民法ゼロから民法#232

同時履行の抗弁権の意義と要件

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第5章 契約 #232/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

代金をもらうまで、品物は渡さない

冒頭の設例の関係図。A(売主)は中古の軽トラックを80万円でB(買主)に売った。Aの債務=軽トラックの引渡し/Bの債務=代金80万円の支払。引渡しも支払も今月末の約束。月末、Bが手ぶらで来て「先に車を渡してください。代金は来週払います」と言う。Aは代金をまだ1円ももらっていない。問い=Aは断れるか。 図:冒頭の設例の関係図

  • A(売主)は中古の軽トラックを80万円でB(買主)に売った
  • Aの債務=軽トラックの引渡し/Bの債務=代金80万円の支払
  • 引渡しも支払も今月末の約束
  • 月末、Bが手ぶらで来て「先に車を渡してください。代金は来週払います」と言う
  • Aは代金をまだ1円ももらっていない
  • 問い=Aは断れるか

先に、Aは断れるのか、という問いの答えの方向を言います。断れます。Aは、代金と引き換えでなければ渡さない、と言えます。民法533条の、同時履行の抗弁権です。なぜ断れるのか。どういう条件がそろったときに、この断りが使えるのか。条文の言葉から、3つの条件を取り出します。そのあとで、条件が少し変わると結論が変わる場面を、同じ売買を使って確かめます。登場するのは、軽トラックを売ったAと、買ったBです。

今日の位置と、3つの柱

今日の地図。位置=契約の基礎と成立を終えて、双務契約の効力へ。双務契約にだけ働く規律=同時履行の抗弁権(533条)/危険負担(536条)。そのあとに第三者のためにする契約。今日=同時履行の抗弁権の意義と要件。背骨=向き合う2つの債務のうち、片方だけを先に果たさせるのは不公平。だから、相手が自分の分を出すまで、こちらも出さなくてよい。使える場面は、条文の言葉から3つの要件に割れる。 図:今日の地図

  • 位置=契約の基礎と成立を終えて、双務契約の効力へ
  • 双務契約にだけ働く規律=同時履行の抗弁権(533条)/危険負担(536条)
  • そのあとに第三者のためにする契約
  • 今日=同時履行の抗弁権の意義と要件
  • 背骨=向き合う2つの債務のうち、片方だけを先に果たさせるのは不公平
  • だから、相手が自分の分を出すまで、こちらも出さなくてよい
  • 使える場面は、条文の言葉から3つの要件に割れる

位置づけです。ここまでで、契約の基礎と成立を見終えました。今日から、成立した契約が、どんな効力を持つのかに入ります。最初は、双務契約にだけ働く規律です。1つめが、同時履行の抗弁権の533条。2つめが、危険負担の536条です。そのあとに、第三者のためにする契約が続きます。今日は、同時履行の抗弁権の、意義と要件を見ます。抗弁権とは、相手からの請求を、いったん阻止できる権利でした。総則で、権利の種類を並べたときに見た言葉です。同時履行の抗弁権は、その代表です。今日の背骨は、この一文です。向き合う2つの債務のうち、片方だけを先に果たさせるのは、不公平。だから民法は、相手が自分の分を出すまで、こちらも出さなくてよい、としました。使える場面は、条文の言葉から、3つの要件に割れます。

今日の3つの柱。柱1=同時履行の抗弁権とは何か(533条を全文で読む)。柱2=要件3つを条文から立てる。柱3=先に履行する約束をしたBが遅れたとき。そのあと、要件の見分け方を5つの事例で練習する。根拠の札=条文/判例/学説/こちらの説明。 図:今日の3つの柱

  • 柱1=同時履行の抗弁権とは何か(533条を全文で読む)
  • 柱2=要件3つを条文から立てる
  • 柱3=先に履行する約束をしたBが遅れたとき
  • そのあと、要件の見分け方を5つの事例で練習する
  • 根拠の札=条文/判例/学説/こちらの説明

柱は3つです。1つめ、同時履行の抗弁権とは何か。533条を全文で読みます。2つめ、要件3つを立てます。条文のどの言葉から出てくるのかも、付けます。3つめ、先に履行する約束をしたBが、遅れてしまった場合です。そのあとで、要件の見分け方を、5つの事例で練習します。根拠の札を、貼るように言い分けます。条文とは、法律に書いてあることです。こちらの説明とは、この動画が理解のために整理したことです。学説とは、学者が説明している考え方で、そのうち多くの人が採る考え方を、通説と言います。判例とは、裁判所が実際に出した判断です。今日は、判例は出てきません。

柱1——533条を全文で読む

柱1の入口。問い=向き合う2つの債務は、どういう関係に置かれるのか。533条を全文で読み、3つに割る。設例=Aの引渡債務とBの代金債務が向き合っている。 図:柱1の入口

  • 問い=向き合う2つの債務は、どういう関係に置かれるのか
  • 533条を全文で読み、3つに割る
  • 設例=Aの引渡債務とBの代金債務が向き合っている

柱1です。533条を読みます。その前に、復習を一つ。双務契約とは、どんな契約でしたか?双方が、互いに対価として向き合う債務を負う契約です。売買は双務契約で、贈与は片務契約でした。冒頭の設例なら、Aの車を引き渡す債務と、Bの代金を払う債務が、対価として向き合っています。双務契約では、この2つの債務を、引き換えの関係に置くことになります。それを定めたのが、533条です。

条文民法533条

民法第533条 双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行(債務の履行に代わる損害賠償の債務の履行を含む。)を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない。

読みます。双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行を提供するまでは、自分の債務の履行を拒める。ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない。条文の札です。かっこ書は、少しあとで読みます。弁済期とは、その債務を履行しなければならない時期が来ていることです。

533条を3つに割って読む。1 誰が=双務契約の当事者の一方(AもBも当たる)。2 いつまで=相手方がその債務の履行(かっこ書は省略)を提供するまで。3 何ができる=自己の債務の履行を拒むことができる(いまは履行しなくてよい)。ただし書=相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない。 図:533条を3つに割って読む

  • 1 誰が=双務契約の当事者の一方(AもBも当たる)
  • 2 いつまで=相手方がその債務の履行(かっこ書は省略)を提供するまで
  • 3 何ができる=自己の債務の履行を拒むことができる(いまは履行しなくてよい)
  • ただし書=相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない

3つに割って読みます。1つめ、誰が。双務契約の当事者の一方です。AもBも、当事者の一方に当たります。2つめ、いつまで。相手方が、その債務の履行を提供するまでです。3つめ、何ができるか。自分の債務の履行を拒むことができます。そして、ただし書です。相手方の債務が、まだ弁済期にないときは、この拒みは使えません。設例に当てます。月末で、AもBも、債務は弁済期にあります。Bは、代金を提供していません。手ぶらで来て、後払いを頼んだだけです。ですから、Aは、自分の債務、つまり、軽トラックの引渡しを、拒めます。冒頭の問いの答えの前半です。こちらの説明の札です。

拒める、というのは、車を渡す約束そのものがなくなる、ということですか?なくなりません。ここは大事な区別です。拒めるのは、いま渡すことだけです。Aの引渡債務は、そのまま残っています。Bが代金を提供すれば、Aは車を渡さなければなりません。抗弁権は、請求を、いったん阻止する権利でした。請求の元になっている債務を、消す権利ではありません。いまは渡さなくてよい、であって、もう渡さなくてよい、ではないのです。こちらの説明の札です。

向き合う債務は、双方が相手に言える。Aは、Bが代金を提供するまで、引渡しを拒める。Bも、Aが車を提供するまで、代金の支払を拒める。どちらも債務は消えない。引き換えなら果たす。 図:向き合う債務は、双方が相手に言える

  • Aは、Bが代金を提供するまで、引渡しを拒める
  • Bも、Aが車を提供するまで、代金の支払を拒める
  • どちらも債務は消えない
  • 引き換えなら果たす

もう一つ。この権利は、Bのほうにもあります。Bも、Aが車を提供するまでは、代金の支払を拒めます。向き合う債務は、どちらの当事者も、相手に言えるのです。お互いに、相手が出すまで出さない、と言い合えば、結局、同時に出す形に落ち着きます。同時履行という名前は、ここから来ています。一つだけ、前に見たことの確認です。抗弁権が付いている間は、渡さなくても、遅れの責任を負いません。履行遅滞の回で、存在効果という名前で見た働きです。

柱1——趣旨は、当事者間の公平

趣旨=当事者間の公平。Aが車だけ先に渡す→Bが代金を払わない→Aは車を失い、代金も取れない(取り戻すには別の手間がかかる)。先に出した人だけが、相手が出さない危険を負う。だから、相手が出すまでは出さなくてよい。補足=相手に自分の分を出させる働きもある。

  • 趣旨=当事者間の公平
  • Aが車だけ先に渡す→Bが代金を払わない→Aは車を失い、代金も取れない(取り戻すには別の手間がかかる)
  • 先に出した人だけが、相手が出さない危険を負う
  • だから、相手が出すまでは出さなくてよい
  • 補足=相手に自分の分を出させる働きもある

なぜ民法は、こんな規定を置いたのか。趣旨です。条文には、趣旨が書かれていません。趣旨は、学者が説明している考え方で、学説の札です。趣旨は、当事者間の公平です。答案でも、この言葉で書きます。具体的に見ます。Aが、Bの言うとおり、車だけを先に渡したとします。そのあとで、Bが代金を払わなかったら、どうなるか。Aは、車を失い、代金も取れません。車を取り戻すにも、別に手間がかかります。向き合う債務なのに、先に出した人だけが、相手が出さない危険を負うのです。これは釣り合いません。だから、相手が出すまでは、こちらも出さなくてよい、とされています。

先に出す約束をしていた場合は、柱2と柱3で見ます。ここでは、約束がなければ、片方だけ先に出させない、というのが原則の形だ、と押さえてください。補足を一つ。この権利には、相手に、自分の分を出させる働きもある、と説明されます。代金をもらうまで車を渡さない、と言われたBは、払わなければ車が手に入りません。これも学説の札で、軽く触れておけば足ります。

柱1——牽連関係という整理

牽連関係=一方の債務があるから他方の債務がある、という結び付き。双務契約の2つの債務は、この結び付きでつながる。結び付きが現れる場面のうち、2つを見る。履行の場面=片方が出さない間は、他方も出さなくてよい(今日=同時履行の抗弁権)。一方が果たせなくなった場面=片方が履行できなくなったとき、他方はどうなるか(危険負担=この先の回)。

  • 牽連関係=一方の債務があるから他方の債務がある、という結び付き
  • 双務契約の2つの債務は、この結び付きでつながる
  • 結び付きが現れる場面のうち、2つを見る
  • 履行の場面=片方が出さない間は、他方も出さなくてよい(今日=同時履行の抗弁権)
  • 一方が果たせなくなった場面=片方が履行できなくなったとき、他方はどうなるか(危険負担=この先の回)

趣旨の背景にある考え方を、紹介します。牽連関係です。一方の債務があるから、他方の債務がある、という結び付きのことです。売買なら、車を渡す債務があるから、代金を払う債務がある。この結び付きで、2つの債務がつながっています。学説の札の整理です。似た言葉に、留置権の要件で見た、牽連性があります。あちらは、物と債権の結び付きでした。こちらは、債務と債務の結び付きで、見ているものが違います。

牽連関係が現れる場面のうち、2つ。履行の場面=片方が出さない間は、他方も出さなくてよい(債務はどちらも果たせる。出す順番の話。今日=同時履行の抗弁権・533条)。一方が果たせなくなった場面=片方が履行できなくなったとき、他方の債務はどうなるか(片方がもう出せない。残った他方の債務の話。危険負担・536条=この先の回)。 図:牽連関係が現れる場面のうち、2つ

  • 履行の場面=片方が出さない間は、他方も出さなくてよい(債務はどちらも果たせる。出す順番の話。今日=同時履行の抗弁権・533条)
  • 一方が果たせなくなった場面=片方が履行できなくなったとき、他方の債務はどうなるか(片方がもう出せない。残った他方の債務の話。危険負担・536条=この先の回)

この結び付きが現れる場面のうち、2つを見ます。1つめは、履行の場面です。片方が出さない間は、他方も出さなくてよい。これが、今日の同時履行の抗弁権です。2つめは、一方が果たせなくなった場面です。片方が履行できなくなったとき、他方の債務はどうなるのか。これが、危険負担です。536条は、受領遅滞の最中に品物が焼けた場面で、一度、条文を読みました。制度の全体は、この先の回で扱います。履行の場面と、果たせなくなった場面の違いは、債務がまだ果たせるかどうかです。履行の場面は、どちらの債務も果たせる状態で、出す順番をどうするか、の話です。果たせなくなった場面は、片方がもう出せない状態で、残った他方の債務をどうするか、の話です。設例でいえば、車が手元にあるのに引渡しを渋っているのが前者です。どちらのせいでもなく車が壊れて、渡せなくなったのが、後者の入口です。

柱1——かっこ書と、履行に代わる損害賠償

かっこ書=債務の履行に代わる損害賠償の債務の履行を含む。意味=相手方の債務が、履行に代わる損害賠償の債務(415条2項)に形を変えても、同時履行の関係は続く。履行に代わる損害賠償=本来の履行ができないとき、履行の代わりに払わせる損害賠償(填補賠償)。

  • かっこ書=債務の履行に代わる損害賠償の債務の履行を含む
  • 意味=相手方の債務が、履行に代わる損害賠償の債務(415条2項)に形を変えても、同時履行の関係は続く
  • 履行に代わる損害賠償=本来の履行ができないとき、履行の代わりに払わせる損害賠償(填補賠償)

533条のかっこ書に戻ります。債務の履行に代わる損害賠償の債務の履行を含む、とあります。履行に代わる損害賠償とは、本来の履行ができない場合に、履行の代わりに払わせる損害賠償で、415条2項に定めがありました。填補賠償とも言います。かっこ書の意味は、相手方の債務が、この賠償の債務に形を変えても、同時履行の関係は続く、ということです。例で確かめます。

設例の変種。契約の条件=両方月末。月末の前に、Aの不注意で、軽トラックが水没して引き渡せなくなった(Aの責任)。BはAに、車の代わりに履行に代わる損害賠償を請求できる(415条2項1号・履行不能)。月末、Aが代金80万円を請求→Bは「車の代わりの賠償を出すまで、代金は払わない」と言える。Aの賠償債務とBの代金債務が引き換えの関係になる。 図:設例の変種

  • 契約の条件=両方月末
  • 月末の前に、Aの不注意で、軽トラックが水没して引き渡せなくなった(Aの責任)
  • BはAに、車の代わりに履行に代わる損害賠償を請求できる(415条2項1号・履行不能)
  • 月末、Aが代金80万円を請求→Bは「車の代わりの賠償を出すまで、代金は払わない」と言える
  • Aの賠償債務とBの代金債務が引き換えの関係になる

契約の条件は、元のまま、引渡しも支払も月末です。ところが、月末の前に、Aの不注意で、軽トラックが水没して、引き渡せなくなりました。Aの責任です。どちらのせいでもない場面とは違って、Aの債務は、賠償の債務に形を変えて残ります。Bは、車の代わりに、履行に代わる損害賠償を請求できます。415条2項の1号、履行不能の場面です。そこで、月末に、Aが、Bへ代金の80万円を請求したとします。Bは、車の代わりの賠償を出すまで、代金は払わない、と言えます。Aの賠償の債務と、Bの代金の債務が、引き換えの関係になるのです。条文の札で、かっこ書がそう書いています。

車が賠償金に変わっても、引き換えが続く理由。Bが代金を払う目的=車を手に入れるため。いま起きたこと=その車が、Aの責任で、お金(賠償)の形に変わっただけ。もし代金だけ払わされたら=Bは車も、車の代わりのお金も手にしないまま、自分の分だけを先に出す(先に出した人だけが危険を負う不公平が残る)。かっこ書はいつから=2017年の改正で加わった(中身が新しくなったのではない。立法のときの説明では、従来から実務上そう解されていたことを明記したとされる)。 図:車が賠償金に変わっても、引き換えが続く理由

  • Bが代金を払う目的=車を手に入れるため
  • いま起きたこと=その車が、Aの責任で、お金(賠償)の形に変わっただけ
  • もし代金だけ払わされたら=Bは車も、車の代わりのお金も手にしないまま、自分の分だけを先に出す(先に出した人だけが危険を負う不公平が残る)
  • かっこ書はいつから=2017年の改正で加わった(中身が新しくなったのではない。立法のときの説明では、従来から実務上そう解されていたことを明記したとされる)

車が無くなっても引き換えが続くのは、賠償が、車の代わりだからです。Bが代金を払うのは、車を手に入れるためでした。その車が、Aの責任で、お金の形に変わっただけです。もし、Bが、賠償を受け取らないまま、代金だけを払わされたら、どうなるか。Bは、車も、車の代わりのお金も手にしないまま、自分の分だけを先に出すことになります。先に出した人だけが危険を負う、という不公平が、そのまま残るのです。だから、車が賠償金に変わっても、向き合う関係は消えません。こちらの説明の札です。このかっこ書は、いつからあるのか。2017年の改正で加わりました。ただし、中身が新しくなったのではありません。立法のときの説明では、従来から実務上そう解されていたことを、明記したとされています。こちらの説明の札です。

改正前と現在の比較。改正前=旧571条(売主の担保責任の場面に、533条を準用)/旧634条2項後段(請負で、瑕疵の修補に代わる損害賠償、修補とともにする損害賠償に、533条を準用)。現在=533条のかっこ書が受ける。2017年の改正で、個別の準用規定は削除。 図:改正前と現在の比較

  • 改正前=旧571条(売主の担保責任の場面に、533条を準用)/旧634条2項後段(請負で、瑕疵の修補に代わる損害賠償、修補とともにする損害賠償に、533条を準用)
  • 現在=533条のかっこ書が受ける
  • 2017年の改正で、個別の準用規定は削除

同じ改正で、個別に置かれていた準用規定が削られました。旧571条は、売買で、売主の担保責任、つまり、渡した物や権利に欠けたところがあったときに売主が負う責任の場面に、533条を準用していました。旧634条2項の後段は、請負で、瑕疵の修補、つまり欠陥を直すことに代えて、または直すこととともにする損害賠償に、533条を準用していました。改正で、担保責任を、債務不履行の責任として組み直しました。そこで出てくる賠償は、債務不履行の損害賠償です。履行に代わる賠償であれば、かっこ書が、そのまま受けます。そのため、準用の規定が要らなくなりました。こちらの説明の札です。

設例の変種。契約の条件=代金は、車の引渡しの1か月後に払う。Bは車を受け取った。そのあと、エンジンの不具合が見つかった。Aは直すことを拒んだ。Bは、直してもらう代わりの損害賠償(追完に代わる損害賠償)を請求した。1か月がたって代金の期日が来た→Bは、賠償を受けるまで、代金の支払を拒める。 図:設例の変種

  • 契約の条件=代金は、車の引渡しの1か月後に払う
  • Bは車を受け取った
  • そのあと、エンジンの不具合が見つかった
  • Aは直すことを拒んだ
  • Bは、直してもらう代わりの損害賠償(追完に代わる損害賠償)を請求した
  • 1か月がたって代金の期日が来た→Bは、賠償を受けるまで、代金の支払を拒める

もう一つ、変種です。契約の条件を変えます。代金は、車の引渡しの1か月後に払う約束です。Bは車を受け取りました。そのあとで、エンジンの不具合が見つかりました。Aが直すことを拒んだので、Bは、直してもらう代わりの損害賠償を請求しました。契約に合わない物を渡されたときに、契約どおりの形にしてもらうことを、追完と言います。その追完に代わる損害賠償です。この賠償の根拠が、415条の1項か2項かは、見方が分かれています。1か月がたって、代金の期日が来ました。Aが代金を請求してきたら、Bは、賠償を受けるまで、代金の支払を拒めます。直す代わりのお金も、契約どおりの車の、欠けた分の代わりだからです。かっこ書は、こういう場面も受け止める、と説明されています。契約に合わない物が渡されたときの救済の中身は、売買の回で扱います。請負の場合は、請負の回です。

柱2——要件3つは、条文のどの言葉から出るか

要件3つと条文の言葉。1 同じ双務契約から生まれた2つの債務がある=「双務契約の当事者の一方は」「相手方がその債務」「自己の債務」(かっこ書も)。札=条文(2つの債務の存在・同じ双務契約から生まれた債務という読み)。2 相手方の債務が弁済期にある=ただし書「相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない」。札=条文。自分の債務の弁済期は明文なし=学説+こちらの説明。3 相手方が履行の提供をしないで請求してきた=「相手方が…履行…を提供するまでは」。札=条文。 図:要件3つと条文の言葉

  • 1 同じ双務契約から生まれた2つの債務がある=「双務契約の当事者の一方は」「相手方がその債務」「自己の債務」(かっこ書も)
  • 札=条文(2つの債務の存在・同じ双務契約から生まれた債務という読み)
  • 2 相手方の債務が弁済期にある=ただし書「相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない」
  • 札=条文
  • 自分の債務の弁済期は明文なし=学説+こちらの説明
  • 3 相手方が履行の提供をしないで請求してきた=「相手方が…履行…を提供するまでは」
  • 札=条文

柱2です。533条から、3つの要件を立てます。先に表を見てください。要件ごとに、条文のどの言葉から出てくるか、そして根拠の札を、のせてあります。1つめ、同じ双務契約から生まれた、向き合う2つの債務があること。条文の、双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務、自己の債務、という言葉から出ます。かっこ書も含めます。同じ双務契約から生まれた債務、という読みも、条文の札です。2つめ、相手方の債務が、弁済期にあること。ただし書の、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない、の裏返しです。条文の札です。ただし、請求された自分の債務の弁済期は、条文に明文がありません。こちらは、学説の札と、こちらの説明です。3つめ、相手方が、履行の提供をしないで、請求してきたこと。条文の、提供するまでは、から出ます。条文の札です。ここが分け目です。条文どおりの要件と、解釈で立てるものを、混ぜません。条文どおりの要件は、条文番号と文言で言えます。答案では、条文を引いて当てはめれば足ります。解釈で立てているのは、自分の債務の弁済期の、1つだけです。以下、この区別をつけて見ていきます。

柱2——要件1、同じ双務契約から生まれた2つの債務

要件1。条文から読めること=双務契約があり、相手方の債務と自己の債務が向き合っている。設例=同じ売買から生まれた引渡債務と代金債務(引渡債務が履行に代わる損害賠償の債務に変わった場合も同じ)。向き合う債務は、同じ契約から生まれたものでなければならない(条文の読み)。 図:要件1

  • 条文から読めること=双務契約があり、相手方の債務と自己の債務が向き合っている
  • 設例=同じ売買から生まれた引渡債務と代金債務(引渡債務が履行に代わる損害賠償の債務に変わった場合も同じ)
  • 向き合う債務は、同じ契約から生まれたものでなければならない(条文の読み)

要件の1つめから見ます。条文から読めるのは、双務契約があって、相手方の債務と自己の債務が向き合っていることです。設例なら、同じ売買から生まれた、引渡債務と代金債務です。かっこ書のとおり、引渡債務が賠償の債務に変わった場合も、同じです。ここで、条文の読みを一つ確かめます。向き合う債務は、同じ契約から生まれたものでなければなりません。533条には、同じ契約から生まれた、という言葉そのものは、書かれていません。ですが、双務契約の当事者の一方、相手方がその債務、と書いているので、同じ双務契約の債務どうしの話だと読みます。変種で確かめます。

設例の変種。契約の条件=売買は元のまま両方月末。それとは別の契約で、AはBに30万円を貸していた(Aが貸主)。月末、Bが車の引渡しを求めた。問い=Aは「貸した30万円を返すまで渡さない」と言えるか=言えない。売買の債務と貸金の債務は、別の契約から生まれていて、対価として向き合っていない。 図:設例の変種

  • 契約の条件=売買は元のまま両方月末
  • それとは別の契約で、AはBに30万円を貸していた(Aが貸主)
  • 月末、Bが車の引渡しを求めた
  • 問い=Aは「貸した30万円を返すまで渡さない」と言えるか=言えない
  • 売買の債務と貸金の債務は、別の契約から生まれていて、対価として向き合っていない

売買の条件は、元のまま、両方月末です。それとは別の契約で、AはBに、30万円を貸していました。Aが貸主です。月末、Bが車の引渡しを求めたとき、Aは、貸した30万円を返すまで渡さない、と言えるでしょうか。言えません。売買の債務と、貸金の債務は、別々の契約から生まれていて、対価として向き合っていません。車と引き換えになるのは、あくまで、売買の代金です。30万円を取り立てたいなら、貸金として、別に請求することになります。同じAさんとBさんの間の債務なのに、だめなのですか?だめです。決め手は、公平を取り戻す相手が違うことです。車を先に渡すことで、先に出した人が背負うのは、代金が来ない危険でした。貸した30万円が返ってこない危険は、車を渡したから生じるものではありません。同じ2人の間の債務かどうかではなく、同じ契約で向き合っているかどうかで決まります。条文の読みと、こちらの説明の札です。

設例の変種。契約の条件=元の売買どおり。AがBに対する代金債権を、金融業者Cに譲渡した。Cが月末にBへ代金を請求。BはAに言えた「車と引き換えでなければ払わない」を、Cにも言える(468条1項)。債務引受でも同じ(免責的=472条の2第1項/併存的=471条1項)。理由=債権の中身は変わらずに移る。 図:設例の変種

  • 契約の条件=元の売買どおり
  • AがBに対する代金債権を、金融業者Cに譲渡した
  • Cが月末にBへ代金を請求
  • BはAに言えた「車と引き換えでなければ払わない」を、Cにも言える(468条1項)
  • 債務引受でも同じ(免責的=472条の2第1項/併存的=471条1項)
  • 理由=債権の中身は変わらずに移る

もう一つ。AがBに対する代金債権を、金融業者のCに譲渡したとします。Cが、月末にBへ代金を請求してきたら、Bは、Aに言えた、車と引き換えでなければ払わない、という抗弁を、Cにも言えます。468条1項です。債務を引き受けた人が請求されたときも同じです。免責的債務引受なら472条の2の1項、併存的債務引受なら471条の1項です。債権や債務の中身が、変わらずに移るからです。それぞれ、債権譲渡の回と、債務引受の回で、条文を読みました。条文の札です。

柱2——要件2、相手方の債務が弁済期にあること

要件2。ただし書=相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない。先履行義務=自分が先に履行する約束をしている義務。設例の変種。契約の条件=代金は今月10日に払う。車は月末に渡す。時間の流れ=10日(Bの代金の弁済期)/月末(Aの車の弁済期)。10日にAが代金を請求。 図:要件2

  • ただし書=相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない
  • 先履行義務=自分が先に履行する約束をしている義務
  • 設例の変種
  • 契約の条件=代金は今月10日に払う
  • 車は月末に渡す
  • 時間の流れ=10日(Bの代金の弁済期)/月末(Aの車の弁済期)
  • 10日にAが代金を請求

要件の2つめです。相手方の債務が、弁済期にあること。条文のただし書です。ここで、契約の条件を変えます。代金は今月10日に払う、車は月末に渡す、と決めていたとします。Bは、車より先に、代金を払う約束です。このように、自分が先に履行する約束をしている義務を、先履行義務と呼びます。10日に、Aが、代金を請求しました。Bは、車と引き換えだと言えるでしょうか?言えません。10日の時点で、Aの引渡債務は、まだ弁済期にありません。引渡しは月末の約束だからです。ただし書の、相手方の債務が弁済期にないとき、に当たります。Bは、先に払う約束をしている以上、車が来る前でも、払わなければなりません。決め手は、約束で順番を決めたのは、BとAの2人だということです。先に出す危険は、Bが約束で引き受けたもので、公平を理由に、その順番を崩すことはできません。条文の札で、結論はこちらの説明です。

弁済期の向きの違い。ただし書=相手方の債務の弁済期(Aの引渡債務がまだ来ていない→Bは引き換えを言えない)。もう一つ=自己の債務の弁済期(Bの代金債務がまだ来ていない→そもそも払わなくてよい)。変種=契約の条件は元どおり両方月末。20日にAが代金を請求→月末まで払わなくてよい。札=自己の債務の弁済期は明文なし(学説+こちらの説明)。 図:弁済期の向きの違い

  • ただし書=相手方の債務の弁済期(Aの引渡債務がまだ来ていない→Bは引き換えを言えない)
  • もう一つ=自己の債務の弁済期(Bの代金債務がまだ来ていない→そもそも払わなくてよい)
  • 変種=契約の条件は元どおり両方月末
  • 20日にAが代金を請求→月末まで払わなくてよい
  • 札=自己の債務の弁済期は明文なし(学説+こちらの説明)

もう一つ、弁済期があります。請求された、自分の債務の弁済期です。契約の条件を、元の両方月末に戻します。月末の前の20日に、Aが代金を請求したとします。Bは、月末の支払日まで、払わなくてよいです。自分の債務が、まだ弁済期に来ていないからです。同時履行の抗弁権を持ち出すまでもありません。これは条文に明文がありません。学説の札と、こちらの説明です。払わなくてよい以上、抗弁権を言う必要がないからです。ここで、向きを区別します。ただし書は、相手方の債務の弁済期です。いま見たのは、自己の債務の弁済期です。同じ弁済期でも、見る相手が逆です。

柱2——要件3つめ、相手方が履行の提供をしないで請求してきた

要件3。条文の言葉=相手方が…履行…を提供するまでは。履行の提供=やるべきことを全部やって、あとは受け取るだけの状態にすること(弁済の提供と同じ出来事)。設例の変種。契約の条件=両方月末。月末、Bが80万円を現金で持って来て「車を渡してください」と言った。Bは自分の分を提供している→Aは、いまは拒めない。 図:要件3

  • 条文の言葉=相手方が…履行…を提供するまでは
  • 履行の提供=やるべきことを全部やって、あとは受け取るだけの状態にすること(弁済の提供と同じ出来事)
  • 設例の変種
  • 契約の条件=両方月末
  • 月末、Bが80万円を現金で持って来て「車を渡してください」と言った
  • Bは自分の分を提供している→Aは、いまは拒めない

要件の3つめです。相手方が、履行の提供をしないで、請求してきたこと。条文の、提供するまでは、から出ます。履行の提供とは、債務者として、やるべきことを全部やって、あとは相手が受け取るだけ、という状態にすることでした。弁済の提供の回で見た、弁済の提供と、同じ出来事です。変種です。契約の条件は、両方月末。月末に、Bが、80万円を現金で持って来て、車を渡してください、と言いました。Bは、自分の分の提供をしています。Aは、いまは拒めません。拒めるのは、Bが提供するまでだからです。条文の札です。代金がまだAの手に渡っていなくても、Aは、いまは拒めません。提供は、あとは受け取るだけの状態です。Aが受け取る気になれば、すぐ代金が手に入ります。先に出した人だけが危険を負う、という不公平は、この場面にはありません。ですから、この場面では、抗弁権の出番がありません。

設例の変種。契約の条件=両方月末。Bがすでに80万円を払い終えていた。向き合う債務がもう残っていない→引き換えにする相手がない→Aは拒めない。一度提供すれば、そのあとずっと拒めなくなるのか=次回、判例で見る。 図:設例の変種

  • 契約の条件=両方月末
  • Bがすでに80万円を払い終えていた
  • 向き合う債務がもう残っていない→引き換えにする相手がない→Aは拒めない
  • 一度提供すれば、そのあとずっと拒めなくなるのか=次回、判例で見る

もう一つ。Bが、すでに80万円を払い終えていたとします。向き合う債務が、もう残っていません。引き換えにする相手が、無いのです。Aは、拒めません。こちらの説明の札です。

柱3——先に履行する約束をしたBが、遅れたとき

設例の変種。契約の条件=代金は10日・車は月末。Bは10日に払わないまま、月末が来た。月末、Aが代金を請求(Aは車を提供していない)。Bは「車と引き換えだ」と言えるか=言える(通説)。理由=月末にはAの引渡債務も弁済期にある。ただし書が除くのは、相手方の債務が弁済期にないときだけ。 図:設例の変種

  • 契約の条件=代金は10日・車は月末
  • Bは10日に払わないまま、月末が来た
  • 月末、Aが代金を請求(Aは車を提供していない)
  • Bは「車と引き換えだ」と言えるか=言える(通説)
  • 理由=月末にはAの引渡債務も弁済期にある
  • ただし書が除くのは、相手方の債務が弁済期にないときだけ

柱3です。契約の条件は、さっきの先履行義務の場面と同じです。代金は10日、車は月末。ところが、Bは、10日に払いませんでした。払わないまま、月末になりました。月末、Aが、車を提供しないまま、代金を請求しました。Bは、車と引き換えだと言えるでしょうか。Bは、言えます。通説です。学説の札です。理由は、条文の読みです。月末には、Aの引渡債務も、弁済期にあります。ただし書が、拒める場合から除いているのは、相手方の債務が弁済期にないときだけです。月末の請求なら、これに当たりません。

月末にBが引き換えを言える理由。月末には=Aの引渡債務も弁済期にある。ただし書が除くのは=相手方の債務が弁済期にないときだけ(月末の請求なら当たらない)。10日からの遅れは=遅れのまま残る(その間は、Aの引渡債務が弁済期になく、抗弁権がまだ無かった。抗弁権が働くのは月末から先)。決め手=先に出す危険を負わされる場面かどうか(Aが車を出さないままBだけが払わされると、不公平がまた生じる)。 図:月末にBが引き換えを言える理由

  • 月末には=Aの引渡債務も弁済期にある
  • ただし書が除くのは=相手方の債務が弁済期にないときだけ(月末の請求なら当たらない)
  • 10日からの遅れは=遅れのまま残る(その間は、Aの引渡債務が弁済期になく、抗弁権がまだ無かった。抗弁権が働くのは月末から先)
  • 決め手=先に出す危険を負わされる場面かどうか(Aが車を出さないままBだけが払わされると、不公平がまた生じる)

10日の約束を守らなかったBが、月末に引き換えを言えるからといって、得をするわけではありません。ここからは、こちらの説明の札です。10日から月末までの遅れは、遅れのまま残ります。その間は、Aの引渡債務が弁済期になく、抗弁権がまだ無かったからです。抗弁権が働くのは、月末から先です。結論の決め手は、月末から先の形です。Aが車を出さないまま、Bだけが代金を払わされると、先に出した人だけが危険を負う不公平が、また生じるからです。10日は、Bが先に出す約束で、危険を引き受けていました。でも、月末になって、Aも出す番になれば、お互い様に戻ります。要件の3つも、同じ物差しで読めます。先に出す危険を、負わされる場面かどうかです。その場面なら、相手が出すまで、こちらも出さなくてよいのです。

要件の見分け方を練習する

要件のチェック、5つの事例。1 月末、Bが手ぶらで「先に車を」=両方月末。2 月末、Bが80万円を差し出して「車を」=両方月末。3 10日にAが代金を請求=代金10日・車は月末。4 Bが10日に払わないまま、月末にAが代金を請求(Aは車を提供せず)=代金10日・車は月末。5 Aが別に貸した30万円を返すまで車は渡さない=両方月末+別の貸金契約。問い=請求された人は拒めるか。分け目の要件はどれか。 図:要件のチェック、5つの事例

  • 1 月末、Bが手ぶらで「先に車を」=両方月末
  • 2 月末、Bが80万円を差し出して「車を」=両方月末
  • 3 10日にAが代金を請求=代金10日・車は月末
  • 4 Bが10日に払わないまま、月末にAが代金を請求(Aは車を提供せず)=代金10日・車は月末
  • 5 Aが別に貸した30万円を返すまで車は渡さない=両方月末+別の貸金契約
  • 問い=請求された人は拒めるか
  • 分け目の要件はどれか

ここからは練習です。契約の条件を、事例ごとに言います。結論と、分け目になった要件を答えてください。

練習1。契約の条件=両方月末。月末、Bが手ぶらで「先に車を渡してください」と言った。問い=Aは拒めるか。分け目はどの要件か。 図:練習1

  • 契約の条件=両方月末
  • 月末、Bが手ぶらで「先に車を渡してください」と言った
  • 問い=Aは拒めるか
  • 分け目はどの要件か

1問めです。契約の条件は、両方月末。月末に、Bが手ぶらで、先に車を渡してください、と言いました。Aは拒めるでしょうか? 分け目は、どの要件でしょうか?拒めます。同じ売買から生まれた2つの債務があります。両方月末で、相手方の債務も弁済期にあります。そして、Bは代金を提供していません。要件が3つともそろうので、拒めます。冒頭の設例です。

練習2。契約の条件=両方月末。月末、Bが80万円を差し出して「車を渡してください」と言った。問い=Aは拒めるか。分け目はどの要件か。 図:練習2

  • 契約の条件=両方月末
  • 月末、Bが80万円を差し出して「車を渡してください」と言った
  • 問い=Aは拒めるか
  • 分け目はどの要件か

2問めです。契約の条件は、両方月末。月末に、Bが80万円を差し出して、車を渡してください、と言いました。Aは拒めるでしょうか?拒めません。分け目は、3つめの要件です。Bが、履行の提供をしているので、Aは、いまは拒めません。

練習3。契約の条件=代金は10日、車は月末。10日にAが代金を請求した。問い=Bは拒めるか。分け目はどの要件か。 図:練習3

  • 契約の条件=代金は10日、車は月末
  • 10日にAが代金を請求した
  • 問い=Bは拒めるか
  • 分け目はどの要件か

3問めです。契約の条件は、代金は10日、車は月末。10日に、Aが代金を請求しました。Bは拒めるでしょうか?拒めません。分け目は、2つめの要件です。10日の時点で、相手方、つまりAの引渡債務が、まだ弁済期にありません。ただし書に当たります。

練習4。契約の条件=代金は10日、車は月末。Bは10日に払わないまま、月末が来た。月末、Aが車を提供しないまま代金を請求した。問い=Bは拒めるか。分け目はどの要件か。 図:練習4

  • 契約の条件=代金は10日、車は月末
  • Bは10日に払わないまま、月末が来た
  • 月末、Aが車を提供しないまま代金を請求した
  • 問い=Bは拒めるか
  • 分け目はどの要件か

4問めです。契約の条件は、3問めと同じ、代金は10日、車は月末です。Bは、10日に払わないまま、月末になりました。月末に、Aが、車を提供しないまま、代金を請求しました。Bは拒めるでしょうか?拒めます。通説です。分け目は、3問めと同じ、2つめの要件です。月末になって、相手方の債務も弁済期にあるからです。3問めと4問めは、同じ契約で、月末になったかどうかだけが違います。同じ契約でも、請求した日が、10日か月末かで、結論が分かれます。

練習5。契約の条件=両方月末。それとは別に、AがBに30万円を貸している(別の貸金契約)。Aが「貸した30万円を返すまで、車は渡さない」と言った。問い=Aは拒めるか。分け目はどの要件か。 図:練習5

  • 契約の条件=両方月末
  • それとは別に、AがBに30万円を貸している(別の貸金契約)
  • Aが「貸した30万円を返すまで、車は渡さない」と言った
  • 問い=Aは拒めるか
  • 分け目はどの要件か

5問めです。契約の条件は、売買が両方月末。別に、AがBに30万円を貸しています。Aは、貸した30万円を返すまで、車は渡さない、と言いました。Aは拒めるでしょうか?拒めません。分け目は、1つめの要件です。売買の債務と貸金の債務は、別々の契約から生まれていて、対価として向き合っていません。

冒頭の問いに戻る——まとめ

今日のまとめ。3つの柱=1 533条は、相手方が履行を提供するまで、自己の債務の履行を拒める(ただし書=相手方の債務が弁済期にないとき除く)。趣旨は当事者間の公平。拒めるだけで債務は消えない。かっこ書で、履行に代わる損害賠償の債務も含む。2 要件3つ=同じ双務契約から生まれた2つの債務がある/相手方の債務が弁済期にある/相手方が履行の提供をしないで請求してきた。3 先に履行する約束をしたBが遅れても、相手方の弁済期が来れば言える(通説)。 図:今日のまとめ

  • 3つの柱=1 533条は、相手方が履行を提供するまで、自己の債務の履行を拒める(ただし書=相手方の債務が弁済期にないとき除く)
  • 趣旨は当事者間の公平
  • 拒めるだけで債務は消えない
  • かっこ書で、履行に代わる損害賠償の債務も含む
  • 2 要件3つ=同じ双務契約から生まれた2つの債務がある/相手方の債務が弁済期にある/相手方が履行の提供をしないで請求してきた
  • 3 先に履行する約束をしたBが遅れても、相手方の弁済期が来れば言える(通説)

3つの柱で整理します。1つめ、533条は、相手方が履行を提供するまで、自分の債務の履行を拒める、という規定です。ただし書で、相手方の債務が弁済期にないときは使えません。趣旨は、当事者間の公平です。拒めるだけで、債務は消えません。かっこ書で、履行に代わる損害賠償の債務も含まれます。2つめ、要件は3つです。同じ双務契約から生まれた2つの債務があること。相手方の債務が弁済期にあること。相手方が、履行の提供をしないで請求してきたこと。自分の債務の弁済期は、条文に明文がなく、解釈で足したものです。3つめ、先に履行する約束をしたBが遅れても、相手方の弁済期が来れば、同時履行の抗弁権を言えます。通説です。

冒頭の問いの答え。Aは断れる。両方月末で、引渡債務も代金債務も弁済期にある。同じ売買から生まれた向き合う債務。Bは代金を提供していない。→要件3つがそろう。Aは「代金と引き換えでなければ渡さない」と言える(533条)。ただし拒めるのは、いま渡すことだけで、引渡債務は消えない。 図:冒頭の問いの答え

  • Aは断れる
  • 両方月末で、引渡債務も代金債務も弁済期にある
  • 同じ売買から生まれた向き合う債務
  • Bは代金を提供していない
  • →要件3つがそろう
  • Aは「代金と引き換えでなければ渡さない」と言える(533条)
  • ただし拒めるのは、いま渡すことだけで、引渡債務は消えない

冒頭の問いに戻ります。Aは、Bの、先に車を渡してください、という要求を、断れるのか。断れます。両方月末で、引渡債務も代金債務も弁済期にあります。同じ売買から生まれた、向き合う債務です。そして、Bは代金を提供していません。要件3つがそろいます。Aは、代金と引き換えでなければ渡さない、と言えます。ただし、拒めるのは、いま渡すことだけで、引渡債務は消えません。論文で論点になりうるのは、533条の要件の当てはめと、先に履行する約束をしたBが遅れたときの扱いです。要件は条文どおりなので、条文番号で言えます。

参照条文

  • 民法533条

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