対1で交渉して、10年間の小麦粉の供給契約を結んだ
  • 原料が値上がりして、C社が「来月から値段を上げる」とD社に通知した
  • D社は同意していない
  • 問い=C社は548条の4で値段を変えられるか

問1です。製粉所のC社と、食品会社のD社が、1対1で交渉して、10年間の小麦粉の供給契約を結びました。原料が値上がりして、C社が、来月から値段を上げる、とD社に通知しました。D社は同意していません。C社は、548条の4 で、値段を変えられるでしょうか?C社は、定型約款の変更では、値段を変えられません。この契約書は、1対1の交渉で作ったもので、定型約款ではありません。不特定多数を相手に、全員同じ内容で結ぶ取引ではないからです。548条の4 は使えず、値段を変えるには、D社の個別の合意が要ります。同意が得られないまま拘束を解く道は、事情変更の法理ですが、きわめて狭いです。決め手は、548条の4 で同意なしに変えられるのは、定型約款だけ、ということです。

練習問題2。1 E社が、料金を下げる変更を、周知が効力発生日のあとになったまま始めた。2 F社が、料金を上げる変更を、周知せずに始めた。問い=それぞれ、変更の効力はどうなるか。 図:練習問題2

  • 1 E社が、料金を下げる変更を、周知が効力発生日のあとになったまま始めた
  • 2 F社が、料金を上げる変更を、周知せずに始めた
  • 問い=それぞれ、変更の効力はどうなるか

問2です。1つめ、E社が、料金を下げる変更を、周知が効力発生日のあとになったまま始めました。2つめ、F社が、料金を上げる変更を、周知せずに始めました。変更の効力は、それぞれどうなるでしょうか?結論が分かれます。1つめは、料金を下げる変更なので、1号です。3項は2号だけを書いているので、周知が遅れても、効力に影響しません。ただし、2項の周知の義務の違反は残ります。2つめは、料金を上げる変更なので、2号に当たるかを考えます。周知しないまま、効力発生時期が来れば、効力を生じません。3項です。決め手は、1号か、2号か、です。

練習問題3。G社が、約款を変更して、「解約するときは、違約金として1年分の料金を払う」という条項を新しく足した。利用者Hは「不当な条項の規定(548条の2第2項)で、この条項は外れる」と主張した。問い=この主張は通るか。 図:練習問題3

  • G社が、約款を変更して、「解約するときは、違約金として1年分の料金を払う」という条項を新しく足した
  • 利用者Hは「不当な条項の規定(548条の2第2項)で、この条項は外れる」と主張した
  • 問い=この主張は通るか

問3です。G社が、約款を変更して、解約するときは、違約金として1年分の料金を払う、という条項を新しく足しました。利用者のHは、不当な条項の規定、548条の2 の2項で、この条項は外れる、と主張しました。この主張は、通るでしょうか?Hの主張は、通りません。4項により、変更には、548条の2 の2項は適用されないからです。争うなら、1項の基準です。1号に当たるか、2号で、契約をした目的に反しないか、そして必要性、相当性、変更条項、その他の事情に照らして、合理的か、です。決め手は、変更の当否は、1項の基準で見る作りになっている、ということです。条文と改正の説明の札です。

冒頭の問いに戻る——まとめ

今日のまとめ。3つの柱=1 契約の中身は、個別の合意が要るのが原則。定型約款は、相手方が多数で合意を取りにくいので、1号(一般の利益に適合)か2号(目的に反せず合理的。変更条項は考慮要素の1つ)なら、同意なしに変えられる。2 手続は、1号・2号とも周知(2項)。周知が遅れて効力を生じないのは2号だけ(3項)。3 4項で、548条の2第2項は変更に適用しない。変更の当否は1項の基準で見る。経過措置は短答で一言。 図:今日のまとめ

  • 3つの柱=1 契約の中身は、個別の合意が要るのが原則
  • 定型約款は、相手方が多数で合意を取りにくいので、1号(一般の利益に適合)か2号(目的に反せず合理的。変更条項は考慮要素の1つ)なら、同意なしに変えられる
  • 2 手続は、1号・2号とも周知(2項)
  • 周知が遅れて効力を生じないのは2号だけ(3項)
  • 3 4項で、548条の2第2項は変更に適用しない
  • 変更の当否は1項の基準で見る
  • 経過措置は短答で一言

3つの柱で整理します。1つめ、契約の中身は、個別の合意が要るのが原則です。定型約款は、相手方が多数で、合意を取りにくいので、1号の、相手方の一般の利益に適合するか、2号の、目的に反せず合理的か、のどちらかを満たせば、同意なしに変えられます。変更条項は、考慮要素の1つです。2つめ、手続は、1号でも2号でも、周知です。2項です。周知が遅れて、効力を生じないのは、2号だけです。3項です。3つめ、4項で、548条の2 の2項は、変更には適用されません。変更の当否は、1項の基準で見ます。経過措置では、施行日の前に結んだ契約にも、原則として、定型約款の規定が適用されます。

冒頭の問いの答え。Bの値上げ=1号に当たらない→2号で見る=1 契約をした目的に反しないか 2 必要性・相当性・変更条項・その他の事情に照らして合理的か。手続=効力発生時期(来月)が来るまでに周知していなければ効力を生じない(3項)。結論=事情しだい。 図:冒頭の問いの答え

  • Bの値上げ=1号に当たらない→2号で見る=1 契約をした目的に反しないか 2 必要性・相当性・変更条項・その他の事情に照らして合理的か
  • 手続=効力発生時期(来月)が来るまでに周知していなければ効力を生じない(3項)
  • 結論=事情しだい

冒頭の問いに戻ります。同意していないBの料金は、変わるのか。値上げは、1号に当たりません。2号で、契約をした目的に反しないか、そして必要性、相当性、変更条項、その他の事情に照らして、合理的かどうかを見ます。さらに、効力発生時期の来月が来るまでに、周知していなければ、効力を生じません。結論は、事情しだいです。同意が無くても変わりうるが、条文の条件を満たしたときだけ、という方向のとおりです。このまとまり全体も、一言で振り返ります。契約の基礎と成立では、契約が結ばれ、中身が決まり、そして、中身があとから変わる場面まで見ました。論文で論点になりうるのは、2号の合理性の当てはめです。ここは評価の問題で、考慮要素を、条文の言葉で言います。548条の4 の要件は、条文どおりで、条文番号で言えます。

参照条文

  • 民法548条の4第1項
  • 民法548条の4第2項
  • 民法548条の4第3項
  • 民法548条の4第4項

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