工作物責任と失火責任法・動物の占有者の責任(718条)
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第6章 法定債権 #313/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
賠償した大家は取り戻せるのか 家の火と牧場の馬は誰が払うのか
図:前回の設例の呼び戻し
- A=大家(所有者)/B=借主(占有者)/C=通行人(被害者)
- 施工不良のブロック塀が風のない日に倒れ、Cが骨折
- 外から見える異常は髪の毛ほどのひびだけで、Bは倒壊を予見できず免責
- Aは施工不良を知らなくても無過失責任で賠償
- 瑕疵=工作物が通常備えているべき安全性を欠くこと
今日は、その続きです。まず、前回の設例を短く思い出します。Aは大家、Bは借主、Cは通行人です。Bが住む家のブロック塀は、建てたときから施工不良でした。風のない晴れた日に、その塀が倒れて、Cが骨折しました。塀の欠陥を、瑕疵と呼びます。瑕疵とは、工作物が通常備えているべき安全性を欠いていることです。717条は二段構えでした。まず占有者のBが負います。ただし、Bが損害の発生を防止するのに必要な注意をしたと示せば、免れます。そのときは、所有者のAが、免れる道のない無過失責任で負います。設例では、外から見える異常は、髪の毛ほどのひびだけでした。Bは倒れることを予見できず、免責されました。それで、Aが施工不良を知らなくても、Cに賠償することになりました。今日の道のりです。まず、賠償したAが誰かに取り戻せるかを、717条の3項と、竹木を定める2項で見ます。次に、国家賠償法2条との比較です。そのあとで、工作物から出た火と失火責任法の関係を見ます。続いて、動物の占有者の責任の718条です。最後に、免責の立証を、条文ごとに1枚の表で比べます。答えを先に言います。大家は、原因を作った人に取り戻せます。配線の火は、試験対策の整理では、Bが免れれば大家が負います。馬は、馬を支配している人が負います。共通するのは、危険な物を支配している人が負う、という考えです。
賠償したあとの求償と、竹木
図:717条2項・3項
- 2項=前項の規定は、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合について準用する
- 3項=前二項の場合において、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者又は所有者は、その者に対して求償権を行使することができる
賠償したあとの話です。717条3項です。損害の原因について、他に責任を負う者がいるときは、賠償した占有者または所有者が、その者に求償できます。求償とは、他の人がかぶるべき分を代わりに払った人が、その人から取り戻すしくみでした。設例で見ます。Aが賠償したあとの話です。塀の内部の鉄筋不足は、約30年前の施工不良が原因です。その工事をした工務店が特定できれば、Aは、その工務店に求償できる、という形になります。求償が実際に通るかには別の要件もあるので、ここでは仕組みだけを見ます。717条は、被害者を守るために、まず占有者と所有者に負わせます。そのうえで、原因を作った人には、最後に負担させます。被害者の救済と、最終的な公平を、二段階で実現する仕組みです。2項は、竹木です。竹木の栽植、つまり植えること、または支持、つまり支えることに瑕疵があるときも、同じ仕組みを使います。別の場面です。庭の大木を支える支柱が不十分で、大木が道路側に倒れ、通行人がけがをしたとします。支持の瑕疵です。占有者がまず負い、必要な注意を示せば所有者が負う、という二段構えが、そのまま当てはまります。
国家賠償法2条との比較
図:717条と国家賠償法2条の比較表
- 行=対象/免責/責任主体
- 717条=土地の工作物(動産は含まない)/占有者は必要な注意で免責、所有者は免れる道が無い=無過失責任/第1次的に占有者、第2次的に所有者
- 国家賠償法2条=公の営造物(パトカーや学校の跳び箱など動産も含む)/免責の条文が無い=無過失責任/国又は公共団体
別の場面です。同じ塀が、借りた家のものではなく、市立学校の塀だったとします。国家賠償法2条の場面です。
条文国家賠償法2条
国家賠償法第2条 道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があつたために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。 2 前項の場合において、他に損害の原因について責に任ずべき者があるときは、国又は公共団体は、これに対して求償権を有する。
道路、河川などの公の営造物の、設置または管理に瑕疵があって、他人に損害が出たときは、国または公共団体が賠償します。公の営造物とは、国や公共団体が、公の目的に使っている物、つまり公の目的に供されている物のことです。前回見た瑕疵の定義は、もともと、この国家賠償法2条の判決の言葉です。717条についても、最高裁は同じ言い方をしています。判決を読みます。
判例最判昭45・8・20 民集24巻9号1268頁
営造物の設置・管理の瑕疵と国・公共団体の責任 国家賠償法二条一項の営造物の設置または管理の瑕疵とは、営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいい、これに基づく国および公共団体の賠償責任については、その過失の存在を必要としないと解するを相当とする。
前半は、先ほど見た瑕疵の定義です。後半は、国や公共団体の賠償責任には、過失の存在を必要としない、と言っています。国家賠償法2条は、過失が要らない責任です。717条との違いは、3つです。1つめは、対象です。公の営造物には、道路や建物のほか、動産も含まれます。パトカーや、学校の跳び箱も、営造物として扱われます。土地の工作物は、土地に接着した物なので、動産を含みません。この対象の違いは、学説の整理です。2つめは、免責です。国家賠償法2条には、免責を定める条文がありません。無過失責任です。717条は、占有者には免責があり、所有者は無過失責任でした。3つめは、責任主体です。国家賠償法2条は、国または公共団体です。717条は、まず占有者、次に所有者です。設例の塀が、市立学校の塀なら、占有者と所有者の二段にはなりません。公共団体の市が、直接責任を負います。
国家賠償法には、公務員が起こした損害についての条文もあるのですか。あります。1条です。公務員が職務で違法に他人に損害を加えたとき、国または公共団体が賠償します。公務員個人は、被害者に直接は責任を負わないと解されています。国などが賠償したあとの求償も、公務員に故意または重大な過失があったときだけです。715条では、被用者個人も被害者に責任を負い、使用者の求償は信義則で制限されました。この対比だけ覚えておけば足ります。
工作物から出た火と、失火責任法
図:設例の変奏
- 借りた家の壁の中の古い配線が劣化して出火し、隣家に燃え移った
- 配線は壁の中にあってBには見えず、気づく手がかりもなかった
- 対比=Bがコンロの火の消し忘れで出火した場合(人の行為による失火)は失火責任法
- 壁の中の配線の瑕疵(物の瑕疵)から出た火は717条を当てるのか、失火責任法を当てるのか
工作物の瑕疵から火が出たら、どうなるでしょうか。別の場面で考えます。借りた家の壁の中の、古い配線が劣化して、出火し、隣家に燃え移りました。配線は壁の中にあって、Bには見えず、気づく手がかりもなかったとします。比べるために、同じ借りた家で、Bがコンロの火を消し忘れて出火したとします。人の行為による失火で、失火責任法の出番です。不法行為の全体像の回で見た条文は、こうでした。
条文失火ノ責任ニ関スル法律(明治三十二年法律第四十号)
失火ノ責任ニ関スル法律 民法第七百九条ノ規定ハ失火ノ場合ニハ之ヲ適用セス但シ失火者ニ重大ナル過失アリタルトキハ此ノ限ニ在ラス
失火の場合は、709条を適用しません。重大な過失があるときだけ、責任を負います。コンロの消し忘れで709条を使って請求するなら、被害者は、Bの重大な過失を立証しなければなりません。では、壁の中の配線という、物の瑕疵から出た火は、どうでしょうか。717条の責任に、失火責任法の重大な過失は、必要でしょうか。学説は、分かれています。工作物責任だけを当てはめる、という考えがあります。失火責任法を優先して、重大な過失がなければ責任を負わない、という考えもあります。重大な過失の要件を、工作物責任にはめ込む考えや、延焼した部分についてだけ失火責任法を当てる考えもあります。試験対策としては、717条との関係では、失火責任法は適用されない、と整理しておけば足ります。これは学説の整理であって、判例が確立した結論ではありません。理由は2つです。1つは、工作物責任が危険責任に立つことです。危険な物を支配する人が負う責任に、軽い不注意を守る失火責任法の線を持ち込むと、趣旨が合いません。もう1つは、耐火建築や火災保険が普及して、失火責任法の意義が薄れていることです。この整理で、配線の場面の答えを決めましょう。前回の塀で、Bが免れたのはどんなときだったか、思い出してください。それを使って、先に自分の答えを決めてください。Bは免れるでしょうか。免れたとき、失火責任法の重大な過失を問わずに、誰が負うのでしょうか?答えです。Bは、前回の髪の毛ほどのひびと同じく、壁の中の配線に気づく手がかりがなく、必要な注意をしたと言えるので、免れます。そうすると、所有者のAが、無過失責任を負います。この整理では、失火責任法の重大な過失は、要りません。
コンロの消し忘れと、配線の劣化では、同じ火事でも扱いが違うんです。そこが分かれ目です。出火の原因が、人の行為、つまり火の消し忘れなら、失火責任法が適用されます。出火の原因が、物の瑕疵、つまり壁の中の配線なら、この整理では717条です。同じ火事でも、人の不注意か、物の瑕疵かで、当てる条文が変わります。分かれている論点なので、整理として覚えておく、という位置づけです。714条と715条の回では、失火責任法を当てたうえで、重大な過失を誰について見るかを考えました。どちらも、人の行為から出た火だからです。717条の火は、物の瑕疵から出た火なので、この整理では、失火責任法そのものを当てません。
動物の占有者の責任 718条
図:718条の骨格
- 動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う
- ただし、動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは免れる(中間責任・示す責任は占有者)
- 占有者でない所有者は負わない/占有補助者は占有者でない
次は、718条です。動物が他人に損害を加えたときの責任で、717条と似た作りです。
条文民法718条
民法第718条(動物の占有者等の責任) 動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは、この限りでない。 2 占有者に代わって動物を管理する者も、前項の責任を負う。
動物の占有者は、中間責任です。種類と性質に従った相当の注意をしたと示せば、免れます。717条の占有者と同じ形です。趣旨も、危険責任です。動物は、人の支配のもとで、思わぬ動きをして人に害を与えます。その動物を支配している人に、負わせるのです。要件は3つです。責任を負う人が、動物の占有者であること。動物が他人に損害を加えたこと。そして、免責が示されていないこと。ここでの損害は、動物自身の動きから生じた損害です。人が犬を抱えて人を殴ったなら、それは人の行為で、709条の問題です。免責の中身は、動物の種類及び性質に従った相当の注意です。種類と性質によって、払うべき注意が変わります。かみつくくせのある大型犬を、リードなしで散歩させたなら、相当の注意とは言えません。丈夫なリードでつなぎ、人混みを避けて散歩させていたなら、免責の方向に傾きます。一般には、通常払うべき程度の注意で足り、異常な行動や不可抗力まで防ぐ注意は求められない、と解されています。
所有者の扱いが、717条と違います。718条は、占有者だけが負います。占有者でない所有者は、718条の責任を負いません。717条のただし書のような、所有者の二段目は、ありません。
図:718条の関係図
例です。牧場主のDの馬が暴れて、通行人のGがけがをしました。718条の責任を負うのは、馬を支配している占有者のDです。所有者でも、占有者でなければ負いません。たとえば、Hの馬が盗まれ、盗んだ人が連れ歩いているときに暴れたなら、負うのは占有者の盗んだ人で、所有者のHではありません。次に、占有補助者です。Dの指示で、住み込みの従業員のFが、その馬を運動させていました。馬が暴れて、Gがけがをしたのです。問いです。718条の責任を負うのは、馬を運動させていたFでしょうか。牧場主のDでしょうか。占有者は、Dです。占有者とは、自分の利益のために支配する意思で、物を事実上支配している人でした。Fは、Dの指示に従って動く手足で、自分の利益のために馬を支配しているわけではありません。占有の回と前回で見た、占有補助者です。占有補助者は占有者ではないので、718条の責任を負いません。責任を負うのはDで、Dが相当の注意を示せば、免れます。ただし、Fに過失があれば、Fは709条の責任を負いえます。718条を負わないことと、709条を負わないことは、別です。判決を見ます。最高裁の判決です。闘犬の飼い主のために、飼育場所を提供して、日常の飼育にも協力していた人がいました。飼い主が不在の間は、その人が闘犬の保管にあたっていました。ところが、容易に連れ出せる程度の錠しかない犬小屋を、路上に置いたまま外出してしまいました。その犬を雇い人が連れ出し、幼児が死亡した事案です。
最高裁は、この人は、危険の発生を防止すべき高度の注意義務を負い、その違反があるので、709条の責任を免れない、としました。注意点です。この判決は、709条だけを適用しています。718条は適用していません。占有補助者という言葉も、使っていません。判決が言っているのは、飼い主に代わって保管にあたっていた人について、709条で判断した、というところまでです。718条を負わない人でも、自分に過失があれば709条の責任を負いうる、というのは、判決の言葉ではなく、一般的な整理です。2項です。占有者に代わって動物を管理する者も、1項の責任を負います。たとえば、動物を預かる受寄者や、動物を運ぶ運送人です。ただ、こうした人は、預かる、運ぶという自分の仕事のために、実際に動物を支配しているので、1項の占有者にすでに当たります。そのため、2項は、確認の規定だと解されています。占有補助者は、管理者にも当たらないと解されています。占有補助者は、占有者の指示で手足として動くだけで、占有者に代わって自分の判断で管理しているわけではないからです。工作物でも動物でも、負うのは、危険な物を支配している占有者です。
免責の立証の比較と、まとめ
図:免責の立証の比較表
- 4列=条文/責任を負う人/免れるために証明すること/性質
- 714条=責任無能力者の監督義務者等/義務を怠らなかったこと、または怠らなくても損害が生ずべきであったこと/中間責任
- 715条=使用者/被用者の選任・事業の監督について相当の注意をしたこと、または相当の注意をしても損害が生ずべきであったこと/中間責任(免責は実際にはほとんど認められず、運用は無過失責任に近いと評される)
- 717条1項本文=土地の工作物の占有者/損害の発生を防止するのに必要な注意をしたこと/中間責任
- 717条1項ただし書=所有者/免れる道が条文に無い/無過失責任
- 718条=動物の占有者/動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたこと/中間責任
4つの条文を、1枚の表で比べます。見るのは、誰が責任を負い、何を証明すれば免れるか、です。714条は、責任無能力者の監督義務者等です。義務を怠らなかったこと、または、怠らなくても損害が生ずべきであったことを示せば、免れます。中間責任です。715条は、使用者です。被用者の選任と事業の監督について相当の注意をしたこと、または、相当の注意をしても損害が生ずべきであったことを示せば、免れます。中間責任です。ただし、免責は実際にはほとんど認められず、運用は無過失責任に近いと評される、と前に見ました。717条1項本文は、土地の工作物の占有者です。損害の発生を防止するのに必要な注意をしたことを示せば、免れます。中間責任です。ただし書の所有者は、免れる道が条文に無く、無過失責任です。718条は、動物の占有者です。動物の種類及び性質に従い、相当の注意をもってその管理をしたことを示せば、免れます。中間責任です。
注意の対象が違います。714条と715条は、人を監督する話です。717条と718条は、物や動物を支配して、損害を防ぐ話です。もう1つの違いは、所有者の扱いです。717条は、占有者が免れたら、所有者が無過失責任を負います。718条は、占有者だけが負い、占有者でない所有者は負いません。
図:まとめ
まとめます。717条1項は、占有者が先に負い、免れたら所有者が無過失責任を負う、二段構えでした。1つめ、717条3項により、賠償した占有者や所有者は、損害の原因を作った他の人に求償できます。2項で、竹木にも同じ仕組みが及びます。2つめ、国家賠償法2条は、公の営造物の責任で、免責の条文がなく、無過失責任です。対象に動産も含む点が、717条との違いです。3つめ、工作物から出た火は、学説が分かれます。この整理は判例が確立した結論ではありませんが、試験対策としては、717条との関係では、失火責任法を適用しないと整理します。4つめ、718条は、動物の占有者の中間責任です。占有者でない所有者は負わず、占有補助者は占有者ではありません。5つめ、免責の立証は、714条から718条まで、証明する中身を並べて比べると整理できます。工作物と動物の責任は、危険な物を支配している人が負う、という一本の考えでつながっています。
参照条文
- 国家賠償法2条
- 失火ノ責任ニ関スル法律(明治三十二年法律第四十号)
- 民法718条