民法ゼロから民法#309

責任無能力者の監督義務者の責任(714条)

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第6章 法定債権 #309/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

認知症の父が線路に入った。家族は賠償するか

冒頭の設例。A=認知症の父(82歳・責任能力なし)/B=同居して介護する妻(79歳・自身も要介護2)/C=別居の長男(車で1時間・週1回訪問)/D=鉄道会社(被害者)。Aが家を出て最寄り駅の線路に入り、列車が1時間止まった。Dは振替輸送などの損害300万円をBとCに請求。出典=同型の事案(最高裁判決)をもとにした自前の設例。 図:冒頭の設例

  • A=認知症の父(82歳・責任能力なし)/B=同居して介護する妻(79歳・自身も要介護2)/C=別居の長男(車で1時間・週1回訪問)/D=鉄道会社(被害者)
  • Aが家を出て最寄り駅の線路に入り、列車が1時間止まった
  • Dは振替輸送などの損害300万円をBとCに請求
  • 出典=同型の事案(最高裁判決)をもとにした自前の設例

今日は、その問いから入ります。設例です。Aは82歳の男性で、認知症です。外出には見守りが要ります。Aと同居して介護しているのが、79歳の妻Bです。Bも要介護2の認定を受けていて、日中は介護サービスと近所の協力で支えられています。長男のCは、車で1時間離れたところに別居しています。週に1回ほど顔を出して、食材を届けています。ある日、Aが家を出ました。最寄り駅の線路に入り、列車が1時間止まりました。鉄道会社Dは、振替輸送などの損害300万円を、BとCに請求しました。家族が払うのが自然だ、という感覚は、多くの人が持ちます。ただ、結論を先に言います。BもCも、責任を負いません。ここで大事なのは、理由です。家族だから免れるのではありません。家族だから負うのでもありません。関わりの実態で決まります。今日の道のりです。まず、特殊の不法行為の全体の地図を作ります。次に714条の3つの要件を、順に見ます。最後に、加害者に責任能力がある場合を見ます。

特殊の不法行為の地図

特殊の不法行為の地図(中間責任の4行)。4列=条文/責任を負う人/免れるために証明すること/性質。714条=責任無能力者の監督義務者等/義務を怠らなかったこと、または怠らなくても損害が生ずべきであったこと/中間責任。715条=使用者/被用者の選任・事業の監督について相当の注意をしたこと、または相当の注意をしても損害が生ずべきであったこと/中間責任。717条1項本文=土地の工作物の占有者/損害の発生を防止するのに必要な注意をしたこと/中間責任。718条=動物の占有者/動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたこと/中間責任。無過失責任の行(717条1項ただし書・製造物責任法)と表の外(716条・719条)は次の板。 図:特殊の不法行為の地図(中間責任の4行)

  • 4列=条文
  • 責任を負う人
  • 免れるために証明すること
  • 性質。714条=責任無能力者の監督義務者等
  • 義務を怠らなかったこと、または怠らなくても損害が生ずべきであったこと
  • 中間責任。715条=使用者
  • 被用者の選任・事業の監督について相当の注意をしたこと、または相当の注意をしても損害が生ずべきであったこと
  • 中間責任。717条1項本文=土地の工作物の占有者
  • 損害の発生を防止するのに必要な注意をしたこと
  • 中間責任。718条=動物の占有者
  • 動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたこと
  • 中間責任。無過失責任の行(717条1項ただし書・製造物責任法)と表の外(716条・719条)は次の板。

最初に、特殊の不法行為の地図を作ります。不法行為の全体像の回で、714条以下は特殊の不法行為だと言いました。今日は、その並べ方を決めます。一般不法行為の709条は、過失責任です。被害者が、加害者の過失を証明しなければ、賠償は取れません。特殊の不法行為は、この仕組みを、被害者に有利な方向へ直したものです。直し方は3通りあります。軸は2つです。過失が要るか。そして、過失についての証明を、どちらが負うか、です。1つめが過失責任です。過失が要り、被害者が証明します。709条です。2つめが中間責任です。過失が要ることは同じです。ただし、証明が逆向きになります。加害者側が、自分に落ち度がなかったことを示さない限り、責任を負います。これを立証責任の転換と言います。立証責任とは、ある事実が証明できなかったときに、損をする側のことです。中間責任では、落ち度がなかったと証明できなければ、加害者側が損をします。冒頭の設例で、仮にBが見守る立場の人だったとします。家の中でどう見守っていたかは、鉄道会社Dからは見えません。見えない事実の証明を被害者に負わせると、賠償はほとんど取れなくなります。だから、見守りを怠らなかったことを、B側に示させるのです。3つめが無過失責任です。過失が要りません。落ち度がなくても、責任を負います。

過失は要るので、無過失責任ではありません。ただ、証明は加害者側なので、過失責任よりは重くなります。その間です。板の表を見てください。まず、中間責任の4行です。714条は、責任無能力者の監督義務者の責任です。免れるには、義務を怠らなかったことなどを、本人側が示します。中間責任です。715条は、使用者の責任です。717条1項本文は、土地の工作物の占有者です。718条は、動物の占有者です。この3つも、条文の言葉で、相当の注意をしたことなどを、本人側が示せば免れます。中間責任です。

特殊の不法行為の地図の続き。717条1項ただし書=所有者/免れる道が条文に無い/無過失責任。製造物責任法3条・4条=製造業者等/過失の証明では免れず4条の事項を証明したときだけ/無過失責任。表の外=716条(注文者は原則責任を負わない)・719条(共同不法行為)。 図:特殊の不法行為の地図の続き

  • 717条1項ただし書=所有者/免れる道が条文に無い/無過失責任
  • 製造物責任法3条・4条=製造業者等/過失の証明では免れず4条の事項を証明したときだけ/無過失責任
  • 表の外=716条(注文者は原則責任を負わない)・719条(共同不法行為)

717条1項のただし書は違います。占有者が必要な注意をして免れたときは、所有者が責任を負います。所有者が免れる道は、条文に書かれていません。無過失責任です。製造物責任法も、無過失責任の仲間です。製品の欠陥で事故が起きたとき、作った会社などが負う責任です。716条と719条は、表の外に置きます。716条は、工事を頼んだ注文者が、原則として責任を負わない、という条文です。719条は、何人かで一緒に損害を与えたときの条文です。どちらも、誰が何を証明すれば免れるか、という形をしていません。それぞれの中身は、順に見ていきます。今日は、この表の読み方を、714条で身につけます。見るのは、誰が責任を負い、何を証明すれば免れるか、の2点です。ここから、714条の中身に入ります。

714条 骨格と3つの要件

714条の骨格。前提=712条・713条により責任無能力者が責任を負わない場合。そのとき、責任無能力者を監督する法定の義務を負う者(監督義務者)が、責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する。ただし書で免責。2項=代わって監督する者も同じ責任。 図:714条の骨格

  • 前提=712条・713条により責任無能力者が責任を負わない場合
  • そのとき、責任無能力者を監督する法定の義務を負う者(監督義務者)が、責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する
  • ただし書で免責
  • 2項=代わって監督する者も同じ責任

まず条文です。714条です。

条文民法714条

民法第714条 前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。 2 監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も、前項の責任を負う。

読み方です。冒頭の「前二条」とは、712条と713条です。責任能力のない未成年者と、精神上の障害で責任を弁識する能力を欠く人です。責任無能力者が責任を負わない場合に、その人を監督する法定の義務を負う人が、代わりに賠償します。責任能力と正当防衛・緊急避難の回で見たとおり、責任能力とは、自分のしたことが悪いことだと分かる力でした。目安は、おおむね12歳前後で、固定の線ではありません。

条文民法712条

民法第712条 未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない。

条文民法713条

民法第713条 精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた者は、その賠償の責任を負わない。ただし、故意又は過失によって一時的にその状態を招いたときは、この限りでない。

結論は、設例のAにも当たります。Aは認知症で、713条の状態です。Aは責任を負いません。では、なぜ別の人が負うのか。あとで見る、子の火遊びの事件の最高裁判決は、趣旨を次のように説明します。責任を弁識する能力のない人の行為については、過失に相当するものがあるかを考えられません。そうすると、責任を負う人がいなくなり、被害者の救済に欠けます。そこで、監督義務者に賠償を義務づけます。同時に、監督義務者に過失がなかったときは、責任を免れさせます。穴を埋めるための条文です。ただし、埋め方に条件を付けています。見守る義務を負う人に、落ち度がないときは、免れます。要件を3つに分けます。条文どおりの整理です。

⭐ 論文で書く規範:【成立要件(条文どおり)】Ⅰ 責任無能力者の行為が、責任能力以外の不法行為の要件を充たす。Ⅱ 責任を負う者が、監督義務者等(法定の監督義務者・代理監督者・法定の監督義務者に準ずべき者)に当たる。Ⅲ 免責(ただし書)の証明が成功しない。 (条文どおりの成立要件。714条を音読すれば出てくるので、覚えるのではなく条文を挙げて当てはめる。ただし「準ずべき者」だけは条文に無く、判例が解釈で立てた)

用語を1つ定義します。監督義務者等とは、法定の監督義務者、代理監督者、準ずべき者の総称です。代理監督者は、監督義務者に代わって子を預かり、監督する者です。保育士などが、例に挙げられます。準ずべき者は、法定の義務は無くても、監督を引き受けた人です。中身は、要件Ⅱで順に見ます。賠償の対象は、第三者に加えた損害です。責任無能力者本人が受けた損害は、この条文の対象ではありません。今日の設例なら、損害を受けたのは鉄道会社Dです。

要件Ⅰ 本人の行為が不法行為として成り立つか

要件Ⅰ。責任無能力者の行為が、責任能力以外の不法行為の要件を充たすこと。例=児童同士の遊びの接触が社会的に許される範囲なら違法性がない→加害者本人の行為が不法行為にならない→監督義務者の責任も生じない。 図:要件Ⅰ

  • 責任無能力者の行為が、責任能力以外の不法行為の要件を充たすこと
  • 例=児童同士の遊びの接触が社会的に許される範囲なら違法性がない→加害者本人の行為が不法行為にならない→監督義務者の責任も生じない

復習を1問です。前に見た責任能力は、どんなときに欠けるとされたでしょうか?未成年者で、自分の行為の責任が分かる知能がないとき。それと、精神上の障害で、その能力を欠く状態にあるとき、です。ここから要件Ⅰです。要件Ⅰは、責任無能力者の行為が、責任能力以外の不法行為の要件を充たすことです。不法行為の要件は、不法行為の全体像の回で見ました。故意か過失、権利や利益の侵害、損害、因果関係、そして違法であること、つまり行為を正当化する事情が無いことです。これらは充たしていて、責任能力だけが欠けている、という状態です。責任無能力者本人は、責任能力がなくて責任を負いません。ですが、行為そのものは、他の要件を充たす必要があります。例で確かめます。小学生の2人が、校庭で鬼ごっこをして、ぶつかって1人が軽く転びました。社会的に許される遊びの範囲です。このぶつかりは、違法とは言えません。すると、遊んでいた子の行為は、そもそも不法行為にならないのです。その場合、親の714条の責任も、生じません。

順序が逆です。714条が肩代わりするのは、本人に責任能力が無い、という一点だけです。鬼ごっこのぶつかりのように、行為そのものが違法と言えず、不法行為の形をしていないなら、肩代わりする中身がありません。ここは、短答で聞かれやすいところです。

要件Ⅱ 誰が監督義務者等に当たるか

要件Ⅱに入る前の問い。Bは妻で、Aと同居して介護している。Cは長男。この2人は、714条の法定の監督義務者に当たるだろうか。 図:要件Ⅱに入る前の問い

  • Bは妻で、Aと同居して介護している
  • Cは長男
  • この2人は、714条の法定の監督義務者に当たるだろうか

要件Ⅱに入ります。立ち止まって考えてください。Bは妻で、Aと同居して、日々介護しています。それだけで、714条の法定の監督義務者に当たるでしょうか?同居して介護している妻でも、それだけでは、法定の監督義務者に当たりません。理由は、順に出します。

法定の監督義務者に当たる/当たらない。当たる=未成年者の親権者・未成年後見人(820条=親権を行う者は子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し義務を負う)。当たらない=成年後見人であること(858条)・配偶者であること(752条)・子であること。

  • 法定の監督義務者に当たる/当たらない
  • 当たる=未成年者の親権者・未成年後見人(820条=親権を行う者は子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し義務を負う)
  • 当たらない=成年後見人であること(858条)・配偶者であること(752条)・子であること

3種類に分けます。法定の監督義務者、代理監督者、そして準ずべき者です。1つめ、法定の監督義務者です。法令が、その人に監督の義務を負わせている場合です。典型は、未成年者の親権者です。820条は、親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う、と定めます。未成年後見人も、同じです。問題は、大人が責任無能力者のときです。2つの地位が争われてきました。成年後見人と、配偶者です。成年後見人は、成年後見の回で見た、判断能力の不十分な人に代わって、財産や、生活・健康の面、つまり身上を守る人です。まず、858条を見ます。個別の条文なので、骨格だけ読みます。後見が付いているかと、責任能力があるかは、別々に判断します。

条文民法858条

民法第858条 成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。

骨格は、成年後見人は、事務を行うに当たって、心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない、です。この点は、冒頭の設例と同型の事件で、最高裁の判決が答えています。判決の理由は、こうです。この配慮の義務は、契約などの法律行為を行うときに、本人の身上に配慮することを求めるものです。現実に介護をしたり、行動を見張ったりすることまで、求めてはいません。たとえば、後見人が、契約書にサインするとき、本人の健康状態を踏まえて決めます。これが配慮です。本人が家を出ないように、玄関で見張ることは、この条文の義務に入っていません。結論です。成年後見人という地位だけでは、法定の監督義務者になりません。次に、配偶者です。752条です。

条文民法752条

民法第752条 夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。

骨格は、夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない、です。判決の理由は、こうです。この義務は、夫婦が互いに負うものです。第三者との関係で、何かをせよと行動を求める義務ではありません。扶助の義務から、直ちに第三者との関係で、相手を監督する義務は出てきません。助け合う相手は、配偶者本人です。事故にあう第三者に対しての約束ではありません。喩えるなら、家族どうしで家計を支え合うのは、家庭の中の約束です。通りすがりの人に対して、「この人が外で何をしても私が責任を持つ」と約束したことにはなりません。結論です。精神障害のある人と同居する配偶者という地位だけでは、法定の監督義務者になりません。長男、つまり子についても、親の法定の監督義務者に当たると定める法令はありません。板の2列を見てください。当たるのは、未成年者の親権者と未成年後見人です。当たらないのは、成年後見人であること、配偶者であること、子であること、です。ここは、地位だけで決まらないという点が決め手です。肩書きではなく、法令が見守る義務を負わせたかを見ます。2つめは、代理監督者です。714条2項です。監督義務者に代わって、責任無能力者を監督する者です。伝統的には、園児を預かる保育園の保育士や、児童を預かる学校の教員が、例に挙げられてきました。親から監督を託されて、現に監督している人です。ただ、保育士や教員という個人ではなく、保育園や学校を営む側を代理監督者とみる考えもあり、見方は分かれています。責任の中身は、1項と同じです。免責の証明も同じです。

準ずべき者の規範(出どころ=判例)。法定の監督義務者に該当しない者でも、責任無能力者との身分関係や日常生活における接触状況に照らし、第三者に対する加害行為の防止に向けてその者が当該責任無能力者の監督を現に行いその態様が単なる事実上の監督を超えているなどその監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情が認められる場合=衡平の見地から法定の監督義務を負う者と同視し、714条1項を類推適用。 図:準ずべき者の規範

  • 出どころ=判例
  • 法定の監督義務者に該当しない者でも、責任無能力者との身分関係や日常生活における接触状況に照らし、第三者に対する加害行為の防止に向けてその者が当該責任無能力者の監督を現に行いその態様が単なる事実上の監督を超えているなどその監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情が認められる場合=衡平の見地から法定の監督義務を負う者と同視し、714条1項を類推適用。

3つめが、今日の山場です。法定の監督義務者に当たらない家族は、無条件で免れるのか。そうではありません。判例は、法定の監督義務者でない人を、それと同じに扱う枠を作りました。事案の骨格は、設例と同型です。認知症の人が、駅の構内で線路に立ち入り、列車に衝突して、列車が遅れました。鉄道会社は、同居していた妻と、別居の長男に、賠償を求めました。

判例最判平28・3・1 民集70巻3号681頁

法定の監督義務者に準ずべき者 法定の監督義務者に該当しない者であっても、責任無能力者との身分関係や日常生活における接触状況に照らし、第三者に対する加害行為の防止に向けてその者が当該責任無能力者の監督を現に行いその態様が単なる事実上の監督を超えているなどその監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情が認められる場合には、衡平の見地から法定の監督義務を負う者と同視してその者に対し民法714条に基づく損害賠償責任を問うことができるとするのが相当であり、このような者については、法定の監督義務者に準ずべき者として、同条1項が類推適用されると解すべきである。

長い一文なので、分けて読みます。前半です。法定の監督義務者でない人でも、身分関係や、日常生活での接触の状況から見て、監督を現におこなっていて、その態様が単なる事実上の監督を超えている。そういう、監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情があること。後半です。その場合は、衡平、つまり釣り合いのとれた公平という見地から、法定の監督義務を負う人と同じに扱います。そして714条1項を類推適用します。類推適用とは、条文に書かれていない場面に、似た趣旨の条文を当てはめることです。準ずべき者という言葉は、条文にありません。判例が解釈で立てた規範です。ポイントは、監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情です。たとえるなら、親戚の飼い犬です。親戚だからという理由で、犬が起こした事故の責任は負いません。ところが、毎日、散歩を引き受けて、綱を握っていた人なら、話は別です。地位ではなく、引き受けた実態で決まります。なぜ、引き受けた人なら負うのか。毎日の見守りを担っていた人は、法定の監督義務者と同じように、事故を防げる立場にいました。肩書きが無いというだけでその人を外すと、714条が埋めた穴が、またあいてしまうからです。

⭐ 論文で書く規範:【規範(判例)】法定の監督義務者に当たらない者でも、監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情があるときは、法定の監督義務者に準ずべき者として、714条1項が類推適用される。 (解釈で立てる規範(出どころ=判例の類推適用)。条文は無い。決め手=法定の義務がなくても、実際に監督を引き受けたなら衡平の見地から同じに扱うのが公平だから。論文で論点になりうる)

判決は、考える要素を5つ挙げています。板を見てください。

準ずべき者の判断要素。①その者自身の生活状況や心身の状況/②責任無能力者との親族関係の有無・濃淡/③同居の有無その他の日常的な接触の程度・財産管理への関与の状況など関わりの実情/④責任無能力者の心身の状況や日常生活における問題行動の有無・内容/⑤これらに対応して行われている監護や介護の実態。→総合考慮して、現に監督しているか、あるいは監督することが可能かつ容易であるなど、衡平の見地から責任を問うのが相当といえる客観的状況があるか。 図:準ずべき者の判断要素

  • ①その者自身の生活状況や心身の状況
  • ②責任無能力者との親族関係の有無・濃淡
  • ③同居の有無その他の日常的な接触の程度・財産管理への関与の状況など関わりの実情
  • ④責任無能力者の心身の状況や日常生活における問題行動の有無・内容
  • ⑤これらに対応して行われている監護や介護の実態
  • →総合考慮して、現に監督しているか、あるいは監督することが可能かつ容易であるなど、衡平の見地から責任を問うのが相当といえる客観的状況があるか

1つめ、その人自身の生活状況や心身の状況。2つめ、責任無能力者との親族関係の有無と濃淡。3つめ、同居の有無や日常的な接触の程度、財産管理への関与など、関わりの実情。4つめ、責任無能力者の心身の状況や、日常生活での問題行動。5つめ、これらに対応して行われている監護や介護の実態です。これらを総合して見ます。問うのは、現に監督しているか。あるいは、監督することが可能かつ容易であるなど、衡平の見地から責任を問うのが相当と言える客観的状況があるか、です。設例にあてはめます。

設例のあてはめ。B(妻)=同居して介護してきたが、79歳で自身も要介護2。介護サービスと近所の協力に支えられて介護。第三者への加害を防ぐためにAを監督することが現実的に可能な状況にあったとはいえない→特段の事情なし。C(長男)=別居・週1回の訪問。監督が可能な状況にあったとはいえない→特段の事情なし。DからB・Cへの請求は点線(認められない)。 図:設例のあてはめ

  • B(妻)=同居して介護してきたが、79歳で自身も要介護2
  • 介護サービスと近所の協力に支えられて介護
  • 第三者への加害を防ぐためにAを監督することが現実的に可能な状況にあったとはいえない→特段の事情なし
  • C(長男)=別居・週1回の訪問
  • 監督が可能な状況にあったとはいえない→特段の事情なし
  • DからB・Cへの請求は点線(認められない)

Bから見ます。Bは同居して、介護に当たってきました。ですが、79歳で、自身も要介護2です。介護サービスと近所の協力に支えられて、介護しています。1つめの、その人自身の状況と、5つめの介護の実態が、効いてきます。Bは、第三者への加害を防ぐためにAを監督することが、現実に可能な状況にあったとは言えません。ですから、監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情は、ありません。Cはどうでしょう。別居で、週に1回の訪問です。3つめの、日常的な接触の程度が、薄いです。監督が可能な状況にもありません。特段の事情は、ありません。結論です。BもCも、準ずべき者に当たりません。714条の責任は、問えません。

ここは1つ、変形を考えます。もし、Cが、Aと同居していたとします。日中の見守りも、財産の管理も、Cが引き受けていた。この場合は、監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情が、認められる余地があります。つまり、家族だから免れるのでも、家族だから負うのでもありません。関わりの実態で決まります。判決は、鉄道会社が、妻自身の過失を理由に709条で求めた請求も、理由がないとしました。もう1つ大事な位置づけがあります。準ずべき者に当たったとしても、責任が確定するわけではありません。次の要件Ⅲ、免責の証明が残ります。準ずべき者の規範は、論文で論点になりうるところです。

要件Ⅲ 免責 サッカーボールの判決

免責の板。714条1項ただし書=①監督義務者がその義務を怠らなかったとき/②その義務を怠らなくても損害が生ずべきであったとき。2項の代理監督者も同じ。証明するのは監督義務者の側=中間責任。②が認められるのはまれ。 図:免責の板

  • 714条1項ただし書=①監督義務者がその義務を怠らなかったとき/②その義務を怠らなくても損害が生ずべきであったとき
  • 2項の代理監督者も同じ
  • 証明するのは監督義務者の側=中間責任
  • ②が認められるのはまれ

次の要件Ⅲの前に、復習を1問です。過失責任の原則では、過失の証明は誰がするのでしたか?被害者です。そして、中間責任では、その向きが逆になります。要件Ⅲです。714条1項のただし書を、もう一度見てください。免責される場合が、2つあります。1つめ、監督義務者が、その義務を怠らなかったとき。2つめ、義務を怠らなくても、損害が生ずべきであったときです。2項の代理監督者も、同じです。証明するのは、監督義務者の側です。地図で見た中間責任です。2つめは、因果関係の不存在です。義務をきちんと果たしても、その損害は起きたはずだ、という場合です。たとえば、親がそばで見ていたとしても、止める間もなく同じ事故が起きた、と言える場合です。免責が認められるのは、まれです。1つめが、実務で問題になります。何をすれば、怠らなかった、と言えるのか。

サッカーボールの事件。満11歳11か月の児童が、放課後に開放された小学校の校庭で、ゴールに向けてフリーキックの練習をした。ボールが門扉の上を越えて道路に転がり出て、避けようとした85歳のバイクの運転者が転倒して負傷し、その後死亡した。両親は日頃から通常のしつけをしていた。 図:サッカーボールの事件

  • 満11歳11か月の児童が、放課後に開放された小学校の校庭で、ゴールに向けてフリーキックの練習をした
  • ボールが門扉の上を越えて道路に転がり出て、避けようとした85歳のバイクの運転者が転倒して負傷し、その後死亡した
  • 両親は日頃から通常のしつけをしていた

有名な事件があります。満11歳11か月の児童が、放課後に開放されていた小学校の校庭で、ゴールに向かってフリーキックの練習をしていました。ボールが門扉の上を越えて、道路に転がり出ました。避けようとした85歳のバイクの運転者が転倒して、負傷し、その後に亡くなりました。両親は、日頃から、通常のしつけをしていました。遺族は、両親に、714条の責任を求めました。両親は、監督義務を怠ったのでしょうか?判決は、そうは言いませんでした。規範の言葉です。

判例最判平27・4・9 民集69巻3号455頁

日頃の指導監督の義務 責任能力のない未成年者の親権者は、その直接的な監視下にない子の行動について、人身に危険が及ばないよう注意して行動するよう日頃から指導監督する義務があると解されるが、……通常は人身に危険が及ぶものとはみられない行為によってたまたま人身に損害を生じさせた場合は、当該行為について具体的に予見可能であるなど特別の事情が認められない限り、子に対する監督義務を尽くしていなかったとすべきではない。

読み方です。前半は、親権者の義務の中身です。直接の監視下にない子について、人身に危険が及ばないよう注意して行動するように、日頃から指導監督する義務です。後半が、免責に効く部分です。通常は人身に危険が及ぶとはみられない行為から、たまたま損害が生じたときは、具体的に予見できたなどの特別の事情がない限り、監督義務を尽くしていなかったとはされません。判決は、あてはめも述べています。ゴールに向けたフリーキックの練習は、通常は人身に危険が及ぶ行為とは言えません。ボールが道路に出ることが常態だったとも見られません。殊更に道路に向けて蹴ったなどの事情もありません。日頃から通常のしつけもしていました。具体的に予見できたなどの特別の事情も、うかがわれません。そこで、義務を怠らなかった、としました。

監督義務の中身は、日頃の指導監督であって、直接の監視下にない子の行動の見張りではありません。これが714条の免責を読む核心です。

似た2つの場面。校庭のゴールに向けた練習=通常は人に危険が及ばない行為・日頃から通常のしつけ・偶然ボールが道路へ→免責の側。通行人に当たりそうな近さで繰り返し強く蹴り込む=危険が具体的に予見できる・親が知りながら放置→義務を尽くしたとは言いにくい。 図:似た2つの場面

  • 校庭のゴールに向けた練習=通常は人に危険が及ばない行為・日頃から通常のしつけ・偶然ボールが道路へ→免責の側
  • 通行人に当たりそうな近さで繰り返し強く蹴り込む=危険が具体的に予見できる・親が知りながら放置→義務を尽くしたとは言いにくい

似た2つの場面を比べて確かめます。校庭のゴールに向けたフリーキックの練習は、通常は人に危険が及ばない行為です。そこから偶然に、ボールが道路に出ました。これは、免責の側です。一方、窓ガラスや通行人に当たりそうな近さで、繰り返し強く蹴り込んでいたらどうでしょう。危険が具体的に予見できます。親が知りながら放置していたなら、義務を尽くしたとは言いにくくなります。見張りまで求めると、親は子を一歩も外に出せません。それは現実的ではありません。だから、日頃の指導監督を尽くしていれば、偶発の事故まで、責任を負わせないのです。

⭐ 論文で書く規範:【規範(判例)】通常は人身に危険が及ぶものとはみられない行為によってたまたま損害が生じた場合は、具体的に予見可能であるなど特別の事情が認められない限り、監督義務を尽くしていなかったとはされない。 (解釈で立てる規範(出どころ=判例)。条文は「怠らなかったとき」としか書いていない。決め手=監督義務の中身は日頃の指導監督で、逐一の見張りまでは求められないから)

設例も、ここで整理します。BとCは、そもそも準ずべき者に当たりません。ですから、免責の証明まで進みません。ただし、もしCが引き受けていたなら、この日頃の監督の基準に照らして、義務を怠らなかったと言えるかが、次の問題になります。

失火責任法との関係

責任無能力者の失火。設例=責任を弁識する能力のない10歳前後の2人の子が、無人の建物でマッチで遊んで出火。失火責任法=709条の規定を失火の場合に適用しない。ただし失火者に重大な過失があるときは別。重過失の定義(不法行為の全体像の回)=わずかの注意さえすれば、たやすく結果を予見できた場合なのに漫然これを見すごしたような、ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態。 図:責任無能力者の失火

  • 設例=責任を弁識する能力のない10歳前後の2人の子が、無人の建物でマッチで遊んで出火
  • 失火責任法=709条の規定を失火の場合に適用しない
  • ただし失火者に重大な過失があるときは別
  • 重過失の定義(不法行為の全体像の回)=わずかの注意さえすれば、たやすく結果を予見できた場合なのに漫然これを見すごしたような、ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態

次は、失火です。責任無能力者が火事を起こしたときです。設例を作ります。10歳前後の子が2人、無人の建物でマッチで遊んで、出火しました。隣の家が焼けました。親の責任は、どうなるでしょうか。失火責任法は、不法行為の全体像の回で見ました。こういう条文でした。

条文失火ノ責任ニ関スル法律(明治三十二年法律第四十号)

失火ノ責任ニ関スル法律 民法第七百九条ノ規定ハ失火ノ場合ニハ之ヲ適用セス但シ失火者ニ重大ナル過失アリタルトキハ此ノ限ニ在ラス

失火の場合は、709条を適用しません。ただし、失火者に重大な過失があるときは別です。重大な過失とは、わずかの注意さえすれば、たやすく結果を予見できたのに、漫然と見すごした、ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態でした。ここで疑問が出ます。重大な過失は、誰について見るのか。火遊びをした子でしょうか。それとも、親でしょうか。判決は、違う答えを出しました。

判例最判平7・1・24 民集49巻1号25頁

責任無能力者の失火 重大な過失は誰について問うか 責任を弁識する能力のない未成年者の行為により火災が発生した場合においては、民法七一四条一項に基づき、未成年者の監督義務者が右火災による損害を賠償すべき義務を負うが、右監督義務者に未成年者の監督について重大な過失がなかったときは、これを免れるものと解するのが相当……未成年者の行為の態様のごときは、これを監督義務者の責任の有無の判断に際して斟酌することは格別として、これについて未成年者自身に重大な過失に相当するものがあるかどうかを考慮するのは相当でない。

読み方です。責任を弁識する能力のない未成年者の行為で火災が起きたときは、714条1項で、監督義務者が損害を賠償する義務を負います。ただし、監督義務者に、未成年者の監督について重大な過失がなかったときは、免れます。後半です。未成年者の行為の態様は、監督義務者の責任の有無を判断するときの事情として考えることはできます。ですが、未成年者自身に重大な過失に相当するものがあるかどうかを考えるのは、相当でない、とされました。理由は、714条の趣旨と失火責任法の趣旨を、あわせて考えたことです。714条は、責任能力のない人の行為について、過失を問えないから、監督義務者に責任を負わせる条文でした。そう考えると、責任無能力者の過失を問題にする仕組みには、なりません。問うのは、監督義務者の監督です。失火責任法は、軽い不注意の失火者を守る法律でした。ただ、ここで賠償を負うのは、火をつけた子ではなく、714条で責任を負う監督義務者です。そこで、重大な過失のときだけ責任を負う、という失火責任法の線を、監督義務者の監督に当てはめます。監督義務者の監督に、重大な過失がなければ、免れます。

失火で重大な過失を見る相手。709条で請求=失火者の重大な過失(被害者が立証)。714条1項で請求=監督義務者の監督に重大な過失があったか。重大な過失がなかったときは監督義務者は責任を免れる。 図:失火で重大な過失を見る相手

  • 709条で請求=失火者の重大な過失(被害者が立証)
  • 714条1項で請求=監督義務者の監督に重大な過失があったか
  • 重大な過失がなかったときは監督義務者は責任を免れる

不法行為の全体像の回では、709条で請求するなら、被害者が失火者の重大な過失を立証する、と見ました。714条の場面で問うのは、失火者の重大な過失ではありません。監督義務者の監督に、重大な過失があったかどうかです。重大な過失がなかったときは、監督義務者は責任を免れます。設例の答えです。火遊びをした子の親は、監督について重大な過失があるときだけ、責任を負います。親に重大な過失が無ければ、免れます。比較を一言だけ置きます。使用者責任、715条でも失火が問題になります。この場合は、被用者に重大な過失があれば、使用者に選任や監督について重大な過失がなくても、通常の不注意があれば、責任を負います。誰の重過失を見るかが、違います。714条は監督義務者の監督、715条は被用者の行為です。715条の細部は、その回で見ます。

行為者に責任能力があるとき

問い。加害者が責任能力のある16歳の未成年者だったとき、親に714条は使えるか。 図:問い。加害者が責任能力のある16歳の未成年者だったとき、親に714条は使えるか。

最後の論点です。問いです。加害者が16歳のとき、714条は使えるでしょうか?責任能力のある16歳の子について、親に714条は使えません。理由を見ます。条文に戻ります。714条1項は、前二条、712条と713条の規定により、責任無能力者が責任を負わない場合の条文です。16歳は、通常は責任能力があります。本人が709条の責任を負います。入口の前提を欠いています。でも、それでは困る場面があります。16歳が、バイクの事故を起こして、人を傷つけたとします。本人は709条の責任を負います。ですが、未成年者には、お金が無いことが多いです。無資力のときは、被害者は賠償を受け取れません。

責任能力があると、親に責任を問えないのですか。それは、被害者が困りませんか。困ります。そこで、判例が道を作りました。

判例最判昭49・3・22 民集28巻2号347頁

責任能力のある未成年者の監督義務者 未成年者が責任能力を有する場合であつても監督義務者の義務違反と当該未成年者の不法行為によつて生じた結果との間に相当因果関係を認めうるときは、監督義務者につき民法七〇九条に基づく不法行為が成立するものと解するのが相当であつて、民法七一四条の規定が右解釈の妨げとなるものではない。

読み方です。監督義務者の義務違反と、未成年者の不法行為の結果との間に、相当因果関係を認められるなら、監督義務者に709条の不法行為が成立します。714条があっても、この解釈の妨げにならない、というのです。事案は、責任能力のある未成年者による殺害事件でした。両親の責任が、認められました。相当因果関係とは、ここでは、監督義務違反があれば、その結果が起きることが、社会通念上も、通常は予想できる関係のことです。16歳のバイクの例に戻します。親が、子が無免許で乗り回しているのを知りながら、鍵を渡し続けていたとします。その放置と事故の結果との間に相当因果関係を認めうるなら、親に709条の責任が成り立ちます。反対に、子が普段は免許を取って安全に乗っていて、親が危ない運転を知るきっかけも無かったならどうでしょう。義務違反も、結果とのつながりも、被害者は示しにくくなります。親の責任は、認められにくいのです。

12歳前後で切り替わる。加害者に責任能力あり/なし。なし(目安はおおむね12歳前後・固定ではない)→加害者本人は責任を負わない(712・713)→監督義務者は714条(ただし書の免責は監督義務者が証明)。あり→加害者本人が709条→監督義務者は709条(監督義務違反と結果の相当因果関係を被害者が立証)。 図:12歳前後で切り替わる

  • 加害者に責任能力あり/なし
  • なし(目安はおおむね12歳前後・固定ではない)→加害者本人は責任を負わない(712・713)→監督義務者は714条(ただし書の免責は監督義務者が証明)
  • あり→加害者本人が709条→監督義務者は709条(監督義務違反と結果の相当因果関係を被害者が立証)

図で整理します。分かれ目は、加害者に責任能力があるかです。目安は、おおむね12歳前後です。固定の線ではありません。責任能力がない場合です。加害者本人は、責任を負いません。監督義務者が、714条で責任を負います。免れるには、監督義務者が、ただし書の免責を証明します。責任能力がある場合です。加害者本人が、709条で責任を負います。監督義務者も、709条の責任が問われます。ただし、709条の一般の原則どおり、監督義務違反と、結果との間の相当因果関係を、被害者が立証しなければなりません。

714条と709条の比較。根拠条文=714条/709条。監督義務違反の立証=不要(免責を監督義務者が証明)/被害者が立証(相当因果関係も)。免責の証明=監督義務者/なし(そもそも被害者が立証)。加害者本人の責任=負わない/負う。 図:714条と709条の比較

  • 根拠条文=714条/709条
  • 監督義務違反の立証=不要(免責を監督義務者が証明)/被害者が立証(相当因果関係も)
  • 免責の証明=監督義務者/なし(そもそも被害者が立証)
  • 加害者本人の責任=負わない/負う

比べます。根拠条文は、714条と709条です。監督義務違反の立証は、714条なら被害者は要りません。免責は、監督義務者が示します。709条なら、一般の原則どおり、被害者が、義務違反と相当因果関係を示します。加害者本人の責任は、714条のときは負わず、709条のときは負います。責任能力がないなら、本人は責任を負わず、被害者の保護が必要です。だから、立証の負担を、監督義務者に移しています。責任能力があるなら、本人に請求できるので、移す必要が小さくなります。

⭐ 論文で書く規範:【規範(判例)】加害者に責任能力があるときは714条は使えない。監督義務者の義務違反と結果との間に相当因果関係を認めうるときは、監督義務者に709条に基づく不法行為が成立する。 (解釈で立てる規範(出どころ=判例)。条文は無い。決め手=責任能力のある未成年者は無資力のことが多く、被害者の救済に欠けるため。論文で論点になりうる)

設例の解決とまとめ

まとめ。①714条は中間責任(証明するのは監督義務者)②成年後見人・配偶者であるだけでは当たらず、準ずべき者は監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情で判断③通常は危険でない行為の偶発事故では義務を怠ったとはされない④責任能力があれば709条。失火は監督義務者の重過失。 図:まとめ

  • ①714条は中間責任(証明するのは監督義務者)②成年後見人・配偶者であるだけでは当たらず、準ずべき者は監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情で判断③通常は危険でない行為の偶発事故では義務を怠ったとはされない④責任能力があれば709条
  • 失火は監督義務者の重過失

冒頭の設例の答えです。Aは、責任能力がなく、713条で責任を負いません。Bは妻ですが、それだけでは法定の監督義務者に当たりません。そして、準ずべき者にも当たりません。Cも同じです。ですから、Dの損害は、BにもCにも請求できません。ただし、家族が関わりの実態で準ずべき者に当たるなら、免責の証明が残ります。家族だから免れる、のではありません。まとめます。1つめ、714条は中間責任です。免れるための証明は、監督義務者がします。2つめ、成年後見人であること、配偶者であることだけでは、法定の監督義務者に当たりません。準ずべき者は、監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情で判断します。3つめ、通常は人身に危険が及ばない行為から、たまたま損害が生じたときは、具体的に予見できるなどの特別の事情がない限り、義務を怠ったとはされません。4つめ、加害者に責任能力があるときは714条は使えず、709条で監督義務者を問います。失火は、監督義務者の監督に重大な過失があるかを見ます。

参照条文

  • 民法714条
  • 民法712条
  • 民法713条
  • 民法858条
  • 民法752条
  • 失火ノ責任ニ関スル法律(明治三十二年法律第四十号)

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