民法ゼロから民法#296

景観利益と不貞行為の責任

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第6章 法定債権 #296/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

眺めを楽しむ利益は、権利なのか

冒頭の設例 Bは川沿いの低層の住宅街に住み、毎朝、窓から川沿いの緑とその先の山並みを眺めるのが好きだった。ある日、すぐ近くに周りよりずっと高いマンションが建った(法令には違反していない)。眺めを楽しむ利益は「権利」なのか。A=マンションを建てた会社/B=近くに住む人。 図:冒頭の設例 Bは川沿いの低層の住宅街に住み、毎朝、窓から川沿いの緑とその先の山並みを眺めるのが好きだった

  • ある日、すぐ近くに周りよりずっと高いマンションが建った(法令には違反していない)
  • 眺めを楽しむ利益は「権利」なのか
  • A=マンションを建てた会社/B=近くに住む人

709条の5つの要件のうち、2つめの、権利又は法律上保護される利益の侵害の、最後の回です。設例から入ります。Bは、川沿いの低層の住宅街に住んでいます。毎朝、窓から、川沿いの緑と、その先の山並みを眺めるのが好きでした。ある日、すぐ近くに、周りよりずっと高いマンションが建ちました。法令には違反していません。記号は、Aがマンションを建てた会社、Bが近くに住む人です。今日の山場は、眺めを楽しむ利益が法律上の権利と言えるのか、という点です。答えの骨だけ先に言います。景観の恵みを日常的に受ける利益は、法律上保護に値する、と最高裁は言いました。ただし、権利とは認めていません。そして、守られる利益だからといって、侵害すれば必ず賠償になるわけではありません。理由は、これから見ます。地図を呼び戻します。今日も、709条の、この2つめです。条文を確認します。

条文民法709条

民法第709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

この「権利又は法律上保護される利益」の中身を、一覧にしてきました。アは物権、イは債権、ウは生命や身体、エは名誉、オはプライバシーです。今日は、最後の2つ、カの景観と、キの夫婦関係の利益、つまり身分関係にもとづく利益を見ます。順番は、景観、次に日当たりの問いの回収、そして不貞の相手方の責任です。最後に、アからキまでの一覧を、1枚にまとめます。

景観利益 権利ではなく、法律上保護に値する利益

景観利益の判決の事案。街路樹の並木が続き、周りの低層の建物と高さがそろって調和していた通り。建築主は建築確認を得て、周りよりずっと高い14階建て(高さ約44メートル)のマンションを建てた。着工の時点では高さを規制する条例は無かった。周辺の住民などが、高さ20メートルを超える部分の撤去と慰謝料などを求めた。→最高裁は請求を認めなかった。 図:景観利益の判決の事案

  • 街路樹の並木が続き、周りの低層の建物と高さがそろって調和していた通り
  • 建築主は建築確認を得て、周りよりずっと高い14階建て(高さ約44メートル)のマンションを建てた
  • 着工の時点では高さを規制する条例は無かった
  • 周辺の住民などが、高さ20メートルを超える部分の撤去と慰謝料などを求めた
  • →最高裁は請求を認めなかった

判決の事案から入ります。街路樹の並木が続き、周りの低層の建物と高さがそろって、調和のとれた通りがありました。建築主は、建築確認を得て、周りよりずっと高い、14階建て、高さ約44メートルのマンションを建てました。建築確認は、建てる前に、計画が法令に合っているかを確かめてもらう手続です。着工の時点では、市は条例で高さを規制していませんでした。工事が始まってから、高さを20メートル以下とする条例ができましたが、工事中の建築物には及びませんでした。周辺の住民などが、景観利益の侵害を理由に、20メートルを超える部分の撤去と、慰謝料などを求めました。最高裁は、請求を認めませんでした。ここで問いです。景観を眺める利益は、「権利」でしょうか。それとも、「法律上保護に値する利益」でしょうか?

半分は当たりです。判決を見ます。

判例最判平18・3・30 民集60巻3号948頁

景観利益は保護されるか 景観権は認められるか 高層マンションの建築をめぐる事案 良好な景観に近接する地域内に居住し、その恵沢を日常的に享受している者は、良好な景観が有する客観的な価値の侵害に対して密接な利害関係を有するものというべきであり、これらの者が有する良好な景観の恵沢を享受する利益(以下「景観利益」という。)は、法律上保護に値するものと解するのが相当である。もっとも、この景観利益の内容は、景観の性質、態様等によって異なり得るものであるし、社会の変化に伴って変化する可能性のあるものでもあるところ、現時点においては、私法上の権利といい得るような明確な実体を有するものとは認められず、景観利益を超えて「景観権」という権利性を有するものを認めることはできない。

⭐ 論文で書く規範:【規範(判例で立てる)】良好な景観に近接する地域内に居住し、その恵沢を日常的に享受している者の、良好な景観の恵沢を享受する利益(景観利益)は、法律上保護に値する。ただし、私法上の権利といえるような明確な実体は認められず、「景観権」という権利性は認めない。 (解釈で立てる規範(出どころ=判例)。条文は景観の利益を書いていない。決め手=景観に近い地域で暮らし、その恵みを日常的に受けている人は、景観の価値が損なわれることに密接な利害関係を持つ一方、景観の中身は景観ごとに違い、社会の変化でも変わりうるので、権利と呼べるほど明確な実体はまだ無いから)

判決は、2つのことを言っています。1つめ、景観の利益は、法律上保護に値する。2つめ、景観権という、権利と呼べるものまでは認めない。恵沢は、恵みのことです。享受は、受けて楽しむことです。つまり、景観のもたらす恵みを、日常的に受けて楽しんでいる、ということです。守られるのは、誰の利益か。判決が、保護に値すると言ったのは、良好な景観に近接する地域内に居住して、その恵みを日常的に受けている人の利益です。設例のBは、その川沿いの住宅街に住み、毎朝、窓から緑と山並みを眺めています。当たります。境界のすぐ外も見ます。たまたま観光で訪れて、一度だけ眺めた人は、この文の言い方には当てはまりません。そういう人をどう扱うかまでは、判決は答えていません。

判決の理由は、景観の中身は、景観の性質や態様で違い、社会が変われば変わりうるからです。どこまでが誰の権利なのか、輪郭が定まっていません。喩えるなら、名札は付いていないけれど、鍵をかけて守る値打ちはある持ち物です。名札が無いから守らない、とはしません。かといって、所有権のような、はっきりした名札を付けたことにもしません。前々回に見た、名札は無いが守る値打ちのある利益、という話の、典型です。

景観利益 違法な侵害になる線は高い

景観利益の二段構え。1つめ=守られるか:景観利益は法律上保護に値する(権利ではない)。2つめ=違法か:少なくとも、刑罰法規・行政法規の違反、公序良俗違反、権利の濫用に該当するなど、侵害行為の態様や程度の面で社会的に容認された行為としての相当性を欠くこと。 図:景観利益の二段構え

  • 1つめ=守られるか:景観利益は法律上保護に値する(権利ではない)
  • 2つめ=違法か:少なくとも、刑罰法規・行政法規の違反、公序良俗違反、権利の濫用に該当するなど、侵害行為の態様や程度の面で社会的に容認された行為としての相当性を欠くこと

守られる利益だと分かった時点で、賠償まで認められると考えるところが落とし穴です。守られる利益だと認められても、侵害すれば賠償になる、とは限りません。その前に、復習です。名誉毀損で、真実だと証明できなくても責任を負わないのは、どんなときでしたか?真実と信ずるについて、相当の理由があるときです。故意もしくは過失が無いから、でした。守られる利益があることと、責任が生じることは、別の問いでした。景観利益でも同じです。ここからは、709条の2つめの要件、利益の侵害の中を、さらに2つの問いに分けます。要件の番号とは、別の数え方です。1つめの問いは、守られる利益か。2つめの問いは、その侵害が違法か、です。判決は、2つめの線を、こう示しました。

判例最判平18・3・30 民集60巻3号948頁

景観利益に対する違法な侵害 違法といえる線 ある行為が景観利益に対する違法な侵害に当たるといえるためには、少なくとも、その侵害行為が刑罰法規や行政法規の規制に違反するものであったり、公序良俗違反や権利の濫用に該当するものであるなど、侵害行為の態様や程度の面において社会的に容認された行為としての相当性を欠くことが求められると解するのが相当である。

⭐ 論文で書く規範:【規範(判例で立てる)】景観利益の侵害が違法かどうかは、被侵害利益の性質と内容、地域環境、侵害行為の態様、程度、侵害の経過などを総合的に考察して判断する。違法な侵害に当たるといえるには、少なくとも、侵害行為が刑罰法規や行政法規の規制に違反するもの、公序良俗違反や権利の濫用に該当するものなど、態様や程度の面で社会的に容認された行為としての相当性を欠くことが求められる。 (解釈で立てる規範(出どころ=判例)。条文は景観利益の侵害の違法を書いていない。決め手=景観利益の保護は土地や建物の財産権に制限を加えることになり、範囲や内容をめぐって意見が分かれるので、第一次的には民主的な手続で定められた行政法規や条例が線を引くことが予定されているから)

線の言葉は、相当性を欠くこと、です。侵害行為のしかたや程度が、社会的に容認された行為として、ふさわしくない、ということです。少なくとも、という前置きがあるので、挙げられた例は、最低ラインの目安です。刑罰法規や行政法規に違反する、公序良俗違反、権利の濫用。これらに当たるような場合です。社会の基本的なルールに反する行為のことです。

線が高い理由。1つめ=景観利益は、侵害されても生活妨害や健康被害を生じさせる性質のものではない。2つめ=景観利益の保護は土地や建物の財産権に制限を加え、範囲や内容をめぐって意見が対立する→第一次的には民主的な手続で定められた行政法規や条例が線を引く。 図:線が高い理由

  • 1つめ=景観利益は、侵害されても生活妨害や健康被害を生じさせる性質のものではない
  • 2つめ=景観利益の保護は土地や建物の財産権に制限を加え、範囲や内容をめぐって意見が対立する→第一次的には民主的な手続で定められた行政法規や条例が線を引く

どうして、これほど線が高いのか。判決は、理由を2つ挙げます。1つめ、景観利益は、侵害されても、被侵害者の生活妨害や健康被害を生じさせる性質のものではない。2つめ、景観利益を保護することは、一方で、土地や建物の財産権に制限を加えることになり、その範囲や内容をめぐって意見の対立が生ずる。だから、第一次的には、民主的な手続で定められた行政法規や条例によって、線が引かれることが予定されている、と言います。ルールの外で、裁判所が景観の線を新しく引くことには、慎重なのです。判決は、違法かどうかを、被侵害利益の性質と内容、侵害行為の態様や程度などを、総合して見る、と言っています。前々回に見た、利益の強さと侵害のしかたを合わせて見る、という物差しです。景観利益は、性質として、侵害されても暮らしや体を損なうものではありません。だから、侵害のしかたの側に、法令違反や権利の濫用のような、はっきりした事情が無ければ、違法とまでは言えないのです。これが、さきほどの、ルールに任せる、という2つめの理由と合わさって、線を高くしています。

景観判決のあてはめと境界のペア。このマンションは建築確認を得て着工、日影などの規制や条例に違反せず、周囲の景観の調和を乱す点も認め難い→違法な侵害に当たらない。線の中=高さ制限の条例に違反した建物、建築確認を得ない建物。境界のすぐ外=高さはあるが法令に適合した、この判決の建物。 図:景観判決のあてはめと境界のペア

  • このマンションは建築確認を得て着工、日影などの規制や条例に違反せず、周囲の景観の調和を乱す点も認め難い→違法な侵害に当たらない
  • 線の中=高さ制限の条例に違反した建物、建築確認を得ない建物
  • 境界のすぐ外=高さはあるが法令に適合した、この判決の建物

判決のあてはめです。このマンションは、建築確認を得て着工され、日影などの規制や、条例に違反していませんでした。相当の容積と高さの建物ではあるけれど、その点を除けば、周囲の景観の調和を乱す点は認め難い、とされました。刑罰法規や行政法規の違反、公序良俗違反、権利の濫用に当たる事情は、うかがわれない。だから、景観利益を違法に侵害する行為には当たらない、と判断しました。ここは、言い方に注意してください。景観利益が侵害された、と判決は言っていません。景観利益は保護に値する。しかし、この建築は、違法な侵害には当たらない。そう言って、請求を認めませんでした。境界のペアで、輪郭を確認します。線の中に入る例は、たとえば、高さ制限の条例に違反して建てた建物や、必要な建築確認を得ずに建てた建物です。行政法規の違反ですから、相当性を欠く方向に傾きます。一方、境界のすぐ外が、この判決の建物です。高さはあるけれど、法令には適合していて、調和を乱す点は他に見当たらない。この違いが、決め手です。

設例のマンションも、法令に違反していません。周りよりずっと高いだけでは、違法な侵害に当たらない方向です。したがって、Bは、原則として、不法行為に基づく撤去も賠償も求められません。撤去や、使用の差止め、つまり、建物を使うのをやめさせることを求める話は、別の回で扱います。

生活妨害 日当たりの問いに答える

生活妨害の問い。自分の土地に、南隣の家の日当たりを全部奪う建物を建ててよいか。順番=個別の法律(建築基準法)→不法行為(709条)→最後に民法1条。今日はその2つめ。 図:生活妨害の問い

  • 自分の土地に、南隣の家の日当たりを全部奪う建物を建ててよいか
  • 順番=個別の法律(建築基準法)→不法行為(709条)→最後に民法1条
  • 今日はその2つめ

次は、生活に直接かかわる利益を見ます。民法1条の回で、問いを置きました。自分の土地に、南隣の家の日当たりを、全部奪う建物を、建ててよいか。覚えています。最初に個別の法律、次に不法行為、それでも足りなければ最後に民法1条、という順番でした。今日は、その2つめです。709条の枠組みで、日当たりを奪う建物を、どう見るのか。判決の事案です。南隣の家の持ち主が、二階を増築して、北隣の家の日照と通風を、いちじるしくさえぎりました。この増築は、建築基準法に違反していました。行政庁は、工事の停止命令と、違反建築物の除却命令を出しましたが、持ち主はそれを無視して、増築を強行しました。北隣の家は、日照と通風を大きく奪われて、転居しました。最高裁は、不法行為の成立を認めた原審を、是認しました。

判例最判昭47・6・27 民集26巻5号1067頁

日照・通風の妨害と不法行為 隣家の増築をめぐる事案 居宅の日照、通風は、快適で健康な生活に必要な生活利益であり、それが他人の土地の上方空間を横切つてもたらされるものであつても、法的な保護の対象にならないものではなく……。南側家屋の建築が北側家屋の日照、通風を妨げた場合は、もとより、それだけでただちに不法行為が成立するものではない。しかし、すべて権利の行使は、その態様ないし結果において、社会観念上妥当と認められる範囲内でのみこれをなすことを要するのであつて、権利者の行為が社会的妥当性を欠き、これによつて生じた損害が、社会生活上一般的に被害者において忍容するを相当とする程度を越えたと認められるときは、その権利の行使は、社会観念上妥当な範囲を逸脱したものというべく、いわゆる権利の濫用にわたるものであつて、違法性を帯び不法行為の責任を生ぜしめるものといわなければならない。

⭐ 論文で書く規範:【規範(判例で立てる)】居宅の日照、通風は、快適で健康な生活に必要な生活利益で、法的な保護の対象になる。建築が日照、通風を妨げても、それだけで直ちに不法行為が成立するのではない。権利者の行為が社会的妥当性を欠き、生じた損害が社会生活上一般的に被害者において忍容するを相当とする程度を越えたときは、権利の行使は権利の濫用にわたり、違法性を帯びて不法行為の責任を生ずる。 (解釈で立てる規範(出どころ=判例)。条文は日照の妨害を書いていない。決め手=土地の所有者には、自分の土地を使う自由があるので、日照を妨げたというだけでは違法とせず、使い方が社会的妥当性を欠き、我慢の限度を超えたときにだけ、権利の濫用として違法とするから)

判決は、3段で考えます。1つめ、日照と通風は、快適で健康な生活に必要な生活利益で、法的な保護の対象になる。2つめ、でも、建築が日照や通風を妨げた、というだけで、直ちに不法行為になるのではない。3つめ、権利者の行為が社会的妥当性を欠き、生じた損害が、被害者が社会生活上一般に我慢して受け入れるべき程度を超えたときは、権利の濫用にわたり、違法性を帯びて、不法行為の責任が生じる。

受忍限度の呼び名と考慮要素。判決の言葉=社会生活上一般的に被害者において忍容するを相当とする程度。通説の呼び名=受忍限度。判断の要素=被侵害利益の種類や程度、侵害行為の態様、侵害行為の公共性や社会的有用性など。 図:受忍限度の呼び名と考慮要素

  • 判決の言葉=社会生活上一般的に被害者において忍容するを相当とする程度
  • 通説の呼び名=受忍限度
  • 判断の要素=被侵害利益の種類や程度、侵害行為の態様、侵害行為の公共性や社会的有用性など

法律家は、この我慢すべき限度を、受忍限度と呼びます。ただし、受忍限度は通説の呼び名で、この判決の言葉ではありません。判決の言葉は、「社会生活上一般的に被害者において忍容するを相当とする程度」です。受忍限度は、被侵害利益の種類や程度、侵害行為の態様、侵害行為の公共性や社会的有用性などを合わせて判断します。公共性や、差止めの本体、騒音や公害の事案は、別の回でまとめて見ます。もう一つ、大事な点があります。この事案の増築は、建築基準法に違反していました。それなら、違反だから違法だ、と言いたくなります。法令違反があれば自動的に違法になる、と結びつけるところが、落とし穴です。最高裁は、建築基準法違反の増築は、それだけで、ただちに違法になるとはいえない、としました。そのうえで、建築基準法違反に加えて、行政庁の命令を無視して強行したこと、被害の大きさなどを合わせて、権利の濫用と評価したのです。境界のペアで確かめます。日当たりが少し減った、という程度なら、我慢すべき範囲にとどまる方向です。一方、この事案のように、法令に違反し、命令を無視して強行し、住めなくなって転居するほど奪ったなら、我慢の限度を超えて、権利の濫用になる方向です。

日当たりを奪われても、それだけで直ちに違法じゃないんです。どうして、妨げたというだけでは違法にならないのか。建てる人にも、自分の土地に建物を建てるという、権利の行使があるからです。権利の行使は、妥当な範囲を超えたときにだけ、権利の濫用として違法になります。

民法1条の回の順番への重ね合わせ。1つめ=建築基準法など個別の法律が線を引く。2つめ=それでも残る問題は709条の判断(権利の濫用は、我慢の限度を超えたかを見るときに出てくる)。3つめ=最後の道具が民法1条。 図:民法1条の回の順番への重ね合わせ

  • 1つめ=建築基準法など個別の法律が線を引く
  • 2つめ=それでも残る問題は709条の判断(権利の濫用は、我慢の限度を超えたかを見るときに出てくる)
  • 3つめ=最後の道具が民法1条

民法1条の回の順番に重ねます。建築基準法などの個別の法律が、まず線を引きます。それでも問題が残るとき、次の道具が、この709条の判断です。権利の濫用は、その判断の中で、我慢の限度を超えたかを見るときに出てきます。民法1条の回で見た、信玄公旗掛松の事件、蒸気機関車の煤煙で松が枯れた件と同じ形です。権利の行使が濫用にあたると、不法行為になって、賠償を払う側に回りました。日照の判決も、いきなり権利の濫用だと結論づけたのではなく、709条の、違法かどうかの判断の中で、この言葉を使ったのです。それでも届かないときに、民法1条を正面から持ち出す。それが、最後の道具です。景観利益との違いも、押さえます。景観判決は、景観利益は、侵害されても、被侵害者の生活妨害や健康被害を生じさせる性質のものではない、と言いました。日照と通風は、快適で健康な生活に必要な、生活利益です。同じ利益でも、生活に直接かかわる度合いが違います。

不貞の相手方の責任 原則

不貞の設例。AはCに配偶者のBがいると知りながらCと肉体関係を持った。BはAに慰謝料を請求できるか。B─C=婚姻/A─C=不貞の関係/B→A=慰謝料の請求。A=不貞の関係を持った第三者/B=Cの配偶者/C=不貞をした配偶者。 図:不貞の設例

  • AはCに配偶者のBがいると知りながらCと肉体関係を持った
  • BはAに慰謝料を請求できるか
  • B─C=婚姻/A─C=不貞の関係/B→A=慰謝料の請求
  • A=不貞の関係を持った第三者/B=Cの配偶者/C=不貞をした配偶者

次は、キ、身分関係にもとづく利益です。夫婦の関係の利益、と言ってもよいです。設例です。Aは、Cに配偶者のBがいると知りながら、Cと肉体関係を持ちました。BはAに、慰謝料を請求できるでしょうか。記号は、Aが不貞の関係を持った第三者、Bが、Cの配偶者です。今回だけ、Cを足します。Cは、不貞をした配偶者です。今日はこの設例を、4つの問いに分けます。1つめ、第三者Aは、原則として責任を負うのか。2つめ、夫婦の子は、請求できるのか。3つめ、すでに夫婦の仲が壊れていたら、どうなるのか。4つめ、離婚させたことを理由に、慰謝料を請求できるのか。用語を確かめます。不貞行為は、配偶者のある人が、配偶者以外の人と、性的な関係を持つことです。まず、判決の事案から、見ます。妻のある男性、つまり夫と、そのことを知りながら関係を結んだ女性がいました。夫は、妻子のもとを去って、女性と同棲、つまり一緒に暮らすようになりました。原審は、夫と女性の関係は、自然の愛情に基づくもので、女性の行為は妻に対して違法ではない、と考えて、妻の請求を退けました。最高裁は、この判断を破棄して、差し戻しました。

判例最判昭54・3・30 民集33巻2号303頁

不貞の第三者は、配偶者に責任を負うか 妻の請求をめぐる事案 夫婦の一方の配偶者と肉体関係を持つた第三者は、故意又は過失がある限り、右配偶者を誘惑するなどして肉体関係を持つに至らせたかどうか、両名の関係が自然の愛情によつて生じたかどうかにかかわらず、他方の配偶者の夫又は妻としての権利を侵害し、その行為は違法性を帯び、右他方の配偶者の被つた精神上の苦痛を慰謝すべき義務があるというべきである。

⭐ 論文で書く規範:【規範(判例で立てる)】夫婦の一方と不貞の関係を持った第三者は、故意又は過失がある限り、誘惑して関係を持つに至らせたかどうか、両者の関係が自然の愛情によって生じたかどうかにかかわらず、他方の配偶者の夫又は妻としての権利を侵害し、その行為は違法性を帯びる。他方の配偶者の精神上の苦痛を慰謝する義務がある。 (解釈で立てる規範(出どころ=判例)。条文は不貞の相手方の責任を書いていない。決め手=守られるのは夫又は妻としての権利で、不貞の関係を持った第三者は、故意又は過失がある限りそれを侵害するので、関係の成り立ち(誘惑の有無や自然の愛情)は侵害の有無を左右しないから)

判決の中身を、順に見ます。第三者が不貞の関係を持ったなら、他方の配偶者の、夫又は妻としての権利を侵害し、行為は違法性を帯びる、慰謝する義務がある。ここで、条件が2つ付いています。故意又は過失がある限り、と、誘惑したかどうかや、自然の愛情かどうかは関係ない、です。原審は、自然の愛情に基づく関係だという点を理由に違法でないとしましたが、最高裁は、その理由づけを誤りと見ました。どうしてか。守られるのは、自然の愛情の有無ではなく、他方の配偶者の、夫又は妻としての権利だからです。関係の出来方に関係なく、その権利が侵害されたかを見ます。故意又は過失の境界のペアです。Aは、Cに配偶者がいると知っていました。これは故意です。条件を満たします。一方、Cが独身だと名乗って、Aがそれを信じて、信じたことに過失もなかったなら、故意も過失もありません。この条件が欠ければ、責任を負いません。注意点があります。この判決は、慰謝料を認めた判決ではありません。原審の、違法でない、という判断を破棄して、差し戻した判決です。ただし、示した判断は明確です。第三者の行為は違法性を帯び、慰謝する義務がある、です。設例の答えの方向を言います。Aは、Cに配偶者がいると知りながら不貞の関係を持ちましたから、原則として、Bに対して責任を負います。BはAに、慰謝料を請求できます。慰謝料の額は、損害の回で見ます。

前に聞いた、守られる利益かどうか、の問いに戻ります。ここでは、夫又は妻としての権利が、守られる利益でした。その軸を、次の3つの場面で、確かめます。

子は、請求できるか

子の請求。父親が別の女性と同棲し、子が父親から愛情を注がれ監護・教育を受けられなくなった。→女性が害意をもって父親の子に対する監護等を積極的に阻止するなど特段の事情のない限り、子に対する不法行為にならない。理由=父親の監護・教育は、同棲するかどうかにかかわらず父親自らの意思で行える→子の不利益と女性の行為の間に相当因果関係がない。 図:子の請求

  • 父親が別の女性と同棲し、子が父親から愛情を注がれ監護・教育を受けられなくなった
  • →女性が害意をもって父親の子に対する監護等を積極的に阻止するなど特段の事情のない限り、子に対する不法行為にならない
  • 理由=父親の監護・教育は、同棲するかどうかにかかわらず父親自らの意思で行える→子の不利益と女性の行為の間に相当因果関係がない

次の問いです。父親が別の女性と暮らし始めたせいで、子が、愛情や監護、つまり、日々の世話や見守りを、受けられなくなりました。子は、その女性に、慰謝料を請求できるでしょうか?判決は、特段の事情のない限り、請求できない、としました。

判例最判昭54・3・30 民集33巻2号303頁

不貞の第三者は、未成年の子に責任を負うか 子の請求をめぐる事案 妻及び未成年の子のある男性と肉体関係を持つた女性が妻子のもとを去つた右男性と同棲するに至つた結果、その子が日常生活において父親から愛情を注がれ、その監護、教育を受けることができなくなつたとしても、その女性が害意をもつて父親の子に対する監護等を積極的に阻止するなど特段の事情のない限り、右女性の行為は未成年の子に対して不法行為を構成するものではないと解するのが相当である。けだし、父親がその未成年の子に対し愛情を注ぎ、監護、教育を行うことは、他の女性と同棲するかどうかにかかわりなく、父親自らの意思によつて行うことができるのであるから、他の女性との同棲の結果、未成年の子が事実上父親の愛情、監護、教育を受けることができず、そのため不利益を被つたとしても、そのことと右女性の行為との間には相当因果関係がないものといわなければならないからである。

結論は、特段の事情のない限り、子に対する不法行為にならない、です。特段の事情の例は、女性が、害意をもって、父親の子に対する監護などを、積極的に阻止するような場合です。理由に注意してください。判決の理由は、相当因果関係がない、です。「子の権利ではないから」とか、「父親の配偶者ではないから」とは言っていません。父親が子に愛情を注ぎ、監護や教育を行うことは、女性と同棲するかどうかにかかわりなく、父親自らの意思でできます。だから、子が不利益を受けても、それと女性の行為の間には、相当因果関係がないのです。

因果関係の切れ目で考えます。相当因果関係の中身は、別の回で扱います。ここでは、理由が相当因果関係だ、というところまで押さえてください。境界のペアです。ただ父親が同棲して家を出たために、愛情を受けられなくなった、という場合は、請求できません。一方、女性が、害意をもって、父親が子に会うことを積極的に阻止したなら、特段の事情に当たる方向です。

すでに婚姻関係が破綻していたときは

不貞の原則と例外。原則=責任あり(夫又は妻としての権利の侵害)。例外=関係を持った当時すでに婚姻関係が破綻していたときは、特段の事情のない限り責任を負わない。理由=守られる「婚姻共同生活の平和の維持」という権利又は法的保護に値する利益が、原則として無いから。 図:不貞の原則と例外

  • 原則=責任あり(夫又は妻としての権利の侵害)
  • 例外=関係を持った当時すでに婚姻関係が破綻していたときは、特段の事情のない限り責任を負わない
  • 理由=守られる「婚姻共同生活の平和の維持」という権利又は法的保護に値する利益が、原則として無いから

3つめの問いです。不貞の当時、すでに夫婦の仲が完全に壊れていた場合でも、第三者は責任を負うでしょうか?判決は、特段の事情のない限り、負わない、としました。判決の事案です。夫婦の仲は、性格や金銭の考え方の違いから悪くなりました。夫が別居を求めて調停を申し立てましたが、取り下げました。夫は、入院中に別居の意思を固めて、退院してから自宅を出て、別居しました。そのころ夫と知り合った女性が、夫から、妻とは離婚することになっている、と聞きました。夫が別居して一人で暮らしていたので、その言葉を信じて親しくなり、同棲するようになりました。妻が、女性に慰謝料を求めました。原審は、関係を持った当時、すでに婚姻関係が破綻していたとして、請求を退け、最高裁も是認しました。

判例最判平8・3・26 民集50巻4号993頁

婚姻関係が破綻していたとき、第三者は責任を負うか 不貞の相手方に対する請求の事案 甲の配偶者乙と第三者丙が肉体関係を持った場合において、甲と乙との婚姻関係がその当時既に破綻していたときは、特段の事情のない限り、丙は、甲に対して不法行為責任を負わないものと解するのが相当である。けだし、丙が乙と肉体関係を持つことが甲に対する不法行為となる……のは、それが甲の婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害する行為ということができるからであって、甲と乙との婚姻関係が既に破綻していた場合には、原則として、甲にこのような権利又は法的保護に値する利益があるとはいえないからである。

⭐ 論文で書く規範:【規範(判例で立てる)】配偶者と第三者が不貞の関係を持った場合に、その当時すでに婚姻関係が破綻していたときは、特段の事情のない限り、第三者は不法行為責任を負わない。 (解釈で立てる規範(出どころ=判例)。条文は破綻していた場合を書いていない。決め手=第三者の行為が不法行為になるのは、婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害するからで、すでに破綻していたなら、原則として、その守られる利益が無いから)

原則と例外を、板に並べます。原則は、責任あり。夫又は妻としての権利の侵害だからです。例外は、関係を持った当時、すでに婚姻関係が破綻していたときで、特段の事情のない限り、責任を負いません。理由は、判決の言葉で、守られる利益が無いからです。第三者の行為が不法行為になるのは、婚姻共同生活の平和の維持という、権利又は法的保護に値する利益を、侵害するからでした。すでに婚姻関係が破綻していたなら、原則として、そのような権利や利益があるとはいえません。喩えるなら、もう空き家になっている家です。住む人の平穏という、守るべき中身が、もう無いのです。

景観も、名誉も、プライバシーも、そしてここも、1つめの問いは、守られる利益があるか、でした。破綻していたかどうかは、事案ごとに判断されます。判決の事案では、不貞の関係を持つ当時、夫が別居して、一人で暮らしていました。ここで、破綻の時点を取り違えないでください。基準は、関係を持った当時、です。関係を持ったあとで仲が壊れたのなら、この例外には当たりません。特段の事情は、この例外にも、さらに例外があることを示す言葉です。答案では、すでに破綻していたなら、特段の事情のない限り責任を負わない、と書きます。

離婚させたことを理由とする慰謝料

離婚に伴う慰謝料。不貞行為を理由とする責任(原則あり・破綻していれば無し)と、離婚させたことを理由とする責任は別。後者=夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に不当に干渉するなどして、離婚のやむなきに至らしめたと評価すべき特段の事情があるときに限る。離婚による婚姻の解消は、本来、夫婦の間で決められるべき事柄。 図:離婚に伴う慰謝料

  • 不貞行為を理由とする責任(原則あり・破綻していれば無し)と、離婚させたことを理由とする責任は別
  • 後者=夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に不当に干渉するなどして、離婚のやむなきに至らしめたと評価すべき特段の事情があるときに限る
  • 離婚による婚姻の解消は、本来、夫婦の間で決められるべき事柄

最後の問いです。夫が、妻と不貞の関係にあった第三者に、離婚をやむなくされた、として、離婚に伴う慰謝料を求めた事案です。不貞の関係は、夫がそれを知ったころに解消されました。夫婦は、しばらく同居していました。そのあと、妻が別居して、調停で離婚が成立しました。原審は、請求を一部認めました。最高裁は、原審を破棄して、請求を退けました。

判例最判平31・2・19 民集73巻2号187頁

不貞の第三者は、離婚させたことの責任を負うか 離婚に伴う慰謝料の事案 夫婦の一方と不貞行為に及んだ第三者は、これにより当該夫婦の婚姻関係が破綻して離婚するに至ったとしても、当該夫婦の他方に対し、不貞行為を理由とする不法行為責任を負うべき場合があることはともかくとして、直ちに、当該夫婦を離婚させたことを理由とする不法行為責任を負うことはないと解される。第三者がそのことを理由とする不法行為責任を負うのは、当該第三者が、単に夫婦の一方との間で不貞行為に及ぶにとどまらず、当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情があるときに限られるというべきである。

⭐ 論文で書く規範:【規範(判例で立てる)】夫婦の一方と不貞行為に及んだ第三者は、直ちに、夫婦を離婚させたことを理由とする不法行為責任を負うことはない。責任を負うのは、離婚させることを意図して婚姻関係に不当に干渉するなどして、離婚のやむなきに至らしめたと評価すべき特段の事情があるときに限られる。 (解釈で立てる規範(出どころ=判例)。条文は離婚に伴う慰謝料を書いていない。決め手=離婚による婚姻の解消は、本来、夫婦の間で決められるべき事柄なので、第三者が離婚させたことを理由に責任を負うのは、離婚を意図した不当な干渉などの特段の事情があるときに限られるから)

判決が否定したのは、離婚させたことを理由とする責任です。ここで、1つめの責任と取り違えないでください。不貞行為そのものを理由とする責任は、さきほどの原則のとおり、負う場合があります。この判決も、「不貞行為を理由とする不法行為責任を負うべき場合があることはともかくとして」と、はっきり分けています。理由は、離婚による婚姻の解消は、本来、夫婦の間で決められるべき事柄だからです。離婚するかどうかを決めたのは、夫婦です。第三者が、離婚させたことの責任まで負うのは、離婚させることを意図して、婚姻関係に不当に干渉した、といった特段の事情があるときに限られます。境界のペアです。不貞行為の発覚の結果、夫婦が話し合って離婚した、というだけなら、離婚させたことを理由とする責任は、原則として負いません。一方、離婚させる意図で、婚姻関係に、不当に干渉して、離婚のやむなきに至らしめたなら、特段の事情に当たりえます。ここで、学説にも触れておきます。不貞は夫婦の私的な領域の話なので、国が責任を課して立ち入るのは控えるべきだという考えから、相手方の責任を否定する見解も有力に主張されています。ただし、判例は、先ほどの原則に立っています。答案では、判例の原則と例外を書けるようにしてください。

今日の地図(保存版)

総まとめ表。ア 物権=所有権・用益物権は成立しうる、担保物権は優先弁済が実現できないとき。イ 債権=類型で要件が変わる。ウ 生命・身体=生存の相当程度の可能性、建物の基本的な安全性。エ 名誉=事実摘示型は3要件、論評型は4要件、相当の理由があれば故意・過失なし。オ プライバシー=公表されない法的利益が優越すれば真実でも成立。カ 景観=利益は保護に値するが権利ではない、違法の線が高い。キ 身分関係=原則責任あり、破綻していれば特段の事情のない限り責任なし。 図:総まとめ表

  • ア 物権=所有権・用益物権は成立しうる、担保物権は優先弁済が実現できないとき
  • イ 債権=類型で要件が変わる
  • ウ 生命・身体=生存の相当程度の可能性、建物の基本的な安全性
  • エ 名誉=事実摘示型は3要件、論評型は4要件、相当の理由があれば故意・過失なし
  • オ プライバシー=公表されない法的利益が優越すれば真実でも成立
  • カ 景観=利益は保護に値するが権利ではない、違法の線が高い
  • キ 身分関係=原則責任あり、破綻していれば特段の事情のない限り責任なし

一覧を閉じます。アからキまでの一覧を、板にまとめました。アの物権は、所有権や用益物権は成立しえて、担保物権は優先弁済が実現できないとき。イの債権は、類型で要件が変わります。ウの生命や身体は、生存の相当程度の可能性と、建物の基本的な安全性。エの名誉は、事実を書いた場合が3つの要件、意見を書いた場合が4つの要件で、相当の理由があれば、故意もしくは過失がありません。オのプライバシーは、公表されない法的利益が優越すれば、真実でも成立します。カの景観は、利益は保護に値するが、権利ではなく、違法の線が高い。キの身分関係は、原則として責任を負い、破綻していれば特段の事情のない限り負いません。

一貫した2段階の問い。1つめ=守られる利益か(法律上保護に値するか。権利でなくてもよい)。2つめ=その侵害は違法か(利益の強さと侵害のしかたで決まる)。 図:一貫した2段階の問い

  • 1つめ=守られる利益か(法律上保護に値するか。権利でなくてもよい)
  • 2つめ=その侵害は違法か(利益の強さと侵害のしかたで決まる)

7つの場面を貫く問いは、2つです。1つめ、それは法律上保護に値する利益か。権利でなくても、ここは認められます。2つめ、その侵害は違法か。ここは、利益の強さと、侵害のしかたで決まります。景観は、1つめを通っても、2つめの線が高い。日照は、1つめを通って、我慢の限度を超えたとき、2つめを通る。不貞は、1つめが、夫又は妻としての権利で、破綻していれば、その1つめがありません。設例の答えを出します。景観のBは、原則として、撤去も賠償も求められません。不貞の関係を持ったAに対し、Bは、原則として、慰謝料を請求できます。まとめます。1つめ、景観を享受する利益は、法律上保護に値しますが、景観権という権利は認められません。違法な侵害になるには、少なくとも、刑罰法規や行政法規の違反、公序良俗違反、権利の濫用など、相当性を欠くことが必要です。2つめ、日照と通風は、快適で健康な生活に必要な生活利益です。建築がそれを妨げても、直ちに不法行為にはなりません。社会生活上一般に我慢すべき程度を超えたとき、権利の濫用として、違法になります。建築基準法に違反するだけで、直ちに違法になるわけではありません。3つめ、不貞の相手方は、故意又は過失がある限り、他方の配偶者の、夫又は妻としての権利を侵害し、原則として責任を負います。子は、特段の事情のない限り請求できません。理由は、相当因果関係がないからです。4つめ、不貞の当時、すでに婚姻関係が破綻していたときは、特段の事情のない限り、責任を負いません。離婚させたことを理由とする慰謝料は、特段の事情のない限り、請求できません。不貞行為そのものの責任とは別です。

景観利益の違法性の線と、不貞の相手方の責任の原則と例外は、論文で論点になりうるところです。

参照条文

  • 民法709条

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