民法ゼロから民法#284

不当利得の全体像・侵害不当利得の要件

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第6章 法定債権 #284/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

留守の間の駐車、料金は払ってもらえるか

冒頭の設例 Bは出張で2週間留守。その間、隣人Aが毎日、Bの家の駐車スペースに自分の車を止めていた。Bはそのスペースを普段は月極で貸していて、この2週間はたまたま借り手が空いていた(貸せば駐車料金が入った)。AとBの間に契約も許可もなく、Aはそこが他人のスペースだと知っていた。 図:冒頭の設例 Bは出張で2週間留守

  • その間、隣人Aが毎日、Bの家の駐車スペースに自分の車を止めていた
  • Bはそのスペースを普段は月極で貸していて、この2週間はたまたま借り手が空いていた(貸せば駐車料金が入った)
  • AとBの間に契約も許可もなく、Aはそこが他人のスペースだと知っていた

勝手に使った人がA、持ち主がBです。Aは、そこがBのスペースだと知っていました。AとBの間には、契約も許可もありません。契約がないのに、BはAにお金を請求できるのか。請求できるなら、それはどの制度の、どの要件で言えるのか。これが今日の問いです。答えを先に言います。請求できます。根拠は不当利得で、703条の要件が、1つずつそろうからです。今日は、請求できる、というところまでです。前回の最後に、別荘を無断で民泊に貸した例がありました。事務管理の規定が借りられないなら、不当利得や不法行為の限度で、通常の使用料に当たる額が目安になる、と言いました。その不当利得の本体が、今日です。順番はこうです。まず、不当利得とは何かを条文から読みます。次に、不当利得をどう分類するか、その分け方と条文の地図を作ります。続いて、不法行為などの他の請求との関係を見て、最後に4つの要件を設例に当てて、冒頭の問いに答えます。

不当利得とは何か 703条と704条

この場面で考える、お金を払えと言える根拠は3つ。契約に基づく請求(債務不履行による損害賠償=415条)/不法行為による損害賠償(709条)/不当利得の返還(703条)。設例のAとBの間には契約がない。 図:この場面で考える、お金を払えと言える根拠は3つ

  • 契約に基づく請求(債務不履行による損害賠償=415条)/不法行為による損害賠償(709条)/不当利得の返還(703条)
  • 設例のAとBの間には契約がない

条文に入る前に、お金を払えと言える根拠を、3つ並べます。1つめは契約です。契約を守らなかった相手には、債務不履行による損害賠償を請求できます。415条でした。2つめは不法行為です。わざと、または不注意で他人に損害を与えた人には、709条で賠償を請求できます。そして3つめが、今日の不当利得で、703条です。設例のAとBの間には契約がありません。1つめは使えません。2つめの不法行為は、あとで見るとおり使える場面もありますが、Aの故意や過失が要ります。契約も不法行為も使いにくい場面でも、不当利得なら言えることがある。そこで、まず703条を読みます。

条文民法703条

民法第703条 法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。

703条を3か所に割る。①法律上の原因なく=受け取る理由がない/②他人の財産又は労務によって利益を受け=他人の物・お金・働きで得をした/③そのために他人に損失を及ぼした=その得のせいで他人に損が出た。この3か所が、あとで見る4つの要件になる。 図:703条を3か所に割る

  • ①法律上の原因なく=受け取る理由がない
  • ②他人の財産又は労務によって利益を受け=他人の物・お金・働きで得をした
  • ③そのために他人に損失を及ぼした=その得のせいで他人に損が出た
  • この3か所が、あとで見る4つの要件になる

長いので、3か所に割って読みます。1か所め、法律上の原因なく。受け取る理由がない、ということです。2か所め、他人の財産又は労務によって利益を受け。他人の物やお金、あるいは他人の働きによって、得をした、ということです。3か所め、そのために他人に損失を及ぼした。その得のせいで、他人に損が出た、ということです。この3か所の中に、4つの要件が入っています。利益を受け、が受益です。損失を及ぼした、が損失です。そのために、が受益と損失の間の因果関係です。そして1か所めが、法律上の原因がないこと。これら4つを、あとで設例に当てます。利益を受けた人を、条文は受益者と呼びます。設例ではAです。受益者は、その利益の存する限度において、返還する義務を負います。

不当利得という言葉には、2つの使い方があります。制度全体を指して不当利得と言うこともあれば、受益者が手にした、法律上の原因のない利益そのものを指して、不当利得と言うこともあります。不当利得を返還する、と言うときは、後者の使い方です。設例なら、Aが得た利益は、払うはずだった駐車料金を払わずに済んだことです。これがAの不当利得にあたります。次に、返す範囲を決める704条です。

条文民法704条

民法第704条 悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。

703条と704条で、返す範囲の結論の形だけ押さえます。受益者が善意、つまり受け取る理由がないと知らなかったときは、703条のとおり、利益の存する限度、つまり残っている分だけ返します。現存利益と呼ぶ、と失踪宣告の取消しの回で見ました。手元に浮いたかどうか、で見る考え方です。受益者が悪意、つまり受け取る理由がないと知っていたときは、704条で、受けた利益の全部に利息を付けて返し、それでも損害があれば、その賠償もします。設例のAは、止める理由はないと知っていたので、悪意です。もし止めてよいと思い込んでいたなら、善意で、返す範囲が変わります。

不当利得と不法行為は、どちらもお金を払わせる制度ですが、出発点が違います。不当利得が目を向けるのは、受益者の手元にある得です。得をした人に、その得を返させる制度です。これに対して、相手が受けた損害に目を向けて、償わせるのが不法行為です。前回の言い方でいえば、返させるのは得た利益、償わせるのは受けた損害です。不法行為の本体は、あとの回で見ます。

制度の本質 衡平説と類型論

衡平説と類型論の対比。衡平説=受益者と損失者の間の衡平(公平)を実現する制度として統一的にとらえる(かつての通説)。類型論=統一的な理解はせず、受益者が利得を保持することが正当化されない理由ごとに類型化し、類型ごとに要件・効果を定める(学説では現在の通説)。答案=類型で整理し、法律上の原因の判断など割り切れない部分は公平の理念で補う。判例の一般論=公平の観念に基づく(最判昭49・9・26)。 図:衡平説と類型論の対比

  • 衡平説=受益者と損失者の間の衡平(公平)を実現する制度として統一的にとらえる(かつての通説)
  • 類型論=統一的な理解はせず、受益者が利得を保持することが正当化されない理由ごとに類型化し、類型ごとに要件・効果を定める(学説では現在の通説)
  • 答案=類型で整理し、法律上の原因の判断など割り切れない部分は公平の理念で補う
  • 判例の一般論=公平の観念に基づく(最判昭49・9・26)

説明に入る前に、1問です。契約が無効になったり、取り消されたりしたとき、受け取ったものを返す義務の回を思い出してください。返す範囲の原則は、全部返還でしたか、現存利益でしたか?原則は全部返還です。無償行為の善意者と、意思無能力者と、制限行為能力者だけが、現存利益でした。ここに、不思議な点があります。さっきの703条と704条では、善意の受益者は、残っている分だけ返せばよい、でした。ところが、無効や取消しのあとの返還は、原則が全部です。同じ、受け取ったものを返せ、という場面なのに、返す範囲の原則が違います。この違いを整理する鍵が、不当利得をひとまとめにしない、という見方です。今日の話の本質です。不当利得の一般論、つまり、不当利得という制度をどう理解するか、です。大きく2つの考え方があります。1つめは衡平説です。受益者と損失者の間の衡平、つまり公平を実現する制度として、不当利得を統一的にとらえます。すべての不当利得の要件や効果を、公平の理念のもとで、1本の考え方で理解します。かつての通説です。2つめは類型論です。統一的な理解を放棄して、公平の理念を強調することも否定します。公平という一言で、全部を説明しない、ということです。かわりに、受益者が利得を持ち続けることが正当化されない理由、つまり受益に法律上の原因がない理由ごとに、不当利得を分類します。そして、類型ごとに要件と効果を定めます。学説では、現在の通説です。

たとえで言えば、衡平説は、大きな箱ひとつに、不公平を直す、とラベルを貼って、全部をしまう整理です。類型論は、財産が動いた理由ごとに引き出しを分けて、引き出しごとに、入れ方と取り出し方を決める整理です。さっきの食い違いは、引き出しが違えば、取り出し方が違う、と考えると説明がつきます。無効や取消しのあとの返還は、自分の意思で渡したものを取り戻す場面です。勝手に使われた場面とは、引き出しが違います。どの条文で取り戻すのかは、このあと、条文の地図で見ます。最高裁は、不当利得の制度を、公平の観念に基づいて、利得者に返還義務を負わせるものだ、と述べています。これは、判例が一般論として公平の観念を挙げている、ということです。ですから、判例は衡平説一本だ、とも、類型論を採らない、とも言い切れません。言えるのは、一般論に公平の観念が出てくる、というところまでです。答案での使い方を押さえます。類型論で整理して書きます。まず、どの類型の不当利得かを言い、その類型の要件と効果を当てはめます。ただし、類型だけでは割り切れない部分があります。たとえば、法律上の原因があるかどうかの判断では、判例の公平の考え方を使って補います。類型論を基本にして、公平の理念を適宜使う、という二段構えです。ここは、論文で論点になりうる箇所です。

3つの類型と、条文の地図

3類型の分け方。分ける物差し=財産的価値がなぜ動いたか。侵害不当利得(権原のない侵害=勝手に使う)/給付不当利得(損失者の意思に基づく給付の原因が欠けていた)/支出不当利得(損失者が自分の出費で相手の財産を増やした=費用と求償)。決め手=何のために動いたか(勝手に取られた/債権関係の履行として渡した/自分の出費で増やした)。 図:3類型の分け方

  • 分ける物差し=財産的価値がなぜ動いたか
  • 侵害不当利得(権原のない侵害=勝手に使う)/給付不当利得(損失者の意思に基づく給付の原因が欠けていた)/支出不当利得(損失者が自分の出費で相手の財産を増やした=費用と求償)
  • 決め手=何のために動いたか(勝手に取られた/債権関係の履行として渡した/自分の出費で増やした)

では、引き出しは何で分けるのか。物差しは1つです。財産的価値が、なぜ動いたか。動いた理由で、3つに分かれます。1つめは、権原のない侵害で動いた場合です。勝手に使った、という場合です。設例の駐車スペースが、これです。侵害不当利得と呼びます。2つめは、損失を受けた人の意思で動いた場合です。BがAから中古ピアノを買って、代金を払ったとします。ところが、その売買が取り消されました。代金は、Bが自分の意思でAに渡しています。ただ、渡した原因の売買が、あとから消えてしまい、渡す原因が実は欠けていたことになりました。これが給付不当利得です。3つめは、損失を受けた人が、自分で出費して、相手の財産を増やした場合です。支出不当利得と呼びます。これは2つに分かれます。1つは費用です。たとえば、Bが、Aの空き地を自分の土地だと思い込んで、30万円かけて砂利を敷いたとします。Bの出費で、Aの空き地の価値が上がりました。もう1つは求償です。Aが家賃を滞納していて、友人のCが、頼まれもせずに大家へ、その滞納分を払ったとします。Aは、家賃の支払いを免れました。Cは、肩代わりした分を、Aに返してほしいと言えます。これが求償です。なお、債務者の意思に反していなかったかは、第三者弁済の回で見た474条の問題で、ここでは有効に払えたとします。呼び方を1つ添えます。侵害不当利得は侵害利得、給付不当利得は給付利得と略されることもあります。中心になるのは、侵害と給付の2類型です。

ここで、分ける練習です。4つの場面を出します。1つめ、隣の人が、駐車スペースを無断で使った。2つめ、取り消された売買の代金。3つめ、他人の空き地を自分の土地と思い込んで、砂利を敷いた。4つめ、滞納された家賃を、友人が黙って大家に払った。それぞれ、侵害、給付、支出のどれですか?1つめは侵害です。2つめは給付です。3つめは支出で、費用の方だと思います。4つめも支出で、こちらは求償です。決め手は、何のために動いたか、です。1つめは、Bは使わせる意思がないのに、Aが勝手に使いました。権原のない侵害です。2つめは、Bが売買という債権関係の履行として代金を渡しました。債権関係の履行としての給付です。3つめと4つめは、損失を受けた人が、自分で出費して、相手の財産を増やしました。支出です。1つめと2つめは、どちらも、財産が相手に動きました。分かれ目は、勝手に取られたのか、債権関係の履行として渡したのか、です。もう1組、輪郭を確かめる対を出します。同じ中古ピアノでも、Aが、Bの留守中にBのピアノを勝手に持ち出して弾いていたなら、権原のない侵害で、侵害不当利得です。BがAに売って引き渡したものの、その売買が取り消されたなら、Bの意思で渡した給付で、給付不当利得です。物が同じでも、動いた理由が違えば、類型が違います。

3類型と適用条文の地図。侵害不当利得(権原のない侵害=勝手に使う)=703条・704条/189条・190条は占有による侵害の特則と解される。給付不当利得(損失者の意思に基づく給付の原因が欠けていた)=121条の2・545条/705条から708条は特則とする見解が有力。支出不当利得(損失者が自分の出費で相手の財産を増やした)=費用(196条・299条・595条・608条・650条・702条)/求償(442条・459条・702条)。248条=条文自身が703条・704条に従うと指す。 図:3類型と適用条文の地図

  • 侵害不当利得(権原のない侵害=勝手に使う)=703条・704条/189条・190条は占有による侵害の特則と解される
  • 給付不当利得(損失者の意思に基づく給付の原因が欠けていた)=121条の2・545条/705条から708条は特則とする見解が有力
  • 支出不当利得(損失者が自分の出費で相手の財産を増やした)=費用(196条・299条・595条・608条・650条・702条)/求償(442条・459条・702条)
  • 248条=条文自身が703条・704条に従うと指す

次は、条文の地図です。図の枝に、条文を載せていきます。侵害の枝には、703条と704条が一般規定として載ります。189条と190条は、他人の物を占有したことによる侵害不当利得の特則と解されています。189条は、善意の占有者は果実を返さなくてよい、と定めています。703条より、占有者に有利な決め方です。給付の枝には、703条と704条は適用されず、かわりに121条の2と545条が適用されます。給付の返還は、消えた契約の後始末だからです。契約が無効や取消しや解除で消えた場面ごとに、専用の条文が置かれています。無効や取消しのあとは121条の2、解除のあとは545条です。さっきの食い違いは、ここで解けます。無効や取消しのあとの返還は給付の枝なので、703条の、残っている分だけ、ではなく、121条の2で、原則全部を返すのです。原状、つまり渡す前の状態に戻すのですから、残っている分だけでは足りません。705条から708条は、給付不当利得では、121条の2や545条に対する特別ルール、と見る説が有力です。債務がないと知りながら払った場合や、不法な原因で渡した場合など、返せと言えなくなる場面を定めた規定です。給付の中身は、先の回で詳しく見ます。支出の枝には、個別の規定が各所に置かれていて、それで処理されます。費用の方は、196条の占有者、299条の留置権者、595条の使用貸借の借主、608条の賃借人、650条の受任者、702条の管理者です。求償の方は、442条の連帯債務者間、459条の保証人から主債務者、そして702条の、管理者から本人です。たとえば608条は、借りている家の雨漏りを、借り手が自分のお金で直したら、その費用を大家に請求できる、という規定です。どの規定も、占有や貸し借り、頼まれた仕事といった相手との関係ごとに、出した費用を誰に請求できるかを決めています。702条は、前々回に見た事務管理の費用の規定で、費用と求償の両方の枝にまたがります。

すでに出てきた規定も、この地図に座ります。121条の2は無効や取消しの回、545条は解除の回で見た原状回復でした。189条から191条は占有者の果実の返還などの規定、196条と608条は費用の償還、442条と459条は求償の規定で、どれも前の回で見ました。248条は、損失を受けた者が、703条と704条の規定に従って、償金を請求できる、と定めています。条文自身が、703条と704条に従う、と言っています。ですから、償金の要件の中身は、このあと見る703条の4要件と同じです。どの類型に入るかは、ここでは決めないでおきます。支出の類型は、個別の規定が置かれていて、それで処理されるため、703条そのものの出番はあまり多くありません。なお、勝手に出費されて、得をした側については、返す範囲が制限されうる、という議論もあります。出費したから全部返せ、とはならない場合がある、ということだけ頭に置いておいてください。設例は、侵害の枝でした。ですから、使うのは、侵害の枝の一般規定である703条の4要件です。その前に、同じ設例に立つ、ほかの請求との関係を整理しておきます。

他の請求権との関係 競合しうる

設例に立つ3つの請求。所有権に基づく物権的返還請求権=スペースの明渡し/不当利得返還請求権(703条)=使った分の金銭/不法行為による損害賠償請求権(709条)=損害の賠償。侵害不当利得と物権的返還請求権=物そのものの返還は物権的返還請求権が優先するとの見解が有力/使った分の金銭は不当利得返還請求権。 図:設例に立つ3つの請求

  • 所有権に基づく物権的返還請求権=スペースの明渡し/不当利得返還請求権(703条)=使った分の金銭/不法行為による損害賠償請求権(709条)=損害の賠償
  • 侵害不当利得と物権的返還請求権=物そのものの返還は物権的返還請求権が優先するとの見解が有力/使った分の金銭は不当利得返還請求権

前回の最後の話を、1問だけ思い出してください。もっぱら自分の稼ぎのために、他人の別荘を無断で民泊に貸した人について、答案では、事務管理の規定の類推を認めない、と書きました。では、何の限度で請求しましたか?不当利得や不法行為の限度です。その不当利得と不法行為は、同じ設例で、並んで立つことがあります。さらに、持ち主には、物そのものを返せと言う権利もあります。ここで、3つの請求の関係を整理します。1つめは、物権的返還請求権です。所有権に基づいて、物を返せ、と言う権利です。設例で、Aが2週間を過ぎても止め続けていたら、Bは、車をどけて、スペースを明け渡せ、と言えます。2つめは、不当利得返還請求権で、得た利益を返せ、と言う債権です。設例なら、使った分の駐車料金に当たる額です。3つめは、不法行為による損害賠償請求権です。まず、物権的返還請求権と、不当利得返還請求権の関係です。両方の要件が充たされる場面を考えます。侵害不当利得の場合、物そのものを返せ、という点では、物権的返還請求権が優先するという見解が有力です。物権的返還請求権という強力な手段がある以上、物権の請求で足りるのだから、債権としての不当利得の請求は要らない、という整理です。所有権に基づく請求は、時効で消えず、相手が破産しても、物そのものを取り戻せます。物そのものを返させるなら、この強い手段で足り、弱い債権を重ねて認める必要はない、という考え方です。この見解に立つと、物そのものの返還は物権的返還請求権で求めます。不当利得返還請求権の出番は、物そのものを返せないために、価格に当たる金銭を求める場面です。

設例で見ます。使った2週間という時間は、もう戻せません。スペースを空けさせることはできても、使われた2週間を返してもらうことはできません。そこで、使った分は、駐車料金に当たる額の金銭で求めることになります。これが、不当利得返還請求権の出番です。ですから、この見解に立っても、設例では不当利得返還請求権が立ちます。ここは、言い過ぎないでください。物権的返還請求権があれば、不当利得は一切使えない、という話ではありません。侵害不当利得について、物そのものの返還を、不当利得を理由に求められるか、という整理で、物そのものと、使った分の金銭は、中身が別です。この見解の範囲で押さえてください。

給付不当利得と物権的返還請求権。例=BがAに中古ピアノを売って引き渡し、売買が取り消された。所有権に基づく返還請求権と、給付不当利得の返還請求権(121条の2)がともに立つ。不当利得返還請求権は債権=消滅時効にかかる・相手が破産すれば破産債権。競合を認め、権利者はいずれかを選んで行使できるとする見解が妥当とされる。 図:給付不当利得と物権的返還請求権

  • 例=BがAに中古ピアノを売って引き渡し、売買が取り消された
  • 所有権に基づく返還請求権と、給付不当利得の返還請求権(121条の2)がともに立つ
  • 不当利得返還請求権は債権=消滅時効にかかる・相手が破産すれば破産債権
  • 競合を認め、権利者はいずれかを選んで行使できるとする見解が妥当とされる

給付不当利得は、事情が違います。ここで争われているのは、強い手段に、弱い債権を重ねるかどうか、ではありません。別の例です。BがAに中古ピアノを売って引き渡したが、その売買が取り消されたとします。Bは、所有権に基づいて、返せ、と言えます。121条の2の返還請求権でも、返せ、と言えます。給付不当利得の返還請求権だけを認める、という見解もあります。売買が取り消されたあとに残るのは、契約関係の後始末、つまり清算です。契約の後始末は、債権の請求にまとめて処理すべきだ、という考え方です。つまり、強い物権的返還請求権を外して、債権だけにするかどうか、が問われています。しかし、債権である不当利得の返還請求権は、消滅時効にかかります。Aが破産すれば、ほかの債権者と並んで配当を受けるだけの、破産債権としての扱いしか受けません。物権的返還請求権より弱いのです。そこで、競合を認めて、権利者は、どちらを使ってもよい、とする見解が妥当だとされています。取消しの回で見た、どちらを使ってもよい、というのが、この関係です。侵害の場面では、清算すべき契約がありません。優先説は、強い手段があるので、弱い債権を重ねなくてよい、と考えます。給付の場面では、清算だからといって強い手段を外すと、弱い債権しか残りません。だから外さない、という話です。どちらの場面も見解が分かれるところですが、物権的返還請求権が残る、という向きは同じです。

不当利得と不法行為の関係。各要件が充たされるなら競合し、権利者はいずれかを任意に選んで行使できる(通説)。要件も目的も違う別々の制度。不当利得=703条(故意・過失は条文にない)/不法行為=709条(故意又は過失が要る)。 図:不当利得と不法行為の関係

  • 各要件が充たされるなら競合し、権利者はいずれかを任意に選んで行使できる(通説)
  • 要件も目的も違う別々の制度
  • 不当利得=703条(故意・過失は条文にない)/不法行為=709条(故意又は過失が要る)

次に、不法行為による損害賠償請求権との関係です。各要件が充たされるなら、競合して、権利者は、いずれかを任意に選んで行使できます。通説です。要件も目的も違う、別々の制度だからです。709条を読みます。

条文民法709条

民法第709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

709条の要件は、故意又は過失です。設例のBは、駐車料金に当たる額を、不当利得でも、不法行為でも請求できます。要件が違います。設例を少し変えます。Aが、ここは自分に割り当てられた区画だと思い込んでいて、その思い込みに落ち度がなかったとします。このとき、709条の過失は認められにくくなります。一方、703条の文言には、故意や過失という言葉がありません。ですからまず、4つの要件が充たされるかを検討します。答案では、不当利得で請求するなら703条の4要件を、不法行為で請求するなら故意又は過失を含む709条の要件を、それぞれ検討します。なお、遅滞の時期や時効、範囲の違いは、それぞれ別の回で比べます。

侵害不当利得の4要件 受益と損失

侵害不当利得の4要件と設例の当てはめ(703条・条文どおりの成立要件)。①受益=払うはずの駐車料金の支出を免れた/②損失=貸せば入るはずの駐車料金が入らなかった/③因果関係=同じスペースの使用でつながる/④法律上の原因がないこと=契約も許可もない。 図:侵害不当利得の4要件と設例の当てはめ

  • 703条・条文どおりの成立要件
  • ①受益=払うはずの駐車料金の支出を免れた
  • ②損失=貸せば入るはずの駐車料金が入らなかった
  • ③因果関係=同じスペースの使用でつながる
  • ④法律上の原因がないこと=契約も許可もない。

ここから、設例に答えるのに使う4つの要件に入ります。侵害不当利得は、703条の問題でした。要件は、703条を音読すれば出てくる4つです。1つめは受益、2つめは損失、3つめは受益と損失の間の因果関係、4つめは法律上の原因がないことです。条文どおりの成立要件ですから、暗記する規範ではありません。条文に戻れば、復元できます。1つめ、受益です。他人の財産又は労務によって利益を受けたこと、です。お金が増えた、物が手に入った、といった財産の積極的な増加のほかに、払うはずだった出費を、払わずに済んだ場合にも、受益が認められます。消極的な増加と呼びます。たとえば、Aが、Bの別荘を無断で人に貸して、借り手から料金を受け取ったなら、Aの手元のお金は実際に増えています。これは積極的な増加です。

お金を受け取っていなくても、受益はあります。Aの財布に入ってきたお金はありません。しかし、駐車スペースを使えば、本来は駐車料金を払うはずでした。その出費が、出ていかずに済みました。財産が減るはずだったのに、減らなかった。これも受益です。2つめ、損失です。受益と表裏をなす要件です。財産が積極的に減った場合のほかに、本来生ずるはずだった財産の増加がなかった場合にも、損失が認められます。消極的な減少と呼びます。たとえば、Bが物置に置いていた灯油を、Aが無断で使い切ったなら、Bの手元の灯油は実際に減っています。これは積極的な減少です。設例のBは、スペースを普段は月極で貸していて、その2週間は、たまたま借り手が空いていました。貸していれば、駐車料金が入った状況です。それが、Aが使ったために入りませんでした。これが消極的な減少、つまり損失です。ほかの例も1つ挙げます。借り手に出すつもりだった貸家に、勝手に住み着かれたとします。家賃に当たる額が、入らなくなります。この家賃は、貸していれば入るはずだった財産で、入らなかったのですから、損失にあたります。受益と損失は、同じ出来事を、得た側と失った側から見た関係です。Aは、払うはずの料金を払わずに済みました。Bは、入るはずの料金が入りませんでした。額も、駐車料金に当たる額で重なっています。

要件③因果関係 社会通念上の因果関係

要件③因果関係。受益と損失の間に因果関係が必要(703条の「そのために」)。あれがなければこれがない、という関係までは要らず、社会通念上の因果関係があれば足りる(最判昭49・9・26)と解されている。設例=同じ駐車スペースの使用で、Aの受益とBの損失が直接つながる。間に人が入る場面は別の回。 図:要件③因果関係

  • 受益と損失の間に因果関係が必要(703条の「そのために」)
  • あれがなければこれがない、という関係までは要らず、社会通念上の因果関係があれば足りる(最判昭49・9・26)と解されている
  • 設例=同じ駐車スペースの使用で、Aの受益とBの損失が直接つながる
  • 間に人が入る場面は別の回

3つめ、因果関係です。条文の、そのために、にあたります。Aの受益と、Bの損失の間に、つながりが必要です。つながりの程度は、あれがなければこれがない、という厳密な関係までは要らない、と解されています。最高裁も、騙し取られたお金の事案で、社会通念上つながりがあれば因果関係を認めています。社会通念上つながっていると見えるかどうか、という物差しです。設例では、問題になりません。Aが使ったのは、Bのスペースそのものです。Aの受益と、Bの損失は、同じスペースの使用で、直接つながっています。つながりに迷う余地がありません。この物差しが意味を持つのは、受益と損失の間に、第三者が入る場面です。たとえば、Bのお金が、人の手を経てAに渡る場面です。そのような場面は、別の回で扱います。

要件④法律上の原因がないこと

要件④法律上の原因がないこと。意味=公平の理念からみて、財産的価値の移動をその当事者間において正当なものとするだけの実質的・相対的な理由がない。原因がある例=有効な月極の賃貸借で払う駐車料金。原因がない例=契約も許可もない駐車/借地契約が終わったあとの敷地の使用。弁済として受け取った分=債権の弁済を受けただけで、不当利得にならない。 図:要件④法律上の原因がないこと

  • 意味=公平の理念からみて、財産的価値の移動をその当事者間において正当なものとするだけの実質的・相対的な理由がない
  • 原因がある例=有効な月極の賃貸借で払う駐車料金
  • 原因がない例=契約も許可もない駐車/借地契約が終わったあとの敷地の使用
  • 弁済として受け取った分=債権の弁済を受けただけで、不当利得にならない

4つめが、法律上の原因がないことです。4つの中で、核心になる要件です。この意味を、条文は書いていません。ですから、解釈で立てる規範になります。

⭐ 論文で書く規範:【規範(通説で立てる)】703条の「法律上の原因なく」とは、公平の理念からみて、財産的価値の移動を、その当事者間において正当なものとするだけの、実質的・相対的な理由がない、という意味である。 (論文の骨格。条文に定義はなく、従来の通説で立てる規範。衡平説を前提とするが判例の立場とも整合的とされ、答案ではこの定義を使う。例=月極の賃貸借契約がある駐車は原因あり/契約も許可もない駐車は原因なし)

言い換えます。お金や物が、Aに動いた。その動きを、AとBの間で、正当だと言えるだけの理由があるか。あれば、法律上の原因があります。なければ、ありません。実質的、というのは、形だけの理由ではなく、中身で見るということです。相対的、というのは、世の中一般ではなく、その当事者の間で見るということです。この定義は、もともと衡平説を前提にした従来の通説の定義です。判例の考え方とも整合的とされるので、答案ではこの定義を使えば足ります。ここも、論文で論点になりうる箇所です。境界を、例で引きます。設例のAが、Bと月極の賃貸借契約を結んで、駐車料金を払って止めていたとします。このとき、Aが駐車スペースを使えるのは、契約があるからです。契約が、移動を正当にする理由です。契約までなくても、Bが止めてよいと許可していたなら、その許可が使う理由になります。つまり法律上の原因があります。Aがスペースを使っても、不当利得にはなりません。反対に、設例のAには、契約も許可もありません。Aの駐車を正当にする理由が、見当たりません。法律上の原因がありません。同じ駐車スペースを使ったのに、契約や許可があるかどうかで、結論が分かれます。以前の回にも、同じ形が出てきました。借地契約が終わったあとも、敷地を使い続けた場面です。使い続ける法律上の理由がありません。理由なく他人の土地で得をした分は、返す。設例と同じ、侵害不当利得の形です。地代に当たる額が、返す対象でした。

反対側の例もあります。連帯債務の回で、こんな場面を見ましたね。3人で300万円を連帯して借り、そのうち1人が全額を払い、時効で債務が消えていた残りの2人も、その1人の求償に応じました。その2人は、債権者に、払った分を返してほしいとは言えませんでした。債権者は、自分の債権の弁済を受けただけだからです。債権の弁済として受け取った分は、受け取る理由、つまり債権があります。ですから、受け取ったこと自体は、703条の不当利得にはなりません。同じ回の二重払いは逆でした。債権が消えたあとに、余分に受け取った300万円は、受け取る理由がなく、返す対象になります。分かれ目は、受け取ったときに債権があったかどうかです。

受け取る理由が、その当事者の間で、正当と言えるかどうか。それが、この要件の中身です。なお、騙し取られたお金が絡む場面など、法律上の原因の判断が問題になる特別な場面は、別の回で扱います。

設例への答えと、まとめ

設例への答え。①受益=払うはずの駐車料金の支出を免れた/②損失=貸せば入るはずの駐車料金が入らなかった/③因果関係=同じスペースの使用でつながる/④法律上の原因がない=契約も許可もない。→703条の不当利得返還請求権が発生。額=使用料相当額が目安(善意・悪意・利息・損害賠償は次回)。709条でも請求でき、任意に選べる。 図:設例への答え

  • ①受益=払うはずの駐車料金の支出を免れた
  • ②損失=貸せば入るはずの駐車料金が入らなかった
  • ③因果関係=同じスペースの使用でつながる
  • ④法律上の原因がない=契約も許可もない
  • →703条の不当利得返還請求権が発生
  • 額=使用料相当額が目安(善意・悪意・利息・損害賠償は次回)
  • 709条でも請求でき、任意に選べる

冒頭の問いに戻ります。Bは、Aから、駐車料金に当たる額を払ってもらえるか。4つの要件を、1つずつ当てます。1つめ、受益。Aは、払うはずだった駐車料金の出費を免れました。2つめ、損失。Bは、貸していれば入るはずだった駐車料金が入りませんでした。3つめ、因果関係。Aの受益も、Bの損失も、同じ駐車スペースの使用から生じています。直接つながっています。4つめ、法律上の原因がないこと。AとBの間には、契約も許可もありません。Aの駐車を正当にする理由が、見当たりません。4つとも、そろいました。ですから、703条の不当利得返還請求権が発生します。設例のAは悪意なので、Bは、Aに、駐車料金に当たる額を請求できます。いくらかは、使用料に当たる額が目安です。前回の、通常の使用料相当額と同じ見方です。もう1つ、道があります。Aに故意や過失があれば、709条の不法行為でも、請求できます。Bは、どちらを使うかを自分で選べます。今日のまとめを、3点言います。1つめ、不当利得は、財産が動いた理由ごとに、侵害、給付、支出に分けます。侵害は703条と704条、給付は121条の2と545条、支出は費用と求償の個別規定です。2つめ、不当利得は、物権的返還請求権や、不法行為による損害賠償請求権と、競合しうるものです。侵害不当利得では、物そのものの返還について、物権的返還請求権が優先するという見解が有力で、その見解に立つと、不当利得を理由とする請求の出番は、使った分を金銭で求める場面になります。3つめ、侵害不当利得の要件は、受益、損失、因果関係、法律上の原因がないことの4つです。

参照条文

  • 民法703条
  • 民法704条
  • 民法709条

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