管理者の義務・代理・準事務管理
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第6章 法定債権 #283/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
Bの名前で結んだ契約は、誰に効くのか
図:冒頭の設例の続き 真冬、隣家Bの水道管が破裂
- Bは長期出張中で連絡がつかない
- AはBに頼まれていない
- 今回の変形=AはCに「Bの名前で」修理を頼み、契約を結んだ
- 工事は終わった
- CはBに代金を請求できるか
記号は前回と同じです。立て替えた人がA、出張中の隣人がB、水道業者がCです。AはBに頼まれていません。それでもAは、Bの名前でCと契約を結びました。Cから見れば、契約の相手はBです。助けるつもりで結んだ契約は、誰に効くのか。これが今日の問いです。答えを先に言います。事務管理が成立していても、それだけでは、CはBに代金を請求できません。ただし、Bが後から認めれば別です。今日は3つ見ます。1つめは、管理者は何を守らなければならないのか。2つめは、契約の効果が誰に届くのか。3つめは、他人の権利を自分のために使った人から、利益を全部取れるのか。最後に、冒頭の問いに戻ります。
管理者の義務の全体 5つの条文
図:管理者の義務の一覧
- 697条=方法と本人の意思/698条=注意の程度/699条=通知/700条=継続と中止/701条=委任の規定の準用(645条から647条)
- 数え方=義務の数ではなく、条文が5つ(697条から701条)
まず全体の地図です。管理者の義務は、事務管理の章に並ぶ5つの条文に置かれています。697条から701条です。頼まれてもいないのに、なぜ義務を負うのか。前回見たとおり、法は他人への干渉を原則として許さず、要件を満たしたときだけ、違法性をなくして手を出すことを許しました。許された干渉だからこそ、本人のためにきちんと管理しなければなりません。義務は、許された干渉の裏返しです。697条は、管理の方法と、本人の意思です。698条は、注意の程度です。699条は、通知です。700条は、管理の継続と中止です。701条は、委任の規定の準用です。順番に読んでいきます。
今日の5つは、受任者が負う義務の5つとは別の数え方です。受任者の義務は、善管注意、自己執行と復受任者、報告、引渡し、金銭消費の責任の5つでした。今日の5つは、義務の数ではなく、条文の数です。1つの条文の中に、複数の義務が入ることもあります。ですから今日は、条文が5つ、と数えてください。
義務① 注意の程度 善管注意と緊急事務管理
図:698条の読み方
- 698条は、急迫の危害を免れさせるための事務管理について、責任を軽くする規定
- 反対解釈=急迫の危害がない通常の事務管理では、軽くならない
条文に入る前に、1問です。注意義務の一覧の回を思い出してください。無報酬で物を預かった受寄者の注意は、善管注意でしたか?違います。659条で、自己の財産に対するのと同一の注意でした。では、今日の管理者は、原則どちらの注意を払うのでしょうか。698条を読んで考えます。
条文民法698条
民法第698条 管理者は、本人の身体、名誉又は財産に対する急迫の危害を免れさせるために事務管理をしたときは、悪意又は重大な過失があるのでなければ、これによって生じた損害を賠償する責任を負わない。
698条が言っているのは、こういうことです。本人の身体、名誉、財産に、急迫の危害が迫っている。それを免れさせるために事務管理をしたなら、悪意か重大な過失がなければ、損害賠償の責任を負わない。慌ただしい場面で動いた人の責任を、軽くする規定です。設例で、水が噴き出し続けている場面は、財産への急迫の危害に当たります。書いていません。ここで使うのが、解釈の回で見た、反対解釈です。条文が特別に扱っている場面の外では、反対の扱いになる、と読む方法です。たとえば、荷下ろしのときだけ駐車してよい、と書いてある道路なら、荷下ろし以外の駐車は、原則どおり禁止、と読みますよね。698条は、急迫の危害がある場面だけ、責任を軽くしています。軽くする規定が、わざわざ置かれているのだから、急迫の危害がないふつうの事務管理では、軽くならない。では、軽くならないときの物差しは何か。さっきの659条を思い出してください。659条は無報酬の受寄者だけの規定なので、有償の受寄者は、一般の原則、400条の善管注意に戻りました。軽くする条文の外では、一般の原則に戻る。698条も同じ形です。つまり、善良な管理者の注意、略して善管注意が必要になる、と読みます。善管注意とは、その立場にいる標準的な人が払うべき注意のことでした。
⭐ 論文で書く規範:【規範(条文の反対解釈で立てる)】698条は、急迫の危害を免れさせる場合に責任を軽くする規定である。その反対解釈として、急迫の危害がない通常の事務管理では、管理者は善良な管理者の注意をもって管理する義務を負い、違反すれば債務不履行による損害賠償責任を負う。 (条文に善管注意とは書かれていない。698条の反対解釈で立てる規範。条文どおりなのは698条の文言のほう)
色分けの意味も押さえます。698条の、悪意又は重大な過失がなければ責任を負わない、は条文どおりです。一方、通常の場面は善管注意、は解釈で立てた規範です。答案では、698条の反対解釈による、と理由を添えて書きます。
図:設例の対比
- 急迫の危害あり=水が噴き出し続ける間、止水栓を締めるのに手間取り、床の一部が濡れた→軽い不注意=責任なし
- 急迫の危害なし=数日後、頼まれてもいないのにBの庭の水やりを続け、栓の閉め忘れで庭が水浸しに→善管注意に反する=損害賠償責任
設例で比べます。1つめ。水が噴き出し続けている間、Aは止水栓を締めるのに手間取り、床の一部が濡れてしまいました。急迫の危害を免れさせるための事務管理です。手間取ったのは軽い不注意にすぎず、悪意も重大な過失もありません。Aは責任を負いません。2つめ。数日後、Aは、頼まれてもいないのに、Bの庭の水やりを続けました。ところが栓の閉め忘れで、庭が水浸しになりました。このときは、もう急迫の危害はありません。ふつうの事務管理ですから、善管注意が必要です。標準的な人なら栓を閉め忘れませんから、義務違反です。Aは、Bに損害賠償の責任を負います。
分かれ目は、うっかりの大きさではなく、急迫の危害があったかどうかです。それから、前回見た、違法性がなくなる、という効果との関係も、1文で押さえます。事務管理が成立すれば、Bの庭に入っても、不法行為の責任は負いませんでした。しかし、管理に落ち度があったときの、義務違反の責任までは消えません。
図:注意義務の軽重の一覧
- 追加
- 善管注意=特定物の引渡義務者(400条)
- 有償の受寄者(400条)
- 受任者(644条)
- 後見人など。他人の事務の管理者(698条の反対解釈)を追加。自己の財産に対するのと同一の注意=無報酬の受寄者(659条)など。別枠=緊急事務管理(698条)=悪意又は重大な過失がなければ責任を負わない。
注意義務の一覧に、2行足します。善管注意の側に、他人の事務の管理者。698条の反対解釈です。そして別枠で、緊急事務管理。698条で、悪意又は重大な過失がなければ責任を負わない、とされています。急迫の場面だけの特別枠、と覚えてください。
義務② 最も本人の利益に適合する方法と、本人の意思
図:697条
- 1項=その事務の性質に従い、最も本人の利益に適合する方法で管理する
- 2項=本人の意思を知っているとき、又は推知できるときは、その意思に従う
- 設例=書き置きに「配管はこの業者に」とあれば従う/何も分からなければ最も本人の利益に適合する方法
前回、697条1項は前半だけ読みました。今日は後半と、2項も含めて全文を出します。
条文民法697条
民法第697条 義務なく他人のために事務の管理を始めた者(以下この章において「管理者」という。)は、その事務の性質に従い、最も本人の利益に適合する方法によって、その事務の管理(以下「事務管理」という。)をしなければならない。 2 管理者は、本人の意思を知っているとき、又はこれを推知することができるときは、その意思に従って事務管理をしなければならない。
1項の後半です。管理は、その事務の性質に従って、最も本人の利益に適合する方法で行います。基準になるのは、本人の利益です。自分の都合や好みで、業者や工事のやり方を選んでよいわけではありません。2項は、本人の意思です。本人の意思を知っているとき、又は推知できるときは、その意思に従います。推知とは、状況から推し量ることです。たとえば、Bの玄関に、書き置きがあって、配管はこの業者に、と書いてあれば、意思が分かります。Aは、その業者を選びます。書き置きがなくても、配管のそばに、その業者の保守点検のシールが貼ってあれば、その業者に頼みたいのだろうと推し量れます。そう推し量れるなら、やはり従います。何も分からなければ、1項に戻ります。最も本人の利益に適合する方法を選びます。つまり、意思が分かる、又は推し量れるなら意思が先で、分からなければ利益が基準、という順番です。
似ていますが、別の話です。4つめの条件は、事務管理が成立するかどうかの条件でした。意思に反することが明らかなら、そもそも成立しません。697条2項は、成立したあとの、管理のやり方の義務です。意思に反することが明らかでなかったから成立し、そのうえで、管理を進めるなかで意思が分かった、又は推し量れたなら、従う。成立の線と、成立後の義務、という関係です。
義務③④ 通知と、管理の継続・中止

699条、通知です。全文を出します。
条文民法699条
民法第699条 管理者は、事務管理を始めたことを遅滞なく本人に通知しなければならない。ただし、本人が既にこれを知っているときは、この限りでない。
管理を始めたら、始めたことを、遅れずに本人に知らせます。ただし、本人がすでに知っているときは、知らせる必要がありません。設例で、Bがすでに管理会社から水道管の破裂の連絡を受けて知っていたなら、通知はいりません。次は700条です。
条文民法700条
民法第700条 管理者は、本人又はその相続人若しくは法定代理人が管理をすることができるに至るまで、事務管理を継続しなければならない。ただし、事務管理の継続が本人の意思に反し、又は本人に不利であることが明らかであるときは、この限りでない。
本文は、管理の継続です。始めた以上、本人か、その相続人か、法定代理人が管理できるようになるまで続けます。設例なら、AはBが出張から戻り、自分で管理できるようになるまで、手を引いてはいけません。途中で投げ出して、本人に不利益を残さないためです。ただし書は、例外です。続けることが、本人の意思に反し、又は本人に不利であることが明らかなときは、続けなくてよい。続けなくてよい、というのは、つまり中止してよい、ということです。
図:700条の時系列
- 管理を始めた時点で、本人の意思や利益に反することが明らか→事務管理は成立しない
- 始めた時点で明らかでない→成立
- 管理の途中で明らかになった→その時点から中止の義務が生じる(通説)
- 設例=管理の途中でBから「それ以上触らないで」と連絡が来た→止める
ここで、前回あとに回した話に戻ります。前回、4つめの条件は700条ただし書から導く、と言いました。時間の流れで整理します。管理を始めた時点で、本人の意思や利益に反することが明らかなら、事務管理は成立しません。始めた時点では明らかでなかったなら、成立します。そして、管理を進めるうちに、本人の意思に反することが明らかになったら、その時点から、管理者には中止の義務が生まれます。通説とされています。設例です。Aが修理を進めている途中で、Bから、それ以上は触らないでほしい、と連絡が来ました。ここから先は、本人の意思に反することが明らかですから、Aは管理を止めなければなりません。
ぶつからない理由は、本文が原則で、ただし書が例外だからです。原則は、最後まで続ける。ただし、続けることが本人の意思に反することが明らかになったら、例外として止める。始まりの時点での線は成立の問題で、途中での線は、中止の義務の問題です。
義務⑤ 委任の規定の準用 何が借りられ、何が借りられないか
図:701条の準用
- 準用される=645条(報告)・646条(受取物の引渡し・取得した権利の移転)・647条(金銭消費の責任)
- 準用されない=644条(善管注意)・644条の2(復受任者)・648条(報酬)・649条(費用の前払)・650条(費用の償還等=702条2項が借りるのは650条2項だけ)
- 受任者の5つの義務と並べる
最後の条文は、701条です。
条文民法701条
民法第701条 第六百四十五条から第六百四十七条までの規定は、事務管理について準用する。
準用とは、必要な読み替えをして借りることでした。701条が借りるのは、645条から647条までの3つだけです。委任の規定は、他にもたくさんありますが、借りられるのはこの3つに限られます。1つめは、645条の報告です。本人から請求があれば、いつでも管理の状況を報告します。管理が終わったら、遅滞なく、経過と結果を報告します。2つめは、646条の引渡しです。管理にあたって受け取った金銭その他の物は、本人に引き渡します。管理者が自分の名前で取得した権利は、本人に移転します。設例で、工事が終わったあと、Cが過払いの分として2千円をAに返してきたとします。Aはその2千円を、Bに引き渡します。3つめは、647条の金銭消費の責任です。本人に引き渡すべき金額を、自分のために使ってしまったら、使った日以後の利息を払います。なお損害があれば、その賠償もします。2千円をAが自分の食事代に使ってしまったら、使った日以後の利息と、さらに損害があれば、その賠償をBに負います。
借りない条文を確かめておくことが、間違えやすいところの対策になります。受任者の5つの義務と並べます。受任者の義務のうち、善管注意の644条と、自分で処理し、別の人に任せる復受任者は限られる、という644条の2は、借りません。報告、引渡し、金銭消費の3つが、借りる側です。委任者の側の条文も、借りません。648条の報酬、649条の費用の前払いです。650条の費用の償還や損害賠償も、701条は借りません。事務管理の費用は702条が別に定めていて、702条2項が借りるのは、650条2項の代弁済、つまり、自分に代わって弁済してほしいという請求だけです。前回見たとおり、報酬は出ませんし、前払いも請求できません。
善管注意は、701条ではなく、さっきの698条の反対解釈から出るからです。条文の借り方が違うだけで、通常の事務管理で善管注意が必要、という結論は変わりません。自分の代わりに別の人に任せる、復受任者を認める644条の2のほうは、準用されない、とだけ押さえてください。借りない条文を、理由で分けておきます。善管注意は698条から、費用の償還と代弁済は702条から出ます。事務管理の章に、自前の規定があるからです。報酬と前払いは、前回見たとおり、事務管理ではそもそも出ません。反対に、報告、引渡し、金銭消費の責任は、事務管理の章に自前の規定がありません。だから、この3つを委任から借ります。
管理者の義務のまとめ
図:管理者の義務のまとめ
5つの条文をまとめます。697条は、最も本人の利益に適合する方法と、本人の意思に従うことです。698条は、ふつうは善管注意、急迫の危害のときは、悪意又は重大な過失がなければ責任なし、です。699条は、遅滞なく通知です。700条は、本人らが管理できるまで継続し、ただし書で中止です。701条は、報告、引渡し、金銭消費の責任です。1問だけ確認します。管理を始めた時点では、本人の意思に反することは明らかではなく、事務管理が成立した。ところが、途中で、本人が嫌がっていることが明らかになった。成立はどうなり、管理者には何が生じますか?
成立はそのままで、中止の義務が生まれます。成立の線は、始めた時点で引かれます。途中で明らかになったら、成立は覆らず、700条ただし書による中止の義務が、その時点から生まれます。
代理の成否 事務管理が成立すれば、Aに代理権は生じるか
図:設例の三面図
冒頭の設例に戻ります。その前に1問です。無権代理の回を思い出してください。本人が追認しないとき、相手方が使える手段は3つありました。何と何と何でしたか?催告と、取消しと、無権代理人の責任追及です。114条、115条、117条でした。この3つは、すぐあとで使います。1つ注意です。無権代理の回とは、記号の役割が逆です。あの回では、Aが本人で、Bが代理人と名乗って契約した人でした。今日は、Bの名前で契約したAが無権代理人の側で、Bが本人です。図を見てください。AとBの間は、内部の関係です。AがBに頼まれずに世話をした、という事務管理の関係です。AとCの間は、契約で、Aは「Bの名前で」結びました。そしてCは、Bに代金を請求したい。ここは、外の関係です。問いは、事務管理が成立すれば、AにBを代理する権限が生まれ、Bの名前で結んだ契約の効果が、追認なしにBに届くのか、です。
助ける人には代理する権限もあってよさそうだ、と考えたくなります。でも、結論は逆です。委任の回で、委任契約と代理権の授与は別のものだと見ました。頼まれていてさえ、代理権は別に与えなければ生まれません。頼まれてもいない事務管理で、自動的に代理権が生まれる、とは言えません。最高裁は、こう言っています。
判例最判昭36・11・30 民集15巻10号2629頁
事務管理者が本人の名でした法律行為の効果は、当然には本人に及ばない 事務管理は、事務管理者と本人との間の法律関係を謂うのであつて、管理者が第三者となした法律行為の効果が本人に及ぶ関係は事務管理関係の問題ではない。従つて、事務管理者が本人の名で第三者との間に法律行為をしても、その行為の効果は、当然には本人に及ぶ筋合のものではなく、そのような効果の発生するためには、代理その他別個の法律関係が伴うことを必要とするものである。原判決は右と同趣旨の下に、本件においては、右別個の法律関係について何ら主張且つ立証するところがないことを理由として、上告人の主張を斥けたのである。
読み方です。事務管理は、事務管理者と本人の間の法律関係のことです。管理者が第三者と結んだ法律行為の効果が、本人に及ぶかどうかは、事務管理の問題ではありません。だから、管理者が本人の名前で第三者と契約しても、効果は当然には本人に及びません。効果が及ぶためには、代理その他、別の法律関係が必要です。たとえば、BがAに代理権を与えていた場合です。判決が言っているのは、ここまでです。設例に当てはめます。事務管理が成立していても、Aに代理権が生まれるわけではありません。だからAが、Bの代理人としてCと結んだ契約は、代理権のない者がした契約、つまり無権代理です。無権代理の効果は、113条1項が決めています。
条文民法113条1項
民法第113条第1項 代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じない。
本人が追認をしなければ、本人に対して効力を生じない。設例では、Bが追認しなければ、AがCと結んだ契約は、Bに効きません。ですからCは、事務管理を理由として、Bに代金を請求することはできません。追認は、無権代理行為の効果を、自分に帰属させる本人の意思表示でした。相手方の承諾はいりません。Bが追認をしたら、116条で、契約の時にさかのぼって、BとCの契約として有効になります。追認があれば、話は変わります。
⭐ 論文で書く規範:【規範(判例・通説で立てる)】事務管理が規律するのは本人と管理者の内部関係であり、管理者が第三者と結んだ契約の効果が本人に及ぶかという外部関係の問題ではない。したがって、事務管理が成立しても、管理者に本人を代理する権限は生じない。よって、本人の追認がない限り、原則として相手方は本人に請求できない(113条1項)。 (論文の骨格。条文に明記はなく、最判昭36・11・30と通説で立てる規範)
前回の、生ものを売ってしまった例も、今回の代理権の問題も、同じ仕組みです。管理に当たることと、その行為が本人に効くことは、別の問題でした。管理者に代理権がないという点が、どちらも根っこにあります。ここは、論文で論点になりうる箇所です。
無権代理になったあとの処理 誰の名前で契約したかで分かれる
図:Bの名前で契約した場合
- 無権代理=Bが追認すればBとCの契約/追認しなければBに効果は届かない
- Cの手段=催告(114条)・取消し(115条)・Aへの責任追及(117条)
- Aは代理権を証明できない(事務管理の成立は代理権の証明にならない)
Bが追認しなければ、Cはどう動けるのか。無権代理の回で見た3つの手段を、設例に当てはめます。1つめは、Bへの催告で、114条です。2つめは、Cが自分で契約を取り消す、115条です。3つめが、無権代理人であるAへの責任追及で、117条です。なお、Cが115条で取り消してしまうと、Aに対して117条の責任を追及することはできなくなります。無権代理の回で見たとおりです。
条文民法117条
民法第117条 1項 他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明したとき、又は本人の追認を得たときを除き、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。 2項 前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。 一 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき。 二 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が過失によって知らなかったとき。ただし、他人の代理人として契約をした者が自己に代理権がないことを知っていたときは、この限りでない。 三 他人の代理人として契約をした者が行為能力の制限を受けていたとき。
117条の責任を負うのは、他人の代理人として契約をしたAです。Aが免れるのは、自己の代理権を証明したとき、又は本人の追認を得たときです。ここで大事なのは、事務管理が成立していても、それは代理権の証明にはならない、という点です。事務管理と代理権は別でしたから、Aは代理権を証明できません。ですからBが追認しなければ、Aは、Cの選択に従って、履行か損害賠償の責任を負います。免責は2項の3つです。Cが、Aに代理権がないことを知っていたとき。Cが、過失によって知らなかったとき。ただし、Aが自分に代理権がないことを知っていたなら、責任を負います。そしてAが、行為能力の制限を受けていたときです。
Bに対しては、702条1項の枠で処理します。前回見たとおり、Aは、Bのために有益な費用を支出したと言えるなら、その償還をBに請求できます。ですから、無権代理で責任を負っても、費用の償還を求める道が残ります。
図:Aが自分の名前で契約した場合
- 前回の設例
- CとAが契約当事者→CはAに請求する。Aは債務を負担→Bに代弁済を請求できる(702条2項・650条2項)
- 弁済期前なら相当の担保。代弁済義務はAに対する義務であり、BがCに直接義務を負うわけではない。
では、Aが、自分の名前でCと契約していたらどうなるか。前回の設例です。Cの契約の相手はAです。CはAに請求します。
条文民法702条2項
民法第702条第2項 第六百五十条第二項の規定は、管理者が本人のために有益な債務を負担した場合について準用する。
Aは、Cに対して債務を負担しました。そこでAは、702条2項で、Bに、自分に代わってCに弁済してほしいと請求できます。代弁済の請求です。弁済期がまだなら、相当の担保を供させることもできます。ただし、この代弁済は、Aに対する義務です。BがCに対して、直接義務を負うわけではありません。ですから、CがBに直接代金を請求できる関係には、なりません。
図:契約の名義と、請求の相手
- Bの名前で契約=CはBに請求できない(Bが追認すれば別)、Aに117条/AはBに702条1項で費用の償還を請求
- Aの名前で契約=CはAに請求/AはBに702条2項で代弁済を請求
2つを表に並べます。Bの名前で契約したら、事務管理を理由にCがBに請求することはできません。Bが追認すれば別です。CはAに117条の責任を問います。AはBに702条1項で費用の償還を求めます。Aの名前で契約したら、CはAに請求し、AはBに702条2項で代弁済を求めます。ここで1問です。Aが、Bの名前で契約した場合と、Aが自分の名前で契約した場合。それぞれ、Cは誰に代金を請求できますか?Bの名前で契約したなら、Bが追認しない限りBには請求できなくて、Aに117条で請求します。Aの名前で契約したなら、Aに請求します。決め手は、誰の名前で契約したか、です。Bの名前なら、無権代理の問題になります。Aの名前なら、Aが契約の当事者です。
準事務管理 自分のために他人の権利を使った利益は、全部取れるか
図:準事務管理の設例
- Bの留守中、Aが自分の稼ぎのために、Bの別荘を無断で民泊に貸した
- 収益=300万円/通常の賃料相当額=50万円
- 直接適用できない(他人のためにする意思がない)
もっぱら自分のために他人の事務を管理した場合は、事務管理が成立しない、と言いました。その場合の扱いが、今日の3つめです。設例を変えます。Bの留守中に、Aが、Bのためではなく、自分の稼ぎのために、Bの別荘を無断で民泊として貸し出しました。収益は300万円です。ところが、別荘の通常の賃料相当額は、50万円にすぎません。AはBに、いくら返すべきでしょうか。不当利得や不法行為では、通常の使用料に相当する額、設例なら50万円が目安になります。Bが別荘を貸していれば得られた賃料に当たる額です。返還の範囲の細部は、あとの回で見ます。ところが、Aの手元には、300万円の収益が残っています。Bの別荘を、無断で使って得た利益です。これを、全部Bに渡させたい。そこで、事務管理の規定を借りられないか、という議論が出ます。借りたいのは、701条が準用する646条です。受け取った物は本人に引き渡す。この規定を使えば、Aの受け取った300万円を、引き渡させることができそうです。これが、準事務管理の問題です。準事務管理は、講学上の呼び名で、条文の語ではありません。
そのまま使えません。事務管理は、他人のためにする意思が要件でした。Aは、もっぱら自分のためにしています。ですから、697条1項の事務管理は成立せず、事務管理の規定を直接適用できません。そこで、類推適用できるか、が問題になります。肯定説は、もっぱら自分の利益を図るつもりで他人の事務に手を出した場合にも、事務管理の規定を類推適用できる、と考えます。そうすると、646条を準用する701条を類推して、Aは、300万円の全利益を、Bに引き渡すことになります。他人の権利を無断で使った者の手元に、利益を残さない、という考え方です。否定説は、類推を認めません。他人の権利を無断で使って、莫大な利益が出たとします。その利益は、使った人の能力や才能によるところが大きいはずです。それを全部本人に帰属させるのは、かえって不公平だ、というのです。民泊の収益は、別荘があることだけでなく、集客の工夫や運営の手間にも支えられています。
図:準事務管理の2つの考え方
- 肯定説=もっぱら自分の利益を図る意思でも事務管理の規定を類推適用→701条による646条の類推で全利益(300万円)の引渡し
- 否定説=類推適用しない(能力・才能による利益を全て本人に帰属させるのは不公平)→不当利得・不法行為の限度(設例では通常の賃料相当額が目安)
- 答案では否定説
⭐ 論文で書く規範:【規範(学説で立てる)】もっぱら自分の利益を図る意思で他人の事務に手を出した場合は、他人のためにする意思を欠くので、事務管理の規定を直接適用できない。類推適用も、莫大な利益は無断使用者自身の才覚や手腕に負う部分が大きく、全部を本人に渡させるのは不公平であるため、認めない。したがって、不当利得・不法行為の限度で請求できる。 (論文の骨格。条文に明記はなく、否定説で立てる規範。学説は分かれ、肯定説を支持する見解も有力)
答案では、否定説で書きます。決め手は、いま見た不公平の理由です。否定説から見ると、300万円と50万円の差の多くは、別荘があるだけでは生まれず、Aの集客や運営の手間が生んだものです。その分まで全部Bに渡させるのは行き過ぎだ、と考えるのです。ただし、学説は分かれていて、肯定説を支持する見解も有力です。ですから、肯定説の理由、無断で使った者の手元に利益を残さない、も押さえておいてください。否定説で書くなら、その後の流れも決まります。事務管理の規定の類推では取れません。そこで、不当利得や不法行為の限度で請求することになります。設例なら、通常の賃料相当額の50万円が目安です。
あてはめの順番を確認します。まず、Aに他人のためにする意思があるか。ない。だから直接適用できない。次に、類推適用できるか。否定説で、できない。この順に書きます。ここも、論文で論点になりうる箇所です。
比較表 事務管理・準事務管理・不当利得・不法行為
図:取れる範囲の比較
- 事務管理(他人のためにする意思あり)=701条・646条で受け取った物の引渡し/管理者は702条で本人に有益な費用の償還を請求
- 準事務管理(もっぱら自分のため)=肯定説は全利益の引渡し/否定説(答案)は認めない
- 不当利得(703条・704条)=通常の使用料相当額が目安・範囲の細部は後の回
- 不法行為(709条)=損害の賠償・損害の算定は後の回
4つを、取れる範囲で並べます。事務管理が成立する場合は、他人のためにする意思があります。管理者は、受け取った物を本人に引き渡します。701条が準用する646条です。本人は、管理者に有益な費用を償還します。702条です。準事務管理は、もっぱら自分のためにした場合です。肯定説なら、利益の全部の引渡しを求められます。否定説なら、事務管理の類推としては認められません。答案は否定説です。不当利得は、703条と704条です。法律上の理由なく得た利益を、返させる制度です。不法行為は、709条で、受けた損害を賠償させる制度です。返させるのは得た利益、償わせるのは受けた損害、と出発点は違います。ただ設例では、どちらも通常の賃料相当額が目安になります。設例の民泊で並べます。肯定説なら、Aの手元の300万円を全部。否定説なら、不当利得や不法行為の限度で、通常の賃料相当額の50万円が目安です。差の250万円をBに渡させるかが、準事務管理の争いの中身です。返還の範囲と損害の算定の細部は、あとの回で見ます。
事務管理は、他人のためにする意思があるから、管理者にも本人にも義務が生まれて、そうでなければ別の制度に移る、というつながりです。そのつながりが、第6章の筋です。他人のためにする意思がなければ、次の制度、不当利得に移ります。
設例への答えと、まとめ
図:設例への答え
- AがBの名前で契約→事務管理が成立してもAに代理権は生じない→無権代理→Bが追認しなければBに効かず、CはBに請求できない(113条1項)
- CはAに117条の責任を問える
- Aが自分の名前で契約していたなら、CはAに請求し、AはBに代弁済を求める(702条2項)
- 管理者の義務=697条から701条の5つの条文
- 準事務管理=答案では否定説
冒頭の問いに戻ります。AがBの名前でCと契約しても、事務管理が成立しただけでは、Aに代理権は生まれません。だから無権代理です。Bが追認しなければ、契約はBに効かず、113条1項で、CはBに代金を請求できません。CはAに、117条の責任を問います。もしAが、自分の名前で契約していたなら、CはAに請求します。AはBに、代わりに払ってくれと、代弁済を求められます。管理者の義務は、697条から701条の5つの条文でした。方法と意思、注意の程度、通知、継続と中止、委任規定の準用です。ふつうは善管注意、急迫の危害のときは、悪意又は重大な過失がなければ責任なし、でした。準事務管理は、もっぱら自分のために他人の権利を使った場合です。事務管理の規定の類推は、答案では否定し、不当利得と不法行為の限度で請求します。
参照条文
- 民法698条
- 民法697条
- 民法699条
- 民法700条
- 民法701条
- 民法113条1項
- 民法117条
- 民法702条2項