民法ゼロから民法#312

土地工作物責任(717条)の二段構えと設置・保存の瑕疵

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第6章 法定債権 #312/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

倒れた古いブロック塀 借主と大家のどちらが払うのか

冒頭の設例。A=大家(所有者・数年前に前の持ち主から家ごと買った)/B=借主(その家に住む)/C=通行人(被害者)。敷地の道路側に高さ約2メートルのコンクリートブロック塀(築約30年)。風のない晴れた平日の昼、地震もない日に塀が道路側に倒れ、Cが下敷きになって骨折した。 図:冒頭の設例

  • A=大家(所有者・数年前に前の持ち主から家ごと買った)/B=借主(その家に住む)/C=通行人(被害者)
  • 敷地の道路側に高さ約2メートルのコンクリートブロック塀(築約30年)
  • 風のない晴れた平日の昼、地震もない日に塀が道路側に倒れ、Cが下敷きになって骨折した

今日は、その問いから入ります。設例です。Aは大家です。数年前に、前の持ち主から、家ごと買いました。その家を、Bに貸しています。Bは借主で、その家に住んでいます。敷地の道路側には、高さ約2メートルのコンクリートブロックの塀があります。築約30年です。この塀は、建てたときから、内部の鉄筋が基準より少なく、控え壁もありませんでした。控え壁とは、塀を裏側から支える壁のことです。つまり、建築時の施工不良です。年月とともに、傷みも進んでいました。ただ、外から見える異常は、植え込みの陰の、根元に走る髪の毛ほどの細いひびだけでした。傾きも、ぐらつきも、目立つ割れもありません。Bは、毎朝の出勤のとき塀の前を通り、外から目で見て、傾き、ぐらつき、目立つ割れがないことを確かめていました。細いひびには、気づきませんでした。Aは、塀の施工不良を知りませんでした。知る手がかりもありません。BからAへ、塀について連絡が入ったこともありません。ある日、風のない晴れた平日の昼に、地震もないのに、塀が道路側に倒れました。歩いていた通行人のCが下敷きになり、骨折しました。問いは、Cは、BとAのどちらに賠償を請求できるのか、です。

BとAのどちらが払うのか、結論は少し先で出します。先に、鍵を2つ言っておきます。1つめは、順番です。BとAは、横並びではありません。先に責任を負う人と、あとから負う人が、条文で決まっています。2つめは、免れる条件です。免れる道が条文にある人と、無い人がいます。今日の道のりです。まず、この順番を決める717条を読みます。次に、工作物、瑕疵、占有者、所有者という言葉の中身を、設例の塀に当てはめます。そのうえで、Bが免れるかを決めて、設例の結論を出します。

717条の二段構え 占有者が先、免れたら所有者

二段の図。C=被害者の通行人/B=借主(直接占有者)/A=大家(所有者・間接占有者)。CはまずBに請求する。Bが損害の発生を防止するのに必要な注意をしたと示して免れたときは、CはAに請求する。 図:二段の図

  • C=被害者の通行人/B=借主(直接占有者)/A=大家(所有者・間接占有者)
  • CはまずBに請求する
  • Bが損害の発生を防止するのに必要な注意をしたと示して免れたときは、CはAに請求する

条文を読む前に、見通しを1つ言います。塀のような危険な物には、毎日使っている人と、最終的に持っている人がいます。717条は、この2人を順番に並べています。1項の本文とただし書の2段が、今日の中心です。

条文民法717条

民法第717条(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任) 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。 2 前項の規定は、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合について準用する。 3 前二項の場合において、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者又は所有者は、その者に対して求償権を行使することができる。

読み方です。土地の工作物に瑕疵があって、他人に損害が出たとき、責任を負うのは、まず占有者です。瑕疵とは、欠陥のことです。くわしい意味は、あとで見ます。ただし書です。占有者が、損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、占有者は免れます。そのときは、所有者が賠償しなければなりません。2項は、木の植え方や支え方に欠陥があるときにも、同じ仕組みを使う、という規定です。3項は、損害の原因を作った人が別にいれば、賠償した人がその人から取り戻せる、という規定です。設例に当てはめます。図を見てください。塀の占有者は、住んでいるBです。所有者は、Aです。Cは、まずBに請求します。Bが必要な注意をしたと示せば、Bは免れて、次にAが負います。

責任の性質の表。占有者=第1次的に責任を負う/免れるために示すこと=損害の発生を防止するのに必要な注意をしたこと/性質=中間責任。所有者=第2次的(占有者が免れたときに負う)/免れる道が条文に無い/性質=無過失責任。 図:責任の性質の表

  • 占有者=第1次的に責任を負う/免れるために示すこと=損害の発生を防止するのに必要な注意をしたこと/性質=中間責任
  • 所有者=第2次的(占有者が免れたときに負う)/免れる道が条文に無い/性質=無過失責任

2人の責任の性質は、違います。特殊の不法行為の地図の回で見た言葉で整理します。占有者は、中間責任です。過失が要ることは変わりません。ただし、証明が逆向きになります。落ち度がなかったと示さない限り、責任を負います。これが立証責任の転換でした。ですから、必要な注意をしたと示せば、免れます。所有者は、無過失責任です。条文には、所有者が免れる道が書かれていません。占有者が免れたときに、所有者が二段目として負います。そのとき、落ち度がなかったと示しても、免れません。所有者は、塀を毎日使っているわけでもないのに、どうして免れる道がないのですか。所有者は、その物の最終的な持ち主だからです。塀を直すか壊すかを、最終的に決められるのは所有者です。物を持ち続ける以上、その危険も持ち続けています。占有者は、日々その物を使って危険を抑える立場です。所有者は、持ち主として危険を引き受ける立場です。この二重の支えが、二段構えの理由だと説明されます。土台にある考え方は、危険責任です。使用者の責任の回では、人を使って事故の危険を作る者が責任を負う、という形で出ました。物の場合は、危険をはらむ物を支配している人が、その物から出た損害を負う、と読みます。高さ2メートルのブロック塀は、倒れれば人に大けがをさせます。もともと危険をはらむ物です。その物を支配している人に負わせるのが公平だ、という発想です。占有者と所有者が同じ持ち主の場合も確認します。自分の家の塀を、自分で使っている持ち主です。占有者でもあり、所有者でもあります。占有者としては免れる余地があっても、所有者としては免れる道がありません。結局、無過失責任を負う、と整理されます。

要件の地図と、土地の工作物

717条1項の要件(条文どおりの成立要件)。1 土地の工作物があること/2 その設置又は保存に瑕疵があること/3 他人に損害が生じたこと/4 瑕疵と損害の間に因果関係があること/5 損害が生じたときの占有者又は所有者であること/6 占有者に請求するときは、必要な注意をしたことが示されていないこと(所有者には免責が無い)。 図:717条1項の要件(条文どおりの成立要件)

  • 1 土地の工作物があること
  • 2 その設置又は保存に瑕疵があること
  • 3 他人に損害が生じたこと
  • 4 瑕疵と損害の間に因果関係があること
  • 5 損害が生じたときの占有者又は所有者であること
  • 6 占有者に請求するときは、必要な注意をしたことが示されていないこと(所有者には免責が無い)。

717条1項を、要件に分けます。条文を音読すれば出てくる整理なので、暗記するというより、条文を引いて当てはめる型です。1つめ、土地の工作物があること。2つめ、その設置または保存に瑕疵があること。3つめ、他人に損害が生じたこと。4つめ、瑕疵と損害の間に因果関係があること。5つめ、損害が生じたときの占有者または所有者であること。6つめ、占有者に請求するときは、必要な注意をしたことが示されていないこと、です。6つめは、占有者だけの要件です。所有者には、免責が無いからです。まず1つめは、土地の工作物という要件です。

⭐ 論文で書く規範:【規範(通説で立てる)】土地の工作物とは、土地に接着して人工的作業によって設置された物をいう。 (解釈で立てる規範(出どころ=通説。古い大審院判決〔大判昭3・6・7〕の定義として引かれる)。条文には「土地の工作物」の定義が無い。決め手=土地に据えられて長く残る物は、危険が長く続き、支配する人が管理できるから)

建物、塀、シャッター、エスカレーター、エレベーターが典型です。設例の塀は、土地に据え付けた人工物なので、典型的な工作物に当たります。工場の中の機械も、当たります。工場の建物を介して、土地につながっているからです。境界のすぐ外も見ます。庭に置いてあるだけの、持ち運べる脚立は、土地に接着していません。工作物ではありません。土地に据え付けられた塀と、置いてあるだけの脚立の差です。ただ、取り外せるかどうかだけで決まるわけでもありません。判決の事案を見ます。

ガス消費設備の事案。液化石油ガスの消費設備=ガスボンベから高圧ゴムホース、導管、気化器へつながる一式。気化器はコンクリート面にビスで固定/導管は壁に金具で固定。ホースは比較的容易に着脱できるが、同じ接合のまま1年から数年使われる。判決=ガス消費設備はそれ自体一体として土地の工作物に当たり、高圧ゴムホースはその一部。出典=最判平2・11・6 図:ガス消費設備の事案

  • 液化石油ガスの消費設備=ガスボンベから高圧ゴムホース、導管、気化器へつながる一式
  • 気化器はコンクリート面にビスで固定/導管は壁に金具で固定
  • ホースは比較的容易に着脱できるが、同じ接合のまま1年から数年使われる
  • 判決=ガス消費設備はそれ自体一体として土地の工作物に当たり、高圧ゴムホースはその一部
  • 出典=最判平2・11・6

液化石油ガスの設備の事案です。ガスボンベから、高圧のゴムホース、導管、気化器とつながる、ひと続きの設備です。気化器はコンクリートの面にビスで固定され、導管は壁に金具で固定されていました。ゴムホースは、比較的容易に着け外しができます。それでも判決は、この設備は全体が一体として機能を果たす、と見ました。ホースも、同じ接合のまま、1年から数年使われていました。そのうえで、ガス消費設備はそれ自体一体として土地の工作物に当たり、高圧ゴムホースはその一部だ、としました。注意点です。判決は、着け外しできるから工作物だ、と言ったのではありません。着け外しできても、一体として使われているから、全体が工作物だ、と言ったのです。

一つひとつの部品で切り分けず、設備として土地につながって働いているかを見ます。そのため、土地の工作物に当たる範囲は、かなり広く認められる、と言われます。

設置・保存の瑕疵 通常備えているべき安全性を欠くこと

瑕疵の定義。瑕疵=工作物が通常備えているべき安全性を欠いていること。設置の瑕疵=はじめから欠陥があった/保存の瑕疵=できたときは問題なく、後から欠陥が生じた。責任の中身は同じ。定義の出どころ=717条について最判平25・7・12。もとは国家賠償法2条の判決(最判昭45・8・20)の言い方。 図:瑕疵の定義

  • 瑕疵=工作物が通常備えているべき安全性を欠いていること
  • 設置の瑕疵=はじめから欠陥があった/保存の瑕疵=できたときは問題なく、後から欠陥が生じた
  • 責任の中身は同じ
  • 定義の出どころ=717条について最判平25・7・12
  • もとは国家賠償法2条の判決(最判昭45・8・20)の言い方

2つめの要件、設置または保存の瑕疵です。どういう欠陥を、瑕疵と呼ぶのでしょうか。

⭐ 論文で書く規範:【規範(判例で立てる)】土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があるとは、その工作物が通常備えているべき安全性を欠いていることをいう。 (解釈で立てる規範(出どころ=判例。717条について最判平25・7・12。定義のもとは国家賠償法2条の最判昭45・8・20)。条文には瑕疵の定義が無い。決め手=どちらも危険な物を支配する側に責任を負わせる条文で、同じ「瑕疵」の語を使うから。論文で論点になりうる)

この定義のもとは、国家賠償法2条の最高裁判決です。営造物とは、国や公共団体が管理する、道路などの物のことです。判決は、その設置や管理の瑕疵を、営造物が通常有すべき安全性を欠いていること、と言いました。717条についても、最高裁は同じ言い方をしています。決め手は、どちらも危険な物を支配する側に責任を負わせる条文で、同じ瑕疵という言葉を使っているので、同じ物差しで測るからです。設置の瑕疵と保存の瑕疵も、分けておきます。設置の瑕疵は、はじめから欠陥があった場合です。保存の瑕疵は、できたときは問題がなく、あとから欠陥が生じた場合です。責任の中身は同じです。設例の塀は、建てたときから鉄筋が足りませんでした。年月の傷みも重なっていますが、もとの欠陥は建てたときからあるので、設置の瑕疵です。もし建築時は問題がなく、年月とともに傷んだのなら、保存の瑕疵です。どちらでも、結論は同じです。

踏切の事案。見通しが悪い/交通量は換算して1日約700人/列車の回数は504回/過去にも数度の接触事故。警報機が無かった。判決=あるべき保安設備を欠く場合は設置に瑕疵がある。判断の物差し=見通しの良否・交通量・列車回数など具体的状況から、踏切道設置の趣旨を充たす状況かどうか。設置標準(行政上の最低限度の基準)に合っていても、瑕疵が否定されるとは限らない。 図:踏切の事案

  • 見通しが悪い/交通量は換算して1日約700人/列車の回数は504回/過去にも数度の接触事故
  • 警報機が無かった
  • 判決=あるべき保安設備を欠く場合は設置に瑕疵がある
  • 判断の物差し=見通しの良否・交通量・列車回数など具体的状況から、踏切道設置の趣旨を充たす状況かどうか
  • 設置標準(行政上の最低限度の基準)に合っていても、瑕疵が否定されるとは限らない

瑕疵の当てはめを、判決の事案で見ます。踏切です。見通しの悪い踏切で、交通量は換算して1日に約700人、列車の回数は504回でした。過去にも数度、接触事故がありました。それなのに、警報機がありませんでした。最高裁は、まず、踏切の軌道施設は、保安設備と併せて一体として考える、としました。軌道施設は、線路など、列車を走らせるための施設です。保安設備は、警報機や遮断機のように、踏切での事故を防ぐための設備です。

判例最判昭46・4・23 民集25巻3号351頁

踏切道の保安設備と設置の瑕疵 列車運行のための専用軌道と道路との交差するところに設けられる踏切道は、本来列車運行の確保と道路交通の安全とを調整するために存するものであるから、必要な保安のための施設が設けられてはじめて踏切道の機能を果たすことができるものというべく、したがつて、土地の工作物たる踏切道の軌道施設は、保安設備と併せ一体としてこれを考察すべきであり、もしあるべき保安設備を欠く場合には、土地の工作物たる軌道施設の設置に瑕疵があるものとして、民法七一七条所定の帰責原因となるものといわなければならない。

読み方です。踏切は、列車と道路交通の安全を調整するためにあるので、必要な保安施設があってはじめて、踏切の機能を果たします。そこで、軌道施設は保安設備と併せて一体として考えます。あるべき保安設備を欠く場合は、軌道施設の設置に瑕疵があり、717条が責任を負わせる理由になります。では、保安設備を欠くかどうかは、どう決めるのか。判決は次のように述べます。

判例最判昭46・4・23 民集25巻3号351頁

保安設備を欠くかどうかの判断 踏切道における軌道施設に保安設備を欠くことをもつて、工作物としての軌道施設の設置に瑕疵があるというべきか否かは、当該踏切道における見通しの良否、交通量、列車回数等の具体的状況を基礎として、前示のような踏切道設置の趣旨を充たすに足りる状況にあるかどうかという観点から、定められなければならない。

見通しの良し悪し、交通量、列車の回数といった具体的な状況から、踏切を設ける趣旨を満たしているかで決めます。さらに判決は、行政の設置標準があることを理由に、責任を否定する主張も退けています。設置標準は、必要な最低限度を示すものにすぎません。その基準では保安設備は不要とされる踏切でも、それだけで、瑕疵がなかったことにはなりません。この事案では、見通し、交通量、列車の回数、過去の事故から、警報機がないことが設置の瑕疵とされました。補足です。この判決は、通常有すべき安全性、という言葉は使っていません。ただ、具体的な状況に照らして、備えるべきものを欠いたかで判断しています。先ほどの定義の当てはめの一例として、整理されます。もう1つ、瑕疵の範囲です。通常備えているべき安全性とは、通常予想される危険に対する安全性です。境界で見ます。設例のように、風のない晴れた日に、自然に倒れる塀は、通常予想される危険に耐えられていません。瑕疵があります。一方、立入禁止の柵を乗り越えて、塀によじ登り、揺すり倒した人がいたとします。異常な行動です。また、想定を超える大きな地震は、異常な自然力です。どちらも、通常予想される危険の外にあります。ふつうの塀がそうした力で倒れても、瑕疵があったことにはなりません。これは学説の整理です。設例を当てはめます。風のない晴れた日に、地震もないのに、自然に倒れる塀です。通常備えているべき安全性を欠いています。設置の瑕疵があります。

ひびが細くて見えなかったのに、瑕疵があると言えるのですか。言えます。瑕疵は、物の状態の話だからです。塀が、通常備えているべき安全性を欠いているかを見ます。見えたか、気づけたかは、人の話で、占有者が免れるかを決める場面で見ます。物の状態と人の注意を、分けて考えます。

因果関係と、占有者・所有者とは誰か

3つめと4つめの要件。損害が生じたこと+瑕疵と損害の因果関係(条文の「によって」)。無過失責任でも結果責任ではない=瑕疵が原因でなければ負わない。設例=地震も風もない日に倒れ、原因は内部の鉄筋不足=因果関係あり。対比=想定を超える大地震が原因なら、原因は瑕疵ではなく地震。 図:3つめと4つめの要件

  • 損害が生じたこと+瑕疵と損害の因果関係(条文の「によって」)
  • 無過失責任でも結果責任ではない=瑕疵が原因でなければ負わない
  • 設例=地震も風もない日に倒れ、原因は内部の鉄筋不足=因果関係あり
  • 対比=想定を超える大地震が原因なら、原因は瑕疵ではなく地震

3つめと4つめの要件です。損害が生じたこと、そして、瑕疵と損害の間に因果関係があることです。条文では、瑕疵があることによって、という言葉に当たります。ここで大事な点があります。所有者の責任は無過失責任ですが、結果責任ではありません。無過失責任は、落ち度がなくても負う、ということです。結果責任は、結果が出たら、原因を問わず負う、ということです。717条は、瑕疵が原因で損害が出たときに限って、責任を負わせます。設例では、地震も風もない日に塀が倒れ、原因は内部の鉄筋不足でした。瑕疵が原因ですから、因果関係があります。反対に、設例の塀に瑕疵があっても、ふつうの塀でも倒れるほどの大地震で倒れたなら、倒れた原因は瑕疵ではなく地震です。因果関係は、認めにくくなります。瑕疵が無くても、同じように倒れていたはずだからです。さっきの境界は塀の状態の話、ここは倒れた原因の話です。

占有者と所有者。B=借主(家を借りて直接支配する直接占有者)/A=大家(所有者。Bを通じて支配する間接占有者)/B の同居の家族=占有補助者(Bの手足)。判決=国が占領軍の接収通知に応じて建物を所有者から借り受けた事案で、間接占有者も717条の占有者に含まれるとした(最判昭31・12・18)。 図:占有者と所有者

  • B=借主(家を借りて直接支配する直接占有者)/A=大家(所有者。Bを通じて支配する間接占有者)/B の同居の家族=占有補助者(Bの手足)
  • 判決=国が占領軍の接収通知に応じて建物を所有者から借り受けた事案で、間接占有者も717条の占有者に含まれるとした(最判昭31・12・18)

5つめの要件、損害が生じたときの占有者または所有者です。まず占有者です。占有者とは、その工作物を事実上支配している人です。占有の回で見た、事実上支配する、という考え方です。設例では、塀のある家に住むBです。では、直接占有している人だけでしょうか。大家のAは、Bを通じて、間接的に支配しています。これも同じ回で出てきた、間接占有です。Aは間接占有者に当たります。判決を見ます。国が、占領軍の接収通知、つまり建物を差し出すよう求める通知に応じて、建物を所有者から借り受け、占領軍に使わせていた事案です。占領軍が、事実上その建物を支配していました。国は占有者といえるかが、問題でした。原審は、国は占有者ではない、としました。最高裁は、これを破棄しました。

判例最判昭31・12・18 民集10巻12号1559頁

間接占有者と717条の占有者 国が連合国占領軍の接収通知に応じ建物をその所有者より借り受けた場合においては、たといこれを同軍の使用に供し同軍が事実上右建物を占有支配している場合においても国は依然としてなお右建物の賃借人であることに変りはなく、従つてまた右建物についても当然に間接占有を有するものと解さなければならない。そして民法七一七条にいわゆる占有者には特に間接占有者を除外すべき法文上の根拠もなくまたこれを首肯せしむベき実質上の理由もないから、国は右建物の設置保存に関する瑕疵に基因する損害については当然に右法条における占有者としてその責に任ずべきものと解するを至当とする。

読み方です。国は、建物を借り受けた賃借人ですから、占領軍が使っていても、間接占有を持っています。そして、717条の占有者から、間接占有者を除く法文上の根拠も、実質上の理由もありません。だから、国は占有者として責任を負います。判決が言ったのは、間接占有者も占有者に含まれる、というところまでです。直接占有者が先で、免責されたら間接占有者、という順序は、判決の言葉ではありません。学説の整理です。設例のAは、所有者であり、間接占有者でもあります。Aには、責任を問われる資格が2つあるわけです。Bが免れたとき、Aはどうなるか。占有者の資格では、Aも、必要な注意をしたと示せば免れる余地があります。示せなければ、占有者として負います。示せても、所有者の資格には、免れる道が条文にありません。所有者として負います。どちらに転んでも、最後はAが負います。順序の細かい議論は、設例の答えを変えません。占有補助者は、占有者ではありません。たとえば、Bの指図で庭の手入れをしている、同居の家族は、Bの手足です。自分では支配せず、Bの手足として動いているだけなので、占有者はBです。占有補助者の考え方は、占有の回で見ました。次に、所有者です。所有者とは、損害が生じたときに、その物を実際に所有している人です。登記の名義は関係ありません。設例とは別の仮定です。Aが前の持ち主から家を買い、所有権は移っているのに、移転登記がまだだったとします。塀が倒れたとき、登記の名義が前の持ち主のままでも、責任を負うのは、実際の所有者のAです。

占有者の免責と、設例の結論

ただし書の免責。占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、占有者は免れ、所有者が賠償する。免れたことを示す責任は占有者にある(中間責任)。「必要な注意をした」=占有者に過失がない(過失=予見できたのに避ける措置をとらなかったこと)。 図:ただし書の免責

  • 占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、占有者は免れ、所有者が賠償する
  • 免れたことを示す責任は占有者にある(中間責任)
  • 「必要な注意をした」=占有者に過失がない(過失=予見できたのに避ける措置をとらなかったこと)

前回、715条の免責は、条文の上では免れる道があっても、運用では無過失責任に近いと見ました。では717条で、条文の上で免れる道があるのは、占有者と所有者のどちらでしたか?占有者です。所有者には、免れる道が書かれていません。では、6つめの要件、占有者が免れるために示すこと、つまり、必要な注意の中身を見ます。必要な注意をした、とは、占有者に過失がなかった、という意味だと整理されます。不法行為の基本の回で見たとおり、過失とは、結果を予見できたのに、それを避けるために必要な措置をとらなかったことです。ですから、見るのは2点です。危険を予見できたか。予見できた危険を、現実に防ぐ措置をとったか。示す責任は、占有者にあります。必要な注意をしたことを、占有者の側が示さない限り、責任を負います。

⭐ 論文で書く規範:【規範(通説で立てる)】717条1項ただし書の「必要な注意をした」とは、予見できた危険について、実際に損害を防ぐ働きをする措置までとったことをいう。危険を知らせる張り紙をしただけでは足りない。 (解釈で立てる規範(出どころ=通説。条文は「必要な注意」としか書いておらず、判決の規範ではなく学説の整理)。決め手=この責任は、危険な物を支配する者に損害を防ぐ責任を負わせるものなので、危険を知らせるだけでは防止したことにならないから)

境界で確かめます。崩れそうな塀に、ひび割れ注意、と紙を貼っただけの占有者は、どうでしょう。通行人に危険を知らせてはいますが、塀が倒れることは防いでいません。必要な注意をしたとは言えません。反対に、塀の傾きに気づいて、すぐ大家に修繕を求め、通行人の通る側に立入りを止める囲いをした占有者なら、現実の措置をとっています。必要な注意をしたと言いやすくなります。賃貸借の回で見たとおり、貸主には修繕の義務があるので、占有者の借主が修繕を求めるのは、自然な措置です。ここは、論文でも論点になりえます。

立ち止まる問い。毎朝、塀を外から見ていた借主Bは、免責されるか。何を見て決めるのか。まず自分の答えを決める。 図:立ち止まる問い

  • 毎朝、塀を外から見ていた借主Bは、免責されるか
  • 何を見て決めるのか
  • まず自分の答えを決める

ここまでの物差しで、設例に戻ります。借主のBは、毎朝、塀を見ていました。それでも、Bは免責されるでしょうか。何を見て決めるのでしょうか。自分の答えを決めてから、先へ進んでください。決め手は、見た回数ではありません。見える異常があって、危険を予見できたかどうかです。設例の事実を確認します。見える異常は、植え込みの陰の、髪の毛ほどの細いひびだけでした。傾きも、ぐらつきも、目立つ割れもありません。Bは、毎朝、外から目で見て、傾きなどがないことを確かめていました。細いひび一本から、塀が晴れた日に倒れることは、予見できません。予見できないなら、避ける措置のとりようもありません。Bは、損害の発生を防止するのに必要な注意をした、と言えます。Bは免責されます。

設例の結論。B=借主(占有者)は、外から見える異常が髪の毛ほどのひびだけで、倒壊を予見できなかった=必要な注意をした=免責。A=大家(所有者)は無過失責任=施工不良を知らなくても、知る手がかりが無くても負う。結論=通行人CはAに請求できる。 図:設例の結論

  • B=借主(占有者)は、外から見える異常が髪の毛ほどのひびだけで、倒壊を予見できなかった=必要な注意をした=免責
  • A=大家(所有者)は無過失責任=施工不良を知らなくても、知る手がかりが無くても負う
  • 結論=通行人CはAに請求できる

Bが免責されたので、ただし書により、所有者のAが賠償しなければなりません。Aは、施工不良を知りませんでした。知る手がかりもありません。それでも、所有者の責任は無過失責任で、免れる道が条文に無いので、Aは負います。設例の結論です。通行人のCは、大家のAに請求できます。借主のBには、請求できません。酷に見えますが、理由があります。Aは、塀という危険な物を持ち、家を貸して賃料も得ていました。塀を直す最終的な権限も、所有者にあります。一方、Cには、何の落ち度もないのに、骨折しました。危険を持つ側と、巻き込まれた側の、どちらが負うのが公平か。持つ側だ、という判断です。

設例の分かれ目。外から見えた異常が髪の毛ほどのひびだけ(傾き・ぐらつきなし)=倒壊は予見できず、Bは免責されAが負う。指の入る幅のひびと塀の傾きがあり、Bが毎日見ながら放置=予見できた、Bは必要な注意をしていない、Bが負う。同じ状態で張り紙を貼っただけ=防止の措置ではなく、Bは免責されない。 図:設例の分かれ目

  • 外から見えた異常が髪の毛ほどのひびだけ(傾き・ぐらつきなし)=倒壊は予見できず、Bは免責されAが負う
  • 指の入る幅のひびと塀の傾きがあり、Bが毎日見ながら放置=予見できた、Bは必要な注意をしていない、Bが負う
  • 同じ状態で張り紙を貼っただけ=防止の措置ではなく、Bは免責されない

事実を変えると、結論も変わります。板を見てください。1つめ。ひびが指の入る幅で、塀も傾いていたとします。Bは、毎日見ていながら、放置しました。これなら、倒れる危険は予見できました。避ける措置、たとえば大家への修繕の依頼や、立入りの制止も、とれました。Bは必要な注意をしていません。Bが責任を負います。2つめ。同じ状態で、Bが、ひび割れ注意、と紙を貼っただけだったとします。先ほどの整理のとおり、紙だけでは足りません。Bは免責されません。分かれ目は、外から見えた異常で、倒れることを予見できたかです。見える異常が、髪の毛ほどのひびだけならAが、指の入る幅のひびと傾きがあればBが負います。

前編のまとめ

まとめ。①717条1項は二段構え=占有者が先(必要な注意を示せば免れる・中間責任)、免れたら所有者(無過失責任)②瑕疵=通常備えているべき安全性を欠くこと/設置と保存③占有者の免責=予見できた危険を現実に防ぐ措置/張り紙だけでは足りない④設例の結論=Bは免責され、Aが無過失責任で賠償。 図:まとめ

まとめます。1つめ、717条1項は二段構えです。まず占有者が負い、損害の発生を防止するのに必要な注意をしたと示せば、免れます。そのとき、所有者が、免れる道のない無過失責任を負います。2つめ、瑕疵とは、工作物が通常備えているべき安全性を欠くことです。はじめからの欠陥が設置の瑕疵、あとからの欠陥が保存の瑕疵です。3つめ、占有者の免責は、予見できた危険について、実際に損害を防ぐ働きをする措置までとったかで決まります。知らせるだけでは足りません。4つめ、設例の結論です。外から見えた異常が髪の毛ほどのひびだけだったので、Bは免責され、Aが無過失責任で賠償します。分かれ目は、外から見えた異常で、倒れることを予見できたかでした。

参照条文

  • 民法717条

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